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無限桃花の愉快な冒険8

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eroticman

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「とりあえず、弟子くん。紅茶とバームクーヘン持って来て」
「はい、わかりました」
男は快諾すると小走りで部屋から出て行った。これで今、ここに桃花とハルトシュラーしかいない。
だが桃花は奇妙な違和感に捕らわれていた。今度は何かが変化するのではなく、ハルトシュラー自体に違和感を感じている。
「長旅ご苦労。外の世界はどうだったかな」
「特に……何もないな」
「そうかそうか」
ハルトシュラーが自分の紅茶をぐぃっと飲み干す。この状況を楽しんでいるように見える。
しかし桃花にとってそんなことはどうでもよかった。ハルトシュラーに対する違和感。
かつて会った事があったとしても桃花にはその記憶がない。だからハルトシュラーとは初対面と考えてもおかしくない。
なのになぜなのか?
「旅先で他の無限桃花には会わなかったのか?」
「噂は聞いたが直接会ってはいない」
あの蟲師が話していた私と学園都市で会った少年から感じた私の魂の匂い。
そこで違和感に気付いた。桃花は直感的に感じる自分と同じ人間の残留思念を『魂の匂い』と表現している。
最もそれを感じたのは前述した学園都市だけであった。全ての無限桃花は特にテレパシー能力で通信し合えるわけではない。
ただ潜在的に『自分と同一の魂』を感知出来るだけの話だ。実際桃花はここに来てから複数の桃花を感知している、
そして眼の前にいるハルトシュラー。自分でないはずのそれからは自分と同一の魂を感じる。まるで鏡を眼の前に置いたかのように。
「持って来ましたよ」
男が桃花の分の紅茶と二人分のバームクーヘンをテーブルに置く。そして後ろに下がって待機する。
ハルトシュラーは子どものように顔をほころばせた。
「私は甘いものが好きでね」
桃花は確信する。この眼の前にいるのはハルトシュラーではない。確かに桃花は会ったことはない。だがこの人間は違う。
仮にも魔王と呼ばれる存在。そんな称号を持っているにも関わらず威厳など微塵も感じない。これでは間王だ。
決定的なのはバームクーヘンを剥し始めたときだ。後ろで待機してた男まで「あっ」とか言ってしまう始末。
「お前はハルトシュラーじゃないな」
バームクーヘンを剥す動作がピタリと止まる。視線が手元から桃花のほうへと向かう。
「ならば私は誰だと言うのかな」
「無限桃花」
それがニコリと笑う。
「正解だよ。私」
上から徐々に変わっていく。髪の色、骨格、体型。数秒後にはそこには間違いなく桃花がいた。
元ハルトシュラー桃花が自分の分のバームクーヘンを食べる。すごく幸せそうに。
「気付くの遅いねー。桃花なら全員自分くらい感知出来るものかと思ったのに」
「桃花である確信がなかったんだ。もしも立ち振る舞いまで全てが魔王らしかったら自分のオリジナルがハルトシュラー
 ではないかと勘違いするところだった」
「恐ろしいこと言うねぇ。私は」
快活に笑う桃花。確かに同じ桃花であれど目の前にいるそれと桃花は別の桃花であった。
桃花が自分のバームクーヘンを切って口に運ぶ。
「まぁなんとなくわかるだろうけどこの館には既に桃花が何人かいてね。共同生活しているのさ」
「何人も自分がいるなんて混乱しそうだな」
「案外そうでもないよ。ほら、私達似てるようで結構違うじゃん。あ、そこの弟子くんは見分けられないみたいだけどね」
「見分けられるはずないじゃないですか……。基本的に同じ人間なんですから」
弟子がため息をつく。なんだか自分がバカにされたような気分になる。
「それじゃあ先に戻りますよ。もう役目ないですし」
「うん、お疲れ様。ハルトシュラーに会ったらよろしくね」
弟子くんは哀愁漂う背をこちらに向けて、部屋から出て行った。多分、いや、かなり苦労しているのだろう。
同じ顔の人間に色々言われ、師匠からも色々言われ、どのような世界でも中間は一番疲れるものなのかもしれない。
「この館にハルトシュラーはいるのか?」
「どうだろうなぁ。外出しているかもしれないし帰ってきてるかもしれないし。あの人だけはみんなとは違う時間軸で過ごしてるからなぁ」
「そうか……」
「まぁハルトシュラーがいないわけだし私が代わりに説明してあげようかな」
「何の説明だ?」
「そりゃ、決まってるでしょ」
桃花が紅茶をゆっくりと飲む。飲み干すとカップを皿に戻し、にやりとわらった。
「無限桃花の話だよ」



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