『―――足掻いて足掻いて、私を楽しませてくれると嬉しいのだがね。』
「まあ、居ますよね大外さん」
放送が終わり、名簿が明かされ、さも答え合わせをするかのように塚原音子は呟く。
死者の名前が呼ばれたというのに一般的な女子高生のように騒いだり怖がったりすることもなく、表情を変えることもない。
「僕の方は知り合いは居なかったけど、うーん……ちょっと困っちゃったな」
「好みの相手が居ないなーとかでしょう?」
「うん、その通り♪」
そう言ってソラがは顔写真付き名簿をスワイプして見せつける。
いくらスクロールしても彼好みの長い髪の女は居ない。
「残念だなあ、ハハハ!……音子ちゃんとの関係も終わりにしちゃおっかな」
「はいはい、冗談は女性の趣味だけにしてくださいね」
「つれないね」
いくら殺人鬼のソラだとしてもここで塚原を殺す程、短絡的では無い。
悪趣味な冗談を適当に流しながら、塚原はスマホの画面を名簿から地図へと切り替える。
「……で、なんで黄昏ホテルがここにあるんですかね」
「音子ちゃんの元バイト先だっけ」
黄昏ホテルは死んだ者達が行き着く生と死の間の世界である。
あの世に行くか、現世に戻るか行き先を決めかねている魂達が羽を休めるための場所だ。
「この世界って死後の世界だったりします?」
「さあね、どうなんだろ」
「……違うとは言い切れないんだよなあ」
ソラは死んだ後にこの世界に来ていたという。
塚原自身も、かつて初めて黄昏ホテルに来た時は自分が殺された事を忘れていた。
そう考えるなら、また自分は知らぬ内に殺されたかもと考える事はおかしくない。
とは言えこの周辺は、彼女が知っている黄昏時がずっと続くホテル周りの光景とはまた違う。
あの世界は黄昏時の夕暮れで固定されており、真夜中になることは無いし、このように空にも浮いていない。
「どっちにしろ、僕はホテルに行かない方がよさそうだね」
「あー、そうですね」
黄昏ホテルには死者の記憶が再現された部屋が現れる。
塚原自身の部屋は学生証にアイドルのチケットがある程度の殺風景なものだった。
大外の場合は、一見普通の医学生の部屋に見えるが、殺人鬼でレイピストであるその本性を表すように拷問部屋なんてものが隠されていたのだ。
塚原はともかく、ソラがホテルに行ったならば、殺人の証拠などが現れてしまう可能性がある。
(さて、大外さんはどう出るかな)
塚原音子は、楽しんでいる。運命の相手との腹の探り合いを。
大外とは殺人鬼と助手という共犯関係で結ばれたお友達ではあるが、互いの命を狙い合う仲だ。
この殺し合いの舞台で、自分の命を狙ってくることは十分あり得る。
もっともこの世界に呼ばれた大外は、彼女とそのような関係になったことなど、知る由もないのだが。
(音子ちゃん楽しそう)
ソラはそんな塚原を見てほくそ笑む。
大外さんとやらの事は詳しく教えてもらってないが、それだけ関係深いのだろうなと思う。
(まあそのうち殺すけどね)
とはいえ、情などない。あくまで一時的な協力関係に過ぎない。
「お、人がいますね、話を聞いてみましょうか」
「ハロー♪」
■■■
「嘘よ!ムツキが死んだなんて、信じられないわ!」
2人が見つけた人物は、キヴォトスの生徒である陸八魔アルであった。
淡々としていた塚原と違い、彼女は放送を聞いて狼狽えていた。
取り乱していた彼女に敵意が無いことを伝え、話を聞いた。
相手が女性であれば、童顔で戦闘能力を持たない塚原を連れていると油断させやすいのだ。
支給品を確認し終えたアルは、その放送を聴くと同時に名簿を確認した。
便利屋68の仲間達がいるのなら合流し、アウトローとして解決する為に。
とは言え、このような殺し合いの場だ、願わくば巻き込まれて居ない事を願っていた。
最も心配していたハルカがいないことには息を撫で下ろしたものの、便利屋68の室長たるムツキが居た。
確認したのも束の間、直後に放送で名前を呼ばれてしまった。
「……絶対に嘘よ、あの子は生きてるに決まってるわ」
冷酷無比なアウトローを名乗ってはいるものの、その目には何度も涙を擦った跡がある。
ムツキとは幼馴染として、長い付き合いである。
こんな放送で名前を呼ばれて死んだだなんてイタズラ好きの彼女の悪ふざけだと思いたい。
あの子の事だから、笑みを浮かべてひょっこりと出てくるかもしれないと信じたいのだ。
ムツキならそんな悪趣味なイタズラはしない事は分かっているが、そう信じたくて堪らない。
心の防衛反応で言うところの『逃避』である。
現実を受け止められないため、心の安定の為にありもしない理想を信じるしかないのだ。
「うん、きっとそうだよ、ムツキちゃんは絶対に生きてるよ」
ソラはそんな彼女の叫びを優しく受け止める。
美容師というのは相手の緊張をほぐす事に手慣れているものだ。
殺すにしても殺さないにしても、話を集めることは重要だ。
「私、ムツキを探すわ……」
「僕たちも君に協力するよ。一緒にムツキちゃんを探そう」
元々協力してくれるアウトローを探していたアル、仲間の申し出は受け入れる。
もっとも、ソラ達はアウトローどころか生粋の悪である。
利用する為に、或いは後に殺す為に同行を申し出たのだが、その事は知らぬままに。
「それにしてもこの辺りは魔物とやらの残骸が多いですね」
「うっ、あまり見たくないわね……」
道中を歩きながら、探索する。
周辺の魔物達は既に事切れている。
種類も動物のようなものから、昆虫や機械まで幅広い。
同士討ちをしたのか、参加者にやられたのかは分からないが、道を進むにつれて残骸が増えている。
大きな残骸は放送後に片付けられているが、飛び散った小さな肉塊や血痕などは残っており痛々しさを感じられる。
「そうね、まるで――」
―――餌に釣られて来たみたいに。
「……いや、まさかね」
アルは言おうとした言葉に、咄嗟に口を紡ぐ。
NPCが多いということは、ハイエナの如く狙いに来た参加者がいたということだ。
最悪が頭をよぎる。そんなわけないと首を振る。
「ひっ!」
「あー、これは」
「酷いことしますね」
地面が赤く濡れていた。見つけてしまった。
尊厳を完膚無き迄に破壊し、蹂躙することだけを考えたのか。
或いは、人体を構成する要素をパーツごとに切り分けたうえで、ひっくり返せばこのようになるのだろうか。
その肉塊が、かろうじて人間の遺体だと判断できたのが奇跡と言える程の光景だった。
解体されているのだ。単に殺されただけではこうはならない。
人を人たらしめる顔は、皮が剥がされて、どんな表情をしていたのかもわからない。
鼻、耳が削がれて、眼球は外れて溢れている。
白と赤のボールとなった頭部。執拗に強い暴力を受けたようで顔の骨は陥没し、穴から内容物と混ざったものが漏れる。
手脚はナイフにより引き裂かれ、筋繊維と骨がが剥き出しとなる。
耐久を試すためなのだろうが、何度も叩き壊された跡があり、形が残っていないものもある。
残っていた肉の柔らかい部分は、血の匂いに釣られた魔物たちの餌になったのだろう。肉片には噛みちぎられた跡や、こびりついた歯型が残る。
大小不揃いの肉片となって可食部の残るフライドチキンの骨を捨てたような不快感を孕ませて辺りに散らばっている。
肉片のそばには小さな山がある。人間に尊厳をもたらす文化的要素、衣服などは邪魔だとばかりに一箇所に寄せ固められている。
泥と血に塗れ残骸となった見慣れた制服、粉々になったヘイロー。
それが誰であったのか、静かに物語っている。
「お、あ、嫌、そんな」
ついさっきまで生きていたことの分かる消化物の酸味。ツンとする死臭。
どれだけ拒否反応を起こそうが脳内に直接死を理解させる。
嘘偽りなき死がそこにある。
「うっ、うげお”えっ”」
限界であった。
死を拒否するかのように胃液がこみ上げ、全てを吐き出した。
治安の悪いキヴォトスの住民としても、このような残酷な死を目撃するのは初めてだ。
ましてやそれが、幼馴染のものとなれば。
■■■
「埋葬は終わりましたよ」
「……ありがと」
近くに落ちていた機械系の魔物達の残骸からスコップ代わりになるものを探し出し、ムツキの埋葬を終えた。
元々小柄だったことや、肉の多くが失われていた事もあり、穴としては小規模なものであった。
アルは到底何か出来るような状態ではなく、埋葬が終わるまで片隅で項垂れていた。
「ムツキ……ムツキ……!」
どれだけ名を呟こうが、四人と経営顧問の先生が揃った、孤高にして運命共同体である便利屋の日常はもう帰ってこない。
泥水を啜って地を這った貧乏生活、そんなドタバタとした日々は仲間が居たから楽しかったのだ。
「君はそれでいいの?」
「え……」
「ムツキちゃんの仇、取らなくていいの?ってこと」
ソラは、心身ともに弱りきっていたアルにそっと寄り添うように甘い言葉をかける。
「周辺を調べてみたんだけど、あっちの方角に魔物達の残骸が多く散らばってたんだ。
きっとムツキちゃんを殺した解体魔は向こうに行ったんだと思う。今すぐ追えば仇を討てるかもしれないよ」
それは、道筋を示す光。
或いは地獄への誘いか。
「それとも便利屋68はもう店じまい?」
「そんなわけ……ないじゃない!」
便利屋68を終わらせる事は、ムツキやカヨコ、ハルカと作った日々を否定するのと同じだ。
彼女達、特にムツキの事を思うならば、ここで社長であるアルが立ち上がらない訳には行かない。
「じゃあ君がやることは一つだね、ムツキちゃんの仇を打つことだ。
こんな酷いことをした解体魔を君の手で倒してほしい」
ソラはお気に入りの帽子を珍しく外し、頭を下げた。
珍しくヘラヘラとした顔を、真面目な顔に変えて。
「便利屋である君に僕から依頼するよ、手付金代わりに僕の支給品の一つをあげる。君ならきっと役立てられると思う」
「これは……宝石?」
「僕もよく知らないんだけど、持っていると力を与えてくれるみたいなんだ」
そう言ってソラが手渡したものは、結晶のようなものであった。
便利屋68は報酬さえもらえば、いつでもなんでもするがモットーである。
どんな依頼であれ、受け取った時点で、契約は交わされる。
「……確かに受けとったわ。便利屋68社長、陸八魔アルが」
この瞬間、依頼は受理された。
アルの心は精神安定の為、普段通り便利屋としてのルーチンワークを行おうとしている。
無理矢理嵌め込もうとしていると言ってもいい。
ただの強がりだ。ハッタリだ。格好付けだ。本当は怖くて仕方ない。
戦えるような精神状態では、決して無い。
「ごめんね、本当は僕も手伝えたらいいんだけど……音子ちゃんを連れて行くのは、ね」
「あ……そ、そうね」
一瞬、ムツキの悲惨な遺体がフラッシュバックする。
解体魔は便利屋68の中でも実力者であるムツキですら一方的に蹂躙した相手だ。
戦闘能力を持たない者を連れて行くなど、犠牲者を増やすのみだ。
当然守りながら戦うことは出来ない。
一般人を抗争に巻き込むこともアウトローの名が廃る。
「だから、ムツキちゃんの仇を討てるのは君だけだ。これは君にしかできない仕事だ」
アルの手には震えがあったが、それを抑えつけるようにソラはぎゅっと手を握る。
さながら逃げられない呪いをかけるかの如く。
「……ええ、私が、いえ、『私達』キヴォトス1のアウトロー、便利屋68が……依頼を果たしてみせるわ」
「うん、その意気だ。アルちゃん、気を付けてね」
激励するようなソラの笑みに対して、作ったかのような冷酷無比なアウトローの笑みで返す。
自己を昂ぶらせ、冷静さを装い、仮面を被ろうとするその姿は痛々しい。
久しぶりのソロ任務に孤独さを覚えながら、アルは駆け出した。
【B-10/深夜/1日目】
【陸八魔アル@ブルーアーカイブ 便利屋68業務日誌】
[状態]:精神疲労(大)、嘔吐、ムツキを殺した犯人への憎悪および恐怖、ムツキの遺体を目撃したことによる精神外傷
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3(全て確認済み)、魔晶@グランブルーファンタジー
[思考]:私のアウトローイズムに準じてこの殺し合いを破壊するわ!
1:ムツキを殺した犯人に叱るべき報復を
2:ベリアルを倒すためにアウトローの仲間を探すわ
3:ムツキ……
[備考]
■■■
地獄への道は善意で舗装されている。
■■■
「いいんですか?」
「いいよ」
いいんですかとは、殺さなくてよかったかと言う事だ。
「あの子はああした方が面白そうだからね♪」
ソラはイタズラに成功した子供の様な笑み浮かべ、アルが向かった方へと顔を向けている。
アルは撒き餌だ。
今後彼女は仲間を集めながら、この世界からの脱却を目指すのだと言う。
ならば、自分達の事を乗っていない人間だと広めてもらうためにあえて殺さずに逃がしておく。
わざわざ墓なんて作るほど寄り添ったのも信用を得るためだ。
指輪の魔法使いが居ないこの世界では、グレムリンの本性は全く知られていない。
であれば自分達を乗っていない人間だと広めてもらえば、今後の活動がしやすくなる。
「あの子たら、ちょっと背中を押してあげただけであんなに必死になってさ♪
体よく利用されてるだけとも知らずにね」
「はぁ、貴方も悪い大人ですね」
「フフッ、よく言われる♪」
多くの人間を絶望させてきたグレムリンは効率の良い扇動のやり方をよく知っている。
人を狙い通りに動かすには弱ったところに、希望を見せてやればいい。
今すぐ追えば間に合うだの、報復出来るのは君だけだなど、まともな精神状態ではない時に口当たりの良い言葉を差し込めば面白いように動く。
アルを焚き付けたのは、面倒な解体魔の相手をしてもらうため。
なんならこの後、彼女が解体魔に返り討ちに会って死のうが別に構わない。
面倒な相手を倒してくれるならそれでいいし、殺されるなら余計な消耗をしなくて済んだと言う事だ。
「さて生きてても殺されてもどっちでもいいけど、どうせなら面白くなればいいな♪」
アルに与えた魔晶の事を思う。
かつて人間達に魔宝石を手渡すなど気まぐれをしたこともあるが、それとはまた違う目的だ。
魔晶が力を与えるというのは事実だが、それは賢者の石のように単純に力を高めるものでは無い。
使うと暴走のリスクもある危険なものだ。
あの精神状態で手を出したらどうなるかなんて考えるまでもない。
どうせならかつて解放したレギオンのように、暴れてほしいなと願っている。
魔晶は当初はソラ自身が使うことも考えはしたものの、
化物の姿にもなれるという部分が、ファントムの姿を嫌い人間に戻りたいソラにとっては反吐が出るような産物であった。
嫌な支給品を押し付けることも出来ていいことづくめだ。
「爆アドですね」
「アド?」
「あー、カードゲーム用語で凄い得をしたって意味です」
「音子ちゃんカードゲームやってるの?」
「はは、私がやるのはトランプのスピードぐらいですけどね。一戦やりますか?」
※道中のNPC達の遺体が粟坂二良によるものか、それ以外の要因によるものかは不明とします。
特になければNPC同士の相打ちとしてください。
そもそもアルが追っていった先に粟坂がいるかも不明です。ソラが勝手に言ってるだけのでまかせでもいいです。
※ムツキの遺体はA-10に埋められました。
遺体には粟坂による蹂躙後、NPCの魔物達に捕食された痕跡があります。
【A-10 森/深夜/1日目】
【ソラ(グレムリン)@仮面ライダーウィザード】
[状態]:健康
[装備]:片太刀バサミ(赤)と(紫)@キルラキル
[道具]:基本支給品一式×2、不明支給品×0〜1
[思考]:このサバトで優勝し、今度こそ人間になる。
1:この殺し合いを引っ掻き回す
2:長い髪で白い服を着ている女が他に居ないのは残念だなあ
3:いずれは音子ちゃんも殺すよ
4:大外さんね、まあ殺すのは後回しでいいか
[備考]
※参戦時期は死亡後。賢者の石は無いため通常体です。
※名簿はソラ名義です。
【塚原音子@誰ソ彼ホテル】
[状態]:健康、呪詛球の影響による殺人抵抗減少(微弱)
[装備]:津軽の太鼓@パラノマサイト FILE 23 本所七不思議、きせかえカメラ@ドラえもん
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×2
[思考]:積極的に乗る気はないが、必要なら殺しも行う
1:ソラさんを手伝いながら、大外を探す
2:生存優先。脱出か優勝狙いにするかは状況次第
3:大外さんが私を殺す気なら、こちらから先に殺します
4:大外さん、私の知らないとこで死なないでくださいよ
5:いずれはソラさんにも死んでもらう
6:大外さんアルさん達に巻き込まれなければいいけど
[備考]
※参戦時期は原作ゲーム版ANOTHER ENDおよび特別ストーリー番外編『大外』後。
無印版でもRe:newal版(アプリ版/Steam買い切り版)でも構いません。
※呪詛球の影響により殺人への抵抗が薄まっていますが、元々の自我の強さから影響は微弱程度です。
【魔晶@グランブルーファンタジー】
ソラに支給。
エルステ帝国がルリアや星晶獣の研究結果から作り出した結晶。
かつて空を制覇した星の民の力を模倣することを目的としており、空の世界の存在を疑似的な星の力に変換することが出来る。
しかし、異界の侵略者である星の民の力を模したものであるため非常に不安定であり、使用には様々な危険が伴う。
(ゲーム内用語集より引用)
最終更新:2026年06月13日 12:47