無限桃花~無限地獄に咲く花よ
魔剣。そう呼ぶに相応しい。
美しく反り返った刀身は黒く妖しく輝き、一度振るえば、風を斬り裂く音はその空間すら分断してしまいそうな錯覚を覚えるだろう。
美しく反り返った刀身は黒く妖しく輝き、一度振るえば、風を斬り裂く音はその空間すら分断してしまいそうな錯覚を覚えるだろう。
黒龍二左衛門・村正。その刀の銘。
その妖しさは圧倒的な魔力を持って所有者を誘い込む。一度持てば人斬りの衝動を駆り立てるのだ。
ーーー使ってみたい。人を斬りたいーーー
過去の所有者を破滅へ誘いてきた、魔剣。真の所有者以外では持つ事すら出来ない。
剣に選ばれし一族のみが、村正を手にする事が叶うのだ。なぜならそれは、人を斬る為の剣では無いのだからーーー
ーーー使ってみたい。人を斬りたいーーー
過去の所有者を破滅へ誘いてきた、魔剣。真の所有者以外では持つ事すら出来ない。
剣に選ばれし一族のみが、村正を手にする事が叶うのだ。なぜならそれは、人を斬る為の剣では無いのだからーーー
「寒いなぁ‥‥‥」
無限桃花はため息と一緒に呟いた。その言葉は白い息となって空気と混じり合い、空へと消えて行った。
雪が降りそうだった。空気は肌を突き刺すように冷たく、桃花の息が混じった空は灰色で被われていた。
桃花はコンクリートの壁に寄り掛かり、コンビニのおにぎりを頬張る。街を行き交う人達を観察し、自分も人並みの平和があれば、と、叶わぬ願いを心に思う。
傍らには布で覆われた村正が佇んでいた。
雪が降りそうだった。空気は肌を突き刺すように冷たく、桃花の息が混じった空は灰色で被われていた。
桃花はコンクリートの壁に寄り掛かり、コンビニのおにぎりを頬張る。街を行き交う人達を観察し、自分も人並みの平和があれば、と、叶わぬ願いを心に思う。
傍らには布で覆われた村正が佇んでいた。
街中でいつもの袴姿は出来ない。女性の割に長身の桃花はパンツスタイルがよく似合う。今日もデニムにコートを羽織っていた。一見すればとても18歳には見えない、大人びた服装だろう。桃花の凜とした顔立ちもその雰囲気に影響しているかもしれない。
桃花はスカートを好まない。なぜならば、幼少からの戦闘服である袴を連想させるからである。
桃花はスカートを好まない。なぜならば、幼少からの戦闘服である袴を連想させるからである。
桃花は指に付いた米粒を口へ運び、コンビニの袋からペットボトルのミルクティーを取り出し、代わりにおにぎりの包みを袋へ入れた。
それをコンビニのごみ箱へ押し込んで、人の流れに乗って歩き出した。
ひらり、と桃花の頬に冷たい物が落ちる。桃花は空を見た。
雪が降ってきた。
それをコンビニのごみ箱へ押し込んで、人の流れに乗って歩き出した。
ひらり、と桃花の頬に冷たい物が落ちる。桃花は空を見た。
雪が降ってきた。
父から受け継いだ魔剣を手に、桃花は街を練り歩く。目的地は無い。獲物を捜しているのだ。自らを餌に。
「なかなか居ないな‥‥連中も寒いと引っ込むのかな?」
何時間、街を歩き回っただろうか。ペットボトルのミルクティーは既に無くなりかけていた。
日は落ちかけている。もう歩くのも面倒だ。そう思った。桃花はまたコンビニに入り、菓子パンと新しいミルクティーを買って、コンビニから少し離れた公園のベンチに腰を降ろした。
雪は既に止んでいたが、うっすらと白くなった地面が先程まで降っていた雪を思い出させる。気温はさらに下がって来た。
雪は既に止んでいたが、うっすらと白くなった地面が先程まで降っていた雪を思い出させる。気温はさらに下がって来た。
まるであの時の光景のようだった。
最愛の父と妹を同時に失ったあの時、それは桃花にとって最大のトラウマであり、戦う理由だった。
あの時、父を殺し、妹を連れ去った寄生。奴の手にも、村正のような黒い刀が握られていた。
影糾寄生。桃花の宿敵の名前。奴を殺す為だけに、桃花は寄生を切り裂く剣、魔剣・村正を手にしたのだ。
あの時も、雪が地面に積もっていた。
最愛の父と妹を同時に失ったあの時、それは桃花にとって最大のトラウマであり、戦う理由だった。
あの時、父を殺し、妹を連れ去った寄生。奴の手にも、村正のような黒い刀が握られていた。
影糾寄生。桃花の宿敵の名前。奴を殺す為だけに、桃花は寄生を切り裂く剣、魔剣・村正を手にしたのだ。
あの時も、雪が地面に積もっていた。
「彼方‥‥どこにいるの‥‥?」
公園からは人の姿は消えていた。この時間帯に、この寒空では誰しも家に引きこもるだろう。私が異常なのだ。桃花はそう思った。
思わず苦笑する桃花だが、ふと声をかけられ表情をいつもの物へと戻した。
思わず苦笑する桃花だが、ふと声をかけられ表情をいつもの物へと戻した。
「こんばんはお姉さん。何してるの?今暇?」
声をかけて来たのは20代と思われる男だった。ロングヘアに無理やり履いたような細身のジーンズを履き、言葉遣いは軽い。
後ろには男の連れと思われる男数人が立っていた。
後ろには男の連れと思われる男数人が立っていた。
「こんなとこ居たら寒いだろ?俺らと遊びに行こうよ。一人より楽しいと思うけど?」
男は軽い口調で桃花に話し掛けてきた。だが、その立ち振る舞いはおよそ桃花のタイプとは掛け離れている。むしろ嫌悪感すら覚えるタイプだった。
「遠慮しておく」桃花の返事はそれだけだった。
「そんな事言わないでよ。絶対楽しいって。だから一緒にさ‥‥‥」
「チャラい男はタイプじゃないから。後ろの連中もね」
桃花は嫌悪感をあらわにした口調で言い放った。今までの経験から、こういう連中と絡んでロクな事は無いと思っていた。そのたび桃花は自身の男運の無さを呪った。
だが、その発言は男達の神経に触れたようだった。
だが、その発言は男達の神経に触れたようだった。
「なっ‥‥このクソアマ、ずいぶん言ってくれんじゃねーか。調子こきやがって‥‥」
「調子に乗ってるのはそっちだよ。大の大人が子供みたいにつるんで楽しいわけ?一人じゃナンパも出来ない臆病者でしょ?それに、小物には用はないし」
桃花はさらに挑発的な口調で言い返した。男と、その連れの連中の顔は明らかに怒りのものへと変わっていた。
「上等だ!このくそガキが!今から全員でマワしてやっからよ?覚悟しろよ!」
「覚悟するのは‥‥‥そっちよ‥‥‥‥」
刹那、桃花の傍らに在った村正が影に包まれ、被っていた布と、剣の鞘すら消え去った。
一瞬で抜き身となった村正は桃花の手へと自ら飛び込み、桃花はその真っ黒な刀身を男の腹部へと突き立てた。
一瞬で抜き身となった村正は桃花の手へと自ら飛び込み、桃花はその真っ黒な刀身を男の腹部へと突き立てた。
「やるならもっと上手く変身しなさい。もっとも、あなたが人間でも斬ってたかも知れないけど」
「そんな‥‥なぜ‥‥見破られた‥‥」
「私は無限桃花だから」
桃花がそう言うと、男は影に包まれ消えていった。
同時に、後ろにいた男達は顔を見合わせ、瞬時に逃げ去った。悟ったのだ。自分達のような小物の寄生では敵わないと。
同時に、後ろにいた男達は顔を見合わせ、瞬時に逃げ去った。悟ったのだ。自分達のような小物の寄生では敵わないと。
「今日の獲物は雑魚一匹か‥‥」
桃花は無念そうに言った。
いくら小物を潰しても、桃花の最終的な標的には届かない。
すべての寄生の頂点。奴を消さなければ、何にもならない。父の仇であり、妹の唯一の手掛かり、影糾。
いくら小物を潰しても、桃花の最終的な標的には届かない。
すべての寄生の頂点。奴を消さなければ、何にもならない。父の仇であり、妹の唯一の手掛かり、影糾。
「必ず‥‥見つけだす‥‥待ってて‥‥彼方」
だが桃花はまだ知らなかった。無限彼方こそが、自らの敵である事を。そして、自身に隠された呪われた運命を、桃花はまだ知らなかった。
また、雪が降ってきた。