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NEMESIS 第1話

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NEMESIS 第1話


閉鎖都市。東西南北を高い壁で囲まれその壁の向こうに存在するはずの世界と完全に交流を断絶した一つの都市があった。
いや、都市というにはあまりにも広大なその広さから国と表現したほうが適当なのかもしれない。とにかく、その都市では何千・何万もの人々が思い思いの暮らしを送っていた。
ただ、いつの時代・国にもどうしようもなく「格差」というものは存在するものだ。過去の世界ではこの格差をなくし、全ての人々が平等に暮らせる社会を作るという「社会主義」という概念が存在したが、次第に廃れていった。

それからどれくらいの時が過ぎたのか。この閉鎖社会でもやはり格差は存在していた。中心部に行けば雲にも届きそうな超高層ビルが立ち並び、まさに「摩天楼」という言葉がピタリと当てはまり、
そしてそのビルでは多くの人々がこの世界で精一杯に生きるために働いている。その労働によって生まれる利益を一手に受けるのがこの世界にほんの数人しかいない、俗に「貴族
」と呼ばれる人々だ。
そして、トランプのゲームにもあるようにそんな大富豪がいれば当然大貧民も存在する。――避難地区。スラムとでも表現すればいいだろうか。
この世界で職にあぶれ行き場を失った人たちがたどり着くこの世界の最底辺だ。治安などこの場所には存在しない。
毎日のように略奪や強盗、ひどい時には殺人までもが日常的に発生する、人間の欲望や醜さが剥ぎ出しにされる最低の場所だった。
ただ、そんな場所でもやはり己の手を汚さず精一杯に生きている人々も少数ではあるが確実に存在している。

この物語の主人公、クラウスとセフィリアもその中の2人だった。彼らは双子の兄妹で今年20歳になる。彼らを生んだ母親はその直後に亡くなってしまったから、二人とも母親の顔は写真でしか見たことがない。
そんな彼らは父親の手で育てられた。彼らの父親はこの町の酒場でマスターをやっている。この楽しみも何もない生きるだけで精一杯な人々の身体を癒し英気を養うためにかなりの低価格で酒を提供している。
なぜそんな価格で提供できるかというと、やはり盗んできたものだからだ。その事実を知らず兄妹はこの20年間生きてきた。そして今日は2人の20回目の誕生日であると同時に
2人の母親の命日でもある。物語はここから始まる。

夕日が街を黄昏に染め、窓というよりは壁に穴があいていると表現したほうが適当な、そんな窓から彼方に佇む繁華街の摩天楼を眺めていたのは今日20歳になるセフィリアだ。
母親譲りの美しいブロンドの髪を膝の裏あたりまで伸ばし、スタイルは抜群。顔もとてもきれいに整っていた。そんな彼女だからいつ強姦の被害にあってもおかしくはなく、実際1年ほど前に
3人がかりでその被害に遭いかけたのだがすんでのところで双子の兄、クラウスが駆け付け3人を完膚無きまでに叩きのめした。その後その3人の姿を見たものはなく、以来
「命が惜しければセフィリアにだけは手を出すな」と街中のならず者の間で暗黙の掟が出来上がっていた。
そして、そんな掟が生まれる要因となった兄、クラウスが彼女に声をかける。

「セフィリア、母さんに会いに行こう。20になったよって言いに行かなきゃ」
「ええ、兄さん」

兄・クラウスはセフィリアとは対照的に闇のような黒髪を肩まで流し、3人を叩きのめしたとはとても思えない細い身体をし、顔はというと常にモナリザのごとき微笑みを浮かべている。
この世界にずっと昔から伝わることわざ「笑う門には福来る」を信じ、常に笑っているのだ。いつか、父、セフィリアと3人で幸せな生活を送りたいと願っているのだった。
そんな兄妹はにこやかに笑う母の遺影に手を合わせながら母親に語りかける。

「母さん、僕たちは今日20歳になったよ。母さんの愛を受けられなかったのは悲しいけど父さんが僕たちのことを育ててくれたから今日まで生きてこれた。母さん、僕らを生んでくれてありがとう」
「ええ。兄さんの言うとおり。だから母さん、心配しないでね。そしてこれからも私たちを見守っていてね」

20歳になった報告を終え、2人は夕食の準備に取り掛かる。今日は誕生日なので、普段の食事よりも少しだけ贅沢なものを用意する。
父も今日は2人の誕生日を祝うために早く帰ってくると言っていた。準備も終わり、料理を半径30cmほどの小さなテーブルに並べる。普段の食事はこの小さなテーブルにも収まるような
極めて質素なものだ。今回の食事もその質素な食事に1,2品付け足した程度で、テーブルの上にきれいに収まった。
後は父の帰りを待つだけだが…2時間待っても父親が帰ってこない。2人に対してとても誠実な父が約束を破ったことなどこれまで一回もなかったのに。
どうしようもぬぐい去れない不安を抱えながら2人は仕方なくすっかり冷めてしまった食事に手をつけた。
普段は明るいはずの、特に誕生日である今日はいつも以上に明るくなければならないはずの食卓はまるで精進落としのように暗い空気に包まれていた。
そんな暗い空気が最後まで続き、クラウスが父の分を台所に運びセフィリアの元に戻る。

「父さん、遅いね…なにかあったのかな」
「もう遅いから兄さんは寝てていいよ?疲れてるでしょう。父さんは私が待ってるから」
「セフィリアだって家事で疲れてるんじゃないのかい?夜更かしは君の美容にもよくないし、おやすみなよ」

その後も2人はお互いを気遣い、結局2人で父を待つことになったものの結局朝になっても父は帰ってこなかった。
日の出から2時間ほど経った頃、ドアを叩く音が聞こえた。父が帰ってきたと思い、セフィリアがドアを開けるがその眼前にいたのは果たして父親ではなく、この町の自警団員だった。

「セフィリアさん、クラウスさん、お二人に大変残念なお知らせがあります。昨日の6時半ごろお二人のお父さんがマフィア同士の抗争に巻き込まれ、射殺されました…ご遺体をお引き渡しいたします」

自警団員が棺を部屋へと運び込み、最後に2人に一礼してドアを閉め、去って行った。ドアが閉まると同時にセフィリアは泣き崩れた。

「なぜ…なぜ父さんがそんな…関係ないマフィア同士の喧嘩なんかのために…殺されなきゃならないの…ううぅ…」

その傍らでクラウスは必死に涙をこらえて棺の中を確かめる。その刹那一瞬だけ顔をしかめるがすぐに蓋を閉じ、セフィリアに語りかける。

「ねえ、セフィリア。父さんが最後に君に見せた表情を覚えているかい?」
「…いつもと同じように…笑顔で…行ってくるよって…」
「じゃあ、君はこの棺の中を見ないほうがいい。君には残酷すぎる。父さんもきっと君の記憶にあの優しかった笑顔を留めておきたいって願っていると思うから…」
「…ええ、ありがとう…兄さん…」
「セフィリア、僕は父さんの命を奪った奴らを絶対に許さない。どこのマフィアだろうが必ず見つけ出して、この手で…」
「私もよ、兄さん。二人で復讐しましょう…」

そして手を取り合い、父親を奪ったマフィアに復讐を誓った。かくして、この若い兄妹の長く壮絶な復讐劇は今ここに幕を開けるのだった。

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