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無限桃花~Under the BLOODSKY~

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eroticman

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無限桃花~Under the BLOODSKY~


 ーーー轟音が響いた。雪煙が舞い上がり、巨大な頭部が落下した。それは地面に積もった雪へ自らの重みで食い込む。
 残された七つの頭はそれを見つめ、同時に怒りと苦痛の叫びを上げる。
 そして、己の首の一つを斬り落とした桃花に猛然と襲い掛かる。
 桃花は避けるどころか自ら飛び込み、村正の切っ先を大蛇の上の婆盆へ突き立てるーーー

 一瞬の出来事だった。婆盆と大蛇が現れ、宣戦の口上を垂れた時、既に桃花の刃は大蛇の首の一つに食いついていた。
 無粋な一撃だろうが、これが婆盆の意志に対する桃花の解答だった。
 何者にもジャマはさせない。どれほどの存在が立ち塞がっても、捩伏せて進むのみ。

「なるほど、お主の覚悟は見て取れた」

 婆盆は桃花の刃を受け止め、そう言った。

 大蛇は激しく身もだえしながら桃花へ食らい付かんと頭を振り回す。
 口からは溶けた金属がメタルジェットとなり吐き出される。RF4を撃墜した炎の壁は、大蛇が放った、超音速で飛ぶ熱せられた金属の壁だったのだ。

「桃花よ、妖の始まりを知っているか?」
 婆盆は大蛇の上で語り始める。
 桃花はメタルジェットから身をかわし、稲妻を大蛇に放つ。
「‥‥妖とは人の思いが具現化された物だ。あらゆる思いが形を創り、魂が宿った時、そこに妖が生まれる」
 桃花の放った稲妻は大蛇の首の一つをさらに焼く。婆盆はなおも語る。
「練刀は一降りの刀が人々に恐れられ、やがては意志を持った。悪世巣は自然信仰の中で生まれ、稲荷信仰と共に神へと成った」
 大蛇は苦痛の叫びを上げる。残る紅い目をした首を束ね、一斉にメタルジェットを放つ。
「猿参も同様、自然信仰から生まれた。山の猿による農作物の被害を恐れた人々が生贄を捧げ、やがては人を喰らう鬼となる。
私も同じだ。山岳信仰の果てに、そこの環境を特別な物と考えた人々の思いが私を生んだ」

 大蛇が放ったメタルジェットは溶けた金属の壁となり、地面を焼きながら桃花に迫る。RF4を撃墜した攻撃だ。
 まだ婆盆は語るのをやめない。
「この大蛇はかつて滅ぼされた産鉄民族の怒りが具現化した物だ。無数の人間の思いが一つとなり、そして神話に語られるほどの最大の魔物となったのだ」
 熱を帯びた金属の壁は桃花を包む。だが、桃花はそれを斬り裂き、大蛇と婆盆に向かって突進する。
 戦闘服である袴は既に綻び始めていた。傷付いたのではない。変わりつつあるのだ。
「‥‥人間とは恐ろしい。その力は自らを超える物すら易々と生み出す。そして自分自身をも神に近しい物へと変えられる。その神すらも人々が生み出したのだ」
 桃花は大蛇の首の間に潜り込む。そしてその首を一本、また一本と、一太刀で斬り落とす。 頭の一つが突進する。桃花はそれを跳んで回避し、落下と同時に村正を突き立てた。刹那、頭上から紅い光が吹き付けられる。
 別の頭が首一つ犠牲にし、桃花ごと焼き払おうとメタルジェットを浴びせ掛けたのだ。
 それを見ていた婆盆はさらに言う。桃花の生存を確信して。
「かつては天に座する輝かしい方だった。神となる前も素晴らしい方だった。あの裏切りさえなければ、今も天神として崇められたろう」

 自分の頭の一つを焼き払った大蛇はそこを見つめる。その頭は溶けた鉄にまみれ炎を上げている。いかに桃花と言えど、普通ならば死んでいてもおかしくはない。
 だが、燃え上がる鉄の海の中から、黒い稲妻が放たれ頭の一つをさらに打ち砕いた。
「‥‥どれほどの悲しみだっただろうか。陥れられ、死してなお裏切られた。その思いは深い深い怨みとなり、天神は闇へと堕ちたのだ。
天神は、自らの思いで魔道に巣くう邪悪と変化したのだ」
 鉄の海から桃花が飛び出す。ダメージは無い。もはや日本最大の魔物すら、桃花には及ばない。


「桃花よ、お前も同じだ。彼方への思い、覚悟。それがお前を変えてゆく。千年前の時も、そして今も。妖には無い力‥‥。思いの力がお前を強くする」
 残る一本の大蛇の首と桃花は睨み合う。ほぼ勝敗は決していた。
 もう大蛇と言えど桃花に打ち勝つ力は残されていない。次々と落とされた自らの首は不様に地面に転がっている。
 桃花は村正を構える。大蛇はその口を大きく開け、最後の一撃を繰り出すべく桃花へ突っ込む。
 一刀。黒い刃は残像を残し振られる。
 大蛇の頭は縦に割れ、桃花の両脇を通過していく。
 伝説の魔物、八岐大蛇は敗れ去った。
 残るは、婆盆だけ。桃花は大蛇の胴の上に立つ婆盆へと歩みよる。その姿はもう袴姿ではない。
 擦れたボロ着れのような、漆黒の闇の衣に包まれている。無限の天神。それが現れようとしている。
 桃花は婆盆と並び立つ。婆盆は今だ動かない。ただ、どっしりとそこに立つだけだった。

「‥‥‥私を斬らぬのか?桃花よ」
 婆盆は言う。桃花は返す。
「なんで‥‥。なんであなたは彼方の為に戦うの?‥‥‥なんで?」
「気付いておったか」
「ええ。婆盆、あなたは‥‥‥。寄生じゃない」
「いかにも」
「じゃあなんで?彼方は寄生として仲間を集めていた。練刀も悪世巣も‥‥。この怪獣だって、寄生の‥‥‥彼方の力を感じる。でもあなたは違う。あなたはただの妖怪‥‥」
「簡単な事だ。私は千年前からあのお方に仕えて居る。彼方としてこの世に転生したならば、私は彼方に仕えるのみ」
「なぜそこまで‥‥?」
「千年前に誓ったのだ。私は、あのお方に命を捧げると。神となる前も、闇に堕ち邪悪となった時も、この世に復讐を誓った時も。」
「あなたが今まで彼方を育てたんだよね?」
「‥‥‥そうだ」
「ずっと一緒に居たんだよね」
「そうだ」
「ずっと、彼方を護ってた」
「‥‥‥‥‥」
「ずっと、彼方を大事に思ってくれてたんだよね?」

「彼方の思いを感じるの。彼方にとってもあなたはとても大切な存在」
「もう言うな。桃花よ」
「でも‥‥‥」
「言わずとも良い。私は迷っている。彼方はお前を殺したいと思っている。だが、同時に会いたいとも思っている」
「あなたは私を殺すほうを選んだ」
「そうだ。どちらが正しいかは解らない。故に、今は手を出せずにいた」
「今はどう思っているの?」
「‥‥‥どちらにせよ大蛇を破るほどのお主を止められるほどの力は持ち合わせておらぬ。もう行かせるしかない」
「ありがとう婆盆」
「何?」
「ずっと‥‥彼方を護ってくれて」
「‥‥‥。行け、桃花よ。行って‥‥‥殺されてくるがいい。私は見守ろう。たとえ結末がどうであれ‥‥‥」



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