創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

あるツッコミ体質の男の受難

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匿名ユーザー

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 ノンポリを自任する男が突然こんなことを言うのもなんだが、俺は民主主義というやつは素晴らしいと思っている。
そしてそれを支える思想・信条の自由というやつは常に最大限尊重されなければならないと思っている。
だがしかし、これだけは言わせてもらう、
ここがロボット物SS総合スレ、ロボットとか大好きな人間が集う場所だってのはぃよーくわかってるが、
もし億が一これから話す俺の体験を羨ましいとか思う奴がいやがったら、もれなく男性器がもげろ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 話の最初でクイズ出すみたいで悪いが、さて、人は、
「特に何てことない普通の道を歩いてたら
 誰も乗っていないのに走ってきた車が自分の脇で止まって「○○(←各自自分の名前を当てはめよ)さんですね!?」と言ってくる」
という男児向けアニメ内でしかあり得ない出来事に現実において遭遇したらどう答えるものなのか。

「ああ、そうだ。それで俺に何の用だ?」か?
「人に名前を尋ねるときは自分から名乗るのが礼儀ってものだろうが」か?
「く、車がしゃべった!?」か?
 取り合えず上の三つみたいな回答をした奴は精神年齢が男児向けアニメの対象年齢にふさわし過ぎだ。

 少なくとも俺のケースで言うと正解は「はあどうも……」だ。ビバ世界有数の潰しがきくジャパニーズ単語「どうも」。
なんかいきなり目の前にデデンとやってきた非日常に対する咄嗟の反応なんざそんなもんだ。

「突然のことで申し訳ありませんが田中さん、とにかく私に乗って下さい! 事情は走りながら説明します!」
「へ? あ、はあ。え?」
 人間てスゴいよね。
この状況下で「何なんだ、こいつは!? 誰がどうやってこんな物作ったんだ!?」とかじゃなくて
「手の込んだ誘拐か? でもこんなこと出来るような技術がある奴が俺なんか誘拐する必要なんて無いよな……」とか考えてるんだから。
「すみませんが時間が無いんです! 早くして下さい!」
「いやはいうーんと、あのえーっと」
 落ち着け、落ち着くんだ田中和明(18歳男性、大学生)よ。
何かとんでもなく重大な決断を迫られてる感があるが、
わけがわからないまま行動を決定してしまっては、あとあと取り返しのつかないことになるかも知れない(既になってる気もするが)。
とにかく、自分の持っている情報から事態を少しでも多く現在の状況について把握してどうするか決めなくてはならない。
全知全能の存在ではない人類は、そうやって生きてきた、と思うたぶん。

 えーと、まず俺が持ってる情報だ。情報情報、何かないか、何かないか……
そうだ、チラシによると今日はトミヤスで卵10個入パック1個88円で売ってる。
それに対し、ヤオマサでは12個入パック1個112円となっている。
つまり1個当たり8.8円VS9.333……(循環小数)円の熾烈とは言えない戦いなのであり、
これは一見したところトミヤスが1ラウンドKО勝利をおさめているように思える。
だがそこでこの勝負に決着がついたと考えるのは事情に疎いトーシロのやることで、
トミヤス側の煽情的な値段表記の脇に一回り小さくしかししっかりと記載されている「お1人さま1パック限り」の文字と、
ヤオマサ側にはそういった記載が無く、さらにヤオマサは割と流されやすい性格の店主による個人経営の店だ、
という三つの点に最大限の注意を払う者こそが戦場では生き残れる。
すなわち、ヤオマサでは「12個入パック2個買うからなんかつけてよ」と言えば
それが通る可能性が俺自身がした経験及び俺が目にしてきた光景からして十分ある
   (今年高校受験のみっちゃんが店主になれば、そんなことも出来なくなるんだろうが。
    それでもみっちゃんの才覚なら十二分にトミヤスに対抗出来ると思うんだけど、
    おっちゃんの言によると本人に店を継ぐ気は無いらしい。惜しいものだ。
    あ、みっちゃん、あんた確かにかわいいし胸も結構ある方だと思うけど、
    「大学在籍時に恋から(恋のから元気)に出て話題性作って女子アナになる」って言ってるらしいのはどうか。
    トークとイジりのせいでつい見誤っちゃうけど、あの番組の女性陣、実はレベル高い人多いよ。
    まあ君のことだからおっちゃんに「言ってるだけ」だとは思うけど、
    あんたくらいの外見偏差値だと、割とまじめに冗談に聞こえなかったりすることもあるわけ。
    君目当てでヤオマサ通ってる奴を俺も直接だけでも2人知ってるし、
    ヤオマサに来るオバサ……大人の魅力成分過多なお姉さま方の話によると学校でも男女問わず人気あるそうだし、
    ってカッコの中長過ぎだな)。
この際の「なんか」の選択によっては、1個当たり0.5333・・・(循環小数)円の違いなど容易に覆り得る。
つまり、裏を知る者であれば、実はヤオマサで買った方が得することが可能だ。 
 だが、しかし俺は――― 決断し、力強く宣言する。

「ああ、トミヤスで買う」
 一人暮らしでは卵の消費速度など高が知れている、腐らせたら損は確定だからな―――!
「何言ってるんですか!? とにかく早く乗って下さい!
 いいですか、よく考えてみて下さい、田中さんの知人関係者の方に私みたいなものを作れる人がいますか、いないでしょう!?
 それなのに私はあなたの名前を知ってるんですよ!?」

 そりゃ乗るよね。

 ドアを閉めてシートベルトを引き出してるうちに、この人間心理にやたら通じている軽自動車は走り出した。
「で……、早速だけど、事情ってヤツを聞かせてほしいんだけど……」
「ええ、お話します。実は今、地球は危機に瀕しているんです。
 どこから来たのか、一体何なのかすらわかっていないのですが、まあ、“怪人”と呼びます、そんなカッコですから。
 とにかく、その怪人が数々の悪事を働いているのです。そこで、怪人達と戦うべく、私が作られたのです」
 なんかこれでもかというくらい男児向けアニメのテンプレだな。
まあこいつが乗用車として売るために作られたんじゃないってのはすぐわかる
  (もし乗用車として売るつもりだったら、喋ったり脅迫したりする機能付けるより先にすることがあるはずだ―――
   例えばオートマにしたりするとかくるくる回さなくても窓が開くようにしたりするとか)
から、ある意味予想しやすい理由ではあるんだけど。

「どうしてアンタが作られたのかはわかったけど(わかっただけで、納得は一つもしてない)、俺を乗せたのはどうしてさ?」
「私を作った中原山博士は考えました。
 ただ強大な力を作りだしてそれを振るうだけなら、あの怪人どもと変わらない、それでは平和を守ることは出来ない、と。
 それゆえ、私は一人では戦えないように作られました。
 私が戦うためには、平和のために正しく力を使い、律せる人の助けが必要なのです。
 博士と私は、それにふさわしい、勇気と愛に溢れ、苦痛や困難に負けぬ強い精神力を持った人を探していました。
 しかし、来る日も来る日も探し続けても、私達の求めるだけの人はなかなかいません。
 それでも私達はあきらめず探し続け、そして遂に! 妥協しました」
「妥協言うな! くっそムカつくわ!」
「あれ、今の話でムカつくってことは、ちゃんと自分を認めて選ばれたかったってことですか?
 ひょっとして田中さん、嫌そうにしてはいるけど実は私と一緒に戦いたいんですか?
 いいですよ、そういうことなら、私は田中さんのことをパートナーとして認めてあg」
「あー、俺そんなに機械とかコンピューターとかに詳しいわけじゃないから、
 ちょっと俺の考えがあってるかどうか聞いてもらいたいんだけど、
 仮に何か機械が防水になってたとしても、どっかパネルとか引っぺがして小便でも流しこみゃ壊れるよな?」
「田中さん、お願いします。
 地球を守るために、あなたのような正義の心に燃える、
 町を歩いたら女性の視線独り占め間違い無しのイケメンの方のお力が必要なんです」
 ふん……、最初から素直にそう言えばいいんだ。そういうことなら仕方ない、協力してやろう。
地球を守るためだからな、けしてあんな見え透いたお世辞につられたからじゃない。
あんな俺が正義の心に燃えてるなんてお世辞につられたからじゃないんだ、それ以外は誇張の無い事実みたいだし。

「まあそれなら協力するけど……。でも俺、戦いとかの技術なんて全く持ってないぜ?」
「それは心配なさらなくても大丈夫です。
 具体的にやること自体は、専門的な技術や知識はいらないそれほど難しくはないことですから。
 そういうことより、強大な敵にぶつかっても怯まない勇気とか、相手が改心したら許してやる優しさとかの方が重要なんです」
「うーん、納得出来るような出来ないような。
 でもさっきからずっと、俺はハンドルにもペダルにも触らずにただ座ってるだけなのにアンタはちゃんと進んでる、
 つまりアンタは自分自身で走ってるわけだし、それって色々と自動化されてるってことだろうから、
 アンタの言う通り、俺自身には難しいことは出来なくてもいいんだろうな」
「そうです。ご安心頂けましたか?」
「でもなあ、やっぱりなあ、そう言われたってこんな急じゃ心の準備がなあ。少しゆっくり行ってくんない?」
「田中さん!」
 中古軽自動車は凛とした声で言った。
機械に凛とした声も何もあったもんじゃないのかも知れないけど、
少なくとも俺にはそういうきっぱりした意志や力強さが感じられる声だった。
「私達は、一秒一瞬でも早く、敵を倒さなければならないんです!」

 そうだ。その通りだ。俺は何を馬鹿なことを言ったんだ。
 出会ったときからコイツがあんなに急かしてたってことは、
今こうしてる間にも、その怪人のために危険に晒されてる人達がいるってことだろう。
俺達が着くのが遅かったせいで、もし早く着いていれば死ななかったはずの人が死んでしまったとしたら、取り返しなんか付かない。
コイツの言う通り、俺達は一秒一瞬でも早く行かなければならないんだ
(まあ、口達者とはいえ50km/hでなんか不安を掻き立てる音とか振動とかしてるような中古軽自動車と、
 辞書の標準的という語の参考例にしたいような大学生のコンビである俺達がそんなところに行くのは、
 火事の現場に水鉄砲持って駆け付けるのと同じようなことの気もひしひしするが、行くってことが重要なんだろう……たぶん。
 最悪、勝てなくても注意を引き付けて周りの人の避難の時間を稼ぐくらいなら出来るだろうし……
 そう思わなきゃやってらんないしなー)。

「ああ、俺が間違ってた! 急げ、急いでくれ!」
「ええそうです! 急がないと警察とか自衛隊とかに倒されちゃって私達の出番が無くなりますし!」
「人類の力が及ぶ範囲で何とかなるんかい! だったらプロに任せとけよ!」
 火事を見かけたら、すぐに消防に通報して、危なくない場所に消火・救助活動の邪魔にならないよう避難しましょう。
「駄目です! 自分達の力で平和をつかみ取る……それが重要なんです! そうじゃないと目立てません!」
 俺は行かなければならないようだ……この無駄に人間的な金属その他の塊が妙なこと仕出かさないか監視するために。

 なんか色々諦めた俺を乗せて、車検はちゃんと通っているのか不安になるような中古軽自動車は市街地中心に近付いていった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「田中さん、見えました! アイツです!」
 市街地中心を少し走ったところでそう言われて俺は前方を見たわけだが……
まあ、なんつーか、「俺が馬鹿だった……」と思いましたね。
いや、ちょっと考えればわかったじゃんよ、俺。
何か大変なことが起こってるんだったら、
ここに来るまでの間に例えば悲鳴が聞こえたりとか、逃げまどう人がいたりとかしたはずじゃねーか。
そんな様子あったか? ハイ、皆無でした。そんな様子は微塵もありませんでした。
 俺の視線の先では、まあ確かに怪人と呼ぶことは出来るだろう見た目
   (コスプレですって言われたら大抵の奴が信じそうなレベルだが…… なんかちゃんと服着てるし。
    そんなだからこそ周りの人も「なんか変なカッコした奴がいる」くらいに思ってそんな騒いでないんだろうなー)
の奴が、歩いてる人に絡んだり、痰を吐いたり、そこらのもの蹴飛ばしたりと―――まあ迷惑な酔っぱらい的なことをやっていた。

「行きますよ、田中さん!」
 なんかエンジンとかがもの凄く頑張ってる音とともに、
馬力が足りてなさそうな中古軽自動車は速度を上げ、(おそらく)出せる限りのスピードで突撃する―――60km/hちょいだけど。
ただ、いかに高速に乗るのは躊躇するような速度しか出せないとはいえ、
市街地中心なだけあってけっこう歩いてる人とかもいる狭い道で飛ばすのは危ないんじゃないだろうか。
何が正義で何が悪かなんて難しくて哲学的な問題に答えられるような能力は無い俺なんかの意見だが、
「迷惑な酔っぱらい」と「市街地で自動車を暴走させる奴」のどちらがより悪か、と聞かれたら、
まあ後者の方だ、と断定しても差し支えないんじゃないかなあと思う。
 だが、そうは言っても、自分の意思を持って話すことが出来るなんて、コイツは実は凄い技術を持った奴
(中古軽自動車にエアコンを追加する技術は持ってないようだが)に作られたはずだ。
実は、凄い計算して、ちゃんと現実の危険は無いように走ってるんじゃないか?
そうだとしたら、下手に俺が何かしたら逆に危険な可能性が―――

「正義ノタメニハ多少ノ犠牲ハ仕方ナイ正義ノタメニハ多少ノ犠牲ハ仕方ナイ正義ノタメニハ多少ノ犠牲ハ仕方ナイ正義ノタメニハ多少ノ犠牲ハ仕方ナ

 正直、今までは自分が何のためにここにこうしているのか、俺はそのことを自覚していなかった。
だが、今、俺はしっかりと理解している。自分に与えられた使命というものを。
それは―――この金属製のくせに脳みその代わりにカニみそを搭載した危険な産業廃棄物を止めることだ。

 俺はハンドルをしっかりと握り、腕に力を入れる準備をすると
   (俺はちゃんと知っている、
    急ブレーキをかけるときはハンドルをしっかり固定していないと思わぬ方に曲がったりして危険なのだ。
    伊達に明後日教習所に4回目の実技試験を受けに行く予定なわけではない)、
ブレーキペダルを力いっぱい踏み込んだ。

 ……ブレーキが効かない。
っていうかブレーキペダルを踏んだ時に感じるはずの抵抗も全く無かったもんで、一番奥まで思い切り踏み込むことになったせいで正直、
足が痛い。
 まさかと思いアクセルペダルとクラッチペダルもそれぞれ踏んでみる。どっちも全く抵抗が無い。スッカスカ。
 もしやと思ってハンドルを回してみる。全く抵抗無くくるくる回る。ちょっと力を入れて弾いてみたら風車みたいに回り出した。
「田中さん、そんなことしても何の意味もありませんよ。
 そんなんだったらオートマ限定にしときゃいいものをカッコつけたんだか何だかマニュアルで受けてるくせに
 結局まだ免許取れてない田中さんを乗せるために、乗ってる人間には運転に関する操作は出来ないようにしてあるんです。
 危ないですから」
 暴走行為とか俺の個人情報が詳細に知られていることとかは危なくないのかとかじゃあ俺何のために乗ってんだとか
危ねーのはテメーの頭だとか前科は持たされたくないとか色んな思いが俺の中を駆け巡った。

「田中さん、敵はもう目の前です!」
 ああ、ホントだ。いつの間にか、事故ったりせずに敵のすぐ近くまで来ていた。奇跡ってあるんだなあ。
「さあ、変形です! 田中さん、今、ボタンが出てきますから、『変形開始(start transformation)!』と叫んで押して下さい!」
 中身がお花畑なコンピューターを搭載した中古軽自動車の言葉通り、
ダッシュボードが開いて無駄に仰々しいボタンが付いた無駄に仰々しい台座がせり出してきた。
あの位置で、しかもあんなに台座が伸びてちゃ運転席からだと押しにくいことこの上ないんだが
(まあ助手席に座ってたとすればものすごいヨガ的なポーズを強いられることになるが)。
しかし……何だこのボタンセットの物々しさは。これ押したら世界大戦の引き金ひいちゃいそうな見てくれなんだが。
「田中さん! 早く!」
 急かされたが、人類の未来を左右する覚悟がないと押してはならなそうなボタンにビビっていたため、反射的に時間稼ぎを図る。
「でも、何で叫んでさらにボタンを押す必要があるんだ? どっちかだけじゃ駄目なのか?」
「叫ばないと気分的にアレじゃないですか!」
 なんでもいいや……もう。
「……変形開始(start transformation)」
「もっと熱い魂の叫びで!」
 俺は人として捨ててはならない何かを捨てさせられた。

 とにかく、変形が始まった!
   (もうやけになったので変形シーンは無駄にテンション上げてお送りいたします。
    あと、「これ主人公目線の語り口だよな? このシーンて視点どうなってんだ?」とか考えない人の方が
    たぶん人生というものにおいて幸せになれる確率が高いです)

 左右に分かれたバンパーが、ナンバープレートの脇あたりを軸にして、大きく開いていたハサミを閉じるように回転し、
そして次に、曲がっている先端が上を向くように、それぞれが長辺の方向を軸として、90度回転した!

 左右のドアが開き(コイツは2ドアだ)、ドアの端の厚みの部分から、正方形のプレートがせり出してきた!
なんとそこにはロボットの握り拳の絵のようなものが描かれている!

 天井の前端が、ドアから出てきたプレートくらいの大きさの正方形に切り取られ、そこがフロントガラスとの境辺りを軸に起き上がり、
そして回転ドアのように180度回転して表裏が入れ替わった!
なんとそこにはロボットの顔の絵のようなものが描かれている!

 もはやそこには中古軽自動車の姿は無く、新たに、具体的にはこんな形↓をしたものが出現していた!
               http://dl8.getuploader.com/g/sousakurobo/139/%E5%9B%B3%EF%BC%91.jpg
「 変 形 完 了 ( t r a n s f o r m a t i o n c o m p l e t e d )」
「待てい!」
 いや、ここはツッコまざるを得ないからね。
「は? どうかしたんですか、田中さん?」
 どうかしてるのはテメーだ(外観・中身の双方において)。
「いやいやいや、え、変形ってアンタ、人の形になるんじゃないの!?」
「なに夢見がちな発言してるんですか田中さん。人型ロボットなんて、作るのものすごく大変なんですよ。
 例えばホンダがアシモ創るまでに、どんだけ苦労したと思ってるんですか?
 その上さらに、車から人の形に変形するロボットなんて、おいそれと作れるわけないじゃないですか。
 そもそもですね、ロボットっていうのは、自律行動する機械のことなんです。
 つまり、私みたいに車の形してても自律行動すれば立派にロボットなんであって、
 人型じゃないとロボットじゃない、なんてのは、マンガやアニメに影響され過ぎた日本人の―――」

        ム
        ☆
        カ
        ☆
        ツ
        ☆
        ク
        ♪

 非現実的なモンの全権委任大使みたいな存在が正論言いやがってる
(しかも何気にスレ違いじゃありませんよエクスキューズまでしてやがる)。

「敵の目の前で下らないこと言ってる場合じゃありませんよ。田中さん、パンチを打ちます。手伝って下さい」
 しれっと話進めてやがる……
個人的な見解を述べさせてもらえば、目の前の敵より、俺が乗せられてるモンの方がタチが悪い気がするんだが。
 ……ん……? 待て、手伝って下さい……?
「確か、さっき、俺はオマエのこと操縦出来ないようになってるって言ってたよな?
 パンチを打つから手伝ってくれって言っても、それに関しては俺は何も出来ないんじゃないか?」
「いえ、乗っている方が操作出来ないのは運転に関することで、攻撃などに関することは操作出来るんです。
 そうやって人間の方に制御して頂いて私の力を正しく正義のためだけに使って頂くために、
 私単独では攻撃とかは出来ないようになっているわけですから」
 そう言えば力をみだりに使わないためにとか的なことを言ってたな、ここに来るときに。
 ……そう考えるとちょっと緊張してきた。
こんなゲームの中でしか体験できないようなことなんて、ゲームの中でしか体験したこと無いもんな。
……緊張のあまり変な表現したな。
「わかった。……で、具体的には俺はどうすればいいんだ?」
「ええ、私だけでは相手を倒すだけの力が出ないので、田中さんは私の腕を後ろから押して下さい!」
 俺は何となく全ての事情を大体のところ察した。
 思うに、つまり、
コイツが変形と強弁する動作のために、コイツが腕と強弁する部位(ドア)を、コイツは自分で動かすことは出来るが、
あんまり強い力で動かすことは出来ないんで、俺に押してコイツが敵と強弁する相手にぶつけてほしい、と……。
「結局オメーに乗ってるヤツの腕力勝負じゃねーか! 正義に燃える方じゃないとNG的な話ひとっつも関係ねえよ!」
「田中さん、それは間違いです。人間は、その心の有りようで、その力がいかようにも変わるのです。
 それが私達機械とは違う人間の……」
「じゃかましいわ! 機械と人間の話のテンプレ台詞持ち出してんじゃねーよ!」
「そんなこと言っても、もう戦うしかありませんよ。パンチ出しますよ。用意して下さい」
 ああ用意してやったよ。開き直る用意を。
「ファイヤーストームパーンチ!」
 無駄にテンション高い機械が無駄に高いテンションでそう雄叫びを上げる。無駄機能満載な中古軽自動車の右側ドアが前に動く。
もう何もかもどうでもよくなったから俺も付き合って押してやる。
コン。怪人にぶつかった。すみませんねえ。
まあ手応えとか音とかからして、貴方怪人なだけあってそれなりに硬くていらっしゃって実際的な被害とかは無いみたいですけど。
それにしても……
 ダサっ。技名ダサっ。何ファイヤーストームパンチて。英単語の知識中学生レベル以下なの?
いやホント、こんなコト言わされなくてよかっt
「駄目ですよ田中さん! 全然効いてないじゃないですか! もっと正義の怒りを込めて!
 具体的にはパンチ名を叫びながらもっと強い力で押して!」
「え、何、俺もパンチ名叫ばなくちゃ駄目なの!? そんなこと言ってなかったじゃないか!?」
「田中さん……、変形のとき叫びましたよね? その辺りから察して下さいよ。ったくKYだな……」
 なんで俺は車をスクラップにする機械とか持ってないんだろうな?

「まあいいです、次打ちますよ。今度は頼みますよ、ホントに」
 なに俺がやらかしちゃたから的な感じにもってこうとしてんの?
「じゃ、せーので」
 やりゃいいんだろ…… やるからすぐ終わらせて帰らせてくれよ……
「せーの、サンダークラッシュパーンチ!」
    「ファイヤーストームパ…… ぇえ!?」
 え、なにパンチの名前変えてんの!?
 それはそうとして、ベコっという音とともにロボットの右腕こと中古軽自動車の運転席側ドアが怪人にぶつかった。
するとなんと、いちいち人をムカつかせる機能を搭載した中古軽自動車が苦しんでるっぽい声を出し始めたのである。
「ぐ、ぐわぁぁああ! う、腕が、腕があ! 田中さんが間違えるからあ!」
「なっ、テメ、俺のせいかよ!? あんな急に変えられて合わせられるかよ!」
「一度全く効かなかった技をまた出したって意味無いってことくらい言われなくたってわかるでしょ!?
 自分がアドリブ効かないの他人のせいにしないで下さい!」
「はいはいわかりましたよ、全部俺が悪いんですよ。格差社会も紛争も地球温暖化もみーんな俺のせいですよ」
 それにしても…… わざとらしいにも程があるが、コイツが痛がってるって何があったんだ?
腕(ドア)がどうかしたみたいなこと言ってたが……
 俺はコイツの右腕を自分の方に引き寄せる(運転席ドアを閉じる)と窓を開けるハンドルをくるくる回し
   (ネットでネタにされてるのを見たことしか無かったから今はじめて知ったんだけど、
    これって持って回す丸いヤツが回転するから、回しやすくなってるんだな。
    ちょっと感心…… コイツを作った奴じゃ絶対思い付かないな、こんなの)、
腕(ドア)の外側を見た。
 あー、やっぱ怪人の人って硬いんだ。1cm×3cmくらいへこんで塗装が剥げてら。
まあこんな程度のことで一々騒ぐのは日本人くらいだけどな。
やっぱりアメリカとかと違って、「自動車は生活用品」て感覚が浸透してなくて
まだ「自動車はステイタスの象徴」みたいな考え方から脱却できてないから。
そりゃ戦争にも負けるよな。
あの当時でもアメリカじゃそこらの高校生がブンブン自動車飛ばしてて、
日本の方は自動車運転できるってのだけで特殊技能の持ち主だったんだってな。
でも当時は日本以外の国もアメリカの他は割とそんな感じか。
すると日本人の持つもっと別の何かが……って工業製品と国民性の関係に思いを馳せている場合じゃないか。
 しかし、さっきから痛がってるけど、コレやっぱり演技か? それとも実際に痛みとか感じる機能が付いてるのか?
付いてるといいな。

 さて、大人しく廃車になるのを待つべきな中古軽自動車の方はどうだかわからんが、怪人の人の方は実際に痛かったらしい。
「……ってー…… 何しゃがんだコイツ」
 そう言うと、ズボンのポケットをまさぐり、何かを取り出した。
それは小さいので持っている手にほとんど隠れてしまってよく見えないが、あの輝きは―――!
「ぐ、ぐわぁぁああ!」
 ああ、それで気が済むならいいですよ、バンバンやっちゃって下さい。
俺の車ってわけじゃないし、お好きなだけ10円キズをお付けになって下さい。
「田中さん、想像以上の強敵です!(あんな「パンチ」で倒せると思ってたって、どんだけ虚弱体質なヤツを想像してたんだ……?)
 ハイパーバニシングキックを使います!」
 いよいよスクラップ置き場がふさわしくなってきた中古軽自動車はそう言った。そしてバックして怪人の人から一旦距離をとる。

「ハイパーバニシングキィィィック!」

 思い出す。小学校の頃のことだ。
 その日、交通安全教育とかで、校庭に集められた俺達は、“それ”を見たのだ。
 率直に言って、いい気分はしなかった。はっきり言って、結構ショックを受けたし、見たくなかったとも思った。
 男子連中はスゲーとか騒いだり、目に涙を浮かべてる女子がいたからそれをからかったりしていたが、
その行為に感じられたわざとらしさが、俺と同じ感覚を無意識の領域に押し込めておこうとしているのだと思わせた。
 俺はずっとそれがあった場所を見ていた。
おかしなことを言うようだが、
その人形が本物の人間の顔をしていないのを、片付けられるとき顔がこっちを向くのを見て実際に確認したかったのだ。

 ……とまあ、今、この解体されるべき中古軽自動車のやった、怪人の人をふっ飛ばし地に倒れ伏させた行為は、
形而上では色々なことを想起させるものだったが、形而下の具体的事象としては極めて端的かつ簡明に描写することが出来る。

 轢いた。

「うぉぉぉおい! ちょっ、ちょっと、ええっ!? なに!? なに轢いてんの!?」
「これが私の一番強力な攻撃だからです。それに、よい子のみんなに車は危ないってことを教えられます」
「よい子のお友達はこんなとこ見てねーんだよ! このスレにいるのは変態紳士という名の変態だけなんだよ!
 どーすんだ、どーすんだよ!」
「落ち着いて下さい、田中さん!」
 そうだ落ち着け、落ち着くんだ田中和明(コーヒーより紅茶派)。
落ち着いてこの状況をちゃんと把握するんだ。よく考えれば、逮捕されたりとかそういう事態じゃないかも知れん。
えーと、

「街中で暴走して相手に近付いて2度にわたってドアをぶつけて怒った相手に10円キズを付けられて逆ギレして轢いた」。

 どうみてもアウトです本当にありがとうございましたぁぁぁぁああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

「田中さん、落ち着いて!
 深紅の灯を燈す純白と漆黒に彩られた車に乗りし蒼き衣の治安の守護者が来る前にここから立ち去りましょう!」
「厨二表現でごまかされるかぁぁぁあああ!!! 警察が来る前にトンズラしようってことじゃねえかぁぁぁぁあああ!!!」

「田中さん!」
 事故車はぴしゃりと言った。

「私達は、何も間違ったことはしていません。
 確かに、外から見れば、そうは思えないかもしれないですが、私達は正義と平和を守るために戦ったんです。
 何もやましいことはない、そうでしょう?
 だから私達は、堂々と胸を張ってトンズラすればいいんです!」
「認めてんじゃねーか!!!!」
「田中さん、落ち着いて下さい、大丈夫ですから! よく考えて下さい、人を轢いて捕まるから罪になるわけでしょう!?」
 ……興奮して頭に血が上ってたから気が付いていなかったが、そう言えば轢いたのは怪人だ、あくまで人じゃない。
これは犬や猫を轢いちゃったのと同じになるのか? それでもいい気はしないが……
「あ、ああ、そうだな、俺は前科持ちにならないんだよな!?」
「ええ大丈夫です、私に付いてるナンバープレートは偽造ですから」
 既に前科持たされてたぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「さあ飛ばしますよ田中さん。
 さっきの手応えからして、遺憾ながら仕留めそこないました。そろそろ起き上がってくると思います。
 詳しく特徴を抑えられたら、さすがにヤバいかも知れません」
 事態はもはや俺のツッコミアビリティーを振り切っていた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 それから俺は(悪)夢の世界から出てきたような中古軽自動車に揺られて
郊外のいかにも「昔金持ちが住んでた豪邸だけど今はワケ有りで格安物件です」的な建物を目指していた。
コイツを作った博士はそこを住居兼研究所にしていて、俺と実際に会って話をしたがっているという。
 ……しかし……、疲れた、今日は本当に疲れた。
よく「あんな短い間のことだったけど、何年も経ったみたいだ」って表現が小説とかであるけど、たぶん今の俺の心境がそれなんだろうな
(もはやどーでもいいけど、腕に傷を負った(ドアが凹んだ)ときにコイツが痛がってたのって、やっぱり単なる演技だったんだな。
 キックをした(轢いた)ときの衝撃で脚(バンパー)もげてるけど、別に今は痛がったりしてねーもん)。

 目的の建物に近付くと、玄関の前で手を振っている男がいる。
「あ、田中さん、あれが中原山博士です」
 なるほどあれが諸悪の根源か。
 そいつは、自分が作り出した危険物が停止する寸前くらいで俺が乗っている運転席のドアを開けた。
「よく来てくれたね田中和明君! 我々と一緒に地球の平和のために戦ってくr」
 口であいさつをする前に俺の手のひらがそいつの顔にコンニチワし
即座にそいつが吹っ飛んだことですぐそいつのツラの皮膚とサヨウナラした。

 そいつが倒れているのを見て、俺は自分のしてしまったことを猛烈に後悔した。
いくら今までのことがあったとはいえ、反射的に掌底を出してしまったのはよくなかった。
 どうせ一発で気絶するんだったら金的にしとくんだった。

 あの後、一緒に戦ってくれとか誘われたが、結局断った。
 俺と同じ母国語を話すのに言葉が通じない相手だったので、やむを得ずボディランゲッジで会話した(おもにこぶしを使った)。
 それにしても、まさか自分が
 チンジャブ→イヤーカップ→リバーブロー→金的→後頭部への踵落とし→ストンピング
のコンボを繋げられるとは思わなかった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 後日談をしておこう。
 「怪人」とやらが増えたが、少なくとも統計上は犯罪や事故は特に増えてない。
 これも、郊外で変な改造車作ってる男を家宅捜索したりといった警察の治安維持活動のおかげなのだろう。
実際、怪人を職質したり注意したりしてる警察官を最近よく見かける。
 お巡りさんて大変だなあ。

                                                    <あとちょっとだけ続くんじゃ>
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 ある日、俺が買い物袋をぶら下げて家路についていると、むこうから無人の痛中古軽自動車が走ってきた。
「はじめまして、お兄ちゃん! あのね、わたしとね……」
「機械っつーのは便利だよな、設定いじりゃ声を完全に変えて違うヤツな風を装える」
「え、なにいってるのお兄ちゃん?
 わたしはお兄ちゃんをのせて怪人にパンチしてキックしておまわりさんがくる前にトンズラしたりとかしてないよ!?
 それなのにわたしのこと知ってるってことは…… キャー、これって運命!?」
 俺は発想の貧困な作者が書いたお約束なボケにツッコむ気はさらさら無かった。無言で蹴りを入れる。
「あ…… 汚されちゃった、わたしお兄ちゃんに汚されちゃったよぅ…… せきにん……とってね?」
 ドアと窓の境を確認する。ドアにロックは…… かかっていない。
「きゃ、お兄ちゃん、いきなり入ってきちゃだめだよぅ……
 そんなとこいじっちゃいやあ…… ほらひらいちゃった、給油口くぱぁってひらいちゃったよぅ……
 あ、らめぇっ、おさとう入れちゃらめれぇぇっ!」

                                               <こんどこそ終わり>「続いてたまるか!!!

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