第四話「そのロボ、目覚めの時」
「シル。わたしちょっと行ってくるね」
「お気をつけて」
「ところで、なんでそんなぬいぐるみなの?」
「あそこでショボくれている馬鹿を以前助けに行ったときに、月の宮に置いてあって魂の容器にできる物がこれしかなくて……」
「ウチはガワ要らずの人多いもんねー」
「ええ」
「まあいいか。みんな無事だものね」
「そうですね」
「お気をつけて」
「ところで、なんでそんなぬいぐるみなの?」
「あそこでショボくれている馬鹿を以前助けに行ったときに、月の宮に置いてあって魂の容器にできる物がこれしかなくて……」
「ウチはガワ要らずの人多いもんねー」
「ええ」
「まあいいか。みんな無事だものね」
「そうですね」
第四話「そのロボ、目覚めの時~人生最長の日の夜~」
†
どこだここは。
一度も行ったことはないが、海なのかもしれない。
とにかく、寒くて暗い。
……いや待て。俺は頭を撃ち抜かれてなかったか?
そうだ。俺は頭に穴が開いた筈だ。銃で撃たれた筈だ。
ということは、ここは魔術空間か?
「はははっ」
笑いがこみあげる。
どんな名前をつけようと、人間の創りだすものなど全て妄想に過ぎないのに。
だから、俺は自分が好きになれないのに。
そんなことを言っても、俺は妄想の権化の、魔術と自意識から抜け出せないだなんて。
――いきたい。
極め付きに大馬鹿だ。一応は物を追い求めるビルの方が余程人生に慣れている。
――逝きたい?
どうして?俺は死んだ。精神を連結するすることはできたが、俺の人形は独立機動が可能だ。後世に残らなくとも、誰かが笑うだろう。
ならば俺が生きてる意味はない。目的は達成したのだ。
――行きたい。
見届けたい。この世が俺の手でどこまで変わるのか知りたい。例え生命の倫理を捻じ曲げようと、万人から謗られようと、自分は正しいと叫びたい。
――生きたい。
俺は、本当はロボットもどきじゃなくてヒトだったんだ。カミサマになってヒトもどきを創りたい、一人の人間だったんだ。
「生きたい」
生きたい。叶うならば永遠に生きたい。死にたくない。汚物に顔を埋めようと、自分を人形に作り替えようと、とにかく生きたい。
「すまない、ニーボア」
一度も口にしなかった俺の人形の名前。ROBINの逆綴り。
最初で最後の、お前という存在を認めた上での命令だ。
「俺と、魂を全て入れ替えるんだ」
『了解。マイマスター』
愛しいお前を、こんな冷たく暗い中に捨てるなんて身勝手を、どうか許してほしい。
どこだここは。
一度も行ったことはないが、海なのかもしれない。
とにかく、寒くて暗い。
……いや待て。俺は頭を撃ち抜かれてなかったか?
そうだ。俺は頭に穴が開いた筈だ。銃で撃たれた筈だ。
ということは、ここは魔術空間か?
「はははっ」
笑いがこみあげる。
どんな名前をつけようと、人間の創りだすものなど全て妄想に過ぎないのに。
だから、俺は自分が好きになれないのに。
そんなことを言っても、俺は妄想の権化の、魔術と自意識から抜け出せないだなんて。
――いきたい。
極め付きに大馬鹿だ。一応は物を追い求めるビルの方が余程人生に慣れている。
――逝きたい?
どうして?俺は死んだ。精神を連結するすることはできたが、俺の人形は独立機動が可能だ。後世に残らなくとも、誰かが笑うだろう。
ならば俺が生きてる意味はない。目的は達成したのだ。
――行きたい。
見届けたい。この世が俺の手でどこまで変わるのか知りたい。例え生命の倫理を捻じ曲げようと、万人から謗られようと、自分は正しいと叫びたい。
――生きたい。
俺は、本当はロボットもどきじゃなくてヒトだったんだ。カミサマになってヒトもどきを創りたい、一人の人間だったんだ。
「生きたい」
生きたい。叶うならば永遠に生きたい。死にたくない。汚物に顔を埋めようと、自分を人形に作り替えようと、とにかく生きたい。
「すまない、ニーボア」
一度も口にしなかった俺の人形の名前。ROBINの逆綴り。
最初で最後の、お前という存在を認めた上での命令だ。
「俺と、魂を全て入れ替えるんだ」
『了解。マイマスター』
愛しいお前を、こんな冷たく暗い中に捨てるなんて身勝手を、どうか許してほしい。
人間は、ワガママなんだ。
†
仕事終わりの帰り。
俺のサーベルタイガーはいつもの様に上半身と下半身を分離させてある。
俺はコックピットから出るのが面倒なので、上半身のある一号車に。ルカもいる。
ルカの馬パーツとサーベルタイガーの下半身は二号車だ。
「なあ、ルカ。俺らこの商売始めてどんくらいだ?」
「五年は経ってない」
素早い返事。そういうところが信用できる。
「そうか、まだそんなもんか。副業も上手くなったな」
「旨くなったからな」
精一杯のジョークが、他人に伝わりにくいのも好きだ。
「お前がサイボーグになって、ジェーンが死んで、そんなになるのか」
そんなお前とは、俺の元カノのアニキだってことを差し引いても親友になっただろう。
「……そうだな」
「俺のダチもお前も、悪魔あっての命だよな」
「何が言いたい」
「いや、いくら元軍人でもガキ殺すのはイマイチ慣れなくてな」
「だがあのガキは悪魔どもといた。殺して当然だ」
「だよなぁ……」
ルカは元軍人じゃない。魔術学校のエリートだった。
ジェーンと自分の体の八割を失うまでは。
けどよぉ、ルカ。
いつまでもジェーンの敵討ちって肩肘張って、毎日殺すことしか考えないのって、辛くないのか?
その言葉を飲み込むために煙草を吸おうと、コックピットから出る準備を始めたその時。
仕事終わりの帰り。
俺のサーベルタイガーはいつもの様に上半身と下半身を分離させてある。
俺はコックピットから出るのが面倒なので、上半身のある一号車に。ルカもいる。
ルカの馬パーツとサーベルタイガーの下半身は二号車だ。
「なあ、ルカ。俺らこの商売始めてどんくらいだ?」
「五年は経ってない」
素早い返事。そういうところが信用できる。
「そうか、まだそんなもんか。副業も上手くなったな」
「旨くなったからな」
精一杯のジョークが、他人に伝わりにくいのも好きだ。
「お前がサイボーグになって、ジェーンが死んで、そんなになるのか」
そんなお前とは、俺の元カノのアニキだってことを差し引いても親友になっただろう。
「……そうだな」
「俺のダチもお前も、悪魔あっての命だよな」
「何が言いたい」
「いや、いくら元軍人でもガキ殺すのはイマイチ慣れなくてな」
「だがあのガキは悪魔どもといた。殺して当然だ」
「だよなぁ……」
ルカは元軍人じゃない。魔術学校のエリートだった。
ジェーンと自分の体の八割を失うまでは。
けどよぉ、ルカ。
いつまでもジェーンの敵討ちって肩肘張って、毎日殺すことしか考えないのって、辛くないのか?
その言葉を飲み込むために煙草を吸おうと、コックピットから出る準備を始めたその時。
天井に大穴が空いて、サーベルタイガーの右肩に何かが食い込んだ。
「こんにちは?もう時間的にこんばんはかな?どう思う?甲冑士にサイボーグの人」
「はあぁ?」
なんでさっきの女の子が座ってんの?ってかもしかして今のその姿勢、剣突き刺したアフターモーション?
「よいしょっと。」
轟音を立てて右肩の装甲から先が落っこちるのと、ルカが銃を構えて撃つのは同時だった。しかも三発連発したから確実にミンチになるはずだった。
「きゃっ」
「ああぁ?」
右肩の装甲の上で踊るようにくるくる回る金髪少女。明らかに無傷。
「どうなってんだこのロリは!?」
コックピットから緊急離脱して拳銃を構える。
「動くな!」
「い・や☆」
二人がかりで発砲。しかし無傷。剣が時計回りに一回転して銃弾が消し飛んでいく。
「ぬるいよ。――てんちしんめー。おいで、レヴリス。デコピン」
中空から現れる銀色の指。鉄やアルミとは全く違う、重みと深みのある色。
それが、ルカを、
「ルカ!」
遅かった。指がルカを薙ぎ払った。俺は弾切れ。戦闘続行不可能。
「やりすぎちゃったかな。じゃ、また会いましょうお二人さん」
銀の指に捕まり消えてゆく少女。
治療費と修理代で間違いなく報酬はパー。
「ははは……」
ここまで為す術なくボコボコにされると笑えてくるから困る。
「こんにちは?もう時間的にこんばんはかな?どう思う?甲冑士にサイボーグの人」
「はあぁ?」
なんでさっきの女の子が座ってんの?ってかもしかして今のその姿勢、剣突き刺したアフターモーション?
「よいしょっと。」
轟音を立てて右肩の装甲から先が落っこちるのと、ルカが銃を構えて撃つのは同時だった。しかも三発連発したから確実にミンチになるはずだった。
「きゃっ」
「ああぁ?」
右肩の装甲の上で踊るようにくるくる回る金髪少女。明らかに無傷。
「どうなってんだこのロリは!?」
コックピットから緊急離脱して拳銃を構える。
「動くな!」
「い・や☆」
二人がかりで発砲。しかし無傷。剣が時計回りに一回転して銃弾が消し飛んでいく。
「ぬるいよ。――てんちしんめー。おいで、レヴリス。デコピン」
中空から現れる銀色の指。鉄やアルミとは全く違う、重みと深みのある色。
それが、ルカを、
「ルカ!」
遅かった。指がルカを薙ぎ払った。俺は弾切れ。戦闘続行不可能。
「やりすぎちゃったかな。じゃ、また会いましょうお二人さん」
銀の指に捕まり消えてゆく少女。
治療費と修理代で間違いなく報酬はパー。
「ははは……」
ここまで為す術なくボコボコにされると笑えてくるから困る。
二人とも、生きてて良かった。
†
「は?パツキン美少女がウチのトラックの天井ぶち抜いてサーベルタイガー壊して、ついでにルークも痛めつけただぁ?」
「ビックリだろおやっさん」
「どんな悪魔だよ……」
「新手かにゃ?」
「まず明らかに人型の悪魔にそこまで出来るとは信じがたい。そんなことお前の方が詳しいだろが」
「そこなんだよ問題が」
魔力量に比例して悪魔は人間離れした図体になる。
確かに顔は人間離れして可愛かったが、そんな例は見たことも聞いたこともない。
「しかも魔術式テンプレ省略して召喚魔術ぶっ放してきやがったんだぜ?そのテンプレも聞いたことねぇヤツでよ」
「どんな」
さすがおやっさん。自分のオモチャの危機に関しては復帰が早い。対悪魔装備のスペシャリストを地で行く男。
「天地神明に依りて我ここに誓う」
「……俺の時代には教科書に載ってた気はするが……」
「な?しかも俺と同じニオイがするし、『また会いましょう』って抜かしやがった」
「戦闘中毒の人型チート悪魔か……討伐を依頼されたくないな」
「ぜってぇ国家クラスの武力は必要だぜ?的ちっこいんだから」
出るものふたつ。ため息。屁。
「くせぇぞ社長」
「……聞いてくれよおやっさん」
「屁をこいた言い訳なら聞こう」
「そうじゃねえんだけどよ。俺は武器も殺す相手もなくたって生きていけるんだ」
マイセンに火を点けるスティーヴン。ついでに榊のわかばにも火を点ける。
「確かに貴様のジャンキーは他の連中に比べりゃ軽いな」
「ルカはそうじゃねぇじゃん?」
「事情は知らんがどう見ても思いつめてるわな」
「これってつまり内にも外にも爆弾があるってことじゃん?先行きこえぇなぁー…」
折角の煙草が不味くなっちまう。
「せいぜい汚い命懸けてわが社を支えてくれ、社長」
「は?パツキン美少女がウチのトラックの天井ぶち抜いてサーベルタイガー壊して、ついでにルークも痛めつけただぁ?」
「ビックリだろおやっさん」
「どんな悪魔だよ……」
「新手かにゃ?」
「まず明らかに人型の悪魔にそこまで出来るとは信じがたい。そんなことお前の方が詳しいだろが」
「そこなんだよ問題が」
魔力量に比例して悪魔は人間離れした図体になる。
確かに顔は人間離れして可愛かったが、そんな例は見たことも聞いたこともない。
「しかも魔術式テンプレ省略して召喚魔術ぶっ放してきやがったんだぜ?そのテンプレも聞いたことねぇヤツでよ」
「どんな」
さすがおやっさん。自分のオモチャの危機に関しては復帰が早い。対悪魔装備のスペシャリストを地で行く男。
「天地神明に依りて我ここに誓う」
「……俺の時代には教科書に載ってた気はするが……」
「な?しかも俺と同じニオイがするし、『また会いましょう』って抜かしやがった」
「戦闘中毒の人型チート悪魔か……討伐を依頼されたくないな」
「ぜってぇ国家クラスの武力は必要だぜ?的ちっこいんだから」
出るものふたつ。ため息。屁。
「くせぇぞ社長」
「……聞いてくれよおやっさん」
「屁をこいた言い訳なら聞こう」
「そうじゃねえんだけどよ。俺は武器も殺す相手もなくたって生きていけるんだ」
マイセンに火を点けるスティーヴン。ついでに榊のわかばにも火を点ける。
「確かに貴様のジャンキーは他の連中に比べりゃ軽いな」
「ルカはそうじゃねぇじゃん?」
「事情は知らんがどう見ても思いつめてるわな」
「これってつまり内にも外にも爆弾があるってことじゃん?先行きこえぇなぁー…」
折角の煙草が不味くなっちまう。
「せいぜい汚い命懸けてわが社を支えてくれ、社長」
†
朝に世界が眠りからさめて穏やかに、しかし厳かに立ち上がるその時。
愛用の白いケトルを火にかけて、試行錯誤を重ね、紅茶が一番おいしくなるタイミングを極めて、休日があることを天の神に感謝するような軽い気持ちで。
自分の体を変えてしまう悪魔が日常も存在も奪い去る。
ぶつかり合い、けなし合い、なぐさめ合い、それでも一生を二人で過ごそうと決めた青年も。
交友関係でも学業でも悩み、それでも健気に月曜日の存在だけを恨む少女も。
我が子のために自分の持てる限りを惜しみなく捧げる母親も。
救国の英雄を志し、その志と現実の間に揺れる若き政治家も。
どんな小さい日常を歩もうと、悪魔は逃がさない。
どんな淀んだ日常を歩もうと、悪魔は許さない。
「動物を軽んじた人間どもには死さえ安らぎだ」とでも言いたいかのように人間を異形の形に変える。
悪魔とは、そういうモノだ。
それに与するというのであれば外道であるのは明らかで、それを殺めるというのであれば下衆であるのは明らかだ。
ならば見ないふりをするのか?知らないふりをするのか?
認めるのだ。人間であることの汚さと誇りを。
どんな動物よりもすぐれた動物であるというのならば、それを示せ。
好奇心のその正当性を示しつくせ。
ゴールもスタートもない海で、「一歩だけ」歩を進めるのだ。
悩み苦しみ嘆き悲しみその結果「一歩だけ」歩を進めるのだ。
「……誰か、そこにいるのか?」
無音。ロビン以外には何もない。
「物音が聞こえた気がしたんだがな……。まあいい。俺は生きたい。旅に出たいんだ」
段々と視界が開けて――。
朝に世界が眠りからさめて穏やかに、しかし厳かに立ち上がるその時。
愛用の白いケトルを火にかけて、試行錯誤を重ね、紅茶が一番おいしくなるタイミングを極めて、休日があることを天の神に感謝するような軽い気持ちで。
自分の体を変えてしまう悪魔が日常も存在も奪い去る。
ぶつかり合い、けなし合い、なぐさめ合い、それでも一生を二人で過ごそうと決めた青年も。
交友関係でも学業でも悩み、それでも健気に月曜日の存在だけを恨む少女も。
我が子のために自分の持てる限りを惜しみなく捧げる母親も。
救国の英雄を志し、その志と現実の間に揺れる若き政治家も。
どんな小さい日常を歩もうと、悪魔は逃がさない。
どんな淀んだ日常を歩もうと、悪魔は許さない。
「動物を軽んじた人間どもには死さえ安らぎだ」とでも言いたいかのように人間を異形の形に変える。
悪魔とは、そういうモノだ。
それに与するというのであれば外道であるのは明らかで、それを殺めるというのであれば下衆であるのは明らかだ。
ならば見ないふりをするのか?知らないふりをするのか?
認めるのだ。人間であることの汚さと誇りを。
どんな動物よりもすぐれた動物であるというのならば、それを示せ。
好奇心のその正当性を示しつくせ。
ゴールもスタートもない海で、「一歩だけ」歩を進めるのだ。
悩み苦しみ嘆き悲しみその結果「一歩だけ」歩を進めるのだ。
「……誰か、そこにいるのか?」
無音。ロビン以外には何もない。
「物音が聞こえた気がしたんだがな……。まあいい。俺は生きたい。旅に出たいんだ」
段々と視界が開けて――。
†
眠れないまま、空がとうとう白んで来た頃。僕の後方から何かの物音。
『……旅に出たいんだ』
「え?」
ロビメカのいる位置からだ。間違いない。
「なんで?」
こんなにも胸が躍るような気持ちなんだろうか。
――まるで、世界最高のおっぱいを前にしたような。
眠れないまま、空がとうとう白んで来た頃。僕の後方から何かの物音。
『……旅に出たいんだ』
「え?」
ロビメカのいる位置からだ。間違いない。
「なんで?」
こんなにも胸が躍るような気持ちなんだろうか。
――まるで、世界最高のおっぱいを前にしたような。
つづく。
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