荒野が広がっていた。一面の、草木一本もない、荒野だ。
雲ひとつ無い晴天。日差しが明るく、暑い。
その中を一台のトラックが走っていた。砂埃を巻き上げながら。
「退屈だ」
助手席の一人(この、一人という表現は便宜上のものである)がつぶやく。
柔らかそうな黒髪で、背が低く、たれ目で、瞳は赤い。暑苦しく、黒いダッフルコートを着ている。
「……」
運転席のもう一人(これもまた便宜上のものだ)は無反応。
こちらは艶のある白髪で、背が高く、つり目で、瞳は青い。服は白いアオザイ。
「退屈だーっ! ……退屈だ。た・い・く・つ・だ」
助手席では声が続く。喋りながら、体を前後に揺らし始めた。
「……エネルギーの無駄遣いはやめろ」
運転席からようやく反応があった。
「だぁって、退屈なんだからしょーがねぇじゃんかよぉ。退屈退屈退屈タイクツタイクツ」
「退屈を理解するための、感情などという機能は備わっていないはずだが。私にも、お前にも」
「……聞いてねぇのかよ。化け物退治の、ついでの、プロジェクト」
「『感情の模倣は、感情そのものに成り得るのか』」
「それ、それだ。それだよ。なぁんだ、知ってんのかよ、つまんねぇな」
「知っている。だが、無意味だ」
「あ?」
「そのプロジェクトは無意味だ。何故なら、我々は変化しないし、そもそも感情は魔力側のものだからだ」
断定の言葉。
「やってみなきゃ分かんねぇじゃん?」
反論が上がる。
「分かる。お前にも分かるはずだ。だから口を閉じろ。そして黙って座っていろ。着いたら知らせる」
「……はいはい」
納得しない様子を装いながらも、素直に従う。ついでに目を閉じて、休眠モードに入った。
雲ひとつ無い晴天。日差しが明るく、暑い。
その中を一台のトラックが走っていた。砂埃を巻き上げながら。
「退屈だ」
助手席の一人(この、一人という表現は便宜上のものである)がつぶやく。
柔らかそうな黒髪で、背が低く、たれ目で、瞳は赤い。暑苦しく、黒いダッフルコートを着ている。
「……」
運転席のもう一人(これもまた便宜上のものだ)は無反応。
こちらは艶のある白髪で、背が高く、つり目で、瞳は青い。服は白いアオザイ。
「退屈だーっ! ……退屈だ。た・い・く・つ・だ」
助手席では声が続く。喋りながら、体を前後に揺らし始めた。
「……エネルギーの無駄遣いはやめろ」
運転席からようやく反応があった。
「だぁって、退屈なんだからしょーがねぇじゃんかよぉ。退屈退屈退屈タイクツタイクツ」
「退屈を理解するための、感情などという機能は備わっていないはずだが。私にも、お前にも」
「……聞いてねぇのかよ。化け物退治の、ついでの、プロジェクト」
「『感情の模倣は、感情そのものに成り得るのか』」
「それ、それだ。それだよ。なぁんだ、知ってんのかよ、つまんねぇな」
「知っている。だが、無意味だ」
「あ?」
「そのプロジェクトは無意味だ。何故なら、我々は変化しないし、そもそも感情は魔力側のものだからだ」
断定の言葉。
「やってみなきゃ分かんねぇじゃん?」
反論が上がる。
「分かる。お前にも分かるはずだ。だから口を閉じろ。そして黙って座っていろ。着いたら知らせる」
「……はいはい」
納得しない様子を装いながらも、素直に従う。ついでに目を閉じて、休眠モードに入った。
やがて禍々しく黒い森が見え始める
トラックが止まる。
「起きろ」
「……ん、ああ、おはよっす」
「行くぞ」
「へいへい」
トラックから降りて、荷台から武器や、その他いろいろを降ろす。白くて背の高い方は荷物を入れたバッグを背負う。一方黒くて背の低い方は武器を腰に下げただけである。
「起きろ」
「……ん、ああ、おはよっす」
「行くぞ」
「へいへい」
トラックから降りて、荷台から武器や、その他いろいろを降ろす。白くて背の高い方は荷物を入れたバッグを背負う。一方黒くて背の低い方は武器を腰に下げただけである。
人間にそっくりな彼ら、もといそれらは、いわゆるロボットである。
人間を傷つけず、人間に従い、自分を守る。この三原則に従う、そういう意味では普通のロボット。
しかし彼らには力があった。世界を治療するための力が。
人間を傷つけず、人間に従い、自分を守る。この三原則に従う、そういう意味では普通のロボット。
しかし彼らには力があった。世界を治療するための力が。
「臭ぇな。魔力の匂いが染み付いてやがる」
森に入るやいなや、先程までトラックの助手席で寝ていた方、通称アニム、が呟く。
「魔力に匂いは無い」
運転していた方、通称ピト、が冷静に返す。
「例えだって」
「そうか」
ピトは無駄な言い合いを避けることを、先程覚えていた。確かに魔力が周囲に満ちていることは感覚していたから、それ以上反論する理由はない。
森に入るやいなや、先程までトラックの助手席で寝ていた方、通称アニム、が呟く。
「魔力に匂いは無い」
運転していた方、通称ピト、が冷静に返す。
「例えだって」
「そうか」
ピトは無駄な言い合いを避けることを、先程覚えていた。確かに魔力が周囲に満ちていることは感覚していたから、それ以上反論する理由はない。
森の中は暗く、寒い。
動物の気配はないのに、植物だけが異様なまでに茂っていた。木の幹は太く、背は高かった。
足場が悪い中、軽快に前をゆくアニムに対して、ピトが声をかける。
「急ぐな。離れるのは危険だ」
「だったらそっちがスピード上げろよぉ」
「不可能だ」
「あっそ、じゃあ、俺は先に行ってるぜ」
「やめろ、危険だ」
「心配すんなって。どんな物語でも最初の敵が一番弱いんだ」
「それは知識不足だ。それに魔力の反応も小さくなかった」
「だいじょぶだって。……ぅわっ!?」
アニムが転んだ。足に蔦が絡まっている。
「……ってぇんだよ、くそっ」
「大丈夫か」
「心配ねぇよ」
アニムは言いながら、絡まった蔦を解こうとする。
苦戦しているうちに気づく。
蔦が蠢いていることに。
「ちっ」
気づいた瞬間に腰に指していた武器=刀を抜いて蔦を切る。
「おい、こいつ動くぞ」
「分かっている」
アニムが振り向くと、脚に絡み付いてくる蔦を、ナイフで切り払っているピトの姿があった。
「おい、本体がどれか分かるか」
「多分、あれだろう」
ピトが指さした先では、大きな木々の中でもひときわ大きな木が、人のような姿で身をくねらせていた。
動物の気配はないのに、植物だけが異様なまでに茂っていた。木の幹は太く、背は高かった。
足場が悪い中、軽快に前をゆくアニムに対して、ピトが声をかける。
「急ぐな。離れるのは危険だ」
「だったらそっちがスピード上げろよぉ」
「不可能だ」
「あっそ、じゃあ、俺は先に行ってるぜ」
「やめろ、危険だ」
「心配すんなって。どんな物語でも最初の敵が一番弱いんだ」
「それは知識不足だ。それに魔力の反応も小さくなかった」
「だいじょぶだって。……ぅわっ!?」
アニムが転んだ。足に蔦が絡まっている。
「……ってぇんだよ、くそっ」
「大丈夫か」
「心配ねぇよ」
アニムは言いながら、絡まった蔦を解こうとする。
苦戦しているうちに気づく。
蔦が蠢いていることに。
「ちっ」
気づいた瞬間に腰に指していた武器=刀を抜いて蔦を切る。
「おい、こいつ動くぞ」
「分かっている」
アニムが振り向くと、脚に絡み付いてくる蔦を、ナイフで切り払っているピトの姿があった。
「おい、本体がどれか分かるか」
「多分、あれだろう」
ピトが指さした先では、大きな木々の中でもひときわ大きな木が、人のような姿で身をくねらせていた。
昔戦争があった。
初めのうちは、魔力を使いこなす「あちら側」の国々に「こちら側」の国々は防戦一方であったが、それに対抗出来る力を発見してから反撃が始まった。
その力は魔力と対比して霊力と名付けられた。
魔力とは変化と破壊と混沌の力であり、感情に振り回される力である。
霊力とは維持と創造と秩序の力であり、理性に操られる力である。
どちらにも長所と短所が有った。有利と不利は無かった。故に戦争は停滞した。何も進まぬまま人々だけが死んでいった。
だが戦争は終わった。どちらかが勝ったわけでもなく、和解したわけでもない。ただ「あちら側」の最も大きな国で、魔力炉が暴走したからだ。その国は消滅し、大量の魔力が世界に広がった。
魔力は世界を変えた。陸を変え、海を変え、空を変え、そして生き物を変えた。
その結果の一つが、アニムたちの目の前にある樹の巨人である。
初めのうちは、魔力を使いこなす「あちら側」の国々に「こちら側」の国々は防戦一方であったが、それに対抗出来る力を発見してから反撃が始まった。
その力は魔力と対比して霊力と名付けられた。
魔力とは変化と破壊と混沌の力であり、感情に振り回される力である。
霊力とは維持と創造と秩序の力であり、理性に操られる力である。
どちらにも長所と短所が有った。有利と不利は無かった。故に戦争は停滞した。何も進まぬまま人々だけが死んでいった。
だが戦争は終わった。どちらかが勝ったわけでもなく、和解したわけでもない。ただ「あちら側」の最も大きな国で、魔力炉が暴走したからだ。その国は消滅し、大量の魔力が世界に広がった。
魔力は世界を変えた。陸を変え、海を変え、空を変え、そして生き物を変えた。
その結果の一つが、アニムたちの目の前にある樹の巨人である。
大木の足元に到着。
「キモイなこいつ」とは、アニムの感想(のようなもの)。
高さは人の30倍以上。いびつにねじ曲がった樹の巨人。
人間で言えば腕に当たるであろう大枝が振り下ろされた。アニムが回避する。ピトは枝の届かない場所に退避しそれを見ている。
「核はどこなんだ?」
アニムがピトに問う。強力な魔物には核があることが多い。核が壊れれば魔物も死ぬ。核とは魔力の結晶である。魔力を感じ取る能力に優れていれば、その位置が分かる。そういう部分に関してはピトの方が上だ。
「おそらく胸のあたりだ。だが内部深くにあるようだから、一撃で破壊するのは難しいだろう。お前が核を露出させろ。それを私が撃つ」
「OK」
アニムが勢い良く大木に向かって行く。そしてそのまま幹を駆け登る。重力を無視するかのように、垂直に走っていく。
「キモイなこいつ」とは、アニムの感想(のようなもの)。
高さは人の30倍以上。いびつにねじ曲がった樹の巨人。
人間で言えば腕に当たるであろう大枝が振り下ろされた。アニムが回避する。ピトは枝の届かない場所に退避しそれを見ている。
「核はどこなんだ?」
アニムがピトに問う。強力な魔物には核があることが多い。核が壊れれば魔物も死ぬ。核とは魔力の結晶である。魔力を感じ取る能力に優れていれば、その位置が分かる。そういう部分に関してはピトの方が上だ。
「おそらく胸のあたりだ。だが内部深くにあるようだから、一撃で破壊するのは難しいだろう。お前が核を露出させろ。それを私が撃つ」
「OK」
アニムが勢い良く大木に向かって行く。そしてそのまま幹を駆け登る。重力を無視するかのように、垂直に走っていく。
ピトは近くの別の木に登る。その木はピトを振り落とそうとしたが、ナイフで数回刺されるとおとなしくなった。
上部の太い枝にたどり着くと、背中のバッグを下ろし、中から銃のようなものを取り出す。リボルバーだ。ただし、銃身がピトの腕よりも太く、長い。当然弾倉も大きい。しかし、グリップは小さいままであるため、かなり不恰好だ。
片手で構え、樹の巨人に銃身を向け、胸に狙いを定めた。
上部の太い枝にたどり着くと、背中のバッグを下ろし、中から銃のようなものを取り出す。リボルバーだ。ただし、銃身がピトの腕よりも太く、長い。当然弾倉も大きい。しかし、グリップは小さいままであるため、かなり不恰好だ。
片手で構え、樹の巨人に銃身を向け、胸に狙いを定めた。
アニムは幹を軽快に登る。枝が降り注ぐように叩きつけてくるが、すべて回避。
「ぬるいんだよ!」
叫ぶ。そして、
「まだか!」
ピトに通信。
「もう少し上だ。あと三歩ほど」
それを聞いてアニムはにやりと笑う
一歩目。しっかりと脚を踏みしめて加速。
二歩目。襲いかかる枝をくぐり抜けて回避。
三歩目。その勢いのまま刀を抜いて一閃。
幹の一部が大きく抉れて消し飛ぶ。その傷から黒い結晶が覗く。それを確認しないままアニムは走り抜ける。
数瞬の後下から爆音。ピトの撃った弾丸が核を砕き割った音だ。
「ぬるいんだよ!」
叫ぶ。そして、
「まだか!」
ピトに通信。
「もう少し上だ。あと三歩ほど」
それを聞いてアニムはにやりと笑う
一歩目。しっかりと脚を踏みしめて加速。
二歩目。襲いかかる枝をくぐり抜けて回避。
三歩目。その勢いのまま刀を抜いて一閃。
幹の一部が大きく抉れて消し飛ぶ。その傷から黒い結晶が覗く。それを確認しないままアニムは走り抜ける。
数瞬の後下から爆音。ピトの撃った弾丸が核を砕き割った音だ。
拳大の弾丸を音速の三倍近くで撃ち出す反動はかなり大きい。しかしそれを意にも介さず、ピトは撃った瞬間から微動だにしない。
数瞬ののち、終わったと判断し、銃を下げる。しかし微かな違和感を覚える。
魔力を感じ取る。砕けて落ちていく魔力の他に、頭部に残る魔力の塊。胸のものに比べればかなり小さいが、それでも数秒動くには全く問題ない程度の魔力。
「何だ、もう終わりかよ。ずいぶんと――」
「まだだ!」
アニムからの通信に応答するのと、アニムが樹の巨人に叩き落とされるのはほぼ同時だった。
ピトは木から跳び降りる。着地の衝撃を無視して、走り出す。
数瞬ののち、終わったと判断し、銃を下げる。しかし微かな違和感を覚える。
魔力を感じ取る。砕けて落ちていく魔力の他に、頭部に残る魔力の塊。胸のものに比べればかなり小さいが、それでも数秒動くには全く問題ない程度の魔力。
「何だ、もう終わりかよ。ずいぶんと――」
「まだだ!」
アニムからの通信に応答するのと、アニムが樹の巨人に叩き落とされるのはほぼ同時だった。
ピトは木から跳び降りる。着地の衝撃を無視して、走り出す。
アニムは空中で一瞬意識を失っていた。目を覚ましたときに見えたのはピトが走り寄ってくる姿だった。相変わらずのろまだ、と思った。
なぜ逆さまに走っているのだろう、とも思った。逆さまなのは自分だ、と気づく前に、頭に激痛が走る。文字通り頭の割れる痛みだ。再び意識を失う。今度は一瞬では済まない。
なぜ逆さまに走っているのだろう、とも思った。逆さまなのは自分だ、と気づく前に、頭に激痛が走る。文字通り頭の割れる痛みだ。再び意識を失う。今度は一瞬では済まない。
アニムの頭蓋に大きな穴。すぐに治療が必要だとピトは判断する。だが敵が生きている以上、いまここでの治療は危険である。一時撤退することを決定。アニムを持ち上げようと手を触れた瞬間、アニムが飛び起きた。
「待て、動くな」
ピトの制止を無視し、アニムは走り出す。そして、助走をつけた跳躍。ピトは一瞬、アニムを見失う。見上げると、もう巨人の頭部まで迫っていた。この魔物にも戸惑いというものがあるのか、動きが止まっている。ようやく動き出そうとしたときには、終わっていた。
巨人の頭部が真っ二つになっている。いつの間に刀を抜いたのかピトにも解らなかった。樹の巨人は完全に動きを止め、枯れ始めた。
一方、アニムも力尽きたようで、落下し始めた。再びピトが走り、今度は余裕を持って受け止めた。
「待て、動くな」
ピトの制止を無視し、アニムは走り出す。そして、助走をつけた跳躍。ピトは一瞬、アニムを見失う。見上げると、もう巨人の頭部まで迫っていた。この魔物にも戸惑いというものがあるのか、動きが止まっている。ようやく動き出そうとしたときには、終わっていた。
巨人の頭部が真っ二つになっている。いつの間に刀を抜いたのかピトにも解らなかった。樹の巨人は完全に動きを止め、枯れ始めた。
一方、アニムも力尽きたようで、落下し始めた。再びピトが走り、今度は余裕を持って受け止めた。
アニムが再び目を覚ますと、目の前に星空があった。意識がはっきりとしてくると、ピトに膝枕をされ、頭を撫でられていることに気づいた。
「……おはよーさん。ちょっとドキッとしちまったぜ」
「起きたか。痛むところはないか」
「ねぇけど、体が重い。起き上がれねぇ」
「そうか。おんぶと抱っこどっちがいい」
「抱っこは勘弁してくれ」
「そうか。だがその前に少し待っていろ。残りの仕事を終わらせる」
ピトは魔力の結晶の欠片を回収し、特殊な箱に入れる。そして枯れた樹の巨人の根元に、霊力の結晶を置いた。魔力は霊力によって中和されるからだ。
戻ってきたピトがアニムを背負う。アニムは首にしがみつく。銃と、魔力の欠片を入れた鞄は体の前へ。
「……あれ、どうやって倒したんだ?」
枯れてなお威圧感を放つ大木を見上げながら、アニムが尋ねる。
「お前が倒したのだ。一瞬で頭部を真っ二つにした」
「頭打ってから、記憶がねぇんだけど」
「おそらく自分が危険な状況にあると、勝手に行動するようにプログラムされているのだろう。リミッターも解除されていたようだ」
「マジで? 自分にそんな機能があるとは知らなかったんですけど。こゑぇ、こゑぇな」
「結果的には良かった」
「てか、そんなに危険な状況だったのか、俺」
「頭部に穴が空いていた」
「穴?」
言いながらアニムは自分の頭を触る。
「穴なんてねぇぞ? ……ああ、お前が直しちまったのか。いや、まあ、ありがとな」
「何故そのような回りくどい言い回しになるのだ」
「知らねぇよ。俺の表面上の感情のモデルがひねくれ者なんだろ。博士の弟だとかなんとか」
「なるほど。ところで、私はお前に謝罪するべきだろうか」
「え? ……は? なんでだよ。なんでそんな話になるんだよ」
とっさには意味が分からず戸惑う。
「謝罪は感情を満足させるものに過ぎない。お前に感情はないが、感情の模倣を手段とした実験の最中だ。だからどうするべきなのか判断がつかないのだ」
「いや、そーゆー意味じゃなくてよ、俺たちが人間同士だったとしても、どこに謝る必要があるんだよ」
「あの魔物の頭部の魔力に気づかなかったのは私の過失だからな」
「いや、俺一人だと胴体の魔力にも気づかなかっただろーしなぁ……。自分ができなかったことを他人ができなかったとしても、それは責められねぇだろ」
「なるほど、一理ある。謝罪しないことに決定した。異論はあるか」
「……なんだかなぁ」
アニムは首を振りながら、苦笑する、ふりをした。
「……おはよーさん。ちょっとドキッとしちまったぜ」
「起きたか。痛むところはないか」
「ねぇけど、体が重い。起き上がれねぇ」
「そうか。おんぶと抱っこどっちがいい」
「抱っこは勘弁してくれ」
「そうか。だがその前に少し待っていろ。残りの仕事を終わらせる」
ピトは魔力の結晶の欠片を回収し、特殊な箱に入れる。そして枯れた樹の巨人の根元に、霊力の結晶を置いた。魔力は霊力によって中和されるからだ。
戻ってきたピトがアニムを背負う。アニムは首にしがみつく。銃と、魔力の欠片を入れた鞄は体の前へ。
「……あれ、どうやって倒したんだ?」
枯れてなお威圧感を放つ大木を見上げながら、アニムが尋ねる。
「お前が倒したのだ。一瞬で頭部を真っ二つにした」
「頭打ってから、記憶がねぇんだけど」
「おそらく自分が危険な状況にあると、勝手に行動するようにプログラムされているのだろう。リミッターも解除されていたようだ」
「マジで? 自分にそんな機能があるとは知らなかったんですけど。こゑぇ、こゑぇな」
「結果的には良かった」
「てか、そんなに危険な状況だったのか、俺」
「頭部に穴が空いていた」
「穴?」
言いながらアニムは自分の頭を触る。
「穴なんてねぇぞ? ……ああ、お前が直しちまったのか。いや、まあ、ありがとな」
「何故そのような回りくどい言い回しになるのだ」
「知らねぇよ。俺の表面上の感情のモデルがひねくれ者なんだろ。博士の弟だとかなんとか」
「なるほど。ところで、私はお前に謝罪するべきだろうか」
「え? ……は? なんでだよ。なんでそんな話になるんだよ」
とっさには意味が分からず戸惑う。
「謝罪は感情を満足させるものに過ぎない。お前に感情はないが、感情の模倣を手段とした実験の最中だ。だからどうするべきなのか判断がつかないのだ」
「いや、そーゆー意味じゃなくてよ、俺たちが人間同士だったとしても、どこに謝る必要があるんだよ」
「あの魔物の頭部の魔力に気づかなかったのは私の過失だからな」
「いや、俺一人だと胴体の魔力にも気づかなかっただろーしなぁ……。自分ができなかったことを他人ができなかったとしても、それは責められねぇだろ」
「なるほど、一理ある。謝罪しないことに決定した。異論はあるか」
「……なんだかなぁ」
アニムは首を振りながら、苦笑する、ふりをした。
森を出ても、真っ暗だった。
荷物はトラックの荷台に載せ、二人は運転席と助手席に乗り込み、休眠した。
荷物はトラックの荷台に載せ、二人は運転席と助手席に乗り込み、休眠した。