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創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

第二話-鋼と古兵-(はがねとふるつわもの)(Dパート)

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匿名ユーザー

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 まず最初に動いたのは、濃紺の機体。
 若本が駆る斬鉄参式は、爆発のような勢いでスラスターを噴射。
 時正を中心に円を描くように高速で移動をしつつ、自動小銃から弾丸を撃ち放つ。
 それもただ弾丸をばらまいている訳ではなく、射撃と射撃の間隔を微妙に変化させ、時正の脚部やスラスター等を中心に狙いを定めている。

 (危な! あぁ、くそ! 「飛び道具とは卑怯なり」とか大声で叫びたい!)

 心中で悪態を吐きつつ、機動力を奪いに来ている射撃から、京介も弧を描くような軌道で七上流の歩法『風舞』―基本の足運びであり、全身のどこにも無駄な力がかかっていない体勢と、緩急の継ぎ目が無い動きから構成される歩法―を用いて弾丸を回避し、若本の機体から一定の距離を保ちながら自分の間合いに踏み込む隙を伺う。

 《そうそう、最初に“近接武装のみの吉兼同士で対決”という話をしていたが、君が時正に乗っているのと同じように、七上顧問が「この方が面白そうだ」と私の機体も変更してしまってね》
 《そう、ですか!》
 《私が乗っている機体は『斬鉄参式』。君の時正の三代前の機体、十六式魔導甲冑『石切(いしきり)』から派生した『斬鉄』系列の三代目になる》
 《成る、程!》
 《ちなみに、斬鉄系列は現役の頃から長年使い続けている私の愛機でもあってね。今回も装備を得意な物で揃えている》
 《現場から、叩き上げの、指揮官って、凄いですね!]

 銃撃の合間に通信で話しかけてくる若本に対し、必死に銃弾を避けながら返事をする京介。
 京介-時正の装甲を、放たれた弾丸がかすめる、というより表面を浅く削りながら後方へ抜けていく。
 ダメージは内部までは到達していないが、それでも装甲を削る音と衝撃は生易しい物ではない。

 (気を抜いたら失禁しそうだなぁ!)

 しかしいつまでも避けきれる訳ではなく、徐々にに「削る」が「抉る」になり始めている。

 (こっちの武装はほぼ近接のみ。間合いを詰めなきゃこのまま終わる! ……行くか。1、2……)

 「さん、っと」

 小さく口の中で呟きつつ、意識を切り替える。
 師である桔梗の言葉を借りれば『無我の境地の一種』を目指し、自分が知覚できる範囲の情報、その『全てに対して集中』する事を試みる。
 桔梗曰く、

 「周囲の全てを把握しろ。己と敵と、その他全てを分析し、理解し、支配しろ。『己(我)』で無い物を『無』くすのだ」

 とのこと。
 もちろん、言われて即出来るような類の事では無いが、少なくとも敵だけではなく、目の届く範囲に注意を払う。
 そして移動速度を保ったまま、自分の重心自体を参式に向けて一気に傾けた。
 普通であれば、高速で急激に体勢を崩せば転倒し地面に叩き付けられて大破する所だが、体捌きと加速用の物まで含めたスラスターを使い姿勢制御。
 機体を捻り、視界正面に参式を捕らえたところで改めて足を踏み出し、機体を前方へ跳ばす。
 端から見れば奇妙なほどの滑らかさで高速を保ったまま鋭角な方向転換をやってのけた京介は、歩法を『旋』へと切り替え、一気に距離を詰めようと更に速度を上げた。


 ――――――――――――――――――――


 ランダムに横方向への高速移動を混ぜつつ追走してくる時正に対し、参式は構えていた両腕を下ろし、機体を時正に正対させてから急停止。
 機体の両足が地面を踏みしめると同時に、両肩の装甲が展開。
 肩部装甲の後方にあった機構が前面に回り、三つ折りになっていた自身を伸張させる。
 一瞬で二門の長砲となったその先端、砲口が上下左右に分割され、内部に溜め込まれた強い光が僅かに漏れた。

 そして一拍の間を置いて、

 時正とその影全てを飲み込む程の光の奔流が放たれた。

 ――――――――――――――――――――

 (……ほぅ)

 若本は射撃姿勢のまま、そう心中でひとりごちる。
 その原因は目の前の光景にあった。
 それはこちらの懐に入り込んだ時正。

 (あの距離を一瞬で……)

 そう思考している間にも、時正は右手をかけていた脇差を抜き放ち、斬撃を繰り出そうとしている。
 盾で防ぐには、盾が装着されているのは左手側、抜き打ちの斬撃は右手側からで、既に懐に飛び込まれた今の状態では体勢に無理がある。

 (流石は顧問の弟子、というところか)

 そして若本は思考を続けつつ、もう一つの選択肢を取る。
 自動で行われる射撃の反動に耐えるための関節のロックを解除し、下腿の力場発生機構を最大出力で起動しつつ、機体を後方へ傾ける。
 光砲の反動と力場の斥力によって、参式は後方へ弾かれたように移動し、右胴体を薙ぐ筈だった時正の脇差は間一髪で空を切った。
 しかし、時正の攻撃はそれだけでは終わらず、避けられた脇差を振り切らずに強引に右脇に引きつけ、継ぎ足で更に一歩踏み出し、腰から上半身を斬撃の時とは逆に捻り、二撃目を刺突として繰り出す。
 刺突は先程の斬撃と変わらぬほどの速度で放たれたが、若本は余裕を持って、刺突の軌道に大盾を割り込ませた。

 ――――――――――――――――――――

 未だ後頭部と背中に残る熱気を感じながら、京介は右手に返ってきた「刺し貫いた」ではなく「受けられた」反動に顔をしかめる。

 (流石に、反応が早い!)

 『旋』による接近中に、参式の肩が展開し始めたのを見た京介は、それが何であるかを確認せず、反射的に体勢を極限まで低くし、歩法を曲線軌道の『旋』から高速直進の『疾(はやて)』へと変化させ、全力で距離を詰めた。
 幸いにもその判断は正しかったらしく、効果範囲が最大になる前に光線の下をくぐり抜け、参式の懐に入り込むことが出来たが、初手を外し、二撃めも容易く受けられてしまった。

 (今の動き……、ヤバいな。『一流』どころか『達人』級だろ、若本さん)

 しかも、今まさに行っている追撃も全て盾に阻まれている。
 こちらの脇差による連撃を重そうな大盾で捌くという、常識外れな動きに焦りが生まれそうになる。
 参式の両肩の光砲が機械の動きで自動的に折り畳まれていくのが、余裕の現れにすら見えてくる。

 (体捌きでの位置取りだけじゃない。腕力、というか出力も相当だな、あの参式は)

 密着状態の為、小銃での射撃を阻めているのが幸いという所か。
 しかし、敵わないのは最初から分かっていた事。
 自分の持ち札だけで、どれだけこの状況に対処出来るのかを示すのが、この試験の本意なのだから。

 (刃よ!)

 連撃中に光刃のキーワードを思考。
 一瞬で脇差の刃から光が迸り、光の刀身を形成する。
 太刀程の長さとなり、威力と射程を増した脇差で参式の防御を崩せないかと攻撃を重ねるが、

 (まぁ、そうだろうな)

 大盾の防御を抜くことは出来ない。
 最前に蠍モドキの装甲を簡単に溶断した光刃だったが、参式の大盾は半ば実体化した光の刃を易々と受け流す。
 大盾と光刃が打ち合う度に、光刃からは水飛沫のような光の砕片が散らばり、大盾からは接触点周囲の空間に、石が投げ込まれた水面のような波紋が起きる。
 どうやら、参式の大盾は何らかの力場による障壁-バリアの様なモノを発生させているらしく、それが光刃の威力を減衰させているらしい。
 だが、こうして防がれるのも『布石』の一つだ。

 (さてさて、『達人』相手に小細工がどこまで効きますかね、と)

 ――――――――――――――――――――

 スクリーンに映し出された一連の攻防に、祈は言葉を忘れて見入っていた。
 この闘技場での戦いに至るまでの京介の動きを観察し、『素人ではない』という事は分かっていた積もりであったが、今現在の若本を相手にしての動きは、群を抜いている。
 銃弾を回避し、間合いを詰めた時の機動といい、若本への連撃といい、これが彼の実力なのだろうか。
 二体の魔導甲冑の動きを目で追う祈に、悪戯っぽい表情で桔梗が声をかける。

 「どうした? 祈。随分と大人しいではないか」
 「……えっ」
 「ちび助に感心しているのだとしたら、まだ早いぞ? 若本の立っている位置を見てみろ」
 「位置、ですか? ……あっ」

 画面を確認した祈が軽く声を上げた。
 猛攻と言ってもいい連撃に晒されている筈の参式だったが、前後左右、僅か一歩分の範囲内でその全てを受けきっていたのだ。

 「ちび助の動きが派手だったから、それに飲まれたな」
 「……そう、なのでしょうか。……ですが、物部さんの動きは充分評価に値するかと」
 「ハハハ、それは褒めすぎだ。動きが良く見えるのは時正に乗っているからで、未熟も未熟。まだまだだよ」

 そこまで会話したところで、スクリーンの中では光刃の連撃を繰り出していた時正が光刃を解除。
 脇差での連撃を継続しつつ、右腰のホルダーからEダガーを一振り引き出し、左手に保持したそれを投擲武器としてではなく近接武器として振るい、連撃に組み入れる。
 右の脇差と左の短剣、それぞれが別々の使い手に振るわれているかの如く、ある時はバラバラにある時は重なるようにして、参式に襲いかかった。
 切り裂かれ、大気が上げた啼き声が消えきる前に、次の攻撃、その次の攻撃、更に次の攻撃と、まるで眼前の空間を斬線で塗り潰すかのような、二刀による驟雨の如き高速連撃。
 盾だけでは防ぎ切れなくなったのか、参式は右手の小銃、その銃身下部にマウントされたアルファベットのLに似た鈎状の部位を備えた銃剣も使用し、その連撃を悉く打ち落としていく。
 刺突と斬撃、受け止めと切り払い。
 恐らく数呼吸程度の短時間、その間に無数の攻撃と防御が行われ、両者の勢いが拮抗した一瞬、時正が参式の右首を狙った脇差による斬撃を繰り出した。
 それに合わせ、小銃を振り上げ銃剣で受けようとする参式。
 脇差と銃剣、二つの刃が触れ合う寸前、脇差が一瞬で翻り、横薙ぎは頭部への切り下ろしへとその軌道を変化させた。
 迎撃する対象を失い、勢いのまま流れる銃剣。
 脇差が一瞬で光を纏い、猛禽の如く参式の頭部へと襲いかかる。
 その二種類の刃の動きに、一つの盾が割って入る。
 小銃を右へと振るう動きを利用して参式は機体を捻り右足を引き、高速で大盾を斬撃の軌道へ割り込ませる。
 参式の眼前で激突する光刃と大盾。
 そして――、


 音を立てて、脇差が宙を舞った。

 ――――――――――――――――――――

 祈は瞠目した。
 その原因はスクリーン内の映像にある。
 ほんの一瞬前まで連撃を行っていた時正、その脇差が大盾と接触した直後、先程までの流れでは盾の外面に沿って受け流されるはずだったその刃が、快音と共に弾き飛ばされた。
 そこまでは、あり得ない流れではない。
 京介が競り負けた、それだけの話なのだろう。
 しかし、参式の正面に『脇差を飛ばされた時正』はいない。

 「いつの、間に……?」

 呟く祈。
 その視線の先-参式の右手側に一歩分ほどの距離を置いて、腰を落とし、鯉口を切った太刀の柄に右手をそえた時正の姿があった。

 ――――――――――――――――――――

 (単純な話だ)

 加圧機構を発動させ、加速した思考の中で京介はそう一人ごちる。
 要は目眩ましとフェイントの合わせ技。
 光刃と大盾が接触した時に発生する光の飛沫と空間の波紋を、頭部近くで発生させ、視覚センサーの働きを僅かで良いので阻害させる。
 そして大盾が脇差を打ち払う動きに合わせ、盾の軌道を変更できないギリギリの瞬間に拳の力を抜き、脇差と短剣を手放す。
 さらに脇差を振り下ろす動きのまま、相手の認識、その間隙に入り込んでこちらの動きを認識させない歩法、風舞の変化『凪(なぎ)』で参式の右手側に移動しつつ、二手目を用意する。

 七上流剣術初伝『浪払(なみはらい)』

 初伝として教わった型の内の一つ、『浪払』という技は単純に言ってしまえば、『横薙ぎ』だ。
 修練の方法も至って簡単、海岸の岩場に立ち、最初に教えられた動作で木刀を振るい、押し寄せてくる波頭を薙ぎ払うという物である。
 京介は未だに、桔梗に言われた修得の目安である『波を両断した感覚を得る』所まで行ってはいないが、今回は時正という、自分が思い描くイメージに限りなく近い動きが出来る肉体がある。

 (いつもより上の技が出せる筈)

 布石は充分とは言えないまでも重ね、どうにか一手分の『間』を作り出す事が出来た。
 その間隙にねじ込むため、京介は教わった型の中で最速である『浪払』を選択し、太刀を鞘から抜き両手で構える数瞬の間すら惜しみ、居合いとして放つ事を選択。
 参式の右側面に付けた時点で加圧機構の限界が近付いた為、機構を解除。
 途端に周囲の光景が速度を取り戻し、参式が素早く時正に向き直ろうとする動きを見せる。
 だが両者の機体が正対するよりも僅かに早く、時正の左腰から迸った銀光が神速の弧を描いた。

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