無限桃花~雪と霊魂舞う大地~
夜のとばりが降り、辺りの気温はさらに下がる。
風が吹いた。それは木々を揺らし、まるで何者かが叫びを上げたような音を立てた。
雪は上から下ではなく、激しい風によって水平に、いや、下から上へと降っていた。地元の人間が地吹雪と呼ぶ、激しい雪と風。
天気予報では暴風雪警報が発令されたとしきりに言っていた。
風が吹いた。それは木々を揺らし、まるで何者かが叫びを上げたような音を立てた。
雪は上から下ではなく、激しい風によって水平に、いや、下から上へと降っていた。地元の人間が地吹雪と呼ぶ、激しい雪と風。
天気予報では暴風雪警報が発令されたとしきりに言っていた。
無限桃花はその風雪の中を進んでた。場所は青森県K市。無限一族のルーツを探るべく、約10年ぶりに自らの故郷を訪れた。
だが、その帰郷を青森の気候は歓迎してはくれなかったようだ。
だが、その帰郷を青森の気候は歓迎してはくれなかったようだ。
足元の雪はもはや膝の高さを超えていた。市街ならともかく、桃花の目指す場所の近くは除雪車が通らない。
降り積もった雪は自らの重さで固く重くなり、それは桃花の体力を容赦なく奪う。
この日の為に用意したロングブーツもダウンコートも、この気候では軽装に過ぎなかった。
「なんで‥‥‥こんなに‥‥‥雪降るかなぁ‥‥?」
降り積もった雪は自らの重さで固く重くなり、それは桃花の体力を容赦なく奪う。
この日の為に用意したロングブーツもダウンコートも、この気候では軽装に過ぎなかった。
「なんで‥‥‥こんなに‥‥‥雪降るかなぁ‥‥?」
桃花はつい愚痴を零すが、自らが発したその声さえ、吹きすさぶ地吹雪に掻き消された。
この道は夏ならば避暑地として観光客で賑わう。蝉が鳴き、川ではイワナやニジマスが釣れる。
少し道を戻れば、幼い頃によく行った釣堀があるはずだ。父と、そして彼方と三人で。
楽しかった日々を思い出し、桃花は胸を締め付けられる思いに駆られた。
東京に居た頃にはこんな感情は無かった。
少し道を戻れば、幼い頃によく行った釣堀があるはずだ。父と、そして彼方と三人で。
楽しかった日々を思い出し、桃花は胸を締め付けられる思いに駆られた。
東京に居た頃にはこんな感情は無かった。
「故郷に来たせいかな‥‥?」懐かしさと、それが二度と戻らないという悲しさに、ただ胸を締め付けられていた。
やがて、桃花の視界が狭まり始める。この雪の中歩き続けた桃花の体力は、既に限界だった。
「あったかいミルクティー飲みたいな‥‥」
力無く呟いた。持っていた缶のミルクティーは既に刺すよな冷たさになっていた。
一緒に買ったコンビニのおにぎりも、もはや凍り始めていた。
一緒に買ったコンビニのおにぎりも、もはや凍り始めていた。
桃花の思考は滞り、もはや歩く事すらままならない。
「父さん‥‥‥‥彼方‥‥‥‥」
そして、桃花は真っ白な雪の上へ落ちていったーーー
「桃花、こっちへおいで」
うん。父さん。
「お姉ちゃん、一緒に遊ぼう!」
いま行くよ彼方。
「いいかい桃花。けっして人を恨んだり、嫉んだりしたらダメだぞ。悪い奴に目をつけられるからね」
わかったよ父さん。
「お姉ちゃん、こっちへ来ちゃダメだよ」
どうして?彼方‥‥
「桃花‥‥。彼方を‥‥彼方を!」
どうしたの父さん?彼方がどうかしたの?
「村正を‥‥蘇らせてはいけない‥‥彼方にそれを持たせてはいけない‥‥!」
何を言ってるの父さん?彼方はどこへ行ったの?
「お姉ちゃん‥‥‥?」
彼方‥‥?どうしたの?どこへ行くの?父さんはどこ?答えてよ‥‥?
みんなどうしたの‥‥私を‥‥私をひとりにしないで‥‥
彼方‥‥どこへ行くの?行かないで。お願い‥‥行かないで‥‥彼方‥‥‥
みんなどうしたの‥‥私を‥‥私をひとりにしないで‥‥
彼方‥‥どこへ行くの?行かないで。お願い‥‥行かないで‥‥彼方‥‥‥
「彼方!!!」
桃花の視界に最初に飛び込んだのは、木の天井だった。身体は暖かい布団に包まれ、着ていた衣服の代わりに大きめのパジャマが着せられていた。
「あら?やっと目ぇ醒ましたかい?まったく、最初は死んでるんじゃねーかと本気で心配したわ。まったく、こんな無茶する子じゃなかったんだけどねぇアンタは。」
桃花は雪の上で失神している所を、この女性に助けられたのだ。
「だはんで電話で今の時期はやめへって、あらほんど喋ったっきゃ!わーも此処まであさぐにスノーモービル出してなんとか来たんだ!それに冬季はここ通行止めだべ!?入る時ケーサツさでも見られたらアンタ‥‥‥‥」
「ごめん英子おばさん」
「ん?なしたば?」
「津軽弁わからない」
「え?‥あ‥ああ‥ごめんなさいね。そうね。小さい頃に青森出てもう十年だもんね。抜けてるよね言葉」
古川英子。桃花の母の妹にあたる人物。
桃花の母は彼方を産んだ直後に他界したため、桃花に母の記憶はほとんど無い。
代わりに、この英子が幼い桃花と彼方の面倒を見てくれた。桃花にとっては、母に代わる人物だった。
そして生粋の津軽衆である英子の津軽弁は、桃花には少しレベルが高かったようだ。青森では一般的なのだが‥‥‥
桃花の母は彼方を産んだ直後に他界したため、桃花に母の記憶はほとんど無い。
代わりに、この英子が幼い桃花と彼方の面倒を見てくれた。桃花にとっては、母に代わる人物だった。
そして生粋の津軽衆である英子の津軽弁は、桃花には少しレベルが高かったようだ。青森では一般的なのだが‥‥‥
「でも‥‥本当に無茶よ。今の時期は誰もあそこへは行かないから。仮に遭難したとしても、これ以上進んだら携帯の電波も通じないし公衆電話もないから救助も呼べない。
そもそも立入禁止なのよ?」
そもそも立入禁止なのよ?」
「解ってる。でも行きたいの。どうしても‥‥」
「まったく‥‥アンタ変わったね。大人しい子だったのにこんな無茶するなんて。ま、アタシも人の事言えないか。ははは。」
桃花が運び込まれた場所は、山あいにある一軒家だった。本来は夏だけ営業する英子の民宿で、そこは桃花が目指す場所への入口に近い。 冬は厚い雪に閉ざされ、近づく事すら困難だが、英子は桃花のためにわざわざここを解放してくれた。
「ホラ、アンタ腹減ってんだろ?寝てる間も譫言いいながら腹は鳴りっぱなしだったんだから」
英子は桃花に食事を運んできた。湯気が立つ暖かい御飯。具だくさんの味噌汁。塩辛い焼き鮭。
そして、大きなホタテの貝殻の上で焦げる味噌の香り。十年ぶりに口にした、卵味噌だった。
そして、大きなホタテの貝殻の上で焦げる味噌の香り。十年ぶりに口にした、卵味噌だった。
「旨いだろー?やっぱ白い御飯にはコレよね。東京だとなんて言ったっけ?貝焼き味噌だっけ?あんな偽物だれが食うかってね」
英子は嬉しそうだった。桃花にとっては母親代わりの存在だったが、英子にとってもまた、桃花は娘のような存在だった。
十年ぶりの再開は、桃花にとっては久しい暖かい時間だった。
十年ぶりの再開は、桃花にとっては久しい暖かい時間だった。
「おばさん‥‥‥」
「ん?なに?」
「ありがとう‥‥」
「なに言ってんのよ」
朝が来た
外の雪は既に止み、太陽が白い地面を照り付ける。積もった雪は日の光を激しく反射し、まるで大地が光っているような感覚さえ与える。
「晴れたわねー。こんな日は逆に冷えるのよね。あー嫌だ」
外の雪は既に止み、太陽が白い地面を照り付ける。積もった雪は日の光を激しく反射し、まるで大地が光っているような感覚さえ与える。
「晴れたわねー。こんな日は逆に冷えるのよね。あー嫌だ」
「でも‥‥行くなら今しかない」
「そうね‥‥‥覚悟決めるか。祠へ続く道の入口まではスノーモービルで送ってってあげる。私は無限一族じゃないからそっから先は行けないしね」
「‥‥ありがとう」
「アンタ礼言ってばかりだね」
桃花が目指す場所、それは地元の人間すら知らない、無限一族と、それに近しい者しかしらない祠。
そこには一族に伝わる古文書が眠っているはずだ。桃花の生家にもその写しがあったが、あの日、すべて失われてしまった。
そこには一族に伝わる古文書が眠っているはずだ。桃花の生家にもその写しがあったが、あの日、すべて失われてしまった。
「ぬおっ‥‥がっ‥さんびーさんびーコレ!マジハンパねぇ!桃花、いっとまがえの中さ入ってホッカイロとマフラーと‥‥‥」
「ごめんおばさん」
「ん?なんだば?」
「津軽弁わからない」
「えっ?ああ‥‥ゴメン。さ、行きましょ」
桃花と英子は、スノーモービルにまたがり白銀の上を走りだした。