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eXar-Xen――セカイの果てより来るモノ―― Act.7C

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匿名ユーザー

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イグザゼンの力は強大だ。
 それは身に纏っている俺が一番良く分かっていると思う。
 この世のモノである無しに関わらず、平等に圧倒的な破壊を見せ付けてくれる力。現に俺が見ている限りでも、様々な脅威を真正面から蹴散らしていった。


「な――――!?」


 だが、その力の権化である豪腕を奴は真正面から受け止めてみせた。
 それもあのとてもじゃないが頑丈そうには見えない細く長いそれで。しかも払い除けようとしてもびくともしない。


「……この世ならざる者(イリーガルコード)と相対する際に、肝に銘じなければならない事が2つある。」


 奴――シュバイゼンはそのままの姿勢でくぐもった声を上げる。
 紅く燃え立つ無機質なカメラアイに、不釣合いとも言える確固たる意思を宿しながら


「ひとつは、“己”を忘れぬ事。どのような超常的な力を行使した所でその力はセカイにとって不自然極まる異常なモノ。
用いる術を誤れば、確実にセカイに磨り潰される事となる。故に己を見失わず、己が本質が無力にして脆弱な「ヒト」だという事を努々忘れぬ事だ。」


 己を忘れない?世界に磨り潰される?どういう事だと聞く暇も無く


「そしてもうひとつ。それは――」


 シュバイゼンより溢れる力が突如として急激に増す。
 それはそのまま等価の質量として実空間に顕現し、同時に何かを紡ぐように奴の酷く細い腕に纏わり付いていく。



「“見えるモノ”に、捕われぬ事だ。」



 それを視て「ヤバイ」――なんて思った時には既に遅かった。
 気付けば宙を舞う身体。何が起きたかなんて分かりはしない。ただただ強烈な力によって紙屑同然に吹き飛ばされ、土煙と共に背面から着地。


「ッッッ………」


 衝撃で痺れている身体でなんとか瓦礫を払い、立ち上がればぽつぽつと降り続ける小雨の向こう、外側の壁が消し飛び半壊したバールの部屋と奴の姿が見えた。


「イリーガルコードはセカイの理に縛られぬ存在。“解”を解く力次第で如何様な事象をも引き起こす事が可能となる――今のはそのほんの一例だ。」


 見れば奴の細長かった右腕のみが、分厚く刺々しい装甲に覆われ機体相応の大きさをもった腕へと姿を変えている。


「私を止める“力”というのはこういうモノの事を指す。その甲冑のみではない。」


 追撃を加える絶好の機会だというのに、仁王立ちの様相で腕を組んだままこちらを見下ろし佇むシュバイゼン。
 どういうつもりかは分からないが、チャンスといえばチャンスだ。
 今の力――こちらと大体の仕組みは同じらしい奴が出来るのならこっちだって何かしら出来るはず。
 事実アリス単体でのソートアーマーなら短刀やら長剣やらほいほい作り出していたのだから間違いないだろう。


「俺にもああいうのは使えないのか?」
<貴方は私の御する者。私はその意思に沿い、その“解”を解く力に従い、それ相応の力を振るおう。>
「……つまり、俺次第って事か?」
<そういう事だ。事象励起に関して基本的にこの形態での私からの干渉は不可能。故に全ては全て、貴方次第という事になる。>


 俺次第……なんて言われてもあんなモノどうやって作ればいいかなんて分かるはずも無く、頭の中でクエッションマークが回る。
 だがあの力を目の当たりにした今、そういうモノが無いとバールを助けられないという事は良く分かっているし、そう考えればなんとかしようとも思うもの。
 そう考え、頭の中で何かしら作れないかと念じてみていると――


「ば、バール!?って、何よこれ!」


 不意に部屋の戸の方で聞き慣れた声が聞こえる。
 見ればそこには驚愕の声を張り上げるベルと、逆にショックで声も出ないのかその後ろで隠れるようにしているウェルの姿があった。


「2人とも、来るんじゃない……!これはワシ1人で、1人だけで……!!」


 卵頭の怪人2人がかりで取り押さえられたバールの搾り出すような声。


「――――まだやる気が出ないのならば、こうする事も已む無しか。」


 同時に俺達を遠めに眺めていたシュバイゼンが反転。2人にゆっくりと迫る。


「な、何よあんた!こっち来ないで!」


 3m近い巨躯を誇る異形の影が2人を囲うように近付く。対して震える足先でゆっくりと後ずさりするベルとウェル。
 そんな光景を目の当たりにして当然俺が黙っているわけも無く――


「――――――ッッ!!」


 何かが、吹っ切れた。


 別にバールより2人が大事というわけじゃあない。皆家族だ。同じぐらい大事に決まっている。だからあの2人に迫る奴が、何かの引き金になっただけだろう。それだけは俺の名誉にかけて断っておく。


 まず何を想像したのか。
 アリスの剣。長剣。銀色に、艶やかに、例えようの無い不可思議な光沢を放つその刀身。
 思い出す。思い返す。そして考え、理解する。
 それは剣。銀の剣。甲冑の甲より伸びた剣。
 それは剣。鋭き剣。外道を外道にて断つ剣。
 それは剣。アリスの剣。“イグザブレイド”と呼ばれた剣。


 (――――――)


 思考。理解。構築。顕現。
 超越的事象をもってそれはセカイの果てより生まれ出た。


 次に気付けば俺は全力で駆けていた。
 無音にて奴の脇を抜け、甲より伸びる剣を振るう。
 鋭い切断面を露にし、宙を舞う細い方の腕。


「む――!?」


 ようやく気付いたらしい奴はこちらに向けて太い方の腕を上から振るうが、そんな見え透いた攻撃に当たる俺でもない。
 最小限の移動でそれを躱し、更に剣を振るう――が、今度のそれは宙を切った。
 奴が後方へと飛び退いた為だ。追撃をかけるべく更にがむしゃらに振りかぶりながら迫るが


「なるほどな。」


 その切っ先は、奴の手にいつの間にか握られたイグザブレイドと似通った光沢を放つ直剣によって受け止められた。


「イグザブレイド……初めてにしては上出来か。だが――」
「ッ!?」


 そうやって拮抗したのも束の間。剣は力づくで押し返され、今度はこちらが弾かれるような形で距離を取らざるを得なかった。
 似たような形をしていながら余りにも大きな力の差。だがどうして?なんて考えもしない。考える事もできない。


「人の猿真似では己の“解”に辿り着く事は出来ん。切っ掛けとしては上々だがそれでは足りんな。」
「一体何を……!」
「そして見極めも十分――シュバイドランサー、顕現化(マテリアライズ)。」


 奴の周囲の空間が揺らぎ、ブレる。
 同時に顕れるは黒い靄。残った太い方の腕に纏わり付くようなそれは、急速に確固たる形を紡いでいく。


「――――ッッ!?」


 同時に周囲の空気がそこに引き込まれるように流れていくのを感じた。
 更に背筋を貫く異様な悪寒……これはヤバイ。さっきのとは比較にもならない危機を知らせる感覚が痛いほど頭の中でガンガン響く、が――


「!!」
<不味い――!>


 やはりというか何というか、全てが全て遅かった。
 頭が身体に追いついてないのか、扱え切れていないのか。


「次に合間見えるまでの間」


 奴の腕に携えられたのは黒い槍。
 あまりにも黒く、黒以外の何者も無く、捉えた一切の光を逃さない闇そのものが実体化したかのようなそれは、奴の身の丈を優に越える大きさを持つ。
 そして顕現が完了すると、奴はおもむろにこちらへとその矛先を向けた。



「――その“力”、磨いておくがいい。」



 顕現、そして攻撃。この間、僅か数秒。
 対応するにも、回避するにも、防御するにも、何もかもが早すぎ、そして遅すぎた。


「がっ――――ッ!!」


 そこに至る過程は見えず、俺の胸を貫く何かという結果だけが見えた。
 何かの正体は言わずもかな、漆黒の巨槍。その一撃はソートアーマーの強固な装甲を易々と貫通し、
背後のコンクリートの瓦礫ごと見事に串刺しにしてくれていた。


「あ、あ……?」


 痛みは無い――が、視界と意識はインクをぶちまけたかのように真っ黒に染まり、沈んでいく。
 一体俺はどうなったのか、アリスに問おうにもその声が出ない。


 いやそれよりも何よりも、ベル、ウェル、バール……俺が守らないで誰が守るんだ?
 ここで俺がやられたらあいつらはどうなるんだ?奴に浚われるのか?わけもわからないまま?ふざけるな!
 だから助けなければ。戦わなければ。勝たなければ。
 そう考え、そう思い、渾身の力を込めて立ち上がろうとするものの、糸の切れた操り人形のように俺の四肢は動かない。


「く……そ……!」


 辛うじて僅かに動いた手を力無く伸ばす。
 だがそれは当然奴には届かず空を切り、間も無く地に落ちる。


 そしてそのまま、俺の意識は完全に闇の底へと堕ちていくのだった……


 黒。
 黒々と。視界を覆う黒。
一寸先は闇なんてものじゃない。完全な黒。一切を塗り潰し、自分の手さえも見えやしない。


(――――)


 浮遊感。
 上昇している?下降している?分からない。分からない。
 上を向いているのか、あるいは下を向いているのか。はたまたそれ以外を見ているのか。


(――――)


 直に、それが夢だと気付く。
 別に理由なんてありはしない。だけどそうだ。これは夢。泡沫の夢。
 何故こんなモノを見ているのか――そう考え、思い出した。


(ッ!!)


 俺の胸を貫いた槍。
 それを携えた“奴”。取り押さえられたバール。ベルの怯える声。ウェルの震える姿。


 それらを思い出し、そして己の無力を、迂闊さを嘆く。
 そうだ。こんな所で、のんびりしている場合ではない。
 皆が、皆が危ないんだ。それを守れるのは俺だけなんだ。誰にも頼れやしない。
 そう考え、なんとかここより抜け出そうともがくが――


(くそ!!)


 抜け出せない。
 何かに足首をしっかり捕まれ、引っ張られているような感覚。故にもがけばもがくほど、絡まり付いて沈んでいく。


(離せ!離せよ!!行かなきゃいけないんだ!皆を助けなきゃ……!!)


 声無き声で必死に叫び、その束縛を強引に振り解こうとする――が、その俺の思いを嘲笑うかのようにその力は更に増し、深く深く引きずり込んでいく。


(~~~~~~~ッッ!!)


 如何ともし難い苛立ちと共にふと、ふと――考えてしまった。
ここは夢だ。それも俺の夢。なら俺を引っ張っているのは何?俺の夢の中で俺を引っ張れるのは誰?


(――――――)


 ……気付いてしまった。
 全身から一気に血の気が引く。死人のような青白い顔をしているであろう俺の震える瞳は、見えざる闇のその向こう、俺の足首を掴む“何か”の姿を見てしまった。



 全ての光を遮る闇の中でさえ尚冥く、故にその姿を浮き彫りにする。
 ヒトの形をしたそれは、けれどもヒトでなく、しかし人であり、これ以上無い闇でありながら、その闇を照らす光でもあった。そしてそれは――――




 俺でもあった。



 白。
 薄く、視界に広がる白。瞼の向こう側を焼くそれは蛍光灯の光。


「やあ、お目覚めかい?」


 初めに気付いたのは自分が仰向けだという事。毛布をかけられ、ソファーに寝かされていた。
 次に気付いたのは年季の入った天井と、視界に映る見知った男の顔。


「リョウ!?」


 リョウ・クレン。
 起き上がり、いる筈のない男の姿を見て驚愕する俺。そして最後に気付いたのは


「みんなは!?みんなは何処にッ!?」
「……僕が横たわる君と彼女の姿を見つけたときには、君ら以外誰もいなかったよ。」


 その答えは皆がどうなったのかという事も情け容赦無く指し示す。



 ――――皆は連れて行かれた。“奴”に。



「畜生ッッ!!!」


 吐き捨て、脇の壁に拳を思い切り叩きつける。
 怒りの矛先は奴。そして自分自身。
 不甲斐無く、力及ばず、皆をみすみす浚われたというのだから腹が立たないわけがない。


「怒るのは結構。ただ僕の家を壊さないでくれよ?」
「何でお前はそんなに平気でいられ――」


 当たり散らかすようにリョウへ声を向ける、が



「平気なわけがないだろう。」



 その途中で言葉を呑んだ。
 いつに無く真っ直ぐな瞳。全てを見透かすようなそれは彼なりの怒りの表現なのだろう。
 俺と同じ、いやそれ以上の静かな怒りを込めた――


「一体何が起きたのか……察するに余りあるし、結果からして確かに由々しき事態である事には違いないが――まず頭を冷やせ。今の君では解決出来る問題も出来やしない。」
「ッ……」


 悔しいかな、悲しいかな、しかしリョウの言う通りだ。
 存在そのものがデタラメな奴相手に頭に血が昇った状態で敵うはずも無い。


「で、でもすぐに助けに行かないと……!」
「なら聞くが君は彼らの居場所が分かるのかい?我武者羅に嗅ぎまわった所で尾っぽが掴める筈はあるまい。」
「う……」


 そう、その通りだ。
 だけど何かしないと。一歩でも前へ進まないと。そうしなければ――


「何、彼らはすぐにバール達をどうこうするつもりはないだろうさ。」
「何故そんな事が……!」
「言うなれば浚われた皆は君達を誘き寄せるための“餌”。何処へ誘うつもりなのかは定かでは無い……が、どうもバールはこうなる事を予め予見していたらしい。」


 そう言い、リョウがすぐ近くの引き出しより取り出したのは白色をした棒状の簡易記憶媒体。
 ジャンクヤードでは広く流通しており、それ自体は別に珍しい物でもない。


「これは……?」
「自分に何かあった時には、君にこれを渡して欲しいと以前より頼まれていてね。中身は定かでは無いが、恐らく今回の件に深く関係ある物だと思う。」


 手渡されたそれをまじまじと見つめ、リョウの言葉を聞く。
 バールより託されたデータ……今手元にある唯一の手がかり……藁にも縋りたい想いである俺にとってはこれ以上無い代物だった。


「じゃあ早速……!って、アリスは?」
「多分ベランダにいると思う。外傷は君と同じく無いものの、どうも君以上に塞ぎ込んじゃっているみたいでね……一体どうしたものか。」
「……分かった。行って来る。」
「頼むよ。」


 彼女の心の内は分からない。
 ただこちらとしても言いたい事はある。あの子が全部背負い込むつもりなら――ともかく、俺は思考を中断しあの子のいるという所へと足を運んだ。




 私はとんだ大馬鹿者だ。
 助けられ、匿われ、その恩をこれ以上無い仇として返し、そして自身はこうやってのうのうとしている――これを馬鹿者、痴れ者と言わずして何と言う?


「…………」


 この一連の不手際に対し、私は一体何が出来る?
 謝罪か?違う。謝った所でどうなるわけでもない。
 死をもって償うか?違う。そもそも“死ねない”私にどう死ねというのか?
 ならばどうする?どうすればいい?


<ヤッホー!アリスチャ~ン、元気ィ~?>


 すぐ脇より聞こえる聞き覚えのある甲高い合成音声。
 ミッチー……と言ったか。


「……これが元気に見えるか?」
<見エネェナァ?全ッ然見エネェ。>
「だろうな。」


 日も翳り、静寂の中薄暗い空より未だぽつぽつと降り続ける雨をベランダ越しに眺め、腰を下ろす私とその隣で意味も無くクルクル回るミッチー。


<……ナァ、アリスチャン。>


 やがて、先に口を開いたのはミッチーの方だった。


「?」
<難シイ事ハ俺ニハ分カラナインダケドサ。ナンカ困ッテルノナラ、包ミ隠サズミンナニ相談シタホウガイイト思ウンダゼ?一人デ担イデイルヨリソノ方ガ楽ニナルシ~♪>
「皆に……か。」


 彼の言う事は私には遠い事。遠かった事。
 常に独りだった私が他者と呼べるモノは、この世ならざる脅威――励起獣――か、私を追う者達――彼ら――ぐらいしかありはしなかった。
 それ故にどれだけ便利を図られた所でそれは所詮「他者」という思考があり、越えられぬ壁があった。


「――――」


 ただ、今は違う。
 明らかに不審者であった私の身の内を一切聞かず、留めてくれた――バール。
 私を“家族”と言ってくれた――ベル。
 色々と細かな気遣いをしてくれた――ウェル。
 そして


「……アリス。」


 彼――ディー――がいる。


「……身体は、大丈夫か?」
「ああ、俺の方は大丈夫。その分だとそっちの方も大丈夫みたいだな。」
「“奴”に意図的に手を抜かれた結果だ。手放しには喜べんがな。」
「どうにかなるよりはよっぽどマシだと思うぜ。それより――」
「分かっている。バールが残したというデータを持った端末の事だろう?目を覚ましたのは私のほうが先だったからな。その事も彼から聞いていた。」
「そっか……じゃ、行こうぜ。」


 彼らは私が護るべきもの――とは言えるのだろうか?それは分からない、が
 少なくとも失いたくないもの――とは今は心より言える。


「ディー。」
「?……どうかした?」


 振り返り、頭に疑問符を載せこちらを見るディー。
 その視線に耐えられず、少し脇にずらした私。そのままの状態で搾り出すように出せた言葉は



「…………済まない。」



 謝罪の、一言だった。


「私は貴方達を、本来自分自身で片付けるべき事に巻き込んだ。その上直接的な被害を与え、まさに恩を仇で返すような事をしてしまった。」
「…………」
<アリスチャン……>
「そのくせ、私は貴方の力を借りねばこの先どうしようもない――奴を、シュバイゼンを見ただろう?あれが私の相対している敵の力だ。
 私一人の力では逆立ちしても太刀打ち出来ない……逃げる分には何とかなっていたが、立ち向かうとなれば話は別。
 つまり被害を与えてしまった側に更に迷惑を上乗せしようというのだ。いくら謝ったところで許される筈も無いのだが――――?」

 そこで、彼の表情の変化に気付いた。
 酷く何か言いたげな表情。それが喉から口まで出掛かっている様子だった。
 ただ、私が一体どうしたと彼に聞く前に、それは一気に噴出した。


「ぶぁぁぁぁぁぁぁぁっっかかお前はっっ!!俺らがお前を匿って、後悔した事なんて一回もねぇよ!!
 第一身元も身よりも何にもねぇ、こんなひょろひょろの、今にも風に吹かれて飛んでいきそうな女の子を見捨てて追い出せるわけねぇじゃねぇか!!
 それに俺がお前に貸せる力があったのは正直びっくりだったけど、それも言われたからやったんじゃねぇ。自分からやったんだよ!それもさっきと同じ!放ってられるかってんだって事だ!!
 お人好しなのもそう!恩着せがましいのもそう!それが俺達リングダム一家の性格だったって事だ!恩を売る為ではねぇ!謝らせる為でもねぇ!泣かせる為でも断じてねぇ!!」
「!?」


 気付く。頬を伝う一筋の何か。
 それが私にあまりにも不釣合いなものと気付いた時


「……その、何だ。これで拭いとけ。」


 ディーはさっきの剣幕から打って変わってそっぽを向き、白いハンカチを差し出していた。


「…………悪かったな、無茶苦茶に怒鳴ったりして……でもこれだけは覚えておいてくれ。お前が俺達に謝る事なんざ1つもねぇ。むしろ助けてもらってばっかりだったしな。」
「それは私が……」
「結果はそうだろ?確かにアリスがあいつらをここにつれてきたのかも知れねぇ。だけどそんなの責められるわけがない。
 あの黒い奴から逃げるのに必死だったみたいだしさ……まぁ、もう無関係ってわけではないからその内あいつらについて知ってる事は聞かせてもらうつもりだけど……それと」
「?」
「俺を呼ぶ時、「貴方」って言うの止めてくれ……その、なんかさ。他人行儀というかムズムズするというか……第一、俺はそんな上等なもんじゃないからな。」
「………………」


不思議な人。
私の常識を悉く逸脱し、御する者(マスター)でありながら同等の立場で口を開く――それに私に“助けてもらった”……


「………………」
「………………」


 互いに顔を見合わせ、ほんの少しだけ気まずい雰囲気が過ぎった後


「さ、さぁさっさと行こうぜ。リョウを待たせるのも悪いし……」
「あ、ああ……」


 私とディーと、その後ろを何故か楽しげに鼻歌を歌いつつ付いて来る一輪車はその部屋を後にした。




「お、来た来た。準備は出来ているからまぁ適当に座っておいてくれ。」


 リビングに戻った俺達を待っていたのは勿論あいつ。
 いくらするのか良く分からない高級そうな端末を広げ、それの脇に件のメモリを刺していた。
 そして言われたとおり画面前――リョウのすぐ背後――で齧りつく様に座る俺とその上から覗くようにして見るアリス。


「適当にって言ったのにねぇ……」
「「適当」じゃねぇか――そういやリョウはこいつの中身を見た事はあるのか?」
「何かあるまでは見ないで欲しい、と彼に強く頼まれていてね。僕とて興味が無いわけでは無かったが……無二の友人の頼みだ。反故にする事は結局出来なかったってわけさ。」


 正直、バールとリョウの付き合いはかなり長いという事以外良く知らない。
 幼い頃、リョウが俺の近くに住んでいた時は互いによく話していた気がするが、引っ越してからは俺が見ている限り面と向かい合う事もあまり無く、はっきり言って交友が続いていたとは考えにくい。
 そもそもいつこれを受け取ったのか……なんていう疑問も浮かぶには浮かぶが、今はそれを考えたところでさして意味も無い。


「じゃあ、行くよ。」


 そんな事を俺が考えている内に、リョウが端末にメモリに記憶された情報の再生を行わせた。同時に画面に浮かぶのは


「……壁?」


 そう、画面いっぱいに映し出された壁。
 赤レンガを組んで作られ、鬱蒼としたツタに絡まれ、そんな状態で長年雨風に晒されていたのだろう。わりかし朽ちた所が見受けられる、見るからに年季の入った壁。
 ただメモリに記憶されていたのは勿論それだけではない。映像は壁から視点をずらすと、後方へと退いていき、その壁がどういうもの――何に使われているものか――という事と、その使われているものの全貌を顕わにした。


「…………」


 それは、廃屋だった。
 周囲をツタがくまなく絡まった赤レンガで出来た高い塀に覆われたまるで幽霊屋敷のような不気味ないでたち。
 打ち捨てられて一体どれぐらい経つのか――――人がそこに住んでいるとは前提条件として考えられない朽ち果て様。何故こんなものがバールの残した物に映っているのかと疑問に思ったのも束の間


「!」


 不意にブツリと途切れる映像。
 静寂の後に滲み出るなんとも言えない後味の悪さ。


「――――ひょっとして、これだけ?」


 バール達に関係する直接の手がかりを得られずに落胆する俺。俺に見せて欲しいとバールが言ったらしいのだから、俺に何か関係あるものだとばかり思っていたのも原因だ。
 しかし――――


「ああ。だが……これだけで十分だ。」


 それに反して確かな何かを掴んだような物言いのリョウ。


「……あれが何なのか、知っているのか?」
「そうでなければこんな事言いやしないさ。確かに僕はあの屋敷を知っている……忘れもしない、“彼”の物なのだからね。」
「彼?」


 アリスの問いに懐かしむように、寂しそうに、反芻しつつ答えるリョウ――そして




「――――その名は“ロン‐クーロン”。世界の内にいながら、セカイの外を見ていた男だ。」




 聞き覚えのあるその男の名を、小さく、だが確かに呟いた。


 ……何処だろう?ここは。


 最後に見たモノはバールの部屋にいたあのバケモノ。あれがあたしの視界一杯を占拠して、次に気付けばここにいた。


「……………」


 周囲はウチじゃ想像も付かない高価そうな家具が置かれ、その下にこれまた高価そうな真っ赤な絨毯がくまなく敷かれている――テレビでしか見た事は無いけど、高級ホテルの一室って言ったところかな。


 他に付け加える事といえば、窓はあたしの視線の向こうに1つ。どうもこの部屋は酷く高い所にあるらしく、
 見た事も無い街の夜の夜景が爛々と、煌々と、煌き、あたしが寝転ぶ、見るからに高級そうで信じられないほどもふもふしたベッドは心地良いには心地良い。
 だけど……


「はぁ……」


 ただ、今のあたしにそれらを楽しむ余裕は無かった。
 戸にはがっちりと鍵が掛けられ、いくら開けようとしてもびくともしない。誰か呼んでも誰も来ないし、
 そもそも一体ここが何処なのかさえ、あたしには分からない。飲み物や簡単な食べ物などはきちんと置かれているが、それがこの状況に対する何の足しになるわけも無く


「ディー、ウェル、バール、アリスちゃん……みんな…………」


 ベッドで横になり、何処へとも無く呟く。
 その声は誰にも届かない。それが分かり、分かってしまい、元より分かっていながらも更に心細くなる。
 その身を震わせ、その肩を震わせ、自らを抱くように丸くなり、あたしの長い長い夜は、ゆっくりと更けていくのだった……




「……首尾は、上手くいったようねぇ。」


 何処とも知れぬ薄暗い一室。
 その中で一際紅く、揺れる影。蕩けるように甘く、甘美な声はだが、冷徹な意思を込めて吐かれる。


「ああ。ここまでは順調そのもの。多少余計な者まで連れて来た感はあるが……まぁ有効に使わせてもらうさ。」


 答える影は黒。
 この上なく黒く、沈むように腰掛ける。


「それにしてもアレーティア様ぁ?元々はこの時点であの子達、回収するつもりだったんでしょ?なんでまだ野放しにしとくわけ?」
「まだ彼らに宿るあれは弱い。ソートギガンティックを発動させた故にもしや……とは思ったが、シュバイゼン如きに如何こうされるようでは我等の目的に沿う力は発揮出来んだろう。それに――」
「それに?」


 小首を傾げる紅い影に、黒い影は


「如何様に転んだ所で全ては我等が父の掌の上。極めて滞りなく、着実に事は進んでいるよ。」


 薄らと、笑みを浮かべそう返したのだった。


                                                      Act.7_end

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