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廻るセカイ-Die andere Zukunft- Episode5

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『罪深き始祖……いや、シュタムファータァ。お前が戦うなんて初めてじゃねぇのか?』
『だとしても、引くわけにはいかないっ!』

白銀の機体が腰を軽く落とし、イェーガーに対して突貫する。

『獲物はねぇのか? あったとしても、負けねぇけどなっ……と』
シュタムファータァの放たれた拳は、イェーガーによって体ごと投げ飛ばされる。手首を捕まれ突っ込んできた威力でそのまま放り投げたのだ。

『きゃあああっ!』

悲鳴と共に白銀の機体が地面に沈む。だが機体の装甲に包まれているため投げられただけでは倒れることはない。
すぐさま起き上がるが、目の前にはイェーガーの拳が迫っていた。

咄嗟の防衛本能で両腕を盾のように構える。
だが肉弾戦を主軸として戦うイェーガーの拳撃は、そのような簡易的な防御を容易く貫いた。腕の追加装甲を陥没させ、シュタムファータァの体が再び吹き飛ばされる。

『シュタムファータァッ!大丈夫かよッ!』
『ヤスっちさん!?早く逃げて下さいっ!私は大丈夫ですから!』

その言葉と同時に起き上がり、イェーガーに向けて再び突撃する。必死に、何の型もないただの突撃。だがそんな突撃が格闘戦のプロフェッショナルであるイェーガーに通じるはずもなかった。

『無駄だ。何度やってもな。弱すぎるんだよ、お前』
そのままシュタムファータァの腕を押さえ込み、腹部に膝蹴りを叩き込む。そしてよろけた所に渾身の蹴りが放たれる。もう三度目、シュタムファータァが地面に倒れる。

「駄目だ、見てられないっ!」

ここでシュタムファータァに負けてもらっては困る。彼女が失ったら、揺藍の消滅は避けられない……!
自分の胸に手を当て、セカイを知覚する。シュタムファータァのセカイを、目の前で戦っている少女のセカイを。

「絶え間なく廻るセカイの下に我らが誓いを立てん!汝が名は罪深き始祖、シュタムファータァ!」

白銀の光がオレの胸から溢れ出て、体全体を包み込んでいく。そして、視界が晴れたと同時に衝撃がオレを襲う。

「うわっ……っと!シュタムファータァ、一度下がれっ!」
『ヤスっちさん!?何してるんですかっ!?』
「いいから下がれっ!」

オレがそう叫ぶと、シュタムファータァは後ろに後退しイェーガーと距離を取る。

『どうしたシュタムファータァ?ごり押しが通じなくなったら逃げるのか?』

イェーガーが挑発するように言うが、事実挑発しているのだろう。そのくらいの実力差がシュタムファータァとイェーガーにはある。
予想以上にシュタムファータァは弱かった。しっかりとした型に沿って戦っていたアーシェとは雲泥の差であるが……今は文句を言っている場合ではない。

「シュタムファータァ、オレがサポートするから、その通りに動いてくれ」
『そんな!ヤスっちさんがイェーガーと戦えるわけないです!』
「オレが戦うわけじゃねぇよ!あくまで動けるのはお前だろうがっ!」

実際にオレが操縦出来たら話は早かったのだが。ATTと操縦機構も同じだし。だが無い物ねだりをしても仕方ない!

「アイツは今たぶん油断してるっ!そこの隙を突けば!」

イェーガーはシュタムファータァを完全に舐めきっているはず。そしてその状況ならば勝機もある。
人間勝利を確信したときこそ一番油断する。元は人間と同じなんだ。リーゼンゲシュレヒト相手だろうと例外じゃないはずだ。
ましてオレはイェーガーの戦いを見るのはこれが初めてという訳じゃない。二度目である以上ある程度の動きの予測ができる。

「シュタムファータァ、前と同じように突っ込んで当たる直前で急停止。
 アイツはそのままお前が突っ込んで来ると思って腕を掴みにくるだろ。その一瞬の隙を突け、いいな?」

「そんなこと言われても……」
「ただ突っ込むだけよりはマシだっ」
「わかりましたよっ!」

シュタムファータァが自棄になったようにイェーガーに三度目の突撃。そして読み通りイェーガーはカウンターでシュタムファータァの腕を掴もうとする。

「(よし……!)」

内心ホッとする。だが、これで反撃の糸口になる……!
前によろけたイェーガーの頭部目掛けてシュタムファータァの拳が叩き込まれる。
イェーガーが顔面に直撃を食らい、数歩よろける。シュタムファータァは追い討ちを掛けようともう一発踏み込んだ。だが、その拳はイェーガーの手の平に防がれた。

「そうだ、それでいいんだよ」
「っ!?」

イェーガーの殺気の籠もった声に言葉にならない恐怖を感じ、咄嗟に下がろうとする。拳をイェーガーに捕まれているため体が途中で止まってしまう。

「放してっ!」
シュタムファータァが掴んでいる腕目掛けて膝蹴りを放つ。だが、何度蹴りをぶつけても拳が開放されることはなかった。

「狩りってのは、やっぱ難しい獲物ほど楽しいだろうがッ!」

そうイェーガーが叫ぶと同時にシュタムファータァの体を引き寄せ、鳩尾に肘を打ち込む。
腹部に伝わる衝撃に思わずシュタムファータァが身を屈めると、背中に再び肘打ちが放たれる。

その衝撃は、背中に展開されたプレートを易々と貫き本体にまで達した。背部装甲が陥没し、悲鳴と共にシュタムファータァが地面に崩れ落ちる。

「窮鼠猫を噛むってか。最後に少し驚かせてもらったが、まぁこの程度だろ」

イェーガーはそのまま地面に倒れ伏すシュタムファータァを蹴り飛ばす。

「おい、シュタムファータァ!大丈夫かよっ!シュタムファータァ!」

一部始終を画面から見ていた。幸いどういう原理かはわからないがオレの方にまで強大な衝撃は来ることはなく、振動だけで済んだ。
だが、攻撃を食らう度に悲鳴を上げるシュタムファータァにたいしてオレはただ呼び掛けることしかできなかった。

何が、予想できるだ。何が、自分が操縦できればだ。どの道これじゃあ結果なんて変わらなかっただろう。
全ての小細工を真っ向からねじ伏せる圧倒的な実力差。考えてみれば当然のことだったのだ。アイツは組織に所属している"プロ"。そんなヤツ相手に素人が勝てるはずがなかったのだ。
白銀の光が目の前を覆い、晴れた先には地面に倒れ伏したシュタムファータァと、しっかりと地面に自分の足で立っているオレ。そして―――

悠然と眼前に立ち塞がる、"赤銅色の狩人"―――。
イェーガーはリーゼンゲシュレヒト状態を解除し、オレたちの前に歩いてくる。
そして膝をついたオレの胸倉を掴み上げ、強制的に立ち上がらせられる。だが、イェーガーの長身だとオレの足がつかないために首が圧迫されていく。

「ッ……ぐっ……!」
「お前さぁ。リーゼンゲシュレヒトをなんかのロボットアニメかなんかと勘違いしてねぇか?」
「んなこと……! っ痛ッ!」

そのまま手を離され地面に落とされる。痛みはあったが呼吸ができるようになったのが救いだ。

「わからなくもねぇんだよ。事実"セカイの意志"にもそういうヤツがいないわけじゃあねぇ。ただな」

地面にしゃがみこみながら息を整えているオレに対して腹部にイェーガーの足がめり込む。蹴られたと理解したのは、激痛の後だった。

「そういう奴等は正式な手続きを経て"セカイの意志"にいる立派な社会人だ。それに比べてお前はなんだ?
揺籃を守りたいとかいう大義名分を得て、ロボットに触りたい―――非日常を体験したいとかいう餓鬼の好奇心だろ?」
「……違、う……オレはッ……」

腹部に残る激痛に息も絶えながら、なんとか否定の言葉を絞り出す。

「違くねぇんだよ餓鬼。じゃあ聞くが、なんで誰かに相談しなかった? 信じてもらえるかわからなかった? いいや、んなのはシュタムファータァのツテでなんとかできるよなぁ。つまりさぁお前、本気じゃねぇんだわ」

イェーガーは喋りながらオレに暴行を加え続けた。何度も何度も。オレに出来たことと言えば、惨めに体を丸めながら耐えることだけだった。

「体験談を話してやろう。二年前くらいかなぁ、オレが中東の街を消しに行ったときの話だ。
そこの地区担当のリーゼが地元住民に殺されたんで、オレが行ったんだがひどかったぜアレは。まだ9、10歳とかそこらの餓鬼に爆弾持たせてオレ見た瞬間に突っ込ませるんだわ」

再びイェーガーはオレの胸倉を掴み上げる。そして、狩人の如き鋭い瞳でオレの眼を射抜いた。

「餓鬼の腕が目の前で爆散して、頭も内蔵も吹っ飛んで。血と臓器と脳髄がリーゼ状態のオレにかかってな。オレに傷一つ付けられなかったが。ただオレは怖かったぜ正直。
今まで色んな修羅場潜ってきたが、人間の本気ってヤツが一番怖ぇんだよ。大の大人が助かるために餓鬼にそこまでやらせるんだぜ?そこまで本気なんだぜ? お前には、そこまでの覚悟はあるのかよ?」

そして、その言葉と共に―――イェーガーの手刀が、オレの腹部に突き刺さった。
鈍い液体が滴る音がし、オレの腹からイェーガーのオレの血で真っ赤に染まった手が引き抜かれる。
悲鳴すら、上げられなかった。悲鳴を上げる余裕もない。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い―――!全ての感情が痛みに支配されていく。

「お前は"運"が良いから助かるだろ。 だから、この痛みを噛み締めて生きるこったな」

腹部に襲う焼けるような痛みで目の前の景色が朦朧とし、地面に倒れる。痛みから逃れたい。死にたくない。それだけしか考えられなかった。

「ヤスっちさんに……何をしたぁっ!」
突如シュタムファータァの悲痛な叫びと共に白銀の拳がイェーガーに放たれる。だが間一髪横に飛んで回避されてしまう。

「うぉっ、お前まだ動けたのかよっ」
イェーガーも再び赤銅色の装甲に身を包み、シュタムファータァと真正面から対峙する。

「お前はっ!お前はっ!許さないっっっ!」

先程とはまるで段違いのスピードでイェーガーに放たれる拳。
だが、それをイェーガーは軽々と受け止める。そしてそのまま腕をひねり上げ地面に組み伏せる。

「ふぅ……怖ぇ怖ぇ。さすがにリーゼンゲシュレヒトっても中身はヒトだしな。こうも完全に関節決めてやりゃあ動けんだろ。
「放せっ……。放してよっ……!」

白銀の巨人が精一杯のあがきとばかりに地面を這いつくばるが、腕の関節を決められているため動けるはずもなかった。
加えて先ほどのダメージも残っている。それでも動けたのはリーゼンゲシュレヒトが精神力に強く影響されるからだろう。

「なぁシュタムファータァ。いい取引がある」
「取り引き……!?」

そう言うとイェーガーは若干腕の拘束を緩め、静かに口を開いた。

「俺としてはお前等みたいな雑魚、相手にしてもつまらんから早く帰って別の任務に行きたいんだ。で、お前の今の望みはなんだ……?」
「それは、貴方を止めること……!」
「違うよなぁ?本当は違うはずだ。その坊主を助けたいからだろ? まぁ、オレを止めれば結果的に助かるから間違ってもいねぇか」

今や安田俊明は危険な状態だ。今すぐ死ぬような傷でもないが長い時間はもたないだろう。

「お前が今日揺藍を消せば、この坊主だけは助けてやろう」
イェーガーのその言葉は、シュタムファータァの心を強く揺るがすものだった。

「そんなこと!信じられるわけないじゃないですかっ!」

「オレは社会人だ。オレがわざわざ面倒な手続き踏んで揺藍消すより、お前に消してもらった方が遥かに楽なんだよ。
 セカイの意志にとっても、貴重な"エクスツェントリシュ"であるお前を失わずに済む。ま、お前はこの揺籃消したあとでも
この坊主と仲良くやりゃあいいじゃねぇか。揺籃消したらお前に当分新しい任務は来ないだろうし、その坊主が揺籃の人間でも
わざわざそいつを殺すためだけにリーゼなんて寄越さないだろうしな。安全は保障してやるよ」

たしかに非常に良い条件ではある。
つまり、自分の命と安田俊明の命が助かるか、全員このまま死ぬか。
そのどちらかを選べということ。非常に、残酷かつシンプルな話だった。

「私、私は、そんなこと……」
「じゃあ今すぐ死ぬか?悪い条件じゃねぇと思うんだがなぁ。……そうだ、おいシュタムファータァ、リーゼ状態を解け」

イェーガーにそう言われ、従うしかないこの状況で解除せざるを得なかった。白銀の巨人から小さな少女の姿に戻る。
それに合わせてイェーガーもヒトの姿に戻り、何を思ったのか虫の息の安田俊明を抱えてくる。そして地面に放り投げた。

「ヤスっちさんっ!」

シュタムファータァが駆け寄る。が、あと少しで彼に触れられる……といったところでイェーガーに地面に組み伏せられてしまう。

「痛っ……!何を……!?」
「何を、じゃねぇよ。元々拘束してただろうが」

リーゼ状態ですら動けなかったのに、、ヒト同士ではこの小さな体がこんな大男に拘束されていては動けるはずもなかった。

「さっきの条件が飲めないなら、このままこの坊主が死ぬまでそこで見てろ。その苦しむ顔を……死ぬまでずっと、な」

シュタムファータァの顔を強制的に前に向けさせ、腹部の激痛に顔を歪め悶え苦しんでいる安田俊明の顔と向かい合わせにさせられる。

「イェーガーっ!貴方はっ!それでもっ!」
「それでも人ですか……ねぇ。会社のやることに反発して、だだこねてるガキにとやかく言われる筋合いはねぇよ」

シュタムファータァはなんとか拘束から逃れようとするが、それも敵うはずはなかった。
イェーガーにとっては、紙一枚を全力で押さえているようなものなのだから。

「その坊主……もってあと30分ってところか? こっから病院まで遠いからなぁ。
20分はかかるだろうな。てことは、あと10分で決めあないとこの坊主の命はないぞ」

イェーガーに静かに現実を告げられ、シュタムファータァの顔が涙で歪む。
結局はこのザマなのかと。彼を守ると言っておいて、イェーガーに何もできず敗北しただけ。
心臓が壊れてしまうかと思うくらいの無力感が彼女を襲う。結局何年生きていようが、外見相応の力しかないのかと。

「泣くなガキ。泣いたってどうにもなんねぇんだよ。現実ってのはそうだ。一応社会人なんだ、受け入れろ」

「いやいや、小さな女の子が泣いているとスーパーヒーローが助けに来るんだぞ?知らなかったか?」

その言葉がイェーガーには聞こえなかっただろう。その台詞をオレ……安田俊明が知覚できたのは、イェーガーが吹き飛んでからだった。

「二度目だな少年。はっはっは。死にそうじゃないかね」
「ッ……!ッあ……!……!」

何か言葉にしようと思うが激痛でその余裕もない。無様に地面を這いつくばるだけだった。

「貴女は、一体誰ですか……?」

シュタムファータァが朦朧としたような、今だ現状を理解できていないのだろう。 突如現れた人物に問いかけた。

「私は正義のヒーロー、"八上の白瑠璃" リーゼンゲシュレヒト・ハーゼ。後ろの二人は私の部下だ」

銀髪の長い髪を揺らした20歳くらいの女性、ハーゼがそう言うと、後ろから赤髪の男とアーシェが出てくる。

「私は"利殖の賢者"リーゼンゲシュレヒト・イデアール。ハーゼの助手をやっています」
「……"灰燼の掃除人"、アーシェ」

自己紹介されるが正直それどころではなかった。激痛でそんなのを考えてる余裕もない。
せっかく意識が朦朧としていたというのに、ハーゼの登場ですっかり意識が戻ってしまった。

「おい、ハーゼッ! やっぱりてめぇか! 昨日オレを蹴り飛ばしやがったのは!」

地面に立膝をついていたイェーガーがハーゼを睨みつける。今回は二度目だからなのか、ハーゼの飛び蹴りを腕で防ぐことができていた。

「すまんなイェーガー。私としても仕事以外で"セカイの意志"に関わるつもりもないんだがな。
今回はちょっと特殊な依頼でね。訳あって守らせてもらってる」

「ハッ、マジでやってくれるぜ……。あんまそういうことやってっとセカイの意志から発注来なくなるぞ?」
「いいや、"こいつ"が完成すれば、嫌という程発注が来るはずだよ」

ハーゼが指を鳴らす。そして轟音と地響きと共に廃墟の影から6体の巨人が現れる。
兎のような長い耳にも似たブレードアンテナに、黒いライフル銃のような武器を持った白色の機体。

「我が"ハーゼ技術開発局"の完全自律行動型オートマタ、"タイプ・ヘーシェン"。まぁ、これらはまだ概念実証機だから完成ではないがね」

ヘーシェンと呼ばれたオートマタがイェーガーを取り囲む。銃口は真っ直ぐイェーガーに向けられている。

「リーゼンゲシュレヒトの模造品ごときが、オレに敵うとでも?」
「さすがにお前には敵わないだろう。だが、こんな良い実戦テストの機会はないんでね。気持ちよくぶっ壊してくれて構わないぞ」

イェーガーの姿が再び赤銅色の装甲に包まれる。だが、先ほどまでと違い両手にはトンファーのような武器が握られていた。

「ま、シュタムファータァじゃ物足りなかったとこだ。こいつらでもまだ前菜程度だが……まぁ、肩慣らしにはなんだろ。
 リーゼンゲシュレヒトの力ってのを教えてやるよ、オートマタ共。 かかってこいッ!」

イェーガーのトンファーの先端が紅く光る。そのセカイに反応して、ヘーシェンたちは標的目掛け一斉に引き金を引いた。


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