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白狐と青年 第11話
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匠の警戒を余所に、キッコと彰彦は平賀研究区中央にある平賀の住まい兼研究所である巨大な建物へと何の気負いも無く歩いて行った。
元はどこかの大学の学舎であったものを改造した研究所は、建設当初から変わらないであろう四角く巨大でどこか機能一辺倒に見え、
そのクセ長く住んでいたためかどこか懐かしさを抱かせる姿で匠達を迎え入れた。
入口付近には煙管を吹かした白衣の平賀と、匠よりも多少年嵩らしき男が彼らを迎えるようにして立っている。
「おお、匠君にクズハ君、よく来たのう、キッコ君も彰彦君も案内御苦労様じゃな」
「おー、俺としてはもう少し時間を置いてやりたいところだったんだけどな」
そう言いながら彰彦は匠が持ってきていた荷物を研究所の入り口付近にあるカウンターへと置いた。
女性の職員がカウンターの向こう、笑みで対応する。あとは職員がそれぞれの場所に荷物を運んでくれることだろう。
一行は研究施設内の平賀の研究室へと歩いて行った。そうしながら匠はキッコを普通に受け入れている平賀を観察する。
その様子はどこか親しげで、どうやらキッコと平賀は知り合いということで間違いが無いようだった。
だとしたら、
クズハがキッコに操られたことも知ってるってことか?
もしそうだとしたら、金属棒の調整が終わって手元に戻ってきたのとタイミングを合わせたように行動を起こしたキッコの行動も平賀は知っていた事になるのだろうか。
匠が思案していると、平賀が「おおそうじゃそうじゃ」といつもの飄々として好々爺めいた様子で自身の横に居る男を紹介した。
「彼は安倍明日名君といってな、わしの助手じゃ」
明日名と呼ばれた男は紹介に応じるように匠とクズハへと軽く頭を下げ、「よろしく」とにこやかに握手を求めた。
それに応えて手を握った時に腕に覗いた傷痕を見て、掃討作戦の参加者だろうかと匠は考える。
戦闘職よりも研究職とかそっち側の人間に見えるが。
明日名はどちらかというと戦闘用の衣服よりも白衣の方が似合いそうな風体をしている。と、そこまでぼんやりと思った所で彼の名字がよく知ったものであることに疑問を持った。
「安倍?」
安倍といえば魔法体系を確立した五人の内の一人と同じ名字だ。関係者だろうか? それともただ同じ名字なだけだろうか? 匠がそう疑問に思っていると、キッコが明日名を手で示した。
「明日名は魔法の型を作りおった安倍とかいう家の分家筋の生まれだの。魔法の型を作りおった安倍とは会ったことも無いそうだぞ? 隅っこの下っ端だの。そして、我の相棒ぞ」
匠が「はい?」と声を漏らし、クズハが首を傾げた。
「相棒……ですか?」
「坂上君とクズハは、式神というものを知っているかい?」
明日名の言葉に匠とクズハは頷いた。
式神。安倍の長が創り上げた魔法の形式で、魔法で限定的な異空間を作り上げて符を門にし、捕らえたり契約を結んだ異形をその空間を通して喚ぶ魔法。確か基本的にはそう定義されていたはずだ。
「第二次掃討作戦の時、ひどい怪我を負っていた彼女を見つけてね。とりあえずどこかで治療をしてもらおうと思って契約を結んだんだよ」
「我の小間使いにしたのだの」
「キッコさん、ついさっき相棒って言ったばっかなのに舌の根も乾かねえうちに明日名兄さんを小間使い扱いかよ」
「む、つい本音が出てしもうた」
呆れたような彰彦の様子もまたキッコに対して親しげだ。
あの時確かにある程度ダメージ与えたけどそこまで効いていたのか……?
匠はそう思いながら、明日名を見た。彼は応えるように一つ頷く。
「彼女の治療をした事に不満があるかい? 本人から聞いたと思うけど、キッコはそもそも人を襲う類の異形ではなかったんだ。それが人のせいで他の異形とまとめて討たれるのはあまりいい気がしなくてね」
だから治療に尽くさせてもらった。そう言う明日名に匠は小さく反論する。
「……それでもあの作戦に参加した人間を殺した」
「殺されとうはないからの」
キッコが「仕方なしにやったのだ」と言うのに匠としても反論のしようがない。
確かにキッコは人を襲ってはいなかったのかもしれない。
キッコを、信太主を討伐対象にしたのは信太の森から異形が溢れてきたからであって、信太主が人を襲いに森から出てきたなどという話は聞いた事が無かった。
しかし、森の主然としていた信太主は人の目には異形を繰り出してくる親玉に見えていたのだ。だがそれも以前キッコが語ったところでは、
キッコはただ自分の縄張りに突如現れた邪魔なものを外に排除していただけだっていう……。
いわばキッコも突然現れた異形の被害者という事になる。それで更に人にも討伐対象にされ、森を追われるのを無抵抗に受け入れろ。というのは彼女に対してあんまりな話だろう。
しかし、
分かってはいてもどこか納得できない部分があるな。
小さくため息を吐く。
匠が居た部隊の人間がキッコに殺された。その部分がわだかまりになっているのは明らかだ。
「そこは悲しいすれ違いだってことでさ。――それに、人間も異形も悪い奴は悪いし、良い奴は良い。そこは同じだぜ?」
まあクズハちゃん連れてるお前にゃ言う必要も無いか。彰彦はそう言って匠の肩を叩いて笑った。
そのもの言いに少し変な感じを受けながらも「分かったよ」と匠は頷いた。
いつまでもそこにこだわってるわけにもいかないしな。
思い、平賀へと目を向ける。
「……キッコが言っていたことだけど」
いつもの癖で信太主と言おうとして言葉に一瞬詰まった。慣れるのに少しかかるかもしれない。そう思いながら匠は言葉を続ける。
「クズハの事を訊いたらクズハを調整した者から何も聞いてはいないのか? と言われた。
あの時カプセルから出したクズハを預けたのは平賀のじいさんだ。しかもじいさん、クズハには特殊な治療が必要だって言ってたよな。それが調整って奴じゃないのか?」
そう言って平賀を見据える。
「何を知ってるのか教えてもらえないか?」
「教えてください」
クズハが匠の言葉に合わせて頭を下げた。その様子には必死な感じが漂っている。もしかしたらまた自分の体が操られることになるかも知れないのだ。必死になるのも分かる。
「うむ、今ならば……君達が望むのなら、話そうかの」
そう言った平賀からはいつの間にかいつものオチャラケた雰囲気が消えていた。
平賀が煙管を振ると煙がゆったりとその場の全員を囲むように広がった。その煙には≪魔素≫の気配が薄くある。
「防音と、盗聴対策じゃよ」と言って平賀は笑う。どうやら他人にはあまり聞かれたくない話らしい。
「俺は出て行こうか?」
そう言った彰彦に対してキッコが首を振った。
「この話を全く知らんわけでもないだろうて、どうせならば詳しく聞いてゆけ。ただし、他言無用ぞ?」
そう言って匠もクズハも異論はないな? と問うキッコ。
「そもそも何の話かわからないんだから異論もクソもない」
「クッククク、それもそうだの。まあおそらく聞かれても問題無いと我等は思うておる。匠もクズハもそれで良しとせい」
キッコが自分を名前で呼んでくることに違和感を覚えながら、まあいいか。と匠は頷く。
どんな話しになるのか知らないが、少なくとも彰彦は匠やクズハに不利になるようなことはしないだろう。今までの友誼を根拠にそう思う。
皆が話を聞く、あるいは話を始める姿勢になったのを確認したところで平賀が口を開いた。
開口一番の言葉は匠とクズハにはいきなり衝撃的な一言であった。
元はどこかの大学の学舎であったものを改造した研究所は、建設当初から変わらないであろう四角く巨大でどこか機能一辺倒に見え、
そのクセ長く住んでいたためかどこか懐かしさを抱かせる姿で匠達を迎え入れた。
入口付近には煙管を吹かした白衣の平賀と、匠よりも多少年嵩らしき男が彼らを迎えるようにして立っている。
「おお、匠君にクズハ君、よく来たのう、キッコ君も彰彦君も案内御苦労様じゃな」
「おー、俺としてはもう少し時間を置いてやりたいところだったんだけどな」
そう言いながら彰彦は匠が持ってきていた荷物を研究所の入り口付近にあるカウンターへと置いた。
女性の職員がカウンターの向こう、笑みで対応する。あとは職員がそれぞれの場所に荷物を運んでくれることだろう。
一行は研究施設内の平賀の研究室へと歩いて行った。そうしながら匠はキッコを普通に受け入れている平賀を観察する。
その様子はどこか親しげで、どうやらキッコと平賀は知り合いということで間違いが無いようだった。
だとしたら、
クズハがキッコに操られたことも知ってるってことか?
もしそうだとしたら、金属棒の調整が終わって手元に戻ってきたのとタイミングを合わせたように行動を起こしたキッコの行動も平賀は知っていた事になるのだろうか。
匠が思案していると、平賀が「おおそうじゃそうじゃ」といつもの飄々として好々爺めいた様子で自身の横に居る男を紹介した。
「彼は安倍明日名君といってな、わしの助手じゃ」
明日名と呼ばれた男は紹介に応じるように匠とクズハへと軽く頭を下げ、「よろしく」とにこやかに握手を求めた。
それに応えて手を握った時に腕に覗いた傷痕を見て、掃討作戦の参加者だろうかと匠は考える。
戦闘職よりも研究職とかそっち側の人間に見えるが。
明日名はどちらかというと戦闘用の衣服よりも白衣の方が似合いそうな風体をしている。と、そこまでぼんやりと思った所で彼の名字がよく知ったものであることに疑問を持った。
「安倍?」
安倍といえば魔法体系を確立した五人の内の一人と同じ名字だ。関係者だろうか? それともただ同じ名字なだけだろうか? 匠がそう疑問に思っていると、キッコが明日名を手で示した。
「明日名は魔法の型を作りおった安倍とかいう家の分家筋の生まれだの。魔法の型を作りおった安倍とは会ったことも無いそうだぞ? 隅っこの下っ端だの。そして、我の相棒ぞ」
匠が「はい?」と声を漏らし、クズハが首を傾げた。
「相棒……ですか?」
「坂上君とクズハは、式神というものを知っているかい?」
明日名の言葉に匠とクズハは頷いた。
式神。安倍の長が創り上げた魔法の形式で、魔法で限定的な異空間を作り上げて符を門にし、捕らえたり契約を結んだ異形をその空間を通して喚ぶ魔法。確か基本的にはそう定義されていたはずだ。
「第二次掃討作戦の時、ひどい怪我を負っていた彼女を見つけてね。とりあえずどこかで治療をしてもらおうと思って契約を結んだんだよ」
「我の小間使いにしたのだの」
「キッコさん、ついさっき相棒って言ったばっかなのに舌の根も乾かねえうちに明日名兄さんを小間使い扱いかよ」
「む、つい本音が出てしもうた」
呆れたような彰彦の様子もまたキッコに対して親しげだ。
あの時確かにある程度ダメージ与えたけどそこまで効いていたのか……?
匠はそう思いながら、明日名を見た。彼は応えるように一つ頷く。
「彼女の治療をした事に不満があるかい? 本人から聞いたと思うけど、キッコはそもそも人を襲う類の異形ではなかったんだ。それが人のせいで他の異形とまとめて討たれるのはあまりいい気がしなくてね」
だから治療に尽くさせてもらった。そう言う明日名に匠は小さく反論する。
「……それでもあの作戦に参加した人間を殺した」
「殺されとうはないからの」
キッコが「仕方なしにやったのだ」と言うのに匠としても反論のしようがない。
確かにキッコは人を襲ってはいなかったのかもしれない。
キッコを、信太主を討伐対象にしたのは信太の森から異形が溢れてきたからであって、信太主が人を襲いに森から出てきたなどという話は聞いた事が無かった。
しかし、森の主然としていた信太主は人の目には異形を繰り出してくる親玉に見えていたのだ。だがそれも以前キッコが語ったところでは、
キッコはただ自分の縄張りに突如現れた邪魔なものを外に排除していただけだっていう……。
いわばキッコも突然現れた異形の被害者という事になる。それで更に人にも討伐対象にされ、森を追われるのを無抵抗に受け入れろ。というのは彼女に対してあんまりな話だろう。
しかし、
分かってはいてもどこか納得できない部分があるな。
小さくため息を吐く。
匠が居た部隊の人間がキッコに殺された。その部分がわだかまりになっているのは明らかだ。
「そこは悲しいすれ違いだってことでさ。――それに、人間も異形も悪い奴は悪いし、良い奴は良い。そこは同じだぜ?」
まあクズハちゃん連れてるお前にゃ言う必要も無いか。彰彦はそう言って匠の肩を叩いて笑った。
そのもの言いに少し変な感じを受けながらも「分かったよ」と匠は頷いた。
いつまでもそこにこだわってるわけにもいかないしな。
思い、平賀へと目を向ける。
「……キッコが言っていたことだけど」
いつもの癖で信太主と言おうとして言葉に一瞬詰まった。慣れるのに少しかかるかもしれない。そう思いながら匠は言葉を続ける。
「クズハの事を訊いたらクズハを調整した者から何も聞いてはいないのか? と言われた。
あの時カプセルから出したクズハを預けたのは平賀のじいさんだ。しかもじいさん、クズハには特殊な治療が必要だって言ってたよな。それが調整って奴じゃないのか?」
そう言って平賀を見据える。
「何を知ってるのか教えてもらえないか?」
「教えてください」
クズハが匠の言葉に合わせて頭を下げた。その様子には必死な感じが漂っている。もしかしたらまた自分の体が操られることになるかも知れないのだ。必死になるのも分かる。
「うむ、今ならば……君達が望むのなら、話そうかの」
そう言った平賀からはいつの間にかいつものオチャラケた雰囲気が消えていた。
平賀が煙管を振ると煙がゆったりとその場の全員を囲むように広がった。その煙には≪魔素≫の気配が薄くある。
「防音と、盗聴対策じゃよ」と言って平賀は笑う。どうやら他人にはあまり聞かれたくない話らしい。
「俺は出て行こうか?」
そう言った彰彦に対してキッコが首を振った。
「この話を全く知らんわけでもないだろうて、どうせならば詳しく聞いてゆけ。ただし、他言無用ぞ?」
そう言って匠もクズハも異論はないな? と問うキッコ。
「そもそも何の話かわからないんだから異論もクソもない」
「クッククク、それもそうだの。まあおそらく聞かれても問題無いと我等は思うておる。匠もクズハもそれで良しとせい」
キッコが自分を名前で呼んでくることに違和感を覚えながら、まあいいか。と匠は頷く。
どんな話しになるのか知らないが、少なくとも彰彦は匠やクズハに不利になるようなことはしないだろう。今までの友誼を根拠にそう思う。
皆が話を聞く、あるいは話を始める姿勢になったのを確認したところで平賀が口を開いた。
開口一番の言葉は匠とクズハにはいきなり衝撃的な一言であった。
「クズハ君はの、元は人間だったんじゃよ」