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「魔導」


56 :40:2010/09/12(日) 00:17:02 ID:9kKT7yho

》40「邂逅」の続き 第2話「魔導」を避難所に投下してきました。
なお、避難所ということで、少しだけ大人向け仕様になっていますので、そういうのが苦手な方はご留意を。
それから、2話目ということで、「君の軌跡」というシリーズタイトルを付けました。


12 :君の軌跡 ― 第2話「魔導」:2010/09/11(土) 20:32:05 ID:.g62NzA20

本スレに投下した「邂逅」の続きです。
規制中なので、こちらに投下します。
では、投下!


13 :「魔導」:2010/09/11(土) 20:35:58 ID:.g62NzA20

「ここは……」

エリアスは、窓から差し込む明るい光に促されるように、ゆっくりと目を覚ますと、そう呟いた。
今、自分の瞳に映っている、この部屋の天井を見る限りでは、どうやら、自らの記憶に全く覚えがない部屋で
眠っていたようだ。そう気付いた彼は、ゆっくりと身体を起こそうとして、自らの腕に力を入れた。

「……っ、あぁっ!」

自らの身体を起こしかけたその時、彼は自分の腹部に走った強い痛みに思わず悲鳴を上げた。
そして、その苦痛に表情を歪めながら、何とか身体を起こすと、自らの腹部にはしる鋭い痛みと恐らくそこに
ある傷口を確認しようと、そっと手を伸ばす。
彼の身体には、その傷口を手当てするための包帯が丁寧に巻かれていた。
そのために、その下の傷を直接確認することは出来なかったが、それは、決して浅い傷ではないようで、包帯
の上には、新たに流れ始めた血液が滲みだしている。

「……う……くっ!」

傷の様子をそこまで確認したエリアスは、ベッドからようやく起こした自らの上半身が、再びベッドに倒れ込
むことの無いようにするため、懸命にそのままの姿勢を保ちつつ、その傷口がもたらす痛みに耐えた。
それから、腹部からの出血が更に酷くならないようにするために、それ以上に身体を動かすことを止めると、
痛みが少し落ち着いてくるのを静かに待つようにして、自らの呼吸をゆっくりと整える。

その次の瞬間、この部屋の外側から、こちら側へと、歩いて来る人の足音が彼の耳元へと届いた。
エリアスは、その人の気配と足音にふと顔を上げると、腹部を押さえて、上半身を起こした姿勢を保ったまま、
顔を少し横に向けると、部屋の入り口の方を怜悧な輝きを強めたアイスブルーの瞳できつく見据える。

その足音の主は、自らの足を止める様子は全く無いようで、この部屋の前まで来ると、いつもと変わった事な
ど何一つ無いというかのように、普段と変わらぬ様子で、エリアスの視線の先にある扉を一気に開けた。
エリアスはそれと同時に、その扉の向こうから、騎士風の軽装に身を包み、ブロンズゴールドの長い髪をひと
つに束ねた17、8歳の少女が、臆することなど全くない様子で、この部屋に入って来るのを、急に目にする
こととなり、少々驚く破目になった。

「……っ!」

自らの記憶に全く覚えのない少女が急に部屋に入ってきたことを目にしたエリアスは、咄嗟に自らの体を支え
るようにして、片腕をベッドにつきながら、身構える。
その動作にあわせて、腹部へと力を入れた瞬間、自らの身体に再び生じたあまりの激痛に、彼は再び両手を腹
部に添えると、包帯の上に滲み出た血液を隠すようにして、できる限り平静を装うために、懸命に痛みを堪え
た。

「……あ! ごめん!」

この部屋に入ってくるなり、エリアスのそんな様子を目にした彼女は、少し驚き、慌てたように声をかける。

「……目が覚めたんだね! ……傷口は大丈夫……じゃないよな……。
 あ、そうか、安心していいよ。あたしは、リアン。
 あんたが倒れて意識を失う前に、あんたを匿ってやるって、約束したんだ。
 それと、ここは、あたしの住まいで、あたしと、あんた以外に誰もいないから、安心していい」

少女は、矢継ぎ早にそう言いながら、この状況への戸惑いなど微塵もない様子で、にっこりと微笑んだ。
それから、騎士らしい凛々しい歩調でエリアスの目の前へと、そのまま歩いてくると、彼が懸命に痛みを堪え
ながら、上半身を起こしているベッドの前にあった椅子へと座った。
彼が少々驚いたまま、そのリアンと名乗った少女を見ていると、彼女は、更にたたみ掛けるように、質問の言
葉を投げかけた。

「ところで、君、自分のこと、どこまで覚えてる? 名前位は、大丈夫かな?
 ……ああ、ごめん、そんなことより、傷口の包帯を替えるほうが先か。
 傷口……やっぱり良く塞がらなかったみたいだね、本当にごめん」

「え……っ、俺……は……」

エリアスは、そう呟くと、彼女の矢継ぎ早の質問とその言葉に驚きながら、ほんの少しの間、言葉を失ったよ
うに黙った。
とりあえず、自分の身の安全は、なんとか確保できているようだったが、なぜ自分がこのような状況に置かれ
ているのか、全く見当がつかなかったからだ。

「……記憶が……ない……」

自らのことを思い返そうとして、名前以外の記憶が殆どないことに、ようやく気が付ついたエリアスは、その
ことに改めて驚いたように、リアンのエメラルドグリーンの瞳へと視線を合わせた。
リアンと名乗る目の前の少女の言葉に嘘偽りは無さそうだが、自分がどうしてこんな目に遭うはめになったの
か、やはり皆目見当がつかない。
エリアスは、そう思いながら、俯くと、傷の痛みに耐えつつ、自分自身の置かれた状況を確認するかのように
ほんの少しの間、黙り込んだ後、ゆっくりと顔を上げると、再びリアンに話しかけた。

「貴方が……助けてくれたのか……まずは、礼を言わなくてはならないな、本当にありがとう。
 それから……礼を欠いた真似をして、本当に申し訳ないが、俺は、取り急ぎ、この傷を治したい。
 リアン殿、悪いがもう少しだけ、俺に力を貸してもらえないだろうか?」

エリアスは、リアンが彼を助けようと駆け寄ったあの時と同じように、彼の持つ、13、4歳の年頃の少年と
しての容姿にはそぐわない、落ち着いた口調でそう言い終えた。
それから、腹部の傷口の辺りに、自らの手をそっと添えて、痛みを堪えつつ、その整った面ざしに真摯な表情
をたたえたまま、リアンを見据えて、その返事を待った。

「……えっ、あ、良い……けど、君は、大丈夫なのか?」

今度は逆にリアンの方が、エリアスの少年らしからぬ、そのしっかりとした口調に、改めて驚きながら、エリ
アスの発した言葉に呼応するように返事をしていた。
その返答を受けて、エリアスはリアンから少しでも早く、自らが意図する事柄への理解を得ようと、更に言
を続ける。

「うん、今の俺には、回復魔導を使うための記憶はあるんだ。
 だから、貴方の力を少しだけ借りて、魔導を使いたい。
 ……今……俺の力だけでは、魔導を使うための体力と魔導力が少しだけ足りないから……
 ……それに、できれば、この背中の羽根も仕舞いたいんだ」

「えっ 、あ……そっか……別に……構わないけど……」

リアンは、腹部にかなりの傷を負ったまま、自らの置かれた状況を冷静に判断し、即座に行動を起こそうとし
ているエリアスの清明な判断力に驚きながら、あまり間を置くことなく、ほぼ、反射的にそう答えていた。
その上で、彼が、自分自身の背中に透明な光を帯びた4枚の美しい大きな羽根があることを既にしっかりと認
識しており、そのことを含めて、採るべき行動を選択しようとしていたことにも、感心していた。

「ありがとう、リアン殿、済まないが、身体に余計な負担をかけたくないんだ。
 こちら側に寄ってきてもらっても良いだろうか」

エリアスは、まだ少し驚いたような表情をしていたリアンの様子に構う事無く、傷口の痛みを押して、再び微
笑むと、リアンへと声をかける。
そのエリアスの言葉に促されるように、ベッドの端へと座ったリアンは、自分より少し背の低い、青銀の短い
髪と整った美しい容姿を持つ、その少年に視線を向けたまま、動けずにいた。

エリアスから、力を貸して欲しいと言われたものの、正直、どうして良いのか解らなかったからだ。
そんなリアンの様子を見ていたエリアスは、リアンのエメラルドグリーンの瞳を一度、真っ直ぐに見つめてか
ら、自らの身体を支えるためにベッドに付いていた手元へと少し視線を落としながら言った。

「……リアン殿……済まないが、貴方から、私の口元へと……口付けを贈ってほしいんだ」
「……えぇっ!!」

リアンは、エリアスのその言葉に驚いて声をあげながら、改めて相手を見返した。
彼を助ける時に、咄嗟に口移しで薬を飲ませはしたが、今、この状況で、その相手に再び口付けるのは、話が
別だ。
あの時は、人の生死が懸かっていたし、一応、これでも、自分も年頃の娘なのだし……などど、リアンの胸中
様々な思いが一瞬にして駆け巡る。

「…………本当に申し訳ないが、貴方から私へと、口付けて貴方の少し力を分けて欲しい。
 ……今は……本当に、そういう形でしか、貴方から力を受け取れないんだ」

リアンの慌てた様子を目にしながら、エリアスは再び真っ直ぐな視線をリアンの瞳に向けると、真摯な光を宿
した瞳で見つめながら、相手からの言葉を待った。

「分かった、いいよ、君にキスを贈るよ」

リアンは、小さくため息をついた後、覚悟を決めたかのように、そう言うと、間を置かずに自らの瞳を閉じて、
エリアスの唇へと軽く口付けた。
そのリアンの柔らかな唇が自らの唇から離れていこうとするのと同時に、エリアスは、小さな声で呟く。

「……ごめん、リアン殿……それじゃ駄目なんだ……済まないが、任せてほしい」

エリアスは、その言葉と同時に、自分の身体から離れようとしていたリアンの肩を抱くようにして、ベッドに
付いたままにしていた自らの片腕を伸ばすと、自らの顔を再びリアンの方へと寄せた。
それから、互いの唇が軽く触れ合うような、優しい口付けをリアンへと贈る。

「……ん!」

リアンが自ら唇を開くように促すために、エリアスは、その流れるような所作で再び軽く口付けると、自らの
舌をリアンの歯列へとほんの少しだけ割り入れた。

「……えっ! ……っあ!」

エリアスからの突然の行為に驚いたリアンは、その場で動けずにいる自分に慌てながら、小さく吐息を零すよ
うに、自らの唇を再び開いていた。
そのリアンの吐息に合わせるように、エリアスはリアンの唇を割って、更に深い口付けを交わしていく。
彼は、リアンの口腔内の奥へと自らの舌を深く差し入れると、リアンの舌を掬うようにして、自らの舌を絡め
ていった。

「う……っ、んん!! ……あ……あっ!!」

リアンは、こんなにも深く口付けられているのに、しかも予想外の相手に対して、全く抵抗できないでいる自
分に、驚いて動揺し、正直、何の抵抗もできなくなってしまった。
それに、怪我人を、ましては自分よりも明かに年下の少年を、この状況で、突き飛ばす訳にもいかない。
この少年が負っている大きな怪我のことを思うと、どう抵抗して良いのか、余計に解らなくなった。

「……ん……あぁ……!」

焦りにも似た気持ちを抱いていたリアンの感情をよそに、エリアスが贈るその深い口付けは、まるで想いを通
い合わせた恋人同士が贈り合い、更に深い抱擁へと移っていくものであるような錯覚さえ、彼女に与えていく。
リアンは、その甘い感覚が自らの背中へと走っていくのを感じると、自らの身体を無意識に小さく震わせた。

「あっ……や……んっ!」

エリアスは、そんなリアンの様子に構うことなく、リアンがその身に感じ始めている甘く疼くような感覚を更
に引き出すかのようにして、自らの舌をリアンの口腔内に丁寧に這わせていく。
そして、互いの唾液さえも交じり合い、濡れた音を立てていく程に、その口付けをより深くしていた。

「……ふ……あっ!」

リアンは、その甘い感覚に耐え兼ね、エリアスから身体を離そうと、相手の肩へと片手を軽く置いた。
それとほぼ同時に、エリアスは、彼女の柔らかな唇に、再び優しい口付けを贈ると、リアンの口元を解放した。

「……んっ、やぁ……あぁん!!」

エリアスが唇を放した瞬間、リアンは、無意識に自らが恥ずかしくなる程、艶めいた声を上げていた。

「……う……くっ……ぁ……いっ、痛……」

ところが、エリアスは、そのことを全く意識していないようで、小さな吐息をあげながら、今まで懸命に痛み
を堪えて支えていた、自らの身体をリアンの方へとゆっくりと預けるようにして寄りかかると、彼女に対して
礼を言った。

「リアン殿……ありがとう、これで魔導が使えるかな……」

その言葉の後で、エリアスは、リアンに身体を預けたまま、姿勢を保ちながら、再び小さな声でつぶやくと、
魔導方程式の出だしを詠唱し始めた。
そうして、エリアスは、ほんの少しの間を置いてから、自らの心に魔導を成立させるために必要になる複雑な
魔導方程式の全章を声には出さずに、正確に思い描いた後で、その魔導の発動を命じる言葉を口にする。

「……此の力を以って、我が身への回復をもたらすと同時に、我が命じる此の領域に結界を成立せしめよ!!」

エリアスがそう言い終えると同時に、その一瞬だけ、周りの空気が張り詰めたような気を放つと、魔導力を乗
せた新たな気が、鋭い音を立てて、辺り覆っていくような感覚に包まれた。
それと同時に、エリアスは、自らの腹部から痛みが引いていくのを確認すると、リアンに寄りかかり、身体を
預けたままで、ほっとしてため息をついた。

「リアン殿……済まない……でも……今の魔導の分で気力が精一杯で……
恐らくまだ羽根も仕舞えていないと思うんだけど……
本当に申し訳ないんだけど……もう少し気力が回復するまで……
しばらく……このまま……眠らせてほしい……」

エリアスは、そのままの姿勢で、リアンに対して、本当に申し訳なさそうに、小さな声で呟くようにして、そ
う言葉をかけた。

「……っえ! ……ちょっと! ……おい! 君っ!」

そうして、そのまま、咄嗟にエリアスの身体を抱きとめようとしたリアンの腕の中で、崩れ落ちるように眠り
へと落ちていった。
リアンはその姿勢のまま、その場で彼に何度か声をかけたが、エリアスの身体は既に完全に深い眠りへと落ち
ており、リアンの問いかけには全く反応を示さなかった。

「……もう、何なんだよ……!!」

崩れ落ちるように眠りについたエリアスの身体を抱えていたリアンは、ベッドに座り込んだまま、そう言うと、
そのまま動くことができずに、しばしその場で固まっているしか無い自分に、深いため息をついた。

〈END〉

投下終了-
また続きが書けると良いなぁ……と思ってますので、どうぞよろしく。

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