第一話 出撃!! JSDFダイガスト!!
軍楽を思わせる仰々しいファンファーレと供に、テレビ画面に大きくGBCとのロゴが映し出された。
地球各所に散らばる雑多な言語を解析した彼等、ギャラクシー・ブロードキャスト・カンパニーは、放送開始から一月にして、地球全土に『限定戦争』の様相を伝え始めていた。
ほぼ毎日のように地球のどこかで『開催』される領土戦争。未開惑星の蛮土を切り取るこの儀式が、娯楽としてお茶の間に供されるようになって久しい。
銀河列強諸国の市民、臣民は、スポーツ番組のように彼等の星の代表団たる兵士達に拍手喝采をおくる。
一方で、民主主義の名の元、地球人類に対してもそれらの映像は配信されていた。
外宇宙からの悪意によって形作られたその番組は、およそ地球人類にとって楽しからざる内容に充ちている。
最初(はな)から地球人を対等と見なしていない列強よりのリポーターのトークに始まり、CMには各列強主星の観光案内と、列強各軍の装備の玩具とフィギュア。
CMがあけると攻勢に参加する兵士のプロフィールが紹介され、その友人家族までが出てきてエールを送る。
当然、地球人側のコーナーは無きに等しい。
ボクシングや格闘技の試合か、はたまた高校野球か。ことに世界規模でジリ貧の撤退を繰り返している地球人類には、しらける事この上ない。
その日の限定攻勢の舞台は日本。
調度CMあけのエース紹介を終え、試合ならぬ攻勢開始まで10分を切り、攻撃を行う帝政ツルギスタン軍の行軍風景がテレビ画面に映し出される。
まずは土煙を立てて横隊を組んだ五つの影。お椀の下から生やした太い足で理路整然と隊列を組む様は、まさに侵略者の戦闘機械だ。
椀状の上半身からは装甲に包まれた腕も突き出ており、左には小楯、右には馬上槍のような武器を携帯している。全高は30メーター強。
ただでさえ非現実的――それと戦わせられる軍人にとっては悪夢――な光景は、その後ろにそびえ立つ影により、止めを刺される。
有り体に言うと、それは刃を下にして直立した、40メートルオーバーの巨剣だった。
それもファンタジーの悪役が持つような刺々しい装飾と、赤黒いペイントとで禍々しく彩られている。
両翼を広げたような柄飾りの両端には、肘から先が剣になったゴツイ腕がぶら下がり、威圧感をいや増していた。
まさに地獄の軍勢とでも言おうか。初めて見た不幸な者が何事かと目を疑おう頃合いに、ボイスオンリーになっている実況中継の解説者がようやく口を開いた。
「さぁ、限定攻勢三度目ともなりますと、帝政ツルギスタン外征旅団も堂に入って参りました。
ホッカイドウを奪取した実績が、その精強さの裏打ちをしております。
先ずお茶の間の皆様のお目に入りますのは、ツルギスタンMBM(メイン・バトル・マシン)儀仗兵ランツェ。
見事な隊列を組んでおります。その後ろに悠然と、そして雄々しい姿を見せますはツルギスタンの切り札、ブレーディアンであります。
その戦闘能力は同クラスの列強諸兵器でもトップクラスとの誉れ高き、ツルギスタン帝室の象徴です。
パイロットは外征旅団に隠れもない、燦然たる武功を誇る野戦指揮官、アフバルト・シュバウツァー大刃士。
本日は如何なる活躍を見せ、お茶の間の皆様を楽しませてくれるのでしょうか。
対するニッポンのジエイタイは、事前申告によりますと、相も変わらずの旧型、キューマルシキ戦闘車両です。
ツルギスタン・パイロット達は存分に撃破数を増やすことでしょう。
いかがでしょうか、解説のリッケントロップさん」
「はい、仰る通りとなるでしょう。いかな1600年以上の歴史を持つ皇国と言えど、
旧弊は否めないのでしょう。列強の進歩的民主主義に抗い得る訳ではないのです」
「早期の旧態然とした支配からの解放が望まれますね」
「特にジエイカン達の自殺的な戦闘行為貫徹は、列強諸国間でも戦争犯罪ではないかと問題となっています。
彼等蛮族の兵もツルギスタンから学ぶことが多いと思うのですが…」
「まったくですね」
フンと鼻を鳴らし、東和樹(アズマカズキ)三佐はテレビの主電源を手荒く落とした。幕下の自衛官がリモコンを渡そうと手に取ったまま、手持ちぶさたにしている。
「…どちらが蛮族か」
東三佐は堪えきれないように一言漏らすと、長机の上の地図に目を落とした。青森西部、自衛隊小谷演習場。
冬季山岳訓練に格好の舞台となる、山地と平野とが入り組んだ地形が描かれてはいるが、今この瞬間、その地図に意味は存在しなかった。
どうせ敵は馬鹿正直に平野部を突き進んでくる。地形を利用しないし、陣地を築くこともない。奴らは常に限られた兵力でもって、正面攻撃をかけてくる。
名乗りを上げての騎兵突撃か、馬鹿馬鹿しい。
東三佐はいたたまれない気分になり、野戦陣地の指令テントを後にした。そこにテレビがあったのは、GBCのバラエティ枠の番組の方が余程、直前までの敵情を伝えているからだ。
「だからといって…」
テントの外に居並んだ深緑の戦車の列を目の当たりにし、しかし彼は一縷の安心も抱けなかった。
主力戦車論によるところの第三世代戦車90式戦闘車両は、恒星間航行能力を持つ異星文明に対して無力であった。
ラインメタル社製120㎜滑腔砲は敵性兵器の装甲に無惨に弾かれ、
最新技術を惜しげもなく投入した快速な足回りを実現するはずのキャタピラは、それ以上の技術でもって作られた二本の足に及ばなかった。
日本が誇る冶金技術の粋を集めた複合装甲は、30メーターの人型が繰り出す純粋な物理衝撃の前に紙切れ同然に引き裂かれた。
ターレットのコマンダーズキューポラから顔を覗かせている幾人かの戦車長達は、強張った顔の者、
青ざめた者、呆けたような者、実に様々だったが、士気の低さだけは共通していた。
無理もない。東三佐は自分の中にもあるだろう、彼等と同じ感情のうねり――あるいは麻痺――に、拳を強く握り締める。
彼等は敗残兵だった。二度に渡るツルギスタンの攻撃に為す術もなく敗退し、北海道を守りきれず、
かといって死ぬことも出来ず、幸か不幸か青森死守戦に投じられた兵達。
皆、色々なことに疲れ切っていた。
これが負けると言うことか。
兵の前であることも忘れ、東三佐の顔からも覇気が抜けてゆきそうになる。
もともと覇気や威圧感には不自由していない、引き締まった顔貌と体躯とを誇っていたが、
いまやそこにうち続く撤退戦で伸びた無精髭が加わり、野犬のような悽愴な色合いを帯びていた。
いまさら覇気の一つが抜けたところで、なにをか睨み付けているようにしか見えないのは救いだったが。
と、そこへ本部テントから通信士が飛びだしてきた。
「三佐、『サンボン』から通信が…」
サンボンとは旧軍時代の参謀本部を指す隠語だった。現在は勿論存在しないが、幕僚長達からの通信を誰とも無くそう呼んでいた。
東三佐は通信士に一度頷くと、テントに戻りレシーバーを手に取る。
通信機の向こうにいたのは幕僚長どころでなく、内閣総理大臣その人であった。
「苦労をかけているな」
総理大臣、国場道昭(クニバミチアキ)はテレビで見る限り初老の域に入っているものの、張りのある声だった。聞いていると、自然と背筋が伸びてくる。
「苦労ついでにもう一つ、統幕議長と私からの頼みを聞いて欲しい」
「…つまりは命令ですね」
「君たちには承伏しかねる類かも知れないが…」
「何しろ、こんなのでも戦争ですからね。総員、靖国に凱旋する覚悟は出来ています」
「…噂通りの気骨ある人物のようだな。ならば一層、履行には覚悟が要るだろうが…撤退してくれ」
「何ですと?」
東は頓狂な声をあげていた。それから自分の頭の中にある様々な要素が、総理の言葉に停滞を許さず、野戦指揮官としての義務を果たさせようと動き出した。
「富士の機甲部隊とでも交代ですか?それとも関東一円から攻撃ヘリでも?」
「聞いて驚き給えよ」
直後、総理の口から出た言葉は、東三佐に撤退を伝えたときより頓狂な叫びを飛び出させるのだった。
地球各所に散らばる雑多な言語を解析した彼等、ギャラクシー・ブロードキャスト・カンパニーは、放送開始から一月にして、地球全土に『限定戦争』の様相を伝え始めていた。
ほぼ毎日のように地球のどこかで『開催』される領土戦争。未開惑星の蛮土を切り取るこの儀式が、娯楽としてお茶の間に供されるようになって久しい。
銀河列強諸国の市民、臣民は、スポーツ番組のように彼等の星の代表団たる兵士達に拍手喝采をおくる。
一方で、民主主義の名の元、地球人類に対してもそれらの映像は配信されていた。
外宇宙からの悪意によって形作られたその番組は、およそ地球人類にとって楽しからざる内容に充ちている。
最初(はな)から地球人を対等と見なしていない列強よりのリポーターのトークに始まり、CMには各列強主星の観光案内と、列強各軍の装備の玩具とフィギュア。
CMがあけると攻勢に参加する兵士のプロフィールが紹介され、その友人家族までが出てきてエールを送る。
当然、地球人側のコーナーは無きに等しい。
ボクシングや格闘技の試合か、はたまた高校野球か。ことに世界規模でジリ貧の撤退を繰り返している地球人類には、しらける事この上ない。
その日の限定攻勢の舞台は日本。
調度CMあけのエース紹介を終え、試合ならぬ攻勢開始まで10分を切り、攻撃を行う帝政ツルギスタン軍の行軍風景がテレビ画面に映し出される。
まずは土煙を立てて横隊を組んだ五つの影。お椀の下から生やした太い足で理路整然と隊列を組む様は、まさに侵略者の戦闘機械だ。
椀状の上半身からは装甲に包まれた腕も突き出ており、左には小楯、右には馬上槍のような武器を携帯している。全高は30メーター強。
ただでさえ非現実的――それと戦わせられる軍人にとっては悪夢――な光景は、その後ろにそびえ立つ影により、止めを刺される。
有り体に言うと、それは刃を下にして直立した、40メートルオーバーの巨剣だった。
それもファンタジーの悪役が持つような刺々しい装飾と、赤黒いペイントとで禍々しく彩られている。
両翼を広げたような柄飾りの両端には、肘から先が剣になったゴツイ腕がぶら下がり、威圧感をいや増していた。
まさに地獄の軍勢とでも言おうか。初めて見た不幸な者が何事かと目を疑おう頃合いに、ボイスオンリーになっている実況中継の解説者がようやく口を開いた。
「さぁ、限定攻勢三度目ともなりますと、帝政ツルギスタン外征旅団も堂に入って参りました。
ホッカイドウを奪取した実績が、その精強さの裏打ちをしております。
先ずお茶の間の皆様のお目に入りますのは、ツルギスタンMBM(メイン・バトル・マシン)儀仗兵ランツェ。
見事な隊列を組んでおります。その後ろに悠然と、そして雄々しい姿を見せますはツルギスタンの切り札、ブレーディアンであります。
その戦闘能力は同クラスの列強諸兵器でもトップクラスとの誉れ高き、ツルギスタン帝室の象徴です。
パイロットは外征旅団に隠れもない、燦然たる武功を誇る野戦指揮官、アフバルト・シュバウツァー大刃士。
本日は如何なる活躍を見せ、お茶の間の皆様を楽しませてくれるのでしょうか。
対するニッポンのジエイタイは、事前申告によりますと、相も変わらずの旧型、キューマルシキ戦闘車両です。
ツルギスタン・パイロット達は存分に撃破数を増やすことでしょう。
いかがでしょうか、解説のリッケントロップさん」
「はい、仰る通りとなるでしょう。いかな1600年以上の歴史を持つ皇国と言えど、
旧弊は否めないのでしょう。列強の進歩的民主主義に抗い得る訳ではないのです」
「早期の旧態然とした支配からの解放が望まれますね」
「特にジエイカン達の自殺的な戦闘行為貫徹は、列強諸国間でも戦争犯罪ではないかと問題となっています。
彼等蛮族の兵もツルギスタンから学ぶことが多いと思うのですが…」
「まったくですね」
フンと鼻を鳴らし、東和樹(アズマカズキ)三佐はテレビの主電源を手荒く落とした。幕下の自衛官がリモコンを渡そうと手に取ったまま、手持ちぶさたにしている。
「…どちらが蛮族か」
東三佐は堪えきれないように一言漏らすと、長机の上の地図に目を落とした。青森西部、自衛隊小谷演習場。
冬季山岳訓練に格好の舞台となる、山地と平野とが入り組んだ地形が描かれてはいるが、今この瞬間、その地図に意味は存在しなかった。
どうせ敵は馬鹿正直に平野部を突き進んでくる。地形を利用しないし、陣地を築くこともない。奴らは常に限られた兵力でもって、正面攻撃をかけてくる。
名乗りを上げての騎兵突撃か、馬鹿馬鹿しい。
東三佐はいたたまれない気分になり、野戦陣地の指令テントを後にした。そこにテレビがあったのは、GBCのバラエティ枠の番組の方が余程、直前までの敵情を伝えているからだ。
「だからといって…」
テントの外に居並んだ深緑の戦車の列を目の当たりにし、しかし彼は一縷の安心も抱けなかった。
主力戦車論によるところの第三世代戦車90式戦闘車両は、恒星間航行能力を持つ異星文明に対して無力であった。
ラインメタル社製120㎜滑腔砲は敵性兵器の装甲に無惨に弾かれ、
最新技術を惜しげもなく投入した快速な足回りを実現するはずのキャタピラは、それ以上の技術でもって作られた二本の足に及ばなかった。
日本が誇る冶金技術の粋を集めた複合装甲は、30メーターの人型が繰り出す純粋な物理衝撃の前に紙切れ同然に引き裂かれた。
ターレットのコマンダーズキューポラから顔を覗かせている幾人かの戦車長達は、強張った顔の者、
青ざめた者、呆けたような者、実に様々だったが、士気の低さだけは共通していた。
無理もない。東三佐は自分の中にもあるだろう、彼等と同じ感情のうねり――あるいは麻痺――に、拳を強く握り締める。
彼等は敗残兵だった。二度に渡るツルギスタンの攻撃に為す術もなく敗退し、北海道を守りきれず、
かといって死ぬことも出来ず、幸か不幸か青森死守戦に投じられた兵達。
皆、色々なことに疲れ切っていた。
これが負けると言うことか。
兵の前であることも忘れ、東三佐の顔からも覇気が抜けてゆきそうになる。
もともと覇気や威圧感には不自由していない、引き締まった顔貌と体躯とを誇っていたが、
いまやそこにうち続く撤退戦で伸びた無精髭が加わり、野犬のような悽愴な色合いを帯びていた。
いまさら覇気の一つが抜けたところで、なにをか睨み付けているようにしか見えないのは救いだったが。
と、そこへ本部テントから通信士が飛びだしてきた。
「三佐、『サンボン』から通信が…」
サンボンとは旧軍時代の参謀本部を指す隠語だった。現在は勿論存在しないが、幕僚長達からの通信を誰とも無くそう呼んでいた。
東三佐は通信士に一度頷くと、テントに戻りレシーバーを手に取る。
通信機の向こうにいたのは幕僚長どころでなく、内閣総理大臣その人であった。
「苦労をかけているな」
総理大臣、国場道昭(クニバミチアキ)はテレビで見る限り初老の域に入っているものの、張りのある声だった。聞いていると、自然と背筋が伸びてくる。
「苦労ついでにもう一つ、統幕議長と私からの頼みを聞いて欲しい」
「…つまりは命令ですね」
「君たちには承伏しかねる類かも知れないが…」
「何しろ、こんなのでも戦争ですからね。総員、靖国に凱旋する覚悟は出来ています」
「…噂通りの気骨ある人物のようだな。ならば一層、履行には覚悟が要るだろうが…撤退してくれ」
「何ですと?」
東は頓狂な声をあげていた。それから自分の頭の中にある様々な要素が、総理の言葉に停滞を許さず、野戦指揮官としての義務を果たさせようと動き出した。
「富士の機甲部隊とでも交代ですか?それとも関東一円から攻撃ヘリでも?」
「聞いて驚き給えよ」
直後、総理の口から出た言葉は、東三佐に撤退を伝えたときより頓狂な叫びを飛び出させるのだった。
銀河列強諸国は汎人類種恒星間文明である。
その姿形に大した違いがない、ホモ・サピエンスによる文明群ということだ。
特にツルギスタン主星は地球と変わらぬ1Gのため、面白味が無いほど両者に外見的差違は存在しなかった。
ブレーディアンのコクピットに座するアフバルト・シュウバウツァー大刃士――大抵の軍隊に於ける大尉相当――も、その外見はさながら大時代的な貴族士官そのものだ。
青を基調とした古めかしい騎兵将校のような軍服は、肩やら胸やらに金の飾り紐が幾本もはしり、宝塚歌劇の『薔薇』でも使用に耐えそうな豪奢なものだ。
それに身を包んだアフバルトも、高く、形の整った鼻梁に、切れ長の目と、その中に浮かぶ青い瞳とが大層印象的な、地球で言うところの典型的美形の白人だった。
ご丁寧に長めに伸ばした柔らかなブロンドまで見せられると、ツルギスタンの軍人というのはこういうものなのだなと、むしろ納得できるというものだ。
年の頃は二十代の半ばか、そろそろ職務が身に染みて、覇気と優雅さとに形を成しつつある。
「ジエイタイの陣容が変更?」
アフバルトは後方の司令部から届いた通達に形の良い眉毛を歪めた。
理由が解らない。自衛隊の大規模な移動は察知されていない。であるなら、単なる放棄か。それも考えづらかった。
過去二度に渡る自衛隊員達の奮戦ぶりは、彼等の常識を上回っていた。一部のパイロットに恐怖感を植え付けるほどだった。
ある戦車が歩兵を守るために儀仗兵の槍の前に立ちはだかったことがあった。
また、ある戦車はキャタピラが切れても固定砲台となり、貫けもしない滑腔砲を撃ち続けた。
歩兵達は虎視眈々と戦車の影から対戦車ロケットを撃つチャンスを窺っていた。
まさに蛮勇と言うべきか。あれを見た後では、理由もない撤退はあり得ない、アフバルトは確信を得ていた。
「敵手はホッカイドウから下がり続けている『ノーザン・ブル』機甲師団ではないのか?」
「いえ、詳細がハッキリしないのですが…『ボランティア』であると…」
「『無償奉仕』だと?翻訳コミュニケーターが壊れていたのではないか?」
「ああ、いえ、『義勇兵』という意味もあるそうです、地球においては。むしろ『義勇兵』が語源なようですね。国家間で公に救援を送れない場合に執られる志願兵制度らしいです」
「なかなか複雑だな、地球の言葉というのは…レーダーが何か捉えた、一端切るぞ」
「御武運を!」
アフバルトはシートから気持ち、体を乗り出すと、前面モニターの一角を見据えた。
異性文明の兵器と言っても、そこは兵器だけあり、我々の知るコクピットとさして変わらない。必要最低限の設備を、結果的にはコクピット中にバラ巻く配置で。
「なんだと?」
アフバルトは疑問の言葉を口にすると、出撃前に時刻を合わせた腕時計を確認した。
約定の戦闘開始時刻まで、あと三分。が、『皇国人』が入谷演習場と呼ぶ原野に、敵影は二つしかない。
いつもの90式戦闘車両と、その上空を旋回するF-15/J戦闘機。
「隊長、連中、我々を舐めているのですか?」
儀仗兵のパイロットから嘲笑混じりの通信がはいる。
そんな筈はないだろう、自衛隊はこちらの戦闘力を自らの出血でもって熟知しているはずだ。
アフバルトは返事を返す前に、敵機を視認したブレーディアンのメインコンピューターからの反応を待った。彼の辞書には楽観も悲観も存在しなかった。
案の定、異変はすぐに出た。二機の発する赤外線量が尋常でない。
しかもF-15/Jは認識確度が65パーセントといって、コンピューターが小首を傾げている状態。
90式戦車に至っては、形状から予測する確度は90パーセントだが、それ以外の要因により同車両との認識は不可能、との判断が下されている有様だった。
何事かとアフバルトは計測した諸元をディスプレイから読みとる。軽い目眩を覚えた。あの90式戦車は『形こそ同じだが、サイズは二倍』との判断が下されていた。
「…諸君、どうやら皇国人は何かをする気らしいぞ」
アフバルトが各機に注意を促すと、いかにも戦意の高い歓声が返ってくる。勇ましい蛮声と言っても良い。
だが、ツルギスタンの将兵は『皇国人』の本当の反撃が、まだ始まっていない事を思い知ることになる。
戦闘開始を告げる喇叭の音が、入谷演習場に鳴り響いた。
その姿形に大した違いがない、ホモ・サピエンスによる文明群ということだ。
特にツルギスタン主星は地球と変わらぬ1Gのため、面白味が無いほど両者に外見的差違は存在しなかった。
ブレーディアンのコクピットに座するアフバルト・シュウバウツァー大刃士――大抵の軍隊に於ける大尉相当――も、その外見はさながら大時代的な貴族士官そのものだ。
青を基調とした古めかしい騎兵将校のような軍服は、肩やら胸やらに金の飾り紐が幾本もはしり、宝塚歌劇の『薔薇』でも使用に耐えそうな豪奢なものだ。
それに身を包んだアフバルトも、高く、形の整った鼻梁に、切れ長の目と、その中に浮かぶ青い瞳とが大層印象的な、地球で言うところの典型的美形の白人だった。
ご丁寧に長めに伸ばした柔らかなブロンドまで見せられると、ツルギスタンの軍人というのはこういうものなのだなと、むしろ納得できるというものだ。
年の頃は二十代の半ばか、そろそろ職務が身に染みて、覇気と優雅さとに形を成しつつある。
「ジエイタイの陣容が変更?」
アフバルトは後方の司令部から届いた通達に形の良い眉毛を歪めた。
理由が解らない。自衛隊の大規模な移動は察知されていない。であるなら、単なる放棄か。それも考えづらかった。
過去二度に渡る自衛隊員達の奮戦ぶりは、彼等の常識を上回っていた。一部のパイロットに恐怖感を植え付けるほどだった。
ある戦車が歩兵を守るために儀仗兵の槍の前に立ちはだかったことがあった。
また、ある戦車はキャタピラが切れても固定砲台となり、貫けもしない滑腔砲を撃ち続けた。
歩兵達は虎視眈々と戦車の影から対戦車ロケットを撃つチャンスを窺っていた。
まさに蛮勇と言うべきか。あれを見た後では、理由もない撤退はあり得ない、アフバルトは確信を得ていた。
「敵手はホッカイドウから下がり続けている『ノーザン・ブル』機甲師団ではないのか?」
「いえ、詳細がハッキリしないのですが…『ボランティア』であると…」
「『無償奉仕』だと?翻訳コミュニケーターが壊れていたのではないか?」
「ああ、いえ、『義勇兵』という意味もあるそうです、地球においては。むしろ『義勇兵』が語源なようですね。国家間で公に救援を送れない場合に執られる志願兵制度らしいです」
「なかなか複雑だな、地球の言葉というのは…レーダーが何か捉えた、一端切るぞ」
「御武運を!」
アフバルトはシートから気持ち、体を乗り出すと、前面モニターの一角を見据えた。
異性文明の兵器と言っても、そこは兵器だけあり、我々の知るコクピットとさして変わらない。必要最低限の設備を、結果的にはコクピット中にバラ巻く配置で。
「なんだと?」
アフバルトは疑問の言葉を口にすると、出撃前に時刻を合わせた腕時計を確認した。
約定の戦闘開始時刻まで、あと三分。が、『皇国人』が入谷演習場と呼ぶ原野に、敵影は二つしかない。
いつもの90式戦闘車両と、その上空を旋回するF-15/J戦闘機。
「隊長、連中、我々を舐めているのですか?」
儀仗兵のパイロットから嘲笑混じりの通信がはいる。
そんな筈はないだろう、自衛隊はこちらの戦闘力を自らの出血でもって熟知しているはずだ。
アフバルトは返事を返す前に、敵機を視認したブレーディアンのメインコンピューターからの反応を待った。彼の辞書には楽観も悲観も存在しなかった。
案の定、異変はすぐに出た。二機の発する赤外線量が尋常でない。
しかもF-15/Jは認識確度が65パーセントといって、コンピューターが小首を傾げている状態。
90式戦車に至っては、形状から予測する確度は90パーセントだが、それ以外の要因により同車両との認識は不可能、との判断が下されている有様だった。
何事かとアフバルトは計測した諸元をディスプレイから読みとる。軽い目眩を覚えた。あの90式戦車は『形こそ同じだが、サイズは二倍』との判断が下されていた。
「…諸君、どうやら皇国人は何かをする気らしいぞ」
アフバルトが各機に注意を促すと、いかにも戦意の高い歓声が返ってくる。勇ましい蛮声と言っても良い。
だが、ツルギスタンの将兵は『皇国人』の本当の反撃が、まだ始まっていない事を思い知ることになる。
戦闘開始を告げる喇叭の音が、入谷演習場に鳴り響いた。
F-15戦闘機とは70年代に於ける技術の未熟さを、潤沢な資金の投入とあらゆる装備の大型化によって、一つの形に押し込んだ代物と言える。
空力という概念が未だ未成熟であった頃に作られた先細りの円筒状の胴体と、それを挟み込んだ巨大で四角いエンジンブロック。
それらを、輪をかけて馬鹿でかいゲイラカイトの様な主翼の下に無理矢理吊り下げ、その後ろに水平尾翼と、二枚の垂直尾翼を立てている。
最高の性能を金に糸目をつけずに求めた、まさに冷戦時代の怪物機だ。
航空自衛隊は時代の寵児として誕生した同機に、更なる改修を加えた多段階能力向上機、F-15/J,MSIPを多数保有していたが、
その日、入谷演習場へと急行するF-15戦闘機は、MSIPとも形状を異にしていた。
長く迫り出した機首部分に、機体各所に生じた奇妙な出っ張り。
およそ空力を考慮に入れていないことに拍車をかけたような姿をしつつ、その戦闘機は実に軽やかに蒼穹を疾駆していた。
そのコクピットの中も、現実の戦闘機を凌駕している。
パイロットの足の間に操縦桿があるのだけは古典的だが――新鋭機は大抵コクピットの右隅に操縦桿がある――コクピットの両サイドにもレバーやらスティックやらが見えていた。
パイロットの前面コンソールには四枚の液晶ディスプレイが存在していた。
それらは現行機にも装備されているが、戦闘時にはそこへ視線を落とす暇がないため、より上部に必要な項目をまとめた電映ガラス板がある。
いざ戦闘となればその程度の意味しか持たないコンソールの筈が、その機体の液晶ディスプレイには常に四面全てに別個の情報が映し出され、自分と、その周囲を伺っているようだった。
何より妙なのはパイロットだ。
通常はゆったりとしたフライトスーツを着用しているが、そのパイロットはまるでライダースーツのようなガッチリとした『つなぎ』を着用していた。
与圧されていない超音速戦闘機につきものの酸素マスクも存在せず、パイロットの顔が確認できる。
意外に幼い、と言っても少年の域は越えている。青年と呼ぶ歳ではあるが、ただ、同年代の日本人によく見るダレた雰囲気は無く、
まさに戦闘機のコクピットに納まるべく引き締まっている。
眉毛の形や鼻梁は意外に整っているので、ヘルメットを脱げばちょっとしたいい男だろう。
もっとも、今の彼の表情はいささか困り気味であった。
「…だから、大丈夫だって言ってるだろ」
「ダメだよ。だって鷹(よう)くん、これが初めての出撃なんだよ!?」
と、四面のパネルの内の一つに顔を映して、しきりに彼の身を案じているのは、妙齢の乙女であった。
長い黒髪がたいそう印象的で、好意的な意味で飾り気が無い。
目鼻立ちは成熟した女性のそれだが、子供じみた心配の言葉が物語るように、どこかあどけなさが抜けきっていなかった。
パイロットと同じように、微妙なお年頃というわけだ。
「透(みなも)、これが最初ってわけじゃないんだ…黙ってたけど…」
パイロット、風見鷹介(カザミヨウスケ)は、堪り兼ねたように幼馴染に漏らした。が、それがいけなかった。
彼女、笠置透(カサギミナモ)は、鷹介のことを心配するのに理由が要らない性質だった。
「うそ?ひどいよ、鷹くん!!黙ってるなんて!?」
「しまった、逆効果…」
鷹介が天を仰ぎかける、その刹那、思わぬ救援が入った。透が占めていたディスプレイが半分に分かれ、これまた印象的な男性の顔が映る。
「透くん、それ位にしてやってくれないか」
張りと渋みのバランスが取れた、何ともセクシーな『男』の声だった。
彫りの深い顔立ちと、意志と知性を兼ね備えた瞳の輝きは、古典的な大人の男の美点を集約したかのようだ。
土岐虎二郎(トキコジロウ)。
彼は今、鷹介の足下を走る戦車のコクピット――今更、戦車は複数人で動かすもの、という常識を口にするのは適切でない――に納まっていた。
「大丈夫、鷹介君は必ず連れ帰るよ。怒るのは、帰ってからでも、遅くは無いだろう?」
「「土岐さん」」
鷹介と透はそれぞれ違うニュアンスを含んだ声で、同じ言葉を口にしていた。
それがなんとも可笑しく、またこの二人のことを代弁しているかのようで、彼の頬になんとも色気のある微苦笑を浮かべさせる。
「さぁ、反撃の狼煙を上げよう、鷹介」
「…応っ!」
一転、威勢の良い返事を返すと、鷹介は左手が握ったスロットルレバーを引き、同時にシートの脇に付いているレバーを右手で倒す。
四面の液晶コンソールに、それぞれ一文字ずつ、J・S・D・Fのアルファベットと、それが頭文字となる単語が表示される。
Jointo・Strugl・Defensive・Form
合体及び格闘による防衛的形態、とでも言おうか。自衛隊の意味でなく、なにか途方もない、子供心をくすぐられる響きだった。
そして、現実に、それは行われたのである。
F-15からウィングとコクピットが分離する。残ったボディが中心線から二つに割れ、それぞれの機首部であった部位が90度に反って折れた。
90式戦車が宙に浮かび上がり、主砲とターレットが分け放たれる。胴体が二つに折れると、左右のキャタピラ部分が別個に別れ、中からマニュピレーターが飛びだした。
二つに分かたれた戦闘機の胴体だった部分が、腕を突きだしている戦車の胴体に、下から突き刺さった。
残ったコクピットと主翼とが戦車の胴体前面に張り付くと、最後に戦車の胴体部から、人の顔が彫刻された、兜を被ったような頭部が突き出てくる。
隠すべくもない、それは、二つが合わさり、人型を成していた。
戦場に佇立する巨人。
我々はそれが何であるのかを知っている。子供心に、その存在を知っていた。渇望していた。
絶対の窮地に現れ、無敵の力をもって敵を倒し、幼心を満たしてくれたもの。
今こそ、何のてらいもなく、その名が叫ばれるとき。
そう、スーパー・ロボット、と。
空力という概念が未だ未成熟であった頃に作られた先細りの円筒状の胴体と、それを挟み込んだ巨大で四角いエンジンブロック。
それらを、輪をかけて馬鹿でかいゲイラカイトの様な主翼の下に無理矢理吊り下げ、その後ろに水平尾翼と、二枚の垂直尾翼を立てている。
最高の性能を金に糸目をつけずに求めた、まさに冷戦時代の怪物機だ。
航空自衛隊は時代の寵児として誕生した同機に、更なる改修を加えた多段階能力向上機、F-15/J,MSIPを多数保有していたが、
その日、入谷演習場へと急行するF-15戦闘機は、MSIPとも形状を異にしていた。
長く迫り出した機首部分に、機体各所に生じた奇妙な出っ張り。
およそ空力を考慮に入れていないことに拍車をかけたような姿をしつつ、その戦闘機は実に軽やかに蒼穹を疾駆していた。
そのコクピットの中も、現実の戦闘機を凌駕している。
パイロットの足の間に操縦桿があるのだけは古典的だが――新鋭機は大抵コクピットの右隅に操縦桿がある――コクピットの両サイドにもレバーやらスティックやらが見えていた。
パイロットの前面コンソールには四枚の液晶ディスプレイが存在していた。
それらは現行機にも装備されているが、戦闘時にはそこへ視線を落とす暇がないため、より上部に必要な項目をまとめた電映ガラス板がある。
いざ戦闘となればその程度の意味しか持たないコンソールの筈が、その機体の液晶ディスプレイには常に四面全てに別個の情報が映し出され、自分と、その周囲を伺っているようだった。
何より妙なのはパイロットだ。
通常はゆったりとしたフライトスーツを着用しているが、そのパイロットはまるでライダースーツのようなガッチリとした『つなぎ』を着用していた。
与圧されていない超音速戦闘機につきものの酸素マスクも存在せず、パイロットの顔が確認できる。
意外に幼い、と言っても少年の域は越えている。青年と呼ぶ歳ではあるが、ただ、同年代の日本人によく見るダレた雰囲気は無く、
まさに戦闘機のコクピットに納まるべく引き締まっている。
眉毛の形や鼻梁は意外に整っているので、ヘルメットを脱げばちょっとしたいい男だろう。
もっとも、今の彼の表情はいささか困り気味であった。
「…だから、大丈夫だって言ってるだろ」
「ダメだよ。だって鷹(よう)くん、これが初めての出撃なんだよ!?」
と、四面のパネルの内の一つに顔を映して、しきりに彼の身を案じているのは、妙齢の乙女であった。
長い黒髪がたいそう印象的で、好意的な意味で飾り気が無い。
目鼻立ちは成熟した女性のそれだが、子供じみた心配の言葉が物語るように、どこかあどけなさが抜けきっていなかった。
パイロットと同じように、微妙なお年頃というわけだ。
「透(みなも)、これが最初ってわけじゃないんだ…黙ってたけど…」
パイロット、風見鷹介(カザミヨウスケ)は、堪り兼ねたように幼馴染に漏らした。が、それがいけなかった。
彼女、笠置透(カサギミナモ)は、鷹介のことを心配するのに理由が要らない性質だった。
「うそ?ひどいよ、鷹くん!!黙ってるなんて!?」
「しまった、逆効果…」
鷹介が天を仰ぎかける、その刹那、思わぬ救援が入った。透が占めていたディスプレイが半分に分かれ、これまた印象的な男性の顔が映る。
「透くん、それ位にしてやってくれないか」
張りと渋みのバランスが取れた、何ともセクシーな『男』の声だった。
彫りの深い顔立ちと、意志と知性を兼ね備えた瞳の輝きは、古典的な大人の男の美点を集約したかのようだ。
土岐虎二郎(トキコジロウ)。
彼は今、鷹介の足下を走る戦車のコクピット――今更、戦車は複数人で動かすもの、という常識を口にするのは適切でない――に納まっていた。
「大丈夫、鷹介君は必ず連れ帰るよ。怒るのは、帰ってからでも、遅くは無いだろう?」
「「土岐さん」」
鷹介と透はそれぞれ違うニュアンスを含んだ声で、同じ言葉を口にしていた。
それがなんとも可笑しく、またこの二人のことを代弁しているかのようで、彼の頬になんとも色気のある微苦笑を浮かべさせる。
「さぁ、反撃の狼煙を上げよう、鷹介」
「…応っ!」
一転、威勢の良い返事を返すと、鷹介は左手が握ったスロットルレバーを引き、同時にシートの脇に付いているレバーを右手で倒す。
四面の液晶コンソールに、それぞれ一文字ずつ、J・S・D・Fのアルファベットと、それが頭文字となる単語が表示される。
Jointo・Strugl・Defensive・Form
合体及び格闘による防衛的形態、とでも言おうか。自衛隊の意味でなく、なにか途方もない、子供心をくすぐられる響きだった。
そして、現実に、それは行われたのである。
F-15からウィングとコクピットが分離する。残ったボディが中心線から二つに割れ、それぞれの機首部であった部位が90度に反って折れた。
90式戦車が宙に浮かび上がり、主砲とターレットが分け放たれる。胴体が二つに折れると、左右のキャタピラ部分が別個に別れ、中からマニュピレーターが飛びだした。
二つに分かたれた戦闘機の胴体だった部分が、腕を突きだしている戦車の胴体に、下から突き刺さった。
残ったコクピットと主翼とが戦車の胴体前面に張り付くと、最後に戦車の胴体部から、人の顔が彫刻された、兜を被ったような頭部が突き出てくる。
隠すべくもない、それは、二つが合わさり、人型を成していた。
戦場に佇立する巨人。
我々はそれが何であるのかを知っている。子供心に、その存在を知っていた。渇望していた。
絶対の窮地に現れ、無敵の力をもって敵を倒し、幼心を満たしてくれたもの。
今こそ、何のてらいもなく、その名が叫ばれるとき。
そう、スーパー・ロボット、と。
人型兵器だと!?
アフバルト・シュウバウツァーは信じられぬ思いでモニターに映る光景を睨み付けていた。頭のなかでは、冷静な思考と知識とが、総動員で回り続けている。
儀仗兵を含め、そういった兵器は決して珍しい訳ではない。
マニュピレーターを介した、豊富で簡便な武装。
足を使った不整地踏破力と、細やかな機動。
技術の進歩が実現させた、理想的兵力の運用であるところの、柔軟性の至極といってよかった。
だが、何よりの売りは、その判りやすさであった。判りやすい形で具現化した力は民衆の人気を得やすい。
それは商品価値に繋がる。全てが経済活動と直結した銀河列強にとり、軍とは、スポーツ選手のような側面を持っているのだ。
顧みるに、アレは何なのか。
地球人類は、それを実現する能力を持つのか。確かめねば。アフバルトはインカム越しに名乗りを上げる。
「我が名はアフバルト・シュウバウツァー、栄えあるツルギスタン第三外征旅団第三〇五機甲大隊大刃士である!
諸君らの管制名を述べよ」
返答は即座に行われた。
「大江戸先進科学研究所所属、スーパーロボット、ダイガスト!!」
ツルギスタン将兵からどよめきが湧き起こる。
民間研究施設所有のロボット。果たしてこの国は民生の方が技術レベルが上なのか、それとも唯の捨て石か。
アフバルトはあくまで紳士に、いやスポーツマンシップに乗っ取り、彼等に警告を与える。
「諸君らが立っている場所は、我等の神聖なる約定によるところの限定攻勢の開始線である。
諸君らに他意が無いのであれば、その場より立ち退き給え。これは最後通告であり、これより三十秒の後…」
「つべこべ言わずに掛かってきたらどうだ?あんたらこそ、日本国領度を不当に侵しているんだぜ?」
若者の声だとおもった。
アフバルトはいくつもの星系で戦った経緯から、攻勢初期にあのような果敢な若者がよく現れることを、それを打ち破らざるを得ない悲しみから、よく知っていた。
そんなとき、彼は自らが侵略者である悲しみを胸に秘め、いつもこう言ってきた。
「その意気や良し!!ならば私は君のようなものが二度と出ないよう、全力を持って応えよう!!
全軍、突撃にぃ、うつれぇっ!!」
歓声があがり、五機の儀仗兵が槍襖を敷きつつ人型兵器に突進した。
速い。土煙をあげ、儀仗兵ガーズ・ランツェは一本の楔と化す。異星の軍勢を突き破ってきた、必勝の突撃隊形だった。
迫り来る土煙を前に、ダイガストは右手を弓につがえるように引き絞る。肘の内部よりブースターが顔を覗かせ、噴射炎をあげた。
コクピット――復座式で、背後の一段高い場所に虎二郎の姿があった――で鷹介が右手で握ったサイドスティックを前に押しだし、先端のスイッチボタンを押し込む。
「ブラスト・マグナムッ!!」
右手が、撃ち放たれる矢の如く、肘の先から飛翔する。ある世代には実に見覚えの深い、ロケット・パンチという古色蒼然たるアニメの兵器だ。
対する突進状態の儀仗兵は、回避が効かない。とくにランツェタイプは軽快、突進力が売りであり、けして小回りが利く機体でなかった。
結果、楔の先端、中央の一機の正面に、ロケットパンチが直撃する。
直撃の瞬間、拳の先端に何やら光り輝く力場が視認できた。それから、儀仗兵に当たった部位でなく、その背後に、盛大なブラスト炎が吹き上がった。
儀仗兵はその一撃で機体中枢を貫通する甚大な被害を負い、膝からその場に崩れ落ちた。
GBCのレポーターが呆気にとられ、解説を忘れる。
その眼前で、儀仗兵を打ち砕いたロケットパンチ、いや、ブラスト・マグナムが、ダイガストの突き上げた右肘に帰還する。
楔の先端を砕かれた儀仗兵は、果敢にも二手に分かれてダイガストを挟撃する構えをみせた。
「流石に立ち直りは速いな」
虎二郎はどこか嬉しげだった。同時に、彼の指がシートの前を占有するコンソールパネルの上を、踊るように叩いてゆく。
索敵諸元が鷹介側の四面ディスプレイに投影され、最適の武装が選択される。
ミサイル、準備。
鷹介がコントロールスティックの先端のボタンを押し込むと、ダイガストの背後から生じたように、
どこからともなく二本のミサイルが発射される。下半身に変わったF-15が翼下に吊っていた物だ。
ミサイルは最右方の儀仗兵の足をそれぞれ打ち砕き、殻座させた。
が、右翼のもう一機は更に果敢に突撃の足を速める。その槍先がダイガストを補足した、その時。
「アンカー、発射!」
ダイガストの両腰、F-15の垂直尾翼と水平尾翼とが重なり合って出来た鏃のような装甲が、儀仗兵へと向かって飛びだした。
ダイガストと鏃との間は、輝く光帯が繋いでいる。まさにアンカー。
その鋭い先端が儀仗兵を貫くと、ダイガストは光帯を握り締め、自分と背丈の変わらない相手を軽々と振り回してみせる。
儀仗兵のパイロットの悲鳴が上がった。それからドップラー効果で、それが遠くへと離れてゆく。アンカーが抜けたのだ。
アフバルトは息を呑んだ。
いかに機動性のみを重視したランツェと言え、瞬時にして三機を倒されるなど、これまでついぞ無かった。
百戦錬磨のツルギスタン貴族士官は、その衝撃に、必然とも言える誤断を下した。
「転進!私の左右に付け!!」
忠良なる儀仗兵のパイロット達は即座に命令に従い、アフバルトに合流するための後退に移る。
ブレーディアンを中央に、ツルギスタンの精兵が再結集を果たす。と、アフバルトの側面モニターが、両脇をすり抜ける黒い影を捉えた。
次の瞬間、両サイドに着いたはずのランツェが、もんどりうって吹き飛んだ。四肢がちぎれ飛び、割けた石榴のような破孔を覗かせている。
一体、何が。そこまで考えて、アフバルトは自らの迂闊さに慄然となった。
モニターに移るダイガストは、身長と同じほどの長大な砲を両手でホールドしている。
俺は何をした、ヤツは何をした?無様な突進と転進とを繰り返した俺達を、ヤツはただ撃っただけではないのか。それも一歩たりとも動かずに。
何たる迂闊、何たる無様。
「しかし…だからこそ、アレは倒さねば!!」
アフバルトはブレーディアンの出力を上げ、ダイガストへと肉薄する。
逆さにした剣という奇妙な形状の兵器は、重力に反したかのように地表より僅かに浮き、スルスルと前進する。
見る間にモニターを占有してゆくその偉容に、彼は奇妙な荘厳さすら感じていた。かつて見た帝国聖教の『剣の御使い』の像のような。馬鹿な。
「アレは、敵だッ!」
左手で掴んだスルットルレバーを限界まで押しだし、乗機を最大戦足で疾駆させる。
同時にダイガストがあの巨砲をこちらへと向ける。砲口の形は真円に見える。こちらを完全に補足していた。
頭はそこから離れることを欲していた。だが、体はどうした訳か動かなかった。
アフバルトはそれを帝国軍人魂の精髄であると決めつけ――臆病風と思えば、正気を失いかねない――迷わずブレーディアンの剣状の両腕を振るう。
瞬間、ダイガストの巨砲が地獄の炎を上げ、真紅の鉄塊を吐きだした。
剣と砲弾とがガッチリと食い合い、一瞬の拮抗の後、砲弾がその使命を果たして爆発した。
モニターを紅蓮の炎が満たす。
同時に機体各所から注意を促す警告表示が、モニター上へと悲鳴のように乱舞する。
決してダメージを局限できた訳ではなかった。炸薬によって膨大な鉄量が金属粒子に分解し、高速高温のメタルジェットとなって機体表層を荒れ狂ったのだ。
原始的。だからこそ、恐ろしく信頼度が高い。おそらくあの巨砲も既存の何かを流用した物だろう。
そういえば、皇国がツルガオキ海戦と呼んでいる諸惑星連合との一戦、あの折轟沈した艦の中に、美しく巨大な艦があったな。
アフバルトは何とはなしにそう考え、それが衝撃による軽いショックであると思い至る。
「くっ!?」
頭を軽く振るい、操縦に集中する。既にブレーディアンの間合いの中なのだ。幾度となく蛮土を切り開いてきたブレーディアンの双腕の、その撃勺の間合い。
アフバルトは怒号と共にコントロールスティックのボタンを押し込む。
研ぎ澄まされた刃が左右から、鋏のように、ダイガストの首へと忍び寄る。教本にある類の攻撃ではない。幾多の戦場で切り覚えの、必殺の一撃だった。
だった。過去形である。
アフバルト・シュウバウツァーは信じられぬ思いでモニターに映る光景を睨み付けていた。頭のなかでは、冷静な思考と知識とが、総動員で回り続けている。
儀仗兵を含め、そういった兵器は決して珍しい訳ではない。
マニュピレーターを介した、豊富で簡便な武装。
足を使った不整地踏破力と、細やかな機動。
技術の進歩が実現させた、理想的兵力の運用であるところの、柔軟性の至極といってよかった。
だが、何よりの売りは、その判りやすさであった。判りやすい形で具現化した力は民衆の人気を得やすい。
それは商品価値に繋がる。全てが経済活動と直結した銀河列強にとり、軍とは、スポーツ選手のような側面を持っているのだ。
顧みるに、アレは何なのか。
地球人類は、それを実現する能力を持つのか。確かめねば。アフバルトはインカム越しに名乗りを上げる。
「我が名はアフバルト・シュウバウツァー、栄えあるツルギスタン第三外征旅団第三〇五機甲大隊大刃士である!
諸君らの管制名を述べよ」
返答は即座に行われた。
「大江戸先進科学研究所所属、スーパーロボット、ダイガスト!!」
ツルギスタン将兵からどよめきが湧き起こる。
民間研究施設所有のロボット。果たしてこの国は民生の方が技術レベルが上なのか、それとも唯の捨て石か。
アフバルトはあくまで紳士に、いやスポーツマンシップに乗っ取り、彼等に警告を与える。
「諸君らが立っている場所は、我等の神聖なる約定によるところの限定攻勢の開始線である。
諸君らに他意が無いのであれば、その場より立ち退き給え。これは最後通告であり、これより三十秒の後…」
「つべこべ言わずに掛かってきたらどうだ?あんたらこそ、日本国領度を不当に侵しているんだぜ?」
若者の声だとおもった。
アフバルトはいくつもの星系で戦った経緯から、攻勢初期にあのような果敢な若者がよく現れることを、それを打ち破らざるを得ない悲しみから、よく知っていた。
そんなとき、彼は自らが侵略者である悲しみを胸に秘め、いつもこう言ってきた。
「その意気や良し!!ならば私は君のようなものが二度と出ないよう、全力を持って応えよう!!
全軍、突撃にぃ、うつれぇっ!!」
歓声があがり、五機の儀仗兵が槍襖を敷きつつ人型兵器に突進した。
速い。土煙をあげ、儀仗兵ガーズ・ランツェは一本の楔と化す。異星の軍勢を突き破ってきた、必勝の突撃隊形だった。
迫り来る土煙を前に、ダイガストは右手を弓につがえるように引き絞る。肘の内部よりブースターが顔を覗かせ、噴射炎をあげた。
コクピット――復座式で、背後の一段高い場所に虎二郎の姿があった――で鷹介が右手で握ったサイドスティックを前に押しだし、先端のスイッチボタンを押し込む。
「ブラスト・マグナムッ!!」
右手が、撃ち放たれる矢の如く、肘の先から飛翔する。ある世代には実に見覚えの深い、ロケット・パンチという古色蒼然たるアニメの兵器だ。
対する突進状態の儀仗兵は、回避が効かない。とくにランツェタイプは軽快、突進力が売りであり、けして小回りが利く機体でなかった。
結果、楔の先端、中央の一機の正面に、ロケットパンチが直撃する。
直撃の瞬間、拳の先端に何やら光り輝く力場が視認できた。それから、儀仗兵に当たった部位でなく、その背後に、盛大なブラスト炎が吹き上がった。
儀仗兵はその一撃で機体中枢を貫通する甚大な被害を負い、膝からその場に崩れ落ちた。
GBCのレポーターが呆気にとられ、解説を忘れる。
その眼前で、儀仗兵を打ち砕いたロケットパンチ、いや、ブラスト・マグナムが、ダイガストの突き上げた右肘に帰還する。
楔の先端を砕かれた儀仗兵は、果敢にも二手に分かれてダイガストを挟撃する構えをみせた。
「流石に立ち直りは速いな」
虎二郎はどこか嬉しげだった。同時に、彼の指がシートの前を占有するコンソールパネルの上を、踊るように叩いてゆく。
索敵諸元が鷹介側の四面ディスプレイに投影され、最適の武装が選択される。
ミサイル、準備。
鷹介がコントロールスティックの先端のボタンを押し込むと、ダイガストの背後から生じたように、
どこからともなく二本のミサイルが発射される。下半身に変わったF-15が翼下に吊っていた物だ。
ミサイルは最右方の儀仗兵の足をそれぞれ打ち砕き、殻座させた。
が、右翼のもう一機は更に果敢に突撃の足を速める。その槍先がダイガストを補足した、その時。
「アンカー、発射!」
ダイガストの両腰、F-15の垂直尾翼と水平尾翼とが重なり合って出来た鏃のような装甲が、儀仗兵へと向かって飛びだした。
ダイガストと鏃との間は、輝く光帯が繋いでいる。まさにアンカー。
その鋭い先端が儀仗兵を貫くと、ダイガストは光帯を握り締め、自分と背丈の変わらない相手を軽々と振り回してみせる。
儀仗兵のパイロットの悲鳴が上がった。それからドップラー効果で、それが遠くへと離れてゆく。アンカーが抜けたのだ。
アフバルトは息を呑んだ。
いかに機動性のみを重視したランツェと言え、瞬時にして三機を倒されるなど、これまでついぞ無かった。
百戦錬磨のツルギスタン貴族士官は、その衝撃に、必然とも言える誤断を下した。
「転進!私の左右に付け!!」
忠良なる儀仗兵のパイロット達は即座に命令に従い、アフバルトに合流するための後退に移る。
ブレーディアンを中央に、ツルギスタンの精兵が再結集を果たす。と、アフバルトの側面モニターが、両脇をすり抜ける黒い影を捉えた。
次の瞬間、両サイドに着いたはずのランツェが、もんどりうって吹き飛んだ。四肢がちぎれ飛び、割けた石榴のような破孔を覗かせている。
一体、何が。そこまで考えて、アフバルトは自らの迂闊さに慄然となった。
モニターに移るダイガストは、身長と同じほどの長大な砲を両手でホールドしている。
俺は何をした、ヤツは何をした?無様な突進と転進とを繰り返した俺達を、ヤツはただ撃っただけではないのか。それも一歩たりとも動かずに。
何たる迂闊、何たる無様。
「しかし…だからこそ、アレは倒さねば!!」
アフバルトはブレーディアンの出力を上げ、ダイガストへと肉薄する。
逆さにした剣という奇妙な形状の兵器は、重力に反したかのように地表より僅かに浮き、スルスルと前進する。
見る間にモニターを占有してゆくその偉容に、彼は奇妙な荘厳さすら感じていた。かつて見た帝国聖教の『剣の御使い』の像のような。馬鹿な。
「アレは、敵だッ!」
左手で掴んだスルットルレバーを限界まで押しだし、乗機を最大戦足で疾駆させる。
同時にダイガストがあの巨砲をこちらへと向ける。砲口の形は真円に見える。こちらを完全に補足していた。
頭はそこから離れることを欲していた。だが、体はどうした訳か動かなかった。
アフバルトはそれを帝国軍人魂の精髄であると決めつけ――臆病風と思えば、正気を失いかねない――迷わずブレーディアンの剣状の両腕を振るう。
瞬間、ダイガストの巨砲が地獄の炎を上げ、真紅の鉄塊を吐きだした。
剣と砲弾とがガッチリと食い合い、一瞬の拮抗の後、砲弾がその使命を果たして爆発した。
モニターを紅蓮の炎が満たす。
同時に機体各所から注意を促す警告表示が、モニター上へと悲鳴のように乱舞する。
決してダメージを局限できた訳ではなかった。炸薬によって膨大な鉄量が金属粒子に分解し、高速高温のメタルジェットとなって機体表層を荒れ狂ったのだ。
原始的。だからこそ、恐ろしく信頼度が高い。おそらくあの巨砲も既存の何かを流用した物だろう。
そういえば、皇国がツルガオキ海戦と呼んでいる諸惑星連合との一戦、あの折轟沈した艦の中に、美しく巨大な艦があったな。
アフバルトは何とはなしにそう考え、それが衝撃による軽いショックであると思い至る。
「くっ!?」
頭を軽く振るい、操縦に集中する。既にブレーディアンの間合いの中なのだ。幾度となく蛮土を切り開いてきたブレーディアンの双腕の、その撃勺の間合い。
アフバルトは怒号と共にコントロールスティックのボタンを押し込む。
研ぎ澄まされた刃が左右から、鋏のように、ダイガストの首へと忍び寄る。教本にある類の攻撃ではない。幾多の戦場で切り覚えの、必殺の一撃だった。
だった。過去形である。
前面モニターを銀光が左右から行き過ぎてゆく。前面モニターと言っても、鷹介の前にある四面多目的パネルではない。その先にある、巨大なパノラマだ。
ダイガストの反応は上々だった。虎二郎が早期に発していてくれた警告に沿って、機体を滑るように後ろへと跳ねさせる。
同時に、鷹介の中のファイター・パイロットとしての本能が、殆ど無意識にトリガーボタンを押し込ませている。
ダイガストの胸部装甲の四隅から、それぞれ火線がほとばしった。
発砲炎の代わりに、微かにパルスが確認できた。それとほぼ同時にブレーディアンの前面に幾つかの小さな破孔が生じ、金属が同種の物を食い破る甲高い音が響く。
「ふん」
虎二郎が鼻を鳴らす。
「さすがに30mmでも向こうがデカけれりゃ、大した効果は無いな。試射は儀仗兵で済ましておくべきだったか」
「土岐さん、そういうのは勝ってからにしてくださいよ」
鷹介は虎二郎の肝の座りっぷりに苦笑いを浮かべた。このひと、ほんとにこれが初陣なのか?
彼もそれだけを気にしてはいられない。ブレーディアンの猛攻に、避けているだけでは勝てない。
「撃って、出る!」
サイドスティック――足の間の操縦桿は折り畳まれていた――を倒しながら、一転、ダイガストを突進させる。
機体の身長ほどもある砲を投げ捨て、両の拳を固めた。調度ブレーディアンが火砲を物ともせずに踏み込んできた、その鼻面に、カウンターで右ストレートをお見舞いする。
盛大な金属音が上がり、火花が散るや衝撃でブレーディアンの装甲が歪む。だが、その巨体は止まらない。
ダイガストと比して二まわりも大きいのだから、子供が大人に殴りかかっているようなものか。
ブレーディアンは両腕を縦に並べ、右から左へと同時に振りぬいてきた。
一つは止められても、二つならどうか。まさにブレーディアンの巨体を活かした猛攻だった。
喧嘩慣れしてやがる。鷹介は背筋に冷たいものを感じながらフットペダルを蹴り込む。
ダイガストの腰裏に移っていたF-15のエンジンノズルが炎を上げ、鋼の巨体を横っ飛びに跳ねさせた。
さらに左腕で、唸りをあげて飛んでくる二つの刃を受け止める。
刃を腕の装甲材に深々と食い込ませつつ、ダイガストはそこからバーニアを更に吹かし、自分からブレーディアンの攻撃が描く横薙ぎの軌道に乗ってやる。
振りぬいた腕に流されるまま、ブレーディアンの背後に着地する。
足元の大地を砕きながらダイガストはすぐさま突進、勢いもそのままにブレーディアンを背後から殴りつけた。
子供の喧嘩のようなひどい大振りを、敵が振り返るまで存分に、幾度も浴びせる。
その都度ブレーディアンの巨体が『起き上がりこぶし』のように揺れ、剣を思わせるボディに次々と歪みが作られてゆく。
「こざかしいっ!!」
アフバルトが吼える。それにブレーディアンが応え、剣の柄――おそらく頭部――が後ろを向くや、双眸にも見える紅い偏光器から二条の光線が照射された。
光線は偏光器と同じく、鮮やかなほどに赤い。
光線がダイガストの腕やら肩やらを舐めると、装甲材が瞬時に沸騰し、ケロイドのようにただれる。その出力に虎二郎が思わず嘆息を漏らすほどだった。
「こっちにも欲しいな、あれ」
「偏光レンズが精製できないんでしょ、博士が愚痴ってましたよ」
「技術が無ければ戦争もできん、か」
「無い物ねだってもしょうがないでしょ。今ある物で済ませないと。と言う訳で土岐さん、あれ、使いますよ」
「了解だ」
答えるや虎二郎の指が精密機械のようにコンソールパネル上を跳ね回る。
するとダイガストのコクピットにも伝わるほどの鳴動が始まった。
二人の前のデータ表示の中からエネルギーゲインのバーが急速に伸張し、ダイガストの巨体がこれまで以上の出力に震えていることが判る。
鷹介は高まった出力をダイガストの拳に、ブレーディアンへと叩き込んだ。
これまでを上回る衝撃にブレーディアンが吹き飛ばされる。
そして強引に距離をつくり、ダイガストは左手を自らの後方に回す。
次の瞬間、ダイガストの左手には――どこから取り出したのか――鞘に収まった一振りの太刀が握られていた。
「鷹介、知ってると思うが、事象転換炉が励起状態の輝鋼剣を制御していられる時間は僅かだ」
「わかってますよ、一太刀で仕留めます」
なんとも頼もしい事を口にして鷹介は操縦桿を押し込む。
ダイガストが太刀を地面と水平に、体の前に持ってくると、鞘と鍔とを繋いでいたメカニカルロックが音を立てて外れた。
鯉口が解かれ、鞘の中から眩い金色の奔流が溢れ出る。
「七度(ななたび)死地に赴こうと、我等必ず帰り、護国の刃たらん」
七生護国とでも言おうか、朗々と吟じる鷹介がダイガストに剣を素っ破抜かせると、地上に太陽が現れたかのごとく、神々しい輝きが周囲を照らし出す。
光の元たる、現れた金色の刃は、目も映えるほどの直ぐ刃の直刀だった。
刃その物が輝くという異常な光景にアフバルトは驚嘆する。
なんだ、これは。俺は何と戦っている?
居竦むアフバルトの眼前で、ダイガストのフェイスが面頬に覆われた。
それは彼が瞬時感じた神像のようだという印象から一転し、完全な戦装束への変貌を意味していた。
輝く太刀を八双に構え、ダイガストが踏み出す。
ブレーディアンは両の腕を交差して打ち込みを受け止めようとしたが、ダイガストの太刀はその腕ごと、音も無く侵略軍の巨大兵器を両断した。
崩れ落ちるブレーディアンにダイガストは背を向け、胸の前で鞘に太刀を収める。
「輝鋼剣 一刀両断」
鍔鳴りの音も涼やかに、鷹介の呟きが控えめに戦いの終わりを告げる。
いや、侵略者たちとの戦いは正にこれからであった。
ダイガストの反応は上々だった。虎二郎が早期に発していてくれた警告に沿って、機体を滑るように後ろへと跳ねさせる。
同時に、鷹介の中のファイター・パイロットとしての本能が、殆ど無意識にトリガーボタンを押し込ませている。
ダイガストの胸部装甲の四隅から、それぞれ火線がほとばしった。
発砲炎の代わりに、微かにパルスが確認できた。それとほぼ同時にブレーディアンの前面に幾つかの小さな破孔が生じ、金属が同種の物を食い破る甲高い音が響く。
「ふん」
虎二郎が鼻を鳴らす。
「さすがに30mmでも向こうがデカけれりゃ、大した効果は無いな。試射は儀仗兵で済ましておくべきだったか」
「土岐さん、そういうのは勝ってからにしてくださいよ」
鷹介は虎二郎の肝の座りっぷりに苦笑いを浮かべた。このひと、ほんとにこれが初陣なのか?
彼もそれだけを気にしてはいられない。ブレーディアンの猛攻に、避けているだけでは勝てない。
「撃って、出る!」
サイドスティック――足の間の操縦桿は折り畳まれていた――を倒しながら、一転、ダイガストを突進させる。
機体の身長ほどもある砲を投げ捨て、両の拳を固めた。調度ブレーディアンが火砲を物ともせずに踏み込んできた、その鼻面に、カウンターで右ストレートをお見舞いする。
盛大な金属音が上がり、火花が散るや衝撃でブレーディアンの装甲が歪む。だが、その巨体は止まらない。
ダイガストと比して二まわりも大きいのだから、子供が大人に殴りかかっているようなものか。
ブレーディアンは両腕を縦に並べ、右から左へと同時に振りぬいてきた。
一つは止められても、二つならどうか。まさにブレーディアンの巨体を活かした猛攻だった。
喧嘩慣れしてやがる。鷹介は背筋に冷たいものを感じながらフットペダルを蹴り込む。
ダイガストの腰裏に移っていたF-15のエンジンノズルが炎を上げ、鋼の巨体を横っ飛びに跳ねさせた。
さらに左腕で、唸りをあげて飛んでくる二つの刃を受け止める。
刃を腕の装甲材に深々と食い込ませつつ、ダイガストはそこからバーニアを更に吹かし、自分からブレーディアンの攻撃が描く横薙ぎの軌道に乗ってやる。
振りぬいた腕に流されるまま、ブレーディアンの背後に着地する。
足元の大地を砕きながらダイガストはすぐさま突進、勢いもそのままにブレーディアンを背後から殴りつけた。
子供の喧嘩のようなひどい大振りを、敵が振り返るまで存分に、幾度も浴びせる。
その都度ブレーディアンの巨体が『起き上がりこぶし』のように揺れ、剣を思わせるボディに次々と歪みが作られてゆく。
「こざかしいっ!!」
アフバルトが吼える。それにブレーディアンが応え、剣の柄――おそらく頭部――が後ろを向くや、双眸にも見える紅い偏光器から二条の光線が照射された。
光線は偏光器と同じく、鮮やかなほどに赤い。
光線がダイガストの腕やら肩やらを舐めると、装甲材が瞬時に沸騰し、ケロイドのようにただれる。その出力に虎二郎が思わず嘆息を漏らすほどだった。
「こっちにも欲しいな、あれ」
「偏光レンズが精製できないんでしょ、博士が愚痴ってましたよ」
「技術が無ければ戦争もできん、か」
「無い物ねだってもしょうがないでしょ。今ある物で済ませないと。と言う訳で土岐さん、あれ、使いますよ」
「了解だ」
答えるや虎二郎の指が精密機械のようにコンソールパネル上を跳ね回る。
するとダイガストのコクピットにも伝わるほどの鳴動が始まった。
二人の前のデータ表示の中からエネルギーゲインのバーが急速に伸張し、ダイガストの巨体がこれまで以上の出力に震えていることが判る。
鷹介は高まった出力をダイガストの拳に、ブレーディアンへと叩き込んだ。
これまでを上回る衝撃にブレーディアンが吹き飛ばされる。
そして強引に距離をつくり、ダイガストは左手を自らの後方に回す。
次の瞬間、ダイガストの左手には――どこから取り出したのか――鞘に収まった一振りの太刀が握られていた。
「鷹介、知ってると思うが、事象転換炉が励起状態の輝鋼剣を制御していられる時間は僅かだ」
「わかってますよ、一太刀で仕留めます」
なんとも頼もしい事を口にして鷹介は操縦桿を押し込む。
ダイガストが太刀を地面と水平に、体の前に持ってくると、鞘と鍔とを繋いでいたメカニカルロックが音を立てて外れた。
鯉口が解かれ、鞘の中から眩い金色の奔流が溢れ出る。
「七度(ななたび)死地に赴こうと、我等必ず帰り、護国の刃たらん」
七生護国とでも言おうか、朗々と吟じる鷹介がダイガストに剣を素っ破抜かせると、地上に太陽が現れたかのごとく、神々しい輝きが周囲を照らし出す。
光の元たる、現れた金色の刃は、目も映えるほどの直ぐ刃の直刀だった。
刃その物が輝くという異常な光景にアフバルトは驚嘆する。
なんだ、これは。俺は何と戦っている?
居竦むアフバルトの眼前で、ダイガストのフェイスが面頬に覆われた。
それは彼が瞬時感じた神像のようだという印象から一転し、完全な戦装束への変貌を意味していた。
輝く太刀を八双に構え、ダイガストが踏み出す。
ブレーディアンは両の腕を交差して打ち込みを受け止めようとしたが、ダイガストの太刀はその腕ごと、音も無く侵略軍の巨大兵器を両断した。
崩れ落ちるブレーディアンにダイガストは背を向け、胸の前で鞘に太刀を収める。
「輝鋼剣 一刀両断」
鍔鳴りの音も涼やかに、鷹介の呟きが控えめに戦いの終わりを告げる。
いや、侵略者たちとの戦いは正にこれからであった。
全機能を停止したブレーディアンのコクピットでアフバルトは茫然自失となっていた。
GBCのレポーターも言葉を失い、終いには予定を変更する旨の謝罪広告と、客船の環境映像とが放映され続ける有様だった。
入谷演習場から離れてゆく自衛隊の車両だけは歓喜に包まれている。
初めて一矢を報いたのだ。歓声は止まず、しかしその狂乱の中、
東三佐だけはコマンダーズキューポラから身を乗り出し、複雑な表情で遠ざかってゆくダイガストの巨体を見つめていた。
「いったい何なんだ、あのロボットは…」
それは喜怒哀楽、人毎に違ってはいたろうが、その場に居合わせた者達に共通の言葉であった。
史家は言う、その日より銀河列強の長い悪戦が始まったのだと。
GBCのレポーターも言葉を失い、終いには予定を変更する旨の謝罪広告と、客船の環境映像とが放映され続ける有様だった。
入谷演習場から離れてゆく自衛隊の車両だけは歓喜に包まれている。
初めて一矢を報いたのだ。歓声は止まず、しかしその狂乱の中、
東三佐だけはコマンダーズキューポラから身を乗り出し、複雑な表情で遠ざかってゆくダイガストの巨体を見つめていた。
「いったい何なんだ、あのロボットは…」
それは喜怒哀楽、人毎に違ってはいたろうが、その場に居合わせた者達に共通の言葉であった。
史家は言う、その日より銀河列強の長い悪戦が始まったのだと。