影武器姉妹 四天王編 第一話
投稿日時:2011/07/20(水) 22:26:08.18
姉妹は地下へ続く狭い階段を降りていた。
先行する妹の彼方は、頭の上二か所で悪魔の角のように一部だけまとめた髪をぴょこぴょこ揺らしながら駆け降りてゆく。
対して、後に続く姉の桃花は、長いポニーテールをゆったりと揺らしてついて行く。
「ほらほら早く! 始まっちゃうよ!」
「分かってるから急かさないで。階段が急で足踏み外しそうなんだから。」
そんなやりとりをしながらも、彼方は姉が遅れるかどうかなんてこれっぽっちも気に掛けていなかった。
階段の終着点にある重い防音扉。その向こうに待ち受けている熱い時間に、既に意識を奪われていたからだ。
先行する妹の彼方は、頭の上二か所で悪魔の角のように一部だけまとめた髪をぴょこぴょこ揺らしながら駆け降りてゆく。
対して、後に続く姉の桃花は、長いポニーテールをゆったりと揺らしてついて行く。
「ほらほら早く! 始まっちゃうよ!」
「分かってるから急かさないで。階段が急で足踏み外しそうなんだから。」
そんなやりとりをしながらも、彼方は姉が遅れるかどうかなんてこれっぽっちも気に掛けていなかった。
階段の終着点にある重い防音扉。その向こうに待ち受けている熱い時間に、既に意識を奪われていたからだ。
扉の奥にはすし詰めの人、人、人。
桃花は彼らをかき分けて先に先にと進む彼方を追いかける。
やっとのことで彼方の隣に追いついたちょうどその時、会場の照明が落ちた。
「Are you ready guys? Have an exciting time with their music. Shiiiiiiiitennou!」
スピーカーから聞こえてきた男の声に、会場は歓声に包まれた。
先ほどまで空っぽだった空間に、人々の視線が集まる。
スポットライトが当たると、そこには楽器を携えた四人の女が現れていた。
一番奥でドラムセットの調整に余念が無い銀髪で鼻の高い女。
向かって左方、ギター片手に棒立ちの、歌舞伎の男形のような女。
その逆サイド、ベースをかき鳴らす長身で釣り目の金髪女。
そして中央、マイクを持った、まだ幼さの残る、彼方と同じ髪型の少女。
「キャー、影糾様ー!」
ボーカルの少女に黄色い声を上げる彼方に、桃花は呆れの溜息をもらした。
(なるほど、この変な髪型はあの子の真似だったわけね。)
「あ、姉さん! 今こっち向いてくれた!」
「あんたを見たわけじゃないでしょ。」
「姉さん、何か怒ってる?」
「別に。」
せっかくの休日にどこに連れ出すかと思えばロックバンドのライブなんて……と文句のひとつも言ってやりたかったが、桃花は黙っていることにした。
彼方の反応は分かりきっている。「そんなんだから流行に置いてかれるのよ」ってな所だろう。
桃花に言わせれば彼方の方こそ流行に振り回されすぎだと思うのだが。
桃花は彼らをかき分けて先に先にと進む彼方を追いかける。
やっとのことで彼方の隣に追いついたちょうどその時、会場の照明が落ちた。
「Are you ready guys? Have an exciting time with their music. Shiiiiiiiitennou!」
スピーカーから聞こえてきた男の声に、会場は歓声に包まれた。
先ほどまで空っぽだった空間に、人々の視線が集まる。
スポットライトが当たると、そこには楽器を携えた四人の女が現れていた。
一番奥でドラムセットの調整に余念が無い銀髪で鼻の高い女。
向かって左方、ギター片手に棒立ちの、歌舞伎の男形のような女。
その逆サイド、ベースをかき鳴らす長身で釣り目の金髪女。
そして中央、マイクを持った、まだ幼さの残る、彼方と同じ髪型の少女。
「キャー、影糾様ー!」
ボーカルの少女に黄色い声を上げる彼方に、桃花は呆れの溜息をもらした。
(なるほど、この変な髪型はあの子の真似だったわけね。)
「あ、姉さん! 今こっち向いてくれた!」
「あんたを見たわけじゃないでしょ。」
「姉さん、何か怒ってる?」
「別に。」
せっかくの休日にどこに連れ出すかと思えばロックバンドのライブなんて……と文句のひとつも言ってやりたかったが、桃花は黙っていることにした。
彼方の反応は分かりきっている。「そんなんだから流行に置いてかれるのよ」ってな所だろう。
桃花に言わせれば彼方の方こそ流行に振り回されすぎだと思うのだが。
「今日は私達“四天王”のライブにようこそ! 前振りは置いておいて、早速一曲目行っちゃうわよ! 『BEAT!』」
エイキュウ様とやらが合図を送ると、四天王のメンバーはぴったりな呼吸で演奏を始める。
(あれ、この曲?)
イントロが始まってすぐ、桃花は奇妙な感覚に陥った。
普段よく感じる、あの気配にそっくりな……。
「彼方!」
頭で考えるより先に体は動きだしていた。
手には先ほどまで無かった一振りの影の刀。
それは、謎の妖“寄生”を狩るために彼女たちの一族に与えられた、精神イメージを具現化した武器である。
武器の種類はそれぞれの精神のありようによって変わるらしく、桃花は刀、彼方は弓矢の形をとる。
「ど、どうしたの?」
彼方がようやく桃花のただならぬ様子に気づいたが、既に説明している状況ではなくなってしまった。
観客の多くが桃花たちの方を向いているのは、彼女が突然叫んだから……では無いのだろう。
桃花は刀を握る手に力を込める。すると、刀は数メートルに伸びた。
「はぁっ!」
そのまま大きく横に一薙ぎ。斬られた観客たちは、体を傷つけられることなく、しかしその場に倒れ込む。
とりあえずの危機を脱した桃花は、彼方に成り行きを教える。
「あいつらよ! 音楽で寄生してるの!」
「うそ……!」
「言いたいことは後! とにかくここで戦うのは得策じゃないから、“雨”、お願い!」
「う、うん。」
姉妹が打ち合わせしているうちに、周りの観客たちが再び立ち上がっていた。
「こっちを蹴散らしても本体にはノーダメージ……何度でも復活……やっかいね。」
つぶやきながら、桃花は襲いくる暴徒と化した観客を斬り伏せてゆく。
その間に彼方は大きな影の束を右手から放出し、左手中に具現させた弓に据えた。
そして彼方は真上に弓を構え、一斉に放った。
「よし、逃げるわよ!」
「了解っ!」
彼方は最後にステージに向かって矢を放ったが、影糾の影が伸びてあっけなく矢を切断してしまった。
少し気落ちしつつも、桃花と共に観客をなぎ倒しながら出口まで駆け抜ける。
「“雨”は?」
「……来る!」
彼方が宣言した途端、天井を突き破って黒い雨がライブハウス全体を襲撃した。
暴徒の大部分が無力化され、四天王も身を守らざるを得ない。
このわずかな隙を縫って、二人は敵地から逃げ出すことに成功したのであった。
エイキュウ様とやらが合図を送ると、四天王のメンバーはぴったりな呼吸で演奏を始める。
(あれ、この曲?)
イントロが始まってすぐ、桃花は奇妙な感覚に陥った。
普段よく感じる、あの気配にそっくりな……。
「彼方!」
頭で考えるより先に体は動きだしていた。
手には先ほどまで無かった一振りの影の刀。
それは、謎の妖“寄生”を狩るために彼女たちの一族に与えられた、精神イメージを具現化した武器である。
武器の種類はそれぞれの精神のありようによって変わるらしく、桃花は刀、彼方は弓矢の形をとる。
「ど、どうしたの?」
彼方がようやく桃花のただならぬ様子に気づいたが、既に説明している状況ではなくなってしまった。
観客の多くが桃花たちの方を向いているのは、彼女が突然叫んだから……では無いのだろう。
桃花は刀を握る手に力を込める。すると、刀は数メートルに伸びた。
「はぁっ!」
そのまま大きく横に一薙ぎ。斬られた観客たちは、体を傷つけられることなく、しかしその場に倒れ込む。
とりあえずの危機を脱した桃花は、彼方に成り行きを教える。
「あいつらよ! 音楽で寄生してるの!」
「うそ……!」
「言いたいことは後! とにかくここで戦うのは得策じゃないから、“雨”、お願い!」
「う、うん。」
姉妹が打ち合わせしているうちに、周りの観客たちが再び立ち上がっていた。
「こっちを蹴散らしても本体にはノーダメージ……何度でも復活……やっかいね。」
つぶやきながら、桃花は襲いくる暴徒と化した観客を斬り伏せてゆく。
その間に彼方は大きな影の束を右手から放出し、左手中に具現させた弓に据えた。
そして彼方は真上に弓を構え、一斉に放った。
「よし、逃げるわよ!」
「了解っ!」
彼方は最後にステージに向かって矢を放ったが、影糾の影が伸びてあっけなく矢を切断してしまった。
少し気落ちしつつも、桃花と共に観客をなぎ倒しながら出口まで駆け抜ける。
「“雨”は?」
「……来る!」
彼方が宣言した途端、天井を突き破って黒い雨がライブハウス全体を襲撃した。
暴徒の大部分が無力化され、四天王も身を守らざるを得ない。
このわずかな隙を縫って、二人は敵地から逃げ出すことに成功したのであった。
「思わぬ収穫であったな。」
楽屋で最初に口を開いたのは、歌舞伎女・錬刀であった。
その言葉に対し、影糾は机に脚を乗せ、氷の入ったコップを回しながら答える。
「そう? 別に大したヤツらじゃないと思うんだけどなぁ。」
「影糾様、危ない芽は早めに摘んでおくに限りますぞ。」
従者のように影糾に寄り添う銀髪女・婆盆が、やはり従者の諫言のように発言する。
「うーん、じゃあ婆盆ちゃんとぉー、あと悪世巣ちゃんも行ってきて。二人もいれば十分でしょ?」
「全ては影糾様の御心のままに。」
「ふふふ、最近ちょうど退屈だったところよ。」
部屋の隅にもたれかかっていた金髪女・悪世巣が、体を起こして答えた。
話がまとまり、寄生たちは薄暗い楽屋の中、四者四様に妖しい笑みを浮かべた。
楽屋で最初に口を開いたのは、歌舞伎女・錬刀であった。
その言葉に対し、影糾は机に脚を乗せ、氷の入ったコップを回しながら答える。
「そう? 別に大したヤツらじゃないと思うんだけどなぁ。」
「影糾様、危ない芽は早めに摘んでおくに限りますぞ。」
従者のように影糾に寄り添う銀髪女・婆盆が、やはり従者の諫言のように発言する。
「うーん、じゃあ婆盆ちゃんとぉー、あと悪世巣ちゃんも行ってきて。二人もいれば十分でしょ?」
「全ては影糾様の御心のままに。」
「ふふふ、最近ちょうど退屈だったところよ。」
部屋の隅にもたれかかっていた金髪女・悪世巣が、体を起こして答えた。
話がまとまり、寄生たちは薄暗い楽屋の中、四者四様に妖しい笑みを浮かべた。
つづく
