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蒼髪の女神

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蒼髪の女神

作者:◆91wbDksrrE

「わたしはね」
 彼の目の前に立つ少女は、不敵な笑みを浮かべて言った。
「自分で創る事はできない。ただ見てるだけ。見守るだけ。見て、守るだけ」
「そ、そんな馬鹿な話が……ありえるはずが……」
 数多の荒らしを繰り返し、人々の怨嗟の声を嘲笑いながら、ありとあらゆる創作を、その場を、壊し尽くし
かねない勢いで暴れまわっていた男の目には、信じられない光景が……信じられない人物が、映っていた。
「目の前の物を信じなさい。貴方が感じている物、それが全てよ。それは、創作を前にした時も、
 それをただ見守るだけの女神を前にした時も、等しく変わらない。愛しくも変わらない。何も、変わらない」
 そこにいるはずのない、蒼髪の女神。
 創作の中でそれが語られるのみの、現実にはいるはずの無い彼女。
 だがしかし、彼の前に、彼女は確かに実体を持って存在していた。
 彼女の声もまた、スピーカーから聞こえるのではなく、彼女の口から響く。
「創る事を守るという事は、つまり、創らざるは守られずという事。まあね、それでも別に、穏当な感想や、
 妥当性のある批評をつけるならば、それは創作の糧になるのだからOKよ。創作に繋がるのならば、
 それすらもわたしは守りましょう。でもね……」
 男は動けなかった。
 蒼髪の女神が自らに向ける視線、そこに込められた一つの意志に縛られ、動けなかった。
 それは、心臓を居抜き、内臓を砕き、全身の血流を沸騰させ、惨めにあらゆるものを垂れ流して死ぬ、
そんな情景を連想させられる、死を込めた意志――殺気。
「でもね……自己満足の為に、壊すだけの言葉を叩きつける事――これは許せない」
 男は、直感した。
「許す理由が――無い」
 自分は、これから消されるのだ、と。
 男の口をついて出た言葉は、だがしかし、謝罪や懺悔ではなく……悪あがきだった。唯一動く口を、
彼は自己の正当化の為に動かした。そうして彼はいつも難局を乗り切ってきた。いつも彼の前に
立ち塞がった敵は、最終的には彼の前から消えた。いなくなった。
 今回も同じだと、そう彼は思った。
 勘違い、した。
 それが――彼の運命を、決める事になるとも知らず。
「許すとか許さないとか……そんなのお前に決められる筋合いは」
「あるのよ」
 だが、その悪あがきをも、彼女は両断した。
 いや……悪あがきだったからこそ、両断した。
「だって――私は、神様なのよ?」
 "最早、この者に可能性は無し"
 冷たい瞳がきらめくと、辺り一面に蒼が広がった。
 蒼。
 ただひたすらに蒼。
 死を、予感させる色。 
 人は、死ぬ直前どうなるか。
 血の巡りが止まった瞬間どうなるか。
 曰く――蒼くなる。白くなるのはその後だ。何もなくなるのはその後だ。
 蒼の後に白。
 白とは虚無。
 故に、蒼の後に虚無。
 蒼の後に、絶無。
 故に、蒼たる彼女は、無を手繰る能を有す。
 それを知る者は、いない。
 それを知り得た者は、同じく無と化すが故に。
 彼のように。
 蒼に飲み込まれる、彼のように。










「……こういう風にしかできない自分が、わたしは嫌い」
 動かなくなった"それ"を見下ろしながら、彼女は呟く。
「……何も創れない自分が、わたしは嫌い」
 何者をも産み出せ無い自分を想いながら、彼女は呟く。
「……貴方は、創れたのよ? わたしとは違う。貴方は……わたしとは違ったはず」
 問いかけに、可能性の提示に、既に無と化した"それ"は応えない。
「……そうしてくれれば……わたしは……わたしは……」

 "あなたの事が、好きになれたかもしれないのに"

 最後の言葉は口に出さず、彼女は泣き笑いのような表情を浮かべ、その場から消え去った。
 一つの可能性を、既に零だった可能性を無へと消し去った、その場から。






 何者をも創れず、故に何者をも創る者を愛し、守る。
 それが彼女。
 蒼髪の女神。
 H・クリーシェ。
 彼女は見守る。
 創作を。創作する者を。
 それが、常套句の如き、ただの気休めと落胆の繰り返しであろうとも。
 それでも彼女は――




                                     -fin-


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