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「少女機甲録・イナバが大陸奥地に送られるようです・3

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匿名ユーザー

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ティアーナは頭を捻っていた。
装備コンテナ内の居住モジュール内、パイロットスーツを脱いで下着姿で胡坐をかき、
昼間に発見して回収した謎の”不発弾”を前に置いて腕組みをしている姿は乙女にあるまじきもので、
他人には絶対見せられないが、今はこの大陸に人間はティアーナただ一人である。
そしてその辺の床には夕食のインスタント食品の空になったパックが無造作に放り投げられているあたり、
ティアーナは割とズボラなようだ。
だが当の本人は、それどころでは無かった。
ワームの死骸に突き刺さっていた、ミサイルと思しきその人工物……トンボの模型のようにも見えるそれは
一見単純なつくりでいながら、丹念に観察すれば精緻を極めた技術で作られたというのがよくわかる。
そして、ティアーナはそれを慎重に分解してみて最も驚愕した事は、その構造、外見同様シンプルでありながら
その実精密を極めた小型部品によって構成された極めて効率的で合理的な設計もさることながら……

「……爆薬がたったの100gしかないって、どう言う事よ?
普通ならこんな程度の爆発物じゃあ、花火程度にしかならないでしょ。
TNT爆薬だって、もう少し量を多めに取るっていうのに……何なの? ふざけてるの?
これだけ手間をかけて作ったものが、ただの玩具? 意味わかんないし。
どう見たってこんな程度の爆薬しか積んでないミサイルなり航空爆弾なりが、あれだけのワームの大殺戮を実行できるはずが……」

そこまで呟いて、ティアーナはふと思いついた。
すぐさま”不発弾”を引っつかんで、コンテナ内に装備されている簡易分析器に持っていく。
本来は土壌分析やワームの細胞分析などを行うための装置であり、本格的な分析器ほどの性能はないが
調査に赴いた現地である程度のサンプル解析を行うには充分な機材として、各種学術分野で使用されている装備である。
”不発弾”から慎重に採取したその爆薬を数グラム、容器に入れて分析器にかける。
機械による自動的な解析が行われ、その結果がディスプレイに表示されるまで3分程度の時間がかかるため、
ティアーナは据付の食品保存庫から飲料水のボトルを取り出して、飲みながら待った。

そして3分後、飲料水を口から噴出した。

「……オクタニトロキュバン!? 海軍研究所とシカゴ大学の共同研究で、ついこの間合成に成功したばかりの
最新型、超高性能爆薬じゃない!!  なんで、そんな代物がこんな所に……?」

そもそも、オクタニトロキュバンは各種軍用炸薬として使われるオクトーゲンを20%~25%は上回る性能を持つと
考えられていて、理論上は間違いなく最強の威力を持っている。
……しかし製造コストが高く、グラム単価は純金並みで実用性は低い。
そして現在の実用爆薬類のどれと比べても、それほど便利でもないので量産などはされることが無いだろう、と言われている爆薬だ。
ティアーナは分析器の表示した解析結果に信じられない思いでしばしの間呆然としていたが、やがて確かにそれなら
100g程度の量であっても相当な破壊力・殺傷力を持つだろう、とは納得する。
だが、それでもワームの体を引き裂く程度の威力は持っても、即死させるには少し足りないだろう。

「……となると、数、ね。
あんなのを無数に、何百発と放出すれば、確かにパイア(タイプC)の突進でも止められるかもしれない。
触手、脚部を破壊し、針弾や生体ロケットの噴出腔に潜り込んで内部から破壊……内部から焼夷弾で焼かれたようになるには
まだ足りないけど、充分えげつないわ」

そう一人呟きながらも、ティアーナはまだ腑に落ちない部分があるのも自覚していた。
この回収サンプル”不発弾”が、昼間調査したあれだけのワームの膨大な死骸を作り出した際に使用された
兵器の一つであることは、もう疑いようが無い。
だが、前述したとおりオクタニトロキュバンは物凄くコストがかかる爆薬である。
現在発見されている合成方法では基物質であるキュバンの合成から始めると40段階もの操作が必要であり、
とても兵器として採算が合う様な物ではない。
では、いかなる国家・組織がこれだけの高コスト兵器を製造し、実戦投入できるというのか?

ティアーナは更に、分析器のディスプレイが表示した解析結果の最後の行にも着目していた。

『ただし、組成には未解明の分子が含まれ、既存のオクタニトロキュバンとは製法・材料が異なる可能性もある』

「……未解明の分子。 常識ハズレに高性能・高技術な兵器。 ……となったら、怪しいのはあそこしか無い。
単なる秘密主義の兵器産業とばかり思ってたけど、確かにあいつらならユニオンや社会主義連邦にも内緒で
新兵器の実験ぐらい、また実験のための私兵部隊のひとつやふたつ、抱えててもおかしくない」

それは、ティアーナが睨みつけている分析器にも、またコンテナに格納されている機士M1A1にも、またそれらの武装にも、
企業名とそのロゴがさりげなく、小さく刻印されていた。

CENTRAL ARMORY Co

と。



調査二日目。
夥しいワームの死骸を調査するうち、ティアーナはその死骸が一方向に向かっているのに気が付く。
どれもが同じ方向を目指して進撃し、そして凄まじい砲火に晒されて死んでいるのだ。
その方向に何かがある、と思ったティアーナはM1A1をワーム達が目指したであろう道筋を追う事にした。
そこでまた新たなサンプルを発見する事になる。

そこにあったのは、サイコロステーキのように体を細かく分断されたワームの群と、そして広い範囲に縦横に走る
網状のワイヤートラップらしき仕掛けである。
ティアーナはそのトラップのえげつなさに顔を顰めながら、しかし確かに有効な策であると感心した。
だがもっとも興味を引いたのは、その切れ味、そしてワイヤーの耐久性だ。
通常、ワームほどの大きさの物体をワイヤーで切り裂こうとすれば、ワームの体重数トンに加えて
その突進速度の荷重がワイヤーにかかる。
加えて、ワームは群でワイヤーの網に突撃している。 普通ならワイヤーが千切れて当然のはずだ。
ティアーナはそのワイヤーの一部を持ち帰り、分析器にかける事にした。
結果は、驚くべきものであった。

『材質不明。 組成の分析不可能。 少なくとも現在地球上にて発見・確認されている物質とは合致せず』

思わず、ティアーナは両手で頭を抱えてそのまま仰向けに寝っ転がった。
そして、ため息を一つ。

「……またわけのわからない物が出てきちゃったわね!
この分析器で分析不可能ってことは、単結晶金属やカーボンナノチューブ?
いいえ、仮にそうだとしても材質不明って事にはならないはず。
本当に未知の物質か、あるいはこの分析器で検知できる限界以上の高度技術が使われてて解明できないだけか。
後者だと思いたいわ。 それにしても、これじゃあまるで……宇宙人の落し物でも拾ったような気分だし」

そこまで口にして、ティアーナは飛び起きるようにして腹筋で上半身を起こした。

「宇宙人……宇宙人か……。
そういえば、ワームも正体不明すぎて最初は宇宙人じゃないか?って言われてた時期もあったのよね。
H・G・ウェルズが描いた火星人に外見や行動が似てなくも無いし。
あいつらって一体なんなの? 少なくとも地球上で自然に進化した生き物には思えない。
また、あいつらがそこら中に植えて生やしている、キノコもどきの植物たちって何?

……いや、こんなこと、あたしが疑問に思う前に誰かが気になって、研究を始めているでしょうね。
なのに、それらしい研究成果が発表されたって話は無いし。
ワームについて何か解明されたとしても、戦争や戦術関係での部分的に役に立つものだけ。
あたし達はワームについて、何も知らないまま戦ってる。

……そうよ、なんで判らないの? ワームが出現して、戦争が始まって、既に数十年も経って、技術も進歩しているのに
何故未だに解明されて無いものの方が多いって言うの?」

ティアーナはしばし腕組みをして考えていたが、やがて煮詰まったのか両手で頭を掻き毟って再び寝っ転がった。

「……だめだ。 あたし難しい事考えるようにできてる頭じゃないのよ。
脳筋海兵隊だもん。 ……明日にしよう。 明日は、ワームの死骸の先に何があるのか調べに行こう。
きっとなにか見つかるはず。 あたしの仕事は調査して記録して、本国に持ち帰ることだもん、うん」


こうして、二日目も終わった。





調査三日目。
ティアーナの前日の予定は早々に変更せざるを得なかった。
新しい、奇妙なサンプルが見つかったのだ。
それは、円筒形をした、形容しがたい形状の、目的も不明な機械だった。
複数見つかったサンプルはその殆どが破壊された状態で発見され、痕跡からタイプG・タゲスに攻撃されたものと見て取れた。
さっそくコンテナに持ち帰って分解を開始したティアーナは、どうやらそれがセンサー類と通信装置を備えた
偵察ポッドあるいはドローン、UAVのような機材である事を確信した。

とはいえ、それがいったいどのようにして使うものなのか、ティアーナには量りかねた。
見た感じ、自力移動ができるような代物には見えなかったからだ。

「円筒形をしているからって、まさか転がって移動するものじゃあないだろうし……。
投げ捨てて、その場でデータを観測・送信し続けるものじゃあないだろうし……というか、地上設置型にしては
小さすぎて、これじゃあ観測範囲が狭くて、せいぜい接近警戒装置にしかならないじゃない。
そもそも、タゲスは地上にあるものよりも空中にあるものを優先して攻撃する習性があるから、
この物体がタゲスに破壊されている理由がわからない。

……もしかしてとは思うけど、飛ぶの? これ?」

ティアーナは言ってから、バラバラに分解したそれと、まだ分解してないが原型をかろうじて留めている程度で
半分くらいの大きさに砕かれてしまっている別のサンプル、そして比較的損傷の少ない三つめのサンプルを見比べた。

……内部構造には原理も機構も不明な謎の技術で作られた、ブラックボックス状態な部品が多いとは言え、
どうみてもこれが飛ぶようには思えなかった。
というか、現代の物理学や航空力学的常識に置いて、飛ぶ理由が無い。
ティアーナは二日目同様、頭を抱えて大いに悩む事になった。

「……もしかして、本気で宇宙人が地球に降りて来てワームと戦争してたんじゃないでしょうね?
その宇宙人なのかエイリアン的なクリーチャーなんだかわかんない物が、まだここに居て、鉢合わせするなんて
事はないでしょうね?
あたしかなり深刻に不安でしょうがないんですけど」

悪いことに、これまで回収したサンプルの数々、ワームの死骸や周囲の地形の破壊状態は明らかに
今の人類の科学技術の水準を越えていると裏付けられるだけのデータを示している。
ティアーナはまだ見ぬ想像上の宇宙人とのファーストコンタクトを思い描いて、気分が悪くなった。

「ワレワレ、ウチュウジン。 オマエ、ゲンジュウミン、オイシソウ。 とか言って頭からバリバリ食われるとか
なったら、あたしは全力で抵抗させてもらうけど、NASAとか大統領閣下とか、ごめんね?
うん、ワームとさえ共存なんて無理だし話も通じないっていうのに、宇宙人とかマジ無理。 無理無理」


その夜、ティアーナは触手の塊のような宇宙人と巨大な口にサメの様な歯がならんだカニ型の宇宙人が
捕獲した自分を人体実験すべきか、食べるべきかで言い争いをしている悪夢を見てうなされる事になった。





調査四日目。
最悪の寝覚めではあったが、それを吹っ切るようにティアーナは調査へと出かけた。
今日こそは、ワーム達の死骸の向かう方向に何があるのかを確かめに行くためだ。
いつものように周辺を巡回しているワームに砲弾を叩き込み、始末しながらとある一方向を目指し、M1A1を走らせる。
鋼鉄の脚が大地を駆け、進むたびにワームの凄惨な死に様をまざまざと見せつけ、人類の未だ知らぬ破壊兵器の威力を
物語る死骸の密度は増えて行った。

そして、ようやくその場所へと辿りつく。
砲撃のクレーターによってではない、あきらかに人為的に作られた大きな穴や広い溝。
機士サイズでも余裕を持って入れるくらいに掘りぬかれたそれは、見るものが見れば明らかな塹壕陣地だと判別できる。
無数の、大地を埋め尽くすほどのワーム集団の砲撃と突撃に耐え、そして逆に砲火を浴びせて破壊と殺戮を生み出すための、
戦闘集団が野戦構築した防御拠点。
そこに、ティアーナは立っていた。

「塹壕の規模から言って、一個中隊から増強~までって所かしらね。 大隊規模には届かないレベル。
……機士だったら、の話だけど。
まあ塹壕の深さから、人間サイズでも軽パワードスーツサイズでも無いのは確かだけど。
さて、塹壕内部にもワームの死骸が横たわってる所を見ると、あれだけのワームを殺戮しても流石に物量には
抗し切れなかったのか……それとも陣地を放棄したのか。

どのみち中隊規模前後であれだけのワームの攻勢を耐えられるだけで、充分驚異的には違いないわ。
やっぱり宇宙人? それとも、セントラルの新兵器実験部隊?
ま、流石にこの謎現象の中心だけあって、新発見も盛りだくさんね」

このワームと交戦したと思しき正体不明の部隊が作った塹壕の周辺では、早速新たなサンプルを発見していた。
明らかに接近白兵戦が思われたと思しき傷を負った、切り裂かれたワームの死体。
その接近戦用の武装ではないかと思われる、機士サイズに一回りは小さいくらいのナイフらしき武器や、刀剣らしき武器の折れた破片。
足を失って死んでいるワームの、その下半身を吹き飛ばした犯人と思われる地雷に類すると思しき謎の兵器の残骸。
機能しなくなったのか、ワームに踏み潰されて壊れていたが。
そして何よりも……謎の部隊の直接の手がかりとなるであろう、最も興味深い残骸をティアーナは見つけた。

パワードスーツらしき物の、右腕の部分の残骸だ。

「やっぱり、機士! ……にしては、ちょっと一回りくらいサイズが小さいような……?
まあ、同じくらいか、誤差があるって所かしら? でも何ていうか、軽パワードスーツを大型化したっていうか……
もしくは、旧型の第1世代型機士に似ているような……まあ、腕の部分だけだし、全体はもっと大きいのかも。
にしても、今のトレンドの第3世代機士のように装甲でガチガチに覆ってなくて、人工筋肉が盛り上がってるような腕部をしてるわね。
珍しい形式。 これ、ヒュドラ(タイプB)の針弾に耐えられるの?
……謎ミサイルとか謎ワイヤーとか使ってる技術を持ってる連中だから、耐えられる可能性は無きにしも非ず、か」

ティアーナは独り言を呟きながら、M1A1のカメラにその謎の機士らしきパワードスーツ兵器の腕部を様々な角度から写し、記録する。
確かに、それは例えばティアーナのM1エイブラムス系列の機士や、日本の自衛軍の90式機士に比べると
ワームの針弾を弾き返せる程の装甲で覆っているような形式をしているとは思えなかった。
ただし、第2世代機士であるM60や、89式、87式等は主要な装甲は胸部や肩アーマーの部分に限られているので
部分的に軽量化されているだけというのは考えられる。
なんにせよ、全体のサンプルを見てみないとなんとも判断は付かなかった。

……しかし、2時間に渡って塹壕の内部を丁寧にワームの死骸と様々な残骸をひっくり返して捜索したものの、
機士本体のサンプルどころか原型を比較的留めた残骸は最初に発見した腕部しか結局発見できなかった。
ワームが徹底的に破壊したのだろうか、とも思ったが、幾つかの残骸は焼け焦げた痕跡が見て取れたので、
どうやら自爆を行ったらしいと推測した。

「……まあ、そりゃそうよね。 セントラルの実験部隊だったと仮定して、痕跡をわかるように遺すわけが無いし。
宇宙人でもやっぱりそうするだろうし。
なにより、この機士を操縦していた中身の”人間”の死体、ひき肉一つすら見つからないなんて変だもの。
これは、塹壕を放棄すると同時に破損したり動かなくなった機体も自爆させて、証拠隠滅とワームの足止めに
利用したって考えたほうが自然だわ、はあ」

ティアーナは懸命な捜索にも関わらず、機士そのものを発見するに至らず手ぶらに終わった事に徒労のため息をついた。
仕方が無いので、残骸の中から比較的状態の良いものを幾つか見繕って、持ち帰ることにする。
本当はここにある残骸全部を持ち帰り、パズルを組み立てるかのように残骸を組み立てて
完成状態の推測と再現をやってみたいし、本国もそのために残骸パーツの回収をしたいだろうが、
残念ながらM1A1が一度に持ち帰れる数も、コンテナにサンプルを置いておける数も限界があるし、本国に持ち帰る量も限られている。
本当に重要だと思えるもの以外は、映像記録や分析結果のデータだけを持ち帰るしかなかった。

また、塹壕も機士らしき物の残骸をひっくり返しただけであり、入念な調査はまだだが、ここまで来た時間と
帰りの時間を考えると日没まで時間が少ない。
夜間の調査も戦闘も、面倒である。

こうして、ティアーナは四日目の調査をここで打ち切ることにした。




事は、五日目の未明……まだ夜が明けぬ内に起こった。


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