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ゴミ箱の中の子供達 第1話

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ゴミ箱の中の子供達 第1話


 夕日が都市を閉ざす高い壁の向こうへ沈み、赤く染まっていた空に夜の闇が降り始める。等間隔に
並んだ電灯が重い腰を上げて照らし始めた狭い路地を、1台のワンボックスバンが道幅の殆どを占領して
ゆっくりと走っていた。その窓の無いバンの中で、ゲオルグはイヤホンから流れる無線連絡を聞いていた。
 監視班の報告によると、目標のバーには店主と店員それぞれ1人、客が5人。客のうち1人がこの廃民街
に手を広げつつあるマフィアの大物で確保対象だ。1人はその連れでついでに確保しろとのお達しがつい
先ほどあった。残り3人はただの飲んだくれかゴロツキで確保対象外。
 ゲオルグの装具点検はすでに終了していた。手袋にずれなし。履き古した長靴の具合は良好。拘束用の
結束バンドは両腕に巻いてある。タクティカルベストに収めた閃光弾2個、予備の弾倉2本に不足なし。

「あと60秒」

 ゲオルグの言葉に運転手は、了解、とはっきり返事をし、車の速度を僅かに早める。変化した
速度に揺られながらゲオルグは車内を見渡した。
 運転席と助手席を除き全ての座席が取り払われているため車内は広々としている。そこに
共に任務を遂行する5人の部下が各々装具を確認していた。

「アレックス、点検完了しました」

 一番若い部下のアレックスが準備完了を告げた。時計回りに次々と部下が点検終了の旨を告げる。
 順調だ。ゲオルグは思った。監視班からの新しい報告も無い。後は開始を待つだけだ。
 途端、背が冷えた。ジェットコースターがガタゴトと音を立てて上っていくときのような、機械的に強制
される恐怖を予測しまた恐怖する。
「戦闘用意っ」
 沸き起こる怖れを部下への号令で押しつぶした。足元に置いていた短機関銃を持ち上げる。コッキング
レバーを引き弾丸を薬室に送り込む。セレクターレバーを切り替えて安全装置を解除する。訓練で反射
レベルで刷り込まれた動作に感情が霞んだ。
 だが、それもつかの間、緩やかに掛かり始めたブレーキで我に帰る。目標が視察しているバーに到着
したらしい。仄かな望みと共に時計を確認すると時間丁度だった。
 時計を巻いている腕が震えていた。
 ゲオルグは笑った。俺はどうしようもない臆病者だ、と自分を罵り、下卑し、嘲笑った。嘲笑って身体
の震えをこらえようとした。

「状況開始っ」

 大声を張り上げた。もう戻れない。後は訓練通りに任務をこなすだけだ。
 開け放たれた後部ドアから降りると、銃を構えながらバーへの僅か数メートルを駆ける。閃光弾の
安全ピンを引き抜きバーの中へ放り込む。訓練と何ら違わぬ動作にゲオルグの意思が介在する余地
は無かった。
 バーの制圧はいらぬ思慮を生むまもなく終わった。突如発生した轟音と閃光に怯んだ店員と客を
引き倒し、結束バンドで後ろ手を組ませる。7名全員の拘束を終えると時間を確認した。60秒経過。
 すでに部下は目標人物を取り囲んでいた。部下に命じ、髪を掴んで頭を上げさせると、ベストの
胸ポケットに入れておいた写真と改めて照らし合わせる。写真の男はラテンを思わせる浅黒の肌に
鳶色の目。無理やり向かせた男の顔も浅黒く、不服そうにこちらを睨む目は鳶色だ。

「"偉大な父"がお前に話があるそうだ。光栄に思え」

 男にかけた言葉と共に部下に合図する。部下が男の髪を掴んでいた手を腕に回し引き起こした。
途端、男が吼えた。

「ふざけんじゃねぇっ!」

 男は大きく身体を揺さぶり部下の手を振りほどくと、出口へ向かって駆け出した。止める。そう考えたときには
すでに身体を男の前に割り込ませていた。
 全体重が掛かけた男の突進。無理やりねじ込んだ体制では受け止めきれない。だが、男を脇へ押し出す
ことは出来た。結果男の身体は大きく傾げられる。足だけではどうしようもならない傾斜に本来バランスを
とるべき手は後ろ手を組まされ機能していなかった。果たして男は脇のテーブルに身体をぶつけながら床へ
崩れた。
 男の健気な試みは失敗に終わった。だが、それでも尚、糞ったれが、畜生が、と男は悪態を叫ぶ。その
気丈さ、されど手を縛られ身動きままならぬ哀れな姿に嗜虐心がくすぐられた。
 銃を構え、引き金を引いた。撃針が叩かれ雷管が発火する。発射薬の燃焼ガスにより亜音速で放たれた
弾頭は男のふくらはぎに命中した。着弾の衝撃に形状を大きく歪ませた鉛塊は自身が持つ回転にあわせて
筋線維を絡め取り、引き裂いていく。血飛沫と共に弾丸を吐き出した射出口は射入口より一回り大きかった。
足に穿たれた大穴に男は悲鳴を上げた。

「2人で担げ。車で手当てしろ」

 呻き声を上げる男を2人の部下がそれぞれ肩と足を持って担ぎ上げる。すっかり大人しくなり、車へ運ばれる
男を背景に腕時計を確認した。120秒経過。
 店内に向き直ると、拘束している連れの男に目をやった。
 皺が浮かび始めた初老の男。黒斑眼鏡の奥は人のよさそうな細い目をしている。マフィアというより会計士
のような印象を受けた。

「お前も来るんだ」

 銃を向けると眼鏡の男は何度も首を縦に振り恭順の姿勢を見せた。部下に合図し引き起こすと、哀れなまでに
素直に歩き出す。時間を確認する。150秒経過。

「残りはどうしますか?」

 床に転がっている店長に銃を向けたままアレックスが訪ねた。
 ゲオルグが答える前に店長が哀願する。自分はただの雇われ者だ、と。それを皮切りに他の人間も口々に叫び
始めた。俺はただのバイトだ、俺は酒を飲みに来ただけだ、関係ない、無関係だ。嫌だ。やめてくれ。
 銃を持った男達に襲撃され、組み伏せられた彼らに同情せずにはいられなかった。だが、あらかじめ確保対象外を
どうするかは決まっていた。"偉大な父"からの命令があったのだ。

「撃て」

 自分の声と思えないほどにその音は低い。背筋を走る冷たさが、自分が指揮官であることを忘れさせる。されど、
一度放たれた号令は覆らない。指揮官の命令に部下は意思を持たぬ射撃機械と成り下がる。反射に近い動作
ゆえに躊躇することなく部下達は引き金を引いた。
 慈悲を欠いた銃弾は身動きできない哀れな虜囚達の頭を穿ち、その生を確実に奪っていく。やがて銃声が止み、
硝煙の臭いに、血と、肉と、それらが焦げた香りが混じったころには、つい先ほどまで哀願していた彼らは物言わぬ
骸と成り果てていた。
 全員死んでいるな。床に転がっている全員の頭に風穴が開いていることを確認すると、ゲオルグは手信号と声の
両方で撤収を下令した。
 後部ドアが閉ると同時に車が加速を開始する。加速度に身を任せ後部ドアにもたれかかると、最終的な所要時間を
確認した。
 180秒。何をするにも腰が重い民警が駆けつけてくるには充分な余裕がある。だが、贅沢を言えば2分を切りたかった。
問題点はやはり引き立てるところだろうか。最初から手足を縛った方が早かったか。
 改めて開始から現在までの状況を思い浮かべ、悔いではなく反省として If を並べていく。自分が班長として最下級で
あるが指揮官を任される程の信頼を"偉大な父"から得た原動力の総括の思考。これまで幾度と無く繰り返してきたそれは
部下の能天気な声によって遮られた。

「あんた、俺たち"子供達"に出会って生きてるなんてツいてるよな。バーの連中なんて皆殺しだぜ」

 声の主は一番若く、実戦経験の少ないアレックスだった。揚々とした彼はつま先で男を小突いている。対する男は黒頭巾を
被せられ――車に乗せられたときに被せられたのだろう――猿轡もされているのだろうか、ぐもった呻き声を上げるだけだ。

「そこ、状況はまだ終わっていない。私語は慎め」

 ゲオルグの注意にアレックスは渋々といった様子で足を戻した。
 そうだ、まだ任務は終わっていない。俺たちは"子供達"。"偉大な父"直属の実行部隊だ。父のために、家族のために、
立ちふさがる障害はすべて排除する。その障害たる黒頭巾を被せられた男はまだそこにいる。移送は完了していない。
 ゲオルグは大きく深呼吸をし、改めて身を引き締めた。

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