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BL-1-025

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メリークリスマス


25 :創る名無しに見る名無し:2008/12/25(木) 13:52:36 ID:xUMoESHL

メリークリスマス。
そう言ってあいつが俺の部屋に来たのは日付が変わるちょっと前。
まだ24日だ、って言ったら細かいことは気にするな、と返された。
細かいとかそういう問題じゃない。
俺はただ事実を言ったまでだ。
突然何の前触れもなくうちにやって来て、あがれとも言っていないのに靴を脱ぎ、
やつはさっさと俺の横をすり抜けリビングに向かっていった。
俺が拒否するなんてことはちっとも思っていないんだろう。
いつだってこいつはマイペースで、俺のことなんておかまいなしだ。
まったくなんでこんなことになったのか。
他人とは一線を引いて、自分の世界を守ってきたはずだった。
それなのにいつの間にかこいつは俺の隣にやってきた。
人懐っこい笑顔とそれに似合わない繊細さで俺の心に入ってきて、気づけばその真ん中にいた。
じわじわと俺の周りを侵食して、俺の引いた線を滲ませて、消して、内側に潜り込んだ。
あいつに好きだと告げられた時、すとんとその言葉が俺の中のどこかにおさまった。
不思議なことに気持ち悪いとか、拒否する気には全くならなかった。
何も考えず、反射のようにただ、俺も、と答えていた。
正直あの時あいつに恋愛感情を持っていたかときかれると自信がない。
好きだったことは確かだ。
あいつと一緒に過ごす時間は居心地がよかった。
この部屋に入れたことのある他人もあいつだけだった。
だけどそれでもそれが恋愛感情だったかどうかはわからない。
あいつの真剣な目に、声に、流されたというのは否定できない。
生まれて初めて出会った心を許せる友人を逃したくない、もしかしたらそういう打算があったのかもしれない。
無意識のうちに俺はそういうことを考えていたのかもしれなかった。
男に告白されたのは初めてだった。
あいつも男に告白したのは初めてだと言っていた。
俺たちはいたってノーマルだったのだ。
そんな俺たちが始めてキスをしたのは付き合い始めてひと月も経った頃だったろうか。
普通に考えれば一般的な成人男子の恋愛としては遅いほうだと思う。
少なくとも俺の経験から言えばそうだった。
キスくらい付き合ったその日にすることだってよくある話だ。
俺たちの初めてのキスは触れ合うような一瞬のキスで、唇を離して向き合ったあいつは顔を真っ赤にしながら笑ってた。
その顔を見て、俺はやっと自覚した。
ああ、俺はこいつが好きだなって。
あいつのことをとても愛しいと感じている自分に気がついた。
あいつの気持ちが痛いほどわかったから、俺も同じ気持ちなんだと、
俺もお前が想ってくれているのと同じように想っているんだと、この気持ちが伝わればいいと思いながらキスをし返した。
中学生がするようなやつじゃなくて、それ相応の、恋人同士のキスってやつを。
その時のことは今でもよく憶えている。
ひかえめに重なるだけの唇に焦れて、こじ開けた。
奥に引っ込んでいた舌を引きずり出して絡めて、貪るって言葉の意味をその時初めて知ったような気がした。

「食わないの?」
声をかけられてハッとした。
目の前で箱が揺れている。
「振るなよ、中身ケーキだぞ」
箱ん中でぐちゃぐちゃになるだろうが。
「だってせっかく買ってきたのにぜんぜん興味なさそうだし俺の話聞いてないし」
少し拗ねたような声。
頬をふくらませるな。いい大人がそんなことしたってかわいくないぞ。
「悪い、ちょっと考え事してた」
昔のことを思い出してた、なんて正直には言えない。
だってなんか恥ずかしいだろ。
こんな日にそんなことを思い出してるなんて。
「なに、なんかトラブってんの?」
ふくれっ面が真剣な表情に変わって声が低くなった。
ケーキの箱をテーブルに置き俺の目をまっすぐに見てくる。
ああもう…
「違うよ、心配すんなって」
ほんとお前は優しいね、こっちが申し訳なくなるくらい。
手を振って否定した。
お前の心配するようなことは何もない。
安心しろ。
「ほんとに?」
疑わしそうな視線に笑顔で頷いて、皿を取りに行こうと立ち上がった。
「お前も食うか?」
どうせ答えはわかっている。だけどいつも俺は尋ねる。
「いや、俺はいい」
予想通りの答えが返ってきて、だけどこれもいつも通りに俺は皿を二枚とフォークを二本用意する。
こうしないと嫌なんだ。
俺はケーキが好きで、こいつはケーキが嫌い。
絶対食べないけど、でも俺は毎回二人分の食器を用意する。
なんとなく。
そうしないと気持ちが悪い。落ち着かない。
これはもうほんとに、言葉ではうまく言い表せない、感覚的な問題。
初めの頃、俺のそんな行動をこいつは不思議そうな顔をして見ていた。だけど今じゃすっかり慣れて何も言わない。
皿をテーブルに置きそっと箱を開ける。
そこには俺好みのチョコレートケーキ。
サンタも家ものってない、柊の葉が一枚置かれたシンプルなケーキ。
「うわぁ…」
思わず声が出た。
すげえうまそう。
でもナイフを入れるのがもったいない。
すげえうまそうだけど、すげえ綺麗なんだよ。
それこそ芸術的なほど。
まったくここまでどストライクなケーキは久しぶりだった。
これはすぐに食べてしまうのはもったいない。
そう思ってしばらく眺めていたらふいにブッと隣の男が吹き出した。
ケーキに夢中でこいつがいたことなんてすっかり忘れてた。
「なんだよきたねえな」
せっかくの鑑賞タイムを邪魔されて横目で睨むと、こらえ切れないようにそいつが笑い出す。
「だって、子供みてぇ」
抑えた笑いが大きくなって太陽みたいな笑顔になる。
「いや、じつは最初のうわぁで既にけっこうやられてたんだけど、そこはぐっとこらえて、だけどいつまで経っても食わないし、
そんな子供みたいなキラキラした目でケーキ見つめてるあんた見てたらなんかもう可愛くて可愛くて」
「…うるせえな、このケーキはアートなんだよ。これのよさがわからないやつは黙ってろ」
何がキラキラしてるだ。馬鹿じゃねえの。
言いながらナイフを手に取った。
いよいよケーキにナイフを入れる。
ああ、これはいったいどんな味なんだろう。
期待に胸がふくらむ。

「これ見た瞬間あんたの顔が浮かんだんだ」
ぽつり、呟くように吐き出された言葉にケーキを切る手元が狂った。
「あんたのこと考えて、どんなケーキにしようか散々迷って、それでこれ見つけたときこれだ!って思った」
うっかり曲がってしまった切り口がこいつにばれませんように。
「俺にはこのケーキの味も芸術もよくわかんないけど、あんたの好きなケーキを選べる自信だけはある」
俺の動揺にも気づかず淡々と話すこいつにほっとしながらケーキを皿に移す。
変にどきどきさせるようなこと言いやがって。
これが計算じゃないからまた性質が悪い。
なんかよくわかんねえけど、すげえ愛の告白をされたような気がするのは気のせいだろうか。
どう反応したらいいかわかんないって。
こいつはたまにこういうことをさらっと言うから困るんだ。
まるでなんでもないことのようにさ。
言われるこっちはお前ほどあっさり聞けないよ。
「これ、あんたは気に入ってくれた?」
問いかけられていよいよごまかしがきかなくなって隣を見た。
真摯な瞳とぶつかって、俺もそれに応える。
「あたりまえだろ。ど真ん中もいいとこだ。まだ食ってないけど」
お前が選ぶもんに間違いなんかあるわけない。
確かにこれはもろ俺好みで、きっと味も最高なんだろう。
だけど別にこれがその辺のコンビニのケーキでも、お前が俺のことを思って買ってきてくれたもんならなんだっていいんだよ。
なんだって嬉しくて、隣にお前がいればなんだってうまいんだよ。
一口、ケーキを口に入れた。
やっぱり、味も完璧だった。
「…やべえ超うまい…」
もう一口、口に運ぶ。
「うまい?よかった」
隣でほっとしたように息を吐く気配がした。
「うまいよ、まじでうまい」
俺はあっという間にひと切れ食べきって、もうひと切れケーキを皿に載せた。
「悪いな、俺ばっかり食ってて」
俺一人、もくもくと食べている間、こいつは何をするでもなくただそこにいて俺を見ている。
「いいよ、俺はあとであんたを食べるから」
そのセンスのない言葉に呆れて俺はフォークを口に含んだまま横を見た。
二人掛けのソファの肘掛けに肘をついてそいつは相変わらず俺を見ていた。
見つめあい、無言の時間が流れる。
「…お前馬鹿だろ…」
先に沈黙を破ったのは俺で、そのまままたケーキに取り掛かる。
「なんで。馬鹿じゃないよ」
馬鹿だろ。
何、あんたを食べるからって。寒すぎる。
「俺変だと思うんだよ。恋人同士がさ、クリスマスに会わないなんて」
お前こそガキか。
正直年末のこのくそ忙しい時期にクリスマスだなんだってやってられないだろ。
学生じゃあるまいし。
俺もお前もそこそこ大事な仕事任されるようになったばっかりじゃねえか。
今ここでへまやらかしたら出世コースから脱落だ。
仕事だけが生きがいとは言わないが、仕事と恋愛どっちも上手くいってこそ人生楽しいんだよ。
今は少し仕事に力入れなきゃならない時期なんだ。
最後に笑うためにな。
「だから、俺一回家帰ったんだけど、やっぱりあんたに会いたくて、タクシー飛ばしてきた」
言いながら腕が伸びてきてそっと髪を撫でられる。
「おい…」
「ケーキだけ渡して、顔見たらすぐ帰ろうと思ってたんだけど、やっぱだめだった」
髪を撫でていた手が頭から離れて急にグッと左腕を引っ張られた。
「っ…!」
突然のことに反応できず右手からフォークが離れてカシャンとテーブルに落ちた音がした。
そのままその胸に引き寄せられて閉じ込められる。
強く抱きしめられて息苦しい。
「もうケーキはいいだろ?次は俺の番」
耳に注ぎ込むように囁かれてそのまま舐められた。

「お前ふざけんなよっ!明日も仕事なんだぞ!」
チラッと時計を見ればもう日付はとっくに変わっていた。
そんなことやってる場合じゃないって。
「大丈夫」
「ああ?!」
何が大丈夫だ!
腕の拘束をなんとか解こうともがきながら怒鳴り返した。
「最後までしないから」
俺も必死だけどこいつも必死で、逃がさないとばかりに抱きしめてくる。
こいつの方が俺よりたっぱもあるし重さもある。
ガチ勝負になったらかなわない。
当然俺はこいつの腕から抜け出せない。
「ちょっとだけ、咥えるだけでいいから。それがだめなら手でもいいから」
俺の動きを封じながら切なそうに懇願してくる。
「お前いっつもそんなこと言って結局それで終わったためしないだろ!」
そうだ。
そうやってしおらしくお願いしておきながらいざ始まったら結局最後までずるずる行くはめになる。
お前はそれできもちいいかもしれないけど、俺はきもちいいだけじゃ済まないんだよ。
俺はお前と違っていろいろ大変なんだ。
「んっ」
力じゃかなわないのは初めからわかってる。
俺は抵抗のかいもなくソファに押し倒された。
上にのしかかってくる馬鹿野郎をひと睨みしたけど効果はなかった。
俺の首筋に顔を埋めてくるそいつの頭を叩いてみた。
やっぱりこれも効果はなかった。
俺の背中をまさぐる手がシャツをズボンから引きずり出す。
そのまま前に回ってきた手がボタンを外していく。
全部外しきってその顔がまたおりてきたから、胸にキスされる前に両手で押しとどめた。
なんで?って目をするこいつの顔を両手で挟んで言い聞かせる。
「一回だけだからな」
俺の手に挟まれたままその顔がこくこくと上下に動く。
俺は少し笑いそうになった。
緩みそうになる口元に力を入れて真剣な顔を作る。
「それと、加減しろ」
言えば少しの間のあと、コクン、と一度頷いた。
なんだその間は。
嫌な予感がしつつも俺は手を放した。
すると待ってましたとばかりにその顔が近づいてきた。
チュッと音を立てて一瞬で離れた唇に俺は驚く。
目の前ではにかむように笑うその顔はあの時のままで。
胸にこみ上げる何かがあった。
なんでこのタイミングでそんなことするんだ。
俺はもうそうすることが当然のようにその顔を引き寄せて、あの時のようなキスを返した。
お互いが好きで好きでたまらない。そんなキスをしながら俺は思う。
結局俺だってこいつとしたくてしているんだと。
こいつが無理やり俺をどうにかしているわけでも流されているわけでもない。
本気で抵抗しないのは、俺がこいつのことを好きだから。
こいつとこういうことをするのを望んでいるから。
例え体がつらくても、それよりもこいつとこうしている時間のほうが大切で、何よりも幸せだから。
俺の体を撫で回す手のぬくもりをキスをしながら感じる。
忙しくしていた。
メールや電話じゃ埋められないなにかがそこにあった。
今のこの時間はこれからあともう少し、俺たちが忙しい日々を乗り越えるために必要なものなのかもしれない。
さっき言ったことなんてもうすっかり忘れていそうなこいつを抱きしめながら、朝まで眠れなくてもいいと思った。
一日くらい眠らなくたって、少しくらい体がきつくたって、今のこの瞬間に代えられるものなんて他にない。
こいつとこうしていることが、こいつの存在が、心の糧になるから。
そんな風に想える人間に出会えたことを無宗教のくせに神様に感謝したい気分になる。
神様ありがとう。こいつと出会わせてくれて。
こんなこと言われてあんたは迷惑かもしれないけど、今日は「愛」の日だから、同性愛も大目に見てくれるよな?神様。

━終━



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