誰一人いなく、遠く広がる廃墟。
乱立する高層ビルや壊れた家々。
そこにも誰一人いることはない。
彼らを除いては、誰も―――。
乱立する高層ビルや壊れた家々。
そこにも誰一人いることはない。
彼らを除いては、誰も―――。
『っ!』
廃墟のビル群を器用に飛び移る白金色の機体。手には金色の錫杖。
そして彼を追うように空中から剣の雨が降り注ぐ。建物を破壊していくも、彼は舌打ちをしながら器用に避けていく。
ビルの影に回り込むと剣の雨は止み、周囲を警戒するように立ち止まる。
そして彼を追うように空中から剣の雨が降り注ぐ。建物を破壊していくも、彼は舌打ちをしながら器用に避けていく。
ビルの影に回り込むと剣の雨は止み、周囲を警戒するように立ち止まる。
「……どうする、久遠」
落ち着き払った声で椎名がエーヴィヒカイトに問い掛ける。
相手は味方とはいえ、椎名にとってこれは初戦闘。初めての戦場だ。
それにしては落ち着いてるように感じる。声色はとても冷静な物だった。
見せてないだけなのか、本当なのかは本人にしかわからない。
だが、取り乱されるよりは遙かに素晴らしいと言えるだろう。
相手は味方とはいえ、椎名にとってこれは初戦闘。初めての戦場だ。
それにしては落ち着いてるように感じる。声色はとても冷静な物だった。
見せてないだけなのか、本当なのかは本人にしかわからない。
だが、取り乱されるよりは遙かに素晴らしいと言えるだろう。
『ぶちのめす。と、言いたいのは山々なんだがな。生憎とまだ空間の把握が終わっていない」
エーヴィヒカイトの"空間固定"は非常に強力な力ではあるが、発動するためには様々な条件がある。
一つは空間把握。大気、大地、建造物を含めた能力射程圏に入る全ての"セカイ"の把握。
ヴィオツィーレンは"繋げる"力なため座標計算で済むが、こちらは"一定領域を停止"させる力だ。そのため中にある物の把握は非常に重要である。
椎名もそれはわかったため、特に反論も意見もすることなく了承した。
一つは空間把握。大気、大地、建造物を含めた能力射程圏に入る全ての"セカイ"の把握。
ヴィオツィーレンは"繋げる"力なため座標計算で済むが、こちらは"一定領域を停止"させる力だ。そのため中にある物の把握は非常に重要である。
椎名もそれはわかったため、特に反論も意見もすることなく了承した。
「わかった。……上だ!」
『ああ!』
上空に出現した数本の剣。それが機体を貫く前に横っ飛びで回避する。
避けられない剣は錫杖で弾き飛ばす。固有兵装であるこの錫杖は剣を弾いたところで傷一つ付くことはない。
このままでは延々と狙い撃ちにされてしまうだけだ。
ならば、と上空から撃たれることのない広めの高層ビルの内部に入り込んだ。
避けられない剣は錫杖で弾き飛ばす。固有兵装であるこの錫杖は剣を弾いたところで傷一つ付くことはない。
このままでは延々と狙い撃ちにされてしまうだけだ。
ならば、と上空から撃たれることのない広めの高層ビルの内部に入り込んだ。
そこのビルから100メートルほど離れた高層ビルの屋上に、ヴィオツィーレンは立っていた。
茶色の装甲が日に反射し鈍い光を放っている。手には何も持っていない。
既にエーヴィヒカイトが行きそうな幾多のポイントの座標計算は終えている。
姿を見せればそこに武器を射出し蜂の巣にしてやる、そのくらいの意気込みがあった。
シュタムファータァの戦闘の際には使用することはなかった、"武器庫からの直接射出"。
本来ヴィオツィーレンは武器庫と空間を繋げ、そこから武器を取り出して戦うスタイルを取る。
だが、相方がいて座標計算が普段より高速となる場合は話は別だ。
相手の移動する場所を予測し、先じて座標計算を済ませる。複数同時に空間と空間を繋げる。
そして、そこから武器庫に存在する数多の刀剣を敵の周囲から射出する。まるで雨のように、弾丸のように。
自分自身を転移させる"空間転移"より遙かにセカイの消費が少なく、近付く必要もない。
それが"空間射出"。気心しれたシュヴァルツが搭乗しているからこその強力な技だった。
茶色の装甲が日に反射し鈍い光を放っている。手には何も持っていない。
既にエーヴィヒカイトが行きそうな幾多のポイントの座標計算は終えている。
姿を見せればそこに武器を射出し蜂の巣にしてやる、そのくらいの意気込みがあった。
シュタムファータァの戦闘の際には使用することはなかった、"武器庫からの直接射出"。
本来ヴィオツィーレンは武器庫と空間を繋げ、そこから武器を取り出して戦うスタイルを取る。
だが、相方がいて座標計算が普段より高速となる場合は話は別だ。
相手の移動する場所を予測し、先じて座標計算を済ませる。複数同時に空間と空間を繋げる。
そして、そこから武器庫に存在する数多の刀剣を敵の周囲から射出する。まるで雨のように、弾丸のように。
自分自身を転移させる"空間転移"より遙かにセカイの消費が少なく、近付く必要もない。
それが"空間射出"。気心しれたシュヴァルツが搭乗しているからこその強力な技だった。
「……くそ、逃げられた」
透き通った、しかし苛立ちが籠められた少女の声が聞こえてくる。
"ヴィオツィーレンの内部"に展開されている"ATT"のコクピット。座席に座る雪のように白い長い髪を、後ろで縛った紅い瞳。
シュヴァルツはそう言いながらもモニターに映る計算式を解いていった。
"ヴィオツィーレンの内部"に展開されている"ATT"のコクピット。座席に座る雪のように白い長い髪を、後ろで縛った紅い瞳。
シュヴァルツはそう言いながらもモニターに映る計算式を解いていった。
『そりゃあれくらいじゃ殺れないよ、クロちゃん。相手は一応"保守派"のボスである"エクスツェントリシュ"なんだし』
対する声は朗らかに、余裕を感じさせる声でヴィオツィーレンは答える。
喋りながらも"座標計算"の式をシュヴァルツに送り続け、解答された式を完成させる作業は怠ることはない。
阿吽の呼吸でどんどんエーヴィヒカイトを包囲するように座標計算が終わらしていく。
喋りながらも"座標計算"の式をシュヴァルツに送り続け、解答された式を完成させる作業は怠ることはない。
阿吽の呼吸でどんどんエーヴィヒカイトを包囲するように座標計算が終わらしていく。
「追うことはしないの?」
「さて、どうしよっか。下手に暴れると倒壊しそうだし、待ち伏せとかされたら厄介だしね。だから―――」
座標計算を終えた空間が歪み、中から沢山の武具の先端が現れる。
剣、槍、刀。様々な近接武具の鋭利な先端がビルの方へと向けていった。
そして手をかざし、セカイを集中し研ぎ澄ます。
剣、槍、刀。様々な近接武具の鋭利な先端がビルの方へと向けていった。
そして手をかざし、セカイを集中し研ぎ澄ます。
「―――建物ごと、ぶっ壊す」
対する椎名とエーヴィヒカイトは、ビルの内部で錫杖を横に構え片膝を付いていた。セカイを探査能力に傾倒させ空間把握に集中する。
シュヴァルツと同じく"ATT"のコクピットに座る椎名が、ふとモニターに広がっていく光点に気付いた。
シュヴァルツと同じく"ATT"のコクピットに座る椎名が、ふとモニターに広がっていく光点に気付いた。
「おい、久遠」
『何だ?』
椎名が呼び掛けるとすぐさまエーヴィヒカイトは反応する。
彼が集中し空間把握に務めている間は、椎名が探査能力を具現化したレーダーに表示される異変を報告するのが役目の一つでもある。
勿論完全に椎名に委ねているわけではないのだが、それでも空間把握のペースは段違いに早まる。
彼が集中し空間把握に務めている間は、椎名が探査能力を具現化したレーダーに表示される異変を報告するのが役目の一つでもある。
勿論完全に椎名に委ねているわけではないのだが、それでも空間把握のペースは段違いに早まる。
「ビルの外、気付かないか」
『……これは』
モニターのレーダーには、自身を中心として取り囲むように大量の赤い光点が表示されている。
ビルの柱を狙ったように配置されているそれは、射出すれば間違いなくビルを破壊するだろう。
久遠もそれを理解し、探査能力に傾倒していたセカイを戻し臨戦態勢をとる。
ビルの柱を狙ったように配置されているそれは、射出すれば間違いなくビルを破壊するだろう。
久遠もそれを理解し、探査能力に傾倒していたセカイを戻し臨戦態勢をとる。
「アイツ等、どうやらビルごと俺たちを壊す気らしい」
『大雑把なところがあのバカ狸らしいな。……ま、狸らしくはないが』
錫杖を正面に構え直し、"空間把握"で得た情報を頭に澄み渡らせ、凄まじい速度で"空間演算"を始める。
エーヴィヒカイトの脳裏に様々な情報が駆けめぐり処理されていく。
それと同時に周囲に"セカイの光弾"を展開させる。
腰を落とし、跳躍の構えを取る。方角は真っ直ぐにヴィオツィーレンへと向けられている。
エーヴィヒカイトの脳裏に様々な情報が駆けめぐり処理されていく。
それと同時に周囲に"セカイの光弾"を展開させる。
腰を落とし、跳躍の構えを取る。方角は真っ直ぐにヴィオツィーレンへと向けられている。
『一気に懐に入る。射撃系の制御は任せた。バラ撒くだけでいい』
「了解」
モニターに新たに表示される光弾の情報。椎名はコンソールを操作し情報を把握していく。
座標を合わせ、全ての準備を終わらせる。
座標を合わせ、全ての準備を終わらせる。
椎名たちが準備を終わらせたのとほぼ同時に、ヴィオツィーレンたちの準備も終わる。
標的補足。座標計算も完璧だ。狂い一つない。
標的補足。座標計算も完璧だ。狂い一つない。
『―――行くよ。いっせーの……』
言葉と共にかざした手を振り下ろす。
瞬時に展開された武具にセカイが通されていく。
瞬時に展開された武具にセカイが通されていく。
『せっ!』
そして、一斉にビル目掛けて直線軌道を描きながら武具が射出されていった。
空気を切り裂いて行くかのように対象目掛けて殺到する数多の刀剣たち。
それに―――真っ正面から、対峙する。
空気を切り裂いて行くかのように対象目掛けて殺到する数多の刀剣たち。
それに―――真っ正面から、対峙する。
『来た―――行くぞっ!』
「了解!」
脚部にセカイを集中させると同時に、展開していた光弾の数発を正面に撃ち出しビルの壁に穴を開ける。
そして、エーィヴヒカイトは開いた穴ごとビルの壁を突き破るように跳躍した。
瓦礫が散乱し、視界が一気に開ける。目の前にはこちら目掛けて射出された刀剣たち。
そして、エーィヴヒカイトは開いた穴ごとビルの壁を突き破るように跳躍した。
瓦礫が散乱し、視界が一気に開ける。目の前にはこちら目掛けて射出された刀剣たち。
「このまま直進。ベクトルからして直撃コースの弾道が減る」
凄まじい速度でヴィオツィーレンまで空を跳んでいくエーヴィヒカイト。
その中でも冷静にレーダーに表示される光点を目で追いながら椎名が報告する。
するとエーヴィヒカイトは余裕を持った声で椎名の報告に応えた。
その中でも冷静にレーダーに表示される光点を目で追いながら椎名が報告する。
するとエーヴィヒカイトは余裕を持った声で椎名の報告に応えた。
『了解した。ついでに直撃コースの刀剣を撃ち落とせる座標計算も頼む』
飛びながらエーヴィヒカイトは光弾を周囲に追加させる。
椎名はコンソールを動かしながら直撃コースに当たる座標に数値を入力していく。
エーヴィヒカイトは椎名が入力した座標に対して光弾を発射した。
光の弾が金色の軌跡を描きながら刀剣に激突していく。機体には、一本も刀剣は届くことはない。
椎名はコンソールを動かしながら直撃コースに当たる座標に数値を入力していく。
エーヴィヒカイトは椎名が入力した座標に対して光弾を発射した。
光の弾が金色の軌跡を描きながら刀剣に激突していく。機体には、一本も刀剣は届くことはない。
「……人使いの荒いことで」
そう言った椎名の表情は言葉とは裏腹に、軽い笑みを浮かべていた。
ビルの壁を足場にしながら段々とヴィオツィーレンまで距離を詰めていく。
金色の髪を靡かせながら次々と攻撃を避け、防ぎ、撃ち落とす。
その光景は、さながら演舞のようで。見てる者の目を惹きつけるようでもあった。
ビルの壁を足場にしながら段々とヴィオツィーレンまで距離を詰めていく。
金色の髪を靡かせながら次々と攻撃を避け、防ぎ、撃ち落とす。
その光景は、さながら演舞のようで。見てる者の目を惹きつけるようでもあった。
『ふー、かなーり用意したのに随分とまぁ綺麗に避けるなぁ』
ヴィオツィーレンがそう愚痴りながらも座標計算を緩めることなく刀剣の射出を続ける。
だがそのどれもが直撃することはなく、白金色の機体が近付いてくるのを止めることは出来ていない。
戦法を変えようと態勢を立て直そうとしたその瞬間。目の前で跳んでいた白金色の機体の姿が消え失せた。
だがそのどれもが直撃することはなく、白金色の機体が近付いてくるのを止めることは出来ていない。
戦法を変えようと態勢を立て直そうとしたその瞬間。目の前で跳んでいた白金色の機体の姿が消え失せた。
『王手だ、ヴィオツィーレンッ…-!』
背後から聞こえる声。目の前にいたハズのエーヴィヒカイトは、一瞬にして背後へと移動していた。
"高速移動"でも"空間転移"でもない。エーヴィヒカイトの速度は何も変わっていないのだから。
―――"空間固定"。私のいる空間を意識ごと"停止"させ、その間に背後へと移動したのだ。
"空間固定"された者はまるで時間が止まったかのような錯覚に襲われる。この力こそが"時の鍵人"と謳われる所以だった。
"高速移動"でも"空間転移"でもない。エーヴィヒカイトの速度は何も変わっていないのだから。
―――"空間固定"。私のいる空間を意識ごと"停止"させ、その間に背後へと移動したのだ。
"空間固定"された者はまるで時間が止まったかのような錯覚に襲われる。この力こそが"時の鍵人"と謳われる所以だった。
「どうすんのよヴィオ姉ーっ!」
迫り来る錫杖。固有兵装であるそれならば軽々と装甲を貫く威力を秘めているだろう。
この態勢と距離では身体を捻って回避する隙も時間もない。回避は不可能。
シュヴァルツが慌てたような声を上げる。だが、対するヴィオツィーレンの声は相変わらず朗らかであった。
この態勢と距離では身体を捻って回避する隙も時間もない。回避は不可能。
シュヴァルツが慌てたような声を上げる。だが、対するヴィオツィーレンの声は相変わらず朗らかであった。
『まぁ見てなさいな!……王手ってことは、まだ詰んでないってことなのよ!』
錫杖がヴィオツィーレンの装甲を貫く。子供でも不可避なことが一目瞭然でわかる絶対の一撃。
されど、対する相手は"総合戦闘能力最強"の異名を持つリーゼンゲシュレヒト。
―――この程度の法則。覆せずして何がエクスツェントリシュか―――!
されど、対する相手は"総合戦闘能力最強"の異名を持つリーゼンゲシュレヒト。
―――この程度の法則。覆せずして何がエクスツェントリシュか―――!
『ッ!?しまった!』
錫杖は空を斬る。目と鼻の先にいたヴィオツィーレンの姿は消え去っていた。
誰もが当たると疑わなかっただろう不可避の一撃であった攻撃は外れ、常識は覆る。
"空間転移"。シュタムファータァ戦において圧倒的な力を見せた、ヴィオツィーレンの本気の力。
背後から感じる凄まじい殺気。それに気付くと同時に聞こえてくる声。
誰もが当たると疑わなかっただろう不可避の一撃であった攻撃は外れ、常識は覆る。
"空間転移"。シュタムファータァ戦において圧倒的な力を見せた、ヴィオツィーレンの本気の力。
背後から感じる凄まじい殺気。それに気付くと同時に聞こえてくる声。
『立場、ぎゃくてーん』
エーヴィヒカイトの背後に振り下ろされる、ヴィオツィーレンが手にした西洋剣。
無防備な背中に叩き込まれる一撃。だが、その一撃は空を斬る。
再び消え失せるエーヴィヒカイトの姿。襲い来る時間が止められたような感覚。
無防備な背中に叩き込まれる一撃。だが、その一撃は空を斬る。
再び消え失せるエーヴィヒカイトの姿。襲い来る時間が止められたような感覚。
『再びお前の空間を固定した。観念しろヴィオツィーレンッ……!』
『お断りだねっ!』
"空間転移"を発動し背後から迫るエーヴィヒカイトの一撃を回避する。
今回はすぐ後ろではなく距離を取った場所に転移し、周囲に刀剣を出現させる。
錫杖を構えたエーヴィヒカイト目掛けて串刺しにせんと放たれる剣の雨。
だが、その刀剣は瞬時にエーヴィヒカイトの周囲に展開された光弾に全て撃ち落とされた。
今回はすぐ後ろではなく距離を取った場所に転移し、周囲に刀剣を出現させる。
錫杖を構えたエーヴィヒカイト目掛けて串刺しにせんと放たれる剣の雨。
だが、その刀剣は瞬時にエーヴィヒカイトの周囲に展開された光弾に全て撃ち落とされた。
『残念。俺には頼れる相棒がいるんだな、これが』
ヴィオツィーレンは内心で舌打ちを鳴らす。椎名という男。予想していたより遙かに働けている……!
光弾の座標調整の手伝いはそこまで難しい演算ではないとはいえ、並みの高校生が瞬時に出来る所業などではない。
ましてや椎名はこれが初戦闘であり、エーヴィヒカイトのタッグもこれが初めてである。
それでここまで普通に足を引っ張ることなくサポートに徹することが出来ている。
ヴィオツィーレンはその事実に、椎名俊一の評価を改めざるを得なかった。
光弾の座標調整の手伝いはそこまで難しい演算ではないとはいえ、並みの高校生が瞬時に出来る所業などではない。
ましてや椎名はこれが初戦闘であり、エーヴィヒカイトのタッグもこれが初めてである。
それでここまで普通に足を引っ張ることなくサポートに徹することが出来ている。
ヴィオツィーレンはその事実に、椎名俊一の評価を改めざるを得なかった。
「……ヴィオ姉」
シュヴァルツが心配するような不安気な声で呼び掛ける。
……そうだ。相手に椎名がいようが誰がいようがそんなものは関係ない。
ヴィオツィーレンには頼れる妹が付いてる。それだけで百万力。誰にも負ける道理などないのだから。
弱気な考えを振り払い、真っ直ぐにエーヴィヒカイトを見据える。
……そうだ。相手に椎名がいようが誰がいようがそんなものは関係ない。
ヴィオツィーレンには頼れる妹が付いてる。それだけで百万力。誰にも負ける道理などないのだから。
弱気な考えを振り払い、真っ直ぐにエーヴィヒカイトを見据える。
『ごめんごめん、じゃあクロちゃんに下準備、頼んじゃおっかな』
「わかった!」
シュヴァルツが活気に満ちた声でそう答える。その声色に不安は感じられない。
空間から西洋剣をもう一本取り出し、両手に剣を持った状態となる。
ヴィオツィーレンが"廻るセカイ"内で"空間転移"を連発すればすぐにガス欠するように、エーヴィヒカイトも"空間固定"を連発できるわけもない。
ましてやセカイの消費量で言えば"空間固定"の方が圧倒的に上だ。先ほど2連発したのだからすぐには発動してこないだろう。
空間から西洋剣をもう一本取り出し、両手に剣を持った状態となる。
ヴィオツィーレンが"廻るセカイ"内で"空間転移"を連発すればすぐにガス欠するように、エーヴィヒカイトも"空間固定"を連発できるわけもない。
ましてやセカイの消費量で言えば"空間固定"の方が圧倒的に上だ。先ほど2連発したのだからすぐには発動してこないだろう。
お互いそれを理解しているため、近接武器を持って向かい合う。
そして、合図をしたわけでもなく互いに同時のタイミングで突進する。
ぶつかり合う剣と錫杖。エーヴィヒカイトは長柄物であるそれを器用に振り回し、双剣の猛攻を弾いていく。
両機とも譲らず一進一退の戦い。武器による近接戦は全くの同レベルだった。
そして、合図をしたわけでもなく互いに同時のタイミングで突進する。
ぶつかり合う剣と錫杖。エーヴィヒカイトは長柄物であるそれを器用に振り回し、双剣の猛攻を弾いていく。
両機とも譲らず一進一退の戦い。武器による近接戦は全くの同レベルだった。
『あんた、近接戦でもこんな戦えるなんて聞いてないわよ!』
『ナハトのような本業には及ばないさ。それはお前も同じだろう?【空裂きの射手】』
ヴィオツィーレンの振るう双剣は固有兵装ではないが、直撃すれば痛手になる力は秘めている。
そして彼女の双剣捌きは達人級とは言えないが、一流のそれには至っている腕前だ。それを普段矢面に立つことの少ないエーヴィヒカイトが、一撃も当たることなく錫杖一本で捌ききっている。
速度も力もヴィオツィーレンの方が上回っているのは明らかだ。だが、エーヴィヒカイトはそれと全く互角に切り結んでいる。
"保守派"のリーダーである彼が長年積んできた"圧倒的な経験"。経験を活かし応用する技量こそがエーヴィヒカイトの特化した力だった。
そして彼女の双剣捌きは達人級とは言えないが、一流のそれには至っている腕前だ。それを普段矢面に立つことの少ないエーヴィヒカイトが、一撃も当たることなく錫杖一本で捌ききっている。
速度も力もヴィオツィーレンの方が上回っているのは明らかだ。だが、エーヴィヒカイトはそれと全く互角に切り結んでいる。
"保守派"のリーダーである彼が長年積んできた"圧倒的な経験"。経験を活かし応用する技量こそがエーヴィヒカイトの特化した力だった。
「準備完了したよ、ヴィオ姉!」
突然シュヴァルツが嬉々とした声でそう叫ぶ。それと同時に大量の座標計算の式が終了したことを理解した。
これだけの量の計算を短時間で終わらせることは決して簡単なことじゃない。
シュヴァルツが自分なりに無力を痛感し、ヴィオツィーレンのためを想い必死になった結果ということだろう。
それが気持ちと結果で出たことに感動しながら、ヴィオツィーレンは妹に感謝の言葉を紡ぐ。
これだけの量の計算を短時間で終わらせることは決して簡単なことじゃない。
シュヴァルツが自分なりに無力を痛感し、ヴィオツィーレンのためを想い必死になった結果ということだろう。
それが気持ちと結果で出たことに感動しながら、ヴィオツィーレンは妹に感謝の言葉を紡ぐ。
『ありがと、クロちゃん』
「あ、や、そのっ。どういたし、まして」
照れながら言葉を返すシュヴァルツに微笑ましい想いを抱きながら、視線は真っ直ぐエーヴィヒカイトを射抜く。
舞台は整った。状況にも問題はない。あとは準備した式を展開するだけ。
鍔迫り合いになった状態から、地面を足で強く蹴り後ろに後退する。
そして、真っ直ぐ片手を空へと向け、指を鳴らし開幕を告げる。
舞台は整った。状況にも問題はない。あとは準備した式を展開するだけ。
鍔迫り合いになった状態から、地面を足で強く蹴り後ろに後退する。
そして、真っ直ぐ片手を空へと向け、指を鳴らし開幕を告げる。
『ではでは……ショータイムだ!』
エーヴィヒカイトの前面の空間が丸ごと歪んだかと思った瞬間、大量の武具が出現する。
十、二十じゃきかないほどの量だ。これほどの量をよくも短時間で、とエーヴィヒカイトは感心する。
正直冷静に考えている暇などない。早急に対策を考えなければならない。
展開されたそれらの照準は既に対象を捕捉しているのだから。
そして、展開された全ての武具がエーヴィヒカイト目掛けて撃ち出された。
十、二十じゃきかないほどの量だ。これほどの量をよくも短時間で、とエーヴィヒカイトは感心する。
正直冷静に考えている暇などない。早急に対策を考えなければならない。
展開されたそれらの照準は既に対象を捕捉しているのだから。
そして、展開された全ての武具がエーヴィヒカイト目掛けて撃ち出された。
「時間、止めるか?」
椎名が冷静に問い掛ける。シュヴァルツが準備を整えていたように、椎名も式を完全させていたのだ。
だが、攻め込むタイミングを見計らってる最中に先手を打たれた。
そのため元々攻撃用に準備していた式をここで回避するために使用するのは当然の策だろう。
しかし、エーヴィヒカイトはその策に対して否定した。
だが、攻め込むタイミングを見計らってる最中に先手を打たれた。
そのため元々攻撃用に準備していた式をここで回避するために使用するのは当然の策だろう。
しかし、エーヴィヒカイトはその策に対して否定した。
『無理だ。あれだけの量、俺のセカイのキャパシティでは止めきれない。……弾幕を頼む』
ここで空間を固定しても、あの数では先にこちらのセカイが尽きてしまう。
であればわざわざ切り札を使う必要はない。勿論、ただでは済まないのは自明の理だ。
だが、どの道こうなっては切り札を温存したままこの状況を乗り切るしか勝利への方法はない。
弾幕と杖術だけ。無茶にもほどがあるが、やるしかない―――!
であればわざわざ切り札を使う必要はない。勿論、ただでは済まないのは自明の理だ。
だが、どの道こうなっては切り札を温存したままこの状況を乗り切るしか勝利への方法はない。
弾幕と杖術だけ。無茶にもほどがあるが、やるしかない―――!
「……了解」
椎名が短く、重々しく返答する。彼もこれが無茶でもやるしかないということは理解しているのだろう。
周囲に光弾が具現化し射出される。狙いは正確に、幾つかの武器を迎撃し撃ち落とした。
しかし、未だこちら目掛けて射出される武器の量は計り知れない。
身体を捻り、ギリギリのところで回避していく。その度に金色の長い髪が靡く。
直撃コースの攻撃を錫杖を上手く操り弾いていく。だがそれでも完全ではなく、装甲の端々に裂傷が刻まれていく。
周囲に光弾が具現化し射出される。狙いは正確に、幾つかの武器を迎撃し撃ち落とした。
しかし、未だこちら目掛けて射出される武器の量は計り知れない。
身体を捻り、ギリギリのところで回避していく。その度に金色の長い髪が靡く。
直撃コースの攻撃を錫杖を上手く操り弾いていく。だがそれでも完全ではなく、装甲の端々に裂傷が刻まれていく。
『(これならば……!)』
椎名が予想を遥かに越えた速度で光弾を生成し、上手く迎撃してくれている。
この調子ならば敗北することなく凌ぎきることが可能だろう。そう確信した。
―――だがその瞬間、椎名の叫ぶ声が響いた。
この調子ならば敗北することなく凌ぎきることが可能だろう。そう確信した。
―――だがその瞬間、椎名の叫ぶ声が響いた。
「久遠!」
『なっ……!!』
直後、弾き周囲に突き刺さった武具と、射出されてくる武具全てが光り輝き。
周囲を、轟音と共に爆炎と爆風が包み込んだ。
吹き飛ぶガラス片とコンクリートの欠片。周りを爆発の赤と爆煙の黒で染め上げていく。
周囲を、轟音と共に爆炎と爆風が包み込んだ。
吹き飛ぶガラス片とコンクリートの欠片。周りを爆発の赤と爆煙の黒で染め上げていく。
「ヴィオ姉!」
クロちゃんが嬉しそうな声で叫ぶ。爆発と直撃を確認した。あれを受けて無傷は有り得ないだろう。
見れば誰もが思うであろう必殺の一撃。しかし、あれだけではまだ"王手"だけだ。"詰み"ではない。
両腕にサブマシンガン"P90"を召還する。そしてビルの影から煙の中へと突進。これで決める―――!
見れば誰もが思うであろう必殺の一撃。しかし、あれだけではまだ"王手"だけだ。"詰み"ではない。
両腕にサブマシンガン"P90"を召還する。そしてビルの影から煙の中へと突進。これで決める―――!
『チェーックメイト!』
P90を構え、煙の中へと掃射する。弾丸を止める暇など与えない。
これで蜂の巣だ。先ほどの爆発とこの連撃で確実に仕留めたハズ。
これで蜂の巣だ。先ほどの爆発とこの連撃で確実に仕留めたハズ。
だが、しかし―――
長い金髪と白金の装甲を煤で染め付つも、一切の傷がない状態のエーヴィヒカイトが立っていた。
高所から、ヴィオツィーレンを見下ろすように。堂々と。
高所から、ヴィオツィーレンを見下ろすように。堂々と。
「な、ななななんでっ!?」
『俺の周囲の空間を"固定"した。お前が準備をしてるようにこちらも発動する準備はしていたからな』
「―――もっとも、まさか防御に使わされるなんて思ってなかったが」
『だがこれで終わりだ。グッバイアホ狸』
展開された光彈の雨が降り注ぎ、飛び降りたエーヴィヒカイトのドロップキックが直撃した。
展開された光彈の雨が降り注ぎ、飛び降りたエーヴィヒカイトのドロップキックが直撃した。
地面を激しく転がりながら吹き飛ばされるヴィオツィーレン。背部装甲に多大な損傷。
『やってくれたわねクソ狐!こんにゃろあったま来た!見てなさい、"界侵―――』
「ストップだヴィオツィーレン。エーヴィヒカイトも」
ヴィオツィーレンが界侵をしでかしそうなところで、オレはストップコールを出す。界侵を見たかった気持ちはあるが、仕方ない。
『ちょっとヤスくん何でよ、私まだ戦えるって』
『あの、その……私が、もう"廻るセカイ"を現界させ続けるのが限界なんですっ!』
振り絞るように言うシュタムファータァ。表示されているEN残量も後少ししかない。
これ以上は後に響くだろう。……というか、今のシュタムファータァの発言は洒落のつもりだったのだろうか。
そんなくだらないことを考えつつ、"廻るセカイ"が消えていき、周囲を包んでいた翡翠色の領域が普通の光景へと戻っていく。
これ以上は後に響くだろう。……というか、今のシュタムファータァの発言は洒落のつもりだったのだろうか。
そんなくだらないことを考えつつ、"廻るセカイ"が消えていき、周囲を包んでいた翡翠色の領域が普通の光景へと戻っていく。
それを見たエーヴィヒカイトとヴィオツィーレンは、互いに溜息を吐きながらリーゼ化を解除する。
それと同時に椎名とシュヴァルツも出て、ヴァイスも合流するのを見て、オレとシュタムファータァも合流した。
シュタムファータァもリーゼ化を解除し、ヒトの姿へと戻る。外に出されたオレは、疲れたような表情を浮かべた椎名と目があった。
それと同時に椎名とシュヴァルツも出て、ヴァイスも合流するのを見て、オレとシュタムファータァも合流した。
シュタムファータァもリーゼ化を解除し、ヒトの姿へと戻る。外に出されたオレは、疲れたような表情を浮かべた椎名と目があった。
「座標計算だなんて、すごいな椎名」
「モノにするまでかなり時間がかかったがな。期末テストの結果に響かないと良いんだが」
冗談めかして言う椎名だが、元々頭がいい椎名がこう言うのだ。オレが予想するよりは遙かに勉強したのだろう。
そして、ふと椎名は思い詰めた表情になり、何かを言おうとしてるが躊躇っているような印象を受けた。
はっきりと物事を言う椎名がこんな態度を取るのは珍しい。オレはそのまま椎名が喋り出すのを待った。
やがて、椎名はオレを真剣な表情で真っ直ぐ見据えると、口を開いた。
そして、ふと椎名は思い詰めた表情になり、何かを言おうとしてるが躊躇っているような印象を受けた。
はっきりと物事を言う椎名がこんな態度を取るのは珍しい。オレはそのまま椎名が喋り出すのを待った。
やがて、椎名はオレを真剣な表情で真っ直ぐ見据えると、口を開いた。
「……安田。俺は"揺籃を守る"ことでもない、"革命派を倒す"ことでもない―――"自分の目的"のために、リーゼンゲシュレヒトに関わった」
「自分の、目的?」
「そうだ。エーヴィヒカイトにはそのために力を貸してもらう約束も交わしている。ギブアンドテイク。そのために俺は座標計算を学び力となったんだ」
そこで椎名は一旦言葉を切り下を向いたが、再びオレを真っ直ぐ見据える。
感情が籠もった瞳だ。いつも冷静な椎名の瞳とは違った、真摯な想いが込められている。
感情が籠もった瞳だ。いつも冷静な椎名の瞳とは違った、真摯な想いが込められている。
「だがもちろん俺はお前たちの敵じゃないし、敵になるつもりもない。俺自身の目的も、安田に話せないが久遠には話し、納得もしてもらっている」
「…………」
「いきなりこんな話をしてすまない。だが、一緒に戦っていく仲間として。親友として、俺は話しておきたかったんだ」
椎名が告げた"戦う理由"。揺籃を守るためでもない、革命派を倒すためでもない、自分自身の目的。
それが何なのかはオレには予想できない。もしかしたら、何かよくないことなのかもしれない。
だが、オレは椎名の言葉を信じる。椎名がこんなことを言うのは初めてだし、何よりこれは"言わなくても良かった"ことだ。
それをわざわざ律儀にオレに言ってきたのだ。オレはその気持ちを信じたかった。
それが何なのかはオレには予想できない。もしかしたら、何かよくないことなのかもしれない。
だが、オレは椎名の言葉を信じる。椎名がこんなことを言うのは初めてだし、何よりこれは"言わなくても良かった"ことだ。
それをわざわざ律儀にオレに言ってきたのだ。オレはその気持ちを信じたかった。
「そうか、わかった」
オレはただその一言だけ告げる。
椎名ならば、これだけで事足りる。
椎名ならば、これだけで事足りる。
「……ありがとう、安田」
椎名から礼を言われ、若干気恥ずかしくなり空を見上げる。
見上げた光景に広がるは一面の曇り空。灰色が視界を埋め尽くす。
どこか不安になるような印象を受けたこの空は、今日の日が暮れるまで変わることはなかった。
見上げた光景に広がるは一面の曇り空。灰色が視界を埋め尽くす。
どこか不安になるような印象を受けたこの空は、今日の日が暮れるまで変わることはなかった。
―――壁一面に広がる窓に手を当て、眼下の街を見下ろすように立つ一人の男性。
どこか気弱そうな眼に、長い黒髪を後ろで束ね、黒い独特的な制服に身を包んでいる。
"セカイの意志" の制服を着込んだ男。革命派を束ねるリーダー。リーゼンゲシュレヒト・ディス。
そんな彼に呼び出されたのは、漆黒のロングコートに身を包んた長身の青年。
鋭い視線と高い身長は見る人に威圧感を与えそうな、そんな雰囲気が感じられた。
どこか気弱そうな眼に、長い黒髪を後ろで束ね、黒い独特的な制服に身を包んでいる。
"セカイの意志" の制服を着込んだ男。革命派を束ねるリーダー。リーゼンゲシュレヒト・ディス。
そんな彼に呼び出されたのは、漆黒のロングコートに身を包んた長身の青年。
鋭い視線と高い身長は見る人に威圧感を与えそうな、そんな雰囲気が感じられた。
「ナハト、そんなにヴィオツィーレンの件が不満かい?」
「……いえ。ただ、最近のシュタムファータァに関する件についての貴方の行動の中でも、今回のはかなりの痛手だったと想いましたが」
ナハトは忠実なディスの右腕だ。どんなに疑問を持ったことでも、確実に任務をこなしていった。
そしてそれはすべてが良い結果へと繋がった。そんな実績があったからこそ、彼は心から彼に忠実でいられたというのもなくはないだろう。
そしてそれはすべてが良い結果へと繋がった。そんな実績があったからこそ、彼は心から彼に忠実でいられたというのもなくはないだろう。
だが、彼でもここ最近のシュタムファータァに対する一件については疑問を抱かざるを得なかった。
一体のリーゼが重傷を負い、三体のリーゼが敵に寝返っているという状況だ。
しかもその内の一人はディスの右腕であるナハトととも互角以上に渡り合う実力を持ったヴィオツィーレンだ。かなりの痛手であるに違いない。
こんな損害を被ってまで、果たしてディスは何を狙っているのだろうか。それの僅か一片だけでもナハトは知りたかった。
一体のリーゼが重傷を負い、三体のリーゼが敵に寝返っているという状況だ。
しかもその内の一人はディスの右腕であるナハトととも互角以上に渡り合う実力を持ったヴィオツィーレンだ。かなりの痛手であるに違いない。
こんな損害を被ってまで、果たしてディスは何を狙っているのだろうか。それの僅か一片だけでもナハトは知りたかった。
「ナハト、ちょうどいいタイミングだよ。君の知りたい事はもうすぐにわかる」
「もう、すぐに?」
「ああ。今回僕がナハトを呼んだ理由は実にシンプルなことだ」
ディスはそこで一息入れると、机から書類の入った封筒を出し机の上に置いた。
いつも渡される任務の概要が書かれた書類が入っている。ナハトはいつものようにそれを受けとると、それを腋に挟んだ。
いつも渡される任務の概要が書かれた書類が入っている。ナハトはいつものようにそれを受けとると、それを腋に挟んだ。
「シュタムファータァを、君が討て」
ディスは、ナハトを正面から真っ直ぐに見据えるとそう言ったのだった。
その瞳は革命派のリーダーとして、カリスマに溢れた威厳のある力が籠もっていた。
―――だからこそ、ナハトは聞き返す。
その瞳は革命派のリーダーとして、カリスマに溢れた威厳のある力が籠もっていた。
―――だからこそ、ナハトは聞き返す。
「よろしいのですか?」
「"廻るセカイ"は発現し、彼女に定着し安定を迎えた。ここまで迎えればあと一歩だよ。―――"彼女が目覚めるまでは"」
再び窓の方を向いたディスは、透明な汚れ一つないガラスを指でなぞる。
その表情は、憂いを秘めたものだったが、どこか嬉しそうな表情にも見えた。
その表情は、憂いを秘めたものだったが、どこか嬉しそうな表情にも見えた。
「そのためにはヴィオツィーレンや他のリーゼなど小さすぎる損害さ。だからナハト、彼女の目覚めの、総仕上げを他ならぬ君に頼んだ」
ナハトはその言葉に対し、ディスの言葉に対して初めて言葉を返した。
「ディス、シュタムファータァは、貴方が入れ込む理由とは……彼女の目覚めとは、一体何なのでしょうか」
「―――【銀雪の王姫】の目覚めさ」
アーブストゥーク エクスツェントリシュ
「【銀雪の王姫】。貴方の【冥王の心臓】と同じく"秘匿種"のみに与えられる6つの二つ名の一つですが、シュタムファータァは希少種では?」
アーブストゥーク エクスツェントリシュ
「【銀雪の王姫】。貴方の【冥王の心臓】と同じく"秘匿種"のみに与えられる6つの二つ名の一つですが、シュタムファータァは希少種では?」
能力の進化ということも考えたが、今までの事例でそんなことは一切なかったし、現実的に考えてそんなことがあるとも思えない。
ましてやあのシュタムファータァの能力が進化したところで、アーブストゥークに認定されるレベルにはならないだろう。
ディスの目的のためには"6体のアーブストゥーク"が必要なのは理解しているが、それとシュタムファータァが結びつかない。
アーブストゥーク
「たしかに"罪深き始祖"シュタムファータァは"秘匿種"などではない。だから、秘匿種である"白銀の始祖"を目覚めさせるのさ」
ましてやあのシュタムファータァの能力が進化したところで、アーブストゥークに認定されるレベルにはならないだろう。
ディスの目的のためには"6体のアーブストゥーク"が必要なのは理解しているが、それとシュタムファータァが結びつかない。
アーブストゥーク
「たしかに"罪深き始祖"シュタムファータァは"秘匿種"などではない。だから、秘匿種である"白銀の始祖"を目覚めさせるのさ」
「まさか……シュタムファータァはエーヴィヒカイトと同じ―――」
ナハトのその言葉を聞くとディスは静かな笑みを浮かべながら、ゆっくりと頷いた。
揺籃での模擬戦、ディスとナハトの対話。それと同時に平行して、もう一つの舞台は動き始めていた。
揺籃の港に定着した一着の船。そこから降りる三人の人影。
それとその三人を迎えるように立つ一人の少女。
紅い瞳に桃色の髪を頭で2つに束ね、学校の制服に身を包んだ彼女の名は、"神崎志帆"。
三人に向かって笑顔を浮かべながら、丁寧にお辞儀をする。
それとその三人を迎えるように立つ一人の少女。
紅い瞳に桃色の髪を頭で2つに束ね、学校の制服に身を包んだ彼女の名は、"神崎志帆"。
三人に向かって笑顔を浮かべながら、丁寧にお辞儀をする。
「お待ちしておりました、"八上の白瑠璃"リーゼンゲシュレヒト・ハーゼ。並びにイデアール様にアーシェ様」
ハーゼと呼ばれた長い銀髪の女性は、白衣を翻しながら志帆の挨拶を受け軽く会釈した。
そして軽く周囲を見渡すと、楽しそうな笑みを浮かべてながら口を開いた。
そして軽く周囲を見渡すと、楽しそうな笑みを浮かべてながら口を開いた。
「まだ残っていたか揺籃。やるなぁ少年少女。私が助けた甲斐があったというものだ。はっはっは」
腰に手を当てながら笑うハーゼに対し、後ろに立っていた赤髪の青年が呆れたような表情を浮かべた。
黒いスーツに赤いネクタイを締めた彼は、まるでSPか何かのように見えた。
黒いスーツに赤いネクタイを締めた彼は、まるでSPか何かのように見えた。
「矢面に立ったのは私とアーシェでしたが。あとオートマタ」
「やかましいわイデアール。私だって頑張ったんだから見逃せバカ」
ハーゼとイデアールの掛け合いを見ながらアーシェは無表情で無関心であり、神崎志帆は笑いながらそれを見届けていた。
その雰囲気は非常に柔らかく、日常そのものと言っても過言はなかった。
その雰囲気は非常に柔らかく、日常そのものと言っても過言はなかった。
「そういえば、ハーゼさまは以前に安田俊明とシュタムファータァを助けたことがあったのでしたね」
「うむ。料金はもらったから義理はないがな。……だが、こう上手くいっている様を眼にするとやはりどこか嬉しくはあるな」
「いいのですか?貴女たちに依頼した内容は―――」
「義理はないと言ったろう。それに、あの"揺籃の御三家"の中のとりわけ曰く付きのリーゼンゲシュレヒト、"粛清の御守"を調べられるのだ。不満など言うはずもない」
その言葉に、志帆は笑みを浮かべた。
先ほどの温和な笑顔とは違う、好戦的な、策謀に満ちた笑顔。
普段の彼女の学校からは想像できないだろう表情であることを知る者は、この場にはいない。
先ほどの温和な笑顔とは違う、好戦的な、策謀に満ちた笑顔。
普段の彼女の学校からは想像できないだろう表情であることを知る者は、この場にはいない。
「そう言ってくれると当方としても助かります。それでは―――行きましょうか」
「了解だよ、"揺籃代表代理"……神崎志帆さん」
神崎志帆が先導を切って歩き出す。後ろに続く、ハーゼたちという三人のリーゼンゲシュレヒト。
彼女たちが向かう先は、揺籃最大の医療施設である、『伊崎病院』。
彼女たちが向かう先は、揺籃最大の医療施設である、『伊崎病院』。
伊崎千春―――旧姓"御守"千春が入院する病院だった。