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HANA子

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eroticman

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HANA子

作者:◆c6PZzYalbM

「お腹空いたなァ」
それが私──無限桃花の最初の言葉であり、
「とっても寒い・・・・・・」
次の言葉がこれ。
「・・・…疲れちゃった」
ため息と共に吐き出された言葉が続く最後の一言だった・・・・・・と思う。自分ではなんとなくにしかわかんない。
なんなんだろう。
ぐるぐるぐるぐるとそれだけが頭の中を駆け巡る。
なんなんだろうなァ。
不思議と不安は感じなかった。頭がぼんやりしてるけど、不快じゃない。
ここは、わからない。
でも、
ここは、キライじゃない。
そう?
そうよ。
そうだね。
私は再び目を瞑る。
そうすると身体に溜まった疲れが周りに溶け出していくかの様な開放感?に包まれた。
きもちいい・・・・・・。
思えば毎日毎日が“寄生”との命の遣り取り。
うーんと“のび”をする暇さえない。
そう考えて私はふっと頭を振った。
そういうわけでもない。
暇がないっていうのはちょっと正確さにかける言い方だ・・・・・・と思いかけて少し笑う。
『ツッコムところってそこ?』
ククク・・・・・・って感じの私の笑い声が空間に吸い込まれて、やがて消えていった。
別に首をゴキゴキ回す暇がないわけじゃない。手をぐるぐる回して肩をゴッキンゴッキン鳴らす暇がないこともない。
ただ、そういうことをしてちょっとの開放感を味わう“余裕”を思いつくことがないってだけのことなのだ。
そう?
そうよ。
そうだね。
いつもいっつもあくせく働いて、そんななんでもないことをする余裕さえ忘れちゃってる自分が哀れに思えてくる。
そうまでして何を守るの?
それって本当に自分がしたいこと?
そんなことしてて何になるの?
質問が胸の中を駆け巡り始めた。
そう、これは“疑問”ではなくて“質問”だった。
『まどろっこしいことをしてくれる』
思い浮かんだのは“答え”ではなくて、憤りだった。

そろそろ終わりにしましょうか?

口にする必要はないようだ。
心に思い描くだけで、ソレは実現した。
“不安”も“不快”もないその空間はソレだけで溶けるように消え去っていった。
「おや、まぁ」
女の声。
「茶番は終わりにいたしましょう」
私の声。
「それにしちゃ、随分と安らいでいたじゃん?」
女の声は随分と退屈そうな音色を奏でていた。というよりも、これは面倒臭そうなだけかもしれない。
「あの『なぁんにもしないでダラ~っとしてるだけでいい』って感覚、キライじゃなさそうだったけど」
「キライじゃないですよ」
私、即答する。
「ただ、キライじゃないだけです。スキなわけではありません」
「あ、そう」
返ってきたのはやる気の感じられないアンニュイな声。その彼女──裏ハルトシュラーは神殿の欄干にダルそうに引っかかっている。
比喩じゃない。本当に“引っかかっている”としか形容しようがない姿勢で、彼女は私を見下ろしているのだ。

「普通に座るなり立つなりしたらどうですか?」
「えー、いーよー。メンドくさいしー」
「あの人修羅『S・ハルトシュラー』と背中合わせの同位体とさえ言われる存在の仰ることとは思えませんね」
「人は人~、あたしはあたし~」
裏ハルトシュラー──ウラトは動物のナマケモノのように欄干に引っかかったままブラブラとしているのだ。
その様子はなんとなくバカにされているようでもあり、実は何か深い策があるのではないか? と警戒感も抱かせる。
人修羅と同等と噂される魔人ならではってことなのだろうか? どちらにしろ迂闊に動けないのは確かだ。
さて、どうしよう? このまま黙りこくったまま時間を無駄に過ごすのは趣味じゃない。
「ねぇ」
口火を切ったのはウラトの方だった。
「そうゆう生き方、メンドくさくない?」
「メンドくさくない? とは?」
腰の愛刀に手を延ばす、けど鯉口を切るまでには至らない。
さすが魔人と言うべきか。泰然としていながら、彼女の“気”は私の動きを微塵も許さないでいる。
「桃花ちゃんは出来る子らしいじゃん? だったら今日がんばらなくても明日から本気出せばいいじゃん」
知ってる。
『明日から本気出せばいい』と誘いをかけるというのが彼女の常套句だということは知っている。
ダメ。揺れるな、私の心。
「ちょっとくらい揺れちゃってね? 人間だもの」
「確かに」
うん、それは認めよう。
「ですが」
だけど、
「私は“昨日”を振り返りません。そこに私はいないから」
「だから明日よ。明日から本気出せばいいって──」
「いいえ、私の心はまだ見たことのない“明日”にはいません」
じゃあ、と彼女は言わなかった。
「私は“今”しか知らない。“今”を全力で走り抜けることしかできません!」
チンと音が鳴った。
愛刀の黒い刀身がシャンと私と彼女の隙間を薙いだ。
「無限桃花、参ります」
手元で返して切っ先を降ろす。
そうして私は青眼の構えから振り上げ、八双をとる。
勝てないまでも──負けはしない。その気迫を叩き込むつもりだった。
ウラトのぷらぷら・・・・・・とでも言うべき動きが止まったのはその時だ。
「メンドくさい・・・・・・」
「は?」
「メンドくさーい、メンドくさい。息をするのもメンドくさーい」
呪文のようにただ「メンドくさい」と言い続けるうち、彼女の姿が霞んでいく。
あれだ、不思議の国のアリスに出てくるチェシャ猫を思わせる奇怪な現象! 彼女の姿が次第に薄くなってきている!
「なんなの、これ?」
「だってメンドくさいんだもん」
その一言が合図だったようだ。それで終わり。彼女の姿は完全に消えた。
確認するまでもない。一帯に彼女の気配は微かにも残っていない。
その瞬間、辺りから虫の声、風の音、鳥や獣の鳴き声がドっと押し寄せてきた。
そうか、まさについさっきまで──自分は彼女の作り出した結界の中にいたのだと私はようやく理解した。
彼女が『寄生』に与したとは考えられない。
「そういうの、メンドくさいって言いそうだものね」
思わず軽口がついて出る。
でも、
「何を考えているのかさっぱりわからないわ」
それはある意味恐怖と同じ類の感情だった。
何が欲しい、何がしたい、何を──それが分からない相手と対することなどそうそう楽なことではないのだから。
彼女が私に何を見せようとしたのか・・・・・・それは分からない。
敵なのかさえも分からない。
でも、と思う。
それでも私は走り抜けることしか出来ない。
昨日でも明日でもない、今という時を駆け抜けること以外出来ない。
それだけは迷うことなく知っている、分かっている、私の中の確かな真実なのだから。


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