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創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

機甲闘神Gドラスター 第二話(前)

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
 場所は食堂、時は昼過ぎ。大の男が、至近距離で顔を突き合わせて睨めっこをしていた。
「壮馬よ、どーすんだ、おい」
 片や28歳。超動技研所長代理。天才らしくない天才科学者にして、Gドラスター開発者。
「待て。何故俺のせいみたいな目で見る、十字」
 片や32歳。百戦錬磨のエース。鍛え抜かれた肉体を持つ、Gドラスター搭乗者。
 あれから一ヶ月。
 幾度かエンドア出現の報があり、その度に出撃した。そしてその全てに勝利してきた。
 一度は苦しい戦いもあった。それでも勝ちを収めたのは、皆の努力と壮馬の実力によるものだろう。
 二人の喧嘩は続く。
 職員たちも、慣れたもの。今更大袈裟に慌てたりはしない。お互い胸倉を引っ掴んで、シャツに皺を作るまで発展しているが、平和なものだ。
 本日の喧嘩の理由。それは……、
「テメーがメインパイロットだろーが! 連れてこい!」
「スカウト失敗してる奴の言うセリフかっ!」
「成功してりゃぁ、こんなこと言わねぇよ!?」
 今日も今日とてパイロットは補充されず、状況の進展が無かったこと。

 マッチョサイエンティストは、壮馬の言葉も意に介さない。むしろ逆ギレしてくる始末。
 十字によってわざわざプリントアウトされた調査書類を、壮馬は頑丈なテーブルが軋む勢いで叩きつけた。
 そこにはパイロット候補のプロフィールと、人懐っこそうな雰囲気の顔写真が載っている。
 難波隆斗、21歳。中学高校と、多数の運動系クラブを兼部。助っ人として大活躍したが、結果として、公式に大した成績は残していない。
 現在は大学生活の傍ら、知人の居酒屋でアルバイト中。部活やサークル等には属していない。トラブル体質なのか、何かと荒事に巻き込まれることが多いものの、それを身一つで片付けたこともまた多い。
 この際経歴はどうでもいい。実力を計った上で、眼鏡に叶えば協力を要請する。
 いや、正確には既に叶っている。後は同意を得るだけだ。
 だけなのだが……。
「大体、いくら力試しだからって、馬鹿正直に力ずくで攻めて、あっさり返り討ちにあってりゃ世話ねえだろ! 警戒されてどーする、警戒されて!」
 大声上げて壮馬が反論するも、暖簾に腕押し糠に釘。大人げない逆ギレはなおも続く。
「悪かったな、骨のあるスカウト手配できなくて! つーか仕方ねえだろ、まず第一に、無駄に強い奴じゃなきゃいけねぇんだから!」
「何度も言わせるな! そう作ったのはお前だ!」
「ふははははは! 後の祭りって言葉を教えてやるわ!」
 かなり自棄っぱちな声の十字。
 どうやら、二進も三進もいかなくなって八つ当たり、ということらしい。これとは別の問題で、連日徹夜している影響もあるかもしれないが。
 相変わらずの十字に、壮馬は毒気を抜かれる。我ながら、毎度毎度馬鹿らしいことをする。
「っとにお前は……ま、いいや」
 席を立って、通路へ向かう。
「どこ行く、壮馬」
「灯台」
 振り向きもせず、手をブラブラさせて気のない返事。それだけで全て伝わった。
 十字も軽く返す。
「そんじゃ、何かテキトーに酒でも買ってきてくれ。豆か茶っ葉でも可」
「所内の自販機で済ませろ」
 あっさり断られた。
 壮馬の後ろ姿が見えなくなってから、とぼとぼと自販機に向かう。
 缶コーヒーを購入し、口をつけると顔をしかめて一言、
「……こんなお子様向けのもん、飲めるかよ」
 軽い不満を漏らしながら、一気に飲み干した。

 ビルの屋上で、町を見下ろす女がいた。
 眼下には、いつもと変わらず賑わう街並みがある。
 無地のタートルネックにノースリーブのジャケット、ホットパンツというカジュアルな装い。
 飾り気といえば、腰に設えられたチェーンのアクセくらいの素朴な服装ながら、それがかえって素材を引き立てている。
 町を歩けば、男女問わず高確率で目を引くだろう容姿も、一人きりでは無用の長物。
 本来は立ち入り禁止の殺風景なビルの屋上は、若く美しい女性に似つかわしい場所とは思えない。
 彼女の名は、セイナ。エンドア幹部の一人。
 しゃがみながら膝の上に頬杖をつき、短めの髪をビル風に揺らしながら、彼女はつまらなそうに呟いた。
「気楽なもの」
 行き交う人々のの表情は様々だ。
 笑う者、怒る者、泣く者、驚く者、怯える者、恥じる者、苦しむ者、あるいはそれらの混じり合った者。
 のんびり散歩をする者もいれば、時間に追われるビジネスマンもいる。学校帰りの若者たちや、世間話に興ずる老人もいる。
 いずれも共通しているのは、そこに確かな生があること。あるいは雑多な意思と言い換えても良いだろう。
 多少の騒乱こそあれ、依然として日常の維持が為されている。
「この地区の防備が固い証拠ね。でも、いずれはそんな余裕もなくなる」
 懐を探り、内ポケットから十枚ばかりの金属片を取り出す。
 幾何学模様の刻まれたカードを扇状に広げ、その中央に描かれた円を、セイナは一枚一枚指先でなぞっていく。
 走る光が順に模様を満たし、起動準備が完了した。
「ラインってば、遊び道具とか言ってたけど」
 さして興味もなさそうに、セイナはそれを一枚一枚無造作に投げ捨てていく。
 カードは音を立てて地面にぶつかるや激しい光を放った。
「な、何だ!?」
 誰かが叫んだ。
 光が晴れて現れたのは、カード一枚につき三体の鋼闘士。ゆっくり顔を上げ、周囲を見渡して状況の把握を開始しだす。
 身長は3メートル近く、巨人と言っても差し支えないだろう。
 その外観は至ってシンプル。金属質な光沢とのっぺりした顔立ち以外は、まるで裸体の男性のようだ。
 あえて言うならば、その名の通り、古代の闘技場で技を振るった闘士が近いだろうか。もしもこれが動かないのであれば、美術館こそが似つかわしい場所かもしれない。
 一切の重火器は搭載しておらず、装甲と馬力を駆使した徒手空拳での殲滅戦を任とする対人兵器。
 効率ではなく、心理効果に重きを置いた無機質の塊。
 一呼吸置いた後、鋼闘士は、その使命を遂行しようと足を踏み出す。

 石造りの地面に、亀裂が走った。

 身ぶり手振りを交え、若者は制服姿の少女に道案内をしていた。
「ああ、その店ね。あの角を曲がって、それからずっと真っ直ぐ。信号を越えたら、後は嫌でも目に入るよ」
 年の頃なら二十歳前後。量販店の安物ばかりで身を固めた、一見どこにでもいる普通の若者だ。
 一通りの説明を終え、人当たりの良さそうな青年は、少女に軽く確認を取る。
「これでわかった?」
「大丈夫です。ありがとうございました」
 少女は深々とお辞儀をした。丁寧な物腰が、育ちの良さを喚起させ、相手に好印象を与える。
 加えて、この少女は小柄だった。幼いのではない。単純に背丈が低く、どこか儚げだ。
 目の前の青年も、特別に目立つ体格をしているわけではないが、それでも並べば少女の小ささが強調される。
 こうなると、ムラムラした健全かつ邪な情欲を持て余すのが、若い男子というもので。
「いいのいいの。ところでさ、俺、難波隆斗っての。キミの名前は? なんなら案内ついでに買い物まで付き合うよ。ついでにお茶でもどうかな?」
「あはは。せっかくですけど遠慮します」
 満面の笑みで青年――隆斗が誘うが、悪意の欠片もなく簡単にかわされた。誘われ慣れているというよりも、冗談や社交辞令としか受け取らなかった感じだ。
 というより、受け取ってもらえなかったのが正解だろう。天然の人懐っこさというのも、ものによっては考え物だ。数え切れぬ敗北の歴史から、隆斗はそれが身に染みて解っている。
 無論、少女自身の無垢さと真面目さの影響も大いにあるだろう。愚鈍ではない。だが、客観的な己の評価に気付かぬかばりか、向けられる視線にも妙に鈍い。下手に拒絶されるより、よほど防備が固く手を出し難い相手だ。
 とはいえ、もともと隆斗は、物事気楽に楽しむ性質。結果は気にせず、少女に倣ってこちらも軽く流す。
「うあー、あっさりかー。残念だけど仕方な――」
 少し大袈裟なポーズで落胆を表してみようとした矢先、町の違和感に気付いた。
「何だ、アレ」
「? どうしました?」
 未だ何も気づかぬ少女が、雰囲気の変化だけを感じて小首を傾げる。
 今までと打って変わって険しい顔になった隆斗が、前方の一点を凝視していた。視線に釣られて、少女もそちらへ振り向く。
 数百メートル先、大通りの交差点あたりが酷く騒がしい。
 音は届かず子細もはっきりせぬまでも、大きなモノが暴れているのだけは、少女にも確認できた。
 そして“それ”は、確かにこちらへ迫ってくることも。
 騒乱は瞬く間に伝播する。危険の到来を察知した順に、蜘蛛の子を散らすように逃げだした。無数の個人はやがて人波となり、少しでも原因から遠ざかろうと川下へ向かう。
「な、何があったんでしょうか……」
 人波に呑まれながら、誰にとも知れず彼女は訊ねた。
 正体不明の脅威に不安なのだろう。震える小さな手に力を込めて、身近な人に精一杯縋っている。
「よくわかんないけどヤバそうだ。俺から離れない方がいい」
 少しでも安心させようと、隆斗は言った。
 余計なことは伝えない方が良いだろう。
 隆斗の目には、何が起こっているのかはっきりと映っていた。“それ”がどんなもので、“何を”飛び散らせていたのか。
 とにかく、今はここから離れるのが賢明だろう。隆斗一人ならともかく、片手に荷物を担いでいては、安全な場所まで逃げる他にできることはない。
 ふと、怖気が背中を走った。
「危ない!」
 少女を庇ったと同時に、ビル壁を突き破り、巨人が破壊をもたらしにやってきた。

「悪趣味……」
 相変わらずビルの屋上で、セイナは呟く。
 遊び道具などというから何かと思えば、何のことはない、乱暴に生命を奪うだけのシロモノだった。
 鋼闘士の武器は、己のボディのみ。そしてそのサイズ。殺戮一つとっても、自然と凄惨になる。
 頭だけを砕く、強引に身体を引き千切る、内臓を破裂させてのたうち回らせる等々……。即死できればマシなほうだ。パワーの問題ではなく、中途半端な大きさ故に、一撃で殺しきれないことも多い。
 こういう無駄に生理的嫌悪を煽るやり方は、セイナの趣味ではない。同じ生命を奪うにしても、他にやりようはあるはずだ。
 人の生命など、ナイフ一振り銃弾一つで散らせるし、逆にもっと大雑把な手段で、原型を留めぬほどひと思いに壊す方法だってある。
 効率的でもなければ、見てて面白いものでもない。こんなことに一体何の意味がある。
 どうせ面倒臭がったラインに、体よく鋼闘士の性能実験を押し付けられたに決まってる。後でどんな目にあわせてやろうか。
 セイナが内心毒づいた時、
「ん?」
 妙な動きを見た。
 広がるはずの侵攻が乱されている。正確には、流れを断ち切る動きがある。
 いくつもの建物が陰を作り、具体的には判らない。ただいたずらに弱者をなぶるものよりは、面白い見世物にありつけそうだ。
「百聞は一見に如かず……だっけ」
 セイナは跳ねる。次々と建物の屋根を飛び移り、彼女は詳細を確認しに行った。
 そして現場近くのビルの屋上に降り立ち、原因を知る。
「へぇ、凄い」
 セイナは感嘆の声を上げた。
 その正体は、たった一つの人影。見る見るうちに、鋼闘士を蹴散らしていく。
 思いがけない展開を発見し、女の顔が、小さく愉悦に歪む。


「下暗し、とはいうものの。まさか他人様のお先を真っ暗にする連中と出くわすとはな」
 研究所からさして遠くもない中規模の都市。
 たまには一肌脱いでもいいだろうと、イマイチ頼りない成果のスカウトに代わって、少々骨を折ろうかと思った矢先にこの始末。
 突然の凶行を事前に止める術はないだろう。壮馬がこの場に遭遇したことは、町の人々にとって不幸中の幸いとなるだろう。
 だがそれでも、憤りを感じざるを得ない。事前に何かができたわけでもない。無力な人々が犠牲になったのは、紛れもない事実だ。
 悠長に弔っている暇さえもない。今の自分にできることは、仇討ちのみ。
 行く手を阻むように、壮馬は鋼闘士の一団の前に姿を晒した。
 大通りのそこかしこに転がる肉塊を視界の隅に捉え、小さく歯軋りする。
「ホントに悪趣味もいいとこだ。冗談じゃねぇぞ、胸糞悪ぃ」
 怒りを隠そうともせず、啖呵を切った。
 各所が血に塗れた多数の鋼の像。この惨劇が、無表情の不埒モノ連中の仕業なのは、疑う余地もない。
 そうしている間に、鋼闘士の一体が襲ってきた。
 岩をも砕く右の打ち下ろしを、片手で軽く手首を掴んで止めた。
 そのまま握り潰した後、すかさず肘から先を捩じ切り、殴り倒して機能停止。
 残った鋼闘士たちは混乱する。
 見たところ武装の一つもしていない生身の人間が、鋼の巨体を力技で撃破した。通常あり得ることではない。
 だが理由を追及している暇はない。重要なのは、仲間が容易く破壊された事実。一体で挑めば、同じ結果になる。障害を手強しと判断した鋼闘士は、複数で同時に攻めることを決定した。
 右、左、正面からそれぞれ一体の計三体。
 壮馬は姿勢を低くし、相手の勢いを利用して、まずは正面の一体を足払いで転ばせる。転倒する方向を調整し、左側の一体を巻き込ませて動きを封じた。
 さらに先程破壊した残骸の足首を掴む。そのまま振り回し、右側からの一体へ向けてぶん投げた。二つの巨体がぶつかるや、もろとも水切り石の如く跳ね、道の端までいってようやく停止した。
 鋼闘士が起き上がる間もなく跳躍し、追い打ちをかける。次の瞬間には、既に倒れた鋼闘士の真上。頭部を蹴り潰し、ついでにその勢いのまま、もう片足で胴体にも風穴を開けてやると、二体目も機能を停止した。
 バチバチと、火花の音だけが、今の今までこの機械たちが生きていたことを証明していた。
 傍に設置された看板には、こう書かれている。
『ゴミ集積所』
 二体分のスクラップを足元に、壮馬はゆらりと上体を起こし、鋼闘士たちに向き直った。同じころ、転ばせた鋼闘士も立ち上がってくる。
 とりあえず目の前のザコは、残りざっと十体。
「明日は資源ゴミの日か。丁度いい。クズ鉄にしてやるから、ちっとは世の中に役立てよ」
 拳を握りしめ、壮馬は言い放った。

 別の鋼闘士のグループに、隆斗たちは追われていた。
 少女を抱きかかえて逃げ回る隆斗の目が、人ごみの中に知った顔があるのを確認した。
「親父サン!」
 声を上げて隆斗は駆け寄り、バイト先の主人である中年の男に並走する。
 横に見知った顔が出現し、居酒屋の主人はダンディな髭面を緩ませた。
「おぉ隆斗、無事だったか」
「挨拶はいいから、この娘お願い」
 大物なのかただのマイペースなのか、意外と呑気なトーンの声を上げる親父を制して、抱えた少女を手渡す。
「え? あ、あの……え?」
 わけもわからず、少女はされるがまま、隆斗から親父の腕の中に移動させられる。
「何だそりゃ。お前はどうするんだ?」
 少女を降ろしながら、親父が問う。律儀に受け取りはしたものの、親父に人一人を抱えて走る体力はなかった為、結局一緒に走ることにした。
 体力的な問題ならば仕方ない。隆斗が抱えているよりも速度は遅くなったが、今はこれでいいだろう。
「あの妙な連中を食い止めます」
「はァ!?」
 その提案に、少女でさえ素っ頓狂な驚きの声を上げる。
 知り合いである親父も、少女に同意するように、呆れ顔を隠しもしない。
「バカ言うな。いくらお前だって――」
「俺の腕っ節は知ってるでしょ? 少なくとも、注意を引きつけだけはしますんで、早く逃げて」
「隆斗さんが早まらないでくださいよ」
 少女こそ必死に止めるが、
「――……わかった。とにかく気をつけろよ」
「ちょっ!?」
 心情を察したのか、はたまた説得は無駄と判断したのか、単に雰囲気に流されただけか、親父は神妙な顔で送り出す。戸惑うのは、少女ばかり。
「なァに、無茶はしませんよ」
 笑顔で親父にガッツポーズ。自分にとっては、危険などさらさら無いとアピールした。
「大丈夫だって。そんな顔しないの」
 続いて、心配そうに見てくる少女の頭を撫でる。
 少女の背を軽く叩いて、逃走を促す。
 親父に手を引かれ、多くの人たちとともに、その姿は小さくなっていった。
 あとは、言いだしっぺの自分が、約束を果たすのみ。
「と、カッコつけてみたものの……」
 余裕を演出しているうちに、すっかり取り囲まれてしまった。
 足止めについては早速成功したものの、同時に早速大ピンチとなった。
 十体近い3メートルの巨人の包囲網。正直な話、尋常ではない威圧感がある。
 腕っ節に自信があるのは嘘ではない。他と比べて、規格外だという自覚だってある。
 馬鹿なことを続けても無事でいられたのは、この生まれ持った身体によるものだという自負もある。
 お節介な性格が災いし、余計なことに首を突っ込んで……突っ込み過ぎて、時にはそのスジの人と事を構えることさえもあった。
 それでも反省しないから、波の立たない生活は遠ざからない。ここ暫くに至っては、とんと心当たりのない連中に、何故だか絡まれたりもしていた。
 無論、時には多少痛い目を見たことくらいはあった。だがへこたれるほどでもない。楽観的な性格で、すぐに記憶は上塗りされる程度だった。
 だが今回ばかりはどうだろう。さすがにこういう経験は初めてだ。
 どう対処すべきか混乱し、頭の中がぐるぐる回る。
 巨人は待ってなどくれない。隙あらば躊躇なく殺しにかかってくる。大きく拳を振りかぶり――
 風切り音が隆斗の鼻先を掠め、鉄塊が足元を砕いた。
 咄嗟に一歩後退ったことで、辛うじて無傷ではいられたものの、
「やっぱ……早まったかなァ……」
 これで危機が去ったわけではない。むしろこれからが本番だ。
 カッコつけが招いた災い。自業自得とはいえ、さっそく後悔しかけていた。
 それでも後戻りはできない。過ぎたことを嘆いても仕方が無い。
 顔は青ざめ、少し泣きそうになりながら、隆斗はひたすら避けることに神経を集中しはじめた。


「驚いた。あんなのもいるのね」
 手下がどんどん倒されていっているというのに、見物に勤しむセイナは、どこか楽しげだった。
 念のため手の空いている鋼闘士に信号を送り呼び寄せてみたが、思った通り、まるで数が利にならない。このまま程なく全滅させられそうな勢いだ。
 それもそのはず。サイズ差と徒手空拳という条件上、どうしても同時に攻められる数は限られる。
 となると、最初の段階で仕留められないならば、スタミナ勝負に持ち込むしかないのだが、一体一体撃破される速度を考えても、烏合の衆にそれを期待するのは酷だろう。
 結果は見えた。
 セイナは立ち上がり、次に向けて身支度を開始する。
「それじゃ――」
 腰のチェーンに手をかけ、トップについている飾りを掌中に収める。柄に薔薇をあしらった剣と絡みついた棘のシンボル。
 眼前にかざすと、起動を開始した。

 ガシャンと音を立てて、ゴミ捨て場にあるスクラップの山が、また一段と高くなった。
「フンッ」
 一仕事終え、壮馬は埃を払うように掌を叩く。
 あの後、異常事態を察し援軍に現れた鋼闘士も含め、今全て片付け終わった。鋼闘士、都合二十一体分お掃除完了。
 うず高く積み重なったスクラップも、ここまでくればなかなか壮観だ。明日の仕事に滞りが無いよう、事前に業者に手を回しておくのが親切かもしれない。
「さて……と」
 手頃な鋼闘士に寄って、亀裂をこじ開ける。
 注意して内部を観察し、当たりをつけてパーツを一つ引き抜いた。
 拳を開いてみれば、スティック状の記録媒体がある。
「エンドアの連中か」
 マリオネットにも同様の部品が確認されている。
 頑丈なだけで、ろくに容量もとられていない無駄なパーツだ。解析すれば、エンドアの名前だけが出てくるだろう。
 要するに、これが奴らの宣戦布告代わりというわけだ。
 まずは無言で大暴れし、食い止めて初めて名前がわかる。そのくせ、目的は一向に明かさない。戦争にしてもケンカにしても、まるで礼儀がなっていない。
 相変わらず根性が捻くれている。こんな発想が出来るということは、その気になればまともにコミュニケーションもとれるだろうに。
 意思の疎通が出来ぬ化物や、和解の余地のない生存競争のほうが、精神衛生上よほどマシな相手だ。
 壮馬はメモリを握り潰した。
 ほぼ同時に、
「!」
 鋼闘士の身元に確証を得るのを待っていたかのように、何かが壮馬の頭上に飛来してきた。
 壮馬が飛び退くと、空を切ったそれはアスファルトを砕いて着地する。
 轟音が響き、鋼闘士が作るよりも大きなクレーターが一つ作られた。
「チッ、次から次へと。遠慮なしかよ」
 迫る破片の流れ弾を受け止める。
 埃でできた薄いブラインドの向こうには、スラリと立つ黒い人影。
 人型であれど巨人ではなく、むしろ無駄の省かれ均整のとれた細身の肢体の――女。
 全身を覆う黒ずくめのボディスーツと、各所に装甲を配した、超科学の産物による強化スーツ。
 一見重装備のようだが、身体の線を強調する奇妙な艶めかしさがあった。
 表情を窺い知ることはできない。ヘッドパーツに付属するマスクによって、額から顎まで、一分の隙もなく覆われている。
 これがエンドア幹部が一、セイナの戦闘形態。
 セイナは壮馬に顔を向け、抑揚を抑えた声で語る。
「邪魔者は排除する」
「悪いね、女の子の頼みとあっちゃあ聞いてやりたいとこだけど」
 不敵な笑みを浮かべ、壮馬は腕を構えた。
「やれるもんならやってみな、お嬢さん!」
 拳と拳が激突する。

 セイナの連打をいなしながら、壮馬は機会を図る。
 単身挑んできただけあって、鋼闘士よりも遥かに強い。ガードするたびに、腕が痺れる。攻撃の速度も重さも、防御力や技量も段違いで、一筋縄でいく相手ではない。
 壮馬とセイナの格闘は続く。
 大気を震わせる乱打戦。踏み込みで舗装は砕かれ、余波でビルのガラスが微細に揺れる。
 常人ならば、掠っただけで命取りになりかねない程の暴力が、二人の間で巻き起こる。
 そしてそれは、今現在殴り合いをしている二人にとっても同じこと。ただでさえ人間離れした応酬だ。少しのミスが、即大事故に繋がることだろう。
 いやむしろ、防具を身に付けていない壮馬の方が、条件的には不利かもしれない。
(だが、甘い)
 壮馬はセイナの腕を取り、投げ飛ばす。
 セイナは空中で姿勢を制御し、着地。間髪入れず、再び迫ってくる。
 それに合わせて、
「戦いってのは」
「!?」
「突っ込むだけが能じゃないぜ」
 カウンターが、セイナの顔面に叩き込まれた。
 たとえ顔を隠し声を抑えようと、感情が挙動に宿っている。
 対峙する女戦士は、実力はあっても未熟が勝ちすぎる。これでは拮抗した際に頼れるモノがない。
 いかに流れるような華麗な動きだろうと、いかに尋常ではない殺傷力の打撃が振るわれようと、素直すぎる流れはかえって読みやすい。
 感情を込めることが悪いのではない。表面を取り繕っているだけで、まるでコントロールできていないというのが問題だ。
 その証拠に、依然セイナは一撃もクリーンヒットはしていないが、壮馬はその逆。時間経過とともに、徐々に命中率は上がっている。決定打こそ入っていないが、明暗は分かれつつある。
 攻めあぐねたセイナが、僅かに大振りになった。隙を見逃さず、右ストレートを躱すと同時に、空振りした腕を跳ね上げた。
 それだけでいい。たったそれだけのことで、ギアを外され空回りを起こす。辛うじて保たれていた均衡が、一気に瓦解し始める。
 力量はほぼ把握した。油断ならず、容易く押し切れる相手でもなかったが、正面切っての戦いならば、十中八九負けはない。
(とはいえ、やっぱやり難いなぁ)
 最小限の動きで攻撃を受け流しながら、壮馬は困惑する。
 敵とはいえ、女を殴るのは、男としてあまり気持ちがいいものではない。叶うならば、物事はやはり穏便に済ませたいものだ。
 そんな壮馬の内心など露知らず、セイナは焦りを覚えていた。
 今までにも増した速度でラッシュを繰り出すが、狂わされたペースは、そう簡単には戻らない。
 否、今のセイナに戻すことはできない。若干ながら、無自覚なパニックを起こしている。むしろ余計な隙を生み出すだけ。
 このような場合、冷静さを貫いた者が勝つものだ。
 がむしゃらな攻めは、誘いに乗りやすく、そして読みやすい。悉くを捌ききってから、今度は壮馬が攻めに転ずる。
(だが、まあ――)
 結局の所、敵ならば容赦する理由はない。もしも情けをかけるとするならば、一通りしばき倒した後だ。
 壮馬の攻めは、さらに鋭さを増す。右拳、左拳、続いてさらに右と見せかけてガードを誘い、蹴りを決める。
 硬軟織り交ぜた体術を駆使して、体力を削っていく。
 両者間が空いた時、セイナは一か八かの賭けに出た。拳で弾幕を作り、力技で強引に情勢をひっくり返そうとするが、それも誘い。壮馬は的確に猛攻を掻い潜って、懐へ飛び込んだ。
 いかな暴風雨も、台風の目に入ってしまえば、どうということはない。
 時が止まったかのような一瞬の中、女の全身に戦慄が走る。
 渾身の一撃が、胸部装甲に目がけて見舞われた。


 鉄塊よりも凶悪な拳が、空を裂く速度で叩き込まれる。
 咄嗟に腕を組んで受けるセイナ。あわや無防備という際どいタイミングで、ギリギリ直撃を避ける。
「くっ!」
 彼女は思わず呻き声を漏らす。
 みしりと骨の軋む音、そして激しい衝撃が、セイナの全身を駆け巡った。
 辛うじてガードし、両足で踏ん張ったものの、それでも身体ごと飛ばされ、軽く十メートルは地を滑らされた。
「うぅ……っ!」
 障害物に背中を打ちつけて、ようやく勢いは止まった。息が詰まる。
 背後にはビルの外壁。手形ならぬ背形が、記念碑の如く刻まれた。代わりに手形が刻まれたのは、己の左腕。装甲も破損し、暫くは使い物になりそうにない。
 身体を起こしてひき剥がすと、パラパラと破片が落ちる。
 気が萎えたわけではない。ダメージは大きいが、まだ続行可能なはずだ。
「――っ!?」
 だが力が入らず、思わず崩れかけた。完全に膝が笑っている。
(本当に人間?)
 実際に拳を交えてみると、疑問を通り越し、いっそ呆れてくる。
 興味本位で見知らぬ相手にケンカを売ったら、えらく痛い目を見た。
 単純な戦闘能力にそう大きな差はない様子だが、なぜこうも差が出るのか。経験値か、センスか、あるいはもっと別のものか。表面的な数字だけでは計れない何かがある。
 いや、強化スーツも無しに、スペックが互角ということ自体が、そもそもおかしな話ではあるのだが。
 殴りつけた男が、当然の結果といわんばかりに、余裕綽々で構えているのがなお忌々しい。
 だとしても、不利は否めない。その事実は認めざるを得ないらしい。もう少しこの非常識な男の情報を集めたいところだが、致し方なかろう。
 意地を張ってても、己の無事には代えられない。強硬手段に移る。
「どうする。まだやるかい?」
 勝利を確信した壮馬が、降伏を勧告してくる。
 悔しいが、この男の言うとおり、肉弾戦では勝ち目が無いらしい。
 そう。肉弾戦では。
 まだ戦いは終わっていない。
 壮馬の言葉を無視して、セイナは腰の後ろのホルダーから、鋼闘士の時とは別タイプの金属製のカードを取り出した。指先で空へ向けて投げる。
 第二ラウンド、開始。
「――出なさい、プレネガス」
「プレネガス?」
 セイナの呼びかけに応え、カードは弾けて消えた。
 エンドアの扱う金属カードは、一種の転送装置。セイナの背後で、天空と大地に眩い梯子がかかる。
 光が消えた時、ビルと並んでも遜色が無いレベルの巨人が、日中の大通りに出現していた。
「なるほどね。マリオネットか」
 さすがの壮馬も苦笑い。いくらなんでも、丸腰はキツそうだ。
 今度のタイプは、陸戦に主眼を置いたモノらしい。胸、肩、腕とゴリラのように立派な上半身と、巨木のように安定感のある足腰。それがそのまま、50メートル程度のサイズまで拡大されている。
 攻防兼用の装備として、両腕部には巨大な盾がある。肘より先に装着されているが、拳から肩まで広くカバーしている。
 真っ黒いボディは、見上げると巨躯に見合った相当な迫力。もしも慣れない者がこの場にいたならば、その姿だけで居竦まること請け合いだった。
 つい、とセイナは顎で目の前の男を指す。同時に、巨体が動き出した。
 その黒いプレネガスは、足元の“小さい”男を見据えながら、腕を持ち上げた。
「お、おいおい……マジかよ」
「マジ」
 即座に肯定。フェアでないなどとの妄言に付き合う謂れはない。命乞いする時間を与えるつもりもない。
 躊躇なく、巨拳は叩き込まれる。

 周囲に爆音が響き渡った。
 大気の震えが収まれば、そこには見るも無残に砕け散った瓦礫と、本日一番のクレーターだけがあった。いかに怪物じみていようと、人間など跡形もないだろう。
 遊び心など出さず、最初からこうしていれば良かったのだ。
 しかし少々勿体ないという思いもある。終始余裕ぶって癇に障ったが、興味深い素材だったのは事実。
 あまり気持ちのいいものではないが、後で死体のサンプル回収くらいしておこうか。肉片の一つくらいは残っているだろう。
 そう考えた矢先、
「冗談キツいぜ。こんなん真面目にやってられるかい」
「!?」
 声のした方に目をやれば、イタズラ小僧のようにセイナに向けて舌を出す壮馬がいた。
 どこにいるかと思えば、プレネガスの腕をよじ登っている。あの一瞬で取りついて、被害を免れたらしい。
 プレネガスが叩き落そうとしても、なかなか上手く命中しない。曲芸を演ずるように避けられる。
「チョコマカと……!」
 歯ぎしりをするようにセイナが呟いた。
 所詮は虫けらのようなもの、一発当たれば終わり。それは確かだ。
 だが虫けらを一発で仕留めるのは意外と難しい。ああも密着されては、単純火力はあまり役に立たない。逆に、下手を打てば、自爆して破損する恐れもある。
 そういった意味で、あの男にとっては、むしろ地を這いずり回るよりも、安全地帯になっている。
 そうこうしているうちに、随分と高い所まで登られてしまった。
「ったく、人一人相手に乱暴すぎるぜ。そっちがそうくるなら、こっちも本番だ」
 肩まで到着。
 プレネガスの手を掻い潜りながら頭部を蹴って、ビルの屋上――の、フェンスの上に飛び移る。
 これで壮馬の視線の高さは、プレネガスと同じになった。
 セイナは息を呑む。そんなことで大きさのハンデが克服されたわけではない。なのにこの自信は何だ。
「貴方、何者?」
 今更ながら、彼女は問う。
「つれないこと言うなって。何度かやり合ってるはずだろ」
「?」
「ほぅら来た」
 男の親指で“そちら”が指された。

「あれは――!」
 壮馬の示した先。大通りから見える開けた空。その彼方に二つの光点があった。
 猛スピードで迫るそれは、程なくカタチとして視認できるようになる。
 鳥や翼竜と見紛う複雑なディテールを持った、二機の大型戦闘機。
 セイナには見覚えがあった。
 ラインも、リオルフも、そして自分も、大なり小なり苦汁を舐めさせられた憎き宿敵。

 前を往く一機に向かって壮馬は叫ぶ。
 我が物顔で大空を舞う怪鳥、その名は――、
「ドラストクラウン!」

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