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act.32

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act.32

強敵と打ち合う最中に感じる昂ぶり。
この高揚感はどうだ。
退屈で蒙昧な日常では味わうことの出来ない、感奮がここにはある。

これが愉しめるのならば幾らだって肢体を血に染めて剣を振るおう。
何千という戦場に訪れ、刃向う奴は全て虐殺してやろう。
俺が心底満たされるまで終わりのない饗宴を続けよう。

「ああ、だが駄目だな――」

幾ら剣を交わした所で、心底胸が躍るような事はありはしない。
俺を狂喜に駆り立てる獲物はただ一人だ。シアナ。龍殺しの騎士。
あいつと視線を混じらせ、敵意と殺意を感じた時にだけ心は震える。
反して乾きは止むことなく増していく。

「お前では、物足りない……」

故に、満たされることなど、ありはしない。
心はいつも乾いている。この身はいつでも血を求めてやまないのだから。
……そう、龍殺しの血を浴びるまで、例えあいつを屠ったとしても、渇望は止まらないだろう。
俺は、死を求めている。
止むことのない熱望は俺の中に広がって、狂乱へと駆り立てる。



「あれが悪魔の騎士か……将軍と互角に打ち合ってやがる。化けモンだ……!!」

雑魚の兵が何か言っている。

悪魔、か。

成程、誰が言い出したか知らんが面白い。
――俺が悪魔なら。この飽き飽きする世界は牢獄といったところだろう。
「クッ、馬鹿馬鹿しい」

それじゃあお前達は、何だ?
どいつもこいつも牢獄に閉じ込めらているのなら、咎人と変わらないな。
罪を負わないものは、この世にはいない。
罪人という点で、龍殺しも俺も。結局、何一つ変わらないのだ――。


エレの剣はノクトを押していた。
しかしノクトも一国の将軍。簡単に討ち取らせてくれるはずもない。
巧みにエレの剣を受け流し、反撃に転ずる。


「はっ……はっ、ぐ……」

シアナは地面に膝を付いて、その様子を眺めていた。
悔しいが今はエレにノクトを任せるしかない。その状況が歯がゆくて仕方ない。
無力でいることに甘んじている自らが、いたたまれない。
そこに、ゴルィニシチェ兵が接近する。
兵も愚かではない。弱りきった敵国の隊長を逃してくれるほど甘くもない。
剣を手に、消耗したシアナへ近づいてくる。
シアナは敵の気配に気付き、左手で剣を握った。
だが先刻、身に受けた怪我が重過ぎる。
立ち上がることもままならず、剣をしっかりと持つことすらおぼつかない状態で戦うことなど出来るわけがない。
「覚悟!!」

振り下ろされた剣を、身をよじり寸での所で回避した。
しかし続けて次の攻撃が放たれる。
避けられない。――やられる!!

ギインンッ!!

「……っ」
目は閉じなかった。死ぬ最後の瞬間まで目を開けているつもりだったから。
だから何が起こったのか、はっきり分かった。

「隊長、ご無事ですか」
敵とシアナの間に割って入ってきたイザークの剣が、振り下ろされた刃をぎりぎりの所で受け止めたのだ。
「……へ、いき……よ、これくらい」

苦痛に顔を歪ませながら吐息混じりに吐き出すシアナ。
それを聞いたイザークは、全くこんな時までこの人は強がるんだからと苦笑した。
どう見てもボロボロで平気じゃないじゃないか。ああ、だけどそんなことより今は。

「間に合って……よかった。今すぐ終わらせます、待っててください」

イザークは敵兵に立ち向かっていく。その後姿は、立派に騎士然としていて、シアナは正直驚いた。
訓練如きで涙を見せていたあの頃が嘘のようだ。何かあると泣き言や愚痴ばっかり吐いていたのに。
いつの間に、こんなに強くなったんだろう。


ちょっと前までは、私が守っていたのに。
今は反対に守られているなんて。

イザークは、兵に斬撃を食らわせる。兵は倒れて動かなくなった。
笑顔でふりむくイザーク。戦場に出ては怯えていた彼は、もういない。

「……隊長、俺ちょっとは役に立てましたかね」

無言で、頷く。嬉しそうに目を細めて、イザークは接近してきた兵へと走る。
そこにいたのは、以前の臆病なイザークではなかった。ただの一人の騎士だった。

つい以前の癖で、イザークを守ろうと目で追ってしまう。
けれどその心配はなさそうだ。訓練の成果だろう。

そうか、私の助けはもういらないのか。シアナは安堵する。同時に、
イザークの成長は喜ばしいことのはずなのに、少しだけ寂しかった。








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