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転移戦線異常有り!? 大海上都市群「兵庫」重歩兵中隊がワームと戦うようです 最終話Bエンド

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irisjoker

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[チェストォォォォォーーーーーッ]
平均的な成人男性の百倍以上の力で振り下ろされた3mの巨刀。長く、厚く、重い、震える真紅の刀身に両断されたオルトロスは、煮込み過ぎたスープの具のように泥々と崩れ去ると、地面に広がり少しずつ染み込んでいく。
300cm超振動極熱刀は威力「だけ」なら、最強の陸戦兵器である主力戦車の装甲を、
最も薄い部分ですら、200年ぐらい前の戦車砲弾に使われていたという120mmAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)やHEAT(成形炸薬弾)などの直撃を受けてもかすり傷すら付かない装甲を、斬れる。
刀身を消耗品とする一回限りの全力攻撃。振動熱を極限まで高めた過負荷出力の斬撃(俺はこの技に灰燼滅斬というカッチョイイ厨二ネームを勝手に名付けている)なら最も厚い正面装甲をも斬り裂ける。
オルトロスに効かない道理は無かった。というか、純粋な威力のみなら重歩兵の全兵器の中で究極ともいえる攻撃力を誇り、主力戦車に損傷を与えられる(装甲を斬れても撃破となると話は全く違う)数少ない武器が通じなかったら嫌過ぎる。
[我が振動熱斬刀に断てぬものなどあんまり無い!]
3mの刀を両手に構えた突撃兵が征く。ある者は愚直なまで真っ直ぐに、ある者は夢幻(ゆめまぼろし)の如き巧みな回避を行いながら、力ずくで叩き潰し、蝶の様に舞い蜂の様に刺す。
オルトロス二型の放った針弾を突撃兵の一人が300cm超振動極熱刀で受け止める。刀身に触れた針弾は砂糖菓子で出来ていたのではないかと思わせる程脆く崩れ去った。
突撃兵の技量は高い。電力が尽きない限り刀で斬り放題なので弾薬の心配をする必要も無い。だが流石に多勢に無勢、彼らだけでオルトロスを倒しきれないし、思ってもいないだろう。
今はまだ一人も無傷だが、このままだと数分もしないうちに被害を受け、急激に拡大し、全滅させられるだろう。突撃兵「だけ」なら。
突撃兵に攻撃しようとしたオルトロスの胴体に巨大な風穴が開き、地面に倒れ伏す。
砲弾が内部で爆発したオルトロスは原形を止めず、半固体になった肉片を周囲に撒き散らす。
対重歩兵用大粒散弾を浴びた数匹は、「急所へ正確無比に飛び散った散弾」を食らった数匹は、散弾の中心部に仕込まれた少量の高性能炸薬が爆発し、急所を潰され、全身に散らばった細かな振動熱破片に体内を蹂躙され、想像を絶する地獄の苦しみを味わいながら死んでいった。
オルトロスへ攻撃したのは砲撃部隊。
重装甲強化服の全高の二倍以上の長さである100口径62.5mm砲(砲身と砲弾は艦船と同一の代物)2門と、接続された2個の大型弾薬庫を背負っている。重歩兵でもまともに動けない超重武装。その見た目はどう見てもハルコンネンⅡです、本当にありがとうございました。
62.5mm砲一人2門、中隊100人で計200門。こんな超絶馬鹿武装した馬鹿野郎共が百人も突撃兵の支援を行っている。
元が艦砲であり、火力は凄まじい。重歩兵の利点である機動力を犠牲にしてまで得た攻撃力は絶大であった。62.5mm砲の威力は50mm狙撃砲より高い。それを、全弾撃ち尽くす勢いでオルトロスにブッ放している。
電磁力によって砲口から発射された極超音速の無薬莢(ケースレス)砲弾は、散弾を除き、例外無く一撃でオルトロスをあの世へ送った。
今までは全周囲から攻めてくるオルトロスが一方的に有利だったが、再転移した味方の重歩兵二個中隊が更に外側から攻撃する事で、オルトロスは挟み撃ちにされる形となった。
内側の俺達への攻撃を続けるか、外側の二個中隊を攻撃するか、オルトロスの動きに乱れが生じた。それは致命的な隙だった。喉笛を差し出されてなぁ、食い千切らない奴なんざいねぇだろうがよォッ!
「全員攻撃、ブチ殺せッ」
俺達の中隊も攻撃を再開する。残った軽歩兵用の武装を全て叩き込む。電力の回復を待っていた突撃兵二十人が、一旦脱いだ重装甲強化服を再び着用し、振動熱斬刀の投擲及び斬撃を浴びせる。
オルトロスの勢いが衰えたとはいえ、弾薬が尽き果て電力も残り少ない状態に変わりはない。負傷者は多数発生したが頭部への攻撃だけは絶対に回避し、後方支援担当重歩兵の背負う治療用大型バックパックで治療。
治療に時間が掛かり過ぎると判断された軽歩兵は首を切断し、「生首」を重装甲強化服の生命維持装置と接続する。
最初に叩き込まれた突撃中隊の攻撃。125mm榴弾3000発、250mm榴弾200発で大きく数を減らしたのも影響しているのだろう。
「生首」と重傷者を多数出しながらも、外側からこちらへ進撃してくる突撃中隊、それを支援する砲撃中隊の猛攻勢でオルトロスは殲滅されていく。
確かに殲滅されている。だがそれは、俺達の中隊百人が最初に交戦した奴ら。多大な犠牲(死者はまだ一人もいないが)を払い、持てる弾薬と電力を、鍛え上げた技量で根こそぎ叩き込んでやった相手だ。
俺達が戦った数倍の数のオルトロスが、味方が出現した更に外側の全周囲から攻め寄せてくる。迎え撃つのは速射砲中隊、対空速射砲中隊、対戦車砲中隊、対空砲中隊、榴弾砲中隊、迫撃砲中隊、重迫撃砲中隊の計七個中隊。全部隊は既に攻撃準備を完了していた。
対空速射砲中隊の牽引式100口径62.5mm連装砲25基50門、対空砲中隊の牽引式100口径125mm砲25門、榴弾砲中隊の牽引式50口径250mm榴弾砲10門が攻撃を開始する。
放たれるのは全て誘導砲弾。榴弾砲の対地誘導砲弾と違い、対空速射砲中隊と対空砲中隊が使用するのは本来は対空用途に使われ、航空機の撃墜及び、砲弾、爆弾、ミサイルの撃破など間接防御射撃を目的とする、誘導砲弾の中で最も高価、高性能の精密遮蔽誘導砲弾。
それらは全部、小型浮遊監視装置から送られてくる情報と砲弾自体が内蔵している超小型高性能複合センサー、超小型高性能コンピュータの絶大な計算処理能力と人工知能によって正確無比に、
特に榴弾砲の対地誘導砲弾と違い、精密遮蔽誘導砲弾はナノメートル(十億分の一)単位の精密さで、最優先攻撃目標のオルトロス四型、優先攻撃目標のオルトロス二型に着弾する。1mmすら外しはしなかった。結果は全弾命中。
三個中隊はオルトロス四型が放った生体ロケット弾を迎撃しながら砲撃を継続し、最も厄介なオルトロス四型、オルトロス二型を片っ端から皆殺しにしていく。
二型と四型はみるみる数が減っていくが、一番小さく数も多いオルトロス一型、オルトロス三型はほぼ無傷で突き進んでくる。そんな連中に何もしないなど有り得ない。
迫撃砲中隊の150mm迫撃砲50門、重迫撃砲中隊の300mm重迫撃砲10門が「御褒美」の誘導砲弾を雨霰と降り注ぐ。迫撃砲は射程が短い分、単位時間辺りの火力が榴弾砲の数倍もある。
150mmクラスの迫撃砲となると重い砲弾を砲口から装填するのが困難なので後装式にするしかないが、生身の人間の百倍以上のパワー、全高3mの重歩兵ならば全く問題無く砲口から砲弾を装填出来る。故に、150mm迫撃砲は前装式である。
砲身が6mもある300mm重迫撃砲は重歩兵の背でも砲口に届かず、後装式であった。
迫撃砲中隊は早送り再生のような素早さで砲口から砲弾を次々装填、発射する。迫撃誘導砲弾は一発の例外も無く「計算上、最大の損害を与えられる場所」へ着弾し、オルトロス一型、オルトロス三型に多大な損害を与える。
300mm重迫撃砲は150mm迫撃砲に比べれば攻撃速度は劣ったが、一撃の破壊力は凌駕した。
300kg近い重量の300mm迫撃砲弾は、着弾地点から半径十数メートルの範囲にいたオルトロスを塵すら残さず消し飛ばし、半径二、三十数メートルの範囲にいたオルトロスの大半を殺傷した。
だがそれでも、牽引式弾薬車に搭載されている全弾薬を撃ち尽くすが如き地獄の釜が開いたような猛砲撃でも進攻してくるオルトロスの全てを殲滅するなど到底不可能。無傷の、大量の無傷のオルトロスが至近距離まで辿り着こうとしていた。
[そんな君達に遠慮無用、情け不要のサービスサービスゥ♪]
残りの二個中隊。速射砲中隊の牽引式100口径62.5mm連装砲25基50門、対戦車砲中隊の牽引式100口径125mm砲25門が攻撃を開始。
牽引式100口径125mm砲は62.5mm砲と同じく艦砲と同じ砲身を使用している。
元になった艦船用の100口径12.5cm電磁砲は駆逐艦の主砲。巡洋艦、戦艦の両用砲。主力戦車の主砲や固定砲台用として使われている。直接攻撃にも間接防御にも優れる攻防一体であり、高威力、長射程、命中精度が高い次元で纏まった高性能砲である。
最大出力で発射された、最大の破壊力を誇る対戦車用の125mm超振動極熱弾は、艦砲として見るなら低威力である。戦闘艇、駆逐艦程度なら撃沈出来るが、巡洋艦以上の艦船に対しては豆鉄砲同然。特に戦艦に対しては何万発直撃させても小破させるのが精一杯。
しかし、陸戦兵器として見るならこれ程破壊力のある兵器は無かった。何しろ、125mm超振動極熱弾の直撃に耐えられるのは主力戦車の正面装甲ぐらいしかない。
二十一世紀初頭辺りの主力戦車の数十倍以上の防御力に加え、耐振動熱防御が施された上に、重装甲強化服と比べて文字通り桁違いの出力……触れたあらゆる物を一瞬で消滅させる大出力防御用振動熱発生機能を備えた装甲でやっと防げる代物。
そんな物の直撃をオルトロスが食らったらどうなっちゃうのだろう?
速射砲中隊は62.5mm連装砲25基50門を一発撃つ毎に微細な照準修正、発射時間及び出力の調整を行う。
傍目からは普通に連射している「だけ」に見える、実際は全て狙撃並の精度で発射された62.5mm振動熱徹甲榴弾は、一撃で「最低」二匹以上のオルトロス一型を貫通した後に空中で爆発。
周囲にいたオルトロスの急所へ吸い込まれるように散らばった破片は体内に侵入するだけで終わらず更に細かく砕け拡散。生存に必要不可欠な重要器官を徹底的に潰し、切り刻み、分解し、蒸発させる。
62.5mm連装砲で仕留めた大多数のオルトロス一型と少数のオルトロス三型の死骸は進攻を阻む障害物となり、「道」を作る。その「道」へ、縦に並んで突撃してくる先頭のオルトロスに125mm砲の砲口が向けられる。
手加減一切無しの過負荷出力……極超音速で発射された125mm超振動極熱弾に貫かれたオルトロス三型は、ヨルムンガンドの砲撃を受けたマゼラン級戦艦のように「竹輪」になった。後方にいた九匹も「竹輪」となり、計十匹のオルトロス三型が一撃で葬られた。
「道」を作っても、そこだけを通る訳ではない。オルトロスは何処へ適当に撃っても当たる程に数多く、障害物である死骸を乗り越えて向かってくるのも多数存在した。そんな奴らにも125mm砲の砲撃。
対戦車砲中隊が使用する砲弾は対戦車用の超振動極熱弾が主であるが、その他の種類の砲弾も牽引式弾薬車に搭載している。撃ったのは「それ」だった。
『125mm超振動極熱散弾』。低威力である対重歩兵用の大粒散弾とは違い、軽装甲車両の大破又は全壊(大破よりも上。重歩兵の背負う修理用バックパックや支援車両でも修理出来ず、スクラップ「ですら」ない状態)
軽戦車の中破又は大破、主力戦車の小破、至近距離で連発されれば中破も可能な広範囲攻撃用砲弾を惜しみなく振舞った。
「計算上、最大の損害を与えられる場所」で炸裂した砲弾は多数の高威力振動熱散弾を「正確無比」に撒き散らす。結果、死骸を乗り越えてやってきたオルトロスは一匹の区別差別も無く公平平等に死に絶え、大量の死骸の上に新たな大量の死骸が積み重ねられる。
全力全壊スターライトブレーカー精神で攻撃し続けている為、弾薬の量は急激に減少していき、牽引式弾薬車の中身が無くなり、軽くなっていく。それに引き替え、倒しても倒してもやってくるオルトロス。だが、援軍に来てくれた重歩兵部隊の士気は全く衰えない。
[こちとらには300門の62.5mm砲と50門の125mm砲、250mm榴弾砲10門、150mm迫撃砲50門、300mm重迫撃砲10門があるんだから! 負けてらんないのよぉ、あんた達にぃぃぃぃぃーーーーーッ]
砲の操作を行いながら無駄の無い巧みな動作で、近距離にやってきたオルトロスに重手榴弾を投げつけ、更に近付いてきたら伸縮可変鋼線を柄に絡ませた60cm振動熱斬刀の投擲。
間接防御兵器である6.25mm迎撃機関銃と迎撃針弾発射機の射撃で足止め、進攻の遅延、攻撃の中断を行った所でこちらの攻撃を叩き込み、直接手の届く至近距離まで接近させない。仮に接近しても振動熱斬刀の滅多刺しと斬撃が待っている。
いける、これで勝つる! 俺達の本当の戦いはこれからだ!
援軍が来ればオルトロスを殲滅出来る。そう考えていた時期が俺にもありました。
<ジ・O、動け、ジ・O! 何故動かん!?>
[動け、動けっ、動けッ、動いてよォーッ。今動かなきゃ何にもならないんだ! だから、動いてよ!!]
今、俺達1000人は拡張した塹壕の中で、迫り来るオルトロスの群れを眺めていた。
援軍の900人は軽歩兵用の武装を含め全弾薬を使い果たし、電力も少ししかない。奇跡的に死者は一人もいないが「生首」は丁度半数の500人に達し、軽傷、重傷者は治療用バックパックで治療中。
塹壕の外側から見える地平線の彼方まで、地面がオルトロスで出来てるんじゃないかと思う程に死骸で埋め尽くされていた。どれだけ殺したんだっけ? 数えるのも馬鹿らしい。
「……流石に、天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)を百回も放つと、肉体の負担が大きい……ですね」
所々和服が破れたシーナは、俺の隣で荒い息を吐きながら刀を杖代わりに辛うじて立っている。エロい。75cm振動熱斬刀の刀身はヒビが無数に走り、今にも砕け散りそうだ。
俺の状態もひどい。軽装甲強化服の頭部はオルトロスとの戦いで破壊され、素顔は血塗れ傷だらけ。頭部を除く全身の軽装甲強化服はいい感じに壊れており、戦いの終盤の星矢達青銅聖闘士のようで格好良いッ!
残った最後の武器である30cm振動熱斬刀は刀身が真ん中辺りで折れている上にヒビが入っている。
最初に再転移してからどれだけの時間が経過したのだろう。長いようにも短いようにも思える。どちらにせよ確かなのは、激戦で肉体的にも精神的にも限界が近付いている事だ。弾薬も電力も何もかも、素空缶の直前。残っているのは命だけ。
「流石にもうここまで、でしょうか」
俺は笑いながら、シーナの頭を撫でる。
「何を言ってるんだ。「ここまで」じゃない。「これから」だろう?」
「ああ……そうでしたね、隊長」
シーナは重そうに身体を動かすと、地面から刀を抜き両手に構えた。見据えるのは塹壕の外、オルトロスの群。流石に殺して殺して殺して殺して殺しまくったので、数はだいぶ少ない。だが、今の俺達を皆殺しにするには十分な数だった。
せめて最低一時間あれば……半分とはいかなくとも複合自然発電で電力が回復するまでの時間を稼げれば、振動熱斬刀で滅多斬りの返り討ちにしてやれるが、無い物ねだりをしたって何の意味も無い。
現時点で、全重歩兵千人全員の総電力量は1~2%程度。「生首」状態の500人は生命維持装置を動作させる最低限の電力しか無いので実質戦闘不能。
弾薬が尽き果ててから最も戦ってくれた鬼神達。突撃中隊の百人とうちの二十人、合わせて百二十人は奮戦した分犠牲も多く、約7~8割が「生首」になっている。頼れるのは残りの二、三十人だが、こいつらも電力は少ししかない。一太刀浴びせれば電力は尽きるだろう。
もう、どうしようもなかった。 で? どうしようもないのが「何だと」いうのだ。「その程度」で心を乱したり弱気になる玉無しの腑抜け腰抜け野郎は正統日本軍に存在しない。どうしようもないなら最後まで足掻いた後に死に果てる。それだけだ。
いくさ人は戦う前から既に死人(しびと)と化している。死人が死を恐れる必要も意味も、何も無い(キリッ)
「じゃあ逝くか、野郎共」
最期の戦いが始まる……



……はずだった。
いきなり景色が変わった。見た事のある風景。それは間違いなく、再転移する前にいた場所だった。
咄嗟に隣へ振り向くと、「そこ」にいるはずの人物がいなかった。影も形もなかった。
「……隊、長……?」
どうやら他の999人はいるようだった。もっと正確に言うと、「生首」の500人以外の499人は、何故か着用していたはずの重装甲強化服を着ていなかった。理由は不明だが……恐らくは、再転移した世界に重装甲強化服だけ残ったのではないか、と思われる。
重装甲強化服以外にも援軍に来てくれた900人が持ってきた各種砲兵器や牽引式弾薬車も無い。
推測でしかないので正確には分からないが、仮に「そう」なのだとしたら……再転移したあの世界に残っているのだとしたら、いる「はず」の、ここにはいない隊長は?
握っていた刀がするりと手から抜け落ち、地面に落ちる。私は叫んだ。
「隊長ぉっ!?」
「俺一人だけ置き去りかよ。ひっでぇな」
塹壕の中には墓穴に放り捨てられた死体のように、着用者のいない重装甲強化服が放置されていた。ついさっきまでは中に人が入っていた。恐らく、元の世界に戻ったのではないかと思われる。
「生首」の500人が着用していた重装甲強化服が無いのは、頭部だけになった人間が生命維持装置から外されれば死ぬから、だろうか? 神だか何だか知らないが、親切だか悪戯なんだか分からない事をしてくれる。俺だけ残った理由も恐らく「それ」なのだろう。
重装甲強化服の他にも、今も空を飛んでいる小型浮遊監視装置、後方支援部隊のバックパック。軽歩兵、重歩兵用の武装全てに、途中で再転移してきた900人が持ってきた砲各種、牽引式弾薬車等も全部そのまま残っている。
どうしてこれらの物品は元の世界に戻らなかったんだ。まるで「この世界」に「残したかった」ような……、そんな「意思」を感じる、気がする。
でもまぁ、ぶっちゃけそんなこたぁどうでもいいや。どうやら俺は一人でオルトロスの相手をしなきゃいかんらしい。たった独りの最終決戦って奴だな。気分はフリーザに挑むバーダック。
塹壕の外側を眺めると、こっちへ突き進んでくるオルトロスがたっくさん。一人が相手にするには過剰ってレベルじゃねーぞ!? とでも言いたい数。勝機はいくらだ?
「例えそれが那由多の彼方でも、今の俺には充分に過ぎる……ってな」
今ならアンデルセン神父の気持ちも理解出来る気がする。俺の場合は片腕が千切れるだけじゃ済まないだろうし、形勢逆転の切り札も無い。本当に、何も無い。
いや、「あった」。俺にはまだ命が残っている。命こそ人間の最大の武器……みたいな事を沖田艦長が言ってたし! それに死ぬと決まった訳じゃない。ひょっとしたら奇跡が起こるかもしれない。
ああ、そーいや治療用バックパックと修理用バックパックも残ってたっけ。特に前者は残っていてくれて本当に助かる。生きてりゃ両目が潰れようが四肢が無くなろうが臓器が失われようが重病に冒されようが元通りに再生、治療してくれるのだから。
「じゃあ、行くか」
運命(さだめ)とあれば覚悟(こころ)を決める。俺は逆手に持った右手の30cm振動熱斬刀の柄を強く握り締めた。そして。
「来やがれ、化け物。何千何万何億何兆来ようが全部纏めて相手になってやる」



最期の戦いが始まった直後。そんな地上の様子など知らぬ存ぜぬとでも言わんばかりに、空を飛ぶ鋼鉄の巨鳥の群は抱えた荷物を全て投下した。



重歩兵中隊が再転移してから一ヵ月後、大海上都市群「兵庫」軍はただ一人だけ戻らなかった中隊長を「行方不明」から「戦死」と判定した。


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