『スーパーロボスレ大戦:R(リファイン) ~終焉のセカイから~』
新機軸エネルギー「アイルニトル」の発見は人類史に残る偉業ともされる。原子エネルギーをも凌駕するそれはまさに人類の夢を体現したものであった。
アイルニトル研究から得たデータから作られた巨大ロボット「アストライル・ギア」。
イルミナティやその他思想結社に端を発する巨大財団「イルミナス」。
彼らはアストライル・ギアを用いる平和的なスポーツ「ブレイブグレイブ」を世間に広め、みずからもスポンサーとして普及に努めた。
そのスポーツは世界中で流行した。
――世界住民は、やがて訪れる、全世界そして無数のセカイをも巻き込む混沌を察知しようともしなかった。
イルミナスは各国が集結する国際大会の場でアストライル・ギアを破壊。搭乗者も次々殺害せしめた。
首領ネクサスを名乗る男の指示のままに、人類史上初の軍用アストライル・ギアが各国を襲撃し、現行の兵器は紙くず同然に打ち破られた。
彼らに対抗すべく結集されたレジスタンス団も、圧倒的質と物量によって押しつぶされていった。
世界を火の海に沈めたイルミナスは狂気に走り、それを建造し、暴走させてしまった。
――空間消去型時空兵器(タイムゼロ)。
時空を破壊する兵器。
発動の寸前に一人の男がイルミナスを強襲、混乱の最中でタイムゼロの暴風が解き放たれ、無数のセカイ間が『門』で繋がれ、セカイの修正力によってすべてが灰燼に帰すと思われた。
本来であれば、セカイ同士を接続することで、セカイ間の理の差を利用して崩壊を齎すはずのそれは、緩衝空間とも言うべき箱庭を創り出したのである。
各セカイで突如出現した門は周囲一帯を吸い込み、セカイのカサブタとも言うべき蓋が覆った。
しかし、緩衝空間『箱庭』は崩れつつあった。
辛うじて均衡を保っただけに過ぎなかったのだ。
残された時間は少ない。
箱庭に呼ばれた彼ら彼女らは、セカイの崩壊を食い止めることができるのだろうか?
◆ ◆ ◆ ◆
「これは……凄いわこの子。みてみて。スマートなのに中身が凄い。装備が貧弱なようだけどスラスターの性能がいいから高速で振り切れる。一撃離脱から遠距離戦まで思うままってところね。
どんな電池使ってんのかしら。容量デカすぎでしょ。メーター振り切ってる。性能はいいのにガタガタなのが残念」
「ふーん」
「操縦席見た? 再利用品って訳でもないのに、高級なもんでもない。企業のロゴ入りの部品もあるのに、手作りのもある。不思議よね。だって潜水機の製造業務を手掛ける企業なんて無いんだぜ? できるならお持ち帰りして服を脱がしてみたいわ」
「ふーん」
「ソフトウェアとかも潜水機用市販品なのよ? どこにあんのよそんなもん。持ち帰れば大金持ちになれる予感すんじゃん」
「ふーん」
「浪漫よ浪漫! 実用的浪漫! 操縦席の時計が70~80年も進んでるってのも興味深いわ!」
「それはいいとして」
「なによフラン。ムスッと顔しちゃってさ」
「どこなのここ?」
「私に聞かないでよ」
「誰に聞けばいいのよ」
「魚にでも聞けばいいと思うぜ」
「釣り具貸してよ」
「無いわ。銛ならぬ長巻ならご自由にどうぞ。すげぇ重いぜ、骨が折れるくらい重いぜ、糞重いぜ」
「一緒に担ぎなさいよ」
「だが断る」
青毛混じりの女性と、赤茶けた髪の女性が、駄弁っていた。
彼女らの居る場所は無人島のような場所で、青い海、白い砂浜という点では南国であったが、空に罅が入っていたり、島の中央に謎の物体が等速円運動をしつつ浮遊している点で異世界だった。
彼女らの傍らには、船から放り出され命からがら漂流した人間を彷彿とさせるだらしない前のめりで砂浜にめり込んでいる10mはあろうかというロボット。
そのロボットから少し行った地点に、同型と思われるロボットが転がっている。それは破損していた。一つ目カメラアイが砂に塗れており、哀愁を誘う。
二機はケーブルで繋がれており、彼女らの乗ってきた潜水機から一つ目に電力が供給されている状態である。
赤茶けた髪を腰まで伸ばし、豊満な胸に女性的な骨盤を筋肉で覆った女性が、無造作に転がっているロボット――潜水機を事細かに調べている間、自分が陥った現状を信じきれないらしいスマートなおかっぱ髪の女性が、苛立ち隠せずうろついていた。
彼女らの現在――ある日突然光に吸い込まれ気絶しました気が付くと無人島でしたまる。
青毛混じりの銀髪の女性、フランはため息をつくとひび割れた空を仰ぎ、空気を目一杯吸った。おいしかった。
その時である。
無人島(と言っても庭くらいしかないのである)の中央で等速円運動をし続ける不可思議な半透明状のカードのようなものが俄かに光るや、ぱっくり暗黒の口を開き、物体をぺっと吐き出した。
六本足のロボットと、二本足のロボット。最後に少なくとも数mの高さから砂浜に放り投げだされた少女が一人。
「ふぎゃっ!?」
受け身すらとれず、べちゃっと落下。幸いなことに柔らかいパウダー状の砂が衝撃を殺してくれた。
半透明のカードのようなそれは瞬き、徐々に元の速度に移行した。
流石に慣れてきたのか、フランもマーレも動じず、出現した物体を見つめている。
『委員長だいじょうぶー?』
「ええ………アルメリア、シュレー、大丈夫ですか?」
『私は大丈夫です。委員長、顔からダイブしてませんでしたか。痛そうに見えたんですけども』
「受け身取りました!」
『委員長ダウトー!』
砂浜に投げ出された緑髪の少女を、二足歩行型ロボットが器用に右手を使って立ち上がらせた。
六本足という珍しい型のロボットは、頭部を周囲にやって視線が安定しない。搭乗者が、風景が一瞬で変貌してしまったことに驚いているらしい。
『私たち……練習してたはずですよね? いつリゾートに来たんだろう』
『うん。よくわかんないけど海がきれー。泳ぎたいなぁいいよね別に』
「ピントのずれた会話してる場合じゃないですよ二人とも! 誰かいます!」
『あ、ほんとだ。おーい!』
『シュレー! 危険かもしれないですって!』
「アルメリアも! 私徒歩なんですよ! おいつけ……あーっ!?」
砂に足を取られ盛大にすっころぶ緑髪の女の子を完全に置いてきぼりに、二機のロボットはがしゃこんがしゃこん足音を立てつつフランとマーレの元に駆け寄っていった。
フランとマーレには見覚えのない型のロボットである。
彼女らのセカイ―――もとい時代ではメタルナイツという競技すら存在しておらず、近似形と言えばロボット重機。だが砂浜を駆け寄ってくる二機は重機には見えないのである。
一人は軍人。一人は海賊。過去の二人。
未来の学生三人。
奇妙な邂逅はここに成立した。
もっとも、タイムパラドックスを考慮すれば「酷似した平行世界の住民」かもしれないのであるが。
「なぁあれ重機かねぇ? 私の船に欲しいんだけどどこで売ってる?」
「知らないわよ。重機っぽくないし。六本脚のなんて初めてよ。ムカデみたいな動きでちょっとキモい」
「キモ可愛いじゃん。おーい!」
「ちょっとあんた待ちなさいよぅ!」
「ファーストコンタクトもーらいっ!!」
軽口を叩くマーレだが、ある意味間違いではないことを後で知ることになる。
◆ ◆ ◆ ◆
「つまり……どういうことだし」
「タイムスリップ………でしょうか……」
「私達が?」
「私か、フランとマーレさんかはわかりませんが、説明が付きませんし」
「ひゅー! オッカルトー!」
「おーっかっとー!」
「お、オカルトー……」
「アルルー発音できないよ! オッカットーだよ!」
「駄目だこいつら何とかしないと……」
「……苦労しますね」
「……そうね」
「あれ、なに?」
「ロボットが一杯………っ!? 銃を持ってます!」
◆ ◆ ◆ ◆
『箱庭』にはいくつものセカイが切り取られ封じられている。
『箱庭』には幾人もの人間が吸い込まれ封じ込まれている。
イルミナスにより世界中が泥沼の戦争状態に陥ったセカイ。
過去の「何か」で文明がリセットされたセカイ。
地球を捨てて新しい星に新天地を求めたセカイ。
民族浄化という血生臭い戦場を駆け抜ける男性の居るセカイ。
小さなセカイを守ろうと奮闘する少年と少女が居たセカイ。
霊的災害から市民を守るべく剣を振るうロボットが居たセカイ。
続発する巨大ロボット犯罪に立ち向かう正義の味方が戦うセカイ。
謎の高性能機体の襲撃を受け成す術もなかったセカイ。
過去の過ちが人の心にロボットへの恐怖心を植え付けてしまったセカイ。
隕石の衝突により闇に包まれた世界で拉致され戦うことになった青年がいるセカイ。
セカイを救う時間は残り少し。
目標はただ一つ。
元凶を排除し、崩壊を止めよ。
◆ ◆ ◆ ◆
敵は強大だ。
セカイを救おうとする者も、加担するものもまた存在したのだから。
ビルが均等に立ち並ぶ市街地エリア。
それは絶望的な強さを持っていた。
時代遅れの進化の系譜から外れた遺物。
巨大な体と暴力で他の生物を寄せ付けない強さを誇った恐竜を模した巨大なロボット。
異世界技術で強化されたそれは優に40mを超える恐怖の権化であった。
名をワルレックス。
個人用垂直離着陸機(ワルヘッド)でワルレックス上方に位置した老人が破顔した。悪山悪男。御年77歳。バリバリの日本男子であり悪の科学者であり孫娘が可愛いお年頃である。
彼は高笑いしながらワルヘッドをワルレックスの頭部にドッキングした。
ワルレックス、オンライン。
「がぁーっはっはっはっは! あの男が初戦ではないのが残念だが、不足は無かろう異世界よ! 行け! 我が悪の科学力を存分に見せてやるのじゃああああァ!」
ワルレックスが咆哮を天に響かせた。ビル群の窓ガラスがワルレックスから広がる同心円状の音津波を受け順々に粉みじんになった。
鉄の塊とでもいうべき尾が振られた。雑居ビルが数棟倒壊した、積み木を崩すように。
カメラアイがカッと閃光し、敵を威嚇せん。
『奴は遠距離兵器に乏しいと見た。削り倒すぞ。エンゲージ!』
『了解! ビームガンスタンバイ』
『了解! スタンバイ』
強者のみが選りすぐられる『シルバーナイツ隊』のエースたるボルスは、仲間に指示を送りつつ増速した。
アルフレッド・ミクソンとレイア・マリアベル機はボルス機から離れた位置、すなわち敵より距離を取った位置に陣取ろうと機首方向を曲げた。
空力特性とエンジンパワーで飛翔する三機の機動兵器。
パンツァーモービル(PM)という分類の兵器であり、どんな場所でも戦闘を続行できる機動戦闘兵器として開発された。
機体名『ナイツ』。
エースにのみ配備されるピーキーな機体で、エンジン出力や装甲などは一般機と比べ物にならない最新機である。近接格闘を考慮し関節が改良されており、ショックアブソーバーもグレードの高い製品が使用されている。
背負い式ビームガンの他は一般PMと共用の武装を標準装備としてあるのも特徴である。
彼らのセカイにある母国「ステイツ」における主力格のPMであることは間違い無い。
総数、3機。
戦闘機のような不可思議な形態のそれらは青いジェット炎を吹かし市街地スレスレを通過したかと思えば、両足に相当する部位を可変させ、上半身を起こし、対PM用ライフルを手に人型形態に移行、射撃を開始した。
だが、対PM用ライフル弾という旧時代の戦車砲並みの火器はしかし、ワルレックスの装甲に跳ね返されるばかりで一向に有効な損傷を与えられない。
「ただのワルレックスとは一味違うのじゃよ! ワルレックスとは!」
悪山は莞爾と笑えば、すかさずワルレックスを三機の元に突っ込ませた。
雄叫びを上げながら、山のような存在感を放つ恐竜が突貫する。
『チャージそのまま! 私が突っ込み囮になる。頭を狙え、いいな!』
『了解!』
『了解! 隊長、もちろん狩ってしまっても構いませんよ!』
『お前たちこそ撃ち倒してしまっても構わないのだぞ!』
ボルスは軽口を叩くアルフレッドにニヤッと笑み、高速形態に移行した刹那、ビルの隙間を縫うような機動でワルレックスの背後を取ろうとせん。
マッハ1。
ナイツが音速でビル群の合間を潜り抜ける。ワルレックスの咆哮でも辛うじて破壊されなかった窓ガラスが砕け原型とどめぬ破片として散華した。
「猪口才なッッ!」
悪山が吠えた。
ワルレックスの長大かつ世界樹の幹が如く太い尾が街を薙ぎ払う。尾から棘が飛びだし、ビルのコンクリートを豆腐のように貫通、砕き、根こそぎ瓦礫の礫に変えた。
降り注ぐコンクリートと砂煙が弾幕となり、ナイツに襲い掛からん。
『このような瓦礫など!』
恐怖は無かった。
あの黒き悪魔の攻撃に比べれば瓦礫を落とすだけの攻撃など攻撃の内に入らない。
可変。瓦礫を足で蹴っ飛ばし脚部ミサイルを発射。瓦礫の一つを粉砕すれば、破片に衝突覚悟で突っ込み、砂煙とヴァイパーを伴ってワルレックスの頭部を越し背面を取る。
「ところがそうはいかんのじゃい!」
気味が悪くなる速度で旋回したワルレックスが、上半身を捻り図体に似合わぬ細腕の爪を繰り出した。
バーニアが作動するや爪の振り下ろしから紙一重で機体の位置をずらさん。が、ライフルが持って行かれる。火花が散った。
『甘いぞ!』
ボルスは腕部マシンガンを至近距離からワルレックスのメインカメラ目掛けて浴びせかけた。
ガラスに罅が入り、カメラが苦しげに瞬いたのを確かに見た。しかし天才悪山のワルレックスである。一瞬きの後にはガラスの罅が修復されていた。
空雷リリース。ワルレックスの顔面付近に滞空させた。
思わぬ反撃に、悪山の顔が引き攣り、操縦桿を握る節だった手が血の気が失せるまで握り込まれた。
自らに被害が及ぶこと覚悟で腕のマシンガンを撃ちっぱなしにし、すかさずビームガンを構え、チャージをそこそこに撃ち放つ。
『撃てぇっ!!』
『発射します!』
『直撃させる!』
アルフレッド機、レイア機、発射。
三条の光線が恐竜の頭部で炸裂、空雷が起爆した刹那大爆発を起こした。
『ぐぅうううううう……………がっ!?』
爆発に巻き込まれたボルスのナイツは制御を失い、錐揉みで地面へと真っ逆さまに落下しかけた。
しかし彼は並大抵のエースではない。ステイツの誇るエースである。
変形して高速移動形態、機首を起こすと機体下方の空気抵抗を活用して減速。再度可変することで無事だったビルの屋上を踏み抜くか踏み抜かないかの力加減で踏み台に、跳躍。バーニアで安定飛行に移った。
『やったか!?』
アルフレッドが、爆発で生じた煙に対PM用ライフルの銃口を向けつつ叫んだ。
レーダーに感アリ。
ボルスは苦々しい表情を滲ませると唇をぺろりと舐めた。
『いや………まだだ』
彼は戦意を喪失してはおらず、頭の中でいかにして恐竜を倒すかだけを考えていた。ナイツのサブウェポンたる拳銃を手首から射出してマニュピレーターに握らせる。
煙の晴れた先には頭部装甲に傷のついたワルレックスがエベレストのように聳えていた。
これではまるで“奴”のような堅さではないか――。
ギリリとボルスは奥歯を噛み締めた。
「ク――――クカカカカカカ! カ! カカ! ギラギラカッコいいワルレックスを落とせるわけないじゃろ! サイエーンスの勝利! ビバ科学!」
悪山の腹の底からの高笑い。ご丁寧にスピーカーと無線の両方に。
『隊長……このままではジリ貧です。豊富な補給が受けられない現状――』
『解っている。つくづく軍人とは非生産的存在だな』
レイアの提言が耳に刺さる。
すでにマシンガンは弾切れ寸前。ビームホウは度重なる砲撃で電磁場檻装置がヘタりだしている。
異界に吸い込まれて以来、元のセカイのように十分な補給と整備が受けられているとは言い難いの現状である。
せめて生産拠点を落とせるのならば話は変わってくるが、いまだに自律型のロボットが大量にうろついているため確保には至っていない。
シュタムファータァという女の子が攻略を担当しているはずだが連絡は入ってこない。
三機が一斉にかかってワルレックスを攻略できる確証は得られない。ワルレックスは堅く、大きく、速い。それだけで最新機であるナイツが翻弄されているのだ。
いや、とボルスは自嘲した。
機体に罪はない。操縦者の腕前が足りていないだけだ。
――ならば。
その時であった。
「ソーラーキャノン、照射」
眩い白亜の光線がワルレックスの右腕に牙を突き立てた。否、ビームのように揺らぎが見られない。レーザーのように大気の塵と反応して白く輝いているわけでもない。実体のある光があるとすればそれである。
強固な合金で作られビーム兵器ですら跳ね返す力場が構築されているのも関わらず、不可思議な光の粒子の干渉により一方的に溶けていく。
恐竜を忠実に再現しようと腕が細く作られていたのも災いとして作用した。
悪山は動揺した。
「な、なんとぉー!?」
照射を命じた主は腕の一点を睨んだまま舌打ちをした。
腕は溶けた。爪も跡形もなく。だがそれだけなのだ。腕の付け根に光線が達して内部を破壊せんと目論んだはずが、厚過ぎる装甲と力場に削がれ貫けない。
唯一の遠距離攻撃が通用しないのだ。
悪山の動揺でワルレックスが硬直した一瞬を見逃さない者たちがいた。
ボルス機が抜剣。二機も剣を抜いた。バーニアのベクタードノズルが蠢く。
『抜剣せよ! 私達の意地を見せてやろう!』
『Aye ay sir!』
『Aye ay sir!』
『せっかくの援護をふいにするな! 腕を狙え! 目を狙え! 奴を狙う! 全機、突貫せよ!』
三機が機動兵器の名前に恥じない疾風となりて恐竜に襲い掛かった。
悪山はニイイと歯茎を露出させ、あと半世紀は平然と生きていそうな凶暴な表情を作れば、前のめりになりワルレックスを突っ込ませた。
ビルを踏み倒し、高架道路を半ばでへし折り、地を揺らして突進する。膨れ上がった脚部がコンクリートを踏み砕き、粉末にせん。
何かに感づいたのか、悪山は不機嫌そうに鼻を鳴らし上空を一瞥した。ご馳走を横取りされた子供のように唇をとがらせて。
群れだ、機動兵器の群れだ。
「ええい……援護は不要と言ったはずではないか! 儂の邪魔をするでない! どけい! 空からどくのじゃ!」
敵が占領するエリアの『門』から航空機に足を生やしたような機動兵器が湧き出し、ワルレックス頭上を覆いつくして、敵を押しつぶそうと急降下を仕掛けていく。
『雑魚に構うな……狙いは奴だ!』
ナイツ三機が機動兵器の急降下攻撃を潜り抜け、肉薄。
巨大な機械恐竜との近接格闘が幕を開けた。
「ショウイチ……敵が多すぎるよ」
「総数30超か……まだ増える……………タウ、こういう時はどうするか教えたはずだぞ」
「わかってる」
「ソーラーキャノン、照射」
原型がトラクターとは思えぬスタイリッシュなパーツ構成のロボットが、そぐわぬ優しい声で答え、胸のキャノン砲を上空に向けた。
ショウイチと名前を呼ばれた男は冷酷な渋面を作った。
ワンオフ兵器のように絶大な威力を発揮するような代物には見えないし、いくら壊したところで替えが投入されるだけであろう。しかしエリアを制圧しない限りセカイを歪ませた元凶には辿り着けない。
やるしかなかった。
ショウイチは傍らのミサイルランチャーを肩に担ぎ、安全装置を解除した。拾いものだが、威力は折り紙つきだ。
「頼むぞタウ。俺たちには……いや、俺にはやるべきことがある。帰らなければならない」
「ボクはショウイチだけに背負わせないよ」
「ちょっと待て。そこだッ!」
ロボット……タウエルンがショウイチを振り返った刹那、ショウイチが肩のミサイルランチャーをとあるビルの屋上に向け、引き金を絞った。
ボシュンと間抜けな音を立てて発射されたミサイルは、音速を超えて空間を切り裂き、弾頭をその対人兵器にぶつけ見事撃破した。
とある世界でキルラットと呼ばれた無人兵器である。
ショウイチはランチャーを屋上に投げ捨てれば、背負い込んだ対物小銃(アンチマテリアルライフル)を腰だめに構え、ビルの屋上を飛び跳ねて接近しつつあったキルラットに的確に弾丸をお見舞いし、葬らん。弾丸は全て制御中枢である頭部に命中した。
「来てるぞ!」
「あわわわわ!」
タウエルンからソーラーキャノンが迸る。
光の塊が剣のように右に左に振りかぶられるたび、足つき機動兵器たちは成す術も無く溶かされ、地に落ちる。
対空兵器として破格の威力を見せ付けるソーラーキャノンでも、物量という現実に押しつぶされそうになる。
足つき達は接近を諦めミサイルやロケット弾を遠距離から連射しては離脱する戦法に切り替えた。
迫る、弾頭。
「ダメか」
ショウイチがタウエルンに片腕をかけた。
次の瞬間、
<存外、多いものだな>
「そうですね。やっちゃいましょう」
10本の銃口から放たれる怒涛の弾幕がミサイルとロケットを叩き落とし、機動兵器たちを空中で“削る”。弾丸の嵐に晒されたそれらは穴あきチーズよりも酷いスクラップに変貌していった。
ショウイチとタウエルンは、背中からバーニアを吹かし堂々と登場したロボットを見遣った。
全高約4m。追加装甲と思しきオリーブの衣服を身に纏った、9本のテールスタビライザーに重火器を装着した狐型ロボット。両腕には中華刀が握られ、阿修羅のような、観音像のような存在感を放っている。
そのロボットにすがりつくように登場したのが可憐な少女。鴉の濡羽色を後頭部できっちり纏めた、未完成の女性の雰囲気を纏いながらも緩急ある体躯の持ち主。
玉藻・ヴァルパインとまどか・ブラウニング、参上。
玉藻の重量にビルの屋上のタイルが罅割れた。太っているわけではない。繰り返す、肥満ではない。
<何をしている。私とまどかが奴らを落とす。あの化け物を落とすのはお前の仕事だ>
「私たちに任せてください。むしろお任せしてもらいたいです」
ショウイチはワルレックスがナイツに食らいつこうと口蓋を開いたのを一瞥した。
ナイツは辛うじて回避、口に向けてマシンガンを叩き込んだ。
「できるのか?」
許可を取るまでもない。
まどかは手にしていた杖を屋上に突き立てた。否、杖ではない。リヴォルバーカノンとでもカテゴリーすべき重火器だった。金属音。“杖”が光の粒子に還元され別の物体に姿を変える。
さすがのショウイチも“それ”を目にしたとき、頬が引き攣るのを止められなかった。
タウエルンも、表情を作る機能があれば呆けた顔を作っただろう。
「……任せても、構わないのか」
「任せて……いいんですか?」
丁寧な言葉遣いになったタウエルン。若干引いているのは気のせいでもなんでもない。
もちろんソーラーキャノンは止まった。
<口の聞き方に気を付けてもらおうか。私達を誰だと思っている? 極東の怪物“玉藻前”とブラウニング家のお嬢様なのだぞ>
「やりますよ、たまちゃん!」
<ああ、やろう>
「Are you ready?」
<Yes,My master!>
「OK!!! Rock'n'roll!!!!」
ショウイチはタウエルンに飛び乗ると、背中の排気口からナノマシンを散布させ空中に飛び上がった。
彼らの背後では、恐ろしい光景が展開していた。
30mm機関砲が二門。とても人類が扱うとは思えない代物が、少女の手に握られている。
大型マナタンクが背面に二つ。デイビークロケットを彷彿とさせる何かがタンクの隙間にあった。衝撃を殺すための大型アンカー装置がひっそり身を潜め、放熱板が羽のように展開し、今か今かと待ちわびるよう震えている。
まどかは、お嬢様然とした雰囲気を別種のものに変貌させ、笑った。肉食獣。戦士。否、トリガーハッピー。
アンカーが撃ち込まれ電流を迸らせた。
「Let's Partyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyy!!!!!」
対空陣地と化した少女とオートマタの頼もしい助力を借りて、青い粒子を纏った彼らが巨大な恐竜に突っ込んでいった。
◆ ◆ ◆ ◆
敵は、機械だけではない。
雲霞が如く押し寄せる生物の群れ。
別の世界ではワームと呼称されたものもあれば、またとある世界で一企業が作ってしまった生物兵器もあった。
それらは互いにつぶし合うことをせず、一心不乱に荒野を爆走もしくは空を飛んでいた。
それらを破壊する為にエリアに足を踏み入れたロボットもまた飛んでいた。
バーニアを吹かし、一定の高度に達すると滑空に移る。バーニアを使用する長距離移動はオペレーターという専門家に任せるものであるが、この乾いた世界には居ない。同じく飛ばされてきた技術者に、飛翔の操作が容易になるように改造してもらったのだ。
搭乗者の名前はウラジミル。何の変哲もない兵士である。
どうやらセカイは滅びるらしいと、聖書の落書きでも読み上げる風に考える。ペーパーバックでも廃れた話だ。ハリウッドなら担当者が首を切られるほどには。
死にたくはない。殺したいかはわからない。
子供の落書きにコーヒーぶちまけたような、愉快な生物兵器が空を飛んで向かってくるのを、9mmアサルトライフルのフルオートで対応した。
大型の生物兵器には9mmは弾かれてしまうが、小型のには十分過ぎる。
ミサイルポッドは生憎空っぽ。
数の多さに、接近を許す。金属をも溶かす酸が塊となって吹きかけられ、彼の乗る機動兵器『アポリア』は水のようになってしまう予定だった。
酸は、まるで寿命が尽きてしまったように空中で勢いを失うと、地面に落ちた。汚い酸のアイスクリーム。口に沸いた気泡を飲み込む。唾液は無かった。
アポリアが持つ敵に対する優位性の一つ、『トント』。空間の引き伸ばしによる物理エネルギーの消耗を狙う防御システム。薄い装甲、貧弱な火力を補ってあまりある、技術。
9mmが火を噴き、次の酸をのんびりと準備していた羽付き生物兵器の腹を割る。羽をちぎる。脳漿を飛び散らせる。撃破、6。弾が切れる。弾倉交換。
中距離跳躍。機体の脚部が唸りを上げ、跳ぶ。安定翼が自動で姿勢を直す。着地。ウラジミルの体をGが襲う。毛細血管の幾本かが葬られる。
白い不恰好な機体。上半身下半身のバランスは酷く不釣り合いで、脚部は折りたたまれているとはいえ巨大である。カメラ覆いは血走った眼のように赤色。頭部から伸びたアンテナはまるで台所の黒い生物の触覚である。
元のセカイでは、歳を食い過ぎた老婆のような女がこう称した。
バッタだと。
ウラミジルが次の生物兵器に対処せんとアポリアの向きを変えた。
「MIAか。脱走か。いずれにしても悪いことにしか転びそうにない」
独り言。ナンセンスだと自嘲する。話す相手も居ない。神に話す連中もいたが、神は支援砲撃を受理しない。
彼は、9mmを装填すると次の生物兵器の脳天に穴をタイピングした。
点射する。三連バースト切り替え。ワーム:タイプAの触手の付け根に叩き込む。崩れ落ちた。次。三連射撃。次。弾節約の為、このセカイに来てから装着した銃剣で刺し殺す。
首狩り兎の名は、おかしなことだが伊達ではない。
「ハッハー!」
ウラジミルの守る『門』から離れた地点では、兎と赤毛の男が大立ち回りをやっていた。
蜘蛛のような生物兵器の背中に乗った赤毛が、サーフボードでも乗りこなすかのように羽を引っ掴み“操縦”していた。
生物兵器相手にブラスナックルだけで格闘戦を繰り広げる男こそ、リヒト・エンフィールド。ヒーローでありロリコンであり紳士であり戦士である。
白い兎をモチーフにしたスマートな機体は、ヴァイス・ヘーシェン。花も恥じらう(製造は遥か昔である)歳のオートマタである。
<鬼さんこちらー手の鳴る方へ~>
白い機体が手を人間のように打ち、棘を持った8本脚をけしかける。
8本脚は加速に任せて突っ込んできたが、白い機体がひょいと押しやった生物兵器をも巻き込んでしまった。
白き機体はすでにその空間には居ない。脚部を変形させ上空へと退避した後なのだから。
マナを纏った白き機体は、ブースターの加速と重力の全威力を足に乗せたドロップキックで8本脚の剣状の背びれの隙間から腹までをものの一撃で貫通せしめた。たまらず、汚い粘液と肉に変貌し、飛び散る。
白い機体は耳をぴんと張り、肉片をマナの発動で地面に捨てやった。
<乙女の肌を汚すなんて、不埒な人達ですねぇー>
「肌っつーか質感っつーか」
<空気読めよマスター。だから女の子に逃げられるんですよ。まぁ私という美人が居るからいらないんですけどね>
「おおっこわっ」
<私はデカいのをやりますね>
「俺がやるんだい」
<ガキっぽいことを言わないでください>
「ガキ? いいえロリータです。それは俺に恍惚を与えてくれます」
<教科書のような翻訳文、ステキ。だいて>
「棒読みすんなよ恥ずかしいだろうが。ちょっとジョークを飛ばしてやっただけだぜ? 笑えよ頼むから。恥ずかしいっての」
<今のがジョークなら教科書はコミックスですねわかります>
仲良く喧嘩する二人の頭上から、蜘蛛が襲い掛かった。
キキキーっと鳴き声を上げて。
<てめーは>
「寝てろ!」
見事なアッパーで撃退するのであった。
それを見たウラジミルは戦闘中ではまずありえない別の意味の頭痛に頭を振るのだった。
「悪いジョークだ」
◆ ◆ ◆ ◆
訪れる恐怖。
蘇った宿敵。
「死んだはずじゃ……!?」
「確かにね、間違いなく、寸分の狂いもなく私は死んだ。“私”はね」
「――そう、私は死んだはずだ。だが私はここにいる。私は居るのだよ、鈴木君」
「君は何にも知らない。知ったつもりでいる。ヒーローが笑わせるよ。私はね、二度も世界を滅ぼすきっかけを作った男を始末する為にあの世から這い上がってきた、鈴木君」
「俺はっ……」
「君も同じように時を変えたのだろう? 何が違う。変わらぬよ、何も」
「もっとも、何も変わらないどころか変わりすぎたがね」
「―――潔く死ね」
剣が迫った。過去のフラッシュバックと共に。
◆ ◆ ◆ ◆
セカイを浸食するのは、即ちセカイと同化することに他ならない。
セカイが崩壊を始めていた。
その崩壊を食い止めるのは、ほんのちっぽけな少女だった。
セカイの砕け散る力を、セカイを塗り潰す力が相殺する。絵画の罅割れに絵具を加えたように、裂けかかった空が翡翠色の力場で吸い付きあう。
セカイが揺らぎ、波打ち、大地に根付く木達の葉が枯れてはまた生気を取り戻す。
時空が、空間が、存在が揺らいでいる。
塗り潰す。己が塗り潰す。己という絵具を塗りたくる。縫合する。セカイを縫合して繋ぎ止める。箱庭という一時の楽園に接続する。接続する。存在させる。存在を認めさせる。
「おい、シュタムファータァ……」
「ごめんなさいヤスっちさん。集中が……とぎれ、ますから……話かけ……」
白銀の鎧がセカイを繋ぎ止める。砕けてしまわないように。
パチパチパチ。
拍手。
少年は振り返り、手に持った銃を慣れぬ様子で構える。
「イッツァミラクル(それは奇跡です)。イッツァミラコゥ! 素晴らしい。実にすばらしい。ミラクルです」
黒い死神装束……ではなく、黒スーツに底知れぬ悪意を秘めた瞳を眼鏡で覆い隠した悪人。纏う雰囲気、まさに暗黒。木にゆったりもたれ掛った男は拍手を止めた。
不敵な笑みを崩さず一歩一歩歩み寄る。
「なんなんだよ、テメェ!」
「私ですか? 私はワルサシンジケートの最上級エー……ワルジェント……イッツァ・ミラクルと申すものであります。以後お見知りおきを」
「ところで君は――」
「セカイ(彼女)を守りますか? それともこのセカイ(世界)を守りますか? 私(わたくし)個人として非常に興味深い二者択一(センタク)であります」
◆ ◆ ◆ ◆
襲来、未知の機神。
ダイアモンドにも似た宝石――気の遠くなる太古の昔に作られたテクノロジーの結晶が熱すら生じることなくエネルギーを発生。
回路という概念を超越した伝導方を用い、兵器に光が灯るや、敵を破壊すべく超高速連射が開始された。
一射でクレーターを掘る異常な威力に、立ち向かう青年は鳥肌が止まらずにいた。
「無理ゲーってレベルじゃねーぞ!」
彼の名前は物部京介。猫目が特徴の学生である。
彼の乗る機体は十九式魔導甲冑『時正』。魔導甲冑に分類される機動兵器である。近接格闘装備が充実している通り、近接格闘を得意としているのであるが、敵は空中に浮いたまま一向に降りてこない有様だった。
空『を』飛べる兵器と、空『も』飛べる兵器の差である。
『加圧』を使い時間の認識感覚を高速化しても、光と同じ速度で飛来する射撃では意味がない。
スラスターと足使いで砲撃着弾点から見事な回避をし続ける。京介は飛び道具のEダガーを構え、敵の砲に狙いを付けた。
「不可能なゲームがあった試しは無い! うぉぉぉぉおおおォ!」
「だけどリセットもチートも!? 糞っ」
砲撃を食らいまくりながらも、仁王立ちを崩さずビームを打ち返す機体もいた。
漆黒の機体、最強無敵ロボ・ネクソンクロガネである!
ネクソンクロガネを駆る孤高の正義の味方は、田所カッコマンである!
どこからともなくBGMが響く!
ドゥビドゥビ! ドゥビビ!
ドゥビドゥビ! ドゥビビ!
ドゥビドゥビッドゥ! ドゥビドゥビッドゥ!
ドゥビドゥビドゥビドゥビッドゥドゥビドゥビ!
ネクソニウムと超ネクソン黒鋼をメインに使用して作られたそれはたとえ何があろうと傷つくことを知らぬ絶壁の防御力と、悪を蹴散らす無敵の火力を発揮するのである!
宝石、もしくは結晶と、超ネクソン黒鋼が一種の共鳴現象を引き起こしているなど、誰も知らぬ。もしかすると同郷の物と勘違いしたのかも知れぬ。
ビームとビーム、ビームと剣、ビームと拳、ビームとミサイルの合戦。
その戦場に、脚付きまでもが登場し、戦闘は激しさを増した。
「加圧開始……」
セカイが遅延する。否、己が極限の疾風となる。
迫るミサイル群を迎撃せず、隙間を潜り抜ける。摺り足。大地に刻まれる、痕跡。スラスターの作動に合わせ跳躍。日本甲冑に似たロボットが駆ける、白虎が如く。
二機の足つきの中間を、刀と脇差の二刀を両手に持ち、すり抜けざまに切り付け、分断。
空中で旋回している最中の足付きを刀で串刺しにすれば、刀を宙に放り、脇差にキーワードを念じる。
『刀よ』と。
脇差が青白い霊魂を宿すが如く光の剣と化す。スラスターが爆発的推力を生み出す。砲撃のパターンを先読みする。時正が機神に肉薄し、ものの一撃で砲身をかち割った。
遅れて爆発。
時正は爆風で体勢を崩しかけたが、機関砲を連射しつつ背後に回ろうとした足付きの真上に位置を修正し、のしかかった。
「悪いな、ちょっくら借りる」
足場として。
足付きの真上に着地。重量に耐えきれず重力に自由を奪われる前に次の足付きに飛び移り、遠距離から放たれたミサイルを、放ってあった刀を握り、一振りで叩き落とす。
飛び移ること8機。
彼は、敵に飛び移っては撃破を繰り返す、世にいう八艘飛びを再現して見せたのを、自覚しなかった。
「こんなことなら射撃武器の申請をしておくんだったよ! まったく! 弓でも落ちてないかなぁ! 先生見てますか!」
京介は、警戒して上空からの射撃に専念し始めた敵機に、いよいよ慣れぬ空中戦を選択する他なくなったと自覚し、嬉しいやら悲しいやら大声を張り上げた。
一瞬の隙を突き、機神から――別のセカイの女性が『リバイアサン』と命名したロボットが、予備動作なしの踏みつぶしを慣行した。迫る、巨躯。
「頼んだヒーロー」
「任されたッ!!!」
割り込んだのはヒーロー。
両の足を大地に付け、強靭なる金属の腕で踏みつぶしを押しとどめる。力と力がせめぎ合い空間が震える。大地に亀裂が走る。デュアルアイが愛に燃えた。
友情、愛情、心を通じ合うこと――!
「今だ、京介!」
「応! 俺のガラじゃないが――七上流――――!!」
神速の刃が解き放たれ、鉄の天井に――。
◆ ◆ ◆ ◆
「あはははっ! ははっ。どうしたんだい鈴木君。私がデストラウに乗ってないのがそんなに不思議かい? だろうねぇいかにもな悪機体じゃないものねぇ、愉快でたまらないよ」
「早くヴィルティックを呼ぶんだ。君が考慮すべき一般人はここには居ない。存分に殺し合える」
「潰してあげるよ、このエニグマでね」
「隆昭さん……敵機体から高エネルギーを検知しました……ですが、推定出力が……そんな………」
「ヴィルティックの5倍以上あると……」
「………っ……トランス・インポート!」
「そうこなくては」
「急いだ方がいいぞ、鈴木隆昭。このエリアはもう崩壊寸前だからね」
「セカイを救いたければ私を殺してみろ」
ビームがエリアを貫いた。
◆ ◆ ◆ ◆
「あぁ、奴はもう必要ない。用済みの男だよ」
「我らの計画の捨て駒としては十二分に働いてくれたがね」
ワインを傾ける。安物。塩水のようにマズイ。
「いい……我々の勝利目標は奴らを殲滅することには無いのだから」
「箱舟に乗り荒波を避ける、それだけさ。濁流が連中を綺麗に掃除してくれる」
「新世界に彼らは不要なイレギュラーだ」
「行け。奴らを殺せレギウス」
鳴り止まない狂気が戦いを呼び。
悪魔が目を覚ます。
◆ ◆ ◆ ◆
「シュレー!?」
「先生!」
「メルフィー!」
「隊長!」
「シュタムファータァ!」
「ク、ハハハハハ! 私を倒せるか、旧世界の住民達よ! 貴様らは私が古き連鎖(ネクサス)として葬ってやる」
離反者、あらわる。
「へっへー☆ ツカサキさんは訳あれば裏切るのさ♪」
「貴様……死にたいか」
「生きたいから裏切るに決まってんだろ脳無し」
◆ ◆ ◆ ◆
「ヒーローの前には必ず困難が立ちはだかるように出来ているそうだ」
男はかく語りき。
「それを痛快に打ち砕いてハッピーエンドで終わらせるからヒーローと誰かが言っていた」
「そんなモンじゃねーだろ……立ち上がろうぜ、ヒーロー」
「あぁ……そうだった……忘れていた。例えネクソンクロガネを失おうとも、俺には体が、仲間が居たんだった」
「ヒーローは助けられちゃいけないって誰が決めたんだ? ほら」
手を握り合う。
そして立ち上がる。
「……動く……この感覚……懐かしさ? お母さん? おばあちゃん? 誰なの? ……涙が止まりません」
「どうしたのですかアルメリア」
「私、この機体を知ってる気がするんです」
「操縦できるの? すごーい私さっぱりわかんないや」
「海中で勝てると思わないこと!」
「ばっ……無茶すんなー!?」
「私は―――……ナイツは伊達ではない!」
「因果なもんだよな……仕事でもないのに戦わなくちゃならん。悪く思うな、俊明。オレの為に死ね」
「イェーガー……!」
「男だろ? 来いよ。前歯折ってイケメンに整形してから土葬してやる」
「……塗装を塗り替えておくべきだった」
「タウ、返事をしろ。タウ……畑を耕すんじゃなかったのか……おい……起きろ……」
セカイを救え。
【スーパーロボスレ大戦:R ~終焉のセカイへ~】
「検閲者として貴方を粛正する」
「遅かったな小娘!」
「いいや、早過ぎるくらいだ」
「私は遅すぎると言ったのだよ! 遅すぎるとな!」
「崩壊へのトリガーは出揃ったのだからな!!」
3013年夏、発売予定。
「メルフィー……俺は」
「いいんです。……私は、とても幸せでした」
「メルフィー・ストレインは、幸せ……でし……た」
慟哭。
「ところがぎっちょん!」
「帰りが遅くなりました! ―――……パラベラム!」
<マスター、戦闘を開始します>
お疲れ様でした。
メインシステム通常モードに移行します。
予約をして特典をもらおう!
特典内容:予約限定箱 ゲームディスク本体
:設定資料集Ⅰ、Ⅱ
:「ロボスレガールズ描き下ろしイラスト冊子」+ボーイズ
: 潰して遊ぶ呪いのオルトロック人形
殴って遊ぶミニおとん人形
へーっと鳴くヘーシェン人形
(人形はいずれか一点同封)
新機軸エネルギー「アイルニトル」の発見は人類史に残る偉業ともされる。原子エネルギーをも凌駕するそれはまさに人類の夢を体現したものであった。
アイルニトル研究から得たデータから作られた巨大ロボット「アストライル・ギア」。
イルミナティやその他思想結社に端を発する巨大財団「イルミナス」。
彼らはアストライル・ギアを用いる平和的なスポーツ「ブレイブグレイブ」を世間に広め、みずからもスポンサーとして普及に努めた。
そのスポーツは世界中で流行した。
――世界住民は、やがて訪れる、全世界そして無数のセカイをも巻き込む混沌を察知しようともしなかった。
イルミナスは各国が集結する国際大会の場でアストライル・ギアを破壊。搭乗者も次々殺害せしめた。
首領ネクサスを名乗る男の指示のままに、人類史上初の軍用アストライル・ギアが各国を襲撃し、現行の兵器は紙くず同然に打ち破られた。
彼らに対抗すべく結集されたレジスタンス団も、圧倒的質と物量によって押しつぶされていった。
世界を火の海に沈めたイルミナスは狂気に走り、それを建造し、暴走させてしまった。
――空間消去型時空兵器(タイムゼロ)。
時空を破壊する兵器。
発動の寸前に一人の男がイルミナスを強襲、混乱の最中でタイムゼロの暴風が解き放たれ、無数のセカイ間が『門』で繋がれ、セカイの修正力によってすべてが灰燼に帰すと思われた。
本来であれば、セカイ同士を接続することで、セカイ間の理の差を利用して崩壊を齎すはずのそれは、緩衝空間とも言うべき箱庭を創り出したのである。
各セカイで突如出現した門は周囲一帯を吸い込み、セカイのカサブタとも言うべき蓋が覆った。
しかし、緩衝空間『箱庭』は崩れつつあった。
辛うじて均衡を保っただけに過ぎなかったのだ。
残された時間は少ない。
箱庭に呼ばれた彼ら彼女らは、セカイの崩壊を食い止めることができるのだろうか?
◆ ◆ ◆ ◆
「これは……凄いわこの子。みてみて。スマートなのに中身が凄い。装備が貧弱なようだけどスラスターの性能がいいから高速で振り切れる。一撃離脱から遠距離戦まで思うままってところね。
どんな電池使ってんのかしら。容量デカすぎでしょ。メーター振り切ってる。性能はいいのにガタガタなのが残念」
「ふーん」
「操縦席見た? 再利用品って訳でもないのに、高級なもんでもない。企業のロゴ入りの部品もあるのに、手作りのもある。不思議よね。だって潜水機の製造業務を手掛ける企業なんて無いんだぜ? できるならお持ち帰りして服を脱がしてみたいわ」
「ふーん」
「ソフトウェアとかも潜水機用市販品なのよ? どこにあんのよそんなもん。持ち帰れば大金持ちになれる予感すんじゃん」
「ふーん」
「浪漫よ浪漫! 実用的浪漫! 操縦席の時計が70~80年も進んでるってのも興味深いわ!」
「それはいいとして」
「なによフラン。ムスッと顔しちゃってさ」
「どこなのここ?」
「私に聞かないでよ」
「誰に聞けばいいのよ」
「魚にでも聞けばいいと思うぜ」
「釣り具貸してよ」
「無いわ。銛ならぬ長巻ならご自由にどうぞ。すげぇ重いぜ、骨が折れるくらい重いぜ、糞重いぜ」
「一緒に担ぎなさいよ」
「だが断る」
青毛混じりの女性と、赤茶けた髪の女性が、駄弁っていた。
彼女らの居る場所は無人島のような場所で、青い海、白い砂浜という点では南国であったが、空に罅が入っていたり、島の中央に謎の物体が等速円運動をしつつ浮遊している点で異世界だった。
彼女らの傍らには、船から放り出され命からがら漂流した人間を彷彿とさせるだらしない前のめりで砂浜にめり込んでいる10mはあろうかというロボット。
そのロボットから少し行った地点に、同型と思われるロボットが転がっている。それは破損していた。一つ目カメラアイが砂に塗れており、哀愁を誘う。
二機はケーブルで繋がれており、彼女らの乗ってきた潜水機から一つ目に電力が供給されている状態である。
赤茶けた髪を腰まで伸ばし、豊満な胸に女性的な骨盤を筋肉で覆った女性が、無造作に転がっているロボット――潜水機を事細かに調べている間、自分が陥った現状を信じきれないらしいスマートなおかっぱ髪の女性が、苛立ち隠せずうろついていた。
彼女らの現在――ある日突然光に吸い込まれ気絶しました気が付くと無人島でしたまる。
青毛混じりの銀髪の女性、フランはため息をつくとひび割れた空を仰ぎ、空気を目一杯吸った。おいしかった。
その時である。
無人島(と言っても庭くらいしかないのである)の中央で等速円運動をし続ける不可思議な半透明状のカードのようなものが俄かに光るや、ぱっくり暗黒の口を開き、物体をぺっと吐き出した。
六本足のロボットと、二本足のロボット。最後に少なくとも数mの高さから砂浜に放り投げだされた少女が一人。
「ふぎゃっ!?」
受け身すらとれず、べちゃっと落下。幸いなことに柔らかいパウダー状の砂が衝撃を殺してくれた。
半透明のカードのようなそれは瞬き、徐々に元の速度に移行した。
流石に慣れてきたのか、フランもマーレも動じず、出現した物体を見つめている。
『委員長だいじょうぶー?』
「ええ………アルメリア、シュレー、大丈夫ですか?」
『私は大丈夫です。委員長、顔からダイブしてませんでしたか。痛そうに見えたんですけども』
「受け身取りました!」
『委員長ダウトー!』
砂浜に投げ出された緑髪の少女を、二足歩行型ロボットが器用に右手を使って立ち上がらせた。
六本足という珍しい型のロボットは、頭部を周囲にやって視線が安定しない。搭乗者が、風景が一瞬で変貌してしまったことに驚いているらしい。
『私たち……練習してたはずですよね? いつリゾートに来たんだろう』
『うん。よくわかんないけど海がきれー。泳ぎたいなぁいいよね別に』
「ピントのずれた会話してる場合じゃないですよ二人とも! 誰かいます!」
『あ、ほんとだ。おーい!』
『シュレー! 危険かもしれないですって!』
「アルメリアも! 私徒歩なんですよ! おいつけ……あーっ!?」
砂に足を取られ盛大にすっころぶ緑髪の女の子を完全に置いてきぼりに、二機のロボットはがしゃこんがしゃこん足音を立てつつフランとマーレの元に駆け寄っていった。
フランとマーレには見覚えのない型のロボットである。
彼女らのセカイ―――もとい時代ではメタルナイツという競技すら存在しておらず、近似形と言えばロボット重機。だが砂浜を駆け寄ってくる二機は重機には見えないのである。
一人は軍人。一人は海賊。過去の二人。
未来の学生三人。
奇妙な邂逅はここに成立した。
もっとも、タイムパラドックスを考慮すれば「酷似した平行世界の住民」かもしれないのであるが。
「なぁあれ重機かねぇ? 私の船に欲しいんだけどどこで売ってる?」
「知らないわよ。重機っぽくないし。六本脚のなんて初めてよ。ムカデみたいな動きでちょっとキモい」
「キモ可愛いじゃん。おーい!」
「ちょっとあんた待ちなさいよぅ!」
「ファーストコンタクトもーらいっ!!」
軽口を叩くマーレだが、ある意味間違いではないことを後で知ることになる。
◆ ◆ ◆ ◆
「つまり……どういうことだし」
「タイムスリップ………でしょうか……」
「私達が?」
「私か、フランとマーレさんかはわかりませんが、説明が付きませんし」
「ひゅー! オッカルトー!」
「おーっかっとー!」
「お、オカルトー……」
「アルルー発音できないよ! オッカットーだよ!」
「駄目だこいつら何とかしないと……」
「……苦労しますね」
「……そうね」
「あれ、なに?」
「ロボットが一杯………っ!? 銃を持ってます!」
◆ ◆ ◆ ◆
『箱庭』にはいくつものセカイが切り取られ封じられている。
『箱庭』には幾人もの人間が吸い込まれ封じ込まれている。
イルミナスにより世界中が泥沼の戦争状態に陥ったセカイ。
過去の「何か」で文明がリセットされたセカイ。
地球を捨てて新しい星に新天地を求めたセカイ。
民族浄化という血生臭い戦場を駆け抜ける男性の居るセカイ。
小さなセカイを守ろうと奮闘する少年と少女が居たセカイ。
霊的災害から市民を守るべく剣を振るうロボットが居たセカイ。
続発する巨大ロボット犯罪に立ち向かう正義の味方が戦うセカイ。
謎の高性能機体の襲撃を受け成す術もなかったセカイ。
過去の過ちが人の心にロボットへの恐怖心を植え付けてしまったセカイ。
隕石の衝突により闇に包まれた世界で拉致され戦うことになった青年がいるセカイ。
セカイを救う時間は残り少し。
目標はただ一つ。
元凶を排除し、崩壊を止めよ。
◆ ◆ ◆ ◆
敵は強大だ。
セカイを救おうとする者も、加担するものもまた存在したのだから。
ビルが均等に立ち並ぶ市街地エリア。
それは絶望的な強さを持っていた。
時代遅れの進化の系譜から外れた遺物。
巨大な体と暴力で他の生物を寄せ付けない強さを誇った恐竜を模した巨大なロボット。
異世界技術で強化されたそれは優に40mを超える恐怖の権化であった。
名をワルレックス。
個人用垂直離着陸機(ワルヘッド)でワルレックス上方に位置した老人が破顔した。悪山悪男。御年77歳。バリバリの日本男子であり悪の科学者であり孫娘が可愛いお年頃である。
彼は高笑いしながらワルヘッドをワルレックスの頭部にドッキングした。
ワルレックス、オンライン。
「がぁーっはっはっはっは! あの男が初戦ではないのが残念だが、不足は無かろう異世界よ! 行け! 我が悪の科学力を存分に見せてやるのじゃああああァ!」
ワルレックスが咆哮を天に響かせた。ビル群の窓ガラスがワルレックスから広がる同心円状の音津波を受け順々に粉みじんになった。
鉄の塊とでもいうべき尾が振られた。雑居ビルが数棟倒壊した、積み木を崩すように。
カメラアイがカッと閃光し、敵を威嚇せん。
『奴は遠距離兵器に乏しいと見た。削り倒すぞ。エンゲージ!』
『了解! ビームガンスタンバイ』
『了解! スタンバイ』
強者のみが選りすぐられる『シルバーナイツ隊』のエースたるボルスは、仲間に指示を送りつつ増速した。
アルフレッド・ミクソンとレイア・マリアベル機はボルス機から離れた位置、すなわち敵より距離を取った位置に陣取ろうと機首方向を曲げた。
空力特性とエンジンパワーで飛翔する三機の機動兵器。
パンツァーモービル(PM)という分類の兵器であり、どんな場所でも戦闘を続行できる機動戦闘兵器として開発された。
機体名『ナイツ』。
エースにのみ配備されるピーキーな機体で、エンジン出力や装甲などは一般機と比べ物にならない最新機である。近接格闘を考慮し関節が改良されており、ショックアブソーバーもグレードの高い製品が使用されている。
背負い式ビームガンの他は一般PMと共用の武装を標準装備としてあるのも特徴である。
彼らのセカイにある母国「ステイツ」における主力格のPMであることは間違い無い。
総数、3機。
戦闘機のような不可思議な形態のそれらは青いジェット炎を吹かし市街地スレスレを通過したかと思えば、両足に相当する部位を可変させ、上半身を起こし、対PM用ライフルを手に人型形態に移行、射撃を開始した。
だが、対PM用ライフル弾という旧時代の戦車砲並みの火器はしかし、ワルレックスの装甲に跳ね返されるばかりで一向に有効な損傷を与えられない。
「ただのワルレックスとは一味違うのじゃよ! ワルレックスとは!」
悪山は莞爾と笑えば、すかさずワルレックスを三機の元に突っ込ませた。
雄叫びを上げながら、山のような存在感を放つ恐竜が突貫する。
『チャージそのまま! 私が突っ込み囮になる。頭を狙え、いいな!』
『了解!』
『了解! 隊長、もちろん狩ってしまっても構いませんよ!』
『お前たちこそ撃ち倒してしまっても構わないのだぞ!』
ボルスは軽口を叩くアルフレッドにニヤッと笑み、高速形態に移行した刹那、ビルの隙間を縫うような機動でワルレックスの背後を取ろうとせん。
マッハ1。
ナイツが音速でビル群の合間を潜り抜ける。ワルレックスの咆哮でも辛うじて破壊されなかった窓ガラスが砕け原型とどめぬ破片として散華した。
「猪口才なッッ!」
悪山が吠えた。
ワルレックスの長大かつ世界樹の幹が如く太い尾が街を薙ぎ払う。尾から棘が飛びだし、ビルのコンクリートを豆腐のように貫通、砕き、根こそぎ瓦礫の礫に変えた。
降り注ぐコンクリートと砂煙が弾幕となり、ナイツに襲い掛からん。
『このような瓦礫など!』
恐怖は無かった。
あの黒き悪魔の攻撃に比べれば瓦礫を落とすだけの攻撃など攻撃の内に入らない。
可変。瓦礫を足で蹴っ飛ばし脚部ミサイルを発射。瓦礫の一つを粉砕すれば、破片に衝突覚悟で突っ込み、砂煙とヴァイパーを伴ってワルレックスの頭部を越し背面を取る。
「ところがそうはいかんのじゃい!」
気味が悪くなる速度で旋回したワルレックスが、上半身を捻り図体に似合わぬ細腕の爪を繰り出した。
バーニアが作動するや爪の振り下ろしから紙一重で機体の位置をずらさん。が、ライフルが持って行かれる。火花が散った。
『甘いぞ!』
ボルスは腕部マシンガンを至近距離からワルレックスのメインカメラ目掛けて浴びせかけた。
ガラスに罅が入り、カメラが苦しげに瞬いたのを確かに見た。しかし天才悪山のワルレックスである。一瞬きの後にはガラスの罅が修復されていた。
空雷リリース。ワルレックスの顔面付近に滞空させた。
思わぬ反撃に、悪山の顔が引き攣り、操縦桿を握る節だった手が血の気が失せるまで握り込まれた。
自らに被害が及ぶこと覚悟で腕のマシンガンを撃ちっぱなしにし、すかさずビームガンを構え、チャージをそこそこに撃ち放つ。
『撃てぇっ!!』
『発射します!』
『直撃させる!』
アルフレッド機、レイア機、発射。
三条の光線が恐竜の頭部で炸裂、空雷が起爆した刹那大爆発を起こした。
『ぐぅうううううう……………がっ!?』
爆発に巻き込まれたボルスのナイツは制御を失い、錐揉みで地面へと真っ逆さまに落下しかけた。
しかし彼は並大抵のエースではない。ステイツの誇るエースである。
変形して高速移動形態、機首を起こすと機体下方の空気抵抗を活用して減速。再度可変することで無事だったビルの屋上を踏み抜くか踏み抜かないかの力加減で踏み台に、跳躍。バーニアで安定飛行に移った。
『やったか!?』
アルフレッドが、爆発で生じた煙に対PM用ライフルの銃口を向けつつ叫んだ。
レーダーに感アリ。
ボルスは苦々しい表情を滲ませると唇をぺろりと舐めた。
『いや………まだだ』
彼は戦意を喪失してはおらず、頭の中でいかにして恐竜を倒すかだけを考えていた。ナイツのサブウェポンたる拳銃を手首から射出してマニュピレーターに握らせる。
煙の晴れた先には頭部装甲に傷のついたワルレックスがエベレストのように聳えていた。
これではまるで“奴”のような堅さではないか――。
ギリリとボルスは奥歯を噛み締めた。
「ク――――クカカカカカカ! カ! カカ! ギラギラカッコいいワルレックスを落とせるわけないじゃろ! サイエーンスの勝利! ビバ科学!」
悪山の腹の底からの高笑い。ご丁寧にスピーカーと無線の両方に。
『隊長……このままではジリ貧です。豊富な補給が受けられない現状――』
『解っている。つくづく軍人とは非生産的存在だな』
レイアの提言が耳に刺さる。
すでにマシンガンは弾切れ寸前。ビームホウは度重なる砲撃で電磁場檻装置がヘタりだしている。
異界に吸い込まれて以来、元のセカイのように十分な補給と整備が受けられているとは言い難いの現状である。
せめて生産拠点を落とせるのならば話は変わってくるが、いまだに自律型のロボットが大量にうろついているため確保には至っていない。
シュタムファータァという女の子が攻略を担当しているはずだが連絡は入ってこない。
三機が一斉にかかってワルレックスを攻略できる確証は得られない。ワルレックスは堅く、大きく、速い。それだけで最新機であるナイツが翻弄されているのだ。
いや、とボルスは自嘲した。
機体に罪はない。操縦者の腕前が足りていないだけだ。
――ならば。
その時であった。
「ソーラーキャノン、照射」
眩い白亜の光線がワルレックスの右腕に牙を突き立てた。否、ビームのように揺らぎが見られない。レーザーのように大気の塵と反応して白く輝いているわけでもない。実体のある光があるとすればそれである。
強固な合金で作られビーム兵器ですら跳ね返す力場が構築されているのも関わらず、不可思議な光の粒子の干渉により一方的に溶けていく。
恐竜を忠実に再現しようと腕が細く作られていたのも災いとして作用した。
悪山は動揺した。
「な、なんとぉー!?」
照射を命じた主は腕の一点を睨んだまま舌打ちをした。
腕は溶けた。爪も跡形もなく。だがそれだけなのだ。腕の付け根に光線が達して内部を破壊せんと目論んだはずが、厚過ぎる装甲と力場に削がれ貫けない。
唯一の遠距離攻撃が通用しないのだ。
悪山の動揺でワルレックスが硬直した一瞬を見逃さない者たちがいた。
ボルス機が抜剣。二機も剣を抜いた。バーニアのベクタードノズルが蠢く。
『抜剣せよ! 私達の意地を見せてやろう!』
『Aye ay sir!』
『Aye ay sir!』
『せっかくの援護をふいにするな! 腕を狙え! 目を狙え! 奴を狙う! 全機、突貫せよ!』
三機が機動兵器の名前に恥じない疾風となりて恐竜に襲い掛かった。
悪山はニイイと歯茎を露出させ、あと半世紀は平然と生きていそうな凶暴な表情を作れば、前のめりになりワルレックスを突っ込ませた。
ビルを踏み倒し、高架道路を半ばでへし折り、地を揺らして突進する。膨れ上がった脚部がコンクリートを踏み砕き、粉末にせん。
何かに感づいたのか、悪山は不機嫌そうに鼻を鳴らし上空を一瞥した。ご馳走を横取りされた子供のように唇をとがらせて。
群れだ、機動兵器の群れだ。
「ええい……援護は不要と言ったはずではないか! 儂の邪魔をするでない! どけい! 空からどくのじゃ!」
敵が占領するエリアの『門』から航空機に足を生やしたような機動兵器が湧き出し、ワルレックス頭上を覆いつくして、敵を押しつぶそうと急降下を仕掛けていく。
『雑魚に構うな……狙いは奴だ!』
ナイツ三機が機動兵器の急降下攻撃を潜り抜け、肉薄。
巨大な機械恐竜との近接格闘が幕を開けた。
「ショウイチ……敵が多すぎるよ」
「総数30超か……まだ増える……………タウ、こういう時はどうするか教えたはずだぞ」
「わかってる」
「ソーラーキャノン、照射」
原型がトラクターとは思えぬスタイリッシュなパーツ構成のロボットが、そぐわぬ優しい声で答え、胸のキャノン砲を上空に向けた。
ショウイチと名前を呼ばれた男は冷酷な渋面を作った。
ワンオフ兵器のように絶大な威力を発揮するような代物には見えないし、いくら壊したところで替えが投入されるだけであろう。しかしエリアを制圧しない限りセカイを歪ませた元凶には辿り着けない。
やるしかなかった。
ショウイチは傍らのミサイルランチャーを肩に担ぎ、安全装置を解除した。拾いものだが、威力は折り紙つきだ。
「頼むぞタウ。俺たちには……いや、俺にはやるべきことがある。帰らなければならない」
「ボクはショウイチだけに背負わせないよ」
「ちょっと待て。そこだッ!」
ロボット……タウエルンがショウイチを振り返った刹那、ショウイチが肩のミサイルランチャーをとあるビルの屋上に向け、引き金を絞った。
ボシュンと間抜けな音を立てて発射されたミサイルは、音速を超えて空間を切り裂き、弾頭をその対人兵器にぶつけ見事撃破した。
とある世界でキルラットと呼ばれた無人兵器である。
ショウイチはランチャーを屋上に投げ捨てれば、背負い込んだ対物小銃(アンチマテリアルライフル)を腰だめに構え、ビルの屋上を飛び跳ねて接近しつつあったキルラットに的確に弾丸をお見舞いし、葬らん。弾丸は全て制御中枢である頭部に命中した。
「来てるぞ!」
「あわわわわ!」
タウエルンからソーラーキャノンが迸る。
光の塊が剣のように右に左に振りかぶられるたび、足つき機動兵器たちは成す術も無く溶かされ、地に落ちる。
対空兵器として破格の威力を見せ付けるソーラーキャノンでも、物量という現実に押しつぶされそうになる。
足つき達は接近を諦めミサイルやロケット弾を遠距離から連射しては離脱する戦法に切り替えた。
迫る、弾頭。
「ダメか」
ショウイチがタウエルンに片腕をかけた。
次の瞬間、
<存外、多いものだな>
「そうですね。やっちゃいましょう」
10本の銃口から放たれる怒涛の弾幕がミサイルとロケットを叩き落とし、機動兵器たちを空中で“削る”。弾丸の嵐に晒されたそれらは穴あきチーズよりも酷いスクラップに変貌していった。
ショウイチとタウエルンは、背中からバーニアを吹かし堂々と登場したロボットを見遣った。
全高約4m。追加装甲と思しきオリーブの衣服を身に纏った、9本のテールスタビライザーに重火器を装着した狐型ロボット。両腕には中華刀が握られ、阿修羅のような、観音像のような存在感を放っている。
そのロボットにすがりつくように登場したのが可憐な少女。鴉の濡羽色を後頭部できっちり纏めた、未完成の女性の雰囲気を纏いながらも緩急ある体躯の持ち主。
玉藻・ヴァルパインとまどか・ブラウニング、参上。
玉藻の重量にビルの屋上のタイルが罅割れた。太っているわけではない。繰り返す、肥満ではない。
<何をしている。私とまどかが奴らを落とす。あの化け物を落とすのはお前の仕事だ>
「私たちに任せてください。むしろお任せしてもらいたいです」
ショウイチはワルレックスがナイツに食らいつこうと口蓋を開いたのを一瞥した。
ナイツは辛うじて回避、口に向けてマシンガンを叩き込んだ。
「できるのか?」
許可を取るまでもない。
まどかは手にしていた杖を屋上に突き立てた。否、杖ではない。リヴォルバーカノンとでもカテゴリーすべき重火器だった。金属音。“杖”が光の粒子に還元され別の物体に姿を変える。
さすがのショウイチも“それ”を目にしたとき、頬が引き攣るのを止められなかった。
タウエルンも、表情を作る機能があれば呆けた顔を作っただろう。
「……任せても、構わないのか」
「任せて……いいんですか?」
丁寧な言葉遣いになったタウエルン。若干引いているのは気のせいでもなんでもない。
もちろんソーラーキャノンは止まった。
<口の聞き方に気を付けてもらおうか。私達を誰だと思っている? 極東の怪物“玉藻前”とブラウニング家のお嬢様なのだぞ>
「やりますよ、たまちゃん!」
<ああ、やろう>
「Are you ready?」
<Yes,My master!>
「OK!!! Rock'n'roll!!!!」
ショウイチはタウエルンに飛び乗ると、背中の排気口からナノマシンを散布させ空中に飛び上がった。
彼らの背後では、恐ろしい光景が展開していた。
30mm機関砲が二門。とても人類が扱うとは思えない代物が、少女の手に握られている。
大型マナタンクが背面に二つ。デイビークロケットを彷彿とさせる何かがタンクの隙間にあった。衝撃を殺すための大型アンカー装置がひっそり身を潜め、放熱板が羽のように展開し、今か今かと待ちわびるよう震えている。
まどかは、お嬢様然とした雰囲気を別種のものに変貌させ、笑った。肉食獣。戦士。否、トリガーハッピー。
アンカーが撃ち込まれ電流を迸らせた。
「Let's Partyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyy!!!!!」
対空陣地と化した少女とオートマタの頼もしい助力を借りて、青い粒子を纏った彼らが巨大な恐竜に突っ込んでいった。
◆ ◆ ◆ ◆
敵は、機械だけではない。
雲霞が如く押し寄せる生物の群れ。
別の世界ではワームと呼称されたものもあれば、またとある世界で一企業が作ってしまった生物兵器もあった。
それらは互いにつぶし合うことをせず、一心不乱に荒野を爆走もしくは空を飛んでいた。
それらを破壊する為にエリアに足を踏み入れたロボットもまた飛んでいた。
バーニアを吹かし、一定の高度に達すると滑空に移る。バーニアを使用する長距離移動はオペレーターという専門家に任せるものであるが、この乾いた世界には居ない。同じく飛ばされてきた技術者に、飛翔の操作が容易になるように改造してもらったのだ。
搭乗者の名前はウラジミル。何の変哲もない兵士である。
どうやらセカイは滅びるらしいと、聖書の落書きでも読み上げる風に考える。ペーパーバックでも廃れた話だ。ハリウッドなら担当者が首を切られるほどには。
死にたくはない。殺したいかはわからない。
子供の落書きにコーヒーぶちまけたような、愉快な生物兵器が空を飛んで向かってくるのを、9mmアサルトライフルのフルオートで対応した。
大型の生物兵器には9mmは弾かれてしまうが、小型のには十分過ぎる。
ミサイルポッドは生憎空っぽ。
数の多さに、接近を許す。金属をも溶かす酸が塊となって吹きかけられ、彼の乗る機動兵器『アポリア』は水のようになってしまう予定だった。
酸は、まるで寿命が尽きてしまったように空中で勢いを失うと、地面に落ちた。汚い酸のアイスクリーム。口に沸いた気泡を飲み込む。唾液は無かった。
アポリアが持つ敵に対する優位性の一つ、『トント』。空間の引き伸ばしによる物理エネルギーの消耗を狙う防御システム。薄い装甲、貧弱な火力を補ってあまりある、技術。
9mmが火を噴き、次の酸をのんびりと準備していた羽付き生物兵器の腹を割る。羽をちぎる。脳漿を飛び散らせる。撃破、6。弾が切れる。弾倉交換。
中距離跳躍。機体の脚部が唸りを上げ、跳ぶ。安定翼が自動で姿勢を直す。着地。ウラジミルの体をGが襲う。毛細血管の幾本かが葬られる。
白い不恰好な機体。上半身下半身のバランスは酷く不釣り合いで、脚部は折りたたまれているとはいえ巨大である。カメラ覆いは血走った眼のように赤色。頭部から伸びたアンテナはまるで台所の黒い生物の触覚である。
元のセカイでは、歳を食い過ぎた老婆のような女がこう称した。
バッタだと。
ウラミジルが次の生物兵器に対処せんとアポリアの向きを変えた。
「MIAか。脱走か。いずれにしても悪いことにしか転びそうにない」
独り言。ナンセンスだと自嘲する。話す相手も居ない。神に話す連中もいたが、神は支援砲撃を受理しない。
彼は、9mmを装填すると次の生物兵器の脳天に穴をタイピングした。
点射する。三連バースト切り替え。ワーム:タイプAの触手の付け根に叩き込む。崩れ落ちた。次。三連射撃。次。弾節約の為、このセカイに来てから装着した銃剣で刺し殺す。
首狩り兎の名は、おかしなことだが伊達ではない。
「ハッハー!」
ウラジミルの守る『門』から離れた地点では、兎と赤毛の男が大立ち回りをやっていた。
蜘蛛のような生物兵器の背中に乗った赤毛が、サーフボードでも乗りこなすかのように羽を引っ掴み“操縦”していた。
生物兵器相手にブラスナックルだけで格闘戦を繰り広げる男こそ、リヒト・エンフィールド。ヒーローでありロリコンであり紳士であり戦士である。
白い兎をモチーフにしたスマートな機体は、ヴァイス・ヘーシェン。花も恥じらう(製造は遥か昔である)歳のオートマタである。
<鬼さんこちらー手の鳴る方へ~>
白い機体が手を人間のように打ち、棘を持った8本脚をけしかける。
8本脚は加速に任せて突っ込んできたが、白い機体がひょいと押しやった生物兵器をも巻き込んでしまった。
白き機体はすでにその空間には居ない。脚部を変形させ上空へと退避した後なのだから。
マナを纏った白き機体は、ブースターの加速と重力の全威力を足に乗せたドロップキックで8本脚の剣状の背びれの隙間から腹までをものの一撃で貫通せしめた。たまらず、汚い粘液と肉に変貌し、飛び散る。
白い機体は耳をぴんと張り、肉片をマナの発動で地面に捨てやった。
<乙女の肌を汚すなんて、不埒な人達ですねぇー>
「肌っつーか質感っつーか」
<空気読めよマスター。だから女の子に逃げられるんですよ。まぁ私という美人が居るからいらないんですけどね>
「おおっこわっ」
<私はデカいのをやりますね>
「俺がやるんだい」
<ガキっぽいことを言わないでください>
「ガキ? いいえロリータです。それは俺に恍惚を与えてくれます」
<教科書のような翻訳文、ステキ。だいて>
「棒読みすんなよ恥ずかしいだろうが。ちょっとジョークを飛ばしてやっただけだぜ? 笑えよ頼むから。恥ずかしいっての」
<今のがジョークなら教科書はコミックスですねわかります>
仲良く喧嘩する二人の頭上から、蜘蛛が襲い掛かった。
キキキーっと鳴き声を上げて。
<てめーは>
「寝てろ!」
見事なアッパーで撃退するのであった。
それを見たウラジミルは戦闘中ではまずありえない別の意味の頭痛に頭を振るのだった。
「悪いジョークだ」
◆ ◆ ◆ ◆
訪れる恐怖。
蘇った宿敵。
「死んだはずじゃ……!?」
「確かにね、間違いなく、寸分の狂いもなく私は死んだ。“私”はね」
「――そう、私は死んだはずだ。だが私はここにいる。私は居るのだよ、鈴木君」
「君は何にも知らない。知ったつもりでいる。ヒーローが笑わせるよ。私はね、二度も世界を滅ぼすきっかけを作った男を始末する為にあの世から這い上がってきた、鈴木君」
「俺はっ……」
「君も同じように時を変えたのだろう? 何が違う。変わらぬよ、何も」
「もっとも、何も変わらないどころか変わりすぎたがね」
「―――潔く死ね」
剣が迫った。過去のフラッシュバックと共に。
◆ ◆ ◆ ◆
セカイを浸食するのは、即ちセカイと同化することに他ならない。
セカイが崩壊を始めていた。
その崩壊を食い止めるのは、ほんのちっぽけな少女だった。
セカイの砕け散る力を、セカイを塗り潰す力が相殺する。絵画の罅割れに絵具を加えたように、裂けかかった空が翡翠色の力場で吸い付きあう。
セカイが揺らぎ、波打ち、大地に根付く木達の葉が枯れてはまた生気を取り戻す。
時空が、空間が、存在が揺らいでいる。
塗り潰す。己が塗り潰す。己という絵具を塗りたくる。縫合する。セカイを縫合して繋ぎ止める。箱庭という一時の楽園に接続する。接続する。存在させる。存在を認めさせる。
「おい、シュタムファータァ……」
「ごめんなさいヤスっちさん。集中が……とぎれ、ますから……話かけ……」
白銀の鎧がセカイを繋ぎ止める。砕けてしまわないように。
パチパチパチ。
拍手。
少年は振り返り、手に持った銃を慣れぬ様子で構える。
「イッツァミラクル(それは奇跡です)。イッツァミラコゥ! 素晴らしい。実にすばらしい。ミラクルです」
黒い死神装束……ではなく、黒スーツに底知れぬ悪意を秘めた瞳を眼鏡で覆い隠した悪人。纏う雰囲気、まさに暗黒。木にゆったりもたれ掛った男は拍手を止めた。
不敵な笑みを崩さず一歩一歩歩み寄る。
「なんなんだよ、テメェ!」
「私ですか? 私はワルサシンジケートの最上級エー……ワルジェント……イッツァ・ミラクルと申すものであります。以後お見知りおきを」
「ところで君は――」
「セカイ(彼女)を守りますか? それともこのセカイ(世界)を守りますか? 私(わたくし)個人として非常に興味深い二者択一(センタク)であります」
◆ ◆ ◆ ◆
襲来、未知の機神。
ダイアモンドにも似た宝石――気の遠くなる太古の昔に作られたテクノロジーの結晶が熱すら生じることなくエネルギーを発生。
回路という概念を超越した伝導方を用い、兵器に光が灯るや、敵を破壊すべく超高速連射が開始された。
一射でクレーターを掘る異常な威力に、立ち向かう青年は鳥肌が止まらずにいた。
「無理ゲーってレベルじゃねーぞ!」
彼の名前は物部京介。猫目が特徴の学生である。
彼の乗る機体は十九式魔導甲冑『時正』。魔導甲冑に分類される機動兵器である。近接格闘装備が充実している通り、近接格闘を得意としているのであるが、敵は空中に浮いたまま一向に降りてこない有様だった。
空『を』飛べる兵器と、空『も』飛べる兵器の差である。
『加圧』を使い時間の認識感覚を高速化しても、光と同じ速度で飛来する射撃では意味がない。
スラスターと足使いで砲撃着弾点から見事な回避をし続ける。京介は飛び道具のEダガーを構え、敵の砲に狙いを付けた。
「不可能なゲームがあった試しは無い! うぉぉぉぉおおおォ!」
「だけどリセットもチートも!? 糞っ」
砲撃を食らいまくりながらも、仁王立ちを崩さずビームを打ち返す機体もいた。
漆黒の機体、最強無敵ロボ・ネクソンクロガネである!
ネクソンクロガネを駆る孤高の正義の味方は、田所カッコマンである!
どこからともなくBGMが響く!
ドゥビドゥビ! ドゥビビ!
ドゥビドゥビ! ドゥビビ!
ドゥビドゥビッドゥ! ドゥビドゥビッドゥ!
ドゥビドゥビドゥビドゥビッドゥドゥビドゥビ!
ネクソニウムと超ネクソン黒鋼をメインに使用して作られたそれはたとえ何があろうと傷つくことを知らぬ絶壁の防御力と、悪を蹴散らす無敵の火力を発揮するのである!
宝石、もしくは結晶と、超ネクソン黒鋼が一種の共鳴現象を引き起こしているなど、誰も知らぬ。もしかすると同郷の物と勘違いしたのかも知れぬ。
ビームとビーム、ビームと剣、ビームと拳、ビームとミサイルの合戦。
その戦場に、脚付きまでもが登場し、戦闘は激しさを増した。
「加圧開始……」
セカイが遅延する。否、己が極限の疾風となる。
迫るミサイル群を迎撃せず、隙間を潜り抜ける。摺り足。大地に刻まれる、痕跡。スラスターの作動に合わせ跳躍。日本甲冑に似たロボットが駆ける、白虎が如く。
二機の足つきの中間を、刀と脇差の二刀を両手に持ち、すり抜けざまに切り付け、分断。
空中で旋回している最中の足付きを刀で串刺しにすれば、刀を宙に放り、脇差にキーワードを念じる。
『刀よ』と。
脇差が青白い霊魂を宿すが如く光の剣と化す。スラスターが爆発的推力を生み出す。砲撃のパターンを先読みする。時正が機神に肉薄し、ものの一撃で砲身をかち割った。
遅れて爆発。
時正は爆風で体勢を崩しかけたが、機関砲を連射しつつ背後に回ろうとした足付きの真上に位置を修正し、のしかかった。
「悪いな、ちょっくら借りる」
足場として。
足付きの真上に着地。重量に耐えきれず重力に自由を奪われる前に次の足付きに飛び移り、遠距離から放たれたミサイルを、放ってあった刀を握り、一振りで叩き落とす。
飛び移ること8機。
彼は、敵に飛び移っては撃破を繰り返す、世にいう八艘飛びを再現して見せたのを、自覚しなかった。
「こんなことなら射撃武器の申請をしておくんだったよ! まったく! 弓でも落ちてないかなぁ! 先生見てますか!」
京介は、警戒して上空からの射撃に専念し始めた敵機に、いよいよ慣れぬ空中戦を選択する他なくなったと自覚し、嬉しいやら悲しいやら大声を張り上げた。
一瞬の隙を突き、機神から――別のセカイの女性が『リバイアサン』と命名したロボットが、予備動作なしの踏みつぶしを慣行した。迫る、巨躯。
「頼んだヒーロー」
「任されたッ!!!」
割り込んだのはヒーロー。
両の足を大地に付け、強靭なる金属の腕で踏みつぶしを押しとどめる。力と力がせめぎ合い空間が震える。大地に亀裂が走る。デュアルアイが愛に燃えた。
友情、愛情、心を通じ合うこと――!
「今だ、京介!」
「応! 俺のガラじゃないが――七上流――――!!」
神速の刃が解き放たれ、鉄の天井に――。
◆ ◆ ◆ ◆
「あはははっ! ははっ。どうしたんだい鈴木君。私がデストラウに乗ってないのがそんなに不思議かい? だろうねぇいかにもな悪機体じゃないものねぇ、愉快でたまらないよ」
「早くヴィルティックを呼ぶんだ。君が考慮すべき一般人はここには居ない。存分に殺し合える」
「潰してあげるよ、このエニグマでね」
「隆昭さん……敵機体から高エネルギーを検知しました……ですが、推定出力が……そんな………」
「ヴィルティックの5倍以上あると……」
「………っ……トランス・インポート!」
「そうこなくては」
「急いだ方がいいぞ、鈴木隆昭。このエリアはもう崩壊寸前だからね」
「セカイを救いたければ私を殺してみろ」
ビームがエリアを貫いた。
◆ ◆ ◆ ◆
「あぁ、奴はもう必要ない。用済みの男だよ」
「我らの計画の捨て駒としては十二分に働いてくれたがね」
ワインを傾ける。安物。塩水のようにマズイ。
「いい……我々の勝利目標は奴らを殲滅することには無いのだから」
「箱舟に乗り荒波を避ける、それだけさ。濁流が連中を綺麗に掃除してくれる」
「新世界に彼らは不要なイレギュラーだ」
「行け。奴らを殺せレギウス」
鳴り止まない狂気が戦いを呼び。
悪魔が目を覚ます。
◆ ◆ ◆ ◆
「シュレー!?」
「先生!」
「メルフィー!」
「隊長!」
「シュタムファータァ!」
「ク、ハハハハハ! 私を倒せるか、旧世界の住民達よ! 貴様らは私が古き連鎖(ネクサス)として葬ってやる」
離反者、あらわる。
「へっへー☆ ツカサキさんは訳あれば裏切るのさ♪」
「貴様……死にたいか」
「生きたいから裏切るに決まってんだろ脳無し」
◆ ◆ ◆ ◆
「ヒーローの前には必ず困難が立ちはだかるように出来ているそうだ」
男はかく語りき。
「それを痛快に打ち砕いてハッピーエンドで終わらせるからヒーローと誰かが言っていた」
「そんなモンじゃねーだろ……立ち上がろうぜ、ヒーロー」
「あぁ……そうだった……忘れていた。例えネクソンクロガネを失おうとも、俺には体が、仲間が居たんだった」
「ヒーローは助けられちゃいけないって誰が決めたんだ? ほら」
手を握り合う。
そして立ち上がる。
「……動く……この感覚……懐かしさ? お母さん? おばあちゃん? 誰なの? ……涙が止まりません」
「どうしたのですかアルメリア」
「私、この機体を知ってる気がするんです」
「操縦できるの? すごーい私さっぱりわかんないや」
「海中で勝てると思わないこと!」
「ばっ……無茶すんなー!?」
「私は―――……ナイツは伊達ではない!」
「因果なもんだよな……仕事でもないのに戦わなくちゃならん。悪く思うな、俊明。オレの為に死ね」
「イェーガー……!」
「男だろ? 来いよ。前歯折ってイケメンに整形してから土葬してやる」
「……塗装を塗り替えておくべきだった」
「タウ、返事をしろ。タウ……畑を耕すんじゃなかったのか……おい……起きろ……」
セカイを救え。
【スーパーロボスレ大戦:R ~終焉のセカイへ~】
「検閲者として貴方を粛正する」
「遅かったな小娘!」
「いいや、早過ぎるくらいだ」
「私は遅すぎると言ったのだよ! 遅すぎるとな!」
「崩壊へのトリガーは出揃ったのだからな!!」
3013年夏、発売予定。
「メルフィー……俺は」
「いいんです。……私は、とても幸せでした」
「メルフィー・ストレインは、幸せ……でし……た」
慟哭。
「ところがぎっちょん!」
「帰りが遅くなりました! ―――……パラベラム!」
<マスター、戦闘を開始します>
お疲れ様でした。
メインシステム通常モードに移行します。
予約をして特典をもらおう!
特典内容:予約限定箱 ゲームディスク本体
:設定資料集Ⅰ、Ⅱ
:「ロボスレガールズ描き下ろしイラスト冊子」+ボーイズ
: 潰して遊ぶ呪いのオルトロック人形
殴って遊ぶミニおとん人形
へーっと鳴くヘーシェン人形
(人形はいずれか一点同封)