{更新日:2026/04/06 Mon 23:00:12
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【その1】ヤスカタと雪の嬢編
ヤスカタは夢の図書館の司書だ。普段は高い本棚の間に篭り切っているが、さすがの本の虫も、たまには新鮮な空気を吸いたくなる。
「少し運動でもしようかしら」
…乙女心としては、少しぷよっとしてきたのも気になる。
ヤスカタは最低限の荷物を持って扉に手をかけた。いつもの散歩コースとして、ヤスカタは林檎の林を通り掛かった。甘酸っぱい香りが漂い、葉の隙間から木漏れ日がキラキラと地面に落ちる。
「そろそろ林檎が採れる頃ね。ジャムにコンポートに、そのまま食べても良いし…何より、アップルパイが焼けるのが良いわ」
ヤスカタは夢の図書館の司書だ。普段は高い本棚の間に篭り切っているが、さすがの本の虫も、たまには新鮮な空気を吸いたくなる。
「少し運動でもしようかしら」
…乙女心としては、少しぷよっとしてきたのも気になる。
ヤスカタは最低限の荷物を持って扉に手をかけた。いつもの散歩コースとして、ヤスカタは林檎の林を通り掛かった。甘酸っぱい香りが漂い、葉の隙間から木漏れ日がキラキラと地面に落ちる。
「そろそろ林檎が採れる頃ね。ジャムにコンポートに、そのまま食べても良いし…何より、アップルパイが焼けるのが良いわ」
林檎を何に使うか想像を膨らませるヤスカタの耳に、どこからともなく、軽やかな歌声が届いた。
──ワンダフルバースデイ、にゃんだふるバースデイ♪
歌は風に乗ってふわふわと漂い、ヤスカタの心をくすぐった。
(どこから聴こえてくるのかしら…?)
(どこから聴こえてくるのかしら…?)
──子犬や子猫と手を繋ぎ、お祝いの歌を歌いましょ♪
声は柔らかく、どこかいたずらっぽく、まるで彼女を誘うように響く。
──女の子ってお砂糖とスパイス、素敵ななにかでできてるっていうけど♪
(『What Are Little Boys Made of?』の引用ね。マザーグースなら、昔よく読んだわ…)
歌に導かれるように、ヤスカタは林檎の林を抜け、甘い香りに引き寄せられて歩みを進めた。
歌に導かれるように、ヤスカタは林檎の林を抜け、甘い香りに引き寄せられて歩みを進めた。
──甘い顔だけじゃない、裏も表もあるんだよ?♪
やがてヤスカタは、甘い香りに導かれるように一軒の喫茶店にたどり着いた。夕空に星屑が瞬く中、飴細工のようなガラス窓から漏れる暖かな光と、キャンディのようなカラフルな色彩が店を包む。店の看板には、虹色の文字で「オウマがトキ」と書かれ、まるで絵本から飛び出したような夢の空間が広がっていた。ヤスカタは深呼吸し、甘い香りに胸を躍らせながら扉を押した。
店内に入ると、ソーダカラーやフルーツカラーの少女たちが笑い合い、焼き菓子の香りがふわっと鼻をくすぐる。奥にある本棚が気になったが、甘い匂いに誘われて、まずは何か食べることにした。すると、店員のプラムが、ピンク色の体を弾ませながら元気よく近づいてきた。「女の子」を体現したような見た目が、喫茶店のメルヘンな雰囲気にぴったりだ。目の周りにとろけたような跡がある彼女は、満面の笑みでヤスカタを迎えた。
「いらっしゃーい!私、プラム!あなた、初めて見る子ね!お名前は?」
「私はヤスカタよ。よろしくね」
「よろしくねー!じゃ、こっちこっち!」
プラムに案内され、ふかふかの椅子に腰を下ろす。よく見るとマカロンの椅子だ。人が座れるマカロンなんて、現実にはあり得ない。ヤスカタが目を輝かせながらメニューを手に取ると、大好きなアップルパイの文字が目に飛び込んできた。
(やっぱり、アップルパイは頼まなくちゃね)
いつもならば飲み物はミルクティーと決めているが「マシュベロス・ホットココア」という聞き慣れない飲み物が気になり、そちらも注文することにした。
「はーい!アップルパイとマシュベロス・ホットココア、すぐ持ってくるねー!」
プラムが弾んだ声で厨房へ走っていく。その足元で、真っ白なマシュマロのような子犬がちょこちょこと動き回り、「イヌヌワン!」と可愛らしい鳴き声を上げた。
「マシュマロ…?」
プラムが振り返り、笑顔で説明する。
「その子はマロロン!うちのマスコットなの!今注文したココアのマシュマロもマロロンがモデルなんだよ!」
「イヌヌワン!」
待っている間に店内を眺める。プラムに似た色違いの少女たちがテキパキと動き回り、見るからに人ならざる少女たちが店内を盛り上げている。怪異と違い、恐怖は一切感じなかった。ヤスカタの席の近くでは、白みがかった薄い緑色のふわふわした髪の少女が机に突っ伏して眠っているが、まるで羊が眠っているようで心が和んでしまう。
しばらくして、プラムがトレイを持って戻ってきた。
「はいっ、お待たせしましたー!」
アップルパイはサクサクの生地にリンゴの甘酸っぱさが絶妙で、シナモンの香りが豊かに香る絶品だった。マシュベロス・ホットココアは、温かなココアの表面にマロロンを模した犬型の白いマシュマロがぷかぷか浮かんでいて、飲む前からヤスカタの心を掴んだ。スプーンでマシュマロをすくって口に運ぶと、ふんわり溶ける甘さに思わず目を細めた。
「美味しい…!プラム、このマシュマロ、最高ね!」
「あはは!そうでしょー!」
「いらっしゃーい!私、プラム!あなた、初めて見る子ね!お名前は?」
「私はヤスカタよ。よろしくね」
「よろしくねー!じゃ、こっちこっち!」
プラムに案内され、ふかふかの椅子に腰を下ろす。よく見るとマカロンの椅子だ。人が座れるマカロンなんて、現実にはあり得ない。ヤスカタが目を輝かせながらメニューを手に取ると、大好きなアップルパイの文字が目に飛び込んできた。
(やっぱり、アップルパイは頼まなくちゃね)
いつもならば飲み物はミルクティーと決めているが「マシュベロス・ホットココア」という聞き慣れない飲み物が気になり、そちらも注文することにした。
「はーい!アップルパイとマシュベロス・ホットココア、すぐ持ってくるねー!」
プラムが弾んだ声で厨房へ走っていく。その足元で、真っ白なマシュマロのような子犬がちょこちょこと動き回り、「イヌヌワン!」と可愛らしい鳴き声を上げた。
「マシュマロ…?」
プラムが振り返り、笑顔で説明する。
「その子はマロロン!うちのマスコットなの!今注文したココアのマシュマロもマロロンがモデルなんだよ!」
「イヌヌワン!」
待っている間に店内を眺める。プラムに似た色違いの少女たちがテキパキと動き回り、見るからに人ならざる少女たちが店内を盛り上げている。怪異と違い、恐怖は一切感じなかった。ヤスカタの席の近くでは、白みがかった薄い緑色のふわふわした髪の少女が机に突っ伏して眠っているが、まるで羊が眠っているようで心が和んでしまう。
しばらくして、プラムがトレイを持って戻ってきた。
「はいっ、お待たせしましたー!」
アップルパイはサクサクの生地にリンゴの甘酸っぱさが絶妙で、シナモンの香りが豊かに香る絶品だった。マシュベロス・ホットココアは、温かなココアの表面にマロロンを模した犬型の白いマシュマロがぷかぷか浮かんでいて、飲む前からヤスカタの心を掴んだ。スプーンでマシュマロをすくって口に運ぶと、ふんわり溶ける甘さに思わず目を細めた。
「美味しい…!プラム、このマシュマロ、最高ね!」
「あはは!そうでしょー!」
アップルパイとココアを堪能し、満足したヤスカタは、土産にマロロンのマシュマロを買おうと決めた。プラムに尋ねると、彼女はカウンターの後ろから小さな紙袋を取り出し、ふわふわのマシュマロを詰めてくれた。犬のマシュマロが詰まった中身もまた、大変可愛らしい。
ふと、店の奥の本棚に目をやると、くるくるとした巻き毛が印象的な黒猫が、本の間でしなやかに動くのが見えた。──店員ののじゃロリ猫だ。今日も今日とて仕事をサボっていたのだが、ヤスカタの猫キチセンサーが全開になる。
「ネコチャン!」
ヤスカタは勢いのまま手を伸ばして撫でようとした瞬間、のじゃロリ猫はギョッとした目でヤスカタを振り返った。
「のわあ!?つ、つまみ食いがバレたのか!?」
またフロートに怒られると勘違いした彼女は、慌てて本棚の奥へ逃げ出した。
「待って、ネコチャン!ただちょっと撫でたいだけなの!」
「にょわあああああああっ!」
ヤスカタは夢中になって追いかける。書庫の奥へと突き進むと、突然、目の前が開け、壁一面に色とりどりの絵画が並ぶ部屋に迷い込んだ。まるで美術館のように荘厳な雰囲気の中、絵画の一つに一面の雪景色が描かれているのが目に入った。よく見ると、その絵画から、まるい白いお尻が突き出ていた。お尻にちょこんとついた、まん丸でふんわりとしたしっぽ……しろくまかな?
「……なにかしら?」
ヤスカタは思わずお尻を掴んで引っ張ると、ふかふかのしろくまの着ぐるみを着た女の子が絵画から飛び出した。白い髪にレモン色の瞳、まるでぬいぐるみがそのまま動き出したような愛らしい少女だった。
「たすかったぞ。さんくす!」
しろくま少女の名前は、雪。学校の友達は雪の嬢と呼ぶらしい。
「雪の嬢…?どうして絵画の中に?」
「えのなかにはいるとな、りびんぐらびりんすにいけるんだ」
「リビングラビリンス?」
「おかしでできただんじょんのことだ。そこの『さんでー・まうんてん』で、あいすをたべまくってたら、なだれにあっちゃって…」
「そう…災難だったわね」
「あいすばっかたべたから、こんどはちょこれーとがたべたくなったなあ」
彼女はそう言うと、壁に並ぶ絵画に目をやり、「チョコレート・バレー」とタイトルが書かれた絵を見つけた。そこには、チョコレートやチョコケーキの谷に、チョコレートファウンテンの川が流れる甘い世界が描かれている。雪の嬢は目をキラキラさせ、「これこれ!ここだー!」と絵画に飛び込んだ。
「待って!面白そう!私も連れてって!」
ヤスカタの好奇心が爆発し、雪の嬢の後を追って絵画に飛び込む。ふわっとした感覚の後、足元にはトリュフチョコの岩がゴロゴロ転がり、頭上にはキャラメルの雲が浮かぶ甘いチョコレートの世界が広がっていた。「もぎゅー!うまー!」
雪の嬢は早速チョコレートの岩壁に駆け寄り、モグラのように食べ進めていた。ヤスカタも、一面チョコレートの世界に目を奪われながら、雪の嬢の後を追いかけていく。視線を巡らせると、トリュフチョコの岩蔭でこそこそ動く小さな影が見えた。よく見ると、チョコレートでできた鶏型のモンスター、ショコラドルチェがこちらを覗いている。人形のような形とキラキラしたマーブルチョコの目が愛らしく、庇護欲を掻き立てる。チョコレートの地面を鳥型のモンスター、チーウィの親子がキョロロ、キョロロと鳴きながら走り、雛の方は転がりながら移動しているのがまた愛らしい。
少し離れたところでは、キノコ型の傘を被った河童のようなモンスター、キノガラッパが、液体チョコをドロドロと生成していた。その横で、タケノコ型の体をした豚のようなモンスター、タケノトンが負けじと固体チョコの塊をボコボコ作り出して張り合っている。
「すごい…どの図鑑にも載ってないモンスターたちばかりだわ…!」
見たことも聞いたこともないようなモンスターたちの姿に、ヤスカタはすっかり魅了されていた。
「ネコチャン!」
ヤスカタは勢いのまま手を伸ばして撫でようとした瞬間、のじゃロリ猫はギョッとした目でヤスカタを振り返った。
「のわあ!?つ、つまみ食いがバレたのか!?」
またフロートに怒られると勘違いした彼女は、慌てて本棚の奥へ逃げ出した。
「待って、ネコチャン!ただちょっと撫でたいだけなの!」
「にょわあああああああっ!」
ヤスカタは夢中になって追いかける。書庫の奥へと突き進むと、突然、目の前が開け、壁一面に色とりどりの絵画が並ぶ部屋に迷い込んだ。まるで美術館のように荘厳な雰囲気の中、絵画の一つに一面の雪景色が描かれているのが目に入った。よく見ると、その絵画から、まるい白いお尻が突き出ていた。お尻にちょこんとついた、まん丸でふんわりとしたしっぽ……しろくまかな?
「……なにかしら?」
ヤスカタは思わずお尻を掴んで引っ張ると、ふかふかのしろくまの着ぐるみを着た女の子が絵画から飛び出した。白い髪にレモン色の瞳、まるでぬいぐるみがそのまま動き出したような愛らしい少女だった。
「たすかったぞ。さんくす!」
しろくま少女の名前は、雪。学校の友達は雪の嬢と呼ぶらしい。
「雪の嬢…?どうして絵画の中に?」
「えのなかにはいるとな、りびんぐらびりんすにいけるんだ」
「リビングラビリンス?」
「おかしでできただんじょんのことだ。そこの『さんでー・まうんてん』で、あいすをたべまくってたら、なだれにあっちゃって…」
「そう…災難だったわね」
「あいすばっかたべたから、こんどはちょこれーとがたべたくなったなあ」
彼女はそう言うと、壁に並ぶ絵画に目をやり、「チョコレート・バレー」とタイトルが書かれた絵を見つけた。そこには、チョコレートやチョコケーキの谷に、チョコレートファウンテンの川が流れる甘い世界が描かれている。雪の嬢は目をキラキラさせ、「これこれ!ここだー!」と絵画に飛び込んだ。
「待って!面白そう!私も連れてって!」
ヤスカタの好奇心が爆発し、雪の嬢の後を追って絵画に飛び込む。ふわっとした感覚の後、足元にはトリュフチョコの岩がゴロゴロ転がり、頭上にはキャラメルの雲が浮かぶ甘いチョコレートの世界が広がっていた。「もぎゅー!うまー!」
雪の嬢は早速チョコレートの岩壁に駆け寄り、モグラのように食べ進めていた。ヤスカタも、一面チョコレートの世界に目を奪われながら、雪の嬢の後を追いかけていく。視線を巡らせると、トリュフチョコの岩蔭でこそこそ動く小さな影が見えた。よく見ると、チョコレートでできた鶏型のモンスター、ショコラドルチェがこちらを覗いている。人形のような形とキラキラしたマーブルチョコの目が愛らしく、庇護欲を掻き立てる。チョコレートの地面を鳥型のモンスター、チーウィの親子がキョロロ、キョロロと鳴きながら走り、雛の方は転がりながら移動しているのがまた愛らしい。
少し離れたところでは、キノコ型の傘を被った河童のようなモンスター、キノガラッパが、液体チョコをドロドロと生成していた。その横で、タケノコ型の体をした豚のようなモンスター、タケノトンが負けじと固体チョコの塊をボコボコ作り出して張り合っている。
「すごい…どの図鑑にも載ってないモンスターたちばかりだわ…!」
見たことも聞いたこともないようなモンスターたちの姿に、ヤスカタはすっかり魅了されていた。
だが、突然、地面がズシンと揺れ、凄まじい地響きが響き渡った。ショコラドルチェやチーウィたちは驚いて岩蔭に隠れ、キノガラッパとタケノトンも慌ててチョコの地面に潜り込んでしまう。
「え、なに!?なんなの!?」
とっさに雪の嬢を抱き寄せて辺りを見回すと、チョコレートの丘の向こうから巨大な影が現れた。
それは、三十メートルはあろうかという、チョコレート色の鱗に覆われた怪獣、ガ・トーだった。チョコレート・バレーを支配する強力なエリアボスだ。赤い瞳を爛々と輝かせ、牙を剥き出し、口からチョコの光線を吐き出すその姿に、ヤスカタは息を呑んだ。
「でっかいかいじゅう!かっこいい!」
雪の嬢は目を輝かせると、着ぐるみのポケットからしろくま型の小さなボールを取り出した。ピオーネからもらった「もぎゅすたーぼーる」だ。
「よーし、げっとできるかためしてみる!」
そう言うなり、なんと、いきなりボールをガ・トーに向かって投げつけたのだ。
「ちょっと、雪の嬢!無茶よ!」
ヤスカタが叫ぶが、ボールは見事ガ・トーに命中。すると、ガ・トーの巨大な体が光に包まれ、みるみる内にボールの中に吸い込まれた。そして、星型の光が弾け飛び、「てーてーてー♪ててててててー♪」という、どこかで聞いたようなBGMが流れる──捕獲成功だ!
「やったー!が・とー、げっとだぜ!」
雪の嬢は大喜びでボールを拾い上げ、くるりと回ってピースサインを決めた。だが、ボールがカタカタと不気味に震え始め、ピキピキとひび割れの音が響く。
「……ちょっと待って!様子がおかしいわ!」
ヤスカタが慌てて叫ぶと、雪の嬢の手からボールが弾け飛び、怒り狂ったガ・トーが再び姿を現した。
「お前ら、よくも俺を閉じ込めやがって!チョコにして喰ってやる!」
ガ・トーが咆哮し、口からチョコの光線を放ちながら襲いかかってきた。そもそも戦いに適した魔法を使わないヤスカタが、巨大なモンスターに太刀打ちしようがなかった。
「まずい…!あんな大きな怪獣なんて、私じゃ対処できない…!」
しかし、雪の嬢はそんなことはどこ吹く風で、「わーっ、たのしそう!」ときゃっきゃと笑っている。光線がチョコレートの地面を抉りながらどんどん近づいてくる中、ヤスカタは転送魔法を唱えた。
「え、なに!?なんなの!?」
とっさに雪の嬢を抱き寄せて辺りを見回すと、チョコレートの丘の向こうから巨大な影が現れた。
それは、三十メートルはあろうかという、チョコレート色の鱗に覆われた怪獣、ガ・トーだった。チョコレート・バレーを支配する強力なエリアボスだ。赤い瞳を爛々と輝かせ、牙を剥き出し、口からチョコの光線を吐き出すその姿に、ヤスカタは息を呑んだ。
「でっかいかいじゅう!かっこいい!」
雪の嬢は目を輝かせると、着ぐるみのポケットからしろくま型の小さなボールを取り出した。ピオーネからもらった「もぎゅすたーぼーる」だ。
「よーし、げっとできるかためしてみる!」
そう言うなり、なんと、いきなりボールをガ・トーに向かって投げつけたのだ。
「ちょっと、雪の嬢!無茶よ!」
ヤスカタが叫ぶが、ボールは見事ガ・トーに命中。すると、ガ・トーの巨大な体が光に包まれ、みるみる内にボールの中に吸い込まれた。そして、星型の光が弾け飛び、「てーてーてー♪ててててててー♪」という、どこかで聞いたようなBGMが流れる──捕獲成功だ!
「やったー!が・とー、げっとだぜ!」
雪の嬢は大喜びでボールを拾い上げ、くるりと回ってピースサインを決めた。だが、ボールがカタカタと不気味に震え始め、ピキピキとひび割れの音が響く。
「……ちょっと待って!様子がおかしいわ!」
ヤスカタが慌てて叫ぶと、雪の嬢の手からボールが弾け飛び、怒り狂ったガ・トーが再び姿を現した。
「お前ら、よくも俺を閉じ込めやがって!チョコにして喰ってやる!」
ガ・トーが咆哮し、口からチョコの光線を放ちながら襲いかかってきた。そもそも戦いに適した魔法を使わないヤスカタが、巨大なモンスターに太刀打ちしようがなかった。
「まずい…!あんな大きな怪獣なんて、私じゃ対処できない…!」
しかし、雪の嬢はそんなことはどこ吹く風で、「わーっ、たのしそう!」ときゃっきゃと笑っている。光線がチョコレートの地面を抉りながらどんどん近づいてくる中、ヤスカタは転送魔法を唱えた。
「…っ、図書館に戻って!」
その瞬間、緑色の光に包まれ、ヤスカタと雪の嬢は夢の図書館に戻っていた。
ヤスカタは夢の図書館の高い本棚の間に戻り、燭台の揺れる灯りに照らされた静かな空間で大きく息を吐いた。心臓はまだドキドキと高鳴っている。目の前では、雪の嬢がチョコレートの欠片をぽりぽりと頬張っている。まるでさっきのガ・トーとの命がけの遭遇など、ただの楽しい追いかけっこだったかのようだ。
「ふぅ…危なかった…」
ヤスカタは額の汗を拭い、近くの本棚に凭れて座り込んだ。雪の嬢は「でも、たのしかっただろ?」と笑いながら、着ぐるみのポケットからトリュフチョコの欠片を取り出して差し出す。
「ほら、やすかたもくえ」
「あら、ありがとう」
ヤスカタは受け取ったチョコを口に放り込むと、濃厚な甘さが舌の上で溶け、思わず目を細めた。チョコレート・バレーの光景が脳裏に蘇る。トリュフチョコの岩、キャラメルの雲、チョコレートファウンテンの川。そして、ショコラドルチェやチーウィ、キノガラッパやタケノトンといった、どの図鑑にも載っていない不思議なモンスターたち。あの甘い世界は、まるで絵本や夢の中から飛び出してきたかのようだった。
ヤスカタは額の汗を拭い、近くの本棚に凭れて座り込んだ。雪の嬢は「でも、たのしかっただろ?」と笑いながら、着ぐるみのポケットからトリュフチョコの欠片を取り出して差し出す。
「ほら、やすかたもくえ」
「あら、ありがとう」
ヤスカタは受け取ったチョコを口に放り込むと、濃厚な甘さが舌の上で溶け、思わず目を細めた。チョコレート・バレーの光景が脳裏に蘇る。トリュフチョコの岩、キャラメルの雲、チョコレートファウンテンの川。そして、ショコラドルチェやチーウィ、キノガラッパやタケノトンといった、どの図鑑にも載っていない不思議なモンスターたち。あの甘い世界は、まるで絵本や夢の中から飛び出してきたかのようだった。
「ねえ、雪の嬢。あの『リビングラビリンス』って、他にもエリアがあるの?」
ヤスカタの好奇心が疼き始める。図書館の司書としての知識欲が、未知の世界への興味を掻き立てていた。
「おう!でてくるもんすたーも、らびりんすでちがうぞ!」
「モンスター…そうね。あんな生き物、初めて見たわ。魔法生物の図鑑にも論文にも出てこない…」
ヤスカタの目はキラキラと輝き、頭の中ではすでに新しい図鑑のページを編纂するイメージが膨らんでいた。だが、同時にガ・トーの恐ろしい姿が脳裏をよぎり、彼女は少し身震いした。
「でも、危険なモンスターもいるのよね…。あんなのにまた出くわしたら、命がいくつあっても足りないかも…」
ヤスカタは苦笑しながら、ふとある考えが浮かんだ。
「ねえ、雪の嬢。あなた、あのリビングラビリンスに慣れてるみたいだし、もっと詳しく調べてきてくれる? 私、新しい世界のことを知るのは好きなんだけど…あの迷宮を自分で全部探検するのは、ちょっと体力的に厳しいのよね」
ヤスカタは少し恥ずかしそうに笑った。普段は本のページをめくるだけで満足できる彼女だが、リビングラビリンスのような未知の世界には、どうしても心が惹かれてしまう。
「いいぞ!どんなえりあがあって、どんなもんすたーがいるか、ぜーんぶしらべてきてやる!」
「ありがとう。じゃあ、早速調査の計画を立てましょ。リビングラビリンスのエリアを一つずつ回って、モンスターやお菓子の種類、特徴、危険度なんかを記録してほしいの。たくさん食べるだけで良いのよ。私があなたの記憶をまとめて図鑑にするから」
「わかったー!…でも、やすかたもいっしょならたのしいのに」
「う…気持ちは嬉しいけど、私は本棚の間で本を読んでる方が性に合ってるみたい。あなたみたいに、チョコの岩をかじりながら走り回る体力はないわ」
ヤスカタはクスッと笑い、引き出しからドクロのバッジを取り出した。
「でも、このバッジには通信機能もあるから、お喋りしながら冒険しましょ。それに、さっきみたいな危ないことがあったら、すぐここに飛べるようにしておくわ…あなたのことだから、また無茶しそうで心配だし」
「まかせな!わたしのぱわーなら、どんなもんすたーもくっちまうからな!」
雪の嬢は胸を張り、着ぐるみの腕をぶんぶん振り回した。その姿に、ヤスカタは思わず吹き出してしまった。
ヤスカタの好奇心が疼き始める。図書館の司書としての知識欲が、未知の世界への興味を掻き立てていた。
「おう!でてくるもんすたーも、らびりんすでちがうぞ!」
「モンスター…そうね。あんな生き物、初めて見たわ。魔法生物の図鑑にも論文にも出てこない…」
ヤスカタの目はキラキラと輝き、頭の中ではすでに新しい図鑑のページを編纂するイメージが膨らんでいた。だが、同時にガ・トーの恐ろしい姿が脳裏をよぎり、彼女は少し身震いした。
「でも、危険なモンスターもいるのよね…。あんなのにまた出くわしたら、命がいくつあっても足りないかも…」
ヤスカタは苦笑しながら、ふとある考えが浮かんだ。
「ねえ、雪の嬢。あなた、あのリビングラビリンスに慣れてるみたいだし、もっと詳しく調べてきてくれる? 私、新しい世界のことを知るのは好きなんだけど…あの迷宮を自分で全部探検するのは、ちょっと体力的に厳しいのよね」
ヤスカタは少し恥ずかしそうに笑った。普段は本のページをめくるだけで満足できる彼女だが、リビングラビリンスのような未知の世界には、どうしても心が惹かれてしまう。
「いいぞ!どんなえりあがあって、どんなもんすたーがいるか、ぜーんぶしらべてきてやる!」
「ありがとう。じゃあ、早速調査の計画を立てましょ。リビングラビリンスのエリアを一つずつ回って、モンスターやお菓子の種類、特徴、危険度なんかを記録してほしいの。たくさん食べるだけで良いのよ。私があなたの記憶をまとめて図鑑にするから」
「わかったー!…でも、やすかたもいっしょならたのしいのに」
「う…気持ちは嬉しいけど、私は本棚の間で本を読んでる方が性に合ってるみたい。あなたみたいに、チョコの岩をかじりながら走り回る体力はないわ」
ヤスカタはクスッと笑い、引き出しからドクロのバッジを取り出した。
「でも、このバッジには通信機能もあるから、お喋りしながら冒険しましょ。それに、さっきみたいな危ないことがあったら、すぐここに飛べるようにしておくわ…あなたのことだから、また無茶しそうで心配だし」
「まかせな!わたしのぱわーなら、どんなもんすたーもくっちまうからな!」
雪の嬢は胸を張り、着ぐるみの腕をぶんぶん振り回した。その姿に、ヤスカタは思わず吹き出してしまった。
【その2】アルマン編
北海道で起きた連続少女誘拐事件──子供たちの間で広がる奇妙な夢の噂。
『菓子でできた迷宮に迷い込んだ夢』『不思議な喫茶店でモンスターに襲われた夢』。
そして、噂を話した子供たちが次々と行方不明になるという。
北海道で起きた連続少女誘拐事件──子供たちの間で広がる奇妙な夢の噂。
『菓子でできた迷宮に迷い込んだ夢』『不思議な喫茶店でモンスターに襲われた夢』。
そして、噂を話した子供たちが次々と行方不明になるという。
ある小学校甲斐みれいという少女がいた。彼女は難治性の病気で長く入院していた。見舞いに来ていたのは両親と、クラスメイトの六人だけ。比護(ひご)みどり、氷室(ひむろ)カコ、嵯峨(さが)ほのか、甘夏(あまなつ)れもん、甘夏ひなた、大石(おおいし)サキ──因みに、この六人が連続少女誘拐事件の被害者だ。単純な推測だが、甲斐みれいこそ、事件の鍵を握っているとアルマンは睨んだ。
「これは……実に美味しそうな事件だ。怪異の匂いがプンプンするね」
アルマンは楽しげに独り言を呟くと、指を鳴らした。たちまち黒い霧が彼の体を包み込むと、次の瞬間、アルマンが立っていたのは、薄暗い空の下に佇む大きな病院だった。
誘拐事件の中心人物、甲斐みれいが入院していた場所だ。
「やはり怪異の匂いが濃い。最高の舞台じゃないか」
アルマンは一人、満足げに笑いながら病院の入口へ足を踏み入れた。
受付には白衣の女性が書類を整理しており、蛍光灯のチカチカする光が彼女の顔を青白く照らす。消毒液の匂いが鼻をつく中、アルマンはカウンターに近づき、黒い霧を薄く漂わせた。
「あの…」
女性が口を開く前にアルマンが指を鳴らすと、彼女の目が一瞬曇る。女性は「どうぞ、お入りください」と機械的に呟くと、書類に視線を戻した。
アルマンは楽しげに独り言を呟くと、指を鳴らした。たちまち黒い霧が彼の体を包み込むと、次の瞬間、アルマンが立っていたのは、薄暗い空の下に佇む大きな病院だった。
誘拐事件の中心人物、甲斐みれいが入院していた場所だ。
「やはり怪異の匂いが濃い。最高の舞台じゃないか」
アルマンは一人、満足げに笑いながら病院の入口へ足を踏み入れた。
受付には白衣の女性が書類を整理しており、蛍光灯のチカチカする光が彼女の顔を青白く照らす。消毒液の匂いが鼻をつく中、アルマンはカウンターに近づき、黒い霧を薄く漂わせた。
「あの…」
女性が口を開く前にアルマンが指を鳴らすと、彼女の目が一瞬曇る。女性は「どうぞ、お入りください」と機械的に呟くと、書類に視線を戻した。
アルマンは当たり前のようにエレベーターに乗り、三階へ向かった。
甲斐みれいの病室──307号室。
扉の窓から中を覗くと、別の患者が眠っていた。アルマンは再び霧を操り、患者の意識を浅く眠らせて部屋に踏み込む。室内には、無機質な白い壁とカーテン。だが、アルマンの注意を引いたのは、部屋に漂う甘い香りだった。病院で匂うはずのない、キャンディやクッキーを思わせる甘さだ。アルマンはコートの内側から小さな水晶玉を取り出し、指先に黒い霧を凝らした。
扉の窓から中を覗くと、別の患者が眠っていた。アルマンは再び霧を操り、患者の意識を浅く眠らせて部屋に踏み込む。室内には、無機質な白い壁とカーテン。だが、アルマンの注意を引いたのは、部屋に漂う甘い香りだった。病院で匂うはずのない、キャンディやクッキーを思わせる甘さだ。アルマンはコートの内側から小さな水晶玉を取り出し、指先に黒い霧を凝らした。
─Lumen, revelator arcana structura.─
(光よ、秘められし構造を暴け)
(光よ、秘められし構造を暴け)
青白い光が部屋をスキャンし、ベッドの周囲に蜘蛛の巣のような妖力の脈が浮かび上がる。
アルマンは水晶玉を凝視し、楽しげに目を細めた。
「夢魔……菓子をメインにしているならば、恐らくはパティシエ気取りかな。ヘンゼルとグレーテルよろしく、菓子で子供たちを誘っているわけだ。面白い」
夢魔は欲望が強い分、その特性から専門職を兼ねる輩が多い。アルマンは水晶玉をしまい、部屋を一瞥した。
「みれいの空想が鍵……彼女の空想を具現化するために、クラスメイトを夢の世界に連れ去った。そう考えるのが自然だな──よし、次は小学校に向かうか」
黒い霧が再びアルマンを包み、病院から古びた小学校の校庭へと転移した。
アルマンは水晶玉を凝視し、楽しげに目を細めた。
「夢魔……菓子をメインにしているならば、恐らくはパティシエ気取りかな。ヘンゼルとグレーテルよろしく、菓子で子供たちを誘っているわけだ。面白い」
夢魔は欲望が強い分、その特性から専門職を兼ねる輩が多い。アルマンは水晶玉をしまい、部屋を一瞥した。
「みれいの空想が鍵……彼女の空想を具現化するために、クラスメイトを夢の世界に連れ去った。そう考えるのが自然だな──よし、次は小学校に向かうか」
黒い霧が再びアルマンを包み、病院から古びた小学校の校庭へと転移した。
「病院より濃いな……ここでも何かが行われたようだな」
校庭には微かに甘い香りが漂っている。アルマンは香りを辿って飼育小屋へ向かい、地面に落ちていたクッキーのような欠片を拾い上げた。指先に砂糖のざらつきと、はっきりとした妖力が感じられた。
「飼育小屋の動物も何匹かやられているな…モンスターにでもしたのか?……ところで、後をつけるなんて良い趣味じゃないか、Fräulein?」
アルマンの問いかけに呼応するかのようにカラスがけたたましく鳴き、校庭の奥から一人の少女が現れた。
黒いワンピースにケープを羽織り、柊の髪飾りが揺れている。黄色の瞳がアルマンを冷たく見据えていた。
「事件を嗅ぎ回る不届き者め。私たちの“世界”をめちゃくちゃにするなら容赦しないわ」
途端に少女の足元に魔方陣が浮かび、土と菓子が混ざったゴーレムが二体、地面から盛り上がった。
「ほう、ゴーレム生成術か。夢魔の協力者にしては、なかなか洗練された技術だね。君、なかなか面白い子じゃないか」
アルマンの霧の中から黒い針が放たれ、少女の喉元を狙うも、少女は軽やかに身を翻してゴーレムに命じた。
校庭には微かに甘い香りが漂っている。アルマンは香りを辿って飼育小屋へ向かい、地面に落ちていたクッキーのような欠片を拾い上げた。指先に砂糖のざらつきと、はっきりとした妖力が感じられた。
「飼育小屋の動物も何匹かやられているな…モンスターにでもしたのか?……ところで、後をつけるなんて良い趣味じゃないか、Fräulein?」
アルマンの問いかけに呼応するかのようにカラスがけたたましく鳴き、校庭の奥から一人の少女が現れた。
黒いワンピースにケープを羽織り、柊の髪飾りが揺れている。黄色の瞳がアルマンを冷たく見据えていた。
「事件を嗅ぎ回る不届き者め。私たちの“世界”をめちゃくちゃにするなら容赦しないわ」
途端に少女の足元に魔方陣が浮かび、土と菓子が混ざったゴーレムが二体、地面から盛り上がった。
「ほう、ゴーレム生成術か。夢魔の協力者にしては、なかなか洗練された技術だね。君、なかなか面白い子じゃないか」
アルマンの霧の中から黒い針が放たれ、少女の喉元を狙うも、少女は軽やかに身を翻してゴーレムに命じた。
「潰しなさい!」
ゴーレムが地響きを立ててアルマンに迫る。
アルマンは黒い霧を操り、一体のゴーレムを霧の中に引きずり込んで封じ込めた。
「ゴーレムは少々手間だがまあ、十分遊べるな」
もう一体のゴーレムが拳を振り下ろす。アルマンは軽くステップを踏んで避けると、再び針を放った。
「くっ!」
針は少女の頬を掠めると、血の代わりにピンク色の煙が溢れた。ピンク色の煙は量を増してアルマンに迫るが、アルマンが黒い霧を操り、煙を吸収する。
「…ほう、明晰夢を見せる煙か」
「なに?!」
アルマンの解析に少女は一瞬怯むが、すぐに新たなゴーレムを召喚しようとする。アルマンは目を輝かせ、感嘆の声を上げた。
「いやあ、それにしても素晴らしい生成技術だ!ゴーレムを次々と召喚出来る術者はそうそういないんだ!君、夢魔の協力なんか辞めて俺の助手にならないかな?」
「ふざけるな!貴様は今ここで潰す!」
アルマンは小さく笑うと、黒い霧を一気に収束させ、少女のゴーレムの生成を中断させようと迫る。だが、その瞬間、霧の奥から鳥のような黒い影が現れ、少女を掴んで空に舞う。
「何だあれは?」
アルマンはその後を追う間もなく、その姿は消えてしまっていた。
(今の鳥もまた夢魔の協力者だろう。だが、先程吸収した煙のサンプルである程度解析できる……焦る必要はない)
アルマンは黒い霧を操り、一体のゴーレムを霧の中に引きずり込んで封じ込めた。
「ゴーレムは少々手間だがまあ、十分遊べるな」
もう一体のゴーレムが拳を振り下ろす。アルマンは軽くステップを踏んで避けると、再び針を放った。
「くっ!」
針は少女の頬を掠めると、血の代わりにピンク色の煙が溢れた。ピンク色の煙は量を増してアルマンに迫るが、アルマンが黒い霧を操り、煙を吸収する。
「…ほう、明晰夢を見せる煙か」
「なに?!」
アルマンの解析に少女は一瞬怯むが、すぐに新たなゴーレムを召喚しようとする。アルマンは目を輝かせ、感嘆の声を上げた。
「いやあ、それにしても素晴らしい生成技術だ!ゴーレムを次々と召喚出来る術者はそうそういないんだ!君、夢魔の協力なんか辞めて俺の助手にならないかな?」
「ふざけるな!貴様は今ここで潰す!」
アルマンは小さく笑うと、黒い霧を一気に収束させ、少女のゴーレムの生成を中断させようと迫る。だが、その瞬間、霧の奥から鳥のような黒い影が現れ、少女を掴んで空に舞う。
「何だあれは?」
アルマンはその後を追う間もなく、その姿は消えてしまっていた。
(今の鳥もまた夢魔の協力者だろう。だが、先程吸収した煙のサンプルである程度解析できる……焦る必要はない)
少女の捕獲に失敗したのは残念だったものの、思わぬ収穫を得たアルマンは、ひとまず戻ることにした。
【その3】???編
夕空に一番星が瞬き、夢の境界が揺らぐ頃、どこからか甘い香りがふんわりと漂ってくる。そこは、本とお菓子の喫茶店「オウマがトキ」。夢の世界に浮かぶ不思議な空間だ。星屑を散りばめたような内装に、飴細工のようなガラス窓越しに暖かな明かりが漏れている。店内は、ソーダカラーやフルーツカラーのキャンディのような少女たち、コットンキャンディのようなパステルカラーの髪の少女、仮面を被った謎めいた少女まで、人ならざる者たちが集う、甘く歪んだ楽園だ。
夕空に一番星が瞬き、夢の境界が揺らぐ頃、どこからか甘い香りがふんわりと漂ってくる。そこは、本とお菓子の喫茶店「オウマがトキ」。夢の世界に浮かぶ不思議な空間だ。星屑を散りばめたような内装に、飴細工のようなガラス窓越しに暖かな明かりが漏れている。店内は、ソーダカラーやフルーツカラーのキャンディのような少女たち、コットンキャンディのようなパステルカラーの髪の少女、仮面を被った謎めいた少女まで、人ならざる者たちが集う、甘く歪んだ楽園だ。
厨房では、ショートケーキを盛り付けるモノクロカラーの少女が軽快に動き、焼き菓子の香りが漂う。テーブル席では、本を片手にクッキーを頬張る夢の住人たちが、穏やかな時間を楽しんでいる。空気には、現実ではありえない濃厚な甘さが漂い、店の輪郭はまるで水彩画のように滲んでいる。
店の奥にある本棚が揺らめく書庫の一角で、桃色の髪の少女、マリネッタが扉を開けて戻ってきた。彼女の隣には、黒と白のグラデーションの髪に青い鱗の足を持つ少女、チョコがモノトーンの翼を畳みながら歩いている。マリネッタは眉を寄せ、苛立たしげに呟いた。
「チョコ、余計なことをしてくれたわね。あのまま放っておいてくれてよかったのに」
チョコは澄んだ青い瞳をマリネッタに向け、悪びれずに答える。
「だって、マリネッタがピンチだったんだもん。あの赤毛のイケメン、めっちゃ強そうだったし、助けなきゃ危なかったよ?」
マリネッタは冷たく鼻を鳴らし、書庫の奥へ進む。彼女は「オウマがトキ」の本屋の主であり、夢の中で紡がれる物語を管理する存在だ。チョコの言葉に、彼女の黄色い瞳が一瞬柔らかくなるが、すぐに冷めた表情に戻る。
「気遣いは無用よ。私のゴーレムで十分だったわ。礼は言っとくけど……次は勝手に動かないで」
チョコは翼をパタパタさせ、ニヤリと笑う。
「へーい、了解!でも、マリネッタ、ちょっと疲れてるみたいだよ?ケーキでも食べて元気出しなよ!」
マリネッタが何か言い返す前に、書庫の奥から鮮やかな緑の長い髪が波打つ少女、ヤスカタが現れる。深い緑のワンピースをまとい、本をいくつか手にした彼女は、オウマがトキの常連客だ。彼女の隣には、紫色の体をした小さな少女・ピオーネが立っている。ロリポップ七姉妹の末っ子で、グレープ味のキャンディでできた「キャンディ・スライム」のリビング・スィーツ。頭から爪先まで紫色で、目の周りにはとろけたような跡がある。彼女はペットのニワトリ、コッカドルチェをぎゅっと抱き、ダウナーな声で呟いた。
「マリネッタ…おかえり…」
マリネッタの表情が和らぎ、ピオーネに近づいてその頭を軽く撫でる。彼女の触れる感触もどこか甘く柔らかい。
「ピオーネ、待っててくれたの?ありがとう。コッカドルチェも元気?」
ピオーネは無表情にコッカドルチェを抱き直し、じーっとマリネッタを見つめる。
「…コッカドルチェ、元気…。マリネッタ、ケーキ…食べる?」
チョコが横から口を挟む。
「ほら、マリネッタ!ピオーネもケーキ食べよってさ!アンコのショートケーキがもうすぐ出来るから、一緒に食べよう!」
マリネッタは小さくため息をつき、書庫の椅子に腰掛ける。夢の空間では、椅子もふわっとした感触で、座ると甘い香りが漂う。ピオーネがそっと隣に座り、コッカドルチェを膝に乗せた。マリネッタの視線はピオーネに注がれ、彼女の平穏を守る決意が静かに燃える。ピオーネの正体は、オウマがトキのマスター──猿夢によってリビング・スィーツに生まれ変わった甲斐みれいだ。その事実を知るマリネッタにとって、彼女は夢の世界で最も大切な存在だ。ロリポップ七姉妹の他の六人も、かつてみれいのクラスメイトだった少女たちだが、ピオーネはその事実を知らない。マリネッタはそれを隠し、彼女の無垢な夢を守るためなら何でもするつもりだった。
「チョコ、余計なことをしてくれたわね。あのまま放っておいてくれてよかったのに」
チョコは澄んだ青い瞳をマリネッタに向け、悪びれずに答える。
「だって、マリネッタがピンチだったんだもん。あの赤毛のイケメン、めっちゃ強そうだったし、助けなきゃ危なかったよ?」
マリネッタは冷たく鼻を鳴らし、書庫の奥へ進む。彼女は「オウマがトキ」の本屋の主であり、夢の中で紡がれる物語を管理する存在だ。チョコの言葉に、彼女の黄色い瞳が一瞬柔らかくなるが、すぐに冷めた表情に戻る。
「気遣いは無用よ。私のゴーレムで十分だったわ。礼は言っとくけど……次は勝手に動かないで」
チョコは翼をパタパタさせ、ニヤリと笑う。
「へーい、了解!でも、マリネッタ、ちょっと疲れてるみたいだよ?ケーキでも食べて元気出しなよ!」
マリネッタが何か言い返す前に、書庫の奥から鮮やかな緑の長い髪が波打つ少女、ヤスカタが現れる。深い緑のワンピースをまとい、本をいくつか手にした彼女は、オウマがトキの常連客だ。彼女の隣には、紫色の体をした小さな少女・ピオーネが立っている。ロリポップ七姉妹の末っ子で、グレープ味のキャンディでできた「キャンディ・スライム」のリビング・スィーツ。頭から爪先まで紫色で、目の周りにはとろけたような跡がある。彼女はペットのニワトリ、コッカドルチェをぎゅっと抱き、ダウナーな声で呟いた。
「マリネッタ…おかえり…」
マリネッタの表情が和らぎ、ピオーネに近づいてその頭を軽く撫でる。彼女の触れる感触もどこか甘く柔らかい。
「ピオーネ、待っててくれたの?ありがとう。コッカドルチェも元気?」
ピオーネは無表情にコッカドルチェを抱き直し、じーっとマリネッタを見つめる。
「…コッカドルチェ、元気…。マリネッタ、ケーキ…食べる?」
チョコが横から口を挟む。
「ほら、マリネッタ!ピオーネもケーキ食べよってさ!アンコのショートケーキがもうすぐ出来るから、一緒に食べよう!」
マリネッタは小さくため息をつき、書庫の椅子に腰掛ける。夢の空間では、椅子もふわっとした感触で、座ると甘い香りが漂う。ピオーネがそっと隣に座り、コッカドルチェを膝に乗せた。マリネッタの視線はピオーネに注がれ、彼女の平穏を守る決意が静かに燃える。ピオーネの正体は、オウマがトキのマスター──猿夢によってリビング・スィーツに生まれ変わった甲斐みれいだ。その事実を知るマリネッタにとって、彼女は夢の世界で最も大切な存在だ。ロリポップ七姉妹の他の六人も、かつてみれいのクラスメイトだった少女たちだが、ピオーネはその事実を知らない。マリネッタはそれを隠し、彼女の無垢な夢を守るためなら何でもするつもりだった。
ヤスカタは目を輝かせて本棚を物色しているが、彼女がこの夢の店に通う一番の理由は、のじゃロリ猫だ。猫妖怪の少女で、二股の尾とくるくるとカールした黒髪が特徴の彼女は、ヤスカタがガンギマる対象だ。ヤスカタは猫好きが高じて猫狂いと化し、尋常でない速度でのじゃロリ猫を追いかけ回しては恐怖されている。
「ねえ、マリネッタ、ネコチャンはどこにいるの?ネコチャニウムが切れそうで早くガンギマりたいの」
マリネッタは冷ややかに答える。
「のじゃロリ猫ならさっき厨房でアンコに絡んでたわ」
「わかったわ」
ヤスカタが光の速さで姿を消すと、すぐさま、厨房からけたたましい声が響く。
「やめんか、ヤスカタ!わしのおけちゅは触らせんぞ!」
のじゃロリ猫がくるんくるんの黒髪を振り乱し、厨房の奥から飛び出してきた。その後ろをヤスカタが目を輝かせながら追いかけようとするが、チョコが翼を広げて制止する。
「ヤスカタ、落ち着きな!のじゃロリ猫パイセン、めっちゃビビってるから!」
「むぅ…まあ、ちょっとキマッたから良いわ」
のじゃロリ猫はカウンターの裏に隠れ、怯えた目でヤスカタを睨む。ピオーネはコッカドルチェを抱いたまま、じーっとその騒ぎを見つめ、ほんのりと笑みを浮かべていた。
チョコがショートケーキの皿をテーブルに置き、ニコニコと振る舞う。
「はい、マリネッタ、ピオーネ!これ、アンコの今日のイチオシだって!」
ピオーネは無表情にケーキを見つめ、ゆっくりフォークを手に取る。
「…おいしそう…食べる」
マリネッタはピオーネの小さな動きを愛おしげに見つめ、ケーキにフォークを入れる。のじゃロリ猫はヤスカタの視線に慄きながら、「わしも一口食べたいのじゃ…」とカウンターの裏でふてくされていた。
「ねえ、マリネッタ、ネコチャンはどこにいるの?ネコチャニウムが切れそうで早くガンギマりたいの」
マリネッタは冷ややかに答える。
「のじゃロリ猫ならさっき厨房でアンコに絡んでたわ」
「わかったわ」
ヤスカタが光の速さで姿を消すと、すぐさま、厨房からけたたましい声が響く。
「やめんか、ヤスカタ!わしのおけちゅは触らせんぞ!」
のじゃロリ猫がくるんくるんの黒髪を振り乱し、厨房の奥から飛び出してきた。その後ろをヤスカタが目を輝かせながら追いかけようとするが、チョコが翼を広げて制止する。
「ヤスカタ、落ち着きな!のじゃロリ猫パイセン、めっちゃビビってるから!」
「むぅ…まあ、ちょっとキマッたから良いわ」
のじゃロリ猫はカウンターの裏に隠れ、怯えた目でヤスカタを睨む。ピオーネはコッカドルチェを抱いたまま、じーっとその騒ぎを見つめ、ほんのりと笑みを浮かべていた。
チョコがショートケーキの皿をテーブルに置き、ニコニコと振る舞う。
「はい、マリネッタ、ピオーネ!これ、アンコの今日のイチオシだって!」
ピオーネは無表情にケーキを見つめ、ゆっくりフォークを手に取る。
「…おいしそう…食べる」
マリネッタはピオーネの小さな動きを愛おしげに見つめ、ケーキにフォークを入れる。のじゃロリ猫はヤスカタの視線に慄きながら、「わしも一口食べたいのじゃ…」とカウンターの裏でふてくされていた。
だが、マリネッタの心には、先程の戦いの記憶が残る。赤毛の男の介入。あの男がこの夢の店に現れる日が来るかもしれない。彼女はピオーネの紫色の髪をそっと撫で、決意を新たにする。
「ピオーネ、この夢はあんたの居場所よ。誰にも壊させない」
ピオーネはケーキを口に運び、じーっとマリネッタを見つめる。
「マリネッタ…ありがとう…」
「ピオーネ、この夢はあんたの居場所よ。誰にも壊させない」
ピオーネはケーキを口に運び、じーっとマリネッタを見つめる。
「マリネッタ…ありがとう…」
甘い香りが漂う夢の店内は今日も賑やかだ。だが、マリネッタの冷たい瞳には、ピオーネの夢を守るための静かな覚悟が宿っていた。
「オウマがトキ」の平和は、彼女の誓いによって、今日も守られている。
「オウマがトキ」の平和は、彼女の誓いによって、今日も守られている。
(……なるほどね)
のじゃロリ猫をしつこく狙う素振りを見せながら、ヤスカタは独りごちた。
マリネッタほどの魔女を梃子摺らせる程の実力を持つ赤毛のイケメンとなると、一人思い当たる人物がいる──アルマンだ。
ただでさえ人外女児が集まるこの喫茶店に、何かしら興味を持ったのだろう。
アルマンの執念深さなら、猿夢に辿り着くのは時間の問題だ。わざわざ自分が口を滑らせる必要はない……だが、お気に入りの店をアルマンなんかに引っ掻き回されるのは気分が良いものではなかった。
(アルマンに邪魔される前に、なんとかしたいわね)
のじゃロリ猫をしつこく狙う素振りを見せながら、ヤスカタは独りごちた。
マリネッタほどの魔女を梃子摺らせる程の実力を持つ赤毛のイケメンとなると、一人思い当たる人物がいる──アルマンだ。
ただでさえ人外女児が集まるこの喫茶店に、何かしら興味を持ったのだろう。
アルマンの執念深さなら、猿夢に辿り着くのは時間の問題だ。わざわざ自分が口を滑らせる必要はない……だが、お気に入りの店をアルマンなんかに引っ掻き回されるのは気分が良いものではなかった。
(アルマンに邪魔される前に、なんとかしたいわね)