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SSPvs寄生

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SSPvs寄生


 影糾寄生は、自らの存在理由について考える。
 当初は人間たちの秩序を守るために生まれた存在だったはずだ。少なくとも建前は。
いつからだろうか、やがて人間どもに煙たがられるようになり、今では寄生種全体を
狩ろうとする武装集団まで現れる始末だ。まったく、と少女の姿を取った影糾寄生は嘆息する。
身勝手な連中である。自由だ権利だなどと騒ぎ立てていれば、いずれ道理も引っ込められると
信じているのだろう。
「行くわよ、猿参」
 傍らに付き従えた大猿に囁きかけながら、影糾は目の前の高層ホテルのロビーに足を進める
のだった。

 南向きの壁が一面ガラス張りとなったベッドルーム。
 その中にいた隆々たる筋肉を纏った野性的な顔立ちの白人男性は、シャツとマスクだけを
着用していた。
「ふふ~ん、ふ~ん」
 スーパーストロングパンツマシーン――通称SSPは、その日も客室にて自らの性器の
撮影に励んでいた。プロレス興行でやってきたこの東洋の島国では、外人のモノは一部の
連中に「バットのようだ」と崇めてもらえるのだ。最初は遊び半分での投稿だったが、
最近では仕事終わりの息抜きとして定着しつつある。目の前のテーブルの上に乗った
ノートパソコンも、既に起動状態だ。
 ドアの向こうで、玄関の開閉された音が聞こえた気がしたが、すぐに気のせいだろうと
結論づける。オートロックのスイートで、しかも廊下には監視カメラの目が光っている。
このところプライベートを犠牲にするような撮影が多いのが悩みの種だったので、
セキュリティ面を重視して宿泊先を決めてもらったのだ。
 デジタルカメラに平常時の一物を撮影する。あとは画像をノートパソコンに取り込み、
某巨大掲示板のそれらしい場所に張り付けるだけだ。SSPは、パソコンの向こうに座る
不特定多数の閲覧者のリアクションを夢想する。まず彼らは、この白蛇のような物体に目
を見張るだろう。そして次に送りつけるのは、エロ動画で牙を剥き戦闘態勢となった息子
だ。恐るべき力を内包したその姿は、祖国発祥で自分も一時期どっぷりハマったRPG、
『ウィザードリィ』に登場する最強の刀、ムラマサのように神々しく――
 ドアノブが回った。
 あり得ない、とSSPは呻き声を上げていた。まさかマネージャーの野郎が、どこかの
バラエティ番組に鍵を貸与したのか? あいつは過去にも一度、コールガールに扮した
テレビ局の人間にSSPの練習メニューを漏らすという大失態を演じていた。
「やばい」

 デジタルカメラ片手に、下半身真っ裸という出で立ちである。顔が映るのを恐れて、
仕事でも世話になっているトレードマークの黒マスクを被っていたが、気休めにも
ならなかった。こんな場面を目撃されれば本国のゴシップ紙は自分の記事で埋め尽くされて
しまうだろう。変態野郎、異常性欲者、犯罪者予備軍などの文字と共に――
 しかし開かれたドアから入ってきたのは、人ではなかった。
 金に近い茶色の体毛に覆われた、巨大な獣である。ゴリラに近いが、目には凶暴な赤い
光を宿している。まるでパニック映画のモンスターだ。SSPは冷静になる。嫌らしい
カメラクルーはまだ部屋に入ってきていない。急いでズボンを穿きさえすれば、
どうとでも取り繕えるはずだ。
 調教師役だろうか、簡素な黒いドレスと革のブーツを穿いた東洋系の少女が、ドアの
出入り口付近で成り行きを見守っていた。獣と同じく、ルビーのような深紅の瞳を
持っていた。
 SSPは少女に話しかける。
「ドッキリの撮影かい? 悪いが今俺は――」
 忙しい、と言う声は獣の絶叫に近い咆哮にかき消される。そして丸太のような腕が
高々と上がり、堅く握られた拳がSSPの顔面へと打ち込まれる!
「ハッ!」
 しかしSSPの反応は素早かった。不敵に笑うと同時、横に身体を投げ出し、怪物の
攻撃を鮮やかに避ける。リングの上で攻撃から逃げるのはマナー違反だが、プライベートを
侵害する無粋者に容赦はしない。
 獣の腕が、テーブルの上のノートパソコンを木端微塵に粉砕していた。愛用の品からコード
やチップが飛び散るの見て、SSPの胸に本格的な怒りの炎が宿る。
「……弁償はしてもらうぜ」
 シャツの下から力瘤を出現させ、力比べの体勢に入る。怪物にも意図が通じたのか、
指を開けて鈍重な動きで接近してくる。
 そしてお互いの手をホールドするのと同時に、SSP握力を爆発させる!
「グォォォオォ!!」
 数秒の均衡の末、情けない声を上げたのは怪物の方だった。しかしマスクの下のSSPの目にも、
余裕の色はない。
「ヘイ、どこの誰だか知らないが、うちのジムに来ないか? ここまで俺を本気にさせた
野郎は初めてだ。ルールさえ覚えれば、すぐにトップに――」
 と、背筋に冷たい物が走る。
「――な!?」
 身体が地面から浮いている。こいつの腕力なら人間一人くらい軽々持ち上げられるだろうが――
「力比べはもう終わりで、ここから先は本気のバトルかい」
 しかし怪物が見つめているのはSSPではなく、窓の外だった。
 広がっているのは大都市、東京の夜景――

「てめえまさか!」
 これはバラエティなどではない――
 SSPがそれを確信したのは、鋼のような自分の身体が硝子を突き破り、夜空に
放り出されたまさにその時であった。

 男は英語で何かを口走りながら夜闇に消えていった。
「終わったわね」
 影糾寄生はいつの間にか冷や汗をかいていた。人間とは比較にならない筋力を
有している猿参が、明らかに押されていたためだ。あの露出狂は、どのような
鍛錬を積んできたのだろうか。
 とはいえ――
 十四階から地面へ落下して、無事な人間もいまい。
 排気ガスの匂いを含んだ夜風を受けながら、影糾寄生は窓辺に立つ。
 と、その時。
 uooooooooo――
 風に混じって届いてきたのは、外人の野太い声。
 死に怯える人間が、あのような雄叫びは上げない。数多くの違反者を罰してきた
影糾には、それが判る。
 続いてやってきたのは、巨大な水音と、微かな震動。
「……まさか」
 影糾は首を突き出し、遥か遠くの地面を見た。
 眼下にあったのはライトアップされた夜のプール。そして巨大な波紋の中心に、
重大違反者が二本の足でしっかりと立っていた。
「□○×△☆○!」
 あまり役に立たない翻訳機能を今回は付けてこなかったため、外人の発する言葉は
まるで理解できなかった。しかしこちらに怒りの目を向けるあの男が無事だという
事実は揺らがない。
「ありえない……」
 ロビーからスーツ姿の男と、数人のホテルマンが飛び出してくるのが見えた。
衆目の目に止まるのだけは、何としても避けなければならなかった。潮時である。
 ――もしも次にあの男が違反行為を行えば、今度は自分が相手をしなければなるまい。
「今日はもう帰りましょう、猿参」
 その呟きと共に、猿参と影糾の姿は闇に溶けた。

「何をやってるんですか、SSPさん!」
 役に立たないマネージャーが、やけに素早くホテル中央玄関から飛び出してきた。
そういえば今夜は、ロビーで日本のプロレス雑誌編集者と打ち合わせがあるとか言っていた。


「一体どこから飛び込んだんですか!? あとさっきの罵声は一体何ですか!? 
って、ここはヌーディストビーチじゃないんですよ! そんなモノを揺らしながら
外に出るなんて――」
「うるせえ、さっさとポリスを呼ばねえか! どうなってんだこのホテルの警備は!
ゴリラ使いの女が、突然俺の部屋に入って襲って来やがったぞ!」
「そんな無茶苦茶な! またあのVIP局の悪質ドッキリ番組じゃ――」
「タレントを転落死させる企画なんてあるか、馬鹿野郎!」
 水を掻き分けながら、SSPはプールサイドに上がる。
「今すぐ俺の部屋に人を差し向けろ。それではっきりするはずだ。出入り口の封鎖も頼む。
マネージャー、お前は大至急アキハバラに行って、ノートパソコンを調達してきてくれ。
ついでに日本製の3Dエロゲー、ロリ属性だ」
「日本のアダルトなんてどれもロリ属性みたいなもんでしょうが……」
「黙りな。素人には判らんだろうがピンキリあんだよ。その前に部屋替えの手続きも
やっておけ。ダブルベッドのあるタイプだ……あの嬢ちゃん、このままじゃすまさねえ。
今夜は俺のムラマサをぶち込んで、ヒイヒイ言わせてやるぜ!」
「試合前の罵倒合戦のノリでそんなこと言うのは止めてくださいよ。ホテルマンだって
いるんですよ……」
「ふん、どうせ判りゃしねえよ。あの女、大猿の躾が済んだら徹夜で調教してやる!」
 数日後室内の修繕費を払わされることになるとも知らずに、意気揚々とホテル内部に
戻るSSPなのだった。


おわり





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