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NEMESIS 第4話 疑惑

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NEMESIS  第4話 疑惑


温泉界で起きた様々な騒動にも決着がつき、二人は湯乃香と再会を約束し、再び元の世界へと帰還した。湯乃香が時間軸をうまくいじってくれたので
ぴったり1時間半経ったところで戻って来ることができた。そのまま神谷探偵事務所へと戻ると、そこにいたのは…

「アリーヤ、ベルクト!久しぶりだね。それにしても、二人はどうしてここに?」
「ん?クラウスか。久しいな。再会できて嬉しいよ。だがそういう貴様こそなぜここに来ることがあるのだ?」
「よせよアリーヤ。クラウスにだって悩み事の一つや二つあるだろう。それにどうやらその悩みには妹君も絡んでいると見える」

ベルクトの言葉に苦笑いを浮かべるクラウス。彼らはアリーヤとベルクトと言い、2年前に貴族たちの陰謀を未然に防いだ告死天使のうちの二人だった。
アリーヤは8人の中では最年長で今年25歳になる。腰のあたりまで伸ばした漆黒の髪が美しい、大人の気品を兼ね備えた美女なのだが、
性格は完全に武人そのもので、それを台無しにしていると言えなくもない。
一方のベルクトは今年で18歳になり、ウェーブがかった緋色の髪にをオールバックにし、常に冷静沈着にふるまう男だ。
さて、そんな元・告死天使がなぜこの探偵事務所にいるかというと、それにはもちろん理由がある。その理由を神谷が説明してくれた。

「実はこのお二方。先日殺害されたジョセフ・J・ケールズ氏のSPを務めていたんだ。それで、そのジョセフ氏を守れなかったということで
 遺族のヒカリに謝罪に来たところに、お前らが戻ってきたっていう訳だ」

神谷のその言葉に、二人はここにきた当初の目的を思い出し、ヒカリに向かって深々と頭を下げて言った。

「ヒカリお嬢様。今回は私たちの大変な失態でお父上をお守りすることができませんでした。いかようにも罰は受ける所存です。何なりとお与えください」

その様子を見てクラウスは驚愕した。告死天使の中でも特にプライドが強かったのがこの二人だったからである。
そのふたりが、最敬礼よりもなお深い角度で頭を垂れ、誰かに謝る姿などクラウスには想像もできなかった。
一方、いまだに頭を垂れ続ける二人にヒカリは意外な言葉を投げかけるのだった。

「…テレビのニュースで見たわ。お父様はものすごく遠い距離から狙撃銃で頭を撃ち抜かれたって。だからあなたたちのせいじゃない。お願いだから頭をあげてくれない?」

ヒカリの言うとおり、ジョセフ氏はスナイパーライフルの超遠距離射撃によって側面から頭を撃ち抜かれ、そのまま死亡した。
超音速で向かってくる銃弾を阻むことなど、いかに告死天使であっても不可能であり、ヒカリもそれを承知しているから
誰かに向けることで少しでも発散させたいこの胸の中の怒り・憎しみを抑えられるのだ。そして、そのヒカリの言葉を受けて頭を上げる二人。

「まあまずはそこに座れ。話はそれからだ。ステファン、お前はコーヒーを用意しろ。今日は……7人分か」

来客があるたびにこの事務所内の人数分のコーヒーを用意させる神谷。実のところこれは口実で、本当は自分がコーヒーを飲みたいだけなのである。
ステファンもそれは薄々承知しているが、文句を言ってもその先に自分が取る行動には何の変化もないので、
指示されたら黙ってやることにしたらしい。そのまま無言でキッチンへと向かっていった。
例のソファに腰を下ろす6人。左側にヒカリ、アリーヤ、ベルクトが座り、テーブルをはさんだ向かい側には神谷・クラウス・セフィリア、そしてコーヒーを運んできたステファンが座る。
もっとも、もともと三人掛けにソファに四人が座っているのでキツキツの状態だったが。

「さて、ジョセフ氏が射殺された状況だがニュースだけじゃわからないこともある。ここは当事者に話を聞くのがスジだろう。話してもらえるか。事件当時の状況を」

アリーヤとベルクトは一瞬顔を見合わせ、語り出したのはベルクトだった。
事の発端は事件からひと月ほどのことである。ジョセフ氏に毎日のように脅迫文書が送り付けられるようになったのだ。
尤も、先代が起こした会社を引き継ぎ、様々な紆余曲折を経てここまで大きくさせた彼が脅迫文書程度でひるむはずもなく、
ライターで燃やしてそれを灰皿に投げ捨てていたから内容は分からないのだが。そのようにして無視し続け、ひと月が経ったある日のこと。
取引先との商談を無事に成立させ、アリーヤの運転する車でCIケールズ本社に戻る途中の車の最中、彼は狙撃されその命を落としてしまったのだ。

「かなり凄腕のスナイパーだな…そんな技術を持っている狙撃手がいるなんて信じられないな…」

神谷が呟く。彼は信じられないと言っているが、こうして実際にジョセフ氏は狙撃されているのだから信じざるを得ないだろう。

「それに、問題はそれだけじゃありませんよ。狙撃されて暗殺されたのならジョセフ氏が死ぬことによって得をする誰かがいるってことですよね。
 となると、その誰かにとってジョセフ氏の忘れ形見であるヒカリさんは邪魔者以外の何物でもない。
 ヒカリさんが生きてここにいるなんてことが知れたら絶対にその命を狙いにやってくるに決まっています」

と、次に口を開いたのはセフィリアだ。確かに彼女の言うように、犯人の目的はCIケールズの乗っ取り、あるいは吸収だろう。
だがもしそこにヒカリがいたらどうなるだろうか?犯人の思惑通りにことは進むだろうか?答えは否である。
会社役員たちはヒカリの存在を盾として徹底抗戦するだろう。さらにセフィリアの言葉を裏付けるようにベルクトが懐からあるものを取り出す。
遺言書である。生前ジョセフ氏が弁護士立会いのもと直筆にて記した正式なもので完璧な法的効力を発揮する。
その内容とは、もし自分が何らかの事件事故に巻き込まれその命を落とした際には、CIケールズ社を含めた全財産をヒカリに相続させるというものだった。
決定的だった。もしヒカリがこれを世間に公表すれば犯人の計画は完全に崩壊する。つまり、ここにヒカリがいるということは第3者には一切知られてはならないということだ。
予想を遥かに超越した深刻な事態に7人は黙り込んでしまった。天井に目を向け、何かを考え込む神谷。そして、徐にその口を開いた。

「なあ、ジョセフ氏を狙撃したスナイパーについてなんだが……クラウス・アリーヤ・ベルクト、どうか気を悪くしないでくれ。
 告死天使のうちの誰かっていう可能性がある。少なくとも、高速で移動する車の中のジョセフ氏を正確に狙撃するなんていう神業じみたことが
 できる技術を持っている人間を俺はお前たち以外に知らない」

そんな神谷の言葉に3人は一瞬面食らうが、すぐにフンと鼻で笑い飛ばしてアリーヤが答える。

「面白いことをいうな。私たちのうちのだれかがジョセフ様を殺したと言いたいわけだな。でも残念ながらそれはありえん。なぜなら…」

アリーヤはその理由を語る。それは告死天使誕生にまでさかのぼる。ヒカリとの初対面時にクラウスが語った内容をさらに詳しくしたものだ。
クラウスの語ったある人物、その名は「ケビン・F・ケールズ」。ジョセフ氏の父親に当たる人物であり、CIケールズの創始者でもある。
すでに会社を息子に譲渡し、暇を持て余していた彼はスラムであることを始める。10歳~19歳の少年少女たちを集めて、体力テストと称した
先天的な身体能力のチェックを行ったのだ。そのテストに合格した8人に、自分が若かりし頃に培った格闘技・体術などを教え込むことに
彼は余生を費やし、2年前、貴族たちの陰謀を告死天使たちが阻止したのを見届けた後病室のベッドで静かに息を引き取った。
しかも、告死天使がこの計画を事前につかむことができたのはジョセフ氏が様々な情報をリークしてくれたことが大きい。
ジョセフ氏が市場の動向をチェックし、貴族たちが支配する大企業がその展開する事業とはおよそ関係のない化学物質を
大量に発注していたのだ。硫黄と水素である。これだけ聞けば無害と思うだろう。しかし、この硫黄に水素を添加することによって起こる熱反応、
触媒反応の2つの過程を経ることによってあるガスが発生するのだ。「硫化水素」である。その毒性は極めて強く、
高濃度のガスを散布された場合には数回呼吸するだけで呼吸困難に陥り、やがて死亡する。

貴族たちにかかった疑惑の真偽を確かめるべく、清掃員に扮したベルクトが貴族たちが会議に使用する部屋を突き止め、盗聴器を仕掛けたのだ。
貴族たちの計画が発覚したのはその日の夜のことだった。そして、その翌日に告死天使は貴族たちに死の制裁を与えたのである。
その直後、ジョセフ氏自身がこれまで集めた情報、盗聴器の録音などといった証拠をマスコミに公表、翌朝の朝刊やテレビニュースで
今回の計画が白日のもとにさらされることになったのだ。つまり、ジョセフ氏の存在なくして告死天使はこの計画を阻止できなかったわけで、
ジョセフ氏は告死天使にとって大恩人なのである。その告死天使が大恩人を殺すわけがないというのがアリーヤの主張である。

「なるほどな…義理がたいお前たちがジョセフ氏を殺すことなんてないだろうな。だが所詮それは感情論だ。
 俺はジョセフ氏を殺したのがお前たち告死天使じゃないという確固たる証明が欲しいんだ」

神谷だって疑いたくて疑っているわけではないだろう。それは残りの6人も重々承知していた。さらに告死天使の3人はその疑いを晴らす方法も知っていた。

「なら…会いに行きますか?残りの告死天使たちに」

クラウスが提案する。嫌疑を晴らす方法。それは残りの5人に会いに行き、事件当時のアリバイ(現場不在証明)を確かめることだった。
ただ、それにはひとつ問題がある。ヒカリを表に連れ出すことになるのだ。一人留守番をさせるわけにもいかないだろう。
さらに遺族の感情を考慮すれば自分の父親を殺したかも知れない相手の嫌疑を確かめたいと思うのは至極当然であろう。
と、言うことで7人全員で残りの5人のもとに向かうことになった。さて、ヒカリを人目につけないように向かうには…
クラウスはクローゼットから告死天使の黒装束を取り出し、それを身に纏う。セフィリアは初めてここに来る道中のことを思い出した。
あの時、この装束に身を包む兄の姿を道行く人々はただ拝むばかりだった。つまり、この格好なら人々の目をヒカリからそらせるという訳だ。
それならば、とセフィリアもあの純白の服を取り出し、奥の部屋へと消えていった。温泉界ではあられもない姿を披露していたというのに…
5分ほどでセフィリアは戻ってきた。純白の衣装に身を包む彼女の姿を初めて目の当たりにするアリーヤとベルクトはただ息をのむだけだった。

「じゃあ行くぞ。俺としてはこの胸の不快感を一刻も早く払拭したいんだ。仕事以外で使う気もステファン以外の誰かを乗せる気も
 なかったんだが仕方ない。車でいくぞ。外に出ろ」

神谷探偵事務所の右手には普段はシャッターが下ろされているのだがガレージがあり、そこには神谷が探偵業務のほかにもう一つの仕事で
使う車が2台収容されている。今回は大人数なので、大型のバンであった。マイクロバスと表現してもいいかもしれない。
それに乗り込み、7人は疑惑の当事者たちの元へと向かうのだった。


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