自分は誰で、いつから存在していたかさえ忘れかけていたその時、あの子に出会った。
私の名前はキティ・フィッシャー。生まれはヨーロッパの小さな村。名前も思い出せないほど、どうでもいいところよ。私はそこで、神を信じる女性と暮らしていた。その女…私の母は。怪しげな薬を作り、おかしな実験をして、村の人たちを困らせていた。
私はそれを知らなかったけどね。(薬を作ったり、神様に逢うための実験をするのは、私の中では当たり前の事だったから)当然、私には友達もいなかった。おかしな女の、おかしな娘ですもの。それでも、ある日村に越してきた男の子と仲良くなったの。男の子の名前はルーシー・ロケット。
女の子みたいな名前だけれど、決してそんなこと口にしてはいけないわ。絶対怒るもの。彼が越してきた晩、彼は財布を失くしてね。私が魔法で見つけてあげた。なんとなく、助けてあげたくなったから。で、それから彼に懐かれて、親しくなったってわけ。
初めて気兼ねなく話せる友達ができて、私は柄にもなくわくわくしたわ。でも、それもあんまり続かなかった。母さんが、私を次の実験に使うって言い出したから。血も肉も、全て神様の依り代にするんですって。私はそれを彼に話したの。そしたら彼は怒り狂った。
娘をそんなことに使うなんて!私は彼が怒ったことに対してびっくりした。だって、私の家では当たり前のことだったもの。髪を切り取ったり、血を流したり…首を締めて気絶させたり。今回はそれがちょっと長引くだけ。神様のために少しの間死ぬから、その間は遊べないって伝えた
かっただけだもの。彼があまりにも動揺するので、私は彼に説明してあげた。「そんなに動揺しないでよ。今までも髪を切ったり、血を流したりしてきたけれど、髪は元の長さまで戻ったし、傷はなくなったし、気絶しても朝には神様の力で目覚めていたから。今回も生き返って元通りよ」
ってね。ルーシーはそれでも目を怒らせて、「君もおばさんも止めて見せる」って言っていたの。
実験日当日、私は母さんに言われたとおり、十字架をもって台座に横になった。母さんが銀のナイフを私の胸に突き立てるために振り上げた。私は痛みが襲ってくるのを、目をぎゅっと瞑って待ったわ。でも、痛みは来なかった。痛みの代わりに、母さんの悲鳴が耳に届いた。
目を開けると、ルーシーがいたわ。金色に輝く短剣を持って泣いていた。ルーシーの足元には、倒れた母さんが…。私は金切り声をあげてルーシーを非難した。母さんは生きていたけれど、胸の辺りから血を流してた。ルーシーは私の罵倒を、相槌を打ちながら聞いていたけれど、やがて
袖で顔を拭き、私の手をしっかり握りしめて告げた。
「君のことが好きなんだ。君を失うと思っていてもたってもいられなかった。僕のことを受け入れてくれるならばお願い。僕と一緒に逃げて」
突然のことに、私はまごついた。あまりにも突然のことで、どう対応すればいいか分からない。私が何か言う前に、母さんが死の呪文を唱えた。それが彼の胸に当たり、彼を壁に激突させた。地面に落ちた彼の体からは、既に魂が抜き出ていた。母さんはまた、私に発言させる隙を与えずに
私を銀のナイフで刺した。
それから世界は一変した。私はピンクの煙になって、搔き消えた。私が煙に飲まれたのを見た瞬間、母さんは死んだ。それを見て、私は確信した。私は神と一体化したのだと。
私の名前はキティ・フィッシャー。生まれはヨーロッパの小さな村。名前も思い出せないほど、どうでもいいところよ。私はそこで、神を信じる女性と暮らしていた。その女…私の母は。怪しげな薬を作り、おかしな実験をして、村の人たちを困らせていた。
私はそれを知らなかったけどね。(薬を作ったり、神様に逢うための実験をするのは、私の中では当たり前の事だったから)当然、私には友達もいなかった。おかしな女の、おかしな娘ですもの。それでも、ある日村に越してきた男の子と仲良くなったの。男の子の名前はルーシー・ロケット。
女の子みたいな名前だけれど、決してそんなこと口にしてはいけないわ。絶対怒るもの。彼が越してきた晩、彼は財布を失くしてね。私が魔法で見つけてあげた。なんとなく、助けてあげたくなったから。で、それから彼に懐かれて、親しくなったってわけ。
初めて気兼ねなく話せる友達ができて、私は柄にもなくわくわくしたわ。でも、それもあんまり続かなかった。母さんが、私を次の実験に使うって言い出したから。血も肉も、全て神様の依り代にするんですって。私はそれを彼に話したの。そしたら彼は怒り狂った。
娘をそんなことに使うなんて!私は彼が怒ったことに対してびっくりした。だって、私の家では当たり前のことだったもの。髪を切り取ったり、血を流したり…首を締めて気絶させたり。今回はそれがちょっと長引くだけ。神様のために少しの間死ぬから、その間は遊べないって伝えた
かっただけだもの。彼があまりにも動揺するので、私は彼に説明してあげた。「そんなに動揺しないでよ。今までも髪を切ったり、血を流したりしてきたけれど、髪は元の長さまで戻ったし、傷はなくなったし、気絶しても朝には神様の力で目覚めていたから。今回も生き返って元通りよ」
ってね。ルーシーはそれでも目を怒らせて、「君もおばさんも止めて見せる」って言っていたの。
実験日当日、私は母さんに言われたとおり、十字架をもって台座に横になった。母さんが銀のナイフを私の胸に突き立てるために振り上げた。私は痛みが襲ってくるのを、目をぎゅっと瞑って待ったわ。でも、痛みは来なかった。痛みの代わりに、母さんの悲鳴が耳に届いた。
目を開けると、ルーシーがいたわ。金色に輝く短剣を持って泣いていた。ルーシーの足元には、倒れた母さんが…。私は金切り声をあげてルーシーを非難した。母さんは生きていたけれど、胸の辺りから血を流してた。ルーシーは私の罵倒を、相槌を打ちながら聞いていたけれど、やがて
袖で顔を拭き、私の手をしっかり握りしめて告げた。
「君のことが好きなんだ。君を失うと思っていてもたってもいられなかった。僕のことを受け入れてくれるならばお願い。僕と一緒に逃げて」
突然のことに、私はまごついた。あまりにも突然のことで、どう対応すればいいか分からない。私が何か言う前に、母さんが死の呪文を唱えた。それが彼の胸に当たり、彼を壁に激突させた。地面に落ちた彼の体からは、既に魂が抜き出ていた。母さんはまた、私に発言させる隙を与えずに
私を銀のナイフで刺した。
それから世界は一変した。私はピンクの煙になって、搔き消えた。私が煙に飲まれたのを見た瞬間、母さんは死んだ。それを見て、私は確信した。私は神と一体化したのだと。
神と一体化した私は、人の目には映らない。もし見てしまったら、見たものの命を奪ってしまうだろう。母さんのように。
私は意思の通じない神と共に、色々な世界を渡り歩いた。世界といっても、普通の、人の世界ではない。
夢だ。他人の夢の世界だ。現実の世界よりもはるかに面白くて、楽しい夢の世界だ。楽しい夢、悲しい夢、元気を出させる夢、何かを警告する夢、悪夢。私はすっかり夢中になって、やがて人間であったことも忘れかけていた。
三百年後、私はある少女の夢に入っていた。夢の主は、キャンディで出来たお人形と、お菓子の家で遊んでいた。黒髪の少女だ。無口で不愛想な感じだけど、笑うと可愛らしい。その子が私をまっすぐ見ると、一言だけ質問した。
「誰?」
私は面食らった。今まで人に話しかけられることなんてなかったから。夢の主…私が渡り歩いている夢をベッドや布団で眠りながら見ている人物は、大抵私に気づかないし、気づいたとしても、気にも止めない。主からしたら、取るに足らないただの煙なのだから。
でも、その子だけは違ったようだ。少し紫の入った瞳で、私のことを観察している。今まで、こんなに私に気を向けのは、二人しかいない。人間だった時の友達と。母さんだ。
「わたしは…分からない」
言葉に詰まった。他人の夢に夢中になって、自分の名前が思い出せなくなっていた。その子はこの言葉を聞くと、頷いて言った。
「じゃあ、今からマリネッタって呼ぶね。この名前は、病気がちだけど優しい狼人間の本屋さんの名前なの。ヒイラギの恋人さんと、よくデートをしていて、店長さんに叱られてるの」
私はまごつきながら、いつの間にか創られていた椅子に腰掛けていた。
私とこんなに話してくれる子がいるなんて、思わなかった。
彼女・・・ミレイの楽しい妄想が終わるころ、私はすっかりミレイに夢中だった。彼女の夢にも、彼女自身にも。
私は意思の通じない神と共に、色々な世界を渡り歩いた。世界といっても、普通の、人の世界ではない。
夢だ。他人の夢の世界だ。現実の世界よりもはるかに面白くて、楽しい夢の世界だ。楽しい夢、悲しい夢、元気を出させる夢、何かを警告する夢、悪夢。私はすっかり夢中になって、やがて人間であったことも忘れかけていた。
三百年後、私はある少女の夢に入っていた。夢の主は、キャンディで出来たお人形と、お菓子の家で遊んでいた。黒髪の少女だ。無口で不愛想な感じだけど、笑うと可愛らしい。その子が私をまっすぐ見ると、一言だけ質問した。
「誰?」
私は面食らった。今まで人に話しかけられることなんてなかったから。夢の主…私が渡り歩いている夢をベッドや布団で眠りながら見ている人物は、大抵私に気づかないし、気づいたとしても、気にも止めない。主からしたら、取るに足らないただの煙なのだから。
でも、その子だけは違ったようだ。少し紫の入った瞳で、私のことを観察している。今まで、こんなに私に気を向けのは、二人しかいない。人間だった時の友達と。母さんだ。
「わたしは…分からない」
言葉に詰まった。他人の夢に夢中になって、自分の名前が思い出せなくなっていた。その子はこの言葉を聞くと、頷いて言った。
「じゃあ、今からマリネッタって呼ぶね。この名前は、病気がちだけど優しい狼人間の本屋さんの名前なの。ヒイラギの恋人さんと、よくデートをしていて、店長さんに叱られてるの」
私はまごつきながら、いつの間にか創られていた椅子に腰掛けていた。
私とこんなに話してくれる子がいるなんて、思わなかった。
彼女・・・ミレイの楽しい妄想が終わるころ、私はすっかりミレイに夢中だった。彼女の夢にも、彼女自身にも。
だから、今のあたしはマリネッタ。この喫茶店、オウマがトキの本屋の店員。
ヒイラギの恋人の名前はノア、顔は友達そっくりだけれど、土と骨で作ったの。
身体は人間だった頃をモチーフに、髪色はちょっと変だけれど……。満月の日には頭が痛い振りをしてサボってる。狼人間の店員さんだものね。
ヒイラギの恋人の名前はノア、顔は友達そっくりだけれど、土と骨で作ったの。
身体は人間だった頃をモチーフに、髪色はちょっと変だけれど……。満月の日には頭が痛い振りをしてサボってる。狼人間の店員さんだものね。
ここは喫茶オウマがトキの本屋さん。
奇妙で楽しく明るく暗いこの場所で、今日は何が起こるのかしら?
奇妙で楽しく明るく暗いこの場所で、今日は何が起こるのかしら?