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無限桃花の愉快な冒険9

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eroticman

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全ての創作物には設定がある。これは私でも、そしてあなたでも同じ。その物語の道筋、キャラクターの区別をするための
設定だ。最初に私達に付加された設定は『無限桃花』という名前。これで一つのキャラクターが生まれた。
そこに三つの設定を付け加えた。すなわち『黒い刀を持ち』『ポニーテール』の『18歳くらいの女の子』。
これは私、あなたも含め、全無限桃花に共通する設定なの。本来ならばそこに物語を付け加えることにより、そのキャラクターは
方向性、個性、そういったものが決定する。だけどしなかった。ハルトシュラーは物語を与えなかった。
いや、元から与える気なんてなかった。ハルトシュラーはそれがしたかったから。そう、同じ設定を持つキャラクターを
人がどういう風に設定を付け加えるか見たかったわけ。結果として私もあなたも違う設定が付け加えられた。
私達は私達に設定を付け加える創作者の数だけ存在するわ。それこそ無限にね。お互いを感知する能力というのも多分
全員に備わってると思う。でも全員が全員、その能力を使うわけじゃない。中には無限桃花は自分ひとりだと思って生きる
子もいるだろうし、ドッペルゲンガーだと思い込んで殺してしまったり、逆にショック死する子もいるだろうね。
私達みたいに自分が何人もいることを受け入れることが出来る子のほうが少ないかもしれない。
だってさ、普通は考えたくないでしょ? 自らにそっくりの、鏡を眼の前に置いたかのように同じ個体がいるなんて。
そこから考えれば私達はある程度、心を弄られているのかもね。と、まぁこんなこと考えても仕方ないわ。
現状、無限桃花がどのくらいいるのかわかっていない。大抵の個体が刀を使って物の怪を切ってたりするみたいだけどね。
それ以外にもあなたのように体術を使う個体。私のように戦闘能力がさっぱりない個体もいる。そういった個体は大抵
何かしらの特殊能力が付与されていることが多いわね。あなたの他世界を歩く能力も結構いるみたいよ。
逆に設定が曖昧な場合。まぁ私達の場合はそれぞれが独立個体だから設定の数だけ無限桃花がいるというので済むけど
元の世界があるにも関わらず、それに関する創作をする者同士の共通認識が少ないものがあるらしいの。
そう言った世界はとてもぶれるらしいね。常に違う設定になり続けるらしいわ。行きたくないねー、そういうところ。
この館は設定がしっかりしてるみたいだからそういう心配はいらないわ。昨日あった部屋は今日もあるし明日もある。
外がちょっとあれかもしれないけどまぁ出なきゃいいわけだしね。たまーにいるのよね。外から辺なのが来たりさ……。


太陽は地平の彼方に沈み、今は月と満面の星が空を飾っている。桃花はとうの昔に冷めた紅茶を少し口に含む。
ここには今、彼女しかいない。先ほどまでいた桃花は喋るだけ喋るとすたこらと帰ってしまったのだ。
情報は与えたから後は自分で考えろ。あの桃花は例え自分達が元は同じだったとしても、付与された設定と同じように
別々の考えを持ってほしくてそうしたのかもしれない。決して、バームクーヘンも紅茶もなくなったから帰ったわけではない。
しかもその割りには情報を与えすぎていて、最早同じような考えにしか辿り着かない気がする。要はあの桃花はバカなのだ。
しかしここにいる桃花は真面目なものだから色々と考えていたりする。自分の中でどういう形で結論付けるのか。
遠い眼からみれば桃花もあの桃花も全て同じ『無限桃花』で片付けられてしまう。だけど一人一人ちゃんと独立しているのだ。
そしてその独立した桃花はまた違うものと組み合わさり、あるものを形成する。
それこそがハルトシュラーの目的である『物語』である。
ちょうどこれはあのテラスから見た景色と逆の辿り方をした。全から始まるか一から始まるか。辿り着く先は同じものだ。



しかしここで桃花もあの桃花も知らないとある事実がある。それはなにか。
ハルトシュラーが別の創作物に手を出しているということである。
それはつまるところどういう意味かというともうハルトシュラーは『無限桃花』にさして興味がないということだ。
「ああ、そういえばそんなの作ったわね」と言った程度の認識しか彼女の中にない。
これだけ頑張ってハルトシュラーの元へ辿り着いた、いや正確には辿り着いていないが桃花が報われないものである。
得てして創作物というのは常に創作者の気分気ままに振り回されて生きるものなのだ。
さて、このまとまりのない話には後日談がある。桃花がこの館についた当日の夜。ハルトシュラーが帰宅したのだ。
帰宅の一報を受けた桃花は急いで玄関に向かった。
そしてそこで今度こそ本物のハルトシュラーと会ったのだ。
言葉も出なかった。それほどまでに威厳があったのだ。自らより小さいにも関わらず桃花は畏怖していた。
もしかしたら創作者に対する一種の感情なのかもしれない。
「ハルトシュラー……さん。おかえりなさい。また新しい無限桃花が着いたけどここに住ませちゃっていいのかな」
あのおしゃべりな桃花が桃花を指差しながら言う。これは決して行儀のいいことではないのでまねしてはいけない。
「勝手にすればいい。元から大量の人間が住めるようにここは設計してある」
「ははー、了解いたしました」
仰々しく返事をする。ハルトシュラーの言うとおりこの館は彼女がなんとなく設計して立てた館なのだ。
部屋数はホテルが営業できるほど余っている。一体どれだけの人間を済ませる気だったのか。
ハルトシュラーが桃花たちをじっと見る。
「……私も何人か増えてみるか」
「えっ」
と返事したのは弟子くん。ハルトシュラーはそれを気にすることなく弟子くんに命令する。
「キッチンを使うぞ。料理当番の桃花を呼んで来い」
「は、はい!」
弟子くんが慌てて階段を登っていく。ハルトシュラーはキッチンに向かいながらにやりと笑う。
「さぁ、創作の時間だ」


この物語はここで一段落を迎える。この後、結婚式でもやるのかというくらいのタワーケーキが出てくるが
それはまた別の物語である。果たして彼女の言葉を実現するのか。それもまた別の物語である。
どっとはらい。



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