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ANARCHY FOREVER FOREVER ANARCHY 第2話

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mintsuku

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ANARCHY FOREVER FOREVER ANARCHY 第2話





「…どりゃああああ!!」

もはや滅茶苦茶に振り回される巨大な鋏が危うく頭を掠める。しかし蘆屋我堂は異形の腹を深々と貫いた黒い金属棒に、ありったけの沸き立つ魔素を流し込み続けた。

ギチギチギチッ…ギチ…

恐るべき巨蟹は苦悶の泡をブクブクと噴きながら灼熱する武器から逃れようと暴れるが、我堂とて空腹を抱え機敏かつ堅牢な巨体をやっとの思いで串刺しにしたのだ。そろそろとどめと…調理にかからなければ流石に身がもたない。

「…くた…ばれ…」

渾身の腕力でずぶずぶと捻込まれた鋼の棒は、ついに硬い背の甲羅まで貫通した。あとは火加減だけが勝負だ。
空を切って降りかかる鈍器のような鋏をかわしながら、鉄棒に流れる魔素を更に熱く燃え立たせ続けると、化け物の傷口から漏れる生臭い臭気は、飢えた我堂が目眩いを覚える程の甘い芳香に変わってゆく。

ギチ……ギ…

振り上げられた鋏が緩慢に動きを止め、ついに大蟹異形の激しい断末魔の痙攣は終わった。ようやく待ちに待った『いただきます!!』の時間だ。
ジュウジュウと白煙を立てる鉄棒に獲物の加熱調理を任せ、我堂はいそいそと食前の手洗いのため、熱い砂を蹴って波打ち際へと走った。


「…う、旨い…」

思わず声が出る美味。キヨヒメの依頼で始まったこの探索行だったが、我堂は常に旅の楽しみを満喫する主義だ。最近常備している紀州名産の醤油は、よく肥えた巨蟹の風味を一層引き立ててくれる。

「…おいテメェら!! 一人じゃ食い切れん。分けてやるから隠れてないで出てこい!!」

我堂と大蟹の死闘に、岩陰から怯えた視線を送っていた非力な海の異形たちが、浜に漂う魅惑的な薫りにたまらず顔を覗かせる。肉の詰まった脚を気前よく鉄棒で砕いて投げてやると、歓声と共に種々雑多な異形がわらわら集まってきた。

「…よおし!! ちょっと教えてくれりゃ喰い放題だぞ!! この辺りの海岸にだな…」

熊野山中から半島沿岸部へと出た我堂は、南紀の味覚と絶景を堪能しながらも事件の調査を怠ってはいなかった。キヨヒメの姪をはじめとする異形上位種の失踪はまだ各地で続いている。
しかし誘拐の後手に回って犯人たちの足取りなど追跡しても、追いつく手前で被害者たちを載せた『黒船』がこの国を離れてしまえば全ては徒労に終わってしまう。
そう考えた彼は早い段階から『黒船』の出現場所特定に調査を絞り込んでいた。これならこの紀州で何匹異形どもが捕まろうが、まとめて異人の船に積み込まれる現場を押さえればよい。
そして聞き込みで頻繁に耳にした『水兵』『軍艦』といった単語は、異形を連れ去る異国人がならず者や海賊の類ではなく、統制のとれた武装集団であることを物語っていた。
かつての同盟国からあっけなく撤退した米軍は、異形への病的な恐怖に震え上がっていたという。もし『黒船』が何処か軍組織のものであれば、物騒極まりない日本近海への渡航や、現地組織との接触には整然とした規則性がある筈だ。
現在、場当たりな作戦行動で公務員たる軍人に死者を出して世論が黙っているほど安定した政権は近隣国にはない。安全に領海侵犯できる手順と時刻の確立した『積み込み場所』が必ずある…

「…知テるよ。シオノ岬ダよ。」

モグモグと口いっぱいに蟹を頬張りながら、河童じみた小さな異形が言った。ビンゴ。ひたすら南紀の海岸線を調べ上げた我堂の推測は正解だった。
本州最南端、潮ノ岬まではもう目と鼻の距離だ。似合わない麦藁帽子(スキンヘッドに直射日光は流石に辛いのだ)の下で鋭い目を輝かせた我堂は異形たちの話に耳を傾け続ける。

「…詳しく教えろ。ほら、角砂糖もやるぞ!?」

辛うじて人語を解する異形たちの説明は回りくどかったが、我堂が今まで収集してきた情報との整合は完璧だった。

…数ヶ月に一度、潮ノ岬沖合に向けて眩いヘッドライトを点滅させる黒いトラックが現れると、すぐ水平線上に異国の軍艦が姿を見せる。
そこから揚陸挺のようなもので何人かの異国人が陸に上がり、トラックの男たちと大小様々な積み荷を交換して去っていくというのが『黒船の怪』の大筋だ。
次回異国船が受け取る積み荷こそ、捕えられた異形上位種たちであることはほぼ間違いない。

(…しばらくは張り込みだな。とっとと現れてくれりゃあいいが…)

遅めの昼飯と得られた情報に満足した我堂は、潮ノ岬を目指すべく急いで異形たちに別れを告げた。早く現場入りして居心地のいい監視場所を造らねばならない。岩陰で乾燥食をかじるような日々はまっぴら御免だ…

(…時間があれば釣りをして一夜干しを作ろう。それから…)

すでに張り込み中の献立に想いを馳せながら名も知らぬ浜辺を後にした我堂は、愛車を停めていた松の木の下で悲鳴を上げた。ない。なんと、大切な赤い自転車が忽然と消え去っていたのだ。

(ぬ、盗まれ…た!?)

信太森からの命懸けの逃避行で、蘆屋我堂の命を救ってくれた大切な自転車だった。信太主は比較的温厚な『古き異形』だったが、本来全く無関係な闘いに割り込み、好き放題に暴れた我堂への怒りは激しく、その追撃は苛烈を極めたのだ。
まあ、面白半分に森を荒らされ、可愛がっていた侍女たちを辱められたのだからその怒りは当然だった。
運悪く脚を負傷し、深い森の中いよいよ牙剥く敵に追い詰められたとき、あの自転車はまるで天の助けのごとく我堂の目の前に停まっていた…

『じやのめえりか』

まるで猫が書いたような味わい深い文字で、自転車の泥除けには持ち主の名前が記されていた。赤く、いささかレトロな形の車体はこの実用一辺倒な時代にそぐわぬ優美さを備え、死を覚悟し始めていた我堂の瞳にさえ、たまらなく素敵に映った。

『…なんて…ハイカラな自転車なんだ…』

この瞬間、我堂の殺戮と陵辱に満ちた人生の記録に『自転車泥棒』という新しい罪が加わったのだった。躊躇なくその自転車に跨った満身創痍の我堂は迫り来る追っ手から逃れる為、死に物狂いでペダルを漕ぎ続けた…


(畜生…ちゃんと鍵を付けとくんだった…)

『じやのめえりか』の文字を塗りつぶした上に『蘆屋我堂』と書き込んだのは、奇跡のような信太森からの脱出行を成し遂げてすぐの事だ。
それから熊野山中に逃げ込むまで、柔らかい革のサドルはどれほど長く乗っても尻に優しかった。暗闇の旧街道でも、涼やかにちりんちりんと鳴った黄金色のベル…
盗品とはいえ、恩人とも言えるあの赤い自転車はすでに我堂の手離し難い足となっていたのだ。当然の因果応報だったが我堂の落胆は深い。ああ…

(…迂闊だった…)

あの自転車に乗れば快適な潮ノ岬までの道中もここからは徒歩だ。果たして打ちひしがれた我堂は、怪しげな密航船の謎に迫れるのか…
しょんぼりと暗く沈んだ我堂の心を映すように、南紀の海は陰鬱に曇り始めていた。

つづく


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