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甘味処繁盛記 合計減点十万点編

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甘味処繁盛記 合計減点十万点編



その日、いつもどおり桃太郎が番兵へと定期報告がてら摩虎羅と招杜羅をおちょくって、
<甘味処 『鬼が島』>へ帰ってきたところ。

見れば、屋外に設置した長椅子に座り真達羅と見知らぬ老人が談笑していた。
さしあたって業務中の怠慢という事で真達羅に減点7万点を桃太郎が脳内のマル秘手帳に記しながらふと気づく。

――本当に、あの老人を見たことはないか?

自然、速足になりながら、よくよく老人の顔を観察する。
既視感。
いや、違う。
明確にあの顔を知っているわけではない。
似ている。
そう、似ているのだ。
桃太郎の知っている何かと、あの老人の顔が。

おぼろな記憶を探る。
10年前。
20年前。
30年前。
もっと深く、もっと遠く。
20世紀だった頃の記憶まで。

焦燥さえ覚えながらさらに足取りは速くなる。
真達羅と老人も、桃太郎に気づいた。
桃太郎は見やってくる老人の顔を、はっきりと、真正面から捉える。

霞がかかった追憶がいくつもよぎる。
どれかは、きっとあの老人の顔にかすっているはずだ。
どれだ?
いや、現在からでは、きっと遠すぎる。今の自分は、三度目の人生と言っていい。

だから、誕生から登っていく。
生まれる。
幼児から。ほとんど覚えがない。いくらか両親と戯れた記憶が泡のように浮かんでは消えていく。
その思い出たちさえ霧の中のようにかすんで色あせてしまっている。

それでもきっとこちらからの方が近い。
この辺りだ。
この、成長の通り道にきっと答えがある。
近づいてくる老人の顔。
それとともに、洪水のようにまだ成人もしていなかった頃の記憶が溢れる。
染み渡る。

そろそろ真達羅と老人に声も届く距離。
切羽詰った、真に迫る表情に訝しげな様子だ。
だから真達羅は思わず、声をかけられずにいた。

一歩。一歩。近づくにつれて桃太郎は思い出す。

――そうだ、まだ大地震なんか起こっていなかった頃、ゲ-ムの中で……

立ち止まる。
見上げる老人。
見下ろす桃太郎。

「思い出した」

桃太郎が開口一番、感慨深そうに言葉を漏らす。
ぴくりと老人の片眉が上がった。食えなさそうな、老人だ。

「デスタムーアだ、このじいさん。デスタムーアにめちゃくちゃ似てる。おい、真達羅、お前どうやって配合したんだよ、コラ。お前、こんなの配合したら俺がデスピサロのレシピ発見しても目立たねぇだろうが!」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「真達羅」
「……なんです」
「ただいま」
「お帰りなさい」


「ほう、つまりじいさんは風の噂でこの甘味処に興味持ったから来てみた、と?」
「うむ、そういう事じゃな」
「感心なじいさんじゃねぇか。そういう行動力を昨今の若者にも持ってもらいたいね、俺は」
「異形が出るかもしれん昨今に無茶言うのぉ」

さて、初対面にあんまりと言えばあんまりな挨拶の後、桃太郎も長椅子に座して吉備団子ほお張っていた。
従業員の怠慢には厳しく、己の休息には甘く。
暑くなってきたこのごろ、冷たい茶をすすりながら老人と談笑である。

「それでどこから来たんだよ、じいさん。納涼祭にも来れる範囲かい?」
「平賀の研究区じゃよ。納涼祭には来たいのぅ」
「あー、あっこか。あれだろ、異形と仲良しこよしの」
「そこじゃな」
「ふぅん、それじゃ、じいさんも平賀の身内とかそんな類かよ」
「ま、そんな所じゃな。あんまりほいほい動き回るなと言われておるんじゃがな、こんな甘味処ができたと聞いて、来んわけにはいくまい」
「偉い! よし、じいさん、もっと食え吉備団子。なに、俺のおごりだ。土産も包んでやるからもって帰れ」
「豪気じゃのぅ。そんなんで経営は大丈夫なんかい?」
「趣味でやってるようなもんだ。経営なんざ実のところどうでもいいんだよ」
「そういうもんかの」
「そういうもんだよ」

ずず、と並んで茶をすする音。
昼を少し過ぎた頃合である。
人が来るのははまだ少し時間が経ってからだろう。
真達羅が店内でお昼ご飯を食べているように、家々で昼食の時間である。

「君は腹は減っとらんのか?」

だからだろう。
帰ってきて、吉備団子くらいしか口にしていない桃太郎に老人が言った。

「あぁ、小食なんだよ。吉備団子ぐらいでいいんだ、俺は」
「でかい図体しとってのぅ」
「ほっとけ。俺より、じいさんは飯食ったのかよ」
「もう食ってきておるよ」
「そうかい、また今度来るときはあののっぽか、糞真面目なガキか、不良がいるからお品書き・裏でも注文するといい」
「ほぅ、裏メニューというヤツじゃな?」
「おうよ、ABCとあるから好きなの選べ」
「それぞれ何が出てくるんじゃ?」
「Aが餡蜜、Bがぶぶ漬け、Cがカレー」
「甘味処で出てくるもんじゃないのが混じっとるのぅ」
「どれも美味いぞ」
「今度来るときが楽しみじゃな」

なんともゆったりとした時間の流れであった。
ここ最近は、このくらいのんびりとしているが、それでもなおこの老人との談笑に時間の流れが緩やかに感じる。
きっと、同じくらいの年齢であるからだろう、と桃太郎は思う。
どこかで、何かの因果が狂っていれば、否、何の狂いも生じていなければ、しわくちゃのまま、腰も曲がって。

なんとも、遠くまで来たものだ。

皿に手を伸ばすと、吉備団子ももう食い尽くしてしまっていた。

「おう、じいさんもっと食うか?」
「いや、もういいわい。この茶を飲んだら帰るとしよう」
「そうかい、なら真達羅に土産を包ませよう」

その桃太郎の言葉が聞こえたのだろう。
店内で真達羅が動く気配がした。
ずず、と並んで茶をすする音。

「もう一度聞こう」

うすらぼんやりと青い空見上げてる桃太郎の隣。
老人が真剣味を帯びるのを桃太郎が感じた。

「君は腹は減っとらんのか?」
「……ボケたか、じいさん」
「明晰じゃよ、桃太郎くん」
「…………減ってねぇよ」
「そうか、なら、いいんじゃ」

ゆっくりと、桃太郎が隣に座る好々爺を見やった。
のらりくらりとした雰囲気。人のよさそうな気配。

桃太郎が、緊張しはじめる。
腹具合を尋ねられる、その意味。
それは、栄養を取っているかという事につながる。
そして、桃太郎の栄養は――

いや、それ以前に、平賀の研究区の人間であると老人は言った。
平賀は桃太郎一派の関わりと遠い。と、思い込んでいた。
……それは油断ではないか?

「緊張しなさんな」
「!?」

なんら、空気変わらず老人が茶をすする。

「君の事は、知っている」
「……何の事だ」
「クズハという名の少女を、知っているかね?」

異形の少女らしいが、実際に見てはいない。しかし知ってはいる。
気おされながら、桃太郎が頷いた。
どこかこの老人には底知れなさがある。それは不気味さであり、神秘性だ。
まるで魔人じみた、仙人じみた。

「どんな少女か、聞いておるかのぅ?」
「異形の女の子だろう」
「元人間じゃ」
「!?」

桃太郎が立ち上がる。
それは。
それでは。

「座りなさい」
「……お前、誰だ?」
「ま、座って話そうじゃないか」

気持ちに整理もつかぬまま。
桃太郎が再び座れば老人が口を開いた。

「クズハくんは身内みたいなもんでのぅ。実はいろいろと調べたんじゃ」
「それは、まさか俺につながる……いや、逆か。そのクズハってのは、まさか俺の続きという事か?」
「明確につながっているかは、分からんがのぅ。似ておるんじゃよ」

ゆるやかに、老人は笑った。
いや、本当に笑った、のだろうか。悲しさが、桃太郎には察せた。

「クズハくんはの、異形に瀕死にされてしまった身じゃった。そこを移植によって命をつないだ」
「……異形の、移植か!」
「そうじゃ」
「似ているな、俺と……いや、違うな。決定的に違う所がある」
「クズハくんは動物型の異形を移植に、君は……」
「植物型の異形を」

自然、桃太郎が茶飲みを握る両手に力がこもる。

「お前は……誰だ……?」
「平賀、と言えば分かるかの」
「…………」

大きく、桃太郎が息を吐く。
納得せざるを、えまい。

「道理で」
「ふふふ、真達羅くんたちについても、知っておるぞい。十二騎で百鬼夜行を食い止めたとか」
「なぁ、俺や真達羅たちが異形だって事は……」
「分かっておるよ。君たちが、明かすべき事だ」
「……明かすべき、事なのかなぁ」
「君たちが決める事じゃな」

桃太郎がまぶたを閉じる。
異形の力を振るい、恐怖された事もあるが感謝された事もある。
しかし異形の側面をさらした時、恐怖された事しか、己にはない。

自分の食事のおぞましさは十分すぎるほどに自覚している。
きっと、誰もが拒絶する。

「クズハって女の子に移植を施した輩については?」
「残念ながら、研究施設は崩壊済でのぅ、辿れなんだ」
「……その研究施設ってのは、」
「御伽 草子郎とつながっていたかどうか、かのぅ?」
「その名前も知ってたか」
「わしら魔法体系を確立した五つの名が表とすれば、御伽というのは裏の一人じゃな」
「あんたらは理論で魔素を制御しようとした。だが御伽 草子郎は一から十まで実験だ。人体を使うこといとわない、な」
「だからこそ、わしの耳にも届いた。それでのぅ、クズハくんに移植を施した者たちと御伽がつながっているかどうかと言えばじゃが、これが分からん」
「……そうか」
「わしも御伽 草子郎を疑ってのぅ。その名前から調べていくうちに君を知った」
「御伽印としちゃ、初期組だからなぁ、俺ぁ」
「長く、戦ってくれたんじゃな」
「決めたんだよ、俺が桃太郎の代わりになるって……いや、桃太郎だけじゃねぇ、犬、猿、雉の分も戦うってよぉ……」

妻が先立ち、息子たちも異形が這い出てきた地震で死んだ。
生まれて間もなかった孫が冷たくなっていくのを忘れていない。

そして一次掃討戦に至る前。異形に殺されかけた記憶。
死の淵を救ってくれたのは御伽 草子郎。

安部、蘆屋、小角、平賀、玉梓ら五つの名前が魔法体系を確立する以前。
魔素と定義されてこそいなかったが賢者たちは「何かがある」と察してはいたのだ。

それが、人に合うと御伽 草子郎は理解した。
もともと医療の関係者だったのか、生物に精通していたのか。
詳細は不明だ。
だがしかし、異形と人に関して天才的だったのは間違いない。
そして、悪魔的だった。

作品と称して数々の異形に拮抗する存在を生み出す事になる。
そのあるいは実験動物として扱われ、そのあるいは戦った。

『俺は、植物の異形を植えられたのか』
『そういう事。よく適合したな。被験者の中で一番体力なさそうで一番死にかけてて一番年取ってたのに』
『全部解消したな』
『まさか若返るとは俺も思ってなかった。面白いな』
『面白くねぇよ』
『そうだ、桃太郎ってのはどうだ?』
『……何がだ』
『これから名乗れよ。桃っぽい異形と掛け合ったんだ。お似合いだろう』
『なんでだよ』
『その方が面白ぇ』
『……馬鹿野郎。桃太郎ってのはな、流れてきた桃を食って若返ったおじいさんとおばあさんとの間にできた子だ』
『お、そっちの説を取るか。それじゃ、お前は、』
『そうだ。俺は、桃太郎のおじいさん役だな』
『もう一人、婆さんで適合する奴探してくるか』
『馬鹿野郎。必要ねぇよ』
『うん?』
『若返ったんなら、俺が戦えばいいだろう。桃太郎に出番は回さねぇ。俺が桃太郎の分まで……いや、犬、猿、雉の分まで戦えばいい事だ』
『言うねぇ』
『言うよ。俺に至るまで、何人と失敗して死んでるんだろう?』
『百人単位だな』
『桃太郎や、犬、猿、雉だけじゃねぇ……そいつらの分まで、戦ってやるよ』

桃太郎は、戦った者。
生き延びて、若返り、選んだ道は戦うこと。
二次掃討作戦まで、ずっと。

それは息子たちが、孫たちが死んだ記憶の恐怖から。
これ以上、次の世代につながる者たちが少しでも死なずにすむように。
今度こそ、自分が先に死ぬために。

結局、桃太郎は今日まで生き抜いた。

「よく、戦ってくれた」
「……よせよ。食事事情も、あったんだ」
「それでも言うさ。君は人のために戦ってくれたんだ。ありがとう」
「……」

心に染みた。
戦ったことに対する感謝なぞ、期待すべきではないのだから。
おぞましい食事の絡んだ、殺戮に感謝されるべきではきっとない。

だから、桃太郎のおばあさんの代わり。
吉備団子を食わせる事で人に感謝される事を期待した。
まさかその旅の最中でこんな言葉が、かけられるとは。

「これで聞くのは最後だ、桃太郎くん」
「……」
「お前さん、腹は減っとらんのか?」

桃太郎が、笑った。

「腹ぺこだ」


「人は見かけによりませんねぇ」

平賀の帰った甘味処で。
長椅子に腰掛けたまま桃太郎はまだ茶をすすっていた。
その隣には真達羅。

「まさか平賀の天辺とはな」
「それだけ店長、危険ですもんね」
「あぁ、ありゃ俺の食事について心配してる」
「私も怖いですよ、店長の食事は」
「……すまん」

ぽつりと、桃太郎が漏らした言葉は真摯であった。
真達羅が、目を見開く。

「店長がそんな事言うなんて」
「おかしいか?」
「はい」
「…………さらにお前は減点3万点だ」
「何をですか!?」

茶が、尽きた頃合。

「クズハ、か……」

異形を移植した者。
会っておきたいと思い始める。

「大将」

さて、そんな一時に。
一人の男が現れる。
精悍な青年であった。
太くたくましい四肢に、みなぎる活力がひしひしと伝わる双眸。
とんがった風貌の、不良っぽさが残った青年だ。

その名は、摩虎羅。

「おう、どうした。仕事サボって」
「出たぜ」

真達羅と桃太郎が、その一言に過敏に反応する。
鬼気が滲んだ。
場に漲るのは緊張感。

「招杜羅が張ってる。すぐ来てくれ」

出た。
異形が、出た。
もう番兵は出動している。
そこまででは摩虎羅が報告に来ることはない。
問題は、逃げた異形がいるかどうか。番兵の討ち漏らしがあるかどうか。

招杜羅は番兵が討ち漏らした異形の追跡。
そして、それに合流すれば桃太郎の、

「久々の、食事だな」





<甘味処 『鬼が島』>
本日休業
不在:桃太郎、真達羅、摩虎羅、招杜羅

<お品書き>
 ・吉備団子
 ・きなこ吉備団子

 ・カルピス

<お品書き・裏>
 ・吉備団子セットA
 ・吉備団子セットB
 ・吉備団子セットC

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