Top > 【シェア】みんなで世界を創るスレ【クロス】 > 閉鎖都市・「ゴミ箱の中の子供達」 > 第5話
ゴミ箱の中の子供達 第5話
廃民街サウスストリートの一角にあるクラブ"ロッベナイランド"の特等席で"アンク"幹部スティーブ・ビコは
ご機嫌だった。それもそのはず、開いたばかりのこの店の客足が上々だったからだ。まだ夕方といった按配
のこの時間こそ客はちらほらとしか入っていないが、これから夜が更けるにしたがって次々と人がやってくる
のだ。"ホームランド"の本部の人間から不安されていた廃民街進出の出だしがこうも順調だと酒も進むものだ。
それにだ、と付け加えてビコはハイボールを呷ると、数日前におきたことを思い出した。数日前、"王朝"の
関係者を名乗る人間が店に現れるとオーナーであるビコと話をしたいと言い出した。特等席に通されビコと
目を合わせた男は顔を凄ませて言った。ここは俺達の縄張りだ、お前達はとっとと出て行け、と。あからさまな
脅迫をする男に、ビコは脅迫で返した。男を2階の事務所へ連れ込み、そこで待機している兵隊達に自動小銃を
突きつけさせた。ビコは言った。やなこった、お前が出て行け。
ライフル銃を向けられ真っ青になった男の顔を思い出し、ビコの酒は進む。こちらの威圧の結果が出たらしく
新たな脅迫や嫌がらせは皆無だ。むしろ近くに残っていた"王朝"系列の事務所が逃げ出すように姿を消し、
周辺での仕事が独占できるようになった。
所詮マフィアなんてこの程度だ。俺達革命戦士とは大違いなのだ。ガハハと太鼓腹を突き出したビコは
さらにハイボールを呷る。俺達は"ホームランド"でバラック強制撤去や、アパートの強制立ち退きを迫る
閉鎖都市政庁に火炎瓶で闘争を続けた人民の雄だ。威張り散らすしか脳のないチンピラヤクザとは格
からして異なるのだ。
幾度となく杯を傾けていると、ここでようやく杯が空になった。ビコは脇にはべらせていたホステスに
グラスを渡し、新たなハイボールを要求する。ホステスがグラスにウィスキーを注いでいる横で上機嫌で
待っていると、突如外から爆発音が轟いた。
騒然とする店内でビコは堂々と立ち上がった。いざというときにいい格好を見せてこそ男なのだ。慌てる
ボーイや怯えるホステスに自制を促すと、ビコは外の様子を伺うべく入り口の戸を押し開いた。
夕闇が降りようとしていた外では悲鳴が錯綜していた。道路を挟んで斜め向かいのビルで火の手が
上がっている。あのビルには"アンク"系列の事務所があるはずでは。大丈夫だろうか。
配下の事務所の心配をしていると、火の粉をあげるビルの下に異様な一団が佇んでいることにビコは
気づいた。黒いつなぎに黒いベスト、そして同じく黒いヘルメットと全身黒一色だ。ワンボックスバンの
傍らに佇み、大きな筒状の物体を担いでいる。一団の一人がこちらに向き直ると、筒状の物体を肩で
構えた。なんだ、と言葉を漏らそうとしたところで合点がいった。あれはロケット砲だ。
ご機嫌だった。それもそのはず、開いたばかりのこの店の客足が上々だったからだ。まだ夕方といった按配
のこの時間こそ客はちらほらとしか入っていないが、これから夜が更けるにしたがって次々と人がやってくる
のだ。"ホームランド"の本部の人間から不安されていた廃民街進出の出だしがこうも順調だと酒も進むものだ。
それにだ、と付け加えてビコはハイボールを呷ると、数日前におきたことを思い出した。数日前、"王朝"の
関係者を名乗る人間が店に現れるとオーナーであるビコと話をしたいと言い出した。特等席に通されビコと
目を合わせた男は顔を凄ませて言った。ここは俺達の縄張りだ、お前達はとっとと出て行け、と。あからさまな
脅迫をする男に、ビコは脅迫で返した。男を2階の事務所へ連れ込み、そこで待機している兵隊達に自動小銃を
突きつけさせた。ビコは言った。やなこった、お前が出て行け。
ライフル銃を向けられ真っ青になった男の顔を思い出し、ビコの酒は進む。こちらの威圧の結果が出たらしく
新たな脅迫や嫌がらせは皆無だ。むしろ近くに残っていた"王朝"系列の事務所が逃げ出すように姿を消し、
周辺での仕事が独占できるようになった。
所詮マフィアなんてこの程度だ。俺達革命戦士とは大違いなのだ。ガハハと太鼓腹を突き出したビコは
さらにハイボールを呷る。俺達は"ホームランド"でバラック強制撤去や、アパートの強制立ち退きを迫る
閉鎖都市政庁に火炎瓶で闘争を続けた人民の雄だ。威張り散らすしか脳のないチンピラヤクザとは格
からして異なるのだ。
幾度となく杯を傾けていると、ここでようやく杯が空になった。ビコは脇にはべらせていたホステスに
グラスを渡し、新たなハイボールを要求する。ホステスがグラスにウィスキーを注いでいる横で上機嫌で
待っていると、突如外から爆発音が轟いた。
騒然とする店内でビコは堂々と立ち上がった。いざというときにいい格好を見せてこそ男なのだ。慌てる
ボーイや怯えるホステスに自制を促すと、ビコは外の様子を伺うべく入り口の戸を押し開いた。
夕闇が降りようとしていた外では悲鳴が錯綜していた。道路を挟んで斜め向かいのビルで火の手が
上がっている。あのビルには"アンク"系列の事務所があるはずでは。大丈夫だろうか。
配下の事務所の心配をしていると、火の粉をあげるビルの下に異様な一団が佇んでいることにビコは
気づいた。黒いつなぎに黒いベスト、そして同じく黒いヘルメットと全身黒一色だ。ワンボックスバンの
傍らに佇み、大きな筒状の物体を担いでいる。一団の一人がこちらに向き直ると、筒状の物体を肩で
構えた。なんだ、と言葉を漏らそうとしたところで合点がいった。あれはロケット砲だ。
「伏せろーっ」
張り上げた声と同時にロケット砲が火を噴いた。
巨大なバックブラストと共に発射機から射出されたロケットはすぐさま X字の制御フィンを展開する。発射
からやや間を空けてから尾部に付けられたロケットモータが唸りをあげた。固形燃料の化学エネルギーを
推力に変換したロケット弾は、空を切る甲高い雄たけびを上げながらビコの直上、クラブ"ロッベナイランド"の
看板に命中した。
倒れこむように地に伏したビコの頭に、破片が降りかかる。幸いにも怪我にはならなかったようだ。安堵
しながら自らの頭をかいて立ち上がるビコに黒装束の一団が指を差す。自らを指差され戸惑うビコに一団は
短機関銃の銃口を向けた。
狙われている。
ビコは慌てて踵を返した。背後で銃声が鳴り響き、翻ったスーツの裾を銃弾が掠めていく。転がり込んだ
店内からボーイが驚いた様子で駆け寄ってきた。
巨大なバックブラストと共に発射機から射出されたロケットはすぐさま X字の制御フィンを展開する。発射
からやや間を空けてから尾部に付けられたロケットモータが唸りをあげた。固形燃料の化学エネルギーを
推力に変換したロケット弾は、空を切る甲高い雄たけびを上げながらビコの直上、クラブ"ロッベナイランド"の
看板に命中した。
倒れこむように地に伏したビコの頭に、破片が降りかかる。幸いにも怪我にはならなかったようだ。安堵
しながら自らの頭をかいて立ち上がるビコに黒装束の一団が指を差す。自らを指差され戸惑うビコに一団は
短機関銃の銃口を向けた。
狙われている。
ビコは慌てて踵を返した。背後で銃声が鳴り響き、翻ったスーツの裾を銃弾が掠めていく。転がり込んだ
店内からボーイが驚いた様子で駆け寄ってきた。
「どうしたんですか」
「戦争だ。兵隊をもってこい」
「戦争だ。兵隊をもってこい」
詳しいことは分からないが、攻撃を受けた。ならば反撃しなければ。
ホステス達をバックヤードに避難させると、ビコはボーイと共にテーブルを横倒して即席のバリケードを
作った。その合間に上階の事務所から"アンク"の若い兵達が自動小銃抱えて降りてくる。彼らは幾重もの
銃口を入り口にむけて並べていく。ビコもまた部下に持ってこさせた自動小銃を受け取ると入り口に向けて
構えた。
さあ、いつでもこい。引き金にかけた指に力をこめる。緊張の汗を目に入れないように目を瞬かせながら
ビコは入り口をにらんだ。
張り詰めた沈黙が店内に停滞する。その最中、出し抜けに拳大の物体が入り口から放り込まれた。
ホステス達をバックヤードに避難させると、ビコはボーイと共にテーブルを横倒して即席のバリケードを
作った。その合間に上階の事務所から"アンク"の若い兵達が自動小銃抱えて降りてくる。彼らは幾重もの
銃口を入り口にむけて並べていく。ビコもまた部下に持ってこさせた自動小銃を受け取ると入り口に向けて
構えた。
さあ、いつでもこい。引き金にかけた指に力をこめる。緊張の汗を目に入れないように目を瞬かせながら
ビコは入り口をにらんだ。
張り詰めた沈黙が店内に停滞する。その最中、出し抜けに拳大の物体が入り口から放り込まれた。
「手榴弾だ」
ビコは叫んで、兵と共に床に伏せた。だが、しゅーという噴出音がするばかりで、いつまでたっても予期
した爆発は来ない。一体どうしたのか。気になり顔を上げたビコは、白いもやが辺りを覆っていることに
気づいた。りんの様なつんとする臭いの白煙が店内に立ち込めていく。白い霧の中で兵達の動揺の声が
上がった。
恐らく先ほど投げ込まれたものは発煙弾だったのだろう。俺達の視界をこれで奪ったつもりなのだろうが、
これでは相手も見えないのではないか。
ビコが訝しんでいると、突如銃声が走り、どさりと兵が倒れる音がした。驚いて身を伏せると、続けざまに
銃声が響き、各所から悲鳴や呻き声が上がった。
見えている。冷や汗がどっと吹き出た。どういうわけか分からないが、黒装束の一団はこの白煙の中でも
問題なく見通すことができるのだ。放射線のような不可視不可避の殺意を塊を浴びせされたようで、途端に
ビコは恐ろしくなった。
やけっぱちとでもいうような自動小銃の音が断続的に響いたが、すぐさま轟く短機関銃の連射音に次々と
沈黙させられていく。店内を包み込む白煙はビコ達の健気な抵抗を極めて冷酷に踏み潰していった。
鮮烈な死の恐怖にビコの肩は震えた。死の恐怖は今までに幾度も経験していた。警官隊に滅多打ちに
されて、文字通り死にかけたこともあった。だが、そのときの相手の武器は警棒で、ここまで一方的な状況
ではなかった。
ビコは自分がねずみにでもなったかのように思った。煙の向こうから襲い掛かる暴力は、自分が獅子に
襲われる矮小なねずみなったかのような錯覚をさせる。反抗をねじ伏せる圧倒的な力量差に、ビコの戦意
は急速に萎んでいった。入れ替わりに恐怖がとめどなく溢れていく。
とうとうビコは自動小銃を放り出して逃げ出した。銃声とうめき声が錯綜する白煙の中をビコは手探りで
奥へと逃げる。運よく指先がバックヤードに通じる扉に触れた。扉を開けると避難していたホステスが甲高い
悲鳴を上げた。大口を挙げて声を張り上げるホステスの顔が明確に見えて、ビコの口からは安堵の息が
漏れた。
した爆発は来ない。一体どうしたのか。気になり顔を上げたビコは、白いもやが辺りを覆っていることに
気づいた。りんの様なつんとする臭いの白煙が店内に立ち込めていく。白い霧の中で兵達の動揺の声が
上がった。
恐らく先ほど投げ込まれたものは発煙弾だったのだろう。俺達の視界をこれで奪ったつもりなのだろうが、
これでは相手も見えないのではないか。
ビコが訝しんでいると、突如銃声が走り、どさりと兵が倒れる音がした。驚いて身を伏せると、続けざまに
銃声が響き、各所から悲鳴や呻き声が上がった。
見えている。冷や汗がどっと吹き出た。どういうわけか分からないが、黒装束の一団はこの白煙の中でも
問題なく見通すことができるのだ。放射線のような不可視不可避の殺意を塊を浴びせされたようで、途端に
ビコは恐ろしくなった。
やけっぱちとでもいうような自動小銃の音が断続的に響いたが、すぐさま轟く短機関銃の連射音に次々と
沈黙させられていく。店内を包み込む白煙はビコ達の健気な抵抗を極めて冷酷に踏み潰していった。
鮮烈な死の恐怖にビコの肩は震えた。死の恐怖は今までに幾度も経験していた。警官隊に滅多打ちに
されて、文字通り死にかけたこともあった。だが、そのときの相手の武器は警棒で、ここまで一方的な状況
ではなかった。
ビコは自分がねずみにでもなったかのように思った。煙の向こうから襲い掛かる暴力は、自分が獅子に
襲われる矮小なねずみなったかのような錯覚をさせる。反抗をねじ伏せる圧倒的な力量差に、ビコの戦意
は急速に萎んでいった。入れ替わりに恐怖がとめどなく溢れていく。
とうとうビコは自動小銃を放り出して逃げ出した。銃声とうめき声が錯綜する白煙の中をビコは手探りで
奥へと逃げる。運よく指先がバックヤードに通じる扉に触れた。扉を開けると避難していたホステスが甲高い
悲鳴を上げた。大口を挙げて声を張り上げるホステスの顔が明確に見えて、ビコの口からは安堵の息が
漏れた。
「あそこだ」
背後で声が起こった。兵隊達の聞きなれた声ではない。黒装束の襲撃者達だ。慌てて閉めたドアが弾丸で
激しく殴打される。恐ろしさに身をすくませたビコはホステス達を顔を見合わせようやく我に返った。気恥ずかしさ
からビコは乱暴にホステスを押しのける。そのままビコは奥にある、事務所へ通じる階段へ向かった。
階段で上からやってきた若い兵とすれ違った。わけも分からないといった風の彼にビコは、死守しろ、と
凄んでバックヤードに送り出す。階段を上っているとホステス達の悲鳴が響き、次いで自動小銃の射撃音が
轟いた。だが、明らかに音色の異なる短機関銃の発射音を最後に沈黙する。圧し掛かる静寂に、役立たず、
と心の中で毒づきながらビコは事務所の戸を開いた。
激しく殴打される。恐ろしさに身をすくませたビコはホステス達を顔を見合わせようやく我に返った。気恥ずかしさ
からビコは乱暴にホステスを押しのける。そのままビコは奥にある、事務所へ通じる階段へ向かった。
階段で上からやってきた若い兵とすれ違った。わけも分からないといった風の彼にビコは、死守しろ、と
凄んでバックヤードに送り出す。階段を上っているとホステス達の悲鳴が響き、次いで自動小銃の射撃音が
轟いた。だが、明らかに音色の異なる短機関銃の発射音を最後に沈黙する。圧し掛かる静寂に、役立たず、
と心の中で毒づきながらビコは事務所の戸を開いた。
「ボス、下で何があったんですか」
「黙ってここを死守しろ」
「黙ってここを死守しろ」
急いで事務所の鍵を閉めていると、待機していたらしい兵達が心配そうな顔でたずねてきた。ビコは顔を
赤くして死守を命じる。
とにかく時間を稼ぐんだ。時間を稼いで、他のビルから増援を呼んで、挟み撃ちだ。
焦りに駆られながら手近な電話を引っつかむとビコは別のビルの事務所の番号を押した。
赤くして死守を命じる。
とにかく時間を稼ぐんだ。時間を稼いで、他のビルから増援を呼んで、挟み撃ちだ。
焦りに駆られながら手近な電話を引っつかむとビコは別のビルの事務所の番号を押した。
「ボスですか。とつぜん爆発が起きて、火の手が上がって、こっちはひどい有様です。さっきから銃声が
してますけど、ボス、大丈夫ですか」
「こっちも攻撃を受けている、とにかくこっちに――」
してますけど、ボス、大丈夫ですか」
「こっちも攻撃を受けている、とにかくこっちに――」
電話に向かって怒鳴り散らしていると、背後から爆発音が轟いた。振り向いたビコの顔に熱風と細かい
ドアの破片が降り注ぐ。
ドアを爆破しやがった。
濛々と立ち込める煙の向こうで連続して閃光が走る。腹部に衝撃が走り、ビコは電話を放り出して床に
転げ落ちた。
撃たれた。喉の奥に血の味が混じり、あまりの激痛に意識が明滅する。
霞むビコの視界が室内に侵入する黒装束の人間を捕らえた。2人1組で互いの死角を補いながら室内を
制圧していく様はダンスでもしているかのように滑らかだ。
そのうちの一人がビコの顔を覗いた。ビコの顔を見つめるその瞳は、小型の双眼鏡のような、冷たい
カメラのレンズだった。恐らく熱源感知スコープだろう。道理で煙幕の中でも攻撃ができるわけだ。
黒装束の人間が銃をこちらに向ける。ビコは重い両腕を上げて降伏を示した。
ドアの破片が降り注ぐ。
ドアを爆破しやがった。
濛々と立ち込める煙の向こうで連続して閃光が走る。腹部に衝撃が走り、ビコは電話を放り出して床に
転げ落ちた。
撃たれた。喉の奥に血の味が混じり、あまりの激痛に意識が明滅する。
霞むビコの視界が室内に侵入する黒装束の人間を捕らえた。2人1組で互いの死角を補いながら室内を
制圧していく様はダンスでもしているかのように滑らかだ。
そのうちの一人がビコの顔を覗いた。ビコの顔を見つめるその瞳は、小型の双眼鏡のような、冷たい
カメラのレンズだった。恐らく熱源感知スコープだろう。道理で煙幕の中でも攻撃ができるわけだ。
黒装束の人間が銃をこちらに向ける。ビコは重い両腕を上げて降伏を示した。
「助けてくれ、頼む」
「貴様がスティーブ・ビコか」
「貴様がスティーブ・ビコか」
ビコの嘆願を黒装束の男の声が遮った。その問いにビコは2度、3度繰り返して頷く。死にたくない一心で、
相手の情に働きかけるように、何度も何度も。
相手の情に働きかけるように、何度も何度も。
「そうか」
返ってきた言葉はあまりにも平滑だった。その冷たさにビコは処刑台の床が開いたような浮遊感を感じた。
続けて響く3点射撃。その何処までも乾いた音が"アンク"幹部スティーブ・ビコの認識した最後の音だった。
サーマルスコープを押し上げ、ゲオルグは瞳を外界に晒した。視界が熱の有無という白黒の世界から
色彩を取り戻した。
胸を撃たれ白目を向いて倒れる哀れな男スティーブ・ビコを無感情に見下ろしながらゲオルグは無線に
報告を入れた。ノイズ交じりのイヤホンから"子供達"最高指揮官ニークの声が返ってくる。
続けて響く3点射撃。その何処までも乾いた音が"アンク"幹部スティーブ・ビコの認識した最後の音だった。
サーマルスコープを押し上げ、ゲオルグは瞳を外界に晒した。視界が熱の有無という白黒の世界から
色彩を取り戻した。
胸を撃たれ白目を向いて倒れる哀れな男スティーブ・ビコを無感情に見下ろしながらゲオルグは無線に
報告を入れた。ノイズ交じりのイヤホンから"子供達"最高指揮官ニークの声が返ってくる。
「黄色より白へ、目標排除完了」
「こちら白、了解した。赤からの報告があった。敵勢力がそちらのビルに移動中だ、注意しろ」
「こちら黄色、了解」
「こちら白、了解した。赤からの報告があった。敵勢力がそちらのビルに移動中だ、注意しろ」
「こちら黄色、了解」
黄色は自分達の班の符号、白は本部の符号、そして赤が監視班の符号だ。監視班は今もこの通りの
何処かから、静かにこちらの様子を伺っているのだろうか。
返答を終えると、ゲオルグは窓にそっと近づき、外の様子を伺った。ロケット砲を打ち込まれ立ち上った
炎に照らされながら、別のビルから銃を持った集団がこちらに向かってくる様が確認できた。
何処かから、静かにこちらの様子を伺っているのだろうか。
返答を終えると、ゲオルグは窓にそっと近づき、外の様子を伺った。ロケット砲を打ち込まれ立ち上った
炎に照らされながら、別のビルから銃を持った集団がこちらに向かってくる様が確認できた。
「ポープは窓から狙撃し、敵勢力集中を阻害しろ」
「アイアイサー」
「ミシェルはチューダー、ウラジミールと出入り口の確保だ」
「りょーかいっ」
「アレックスは俺と来い」
「うん、分かった」
「アイアイサー」
「ミシェルはチューダー、ウラジミールと出入り口の確保だ」
「りょーかいっ」
「アレックスは俺と来い」
「うん、分かった」
矢継ぎ早にゲオルグは部下に指示を飛ばす。ポープが窓辺につき、ミシェルが部下と共に出入り口に
張り付いたことを確認すると、ゲオルグはアレックスと共にビコの死体の傍らでしゃがみこんだ。
張り付いたことを確認すると、ゲオルグはアレックスと共にビコの死体の傍らでしゃがみこんだ。
「アレックス、クーラーボックスを下ろせ」
「うん、でもどうするのさ兄サン」
「どうって――」
「うん、でもどうするのさ兄サン」
「どうって――」
背負っていたクーラーボックスを下ろしながらアレックスが訊ねた。意外そうにアレックスを見つめ返した
ゲオルグは、肩に装備したナイフに手を伸ばしながら、さも当たり前のように答えた。
ゲオルグは、肩に装備したナイフに手を伸ばしながら、さも当たり前のように答えた。
「挙げるんだよ、首を」
横倒しにたビコの首筋にゲオルグはナイフを突き立てた。骨と動脈の間を意識して、ゲオルグはその刃を
刺し込んでいく。適当なところでゲオルグはてこの原理を利用するように刃を持ち上げ、頚動脈を裂いた。
切断された頚動脈から溢れた血がゲオルグの手袋と床を汚していく。
刺し込んでいく。適当なところでゲオルグはてこの原理を利用するように刃を持ち上げ、頚動脈を裂いた。
切断された頚動脈から溢れた血がゲオルグの手袋と床を汚していく。
「うえぇ」
血に触られないように2歩3歩と後ろに下がったアレックスが呻いた。そんな彼を無視してゲオルグは
ナイフの刃を逆側の首筋に突き立てる。同じ要領で頚動脈、そして気管を切断していく。
ナイフの刃を逆側の首筋に突き立てる。同じ要領で頚動脈、そして気管を切断していく。
「でも兄サン、生首なんかどうするのさ」
「さあな、大方封筒代わりにでもするんじゃないか」
「さあな、大方封筒代わりにでもするんじゃないか」
口の中にメモを押し込んで、クール便で送りつける。よくある話だ。ゲオルグには興味の無い話だった。
だから要らぬことは考えず、ただただ事務的にゲオルグは首を捌く。
骨だけになったところで、ゲオルグはビコの首を一気にひねった。ゴキリ、と小気味いい音と共に頚椎の
間接が外される。後はこびり付いた肉を断ち切って、終了だった。
あっけなく分離された生首を持ち上げると同時にゲオルグの耳が銃声の中から聞きなれない音を捉えた。
だんだん大きくなる、抑揚のついた甲高い電子音。パトカーのサイレンだ。
あとはまかせた、とゲオルグは生首をアレックスに投げ渡す。慌てるアレックスを無視し、ゲオルグは
イヤホンを押さえながら立ち上がった。本部から丁度連絡が入る。
だから要らぬことは考えず、ただただ事務的にゲオルグは首を捌く。
骨だけになったところで、ゲオルグはビコの首を一気にひねった。ゴキリ、と小気味いい音と共に頚椎の
間接が外される。後はこびり付いた肉を断ち切って、終了だった。
あっけなく分離された生首を持ち上げると同時にゲオルグの耳が銃声の中から聞きなれない音を捉えた。
だんだん大きくなる、抑揚のついた甲高い電子音。パトカーのサイレンだ。
あとはまかせた、とゲオルグは生首をアレックスに投げ渡す。慌てるアレックスを無視し、ゲオルグは
イヤホンを押さえながら立ち上がった。本部から丁度連絡が入る。
「白より黄色へ、赤から報告だ。東から自警団車両接近。警ら車両2、装甲輸送車両2だ」
「こちら黄色、了解」
「こちら黄色、了解」
ここまでは予定通りだ。落ち着き払ったゲオルグは時計を確認しながら窓辺に向かう。8分。治安部隊
付きにしてはやや早いか。先日の襲撃で即応体制に入っていたか。取り留めの無いことを考えながら
ゲオルグは窓から外を伺った。
通りを封鎖するようにパトカーが停車し、その背後に輸送車両が停車する。警ら車両の一般自警団員の
援護の下、輸送車両が治安部隊を吐き出した。ライオットシールドと機関拳銃を構えた隊員の背後に短
機関銃を構えた隊員が続く。全員がセラミックプレートで増強されたボディーアーマーに身を包み、頭には
フェイスカバーつきのヘルメットを装備していた。横隊となって道を占拠する様はさながら現代の重装歩兵だ。
ゲオルグ達の銃ではその装甲を貫くことはできないだろう。自警団とマフィアとの間の絶望的なまでの鉄量
の差がそこには存在していた。
道路を閉鎖した彼らはたった今からこの騒乱の鎮圧にかかるだろう。小銃を持った"アンク"の兵隊達は
一人残らず逮捕されるか射殺され、破壊された事務所からは"アンク"に不利な資料がついでに押収される
はずだ。巻き添えを受ける前にさっさと脱出しなくては。
アレックス、とゲオルグは大声で叫ぶ。呼ばれたアレックスはクーラーボックスを背負うと親指を突きたてて
返事をした。オーケイ、と。
付きにしてはやや早いか。先日の襲撃で即応体制に入っていたか。取り留めの無いことを考えながら
ゲオルグは窓から外を伺った。
通りを封鎖するようにパトカーが停車し、その背後に輸送車両が停車する。警ら車両の一般自警団員の
援護の下、輸送車両が治安部隊を吐き出した。ライオットシールドと機関拳銃を構えた隊員の背後に短
機関銃を構えた隊員が続く。全員がセラミックプレートで増強されたボディーアーマーに身を包み、頭には
フェイスカバーつきのヘルメットを装備していた。横隊となって道を占拠する様はさながら現代の重装歩兵だ。
ゲオルグ達の銃ではその装甲を貫くことはできないだろう。自警団とマフィアとの間の絶望的なまでの鉄量
の差がそこには存在していた。
道路を閉鎖した彼らはたった今からこの騒乱の鎮圧にかかるだろう。小銃を持った"アンク"の兵隊達は
一人残らず逮捕されるか射殺され、破壊された事務所からは"アンク"に不利な資料がついでに押収される
はずだ。巻き添えを受ける前にさっさと脱出しなくては。
アレックス、とゲオルグは大声で叫ぶ。呼ばれたアレックスはクーラーボックスを背負うと親指を突きたてて
返事をした。オーケイ、と。
「黄色より白へ、目標確保完了、これより脱出を開始する」
インカムに向かって報告すると、ゲオルグはポープ、アレックスと共に入り口に向かった。
入り口は激しい銃撃を受けており、ミシェルが壁に張り付いて様子を伺っていた。ゲオルグは躊躇せずに
胸から閃光弾をもぎ取ると、通路に向かって放り込んだ。閃光と轟音に銃撃がピタリと止む。
胸から閃光弾をもぎ取ると、通路に向かって放り込んだ。閃光と轟音に銃撃がピタリと止む。
「行くぞ」
大声で前進の命令を下しながら、ゲオルグは先頭に立って通路に飛び出した。ひるんでいる敵に的確な
射撃を浴びせると、通路の奥にある非常階段に向かう。
射撃を浴びせると、通路の奥にある非常階段に向かう。
「クリア」
非常階段に敵影無し。早々にクリアリングを終えると、スチール製の階段を急いで駆け下りた。降りた先の
裏路地は暗い。上面にわずかに覗く夕空の薄明かりを頼りに人1人がやっとの幅の裏路地をゲオルグ達は
走った。
ほどなく灰色の壁に突き当たった。狭い丁字路で、左からはサイレンの音が聞こえる。ブリーフィングで
聞いていた地図を思い出す。右だ。駆ける抜けると街路灯の明かりが差し込み、急に視界が開けた。
通りに出るとゲオルグはすぐさま左右を確認した。ゲオルグ達が飛び出た通りは黄色と黒のストライプの
衝立で三面を目隠された工事現場といったようなところだった。正面のマンホールの蓋が開いており、脇に
作業つなぎに安全ヘルメットを被った男が立っている。男の細い狐目とアジア風の彫りの浅い顔には見覚えが
あった。別班の國哲だ。
裏路地は暗い。上面にわずかに覗く夕空の薄明かりを頼りに人1人がやっとの幅の裏路地をゲオルグ達は
走った。
ほどなく灰色の壁に突き当たった。狭い丁字路で、左からはサイレンの音が聞こえる。ブリーフィングで
聞いていた地図を思い出す。右だ。駆ける抜けると街路灯の明かりが差し込み、急に視界が開けた。
通りに出るとゲオルグはすぐさま左右を確認した。ゲオルグ達が飛び出た通りは黄色と黒のストライプの
衝立で三面を目隠された工事現場といったようなところだった。正面のマンホールの蓋が開いており、脇に
作業つなぎに安全ヘルメットを被った男が立っている。男の細い狐目とアジア風の彫りの浅い顔には見覚えが
あった。別班の國哲だ。
「急いで、向こうでダニエル兄さんが自警団と押し問答してる」
「分かった」
「分かった」
話しかけてきた國哲はゲオルグ達にマンホールに入るように急かした。この地下へと続く竪穴こそ、
ブリーフィングで指示された脱出地点だった。工事を装い別班のダニエル達が確保していたのだ。
念のためにゲオルグはマンホールの脇で銃を構え、部下が脱出するまで周囲を警戒した。マンホールに
飛び込むアレックス達は、その合図にゲオルグの肩をたたいていく。テンポ良く1回、2回、3回、4回、5回。
全員だ。
國哲に目礼するとゲオルグも続いてマンホールに飛び込んだ。
ブリーフィングで指示された脱出地点だった。工事を装い別班のダニエル達が確保していたのだ。
念のためにゲオルグはマンホールの脇で銃を構え、部下が脱出するまで周囲を警戒した。マンホールに
飛び込むアレックス達は、その合図にゲオルグの肩をたたいていく。テンポ良く1回、2回、3回、4回、5回。
全員だ。
國哲に目礼するとゲオルグも続いてマンホールに飛び込んだ。