昔、わたしは蝶になった夢を見た。
ひらひらと飛ぶ蝶そのものになっていたらしく、
自然と楽しくなり、のびのびとした気持ちを楽しんだ。
わたしは蝶になりきっていたらしく、自分が自分であることさえわからなくなっていたが、
目を覚ましてみれば、わたしはわたし以外の何者でもなく、断じて蝶などではない。
わたしが夢で蝶になったのか、それとも蝶が夢でわたしになっているのか。
それはきっと──
ひらひらと飛ぶ蝶そのものになっていたらしく、
自然と楽しくなり、のびのびとした気持ちを楽しんだ。
わたしは蝶になりきっていたらしく、自分が自分であることさえわからなくなっていたが、
目を覚ましてみれば、わたしはわたし以外の何者でもなく、断じて蝶などではない。
わたしが夢で蝶になったのか、それとも蝶が夢でわたしになっているのか。
それはきっと──
「じゃあ、明日のお昼には迎えにくるね」
汚れ物をつめたカバンを抱えて千歳は笑いかけてくれた。
「明日の昼だなんて言わないで、もう今連れて帰ってくれないか?」
そんな事を言っても千歳は笑うだけで、まともに受け取ってはくれなかった。冗談だと思ったんだと思う。半ば本気なんだけど。
「看護婦さんの言うことちゃんと聞いて、大人しく休んでいなきゃダメだからね」
まるで子供扱いだ。
「夕方まで寝てても何ともなかったしさ、気分も悪くない。もう何ともないさ」
「でも、お兄ちゃんナノマシン治療できないし。後で何かあったら大変だし……」
それを言われると辛い。
「アレルギーなんだからしょうがないじゃないか」
そうだよと千歳は言った。
「しょうがないんだから、大人しく休んでいてね。……わかった、明日少し早めに迎えにくるから、ね?」
まったくもって子供扱いだ。
とはいえそれ以上反抗するようなことは言わず、僕は気をつけてお帰りとだけ声をかけた。
「うん」
妙に機嫌の良い千歳は微笑むと「それじゃ、おやすみなさいお兄ちゃん」と言って病室を出て行った。
夏とは言え、20時をまわれば外はもう暗い。
『あいつちゃんとタクシー乗って帰るんだろうな』
再三くどくなるほどタクシーに乗って帰るんだぞと言ったから大丈夫だと思うけど、それでももう一回くらい言っておくべきだったかなと思う。
「お兄ちゃんは心配性だねェ」
ベッドサイドのTVの上に陣取った黒猫が囃し立てた。
「うるさいな」
相変わらず人の心を読むとはなんなんだ。プライバシーの侵害だ!
とはいえ……。
ボスッ。
僕は倒れこむようにベッドに身を放った。
「うっわ、埃立つから! ボスッとかドサッとかやめてよね!」
怒る元気も気力ももうない。わいてこない。だって、
「今日は、本当に、疲れた……」
汚れ物をつめたカバンを抱えて千歳は笑いかけてくれた。
「明日の昼だなんて言わないで、もう今連れて帰ってくれないか?」
そんな事を言っても千歳は笑うだけで、まともに受け取ってはくれなかった。冗談だと思ったんだと思う。半ば本気なんだけど。
「看護婦さんの言うことちゃんと聞いて、大人しく休んでいなきゃダメだからね」
まるで子供扱いだ。
「夕方まで寝てても何ともなかったしさ、気分も悪くない。もう何ともないさ」
「でも、お兄ちゃんナノマシン治療できないし。後で何かあったら大変だし……」
それを言われると辛い。
「アレルギーなんだからしょうがないじゃないか」
そうだよと千歳は言った。
「しょうがないんだから、大人しく休んでいてね。……わかった、明日少し早めに迎えにくるから、ね?」
まったくもって子供扱いだ。
とはいえそれ以上反抗するようなことは言わず、僕は気をつけてお帰りとだけ声をかけた。
「うん」
妙に機嫌の良い千歳は微笑むと「それじゃ、おやすみなさいお兄ちゃん」と言って病室を出て行った。
夏とは言え、20時をまわれば外はもう暗い。
『あいつちゃんとタクシー乗って帰るんだろうな』
再三くどくなるほどタクシーに乗って帰るんだぞと言ったから大丈夫だと思うけど、それでももう一回くらい言っておくべきだったかなと思う。
「お兄ちゃんは心配性だねェ」
ベッドサイドのTVの上に陣取った黒猫が囃し立てた。
「うるさいな」
相変わらず人の心を読むとはなんなんだ。プライバシーの侵害だ!
とはいえ……。
ボスッ。
僕は倒れこむようにベッドに身を放った。
「うっわ、埃立つから! ボスッとかドサッとかやめてよね!」
怒る元気も気力ももうない。わいてこない。だって、
「今日は、本当に、疲れた……」
「そりゃあもちろん、必殺技を使うのさ」
「必殺技?」
「そ。みんな好きでしょ、必殺技ってやつがさ」
蹴り飛ばされた花瓶が体勢を整え、後ろからゆっくりと迫る花瓶と共に僕らを挟む形になる。
自衛軍のセンチネルの攻撃はまるで効果がなかったように見えるし、こちらの攻撃が効かないのもさっき見たばかりだ。
だったら──!
「ふたつ教えてくれ」
「必殺技?」
「そ。みんな好きでしょ、必殺技ってやつがさ」
蹴り飛ばされた花瓶が体勢を整え、後ろからゆっくりと迫る花瓶と共に僕らを挟む形になる。
自衛軍のセンチネルの攻撃はまるで効果がなかったように見えるし、こちらの攻撃が効かないのもさっき見たばかりだ。
だったら──!
「ふたつ教えてくれ」
「何だい?」
「ひとつ、その必殺技を使っても周りに被害は出ない?」
「大丈夫だ」
「ふたつめ、それは僕に出来るのか?」
「君と僕とレガシアムなら、やれる」
それなら──!
返事は簡潔であればあるほど良いという誰かの言葉を僕は思い出していた。
「僕は何をすればいい?」
「ひとつ、その必殺技を使っても周りに被害は出ない?」
「大丈夫だ」
「ふたつめ、それは僕に出来るのか?」
「君と僕とレガシアムなら、やれる」
それなら──!
返事は簡潔であればあるほど良いという誰かの言葉を僕は思い出していた。
「僕は何をすればいい?」
下手に上昇して距離を取るわけにはいかない。
──そうすればやつは十中八九地上の市民を狙うからね。
かといって接近を許して懐に入られるわけにもいかない。
──至近距離からの射撃を連続して喰らえば、いつかはバリアの隙間から打撃を食らいかねないからね。
僕がすべきことは。
──僕が必殺技のためのエネルギーをチャージする。その間あいつの攻撃を避け続けてくれ、つかず離れずの距離で。
──そうすればやつは十中八九地上の市民を狙うからね。
かといって接近を許して懐に入られるわけにもいかない。
──至近距離からの射撃を連続して喰らえば、いつかはバリアの隙間から打撃を食らいかねないからね。
僕がすべきことは。
──僕が必殺技のためのエネルギーをチャージする。その間あいつの攻撃を避け続けてくれ、つかず離れずの距離で。
「くうっ!」
回転、回転、そして回転!
くるりくるりとダンスのようにして花瓶たちの連撃を避け続ける。
これならどうだと花瓶の後ろにまわっても、奴はグルっと回転してこちらに機首(?)の砲塔を向けてビームを放つ。
それを回避してアンカーを撃ち出す!
ガチンとまたも跳ね返されてしまうけど、それでもその一撃は牽制にはなる。当たれば花瓶も躊躇うかのように動きを止めるからだ。
「それにしても!」
思わず愚痴をこぼしてしまう。
「怖いんだよ!」
一方を一方への盾となるように回り込もうとしても、それと察してすぐに位置を入れ替えるように動くのだ。まるで二体で一体の動物であるかのような動き!
上昇と下降、右へ左へのロールとターン。どれだけ工夫をこらした機動を作っても花瓶はこちらの動きについてくる。
右下方から花瓶Aが突進。
左側面から花瓶Bがビーム射撃。
だったら!
僕はレガシアムを空中でバク転のような動きを命じた。
背後に反り返るように飛んで、手をつく──花瓶Aの先端部分に手をついて、そのままその背後に飛び込むのだ!
急激な動きについてこれなかった花瓶Bは咄嗟に止めることもできずに、花瓶Aの背後に隠れた僕らに向けてビームを撃つ!
花瓶たちの同士討ちのその隙に僕はレガシアムの機体をヤツラから後退させた。
「やっぱりダメか」
ゆっくりと振り返る花瓶Aの姿には、ダメージを受けたような雰囲気は見られない。
何をどうしても堪えない相手ってのはイヤだな。段々心が折れてくる。
「に、してはまだ余裕あるじゃん」
うるさい、お前は早いとこチャージとか言うのを済ませてくれ。
「アイアイサー」
追い込まれてるわけじゃない。確かにもうしばらく続けてくれと言われても大丈夫かもしれない。このレガシアムってロボットはシューティングゲームの自機よりも早いし強い。
この性能はまさにチートだ。まるで自分の体のように──自分の体以上に思い浮かべたイメージ通りに動いてくれる。
問題は僕の方だ。
いくら敵キャラより遥かに性能の良いチートキャラを使っているにしても、何をしても好転しない展開が続いていればさすがに焦りが生まれる。そうなれば思わぬミスを起こさないとも限らない。
「これはゲームじゃないんだよ?」
わかってる。これは気分の問題だ。ゲームだとでも思わなきゃこんなこと──
「受け止めきれない、か」
「だからエネルギーのチャージってのを早く済ませてくれ!」
回転、回転、そして回転!
くるりくるりとダンスのようにして花瓶たちの連撃を避け続ける。
これならどうだと花瓶の後ろにまわっても、奴はグルっと回転してこちらに機首(?)の砲塔を向けてビームを放つ。
それを回避してアンカーを撃ち出す!
ガチンとまたも跳ね返されてしまうけど、それでもその一撃は牽制にはなる。当たれば花瓶も躊躇うかのように動きを止めるからだ。
「それにしても!」
思わず愚痴をこぼしてしまう。
「怖いんだよ!」
一方を一方への盾となるように回り込もうとしても、それと察してすぐに位置を入れ替えるように動くのだ。まるで二体で一体の動物であるかのような動き!
上昇と下降、右へ左へのロールとターン。どれだけ工夫をこらした機動を作っても花瓶はこちらの動きについてくる。
右下方から花瓶Aが突進。
左側面から花瓶Bがビーム射撃。
だったら!
僕はレガシアムを空中でバク転のような動きを命じた。
背後に反り返るように飛んで、手をつく──花瓶Aの先端部分に手をついて、そのままその背後に飛び込むのだ!
急激な動きについてこれなかった花瓶Bは咄嗟に止めることもできずに、花瓶Aの背後に隠れた僕らに向けてビームを撃つ!
花瓶たちの同士討ちのその隙に僕はレガシアムの機体をヤツラから後退させた。
「やっぱりダメか」
ゆっくりと振り返る花瓶Aの姿には、ダメージを受けたような雰囲気は見られない。
何をどうしても堪えない相手ってのはイヤだな。段々心が折れてくる。
「に、してはまだ余裕あるじゃん」
うるさい、お前は早いとこチャージとか言うのを済ませてくれ。
「アイアイサー」
追い込まれてるわけじゃない。確かにもうしばらく続けてくれと言われても大丈夫かもしれない。このレガシアムってロボットはシューティングゲームの自機よりも早いし強い。
この性能はまさにチートだ。まるで自分の体のように──自分の体以上に思い浮かべたイメージ通りに動いてくれる。
問題は僕の方だ。
いくら敵キャラより遥かに性能の良いチートキャラを使っているにしても、何をしても好転しない展開が続いていればさすがに焦りが生まれる。そうなれば思わぬミスを起こさないとも限らない。
「これはゲームじゃないんだよ?」
わかってる。これは気分の問題だ。ゲームだとでも思わなきゃこんなこと──
「受け止めきれない、か」
「だからエネルギーのチャージってのを早く済ませてくれ!」
ギュン!
意識が別に向いた間隙をつくかのように花瓶のビームが襲う。
今のは危なかった。叫ぶと同時にレガシアムの機体をロールさせてビームを避ける。
ガガンッ!
だけど三発中の一発だけが避け切れずに機体をかすめる。衝撃が機体を揺さぶると共に肩に焼けるような痛みが走る。
「なんだ、これッ?!」
「避け切れなかった一発がフィールドの隙間を抜けた? やってくれる!」
レガシアムが受けたダメージは僕自身のダメージにもなる?
そういえばさっき花瓶を蹴っ飛ばした時の衝撃を足に感じたような覚えがある。
「大丈夫、ダメージを受けたのはレガシアムの身体だ。君自身が傷ついたわけじゃない」
「でも、その衝撃は僕も感じるってわけか」
花瓶たちの動きは変わらない。
しっかりとこちらに食いついて離れないでいてくれている。この調子なら、奴達が避難所の皆の方へ向かうことはないだろう。
「僕たちが──」
「──やられなければ、の話だけどね」
やられるもんか。
再び花瓶たちがレガシアムを左右から挟むように回り込む。
「仕掛けてくるッ!」
だけど今度はさっきまでと動きが違っていた。ジグザグに複雑に機動しながら単発・三連射を組み合わせて波の様に押し寄せてくる!
避けるにしても限度がある! ロール、下降、上昇、水平移動! まるでドッジボールをやってる気分だ。
とうとう焦れて本気になったのか? 花瓶たちにそんなものを感じることができるのか知らないけれど。
黒猫のやつのサポートなしに、これ全部を避けきれるものなのか? そう、思ったときだった。
花瓶Aの側面に回りこむと同時に、奴が身体を“捻った”。
目の前に砲塔の黒い穴が広がり、そこから光が迸る!
避けきれないか──!?
しかし光は着弾寸前で弾けて飛散した。
「間一髪ッ!」
飛び退って距離を取り、アンカーを撃って牽制をかける。
バリアを張って守ってくれた? ていうことはつまり……。
「お待たせ、エネルギーチャージ完了だよ!」
意識が別に向いた間隙をつくかのように花瓶のビームが襲う。
今のは危なかった。叫ぶと同時にレガシアムの機体をロールさせてビームを避ける。
ガガンッ!
だけど三発中の一発だけが避け切れずに機体をかすめる。衝撃が機体を揺さぶると共に肩に焼けるような痛みが走る。
「なんだ、これッ?!」
「避け切れなかった一発がフィールドの隙間を抜けた? やってくれる!」
レガシアムが受けたダメージは僕自身のダメージにもなる?
そういえばさっき花瓶を蹴っ飛ばした時の衝撃を足に感じたような覚えがある。
「大丈夫、ダメージを受けたのはレガシアムの身体だ。君自身が傷ついたわけじゃない」
「でも、その衝撃は僕も感じるってわけか」
花瓶たちの動きは変わらない。
しっかりとこちらに食いついて離れないでいてくれている。この調子なら、奴達が避難所の皆の方へ向かうことはないだろう。
「僕たちが──」
「──やられなければ、の話だけどね」
やられるもんか。
再び花瓶たちがレガシアムを左右から挟むように回り込む。
「仕掛けてくるッ!」
だけど今度はさっきまでと動きが違っていた。ジグザグに複雑に機動しながら単発・三連射を組み合わせて波の様に押し寄せてくる!
避けるにしても限度がある! ロール、下降、上昇、水平移動! まるでドッジボールをやってる気分だ。
とうとう焦れて本気になったのか? 花瓶たちにそんなものを感じることができるのか知らないけれど。
黒猫のやつのサポートなしに、これ全部を避けきれるものなのか? そう、思ったときだった。
花瓶Aの側面に回りこむと同時に、奴が身体を“捻った”。
目の前に砲塔の黒い穴が広がり、そこから光が迸る!
避けきれないか──!?
しかし光は着弾寸前で弾けて飛散した。
「間一髪ッ!」
飛び退って距離を取り、アンカーを撃って牽制をかける。
バリアを張って守ってくれた? ていうことはつまり……。
「お待たせ、エネルギーチャージ完了だよ!」
おぉ……と安堵のため息が司令部に広がった。
直撃コースの光弾を何とかフィールドで受け止めた光景には皆、正に肝を冷やしたようだ。
「ヤベェな。ユニット01はろくな装備もしてなかったんだろ」
「はい、砲撃戦パッケージも格闘戦パッケージも装備していません。非戦闘状態のまま出撃した模様です」
信濃の言葉に吾妻が答える。
「いくらユニット01でも何の装備もなしにE&Eに対抗できるとは……」
その言葉には答えず、信濃は大和の側に口を寄せる。
「どう思う?」
「状況からして“彼”は“継承者”を見つけて搭乗させたんだろう。でなければ主機関が動いている説明がつかん」
「やれると思うか?」
大和は正面のモニターを重苦しい表情で睨みつけているだけ、だ。
「やってもらわねば、困る」
搾り出すように言い、
「現状E&Eに対抗できるのはユニット01だけなのだからな」
ため息を吐き出す。
直撃コースの光弾を何とかフィールドで受け止めた光景には皆、正に肝を冷やしたようだ。
「ヤベェな。ユニット01はろくな装備もしてなかったんだろ」
「はい、砲撃戦パッケージも格闘戦パッケージも装備していません。非戦闘状態のまま出撃した模様です」
信濃の言葉に吾妻が答える。
「いくらユニット01でも何の装備もなしにE&Eに対抗できるとは……」
その言葉には答えず、信濃は大和の側に口を寄せる。
「どう思う?」
「状況からして“彼”は“継承者”を見つけて搭乗させたんだろう。でなければ主機関が動いている説明がつかん」
「やれると思うか?」
大和は正面のモニターを重苦しい表情で睨みつけているだけ、だ。
「やってもらわねば、困る」
搾り出すように言い、
「現状E&Eに対抗できるのはユニット01だけなのだからな」
ため息を吐き出す。
「せめて100式が配備されていればな……」
モニター上のユニット01は再び戦闘機動を開始したようだった。
「それにしてもユニット01に乗り込んだ奴ァ……ムチャクチャだな」
「マニューバも何もまるでデタラメだ。正規の訓練を受けたような人物ではないのだろう。……にしては上手く避けるものだが」
そうだ……と言いかけて大和は口ごもった。
ムチャクチャだと何のかんの言っていても、ユニット01は周囲に被害を出していないのだ。
避難している市民にかまわずAAM(対空ミサイル)をぶっ放した自衛軍のセンチネルとは違うように思えた。
『市民を守って戦っているのか?』
そう思うとムチャクチャな機動にも少々納得できる点も見えてくる。
『市民や街に被害が出ないようにE&Eの注意を自分に向けるよう飛び回っているのか? つかず離れずの距離を保って』
もしその想像が当たっているとしたら──
「“継承者”クンは、“彼”やユニット01共々、我々の味方になってくれるかね?」
「信濃君、私の思考を先読みするのはやめてくれ」
そう言いながら、大和は自分のしかめっ面がようやく綻んだことを実感していた。
が、その苦笑も長門通信士の報告で吹き飛んだ。
「大変です! ユニット01を中心に巨大な重力震が発生!」
再び司令部にざわめきの波が広がる。
「ありえません! こ、こんな……地表上で重力場崩壊が発生するだなんて!」
「吾妻君、ユニット01は?」
「主機関、補機ともにフル稼働中です。フル稼働時の想定出力をかるく30%はオーバーしています! ……今、レッドライン突破しました!」
「こいつは……前言撤回、かな? 長門三尉、周辺環境はどうなっているか」
長門は信濃に答えない。
「……長門三尉、どうした?」
「それが……」
「長門君、報告は明瞭にしたまえ。戦闘空域の周辺環境はどうなっている?」
「それが……なんともありません」
長門の言葉はモニターに転送されたデーターに過不足なくあらわれた。
すなわち、
巨大な重力異常が発生していながら、
街にも人にも、なんら異常は起きていなかったのだ。
モニター上のユニット01は再び戦闘機動を開始したようだった。
「それにしてもユニット01に乗り込んだ奴ァ……ムチャクチャだな」
「マニューバも何もまるでデタラメだ。正規の訓練を受けたような人物ではないのだろう。……にしては上手く避けるものだが」
そうだ……と言いかけて大和は口ごもった。
ムチャクチャだと何のかんの言っていても、ユニット01は周囲に被害を出していないのだ。
避難している市民にかまわずAAM(対空ミサイル)をぶっ放した自衛軍のセンチネルとは違うように思えた。
『市民を守って戦っているのか?』
そう思うとムチャクチャな機動にも少々納得できる点も見えてくる。
『市民や街に被害が出ないようにE&Eの注意を自分に向けるよう飛び回っているのか? つかず離れずの距離を保って』
もしその想像が当たっているとしたら──
「“継承者”クンは、“彼”やユニット01共々、我々の味方になってくれるかね?」
「信濃君、私の思考を先読みするのはやめてくれ」
そう言いながら、大和は自分のしかめっ面がようやく綻んだことを実感していた。
が、その苦笑も長門通信士の報告で吹き飛んだ。
「大変です! ユニット01を中心に巨大な重力震が発生!」
再び司令部にざわめきの波が広がる。
「ありえません! こ、こんな……地表上で重力場崩壊が発生するだなんて!」
「吾妻君、ユニット01は?」
「主機関、補機ともにフル稼働中です。フル稼働時の想定出力をかるく30%はオーバーしています! ……今、レッドライン突破しました!」
「こいつは……前言撤回、かな? 長門三尉、周辺環境はどうなっているか」
長門は信濃に答えない。
「……長門三尉、どうした?」
「それが……」
「長門君、報告は明瞭にしたまえ。戦闘空域の周辺環境はどうなっている?」
「それが……なんともありません」
長門の言葉はモニターに転送されたデーターに過不足なくあらわれた。
すなわち、
巨大な重力異常が発生していながら、
街にも人にも、なんら異常は起きていなかったのだ。
量子力学ではエネルギーと時間は不確定性関係にあるそうで、時空の極々狭い領域で粒子と反粒子の対生成・対消滅が絶えず起こっているんだとか。
ブラックホールの地平面でこのような粒子の一対が生まれると、それらが対消滅する前に、一方がブラックホールの地平面内に落ち込み、もう一方が遠方へ逃げ去ることがある、らしい。
つまり、粒子がブラックホールから地平面を通り抜けて飛び出してきたように見えるらしいのだ。
この粒子が放出される現象はブラックホールの地平面上で起こるために、見た目にはブラックホールが熱放射で光っているように見えるらしい。
ブラックホールが光る? 想像もできないけど、そういうことらしいからしょうがない。
輻射によってエネルギーを失うと、当然エネルギーは質量であるからブラックホールの質量は減少する。
質量が減るとさらにこの効果が強く働いて輻射の強度が増える。ブラックホールは加速度的に質量とエネルギーを失い、最後には爆発的にエネルギーを放出して消滅する。
それがブラックホールの蒸発という現象──なんだそうだ。
説明されてもまったくもってチンプンカンプンだったけど、そういうものなんだそうだ。
ブラックホールの地平面でこのような粒子の一対が生まれると、それらが対消滅する前に、一方がブラックホールの地平面内に落ち込み、もう一方が遠方へ逃げ去ることがある、らしい。
つまり、粒子がブラックホールから地平面を通り抜けて飛び出してきたように見えるらしいのだ。
この粒子が放出される現象はブラックホールの地平面上で起こるために、見た目にはブラックホールが熱放射で光っているように見えるらしい。
ブラックホールが光る? 想像もできないけど、そういうことらしいからしょうがない。
輻射によってエネルギーを失うと、当然エネルギーは質量であるからブラックホールの質量は減少する。
質量が減るとさらにこの効果が強く働いて輻射の強度が増える。ブラックホールは加速度的に質量とエネルギーを失い、最後には爆発的にエネルギーを放出して消滅する。
それがブラックホールの蒸発という現象──なんだそうだ。
説明されてもまったくもってチンプンカンプンだったけど、そういうものなんだそうだ。
「レガシアムを特異点として事象の地平を作り出す。アーティファクトエンジンフルドライブ、補機は機体制御サポートへ。グラヴィティコントローラー、グラヴィティ・フォース・フィールド・マキシマム」
黒猫が分からない言葉を列挙しだす。
それと同時にレガシアムを中心におおきな球形のバリアが広がったのを僕は見た。
グラヴィティ・フォース・フィールド・マキシマムってやつなのか。さっき説明を受けたバリアのことなんだろう。だがしかし、
黒猫が分からない言葉を列挙しだす。
それと同時にレガシアムを中心におおきな球形のバリアが広がったのを僕は見た。
グラヴィティ・フォース・フィールド・マキシマムってやつなのか。さっき説明を受けたバリアのことなんだろう。だがしかし、
なんであの花瓶ABもこのバリアの内側にいるんだ?
その何たらフィールドっていうやつもさっきまでと違って、目でその存在を確認できるようになっている。青だか紫だか、そんな薄い半透明の幕のような感じに見える。
「フィールド、反転!」
だが幕はその言葉とともに文字通り反転した。
さっきまでの青系統の色が、真逆の赤、朱色系の色の幕に変わってしまったのだ。
「なんだよ、これ?」
迫る花瓶の攻撃を飛んで避けて……僕は異変に気がついた。
「レガシアムを上昇させるとこのフィールドも動く?」
「そう、このフィールドはレガシアムを中心に内側へ向けてフィールドを維持したまま形成されている」
つまりレガシアムが動けばそれにあわせてフィールドもレガシアムが中心にあるよう動くってことか。内側に向けて形成されているってのは?
「文字通り外からの作用にではなくて、フィールドの内側からの作用に対して威力を発揮するってことさ」
外側からの攻撃ではなくて、内側からの攻撃をシャットアウトするバリア。
「光、熱、衝撃、放射線、ありとあらゆる物理的作用を遮断するフィールドなんだよ? そしてあいつらに逃げ場はない!」
「だったら」
「周りを気にせずぶちかませる!」
いいかげん逃げ回るだけの戦いに飽きがきていたところなんだ。僕は一気にレガシアムを上昇させる。
フィールドに引かれて花瓶たちも一緒だ。
わかる。感じる! エネルギーの高まりを!
レガシアムを核に重力が、時間と空間が歪みはじめている!
「頂点に到達するよ。レガシアムを特異点としてマイクロブラックホールが生まれる!」
「連中もフィールドを張って抵抗しようとしている?」
「ムダだよ、超重力に耐えてもブラックホールの重力に押し潰されて地平面に拘束されて」
「そして?」
「ブラックホールの蒸発とともに発生するガンマ線バーストに、焼かれる!」
レガシアムは一気に高度二万mまでも上昇していた。機体を止めて近寄る花瓶を蹴り飛ばす!
これで終わりにしてやる!
躊躇はなかった。
超重力波、加速運動開始!
念じると共に加速を始める重力波が花瓶たちをおろし金にかけるように磨り潰していく。もうあいつらは逃げられない!
「消えてぇ、しまえぇぇぇ!!!」
多分、操縦桿のトリガーを引くことに意味はなかったはずだ。
いままでそうだったように、それは発動を念じるだけでよかったんだろうと思う。
だけど、僕はトリガーを引いた。
それは、きっと自分がそれを行った……という行為の証明だったんだ。
これは僕が僕の意思で、僕の責任で行った行為だという。
その瞬間、光が弾けて世界が真っ白になった。
飽和する世界。
何もかもが消失して、
僕の意識も一緒に消えていった。
その何たらフィールドっていうやつもさっきまでと違って、目でその存在を確認できるようになっている。青だか紫だか、そんな薄い半透明の幕のような感じに見える。
「フィールド、反転!」
だが幕はその言葉とともに文字通り反転した。
さっきまでの青系統の色が、真逆の赤、朱色系の色の幕に変わってしまったのだ。
「なんだよ、これ?」
迫る花瓶の攻撃を飛んで避けて……僕は異変に気がついた。
「レガシアムを上昇させるとこのフィールドも動く?」
「そう、このフィールドはレガシアムを中心に内側へ向けてフィールドを維持したまま形成されている」
つまりレガシアムが動けばそれにあわせてフィールドもレガシアムが中心にあるよう動くってことか。内側に向けて形成されているってのは?
「文字通り外からの作用にではなくて、フィールドの内側からの作用に対して威力を発揮するってことさ」
外側からの攻撃ではなくて、内側からの攻撃をシャットアウトするバリア。
「光、熱、衝撃、放射線、ありとあらゆる物理的作用を遮断するフィールドなんだよ? そしてあいつらに逃げ場はない!」
「だったら」
「周りを気にせずぶちかませる!」
いいかげん逃げ回るだけの戦いに飽きがきていたところなんだ。僕は一気にレガシアムを上昇させる。
フィールドに引かれて花瓶たちも一緒だ。
わかる。感じる! エネルギーの高まりを!
レガシアムを核に重力が、時間と空間が歪みはじめている!
「頂点に到達するよ。レガシアムを特異点としてマイクロブラックホールが生まれる!」
「連中もフィールドを張って抵抗しようとしている?」
「ムダだよ、超重力に耐えてもブラックホールの重力に押し潰されて地平面に拘束されて」
「そして?」
「ブラックホールの蒸発とともに発生するガンマ線バーストに、焼かれる!」
レガシアムは一気に高度二万mまでも上昇していた。機体を止めて近寄る花瓶を蹴り飛ばす!
これで終わりにしてやる!
躊躇はなかった。
超重力波、加速運動開始!
念じると共に加速を始める重力波が花瓶たちをおろし金にかけるように磨り潰していく。もうあいつらは逃げられない!
「消えてぇ、しまえぇぇぇ!!!」
多分、操縦桿のトリガーを引くことに意味はなかったはずだ。
いままでそうだったように、それは発動を念じるだけでよかったんだろうと思う。
だけど、僕はトリガーを引いた。
それは、きっと自分がそれを行った……という行為の証明だったんだ。
これは僕が僕の意思で、僕の責任で行った行為だという。
その瞬間、光が弾けて世界が真っ白になった。
飽和する世界。
何もかもが消失して、
僕の意識も一緒に消えていった。
次に目が覚めた時、そこはロボットの──レガシアムのコックピットではなく、みんなが覗き込む病院のベッドの上だった。
夢を見ていた。
その夢で僕は蝶になっていた。
ひらひらと飛ぶ蝶そのものだったんだ。
それはとても楽しくって、のびのびと野原を飛ぶ気持ちを楽しんだ。
僕は蝶になりきっていて、自分が自分であることさえわからなくなっていたけど、
目を覚ましてみれば、僕は僕以外の何者でもなくて、当然蝶じゃあない。
僕が夢で蝶になったのか、それともこれは蝶が見ている僕になっているの夢なのか?
それはきっと──
その夢で僕は蝶になっていた。
ひらひらと飛ぶ蝶そのものだったんだ。
それはとても楽しくって、のびのびと野原を飛ぶ気持ちを楽しんだ。
僕は蝶になりきっていて、自分が自分であることさえわからなくなっていたけど、
目を覚ましてみれば、僕は僕以外の何者でもなくて、当然蝶じゃあない。
僕が夢で蝶になったのか、それともこれは蝶が見ている僕になっているの夢なのか?
それはきっと──
目を覚ますといくらもしないうちに看護助手さんがもうすぐ朝食になりますよと知らせてくれた。
身体に異常はない。
運ばれてきたご飯をペロリとたいらげると、下膳に来た助手さんに美味しかったことを告げると「この病院は病院食にも気をつかっているのよ」と誇らしそうに笑っていた。
千歳は昨日言った通り昼前には来てくれた。
「昨日は良く眠れた?」
千歳がいなかったから心配で眠れなかったよと言うとツボにはまったのか大笑い。
退院の手続きをしてくるねという千歳に一緒に行くよと言うと、いいから荷物をまとめてロビーに降りておいてとやんわり断られてしまった。
まとめると言っても病院の売店で千歳がそろえてくれた洗顔セットくらいしかない。汚れ物は昨日持って帰ってくれたもんな。
後は……何もない。
TVの上にも何もない。
しばらくボーっと部屋の中で佇んでいると、千歳が戻ってきた。
「おにいちゃん? もう帰るよ?」
そうだな……そう言おうとして、やっぱりやめた。
「ごめん、千歳は先に帰っていてくれ」
洗顔セットを押し付けて僕は病室を出る。
「お、お兄ちゃんッ?!」
千歳の驚いた声が背中に飛んだけど、僕は振り返らなかった。
身体に異常はない。
運ばれてきたご飯をペロリとたいらげると、下膳に来た助手さんに美味しかったことを告げると「この病院は病院食にも気をつかっているのよ」と誇らしそうに笑っていた。
千歳は昨日言った通り昼前には来てくれた。
「昨日は良く眠れた?」
千歳がいなかったから心配で眠れなかったよと言うとツボにはまったのか大笑い。
退院の手続きをしてくるねという千歳に一緒に行くよと言うと、いいから荷物をまとめてロビーに降りておいてとやんわり断られてしまった。
まとめると言っても病院の売店で千歳がそろえてくれた洗顔セットくらいしかない。汚れ物は昨日持って帰ってくれたもんな。
後は……何もない。
TVの上にも何もない。
しばらくボーっと部屋の中で佇んでいると、千歳が戻ってきた。
「おにいちゃん? もう帰るよ?」
そうだな……そう言おうとして、やっぱりやめた。
「ごめん、千歳は先に帰っていてくれ」
洗顔セットを押し付けて僕は病室を出る。
「お、お兄ちゃんッ?!」
千歳の驚いた声が背中に飛んだけど、僕は振り返らなかった。
学校裏に緑地帯公園がある。災害時には避難所として機能する小高い丘の上にだ。
学校周辺は自衛軍によって封鎖されていた。
瓦礫が撤去された後で、すぐにでも封鎖は解かれるとすぐに教えてくれた。。
緑地帯公園も封鎖されていたけど、監視の兵隊はいなかった。忍び込むのは難しくともなんともない。
「夢じゃない。夢であるはずがない」
つぶやいて僕は振り返った。
「いるんだろう? 出てこいよ」
夏の日差しと心地よい風が肌の上を通り過ぎていく。
「他に誰もいないだろうからここに来たんだ。出てこいよ」
二度目の呼びかけ。
「意外と鋭いのかな?」
とぼけた声と一緒に出てきた黒猫を見て、僕はハァっと安堵のため息をついた。
「よかったよ」
「……なにが?」
精一杯憎らしそうな顔を作って、僕は言ってやる。
「こんな風に言えば出てくるかなと思ったからさ、いればね」
学校周辺は自衛軍によって封鎖されていた。
瓦礫が撤去された後で、すぐにでも封鎖は解かれるとすぐに教えてくれた。。
緑地帯公園も封鎖されていたけど、監視の兵隊はいなかった。忍び込むのは難しくともなんともない。
「夢じゃない。夢であるはずがない」
つぶやいて僕は振り返った。
「いるんだろう? 出てこいよ」
夏の日差しと心地よい風が肌の上を通り過ぎていく。
「他に誰もいないだろうからここに来たんだ。出てこいよ」
二度目の呼びかけ。
「意外と鋭いのかな?」
とぼけた声と一緒に出てきた黒猫を見て、僕はハァっと安堵のため息をついた。
「よかったよ」
「……なにが?」
精一杯憎らしそうな顔を作って、僕は言ってやる。
「こんな風に言えば出てくるかなと思ったからさ、いればね」
ネコもしまったって顔をするんだと僕は初めて知った。まぁこいつが特別なんだろうけど。
「もうちょっと様子を見てからでてくるべきだったかな」
「それも困る。誰もいないところで出て来い! とか言ってるのなんて恥ずかしいじゃないか」
黒猫はそうだねぇと笑う。つられて僕も笑い、二人してひとしきり笑った。
考えてみれば変な話だと思う。
ある日突然わけのわからない物体? 敵? が現れて、街が戦場になって、黒猫が喋り出して、僕がロボットに乗って戦った、だなんて。
「──ごめん」
笑うのをやめて黒猫が俯いて謝る。かわいそうなほどにしょぼくれて。
「どうして謝るのさ」
僕は自然に……ただ理由がわからなくって尋ねていた。
「なぜって」
黒猫が口ごもる。
「いきなり迎えに来たとか言ってさ、何の説明もしないでレガシアムに乗り込ませて、戦闘にまでつき合わせて……その、さ」
なんだ、と僕は思った。
なんだそんなことかと僕は思った。
「そんなことかとは何だよ!」
今度は怒った。笑ったり、しょぼくれたり、怒ったり忙しいやつだ。ネコみたいに表情がくるくる変わる。
「僕はネコだ!」
そうだったね。
僕は学校の方を見下ろした。
「夢じゃない。夢じゃなかったんだ」
黒猫がトコトコと歩いてきて僕の横に座る。
「壊れちゃったね」
でも、
「市民に死傷者は出ていない」
僕は黒猫を振り返った。
「お前が来てくれて、レガシアムに乗せてくれたから守れたんだ。街も、友達も、みんな──」
黒猫も僕を見上げる。
「お前が守ってくれた街なんだよ」
黒猫は「そっか」とだけ言って視線を学校に戻した。
それっきり黙りこんだ黒猫の脇に僕も腰を降ろして一緒に学校を見下ろす。
今はまだ夢の中の話のようだ。
だけど、崩れた校舎はこうして眼下に惨状を晒していて、黒猫はこの通りすぐ横に座っている。
まだ夢の中にいるんだろうか?
僕は夢であって欲しいと思っているのだろうか?
答えはNOだ。
あの時、レガシアムの中で戦っている時、僕も確かに感じていたのだから。
あんなにも怖かったのに、何だかとても“懐かしかった”んだ。
迫る巨大な花瓶のような“敵”も、その“敵”が放つビームの光状も、あんなにも怖かったのに──
だけどそれ以上に安心できていた。
ここがこの世のどこよりも安心できる場所だと僕は“知って”いた。
だから、
「現実と夢に絶対的な差異なんてないにしても、僕はあれを夢だなんて思いたくない。夢で終らせたくない」
その言葉は照れずに言うことが出来た。
きっと、僕もお前たちに会えて嬉しいんだと思う。
その言葉は言えなかった。
「……うん、うん!」
頷きながら、黒猫は泣いていた。その涙から目を離せなくて、口にするタイミングを失ったから。
「僕も、僕も嬉しかったんだよ。夢になんてしたくない!……やっと、やっと会えたんだから!」
それでもいいんだと思う。そう思ったから僕はずっと二人並んで風に身を任せていた。
それが、すべてのはじまり。
僕の世界が変わる、総てのはじまりだった。
「もうちょっと様子を見てからでてくるべきだったかな」
「それも困る。誰もいないところで出て来い! とか言ってるのなんて恥ずかしいじゃないか」
黒猫はそうだねぇと笑う。つられて僕も笑い、二人してひとしきり笑った。
考えてみれば変な話だと思う。
ある日突然わけのわからない物体? 敵? が現れて、街が戦場になって、黒猫が喋り出して、僕がロボットに乗って戦った、だなんて。
「──ごめん」
笑うのをやめて黒猫が俯いて謝る。かわいそうなほどにしょぼくれて。
「どうして謝るのさ」
僕は自然に……ただ理由がわからなくって尋ねていた。
「なぜって」
黒猫が口ごもる。
「いきなり迎えに来たとか言ってさ、何の説明もしないでレガシアムに乗り込ませて、戦闘にまでつき合わせて……その、さ」
なんだ、と僕は思った。
なんだそんなことかと僕は思った。
「そんなことかとは何だよ!」
今度は怒った。笑ったり、しょぼくれたり、怒ったり忙しいやつだ。ネコみたいに表情がくるくる変わる。
「僕はネコだ!」
そうだったね。
僕は学校の方を見下ろした。
「夢じゃない。夢じゃなかったんだ」
黒猫がトコトコと歩いてきて僕の横に座る。
「壊れちゃったね」
でも、
「市民に死傷者は出ていない」
僕は黒猫を振り返った。
「お前が来てくれて、レガシアムに乗せてくれたから守れたんだ。街も、友達も、みんな──」
黒猫も僕を見上げる。
「お前が守ってくれた街なんだよ」
黒猫は「そっか」とだけ言って視線を学校に戻した。
それっきり黙りこんだ黒猫の脇に僕も腰を降ろして一緒に学校を見下ろす。
今はまだ夢の中の話のようだ。
だけど、崩れた校舎はこうして眼下に惨状を晒していて、黒猫はこの通りすぐ横に座っている。
まだ夢の中にいるんだろうか?
僕は夢であって欲しいと思っているのだろうか?
答えはNOだ。
あの時、レガシアムの中で戦っている時、僕も確かに感じていたのだから。
あんなにも怖かったのに、何だかとても“懐かしかった”んだ。
迫る巨大な花瓶のような“敵”も、その“敵”が放つビームの光状も、あんなにも怖かったのに──
だけどそれ以上に安心できていた。
ここがこの世のどこよりも安心できる場所だと僕は“知って”いた。
だから、
「現実と夢に絶対的な差異なんてないにしても、僕はあれを夢だなんて思いたくない。夢で終らせたくない」
その言葉は照れずに言うことが出来た。
きっと、僕もお前たちに会えて嬉しいんだと思う。
その言葉は言えなかった。
「……うん、うん!」
頷きながら、黒猫は泣いていた。その涙から目を離せなくて、口にするタイミングを失ったから。
「僕も、僕も嬉しかったんだよ。夢になんてしたくない!……やっと、やっと会えたんだから!」
それでもいいんだと思う。そう思ったから僕はずっと二人並んで風に身を任せていた。
それが、すべてのはじまり。
僕の世界が変わる、総てのはじまりだった。
■次回予告■
夏季休暇を目前に誰も彼も忙しない学校
それは何の変哲もない当たり前の日常として始まって、
何の変哲もない一日として終る“はず”だった
何の変哲もない一日として終る“はず”だった
SARFの長官大和孝和はNOAの太平洋第七艦隊との共同作戦をもって
太平洋上に出現した新たなるE&Eを撃退しようとするが、その戦力差は余りにも広く、大きい
太平洋上に出現した新たなるE&Eを撃退しようとするが、その戦力差は余りにも広く、大きい
その戦いの様子を感知したユウは……
次回 アーティファクト・レガシアム
夏の扉
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