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Report'From the AnotherWorld 第3話

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Report'From the AnotherWorld 第3話




『……あー……あー……。録れてるか?……よし。

 俺の名前はクリーヴ。今閉鎖都市内部だ。
 今は避民街と呼ばれる所に来ている。
 ……随分と雑多な街だ。嫌な予感がする。敵の兵士より恐ろしいのは犯罪者だ。行動の予測が出来ないからな。
 よし、まずはこの街で色々と聞いて回る事にする。いつも情報ってのは吹き溜まりに集まる。ゴミと同じだな。
 そのゴミに有用性を見出だすのは得意だ。
 ついでに、この街での人々の生活なんかも調べようと思う。写真やなんかも撮るつもりだ。では、聞いてくれ』


※ ※  ※



チャプター1『廃民達』

 俺は今、街のストリートを歩いている。
 驚くべき事にそっちのスラムとさほど変わらない印象だ。ところどころとっぽい連中がたむろってる。面倒な空気の連中だが抱き込めば使えそうだ。どこも同じだな。

 しばらく歩くといきなりイタリア系の男が酷いアメリカ訛りのフランス語で話しかけてきた。人種のサラダボウルどころじゃない。
 英語でいいと言うと今度はネイティブな発音で話し始める。どうやらこの街は人種どころか言葉や文化すらいくつも同時に共存しているらしい。複数の言語を操る事は自然なんだろう。

「兄さんどっから流れてきたんだい? この街ゃ初めてだろう」
「さぁな。空から落ちてきたかも」
「はぁ? はっはは! おかしな野郎だな。ともかくここじゃ自衛が肝心だぜ。兄さんみたいな新参はたいがい最初に泣きみるんだ」
「なぜ俺を新参だと思う?」
「そんな旅行者みてぇな格好した奴はこの街にゃ居ねぇ。かといってホントに旅行者が廃民街に来るはずもない。
 つまりは、居場所が無くなって仕方なく来た奴って事だよ。
「ほう。廃民街っていうのかここは」
「……兄さんどこのお坊ちゃんだい? まぁ過去をまさぐるのはマナー違反だけどよ……」

 イタリア野郎はいぶかしげに俺を見ている。
 男の言う事を整理すると、ここは流れ者の街って事になる。最初の印象通りだ。
 イタリア野郎は自らをジャコモと名乗り、俺の名前を尋ねてくる。

「俺はクリーヴ。クリーヴ・サラハンだ。よろしくなジェイコブ」
「英語読みすんじゃねぇよ。俺はジャコモ。覚えとけよ」
「わかったよ。所で……」
「なんだい兄さん?」
「なぜ最初にフランス語で話しかけた?」
「そりゃアンタがフランス人に見えたからだよ。この街だと日本語と英語とポカポンタス語が主流だ。新参にでかい声で警告するなら他の連中が解らない言葉がいい」
「…… ポカポンタス?」
「まぁ俺もよくは知らねぇ言葉なんだけどよ。……にしても不思議な兄さんだな。サラハンてのはアラビア系だろ? でも話すのはイギリス訛りの英語で、見た目はフランス系。ごちゃ混ぜだな」

 この街の人間には言われたく無い物だ。見た感じ混血だってうようよ居やがる。
 このジャコモだって名前からしてイタリア人だが話すのはアメリカ訛りの英語。だが、英語で名前を言うと怒るって事はそれなりに血筋やそれぞれの文化、習慣を大事にしてるって事だ。
 多少なりとも人間臭い所で少し安心したよ。
 ……少なくとも、外の世界よりは「文化」という概念は生き残っている。雑多な故により大切にされてるのかもしれない。
 確かに何代か前の父方のご先祖様はイスラエル出身だと聞いた事がある。サラハンはその名残だ。フランス系に見えたのは母親がそうだからだろう。

「兄さんこの街初めてなんだろう? 行くアテはあんのかい」
「あるワケないさ。わかってるだろ?」
「ならこのジャコモさんにまかせな。案内してやるよ」
「それは有り難いな。断らせてもらうよ」
「っと。何だって?」
「自衛が肝心なんだろ? 知り合って五分の偽イタリア人について行く勇気は無い」
「偽じゃねぇ! れっきとしたイタリア人だよ!」
「喋ってみろよ」
「え?」
「イタリア語」
「それは……」
「ほらほら」
「……俺の負けだよ」

 偽フランス人と偽イタリア人の俺達は英語でやり合った後に結局行動を共にする事にした。
 まだ信用したワケじゃねぇし、ちょっとキナ臭い野郎だけど、こんな奴とは今まで何度も出会ってる。利用出来る所まで利用しよう。
 いざとなったら身を守る手段もある。お前に教わったやり方でな。レヴァン。


※ ※ ※


 俺とジャコモはストリートを少し歩き、脇道へと入って行った。
 一気に怪しい空気になる。先程までは雑多な人間だらけだったが、そこには東洋系の連中しかいねぇ。どうみても俺達はよそ者だぜ。
 それにこのビルの隙間は昔の映画で見たブルックリンみたいだ。おっかないね。

「どこに連れてくんだイタリア野郎」
「腹減ってるだろアンタ?」
「あ? ああ。まぁな」
「だったら黙ってついて来な。美味いモンと綺麗な姉ちゃんとここの文化ってモンを教えてやる」

 胡散臭い野郎だ。さっそくレヴィンに教わった技でも繰り出してやろうかと思ったぜ。
 だがここもれっきとした調査対象だ。いいだけ調べたら覚悟しやがれジャコモが。そう思ったよ。

 俺がイライラしながらついていくと今度は明るい通りに出た。歩いているのはやっぱり東洋人が多い。
 どうやらメインストリートの横にはまたストリートがあって、それぞれ特色があるんだろう。
 歩いている人種と町並みの雰囲気はそれを予想させる。いうなれば、メインストリートが「都会」でここは「地方」って感じかな。

「どこに連れてってくれんだよ」
「なんかイライラしてねぇか? 路地裏そんなに嫌だったかい。安心しな。もう着いたよ」

 ジャコモは路地裏から出てすぐの場所にある建物に入っていった。見た感じは雑居ビルって所だ。その一階が、奴が案内したかった場所らしい。
 入口はドアでは無く引き戸になってる。日本式だ。

「オーウ。千尋サーン。マタキマシタデス」
「……わざとらしく変な日本語言わないで」

 中は飲食店のようだった。カウンターと固定された丸イス。真ん中の通路を挟んで一段高くなった所に、低いテーブルが置いてある。畳だ。たしかこういうスタイルのは「ザシキ」と言ったかな。初めてみた場所がまさか日本じゃなくここだとはね。
 カウンターの奥に立っているのは長い黒髪の女性。分かってるとは思うけど多分日本人だ。もし中国人だったら文化もクソもあったもんじゃないしな。

「あ、あー。……千尋サン。友達連れてきたよ」
「あら珍しいわね。でも開店前よ? 邪魔しにきたの?」
「違うよー。紹介したかったダケだよ」
「あっそう。で、どちら様?」

 彼女は俺を見る。残念ながら日本語はサッパリなんで何言ってるのかは解らない。
 困惑してたらジャコモの野郎が喋りだす。

「千尋サン。この人日本語言えないね。この街来たばかり」
「そうなの? よく怪しまれずにここまで連れてこれたわね。ここじゃ無くても胡散臭いのにアンタ」

 ジャコモと彼女は日本語で言い合っている。当然何言ってるかさっぱりだ。
 とりあえず、ジャコモが落ち着いたところでカウンターのイスに座らせてもらった。


※  ※ ※



「……つまりだ。この街にゃいくらでもギャングやマフィアが居る。メインストリートだとお互いのシマが接する所だからピリピリしてやがる。たむろってる連中が多いだろ?」
「なるほどな」

 俺とジャコモは彼女の料理で腹拵えしている。
 初めて日本酒ってモンを飲んだ。悪くない。

「お互い睨みあっているお陰で逆に平和って感じだな。武力平和って奴だ」
「それだけギャングが多いんなら小競り合いくらいは起きるだろう?」
「ところがそうじゃねぇんだ。一応、物凄い親分連中ってのがいるんだよ。詳しくは知らねぇけど。
 そいつらがなんとかうまくやってる。ある意味この街で一番ストレス抱えてる奴らさ」
「そいつは同情するね」

 やはりキナ臭い街だ。テロリストに囲まれるよりはマシだが、下っ端が暴れだすと一気に燃え上がるのがテロリストと違う所。親分連中には職務に励んで貰いたい物だ。
 彼女がカウンターの奥から白い腕を伸ばして器を目の前に置いた。なんか野菜とかを練り込んだボールを煮込んだ物。日本料理だ。初めて見たし食ったものばかり。
 正直、日本というとソバとスシくらいしか知らなかったから驚きだよ。魚を生でワイルドに食うイメージしかなかったから彼女の繊細な料理はある意味でショックだった。

「日本に行って見たくなったな」

 率直な感想だ。料理もそうだがそれを作り上げる彼女もオリエンタルな雰囲気の美しい女性だ。
 こんな女性ばかりならぜひ行ってみたいものだね。だが、その発言は隣で飲んでるジャコモを笑わせる。

「…… くっ。くはははあ!」
「どうしたんだ一体?」
「日本にどうやって『行く』んだよ! 雲に乗るのと一緒だぜ!」
「はぁ?」

 とりあえず俺は黙って、ジャコモの反応から色々と推測してみる。
 まず、この街の多様性。次に、その中で埋もれない文化様式とそれを誇りに思ってる連中。
 彼女の店がいい例だ。明らかに日本式に固執した造りだ。彼女の料理も彼女自信も。彼女は日本語しか喋らないらしい。直接話したきゃ俺が日本語を習得する必要がある。
 横のイタリア野郎も言語は捨てたが似たような固執っぷりだな。彼女ほどじゃないが。
 そしてそのイタリア野郎の発言。
 あくまでここまで得た情報からの邪推だが、おそらくここでいう国の名前ってのはそれぞれの「文化様式の名前」らしい。国の違いでは無くて、生活スタイルを表すんだろう。
 きっとこいつらは俺の国の名前は知らないな。

「相変わらず下品な食べ方」
「酷いね。千尋サン。楽しく食べるのいいコトだよ」
「品があればね」

 相変わらず何言ってるのか解らねぇ。この街での最初の目標は日本語を覚える事だな。語学は得意だ。

「ところでジャコモ」
「あー……なんだい兄さん」
「なんでそんな事を色々教えてくれる?」
「あー。まぁはっきり言っちまえばカネの臭いだ」
「カネの臭い?」
「……アンタただで流れてきたわけじゃねぇだろ。この街の事はホントに何にもし知らねぇらしいが……。目的がある」
「なぜそう思う?」
「俺は『何でも屋』だ。兄さんの目的はよく分かんねぇけど、長年やってると解るのさ。カネになりそうだってな」
「プロの勘って奴か」

 なるほど。俺もコイツには同じモノを感じている。面白い物が撮れそうだってな。だからノコノコここまで来た訳だ。
 何でも屋のジャコモ。ジャコモ-ジェイコブ。なるほど、『出し抜く者』か。
 コイツは使えそうだ。

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