act.22
シアナがファーガスと闘技場で闘ったという噂は、瞬く間に騎士隊に広がっていた。
それは当然、総長のズイマの耳にも届いていた。
ようやく動けるようになったシアナは、すぐさまズイマに呼び出され、事のあらましを説明するように命じられた。
それは当然、総長のズイマの耳にも届いていた。
ようやく動けるようになったシアナは、すぐさまズイマに呼び出され、事のあらましを説明するように命じられた。
「今回の事、様々な方面から話を聞いたぞシアナ」
「……はい」
「私は一ヶ月間、お前に休養を命じた。しかしそれは間違いだったと見える。休むどころか隊長同士で私闘騒ぎとは」
「……」
「ファーガスは行方不明、お前は半死半生の状態で帰還したと聞いたときは、正直驚いたぞ」
「……はい」
「私は一ヶ月間、お前に休養を命じた。しかしそれは間違いだったと見える。休むどころか隊長同士で私闘騒ぎとは」
「……」
「ファーガスは行方不明、お前は半死半生の状態で帰還したと聞いたときは、正直驚いたぞ」
何も言えずにシアナは黙り込んだ。確かに――あれは演習と銘打ってあったが、第三者からしてみれば私闘以外の何物でもない。
それを咎められるのは当然の事だ。シアナは改めて自分の行った事がどれ程のだったのかを考えさせられた。
落胆するように頭を振るズイマ総長。重い沈黙を割って、話し始める。
それを咎められるのは当然の事だ。シアナは改めて自分の行った事がどれ程のだったのかを考えさせられた。
落胆するように頭を振るズイマ総長。重い沈黙を割って、話し始める。
「……シアナ。シアナ・シトレウムス。
お前を今日限りで、降格処分とする。隊長の任を降り、副隊長として隊に着くように」
「……え」
「聞こえなかったか? 本日からお前は隊長ではない。隊長は私が第三隊の一人から選任する。……自分の行ったことを省みて十分反省するように。
また隊とお前に下した謹慎処分は継続したままとする」
お前を今日限りで、降格処分とする。隊長の任を降り、副隊長として隊に着くように」
「……え」
「聞こえなかったか? 本日からお前は隊長ではない。隊長は私が第三隊の一人から選任する。……自分の行ったことを省みて十分反省するように。
また隊とお前に下した謹慎処分は継続したままとする」
隊長を、降ろされた。もう龍殺しの女騎士は隊長ではない。
ズイマの処分はあまりに厳しいものだった。受け答えがやっとで、ようやく「……はい」とだけ口にする。
深く息を吐いて、ズイマは「もう行っていい」と命じた。
ズイマの処分はあまりに厳しいものだった。受け答えがやっとで、ようやく「……はい」とだけ口にする。
深く息を吐いて、ズイマは「もう行っていい」と命じた。
シアナは呆然とした頭のまま、部屋を出る。
……私は、もう隊長じゃない。
何か内側に、ぽっかりと大きな穴が空いたようだった。胸を突く寂寥感に、息が詰まる。
私のした事は、間違っていたのだろうか。
怒りに任せて闘ったのではないと今でも信じている。
それは剣に賭けても誓える。ただの報復や復讐心で剣を取ったのではないと。
何か内側に、ぽっかりと大きな穴が空いたようだった。胸を突く寂寥感に、息が詰まる。
私のした事は、間違っていたのだろうか。
怒りに任せて闘ったのではないと今でも信じている。
それは剣に賭けても誓える。ただの報復や復讐心で剣を取ったのではないと。
何かを守ろうと、闘った。部下を守ろうと、一心で闘った。その結果がこれだ――情けなくて涙も出てこない。
馬鹿だ。私は大馬鹿者だ。結果的に、また自隊の皆に迷惑をかけてしまった。
馬鹿だ。私は大馬鹿者だ。結果的に、また自隊の皆に迷惑をかけてしまった。
どうしていつも、こんな風に自分を追い詰める方法でしか何かを守れない。自身の不器用さに吐き気がする。
もっと、上手く立ち回ることが出来たのなら。こんな事態にはならなかっただろうに。
もっと、上手く立ち回ることが出来たのなら。こんな事態にはならなかっただろうに。
打ちひしがれているシアナの前に、つかつかと靴を響かせて歩いてくる者がいた。
第一騎士隊隊長、ビィシュ・フォンクルーレ、その人である。
全ての隊の中でも、選りすぐりの精鋭とされる第一隊を率いる、最高ランクの隊長。
ビィシュは切れ長の美しい碧眼をシアナに向けた。
「私は君には期待していたが。……期待はずれだったようだな」
短く感情のこもらない一言。だがそれは、今のシアナにとって激しく責め立てられるより、効いた。
ビィシュはそれだけ言うと、颯爽と目の前を通り過ぎていく。
全身に軋むような痛みが残っている。だがそれよりも。
総長やビィシュの期待を裏切った事が何よりも辛かった。
第一騎士隊隊長、ビィシュ・フォンクルーレ、その人である。
全ての隊の中でも、選りすぐりの精鋭とされる第一隊を率いる、最高ランクの隊長。
ビィシュは切れ長の美しい碧眼をシアナに向けた。
「私は君には期待していたが。……期待はずれだったようだな」
短く感情のこもらない一言。だがそれは、今のシアナにとって激しく責め立てられるより、効いた。
ビィシュはそれだけ言うと、颯爽と目の前を通り過ぎていく。
全身に軋むような痛みが残っている。だがそれよりも。
総長やビィシュの期待を裏切った事が何よりも辛かった。
自室に入るなり、シアナは寝台に突っ伏した。
降格処分。――騎士隊の、いい笑い者だな。
瞼に被せた腕の隙間から、天井を仰ぎ見る。
「全く、何やってるんだか……」
瞼に被せた腕の隙間から、天井を仰ぎ見る。
「全く、何やってるんだか……」
そうして、ごろり、と身体を反転させた所で。
剣を差し込まれたような痛みを、太腿に感じた。
「あ……っ」
内部から、焼け焦げて爛れるような尖痛。
身体の中で、何かが燃えているようだ。熱くて、痛い――!!
「ぐ……あっ」
剣を差し込まれたような痛みを、太腿に感じた。
「あ……っ」
内部から、焼け焦げて爛れるような尖痛。
身体の中で、何かが燃えているようだ。熱くて、痛い――!!
「ぐ……あっ」
痛みの根源は、刻印だ。刻印が刻まれている部分が猛烈に傷む。
凄まじい痛みで目の前がかすんでいく。息も絶え絶えに呼吸を繰り返す。
見ると、刻印が黒く変色していた。以前は紫だったのだが、全体に不吉を思わせる黒色が這っている。
龍を殺すたびに刻まれる線は、増え続け、今や、それ自体がひとつの文様を思わせるように形を作っていた。
これは、まるで。
……龍の、尾。
凄まじい痛みで目の前がかすんでいく。息も絶え絶えに呼吸を繰り返す。
見ると、刻印が黒く変色していた。以前は紫だったのだが、全体に不吉を思わせる黒色が這っている。
龍を殺すたびに刻まれる線は、増え続け、今や、それ自体がひとつの文様を思わせるように形を作っていた。
これは、まるで。
……龍の、尾。
「はあ……はあ……」
何とか激痛を堪えて、刻印を抑える。痛みは徐々に引いていき、やがて波をひくようにして収まった。
「な、んなの……今のは」
あれは怪我から来た痛みではない。もっと身体の内側から、そう、おそらくは刻印から来たもの。
何とか激痛を堪えて、刻印を抑える。痛みは徐々に引いていき、やがて波をひくようにして収まった。
「な、んなの……今のは」
あれは怪我から来た痛みではない。もっと身体の内側から、そう、おそらくは刻印から来たもの。
――刻印は使わないほうがいいですよ。
――お前達の刻印はこの世にあってはならぬ忌まわしきもの。……故に力の行使には必ず代償が必要となる。
龍殺しの騎士。お前が龍を殺す度に、殺された龍の魂はそなたの身に宿り続けるだろう。
龍殺しの騎士。お前が龍を殺す度に、殺された龍の魂はそなたの身に宿り続けるだろう。
次々と、刻印にまつわる言葉が、記憶から滲んでくる。シェスタの顔が思い出されると同時に、大切なことも思い出した。
「そうだ……刻印のこと調べとくって、あの子言ってたんだっけ……明日行ってみようかしら」
「そうだ……刻印のこと調べとくって、あの子言ってたんだっけ……明日行ってみようかしら」
とりあえず、今日はもう眠ろう。
……異様に眠い。
そしてそのまま蕩けるように、眠りに就いた。
……異様に眠い。
そしてそのまま蕩けるように、眠りに就いた。
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