Top > 【シェア】みんなで世界を創るスレ【クロス】 > 異形世界・「白狐と青年」 > 第34話
「救出」
●
光壁を砕いて瞬時に距離を詰めてきた朝川の拳を符の≪魔素≫を両腕に纏って受け止めた明日名は、衝撃で通路奥まで弾き飛ばされた。
「――ッ」
痺れる両腕に大事無いことを確認しながら、明日名は追加の符を周囲に浮かべていく。
……今の一撃、≪魔素≫の補助の無い一撃だったはずだ……なぜここまで威力が……?
再度接近してきた朝川に対して、明日名は符からもう一度防壁を生じさせる。
朝川が再度振るった拳は防壁へと激突して体音をあげた。
壁は≪魔素≫の大半を衝撃の吸収に回して朝川の拳を受け止めた。それを確認して反撃の動作を行おうとした明日名の前で、拳を打ち込んで伸びきった朝川の腕は更に一つの動きを生みだした。
腕の付け根で小規模な爆発が生じたのだ。
――何!?
爆発によって生まれた力は伸びきった朝川の腕に追加の打撃力を与えた。
防壁は腕に新たに込められた力の前に砕け散って、拳の先端は明日名を捉えた。
通路の壁に叩きつけられた明日名は必死に酸素を肺へと取り込みながら朝川を見やる。
……っ!
数瞬目を離したすきに、距離を詰めてこようとしている朝川の身体はこれまでの生身の人間のそれでは無く、人口のものである事を示すようにゴツゴツとした姿へ変貌していた。
一つ一つの動作から微かに聞こえてくる機械音を耳にして、明日名は朝川が何者であるのかを悟る。
「機械化人……」
生命体の機能を機械に代行させる技術は異形が現れる以前の文明で研究されていた技術の一つだった。異形の出現によってこれまでの文明が破綻する程の打撃を受け、その後のエネルギー問題等によって現在は下火になっている技術だ。
「全身機械化とは……初めて見た、と言いたい所だけど……」
明日名は朝川を睨みつける。機械化して鋼のような質感を持つ、装甲じみた肌の本性を現わした朝川の姿は、今や通常の人間のそれを大きく逸脱したものになっていた。
明日名はその巨大な機械仕掛けの異形を以前目にしたことがあった。
……まるで変化の類だ。これまで何度もその姿を見てきたというのに全く気付かなかったなんて……。
普段機械化人である事を隠す表皮が優秀だったこともあるのだろう。符に込められた≪魔素≫をもはや防御ではなく攻撃の為に展開して明日名は糺す。
「第二次掃討作戦の時、俺やキッコを行動不能にしてクズハを奪おうとした機械化人は君か!」
朝川はもはや隠すこともない機械の音を響かせながら口許だけを歪めた笑みを作った。
腕を振りかぶって機械の補助による莫大な力を拳に集中させながら、
「あの時せっかく拾った命、この件に関わらなければ失わずに済んだものを」
轟音が通路に響いた。
「――ッ」
痺れる両腕に大事無いことを確認しながら、明日名は追加の符を周囲に浮かべていく。
……今の一撃、≪魔素≫の補助の無い一撃だったはずだ……なぜここまで威力が……?
再度接近してきた朝川に対して、明日名は符からもう一度防壁を生じさせる。
朝川が再度振るった拳は防壁へと激突して体音をあげた。
壁は≪魔素≫の大半を衝撃の吸収に回して朝川の拳を受け止めた。それを確認して反撃の動作を行おうとした明日名の前で、拳を打ち込んで伸びきった朝川の腕は更に一つの動きを生みだした。
腕の付け根で小規模な爆発が生じたのだ。
――何!?
爆発によって生まれた力は伸びきった朝川の腕に追加の打撃力を与えた。
防壁は腕に新たに込められた力の前に砕け散って、拳の先端は明日名を捉えた。
通路の壁に叩きつけられた明日名は必死に酸素を肺へと取り込みながら朝川を見やる。
……っ!
数瞬目を離したすきに、距離を詰めてこようとしている朝川の身体はこれまでの生身の人間のそれでは無く、人口のものである事を示すようにゴツゴツとした姿へ変貌していた。
一つ一つの動作から微かに聞こえてくる機械音を耳にして、明日名は朝川が何者であるのかを悟る。
「機械化人……」
生命体の機能を機械に代行させる技術は異形が現れる以前の文明で研究されていた技術の一つだった。異形の出現によってこれまでの文明が破綻する程の打撃を受け、その後のエネルギー問題等によって現在は下火になっている技術だ。
「全身機械化とは……初めて見た、と言いたい所だけど……」
明日名は朝川を睨みつける。機械化して鋼のような質感を持つ、装甲じみた肌の本性を現わした朝川の姿は、今や通常の人間のそれを大きく逸脱したものになっていた。
明日名はその巨大な機械仕掛けの異形を以前目にしたことがあった。
……まるで変化の類だ。これまで何度もその姿を見てきたというのに全く気付かなかったなんて……。
普段機械化人である事を隠す表皮が優秀だったこともあるのだろう。符に込められた≪魔素≫をもはや防御ではなく攻撃の為に展開して明日名は糺す。
「第二次掃討作戦の時、俺やキッコを行動不能にしてクズハを奪おうとした機械化人は君か!」
朝川はもはや隠すこともない機械の音を響かせながら口許だけを歪めた笑みを作った。
腕を振りかぶって機械の補助による莫大な力を拳に集中させながら、
「あの時せっかく拾った命、この件に関わらなければ失わずに済んだものを」
轟音が通路に響いた。
●
留置施設を出た匠は庁舎を目指していた。
留置施設周辺は朝川に襲撃を命じた者の手によるものか、警備の数が不自然に少ない。しかしそれが気にならない程に庁舎周辺の警備もその数を減らしていた。
要人や書類・データの類は行政区内の施設に分散されているためあまり厳重な警備は必要ではないとはいえ、分散しているそれらの施設を束ねる重要施設である庁舎まで警備が薄い。その事実に、疑問を警戒へと転化させながら匠は一つ、最近起こった出来事思い出す。
……そういえば行政区内から平賀の研究区や検問へ武装隊を派遣しているんだったか。
そのせいで行政区内に詰める武装隊の人数が減り、減った人数に対応する新しいシフトが未だ組まれていないのか、いずれにしてもその結果として警備が薄くなっているのだろう。
……行政区内に異形が侵入することを阻止することで行政区を守ろうとする構えか。
行政区は現在、行政区の決定を押し進める異形排斥派主導で、内部に住む異形たちを追い出そうとしていて、その動きは徐々に大阪圏全体にまで波及している。おそらく行政区は最終的に大阪圏内の異形全てを大阪圏から排除するまでの間、外に対して閉じた街になるつもりだろう。そうすることによって外に対しては堅くなるが、
「内側に居れば移動が楽になる」
クズハを連れ出す必要が出てきた時、外に連れ出すことも楽に出来るだろう。既に目の前で二人殺されている。クズハを見つけ次第回収する必要性が出て来る可能性も低くは無い。
……行政区からの脱出方法も、また考えないといけないか。
考えを巡らせる間に匠は庁舎の裏口に辿りついた。明日名から渡されたIDカードを使って扉を開ける。
そのまま急いで地下の研究施設へと続く扉を探し当て、庁舎が未だ製薬会社の持ち物だった時の名残である地下研究施設へと降りて行った。
「これは……平賀のじいさんのとこと比べても負けていないレベルの施設じゃないか?」
人気のない施設内の設備を探るように歩いていきながら匠はそう感想を得る。
……かつての研究施設なんかじゃない。ここは現役の研究所だ……それにしてはあまり研究が盛んな様子は無いが……。
いくつかの部屋を通り過ぎていきながら、そのどこからも人の気配がないことを匠は不思議に思う。
……全員定時制でもう今日は引きあげた……か? いや、研究者という生き物はじいさんとこの人たちを見る限り、そんなに物分かりがいい人種じゃないと思うんだが……。
あるいは今まで研究者の見本として見てきていた平賀の研究所の人間の方がおかしいのかもしれない。
あの研究所の人間ならば十分に在り得ることだと思いながら研究施設を進んで行くと、一際大きな部屋へと続く扉が進路上に現れた。
部屋は手術室のような印象を受ける人工的な清潔感と無機質性を極め上げたような部屋だった。
それなりの広さの部屋の中には所狭しと様々な機材が置かれ、それらに付属した検知器の先端は、部屋の中央にある手術台のような寝台に横たえられた、部屋の人工的な清潔感にあつらえたかのように白い、一人の少女へと向けられていた。
匠は寝台に寝かされた少女の姿を目に収める。
「クズハ!」
思わず声に出しながら走り寄って、匠は寝台に寝かされているクズハの様子を確認した。
顔色はあまり良くはないが、外傷は特に見られない。ただ彼女の小さい身体は封印用の呪符と、寝台にその身を縛り付けておくための束縛でがんじがらめにされている上に機材の検知器が絡みついており、とてもまともな扱いを受けているようには見えなかった。
「やっぱり……ここにクズハは置いておけない」
低く呟くと、匠は墓標を振り上げた。
匠の意思を受けた墓標が、刻まれた紋を輝かせて刃を形作る。しかし形が定まった先から≪魔素≫の集結を阻害され、刃は徐々にその形を崩していった。
……これは厄介だな……。
刃が切断力を持っている内に急いで匠は墓標を振るってクズハを束縛している一切の物を斬り捨てると、クズハに呼びかけた。
「クズハ……おい、クズハ?」
呼びかけにクズハは目を瞑ったまま応えない。何らかの薬でも使われているのかもしれないと思い焦りを感じていると、数度目の呼びかけでクズハが小さく唸った。
「……ん」
「クズハ、……大丈夫か?」
両肩を掴んで揺さぶると、クズハは顔を歪めて悪夢にうなされているように言葉を漏らした。
「ごめん、なさい……」
「何を言ってるんだ」
匠から淡い安堵を含んだ苦笑が零れる。
とりあえず息をしているし脈も安定している。何か薬を盛られているのなら、それらはここではなく平賀の研究所で対処すればいい。そう考えて、匠は一息をついた。
「……誰かが来る前に早く帰ろう。こんなところに居ても何にもならない」
呼びかけるように言いながらクズハを背負い、全力で駆けだして匠は明日名から渡された連絡用の符を取り出した。
留置施設周辺は朝川に襲撃を命じた者の手によるものか、警備の数が不自然に少ない。しかしそれが気にならない程に庁舎周辺の警備もその数を減らしていた。
要人や書類・データの類は行政区内の施設に分散されているためあまり厳重な警備は必要ではないとはいえ、分散しているそれらの施設を束ねる重要施設である庁舎まで警備が薄い。その事実に、疑問を警戒へと転化させながら匠は一つ、最近起こった出来事思い出す。
……そういえば行政区内から平賀の研究区や検問へ武装隊を派遣しているんだったか。
そのせいで行政区内に詰める武装隊の人数が減り、減った人数に対応する新しいシフトが未だ組まれていないのか、いずれにしてもその結果として警備が薄くなっているのだろう。
……行政区内に異形が侵入することを阻止することで行政区を守ろうとする構えか。
行政区は現在、行政区の決定を押し進める異形排斥派主導で、内部に住む異形たちを追い出そうとしていて、その動きは徐々に大阪圏全体にまで波及している。おそらく行政区は最終的に大阪圏内の異形全てを大阪圏から排除するまでの間、外に対して閉じた街になるつもりだろう。そうすることによって外に対しては堅くなるが、
「内側に居れば移動が楽になる」
クズハを連れ出す必要が出てきた時、外に連れ出すことも楽に出来るだろう。既に目の前で二人殺されている。クズハを見つけ次第回収する必要性が出て来る可能性も低くは無い。
……行政区からの脱出方法も、また考えないといけないか。
考えを巡らせる間に匠は庁舎の裏口に辿りついた。明日名から渡されたIDカードを使って扉を開ける。
そのまま急いで地下の研究施設へと続く扉を探し当て、庁舎が未だ製薬会社の持ち物だった時の名残である地下研究施設へと降りて行った。
「これは……平賀のじいさんのとこと比べても負けていないレベルの施設じゃないか?」
人気のない施設内の設備を探るように歩いていきながら匠はそう感想を得る。
……かつての研究施設なんかじゃない。ここは現役の研究所だ……それにしてはあまり研究が盛んな様子は無いが……。
いくつかの部屋を通り過ぎていきながら、そのどこからも人の気配がないことを匠は不思議に思う。
……全員定時制でもう今日は引きあげた……か? いや、研究者という生き物はじいさんとこの人たちを見る限り、そんなに物分かりがいい人種じゃないと思うんだが……。
あるいは今まで研究者の見本として見てきていた平賀の研究所の人間の方がおかしいのかもしれない。
あの研究所の人間ならば十分に在り得ることだと思いながら研究施設を進んで行くと、一際大きな部屋へと続く扉が進路上に現れた。
部屋は手術室のような印象を受ける人工的な清潔感と無機質性を極め上げたような部屋だった。
それなりの広さの部屋の中には所狭しと様々な機材が置かれ、それらに付属した検知器の先端は、部屋の中央にある手術台のような寝台に横たえられた、部屋の人工的な清潔感にあつらえたかのように白い、一人の少女へと向けられていた。
匠は寝台に寝かされた少女の姿を目に収める。
「クズハ!」
思わず声に出しながら走り寄って、匠は寝台に寝かされているクズハの様子を確認した。
顔色はあまり良くはないが、外傷は特に見られない。ただ彼女の小さい身体は封印用の呪符と、寝台にその身を縛り付けておくための束縛でがんじがらめにされている上に機材の検知器が絡みついており、とてもまともな扱いを受けているようには見えなかった。
「やっぱり……ここにクズハは置いておけない」
低く呟くと、匠は墓標を振り上げた。
匠の意思を受けた墓標が、刻まれた紋を輝かせて刃を形作る。しかし形が定まった先から≪魔素≫の集結を阻害され、刃は徐々にその形を崩していった。
……これは厄介だな……。
刃が切断力を持っている内に急いで匠は墓標を振るってクズハを束縛している一切の物を斬り捨てると、クズハに呼びかけた。
「クズハ……おい、クズハ?」
呼びかけにクズハは目を瞑ったまま応えない。何らかの薬でも使われているのかもしれないと思い焦りを感じていると、数度目の呼びかけでクズハが小さく唸った。
「……ん」
「クズハ、……大丈夫か?」
両肩を掴んで揺さぶると、クズハは顔を歪めて悪夢にうなされているように言葉を漏らした。
「ごめん、なさい……」
「何を言ってるんだ」
匠から淡い安堵を含んだ苦笑が零れる。
とりあえず息をしているし脈も安定している。何か薬を盛られているのなら、それらはここではなく平賀の研究所で対処すればいい。そう考えて、匠は一息をついた。
「……誰かが来る前に早く帰ろう。こんなところに居ても何にもならない」
呼びかけるように言いながらクズハを背負い、全力で駆けだして匠は明日名から渡された連絡用の符を取り出した。
●
朝川の機械仕掛けの身体に明日名は追い込まれていった。
防御用にと所持していた符も今や半分以上を喪失しており、攻撃用に放った符も朝川の機械の身体に仕込まれている火器によって撃ち落とされている。このまま防御手段を無くして火器の一撃をまともにもらえば明日名には致命傷だ。
……機械化人、純粋に動作が人のそれよりも早いのも厄介だけど、それ以上に≪魔素≫が拡散してしまうのが問題だ。弱体化した符ではどうにもならない。
明日名は符を引き抜いて起動させながら唸る。
「どうした、これで終わりか?」
「……ッ!」
放たれた符を引き裂いて朝川は距離を詰めてくる。
「古狐の≪魔素≫、式の契約で貸与された力か……所詮は借りもの、この施設内の設備でも符の起動自体は出来るのだろうが、私に勝つには不足だな、研究者」
「――ッ」
……キッコも一度敗れた敵、借りた力ではやはり勝てないか……!
そう思いながら、しかし抵抗の意思は捨てずに叫ぶ。
「しかし、第二次掃討作戦の時のように何も出来ずにやられはしない!」
「懐かしい。第二次掃討作戦、あれから何年経っただろうか」
明日名は接近する朝川に符を投じる。
「今度も、クズハは取り戻す」
「そういえばお前は足止めだったか……坂上匠を残した方がまだ私を倒す算段も立っただろうに」
「君には個人的な恨みもある。それに今のあの子が必要としているのはキッコでも俺でもなく坂上君だ」
「勝てないと分かっていて私の相手に残ったのか。わざわざ健気なものだ。姿形が変わって記憶すらなくしていても肉親は大事か?」
「そんなもの――」
言い差した明日名の懐で光が瞬いた。匠に渡した通信用の符から連絡がきたのだ。
符は留置施設の≪魔素≫対策のせいで多重のノイズを混じらせ、しかし確かに匠の声を伝えて来る。
『明、名……ん、クズハを……ました! 脱出……ます!』
「……見つけられたか」
「そのようだね」
短く告げて切れた通信に笑みを浮かべた明日名は、手持ちの全ての攻撃用の符を宙に放り出す。
「肉親は当然大事さ。それにクズハは、――妹は今となっては唯一の肉親なんだ。返してもらう。そしてもう手を出させはしない」
符が爆発した。
防御用にと所持していた符も今や半分以上を喪失しており、攻撃用に放った符も朝川の機械の身体に仕込まれている火器によって撃ち落とされている。このまま防御手段を無くして火器の一撃をまともにもらえば明日名には致命傷だ。
……機械化人、純粋に動作が人のそれよりも早いのも厄介だけど、それ以上に≪魔素≫が拡散してしまうのが問題だ。弱体化した符ではどうにもならない。
明日名は符を引き抜いて起動させながら唸る。
「どうした、これで終わりか?」
「……ッ!」
放たれた符を引き裂いて朝川は距離を詰めてくる。
「古狐の≪魔素≫、式の契約で貸与された力か……所詮は借りもの、この施設内の設備でも符の起動自体は出来るのだろうが、私に勝つには不足だな、研究者」
「――ッ」
……キッコも一度敗れた敵、借りた力ではやはり勝てないか……!
そう思いながら、しかし抵抗の意思は捨てずに叫ぶ。
「しかし、第二次掃討作戦の時のように何も出来ずにやられはしない!」
「懐かしい。第二次掃討作戦、あれから何年経っただろうか」
明日名は接近する朝川に符を投じる。
「今度も、クズハは取り戻す」
「そういえばお前は足止めだったか……坂上匠を残した方がまだ私を倒す算段も立っただろうに」
「君には個人的な恨みもある。それに今のあの子が必要としているのはキッコでも俺でもなく坂上君だ」
「勝てないと分かっていて私の相手に残ったのか。わざわざ健気なものだ。姿形が変わって記憶すらなくしていても肉親は大事か?」
「そんなもの――」
言い差した明日名の懐で光が瞬いた。匠に渡した通信用の符から連絡がきたのだ。
符は留置施設の≪魔素≫対策のせいで多重のノイズを混じらせ、しかし確かに匠の声を伝えて来る。
『明、名……ん、クズハを……ました! 脱出……ます!』
「……見つけられたか」
「そのようだね」
短く告げて切れた通信に笑みを浮かべた明日名は、手持ちの全ての攻撃用の符を宙に放り出す。
「肉親は当然大事さ。それにクズハは、――妹は今となっては唯一の肉親なんだ。返してもらう。そしてもう手を出させはしない」
符が爆発した。
●
符の爆発の後には留置施設の壁に巨大な穴が穿たれていた。明日名の姿は無い。
「逃げられたか」
そう言った朝川の前には≪魔素≫で編まれた青白い狐の姿があった。
「式神……駒は残していたようだな」
敵意を示すように牙を剥いてくる狐の群れを見据える朝川の耳に、電子音が聞こえてきた。通信だ。
自らの内部に取り付けられている装置で通信を繋いだ朝川の耳に彼の主の声が届く。
『朝川、首尾はどうだ?』
「は、侵入していたのは施設内の職員二人と平賀博士のところから来た坂上匠と安倍明日名です。職員は殺害しましたが、坂上匠と安倍明日名は逃亡……恐らくクズハは連れて行かれたものかと」
『ああ、それは今こちらで確認した。なかなか手際がいい』
「追いますか?」
『いい、今の所欲しいデータは子狐から採れた。少し手を進めよう』
「了解です通光様。ではそちらに戻ります」
通信が切れたのを確認して朝川は狐型の式神を見る。
「手早くいこう」
時間の経過と共に体を構成する≪魔素≫を散らせていく狐達に向けて、朝川は火器を向けた。
「逃げられたか」
そう言った朝川の前には≪魔素≫で編まれた青白い狐の姿があった。
「式神……駒は残していたようだな」
敵意を示すように牙を剥いてくる狐の群れを見据える朝川の耳に、電子音が聞こえてきた。通信だ。
自らの内部に取り付けられている装置で通信を繋いだ朝川の耳に彼の主の声が届く。
『朝川、首尾はどうだ?』
「は、侵入していたのは施設内の職員二人と平賀博士のところから来た坂上匠と安倍明日名です。職員は殺害しましたが、坂上匠と安倍明日名は逃亡……恐らくクズハは連れて行かれたものかと」
『ああ、それは今こちらで確認した。なかなか手際がいい』
「追いますか?」
『いい、今の所欲しいデータは子狐から採れた。少し手を進めよう』
「了解です通光様。ではそちらに戻ります」
通信が切れたのを確認して朝川は狐型の式神を見る。
「手早くいこう」
時間の経過と共に体を構成する≪魔素≫を散らせていく狐達に向けて、朝川は火器を向けた。