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創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

ワイルドアイズ 第1話前

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匿名ユーザー

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錆びた金属の細かい破片と砂が入り混じった土煙を上げて、クルマが走る

何処までも続く荒野は空だけが嫌味のように美しく、青い

川は枯れ果て 海は汚染され 都市は次々と砂漠の中に沈み

荒野を我が物顔で歩くのは奇形化・凶暴化した生物か、暴走する旧時代のAI兵器

汚染された雨が残り少ない生存に適した土地さえも痩せさせてゆき

人類の生活圏は少しずつその領域を狭めていくなか

それでもなお、人類の脅威に対し立ち向かう人々がいた

彼らを民衆は、「ハンター」と呼んだ



ラスティ・ワイルドと呼ばれる荒野の東部地方には、旧時代の都市や工業地域の廃墟に避難所や
拠点を構えた人々がそのまま住み着いて形成した町が点在する。
それらは国道99号線と呼ばれたハイウェイで繋がっているため、町同士での交易や流通が成り立っているが、
国道のあちこちにも旧時代のサイービスエリアやモーテルを利用した小規模な村がやはり、点在している。
だが、人口が多く産業が確立している町とは違って、村は防備が薄いため様々な外敵の襲撃を受ける。
例えば、バイオニックと呼ばれる変異生物。 生物をサイボーグ改造したサイバネティクス。
人間を攻撃する指令を与えられ、今も稼動し続ける旧時代の無人型兵器、マシーン。
有人機能を備えるが、現在は搭載された操縦支援AIによる自動攻撃モードで動き続けるヴィークル。
中には区別が曖昧だったり、正体不明のものもある。
だが、最大の敵はやはり何時の時代も人間同士だった。

国道99号線沿い、ロックヘッドとソルトリバーの二つの町の間にある、その村の酒場兼宿屋の前の駐車場には
いずれも武装し装甲を施されたクルマが三台止められていた。

一台は旧時代の一般用乗用車モデル、ハービー。 車名は「ワイルドスピード」。
12.7ミリ機銃がボンネットに装着、20ミリガトリング機銃と大口径榴弾を連射する特殊兵装、TNTグレネードが
それぞれルーフの上に取り付けられており、かなりの武装改造が施されている。
エンジンは作業重機用のショベルヘッドに換装しているので、軽量な車体の割りに馬力はあった。

もう一台はやはり旧時代の、やや高級な乗用車であるキャデラックで、車名は「ゴールドストーム」。
オープントップの車体の後部座席に30ミリ単装機関砲と衝撃波兵器ソニックブラストがマウントされた
自動回転砲座を取り付け、ボンネットからは大型の重車両用エンジン、ブルマックスが収まりきらなかった本体を露出させている。

最後の一台は旧時代のピックアップ式トラックであるテクニカル。 車名は「バーンファイア」。
ボンネットには7.7ミリ機銃、荷台に45ミリブラスター砲と多連装ロケット砲を取り付けている。
エンジンは一般的で酷使に耐える頑丈さ以外に特徴の無い星型3番だが、その代わりに
操縦支援用のAI…Cユニットは回避率向上と命中率補正に定評のあるラクター系を積んでいた。

いずれも、ハンターにしか所有できないクルマである。
クルマの大多数は遺跡や古戦場で発掘されるか、大破壊前から人類に使用され続けてきたものだが
今の時代に残存するクルマそのものの数はそう多くは無い。
装備や燃料、修理費などの維持費がべらぼうにかかるし、部品を生産できる設備も殆ど無い。
しかし、マシーンやバイオニックと戦うにはほぼ必須の兵器であり、強力なクルマを所有していることは
ハンターにとって一種のステータスにもなりうる。
そして三台のクルマそれぞれの持ち主達は、「人狩り」と呼ばれる奴隷商人たちの襲撃から村を守るために
雇われた用心棒だった。

ハンター達の一人、「ワイルドスピード」を駆る壮年のハンター、ディエゴは酒場のカウンター席に座り、
ステロイドサワーの名前で知られている最近流行の酒をあおり、今は高級嗜好品となってしまった紙巻煙草をくゆらせている。
町や村を変異生物や賞金付きのならず者たちから守る仕事は、ハンターにとっては割りと一般的な仕事の部類だ。
「人狩り」は村々を襲撃するだけでなく、大抵は略奪と破壊の限りを尽くす。
攫われた人間の多くは荒野の西部地方に連れて行かれ、奴隷として売り飛ばされる運命だが、町に住む人間の
労働力として東部で売られている事もある。 労働力は東部も西部も需要が高い。
だが、襲われ捕まり売り飛ばされるほうはたまったものではない。
だからなけなしの金を集めてハンターを雇い、「人狩り」に対抗しているというわけだ。
この村も、つい数日前に近くの別の集落が「人狩り」の襲撃に逢い全滅したので、次に襲われるのは自分たちの村だろうと
危機感を募らせ、ハンターに村を護衛して貰おうと依頼を出した。
そして、そういった用心棒の仕事はハンターにとってなかなかの収入源になる。
襲撃が来ようと来なかろうと、日給として金は支払われるし「人狩り」には賞金が付いている。
「人狩り」の兵士一名につき1000チップ。 「人狩り」のクルマを撃破すれば、残骸から売れるスクラップや武装も取れる。
今までもこなしてきたし、慣れた仕事だ。
ディエゴと同様にこの村に雇われたハンターたち、整髪剤で金髪をツンツンに逆立ててサングラスをかけ、
テーブル席で45口径のオート拳銃を弄っているシロー、「ゴールドスピード」の乗り手も、
その向かいに座って大振りのコンバットナイフを研いでいるダッグ、「バーンファイア」の持ち主も、
そうして稼いでいる男たちだ。

だが、それに反して村の人間たちはやや脅え不安げな表情を一様に顔に張り付かせている。
頭に白いものの混じる初老の村長を始めとして酒場にたむろする日焼けした壮年の男たちも、若者達も、
皆どこかオドオドとした態度でそれぞれのテーブルを囲んでヒソヒソ話を続け、時折ディエゴたちの方にチラリと視線を向ける。
たった三人のハンターとクルマでは、「人狩り」たちの襲撃には安心しきれないと行った所だろうか。
村にも自衛用のクルマとして、農業用トラクターを改造し装甲と機関銃を増設した物が2~3台ある。
いざという時には村の勇敢な若者たちが、それに乗ってハンターたちに加勢する予定だ。
それは別にハンターたちを手助けしようというよりも、自分たちだけでは襲撃に抗しきれないから
ハンターに守ってもらおうという心算の方が大きい
結局は主に戦うのはハンターである。
勇敢な、と言ってもその程度だ。 銃弾の飛び交う戦場に出てくる勇気だけで精一杯。
せいぜい、後方から機関銃を撃ちまくるくらいの援護しか期待できないだろう。
もっとも…初めての戦闘でトリガーハッピーになった素人が勝手に前に出ても敵の的になって蜂の巣になるだけだから
その方が足手まといにならなくて助かる、とディエゴの率直な考えだ。
しかし、シローはそうでもない様で

「どいつもこいつも、この村の連中はシケた顔しやがって。 まるで死ぬと決まったみたいじゃねえか?
そんなに俺らが頼りねえってのか!? 全く頭にくるぜ、わざわざ雇っておきながらよお!!」

分解清掃と組み立ての終わったピカピカのオート拳銃を手のひらの中でクルクルと回すガンスピンアクションをさせながら、悪態をついている。
村の人間たちが「ハンターを雇った、これで安心だ」と満足してくれていないと、自分たちの意義が感じられないので不満なのだ。
それは、自分たちのハンターとしての実力が評価されて居ないことにも通じる。
これに関してはダッグも全くの同意見のようで、研いだばかりのナイフを検分するように眺めやると、
唐突にナイフを掴んだ腕を振り上げ、壁に向かって投擲した。
木の板に鋭い刃物が突き刺さる小気味良い音がして、ナイフは酒場の壁に貼り付けられていた賞金首「ジャックハンマー」の張り紙のど真ん中に命中した。
Dead or Aliveと書かれたそのポスターの下部には、大きな書体で「15000チップ」の賞金額が提示されている。
さらに下には、その罪状、誘拐・襲撃・殺人・第2級器物破壊…そして但し書きとして「人狩り 幹部」の文字が並べ立てられていた。
席を立ち、床と叩くコツコツという音をゆっくりとした足取りで響かせて、脅える男たちのテーブルの間を進み
壁に突き刺さったナイフを引き抜きながらダッグは張り紙の写真の中の傷面と髭の悪党を睨みつけ、カウンター席の
ディエゴの方を向いて呟いた。

「人狩りごとき、俺たちの相手ではない。 奴らはクルマも持っているが、多くて2台か3台でそれも旧型の装輪装甲車クラス。
残りは歩兵だ。 こっちは軽車両クラスだが、エンジンと武装は軽戦車でも吹っ飛ばせるほどのモノを積んでいる。
負ける理由が無い

例え…奴らの幹部、高額賞金付きの「ジャックハンマー」が来ようともな」

ディエゴはダッグの視線を受けて口元に僅かな笑みを浮かべつつ頷く。 その言葉と自信に嘘は無い。
彼ら三人とも、腕に覚えのある猛者たちだ。
荒野を徘徊するバイオニックやサイバネティクスはもちろんの事、野生化したクルマの賞金首を協同して狩った事もある。
人狩りとは別に、「トレーダー殺し」と呼ばれ交易商を襲う凶暴な盗賊集団を撃退した事もある。
そいつらは軽戦車クラスや装甲車クラスのクルマを所有し、武装していたが苦戦したうちにも入らなかった。
「バーンファイア」の支援射撃のもと、接近した「ゴールドストーム」が軽戦車をブラスターで蜂の巣にし、
とどめを「ワイルドスピード」の連射榴弾で一網打尽にした。
哀れな襲撃者どもはものの5分で残骸と鉄くずの塊だった。

「村長」

ディエゴは近くの席に座っていた村長の方を向き、呼んだ。

「は、はい…なんでしょう、ハンターさん」

「聞いてのとおりだ。 俺も、俺の仲間たちもこの村を「人狩り」には指一本触れさせないと確約しよう。
だから、村の人たちを安心させてやってはくれないかな? 善良な人々の笑顔を守るのもハンターの仕事だ。
我々が居るのに、村民達が心に平穏を取り戻せて居ないというのは、仕事の半分を果たして居ないのと同じだよ。
そのあたりを、村長から村の皆に言って聞かせてくれると、助かるのだが…」

村長はその言葉に恐縮したように何度も首を立てに振り、酒場の中の脅えた表情の者達に安心するよう呼びかけた。
こういう時の不安の伝播は立場が上の者から下の者達に伝播する。
上が安心だと言ってしっかり構えてくれれば、下もそれを信じて安心してくれるのが一般論だ。
さらに、ディエゴはもう一押しすることにした。

「そうだな、酒場がこう辛気臭い空気ではいけないな。 こういうのを吹き飛ばすには酒で騒ぐのが一番だ。
店主、俺のおごりで全員に、一番高い酒を振舞ってくれ」

どうせ金は村長から日給で貰っている。 大した出費にもならないと計算の上での行動だが、
ディエゴのその発言に酒場の中は沸き立ち少しだけ明るさを取り戻した。
その様子を見てディエゴは満足げに笑みを浮かべる。
単なる人気取りではあるが、ハンターとしての自分の評判に傷を付けるものではない。
むしろ、こういう評判と人気こそが、他の村や町に広まって次の依頼を指名してもらうきっかけになったりもするのだ。
襲撃者は倒し依頼は果たしたが、住民の機嫌を損ねたのでは次も依頼してもらえるとは限らない。
適度なところで、人々からの個人的印象を良くしておくことも必要だった。

ちょうどその時、外の駐車場にクルマが入ってきて止まる音がした。
反射的に、三人のハンターたちはそれぞれ外に意識を集中させる。
エンジンの音は軽車両用のさほど重たくないもので、キャタピラの音はしなかったから装軌装甲車や軽戦車以上のクラスでもない。
クルマから降りた足音は二人分で、ゆっくりと酒場に入ってくるのをディエゴは聞いていた。
そして、酒場の戸を押して入ってきたのは、二人の少女だった。
二人はカウンター席につこうと歩み進んで、注文を繰り出した。

「ふう、暑いし砂だらけだし、散々だよ。 やっぱりちゃんと窓ガラスのあるクルマを買えばよかった…
マスター、何か冷たいものをお願いします」

一人は、白い上品なワンピースに白い鍔広の帽子を身に付けてヒール付きブーツを履いた、睫毛の長く薄いピンク色の唇の
可憐な少女で、手入れされた金色の長い髪を晒し、腰のガンベルトにマシンピストルを吊り下げていた。
華奢な手でパタパタと顔を仰ぎ、外の照り付ける太陽の暑さに閉口している。

「手前が機動性の高いクルマの方がいい、戦車は維持費がかかるつってバギーを選んだんじゃねえか。
だいたい、重要なのは車種じゃなく装備だってあれこれ補助オプション付けたくせに、エアコンだけ装備して無いってどういう了見だよ?
おいマスター俺はエンドルフィズとテロ貝焼き…無いだあ? ちっこれだから内陸部は…じゃあトカゲステーキでいい」

もう一人は、タンクトップの上にジャケットを羽織って前を空け、下はホットパンツという軽装で膝までのロングブーツを履き、
赤茶色のショートボブの髪を少々ワイルドに流したぶっきらぼうな男口調の小麦色に焼けた、日焼け肌の少女で、
肩からスリングで9ミリ口径のサブマシンガンを吊っていた。
ややツリ目気味の尖った目つきをした彼女は自分のお気に入りのメニューがこの酒場に無いことに不満げに軽く舌打ちをする。

その二人の背後、入り口から覗く駐車場にはディエゴたちの3台のクルマの他に新しく、武装を施されたクルマが見える。
競技用のラリーバギーに装甲を追加し、車体後部、運転席のすぐ後ろに固定型砲塔を取り付けた改造車両だ。
今、その砲塔には30ミリガトリング機関砲と6連装の対戦車ミサイルランチャーが装備されている。
バギーのフロント部にも、12.7ミリ機銃が装着されているのを見るように、二人の少女は単なる旅行者でも
交易商人でもなさそうなのは明白だった。
ハンターだ。

「おい、村長さんよ? 雇うのは俺たち三人だけじゃなかったのか? しかも女のハンターをよ」

シローが椅子から立ち上がり、さっきと同じような不満げな声で村長に詰め寄る。
カウンター席でそれぞれ酒の注がれた杯を受け取った二人の少女のうち、髪の長いほうが「なんだろう?」という表情で
振り返ってその様子に視線を向けた。

「いえ、依頼を出したのはあなた方三人だけで…他のハンターさんを雇う余裕はとても、この村には…」

「あ、あのう…何の話か知りませんけど、僕たちは通りすがりのもので、この村には休憩と補給に立ち寄っただけですから」

困惑しながら焦った顔で釈明をする村長と、少し表情に苛立ちを浮かべるシローの様子を見比べて
察しがよく自分たち二人に関しての事で何か揉め事が起こっているようだと気づいた長い髪の少女は、ちょっと慌てて
話に割り込んで説明をした。
もう一方の日焼け肌の少女は我関せずといった様子で適度な大きさに切られたトカゲステーキをフォークで刺し、つまんでいる。
依頼とは無関係と判明したのでその場の微妙に不穏になりかけていた空気が収まり、ダッグは腕組みをして壁にもたれ
シローもいったん矛を収めた。
ディエゴはもとより、腰掛けたまま黙っている。 ただし、二人の少女を丁寧に観察するように視線を向けていた。

「なんだか、僕たちお邪魔でしたでしょうか…?」

自分らが来た事が口論のきっかけになってしまった様なので、と少し申し訳なさそうにする長い髪の少女に対し、村長は丁寧な口調で事情を説明する。

「いえ、そんな事は…今、この村は「人狩り」の脅威に晒されておりまして、この御三方のハンターさんたちを
雇って村の護衛を依頼していたのです。 それで、あなた方の来訪は予定になかったものですから…」

「まあお前らが依頼に関係無いなら別に文句はねーよ。 分け前が減らないって事だしな。
仮にこの村がお前らも雇ってたとしても、どうせヒョロっちい女二人なんぞ戦力にもなりゃしないだろうけどよ」

シローの関心ごとは報酬の取り分が少なくなるかどうかだけであったらしい。
安心したような口調で本音を語る彼の口からは、余計な嘲りの色も多少は含んでいたのが余計だった。
長い髪の少女はそれに対し苦笑いと愛想笑いの混じった微妙な表情を返したのみだったが、日焼け肌の少女は違ったようだ。
フォークをガツッという音を立てて皿に付き立てると、振り返って鋭い表情でシローを睨みつける。

「おいおっさん…今何つった? 俺のことを女って言ったか?」

再度、不穏な空気が酒場に、特にシローとその少女との間に漂い始める。
長い髪の少女は眉をひそめて右手を顔に当てて首を左右に振り、壁際のダッグが組んでいた腕の中でナイフを持ち替え、
座ったままのディエゴが笑みを消しつつも未だ静観の構えを取るなか、シローがニヤついた表情を日焼け肌の少女に向ける。

「ああ、てめーとそのお友達の事だよ。 年端もいかねえガキの癖にクルマなんか乗り回して、
銃を玩具にしてハンター気取りの甘ったれのお譲ちゃん達に言ってんだ。
どこの裕福なご令嬢だか知らないけどよ、町の外はは遊びで来る場所じゃねえ。
「人狩り」に捕まって売り飛ばされてさんざん”ピーッ”される前にさっさと家に帰ってろ。
それとも俺がここの2階のベッドで予行演習してやろうか?」

女性のハンターと言うのは少ないが、居ないわけではない。
だが大抵、荒野を生き抜く女ハンターというのは男顔負けの性格と体格を持った、「ゴツい」女である事が多い。
女というよりゴリラ、そういう評判がついて回るのが一般的だ。
その点では、この二人の少女はどちらも、確かにハンターという職業には似つかわしくない格好をしていた。
特に、長い髪の少女の着ている服装は荒野を旅するというよりはどこかにピクニックに行くような小奇麗なワンピースだ。
これでは、ふざけて居るのかと叱られてもおかしくは無い。
どちらかというと物見遊山的に見られるのは当然かもしれなかった。
だが、日焼け肌の少女は自分たちが侮蔑された、舐められたという怒りに満ちた表情で椅子から立ち上がり
シローにツカツカと歩み寄ると、目の前で立ち止まって自分より背の高い男を見上げながら睨み付けた。
睨まれたシローの方は、腰に両手を当てて少女を侮る視線を向けている。
さて、次はどんな言葉を投げつけてやろうか。 なんと言えばこの、荒野を甘く見て家を飛び出してきたのだろうお嬢さん方は
泣きべそをかいて家に帰らせる事が出来るだろうか。
嫁入り前の大事な体が悪党に傷物にされる前に家に帰してやるのは正しい事だ、と自分の中でもっともらしい理由をつけながら、
シローが小生意気な態度を見せるこの少女に言葉攻めを与えてやろうかとちょっとしたサディスティックな思いに
考えをめぐらせていると、突如として日焼け肌の少女の左手が弾かれたように伸び、シローが全く反応できない速度で
その太い首を掴むと信じられない握力で持ち上げ、爪先を2センチほど床から離れさせた。
瞬間、ダッグが驚愕の表情をし、ディエゴも同様に驚いて椅子から腰を浮かせる。
明らかに、普通の少女の細腕でなせる力ではない。

「お前…サイバネティクス…!? ソルジャーか!!」

ダッグが壁から背を離し、頚部を圧迫されたまま持ち上げられて苦しそうに呻き、脚をジタバタさせるシローを助けるべく
ナイフを投擲姿勢に入る。
が、その行動は少女のやはり神速とも言える俊敏な、常人を肥えた反応速度で反対側の腕にサブマシンガンを構え
既にダッグに向けられていた銃口によって遮られた。
脚を浮かせられたシローは必死に少女の手を引き剥がそうとするが、彼の両手を持ってしても少女の細腕は万力のように
首を掴んで締め付け、離さない所を見るように少女の腕はサイバネティクス…機械化手術を受けたいわゆるサイボーグだ。
一般的には荒野に生息する、機械と生物の融合した危険な生物の総称として知られるサイバネティクスだが
元々は大破壊前の科学が生み出し社会に浸透していた、れっきとした人類の所有する技術である。
ゆえに時折、自身の体をサイバネティクス化する手術を受けている者は見られた。
それは特に、クルマを駆るハンターとは対照的に自身の体一つでバイオニックやクルマに対抗する戦士…ソルジャーと
呼ばれる傭兵に多く、ソルジャーの中には体の一部といわずほぼ全身をサイバネティクスに置換している者すら居る。
もちろん、そういった身体教化措置を取らないソルジャーもいるし、改造ではなく薬物で生身の非力さを補う者もいる。
サイバネティクスだけがソルジャーの全てでは無いが、サイバネティクス化は生身の人間に比べれば
段違いともいえるほどの身体能力強化をもたらすのだ。
そして、シローを持ち上げている日焼け肌の少女の腕力は、少女が腕だけでなく鎖骨や肩甲骨までの相当な機械化を
していることも同時に示していた。
そうでなければ、ここまでの膂力を発揮できるものではない。

「…どいつもこいつも見た目ばかりで判断しやがって。 俺が女のなりをしてるのがそんなに弱そうに見えるか?
ならいいさ、手前らの節穴の目玉のツケは手前ら自身で払いやがれ」

イラついた表情を浮かべ、少女がシローの首を掴んでいる腕に力を込めようとする。
だが、それに後ろからハンマーコックの音と共に制止の声をかけた者が居た。
ディエゴだ。
椅子から立ち上がった彼は、44マグナムを構えて長い髪の少女の頭の横にその銃口を向けている。

「そこまでだお嬢さん。 君が手を離してくれないと、君のお友達の可愛らしい顔が頭ごと吹き飛ぶ事になる。
こんな事は不本意だが、ソルジャー相手に我々生身のハンターでは分が悪すぎる。
ここは、お互い身を引いたほうが得策ではないかね? 私としても、こんな可憐な女の子を傷つけたくは無い。
連れの非礼はお詫びしよう。 彼も充分反省しているようだし、君もそこら辺で許してやってはくれないだろうか?」

ディエゴはできる限り紳士的な態度で、いかにも申し訳なさそうに少女に対して宣告した。
引き下がらないなら、彼女の相棒を撃ち殺す事になる、と。
卑劣なようだが、同時に相手に対してもここが引き際であるはずであり、お互いドローとなる最も穏便な手段であるはずだった。
もちろん銃を向けて長い髪の少女を人質に取るディエゴ自身、自分から引き金を引くつもりはさらさら無い。
だが、もし日焼け肌の少女がシローを殺傷するつもりなら、いたし方の無いことでもある。

「ユキホ…手前、何おめおめと人質に取られてんだ間抜け。
クルマ乗ってない時は俺の脚引っ張るだけかこの玉無し野郎」

形勢を逆転された原因であるユキホと呼んだ長い髪の少女に苛立ち混じりの悪態をつく。
一方、ユキホという名の少女は困ったような、それで居て申し訳なさそうな顔を相方の少女に向けながら言った。

「先に手を出して喧嘩を始めたのはシズナちゃんじゃない…。
どちらかというと僕は巻き込まれてるだけなんだけどなあ? そもそもシズナちゃんがすぐ暴力に訴えるから悪いんだと思う」

日焼け肌の少女をシズナ、とユキホは呼んだ。
はあ、と大きくため息を付き、男を持ち上げつつもう一人を銃口で牽制しているシズナと、持ち上げられて血の気の失せた
今にも失神しそうなシロー、壁際のダッグ、固唾を呑んで見守る酒場内の村人達、そして自身に銃を向けているディエゴと、頭のすぐ横の銃口を視線で見回す。
この中で一番迷惑を被っているのは自分だろう、という思いを胸にしながら、ユキホは少し息を吸った。
次の瞬間、誰にも予想だにしないタイミングで、まるでクイック・ドロウのような素早さでユキホが自分の頭に向けられた銃に手を伸ばす。
親指でハンマーを抑え、銃を握るディエゴの手ごとがっちりと握って制圧。
まさかとばかり全く予期していなかった少女の行動に、ディエゴは2分の1秒反応が遅れる。
ハンマーを押さえられたリボルバー拳銃は引き金を引いても、指が挟まれているので撃鉄が弾丸の尻を打つ事ができず、発砲されない。
すぐさまディエゴは反対の手でユキホの指を引き剥がそうとするが、それよりも早く踏み込んだユキホの肘鉄が
ディエゴの鳩尾に入り、そしてディエゴの体は上下が反転して床に背中から叩きつけられた。
脚を刈られて投げ飛ばされた、とディエゴが理解した時には、ユキホは自分のマシンピストルをホルダーから抜いて
銃口をディエゴの胸に向けていた。

「…こんな事は不本意なんですけど。 シズナちゃんはああなったら絶対引き下がらないから、こうするしか無いんです。
そちらが降参してくれますか?」

心の底から申し訳なさそうにしているユキホに見つめられ、体格差のある華奢な少女に投げ飛ばされた衝撃から
立ち直っていないディエゴは呆然としつつも無言で頷いた。
それを見て、フン、と鼻を鳴らしてシズナもシローを掴んでいた腕を離す。
大の男が床に崩れ落ち、圧迫されていた気管を介抱されたシローが空気を求めて咳き込む。
それを見て、ダッグがナイフをしまってシローを介抱するため駆け寄った。
ユキホは自分のマシンピストルをホルダーに納めると、事の成り行きを見守っていた村長にぺこりと頭を下げた。

「ご迷惑をかけて本当に申し訳ありません。 僕たちはクルマの燃料補給をしたら、すぐに出て行きますので」

「え、ええ… それは構わないのですが、村の給油所には備蓄が残り少なく、油商人は明日来る事になっております。
ですので、明日にならないと燃料を買う事が出来ませんが…」

その村長の言葉に、ユキホはうげ、と声に出して言った。
明日になるまでこの村に逗留しないといけないという事だ。 喧嘩騒ぎを起こしておいて居座るのは少々気まずい気分になる。
そもそも喧嘩を始めた当人であるシズナも舌打ちをし、ユキホを小突いた。

「元はといえば手前が女の格好なんかしてるから舐められるんじゃねーかよ。
フリフリヒラヒラした服ばっかり着やがって、それでも金玉付いてんのかオカマ野郎」

それはどちらかと言うと責任転嫁に近いものであったが、言われたユキホは猛烈に反論する。

「オカマって、酷いよ…! 僕だって好きでこんな風になったわけじゃないのはシズナちゃんも知ってるじゃないか。
小さい頃から母さんにこういうの着せられてきたんだから、今更普通の服や格好できないんだよ!?
別に僕はオカマでも、女の子になりたい訳でもないんだ!」

その言葉に、村長始め、酒場の中に居た全員、ディエゴたち三人も含めいっせいに「は!?」と声をあげる。
ユキホは言ってしまってから、不味った?というちょっと困った表情をして、周囲を見回した。

「あ、あの…。 僕、こういう格好してるけど、れっきとした男です」








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