『Robochemist!』
第七話「時間短し練習せよ乙女(中)」
一向にはチームの先輩という指導役が居ないため、練習の方法も分からずにプールに来ていた。体力があるにこしたことは無いとの知識がそうさせた。また、もう暑い場所はヤダとの希望もそうさせた。
一般的な競技と違うメタルナイツを、どのようにして練習すればいいのかなど分かる訳も無かったのだった。聞けばいいじゃんなどと思うかもしれないが、試しにセンジュに聞いても『とりあえず体鍛えろ』と返事が返ってきただけだった。
これはつまり学生の自主性に任せたということなのだろうかと考えこんだ一行であるが、その時間も惜しいということで各々で水着を持ってきて校舎近くにあるプールへとやってきた。
アオバとクーは外殻機の整備やなんやらにかかりっきりになるとのことなので、委員長を先頭にアルメリアとシュレーが続く。
夏の期間も部活動で使っていることもあるので使えるかと心配になったものの、試しに覗いてみると人がぼちぼち泳いでいるだけだった。
なお三人は『現状』泳いでも大丈夫だった。なに上『現状』がつくのかはお察し下さいと言うほかあるまい。男には無い女の秘密の一つ二つあるわけなのである。
ちなみに学園での水泳の授業では最初支給された水着か、自前の水着のいずれかを着ることになっている。男子の眼を惹こうと自前で頑張るか、あえて支給された水着を着るか、意見が分かれるそうだ。
ところが一行ときたら男性と交際した経験すらないというありさまで、水着で主張しようだとかいう発想がそもそも無かった。
その結果三人が三人で学校支給の水着を持ってくることになったわけで、ある意味で色気の無い光景が展開されることとなった。その紺色の水着が好きであるならば色気を通り越して桃源郷かもしれないのだが。
準備運動はしっかりきっかりすべきと主張する委員長と、どうでもいいじゃん飛びこもうと頑張るシュレー、アルメリアは素直に準備運動を開始する。
一般的な競技と違うメタルナイツを、どのようにして練習すればいいのかなど分かる訳も無かったのだった。聞けばいいじゃんなどと思うかもしれないが、試しにセンジュに聞いても『とりあえず体鍛えろ』と返事が返ってきただけだった。
これはつまり学生の自主性に任せたということなのだろうかと考えこんだ一行であるが、その時間も惜しいということで各々で水着を持ってきて校舎近くにあるプールへとやってきた。
アオバとクーは外殻機の整備やなんやらにかかりっきりになるとのことなので、委員長を先頭にアルメリアとシュレーが続く。
夏の期間も部活動で使っていることもあるので使えるかと心配になったものの、試しに覗いてみると人がぼちぼち泳いでいるだけだった。
なお三人は『現状』泳いでも大丈夫だった。なに上『現状』がつくのかはお察し下さいと言うほかあるまい。男には無い女の秘密の一つ二つあるわけなのである。
ちなみに学園での水泳の授業では最初支給された水着か、自前の水着のいずれかを着ることになっている。男子の眼を惹こうと自前で頑張るか、あえて支給された水着を着るか、意見が分かれるそうだ。
ところが一行ときたら男性と交際した経験すらないというありさまで、水着で主張しようだとかいう発想がそもそも無かった。
その結果三人が三人で学校支給の水着を持ってくることになったわけで、ある意味で色気の無い光景が展開されることとなった。その紺色の水着が好きであるならば色気を通り越して桃源郷かもしれないのだが。
準備運動はしっかりきっかりすべきと主張する委員長と、どうでもいいじゃん飛びこもうと頑張るシュレー、アルメリアは素直に準備運動を開始する。
「メンドクサーイ!」
学校から支給された水着を身につけたシュレーは、滑り防止加工のなされた床を睨みつけ息を吐くと、つま先を背中の方に曲げてストレッチをしていた。猫のようにとはいかなくとも身体が柔らかいらしく、足が楽に持ちあがる。柔らかい皮膚の下で筋が陰影を描き出した。
シュレーは元々シニョンという水泳するに適した髪型だったので、服を脱ぎ、水着に着替えただけで即泳げたが、委員長に止められて仕方が無くこうしている。
髪を左右纏めではなく、うなじの位置で結うようにした委員長は腕を腕で伸ばす運動を。
シュレーは元々シニョンという水泳するに適した髪型だったので、服を脱ぎ、水着に着替えただけで即泳げたが、委員長に止められて仕方が無くこうしている。
髪を左右纏めではなく、うなじの位置で結うようにした委員長は腕を腕で伸ばす運動を。
「いっちにーさんしーごーろくしちはちー……」
その隣で黙々と準備運動をするのはアルメリアだ。彼女の水着は汗でじっとり濡れており、額、首筋、その付近は特に発汗が激しかった。なによりも水に漬かりたい一心であった。
並べば分かるだろうが三人の身長はそれほど違う訳でもなく、体格の面でもビート板とメロン級の格差があるでもない。成長が止まる前段階の未完成な美しさ、これから成長していく美しさがあるとでも言っておこうか。
委員長は息を吐くと足のストレッチをしつつ、不満タラタラなシュレーに頭を傾げた。
並べば分かるだろうが三人の身長はそれほど違う訳でもなく、体格の面でもビート板とメロン級の格差があるでもない。成長が止まる前段階の未完成な美しさ、これから成長していく美しさがあるとでも言っておこうか。
委員長は息を吐くと足のストレッチをしつつ、不満タラタラなシュレーに頭を傾げた。
「本当に、足がつって溺れたら知りませんよ?」
「ふふぅーん、シュレちゃんは腕の力だけで這いあがれますよーだ」
「ああ言えばこう言う、こう言えばああ言う……」
「なんて、ちゃんと準備運動はするから安心しちゃってね!」
「ふふぅーん、シュレちゃんは腕の力だけで這いあがれますよーだ」
「ああ言えばこう言う、こう言えばああ言う……」
「なんて、ちゃんと準備運動はするから安心しちゃってね!」
シュレーはふふんと笑い、せっせせっせと身体を動かしていく。負けじと委員長もそうした。
全身の準備運動を終えたアルメリアは、顔の汗を拭うと、25mプールを縦に区切った列の一番向こう側でひたすら泳ぎ続ける同年代の人物を見遣り、溜息を吐いた。
これから練習なのだと思うと気が重くもある半面、心が騒ぐ。
両親が海を職場にしていた関係上、彼女もそれに同行することも多々あった。休日は手を引かれて海に行き遊んだし、イルカとじゃれたこともあった。
海辺に咲く花――アルメリア。
名が示す通り、彼女は海が大好きだったのだが、生活が忙しくのんびり水中で遊べる時間など無かったわけで、今こそのんびり出来る機会なのではなかろうか。
だが、これは練習である。
まてよ、練習と考えればいいのだ。そうこれは練習である。断じて遊びなどではないと思おう。
というか、その前に。
全身の準備運動を終えたアルメリアは、顔の汗を拭うと、25mプールを縦に区切った列の一番向こう側でひたすら泳ぎ続ける同年代の人物を見遣り、溜息を吐いた。
これから練習なのだと思うと気が重くもある半面、心が騒ぐ。
両親が海を職場にしていた関係上、彼女もそれに同行することも多々あった。休日は手を引かれて海に行き遊んだし、イルカとじゃれたこともあった。
海辺に咲く花――アルメリア。
名が示す通り、彼女は海が大好きだったのだが、生活が忙しくのんびり水中で遊べる時間など無かったわけで、今こそのんびり出来る機会なのではなかろうか。
だが、これは練習である。
まてよ、練習と考えればいいのだ。そうこれは練習である。断じて遊びなどではないと思おう。
というか、その前に。
「私達シャワー浴びて汗流して無いですよね?」
「そういえば浴びてなかった気がしますが――浴びてないですね、ちゃんと浴びなくては」
「同意ー」
「そういえば浴びてなかった気がしますが――浴びてないですね、ちゃんと浴びなくては」
「同意ー」
水面を目の前にして、一同はシャワーのある場所へと戻って行った。
◆ ◆ ◆ ◆
涼しさに身を任せ、静かにたゆたえば皮膚から温度が吸い取られて溶け消えていく。透明なプラスチックを通して網膜へ映る視界は青、薄い水、蒼、藍、上から貫くは光の幕。
計画的に敷き詰められたタイルに幕は注ぎ、コースを区切る蛇腹状に繋がった樹脂のそれらが水に揺られている。青一色の世界に佇むは紺色の水着に身を包んだ少女。
極端な透明度が天井の照明の煌めきを余すことなく届けてくる。
温水利用のプールとはいっても体温より低いため、火照った体には十分冷たい。肺から口に送った空気の塊を吐く。それは幾多に分裂して、くらげとなりて昇っていく。
いつまでも潜っていたい欲はあるが、人間は水中から酸素を濾し出す身体機能を獲得していない以上、いつかは戻らなくてはならない。
さらば水中、また会ったな大気。
両足を揃えてイルカのように水を蹴り推進するうち、息が苦しくなってくる。体の中でむかつきが生まれ、心音が高鳴る。口の中から空気の泡を二つほど吐きだし、水面近くへと手で水を掻き昇る。
光が乱交する海面線へ行き着き、顔、体の順に空気中に出た。
計画的に敷き詰められたタイルに幕は注ぎ、コースを区切る蛇腹状に繋がった樹脂のそれらが水に揺られている。青一色の世界に佇むは紺色の水着に身を包んだ少女。
極端な透明度が天井の照明の煌めきを余すことなく届けてくる。
温水利用のプールとはいっても体温より低いため、火照った体には十分冷たい。肺から口に送った空気の塊を吐く。それは幾多に分裂して、くらげとなりて昇っていく。
いつまでも潜っていたい欲はあるが、人間は水中から酸素を濾し出す身体機能を獲得していない以上、いつかは戻らなくてはならない。
さらば水中、また会ったな大気。
両足を揃えてイルカのように水を蹴り推進するうち、息が苦しくなってくる。体の中でむかつきが生まれ、心音が高鳴る。口の中から空気の泡を二つほど吐きだし、水面近くへと手で水を掻き昇る。
光が乱交する海面線へ行き着き、顔、体の順に空気中に出た。
「ぷはっ」
酸素を求む体の指令に従い横隔膜を使い肺に空気を入れる。血流に酸素が供給され、ヘモグロビンが運搬作業を開始する。水に浮いているというのに頭がくらつく。
いつまでもこうしてはいられないので、両手足で体の全面が水につかるようにすれば、泳ぎ始める。
右手を出して水を掻き、左手を出して水を掻き、その間両脚はバタつかせて推力を得る、一般でいうクロール泳法で彼女は泳いでいた。他にも泳法はあるが、一番慣れているやりかたで泳ぎたかった。
掻いて掻いて掻いておまけにドルフィンキックを加え息を吐き出し息を吸い込み繰り返し。体慣らしの意味合いを込めて、その一連の動きは大した速度を持っていない。
アルメリアがクロールで泳ぐ隣のレーンでは、最初から全力で泳ぎまくるシュレーの姿がある。彼女はバタフライ泳法で河童が如き猛速度を出していた。その隣では平泳ぎでのんびり泳ぐ委員長がいる。
スパルタなやりかたでガンガン泳ぐのもよいが、じっくり泳ごうという結論が出たためこのようになっているが、我が道は我なりとでも言わんばかりにとばすシュレーがいる辺りなんとも言えぬ。
少なくとも300mは泳いだ辺りで最初に委員長がヘバり、次にアルメリアとシュレーが同時にヘバった。歩いた場合大した距離では無くとも、泳ぐとなると話がまるで違うのだ。
プールサイドに腰掛けて脚が水に浸かるような体勢にて、休息を取る三人。
頑張り過ぎて三人ともぐったりとしているらしく、一言も喋らない。陸上にしろ水中にしろ、運動すれば疲れるのは当然の事であった。
それも時間が経過するにつれて回復してきて、最初に口を開いたのはアルメリアだった。水に濡れた髪の毛が口元に貼りついていたので人差し指で巻き上げて後ろへ流した。
いつまでもこうしてはいられないので、両手足で体の全面が水につかるようにすれば、泳ぎ始める。
右手を出して水を掻き、左手を出して水を掻き、その間両脚はバタつかせて推力を得る、一般でいうクロール泳法で彼女は泳いでいた。他にも泳法はあるが、一番慣れているやりかたで泳ぎたかった。
掻いて掻いて掻いておまけにドルフィンキックを加え息を吐き出し息を吸い込み繰り返し。体慣らしの意味合いを込めて、その一連の動きは大した速度を持っていない。
アルメリアがクロールで泳ぐ隣のレーンでは、最初から全力で泳ぎまくるシュレーの姿がある。彼女はバタフライ泳法で河童が如き猛速度を出していた。その隣では平泳ぎでのんびり泳ぐ委員長がいる。
スパルタなやりかたでガンガン泳ぐのもよいが、じっくり泳ごうという結論が出たためこのようになっているが、我が道は我なりとでも言わんばかりにとばすシュレーがいる辺りなんとも言えぬ。
少なくとも300mは泳いだ辺りで最初に委員長がヘバり、次にアルメリアとシュレーが同時にヘバった。歩いた場合大した距離では無くとも、泳ぐとなると話がまるで違うのだ。
プールサイドに腰掛けて脚が水に浸かるような体勢にて、休息を取る三人。
頑張り過ぎて三人ともぐったりとしているらしく、一言も喋らない。陸上にしろ水中にしろ、運動すれば疲れるのは当然の事であった。
それも時間が経過するにつれて回復してきて、最初に口を開いたのはアルメリアだった。水に濡れた髪の毛が口元に貼りついていたので人差し指で巻き上げて後ろへ流した。
「疲れ、た………はぁ……はぁ」
息を吸っては吐いて吸っては吐いて。あまり急激に運動したせいなのか頭に霧を流し込まれたように考えられず、いくら吸っても吸っている実感が湧いてこない。酸素欠乏の代償は頭痛と疲労感だった。
水も最初は涼しかったが、泳いで筋肉が熱を持ち始めてくればぬるま湯のように感じられ、腕は上がらず脚は動くことを拒絶してくる。首も水上に上がらず、呼吸が詰まってくる。
そして水から上がった今、太腿の筋繊維一本一本がもう働かないぞと団結しているとしか思えない倦怠感が圧し掛かる。やもすれば脚が勝手に震えそうになる。
アルメリアは両手を投げ出し後ろにばたりと倒れると、右足で水をかいた。足首で引っかかった水が甲で叩かれ宙に舞う。そして瞳を閉じた。瞼を透過した光が赤色を映した。
目に食い込むゴーグルを外し、放る。
水も最初は涼しかったが、泳いで筋肉が熱を持ち始めてくればぬるま湯のように感じられ、腕は上がらず脚は動くことを拒絶してくる。首も水上に上がらず、呼吸が詰まってくる。
そして水から上がった今、太腿の筋繊維一本一本がもう働かないぞと団結しているとしか思えない倦怠感が圧し掛かる。やもすれば脚が勝手に震えそうになる。
アルメリアは両手を投げ出し後ろにばたりと倒れると、右足で水をかいた。足首で引っかかった水が甲で叩かれ宙に舞う。そして瞳を閉じた。瞼を透過した光が赤色を映した。
目に食い込むゴーグルを外し、放る。
「バタフライなんてするんじゃなかったなぁ」
散々泳ぎ続け、体力が限界に達して初めて後悔を覚えたシュレーが背中を丸めつつ言えば、平泳ぎを続けていた委員長が自分の体にプールから水を一掬いかけて応える。
「というより、私達は無茶をし過ぎている気がしますが、どうなのでしょう」
静寂。水音。
「………」
アルメリアは何を今さら、なんて言ってやりたかったが、後悔に肩を叩かれている真っ最中では口を聞けるだけの余力も無かった。その後悔は口元をいやらしく持ち上げているのだ。
これは、間違いなく筋肉痛だなと考えただけで憂鬱になる。泳ぎは好きでも、その前にさんざん駆け回っていたのだから洒落にならない。
まず準備体操、走り込み、外殻機で戦闘訓練、そして水泳。
最近鍛え始めたとはいっても彼女らは普通の女子学生にすぎず、既に限界が近かった。疲労が蓄積してきて頭はぼーっとして頭痛すら覚えるし、背中を反らすだけでぽきぽき音が鳴る。
効率的な練習や基礎訓練とやらをどうしていいか分からないのでこうして徐々に開拓していくしかないのだが、あまりに非効率的だった。
ほぼ無言になったアルメリアとシュレー、比較的運動力は少ないはずの委員長ですら疲労を隠せず首を回している。
その三人の背後に、踵からつま先へ重心をゆっくり移動させて音を殺しつつ歩み寄る人影一つ。
天井の照明が遮られて、瞼の一端に影が差した。アルメリアは瞳を開けた。どこかで見たというか、ついこの前顔を合わせた青年が腕を組み、乾いた笑みを口元に引っ掛けて立っていた。
知らずげんなりとした顔になる。こう言うのを腐れ縁というのだろうかと一瞬考えたが、たかだか数回会った程度でそれはない。
その人物が目を落とし、口を開いた。
これは、間違いなく筋肉痛だなと考えただけで憂鬱になる。泳ぎは好きでも、その前にさんざん駆け回っていたのだから洒落にならない。
まず準備体操、走り込み、外殻機で戦闘訓練、そして水泳。
最近鍛え始めたとはいっても彼女らは普通の女子学生にすぎず、既に限界が近かった。疲労が蓄積してきて頭はぼーっとして頭痛すら覚えるし、背中を反らすだけでぽきぽき音が鳴る。
効率的な練習や基礎訓練とやらをどうしていいか分からないのでこうして徐々に開拓していくしかないのだが、あまりに非効率的だった。
ほぼ無言になったアルメリアとシュレー、比較的運動力は少ないはずの委員長ですら疲労を隠せず首を回している。
その三人の背後に、踵からつま先へ重心をゆっくり移動させて音を殺しつつ歩み寄る人影一つ。
天井の照明が遮られて、瞼の一端に影が差した。アルメリアは瞳を開けた。どこかで見たというか、ついこの前顔を合わせた青年が腕を組み、乾いた笑みを口元に引っ掛けて立っていた。
知らずげんなりとした顔になる。こう言うのを腐れ縁というのだろうかと一瞬考えたが、たかだか数回会った程度でそれはない。
その人物が目を落とし、口を開いた。
「女子三人揃ってお茶会かな?」
「……これがお茶会に見えるなら、どうぞ精神科医か眼科医、オカルト方面ならば祈祷でもしてもらって浄化して消えてください」
「……これがお茶会に見えるなら、どうぞ精神科医か眼科医、オカルト方面ならば祈祷でもしてもらって浄化して消えてください」
平素なら絶対言わない言葉辞書の中から総動員して吐きだすが、相手に通用するわけも無かった。
短ズボンタイプの水着を履いた金髪、痩躯の青年、ブラン。
アルメリアは寝転がったまま、つまり見下されたままの位置関係が気に食わず、上半身を捻り起こし、両足を水の中から引っ張り上げると、前髪掻き上げつつ起立した。
目じりを上げ、腕を軽く組んで片足に体重を乗せて不機嫌さを前面に押し出す。が、どうあがいたところでブランとの身長差は埋まらず、視線を上にしなくてはならなかった。
アルメリアの瞳とブランの瞳が交錯す。片やお前が気に食わないと大々的に、片やそれがどうかしたかこのアホと言わんばかり。温度差はあれど、相手を一種の敵と認めている態度であった………というにはちょっとドロドロしているが。
最初にシュレーが顔をその二人に向け、委員長もそうした。
短ズボンタイプの水着を履いた金髪、痩躯の青年、ブラン。
アルメリアは寝転がったまま、つまり見下されたままの位置関係が気に食わず、上半身を捻り起こし、両足を水の中から引っ張り上げると、前髪掻き上げつつ起立した。
目じりを上げ、腕を軽く組んで片足に体重を乗せて不機嫌さを前面に押し出す。が、どうあがいたところでブランとの身長差は埋まらず、視線を上にしなくてはならなかった。
アルメリアの瞳とブランの瞳が交錯す。片やお前が気に食わないと大々的に、片やそれがどうかしたかこのアホと言わんばかり。温度差はあれど、相手を一種の敵と認めている態度であった………というにはちょっとドロドロしているが。
最初にシュレーが顔をその二人に向け、委員長もそうした。
「では、暇つぶしに水泳大会でも開催だったかな、それは失礼なことをしたな。存分に泳ぐといい」
「そんな貴方こそ、こんな場所で男一人寂しく水泳ですか? 時間を持て余してるんですね」
「違う。外殻機を乗りこなすにあたっては体力が入用だからここにいる。水泳は体を偏りなく鍛えるに適しているからな」
「………ふーん、やっぱり合ってたんだ」
「……? 合ってた?」
「そんな貴方こそ、こんな場所で男一人寂しく水泳ですか? 時間を持て余してるんですね」
「違う。外殻機を乗りこなすにあたっては体力が入用だからここにいる。水泳は体を偏りなく鍛えるに適しているからな」
「………ふーん、やっぱり合ってたんだ」
「……? 合ってた?」
ブランの話を聞き、水泳も外殻機の操縦に必要な体力作りの方法であると知ってうっかり口が滑ってしまった。間違ってもどんな練習が効果的なのか分からないなどと知られてはならないのに、つい喋ってしまった。
口を両手で押さえんとしたが、それが相手に悟られる材料になりかねないことを認識して、両腕を蠢かした後に再度腕を組む。
アルメリアは目を僅かに逸らし、続く言葉を紡いだ。
口を両手で押さえんとしたが、それが相手に悟られる材料になりかねないことを認識して、両腕を蠢かした後に再度腕を組む。
アルメリアは目を僅かに逸らし、続く言葉を紡いだ。
「こっちの話ですから」
「…………なるほど。大まか予想がついた」
「へぇ、言ってみてください」
「練習の方法すら知らないんじゃないのか?」
「……そんなもの本なりインターネットなりで調べれば……」
「しかし、指導してくれる人間がいない。違うか? センジュ=キサラギ教授は研究で忙しいようだし、そうなるとお前のところには経験者が一人も居ないことになるな」
「…………なるほど。大まか予想がついた」
「へぇ、言ってみてください」
「練習の方法すら知らないんじゃないのか?」
「……そんなもの本なりインターネットなりで調べれば……」
「しかし、指導してくれる人間がいない。違うか? センジュ=キサラギ教授は研究で忙しいようだし、そうなるとお前のところには経験者が一人も居ないことになるな」
図星だったが、今さら引き下がるわけにもいかず、頬をぴくりと震わせただけでなんとか腹に押し込む。だがいかんせん身長差と体格差があり埋めように埋められないものがあった。
その二人の会話を興味深げに観察していたシュレーと委員長のうち、委員長はなにやら言いたげな表情で片手を上げようとしては下げを繰り返している。
アルメリアは自分でもびっくりするほど声を低くすると、わけも無く湧きあがってくる羞恥心にやや頬を染めつつ反論を試みんとする。水着姿、しかも水で体が濡れているままで対峙したことも頬の赤みに拍車をかける。
基本的に物腰が丁寧で弱そうな印象のある彼女だが、根っこは負けを嫌う人種なのだった。
プールの端で、空中一回転で水面に飛び込んだ女性が一人。ざぶん。
その二人の会話を興味深げに観察していたシュレーと委員長のうち、委員長はなにやら言いたげな表情で片手を上げようとしては下げを繰り返している。
アルメリアは自分でもびっくりするほど声を低くすると、わけも無く湧きあがってくる羞恥心にやや頬を染めつつ反論を試みんとする。水着姿、しかも水で体が濡れているままで対峙したことも頬の赤みに拍車をかける。
基本的に物腰が丁寧で弱そうな印象のある彼女だが、根っこは負けを嫌う人種なのだった。
プールの端で、空中一回転で水面に飛び込んだ女性が一人。ざぶん。
「だとしたら?」
「競技の内容を纏めたデータをやるから携帯電話を出せ」
「競技の内容を纏めたデータをやるから携帯電話を出せ」
ブランは特に表情を変えるでもなくそう言うと、ゆるりと片手を振った。仕草の端々にキザとでもいうべき雰囲気が漂っているが、これが素の彼なのかもしれない。
アルメリアは、ブランが何かしらの策略で自分を嵌めようとしているのではなかろうかと勘繰り、決して気を許すでもなく、逆に警戒して聞き返した。態度には出ずとも滲み出る。
アルメリアは、ブランが何かしらの策略で自分を嵌めようとしているのではなかろうかと勘繰り、決して気を許すでもなく、逆に警戒して聞き返した。態度には出ずとも滲み出る。
「え?」
「勘違いするな、勝負あいてがろくすっぽ練習もせず挑みかかってくるなど、俺が許せないだけだ。それが特に君らのような女性ならな」
「ああ、なんだ。挑発ですか?」
「違う」
「勘違いするな、勝負あいてがろくすっぽ練習もせず挑みかかってくるなど、俺が許せないだけだ。それが特に君らのような女性ならな」
「ああ、なんだ。挑発ですか?」
「違う」
断固として受け付けんとばかりの刺々しいアルメリアと、なにやら伝えたげなブラン。これでは話が進まないと、髪の房を背中に払いつつ委員長が自ら足を抜いて立ち上がった。
足を伝う水が、プールサイドに小規模水たまりを構成する。
足を伝う水が、プールサイドに小規模水たまりを構成する。
「是非、お願いできますか?」
「君は?」
「彼女のチームメイトであり友人です。先程の推理の通り、我々のチームにはそれが欠けています。一通り調べてみましたが、纏めたデータがあれば時間の短縮になりますから、頂けません?」
「では、そうだな……後でプールの外で会おう」
「そちらはもう出るのですか?」
「出るが、そっちもか」
「ええ」
「データついでにメールアドレスも教えてくれれば幸いだが、どうだ」
「……け、検討しておきます」
「君は?」
「彼女のチームメイトであり友人です。先程の推理の通り、我々のチームにはそれが欠けています。一通り調べてみましたが、纏めたデータがあれば時間の短縮になりますから、頂けません?」
「では、そうだな……後でプールの外で会おう」
「そちらはもう出るのですか?」
「出るが、そっちもか」
「ええ」
「データついでにメールアドレスも教えてくれれば幸いだが、どうだ」
「……け、検討しておきます」
委員長とブランの会話はさくさく進み、プールを出たら外でデータの受け渡しをするところまでいくのに時間はかからなかった。膨大な量の試合映像と睨めっこするより、纏めたデータの方が必要だと結論した彼女の判断だった。
面白くないのはアルメリアだった。横から割って入ってきて話を進められるのは気に食わないにも程があった。
微笑混じりにいつも通りに話をする委員長の横で、なんとなく居心地の悪さを感じ、拗ねてプールに戻って両足をざぶんと水に落とす。
冷たい水に足を浸してみれば、酷使したせいでじんじん熱い筋肉がほぐれていくような感覚を覚える。ブラン相手になるとムキになってしまうのは、疲労していることも原因の一つなのかもしれないと己の分析をしてみる。
水面の白と透明の反射を辿り、顔を正面へと向けていけば、両腕を水車のように振り回しながら泳ぎまくる男子生徒の姿。青春してるなぁ、なんて歳をとったかのようなセリフを言いたくなる。
水を見つめていると、時間を忘れる。火を見つめていると安心していられるように、水もまた同じような効果を発揮するようであった。何より水は美しいのだから。
このままたそがれてプールサイドで年老いてしまいそうなアルメリアに、今まで傍観していたシュレーが背中を床につけたままずるりずるり滑って横に移動してきた。
なめくじの体にシュレーの頭をつけたとしたら、まさにこれだという、どのようにして滑ったのか不思議な動きだった。きっと背中にローラーがついているに違いあるまい。
面白くないのはアルメリアだった。横から割って入ってきて話を進められるのは気に食わないにも程があった。
微笑混じりにいつも通りに話をする委員長の横で、なんとなく居心地の悪さを感じ、拗ねてプールに戻って両足をざぶんと水に落とす。
冷たい水に足を浸してみれば、酷使したせいでじんじん熱い筋肉がほぐれていくような感覚を覚える。ブラン相手になるとムキになってしまうのは、疲労していることも原因の一つなのかもしれないと己の分析をしてみる。
水面の白と透明の反射を辿り、顔を正面へと向けていけば、両腕を水車のように振り回しながら泳ぎまくる男子生徒の姿。青春してるなぁ、なんて歳をとったかのようなセリフを言いたくなる。
水を見つめていると、時間を忘れる。火を見つめていると安心していられるように、水もまた同じような効果を発揮するようであった。何より水は美しいのだから。
このままたそがれてプールサイドで年老いてしまいそうなアルメリアに、今まで傍観していたシュレーが背中を床につけたままずるりずるり滑って横に移動してきた。
なめくじの体にシュレーの頭をつけたとしたら、まさにこれだという、どのようにして滑ったのか不思議な動きだった。きっと背中にローラーがついているに違いあるまい。
「ではまた後で会いましょう」
話が終わったのか、委員長も同じようにしてプールに足を突っ込むようにして座った。
アルメリアは、突然天井が気になったなんですよというふうに視線を移動させてブランがどこに行ったのかを探ろうとして、その姿が出口の方に消えたのを視認した。一人だった。
と、アルメリアの肩に何者かが手をおいた。シュレーだった。ゴーグルを腕に巻きつかせていた。
アルメリアは、突然天井が気になったなんですよというふうに視線を移動させてブランがどこに行ったのかを探ろうとして、その姿が出口の方に消えたのを視認した。一人だった。
と、アルメリアの肩に何者かが手をおいた。シュレーだった。ゴーグルを腕に巻きつかせていた。
「アルはブラン君のことが気になるの?」
「いえそんなことは無いです。ただ、会う度、この人とはソリが合わない、この人は苦手だってなっちゃうだけなんです。変ですよね。今までこんなこと無かったんですけど……」
「いえそんなことは無いです。ただ、会う度、この人とはソリが合わない、この人は苦手だってなっちゃうだけなんです。変ですよね。今までこんなこと無かったんですけど……」
背中を丸め言葉を吐くアルメリアの顔に元気は無い。いちいち突っかかり、しかも相手の行為(であるはず)を真っ向から突っぱねようとしてしまった自分に嫌悪感を覚えていたのだった。
らしくないといってはそうだが、それが許せない自分が陰で嫌味を囁いてくる。
ところが、すぐ隣の能天気女はそれを単純明快な言葉で打ち砕いてくれた。拳を握りしめ、脚を振った反動で背中を正すと顔を寄せ、目をきらりと輝かせて。
らしくないといってはそうだが、それが許せない自分が陰で嫌味を囁いてくる。
ところが、すぐ隣の能天気女はそれを単純明快な言葉で打ち砕いてくれた。拳を握りしめ、脚を振った反動で背中を正すと顔を寄せ、目をきらりと輝かせて。
「人は、素直になれないことを恋と言うのだ!」
「……………………………………………………………恋ぃ!?」
「……………………………………………………………恋ぃ!?」
プールにいる男子生徒が0mから12m泳ぐまで沈黙してしまったが、徐々に凍結した思考は雪解けし、素っ頓狂な叫びを上げた。その声量たるや、音が壁にブチ当たり何度も行ったり来たりするに違いないという程だった。
金剛石と水晶と銀塊の粉末を流し込み成形したような―――は大げさだが、なにをどうしたらそんな解釈が出来るのか、というか目が煌めくのか分からなかったが、目の下にある口が発した言葉は理解の範疇を超えていた。
流石の委員長も絶句して様子を見守るだけ。
音の津波を真正面から被弾したはずのシュレーはしかし嫌な顔一つせず、えっへんと鼻を偉そうに慣らすと腕を組み、言った。
金剛石と水晶と銀塊の粉末を流し込み成形したような―――は大げさだが、なにをどうしたらそんな解釈が出来るのか、というか目が煌めくのか分からなかったが、目の下にある口が発した言葉は理解の範疇を超えていた。
流石の委員長も絶句して様子を見守るだけ。
音の津波を真正面から被弾したはずのシュレーはしかし嫌な顔一つせず、えっへんと鼻を偉そうに慣らすと腕を組み、言った。
「って、旅してた変なおじさんと男の子が言ってた!」
はて、どこか心当たりがある。眉を寄せて考えるまでもなかった。何故その二人組がシュレーと会ったのか、何故そんな会話になったのかはわからないが。
アルメリアは、上半身を捻りシュレーの正面を向いた。紺色の水着が引っ張られて皺を形状した。
アルメリアは、上半身を捻りシュレーの正面を向いた。紺色の水着が引っ張られて皺を形状した。
「時に………そのおじさんって、変な帽子とか変な服とか来て高笑いしてたり、男の子は目つきが妙に悪かったりしませんか?」
「なんで分かったの? ひょっとしてアルってエスパー? すごーい」
「……心当たりがあっただけですけどね」
「ってそうじゃないよう、今はアルの恋に関してじゃなーい! んでんで、実際のところどうなの?」
「そんなことを言われても………恋だなんて……分かりません」
「なんで分かったの? ひょっとしてアルってエスパー? すごーい」
「……心当たりがあっただけですけどね」
「ってそうじゃないよう、今はアルの恋に関してじゃなーい! んでんで、実際のところどうなの?」
「そんなことを言われても………恋だなんて……分かりません」
アルメリアは頬をぽりぽりと掻くと俯き、肌に食い込む布地、その肩の部分に指を入れてずらした。苛立っているように床に触れた指をとんとん上下して、口を閉ざす。
「恋……」
「おやぁ委員長もきょーみアルの?」
「おやぁ委員長もきょーみアルの?」
プールサイドの向こう、ピンク色と青色のビート板が集められている棚付近を見つめながら委員長が言えば、すかさずシュレーが聞き返す。その間一秒足らず。初めから分かっていたかのようであった。
委員長は頭を振って水を飛ばすと、おもむろに右手を左肩に置いて擦り、二人の方に流し目をした。
委員長は頭を振って水を飛ばすと、おもむろに右手を左肩に置いて擦り、二人の方に流し目をした。
「恋愛にはあまり興味が無いですから―――……というより、今はアルメリアの話をしましょう」
「むー」
「さて、アルメリア。なぜ彼に対してのみ険しい態度を取るのか、教えてください」
「むー」
「さて、アルメリア。なぜ彼に対してのみ険しい態度を取るのか、教えてください」
シュレーと委員長の視線が真横から浴びせられ、多少怖気ついてしまうアルメリアだったが、別に隠すようなことで無いと思い、喋ろうとする。自分でも未知な気持ちなため、言える。
ブランを前にして心が高鳴るとか、虫唾が走るとか、その類の感情は持っていない。ただなぜか気を許してはいけない、勝たなくてはいけないというふうに思ってしまい、つい先ほどの態度をとってしまうだけだ。
言わば動物的とでも言おうか、敵と認識した相手だからなのか。
いずれにしても、恋愛感情は持ち合わせていないはずなのだ。もっとも適する言葉を検索して文章化するならば、ライバル意識が近似している。
アルメリアの髪から水がしみ出してうなじへ流れた。言葉を選ぼうとして諦め、率直な言葉を唇に紡がせる。
ブランを前にして心が高鳴るとか、虫唾が走るとか、その類の感情は持っていない。ただなぜか気を許してはいけない、勝たなくてはいけないというふうに思ってしまい、つい先ほどの態度をとってしまうだけだ。
言わば動物的とでも言おうか、敵と認識した相手だからなのか。
いずれにしても、恋愛感情は持ち合わせていないはずなのだ。もっとも適する言葉を検索して文章化するならば、ライバル意識が近似している。
アルメリアの髪から水がしみ出してうなじへ流れた。言葉を選ぼうとして諦め、率直な言葉を唇に紡がせる。
「……えーっと、やっぱり勝てなかったことが大きいです。悔しかったし」
「じゃー勝とうよ! ブラン君、私達にデータくれるって、しかもタダでさ。これって強くなって欲しいって意味じゃん?」
「………」
「じゃー勝とうよ! ブラン君、私達にデータくれるって、しかもタダでさ。これって強くなって欲しいって意味じゃん?」
「………」
希望と未来は我にありと産まれた時にインプットされてきたかのようなシュレーの言葉。身を乗り出し手を握ってくるので止むをえずその瞳に自分の顔が映る。しょぼくれた顔だった。
どうもいつもの調子に戻らないと首を振り、口角を引きあげてみた。
ネガティヴ思考と、怒りといった負の感情がもたらすのは後退や暴走といった悪い結果をもたらすと相場は決まっている。ならばシュレーの言うように、それを正の方向にいけるように蹴り上げてやればいいではないか。
二人を見ていた委員長は小さく頷いて見せると、首をポキポキいわせながら廻した。ついでに頭を後ろに反らしてみると、背骨がぽきりと鳴った。軽く運動をしつつ、提案する。
思えば一日中走りっぱなし泳ぎっぱなしだった。
お腹も空いていたし、なにより精神力と体力が持ちそうになかった。休息することも練習には必要だ。
委員長は最後に腰を回すと、おもむろに立ち上がった。つられてシュレーとアルメリアも水から上がった。
どうもいつもの調子に戻らないと首を振り、口角を引きあげてみた。
ネガティヴ思考と、怒りといった負の感情がもたらすのは後退や暴走といった悪い結果をもたらすと相場は決まっている。ならばシュレーの言うように、それを正の方向にいけるように蹴り上げてやればいいではないか。
二人を見ていた委員長は小さく頷いて見せると、首をポキポキいわせながら廻した。ついでに頭を後ろに反らしてみると、背骨がぽきりと鳴った。軽く運動をしつつ、提案する。
思えば一日中走りっぱなし泳ぎっぱなしだった。
お腹も空いていたし、なにより精神力と体力が持ちそうになかった。休息することも練習には必要だ。
委員長は最後に腰を回すと、おもむろに立ち上がった。つられてシュレーとアルメリアも水から上がった。
「なんにせよ、今日はもう上がりましょう。正直な話、もう疲れて疲れて……」
「あ、賛成です」
「さんせー!」
「あ、賛成です」
「さんせー!」
三人は水から上がると、シャワーを浴びて更衣室に向かった。
足取りは、酒飲み直後に似ていた。
足取りは、酒飲み直後に似ていた。
◆ ◆ ◆ ◆
体の水気を取ったら、服を着る。最初に着るのは下着だ。男のそれと違ってあまり遊びのないパンツを片足に通し、続いてもう片足に通し、腰のゴムを伸ばしながら上に引き上げて着る。
熟練したとは言えないまでも手慣れた様子でブラジャーも装着する。胸に当てて両腕を後ろへやり、ホックをぱちんと合わせる。胸が平たい時はあってもなくても良かったが、それなりに成長してくると着ないと色々と不都合が出てくるのだ。
例えば走る時に動くとか、服に形がどうのこうのだとかの理由があり、そもそも着ない主義の人も世の中にはそれなりにいるそうであるが、アルメリアには出来なかった。
さて今度はズボンを穿こうとしてロッカーの中に手を伸ばしたところで寒気を覚え、ただちに後ろを振り返れば、下はズボンで上はスポーツブラという、中途半端に服を着たシュレーがいた。プールに入って濡れたシニョンが解かれていた。
アルメリアは慌てず騒がずズボンを吐くと、シャツを頭から被って着た。ポニーテールは解かれていて、乾き次第結い直そうと考えている。
更衣室の生温く埃の臭い混じる空気を吸い、吐きつつ。
熟練したとは言えないまでも手慣れた様子でブラジャーも装着する。胸に当てて両腕を後ろへやり、ホックをぱちんと合わせる。胸が平たい時はあってもなくても良かったが、それなりに成長してくると着ないと色々と不都合が出てくるのだ。
例えば走る時に動くとか、服に形がどうのこうのだとかの理由があり、そもそも着ない主義の人も世の中にはそれなりにいるそうであるが、アルメリアには出来なかった。
さて今度はズボンを穿こうとしてロッカーの中に手を伸ばしたところで寒気を覚え、ただちに後ろを振り返れば、下はズボンで上はスポーツブラという、中途半端に服を着たシュレーがいた。プールに入って濡れたシニョンが解かれていた。
アルメリアは慌てず騒がずズボンを吐くと、シャツを頭から被って着た。ポニーテールは解かれていて、乾き次第結い直そうと考えている。
更衣室の生温く埃の臭い混じる空気を吸い、吐きつつ。
「……胸を揉もうなんて考えないでくださいね」
そして念を押した。しばらく付き合っていると相手がどんなことを考えているのか、何をしたいのか、何が欲しいのか、そんなことが想像についてくる。
シュレーは口をぷくり膨らませると、退散して自分のロッカー前に戻るといそいそと服を着始めた。こっちはこっちで拒否反応を想定して動いていたらしい。
二人がふざけている間にも委員長はてきぱきと着替えた。
シュレーは口をぷくり膨らませると、退散して自分のロッカー前に戻るといそいそと服を着始めた。こっちはこっちで拒否反応を想定して動いていたらしい。
二人がふざけている間にも委員長はてきぱきと着替えた。
「アルがエスパーになっちゃったー……」
「簡単な予想です。というか、本当に揉もうと思ったんですか?」
「簡単な予想です。というか、本当に揉もうと思ったんですか?」
アルメリアが尋ねれば、すかさずシュレーは両手の平を合わせた。
「うん、スキンシップはこうするんだってお姉ちゃんが言ってた」
「シュレーは姉妹が居るのですか、羨ましい」
「シュレーは姉妹が居るのですか、羨ましい」
実は一人っ子の箱入り娘だった委員長が口を挟む。タオルで頭を拭き直して、耳の穴に布地をいれてしっかりと水分をとってから首に提げる。
それから葉っぱをモチーフにしたリボンを手に取ったが、髪が渇ききってないため、ポケットに入れた。己の髪瞳と同じような色の葉ということは、なにか思い入れがあるか、気にいっている証拠なのだろうか。
それから葉っぱをモチーフにしたリボンを手に取ったが、髪が渇ききってないため、ポケットに入れた。己の髪瞳と同じような色の葉ということは、なにか思い入れがあるか、気にいっている証拠なのだろうか。
「……ふふむぅ、委員長なら胸より腰に抱きつきたいなぁ」
シュレーは委員長を見遣り、首を見て、胸元を見て、更に腰を見て、中年オヤジ級のセクハラ発言をした。
三人が並ぶと、アルメリアが一番胸が大きく、シュレーが普通、委員長はその中間ながらやや腰回りがしっかりとしている。ウェストがきゅっと締まっているのでなんとなく強調されているというのもある。
委員長はタオルを横にどけると、まじまじと自分の腰骨に両手を置き、神妙な顔つきで軽く押し始めた。腰が太いよねに近いことを言われては、女の子としては気になるところだ。
またもやシュレーがにじり寄り中腰になり、委員長の手の上から腰の骨を押す。
アルメリアは二人の姿が、服の寸法を合わせようとしているようで、つい吹きそうになってしまった。
三人が並ぶと、アルメリアが一番胸が大きく、シュレーが普通、委員長はその中間ながらやや腰回りがしっかりとしている。ウェストがきゅっと締まっているのでなんとなく強調されているというのもある。
委員長はタオルを横にどけると、まじまじと自分の腰骨に両手を置き、神妙な顔つきで軽く押し始めた。腰が太いよねに近いことを言われては、女の子としては気になるところだ。
またもやシュレーがにじり寄り中腰になり、委員長の手の上から腰の骨を押す。
アルメリアは二人の姿が、服の寸法を合わせようとしているようで、つい吹きそうになってしまった。
「ううう……太ってる……のでしょうか」
「というか、イインチョーは骨の位置が広いっぽいよねぇ。ほれほれ」
「母が多少ふっくらしてたので、将来は………ってどこを触ろうとっ」
「ケチー」
「というか、イインチョーは骨の位置が広いっぽいよねぇ。ほれほれ」
「母が多少ふっくらしてたので、将来は………ってどこを触ろうとっ」
「ケチー」
腰から手を上にやろうとしたため、反射的に払いのける。シュレーは舌を出して退散した。
女子の着替えというのはなかなか時間がかかるもので、雑談にのめり込もうものなら、カップラーメンに湯を注いで伸びて美味しくなくなってしまうくらいは必要となる。
話題が兄弟姉妹に及び、アルメリアが兄の無茶な行動について冗談を交えつつ語り終わると、シュレーが羨ましそうに口を開く。
女子の着替えというのはなかなか時間がかかるもので、雑談にのめり込もうものなら、カップラーメンに湯を注いで伸びて美味しくなくなってしまうくらいは必要となる。
話題が兄弟姉妹に及び、アルメリアが兄の無茶な行動について冗談を交えつつ語り終わると、シュレーが羨ましそうに口を開く。
「私はお兄ちゃんか弟が欲しかったなぁ。お姉ちゃんったら、月一で爆発するくらい乱暴になるし」
「さらっと下品なこと言わないでください!」
「なんかね、女子高なんかだとこれくらい晩飯前だってさ」
「それを言うなら朝飯前です」
「あっ、そーだ晩飯夕飯夕餉のお時間じゃないの! お腹空いた!」
「さらっと下品なこと言わないでください!」
「なんかね、女子高なんかだとこれくらい晩飯前だってさ」
「それを言うなら朝飯前です」
「あっ、そーだ晩飯夕飯夕餉のお時間じゃないの! お腹空いた!」
女三人寄れば姦しい。彼女らは室温湿度が不快指数ぶっちぎりの更衣室内でも元気だった。
シュレーのは天然なのか意図的なボケなのかが分からぬので、取りあえず突っ込んでおくその言動は慣れたもの。この場合の月一が何かはお察し下さい。
お前の姉貴は何者だと尋ねてみたいアルメリアだったが、きっとステキナヒトなんだと納得しておいた。脳裏に母親の友人がよぎった。彼女もそんな風な『いい性格』をしていた。
昔はよく遊んで貰ったものだが、そういえば結婚はしたのだろうか。相棒の方はとっくに結婚していると聞いた。盛大な式は挙げなかったが、幼馴染と結ばれたそうだ。
夏場なので何も厚手の服を着ることも無い以前にそれをしたら倒れかねないので、シャツ一枚に薄手のズボンという格好になって、荷物を纏めたバックを肩に引っ提げて、シュレーと委員長を見遣る。
二人とも着替え終わっていて、いずれも髪の毛を下ろしていた。
シュレーがシニョンを下ろすと元々幼い印象が前にきて中学生の女の子位にしか見えなかったのに対し、委員長が両側低位置結いを解くと清楚で大人な印象が増幅され、裕福な家のお嬢様のように見えた。
アルメリアが眼鏡をかけると、体温と湿気でレンズがホワイトアウトした。マヌケっぽいので外し、フレームを指に挟む。
若葉色の彼女は二人をじっくり眺めて、口を開く。
金髪と明るい茶色も若葉を見る。
シュレーのは天然なのか意図的なボケなのかが分からぬので、取りあえず突っ込んでおくその言動は慣れたもの。この場合の月一が何かはお察し下さい。
お前の姉貴は何者だと尋ねてみたいアルメリアだったが、きっとステキナヒトなんだと納得しておいた。脳裏に母親の友人がよぎった。彼女もそんな風な『いい性格』をしていた。
昔はよく遊んで貰ったものだが、そういえば結婚はしたのだろうか。相棒の方はとっくに結婚していると聞いた。盛大な式は挙げなかったが、幼馴染と結ばれたそうだ。
夏場なので何も厚手の服を着ることも無い以前にそれをしたら倒れかねないので、シャツ一枚に薄手のズボンという格好になって、荷物を纏めたバックを肩に引っ提げて、シュレーと委員長を見遣る。
二人とも着替え終わっていて、いずれも髪の毛を下ろしていた。
シュレーがシニョンを下ろすと元々幼い印象が前にきて中学生の女の子位にしか見えなかったのに対し、委員長が両側低位置結いを解くと清楚で大人な印象が増幅され、裕福な家のお嬢様のように見えた。
アルメリアが眼鏡をかけると、体温と湿気でレンズがホワイトアウトした。マヌケっぽいので外し、フレームを指に挟む。
若葉色の彼女は二人をじっくり眺めて、口を開く。
金髪と明るい茶色も若葉を見る。
「ご飯は作ります? 買います?」
「めんどくさーい」
「正直ダルいんですけど、お金にもそんなに余裕無いし……あっ、そもそも準備とかしてなかった気がーっ」
「めんどくさーい」
「正直ダルいんですけど、お金にもそんなに余裕無いし……あっ、そもそも準備とかしてなかった気がーっ」
アルメリアとシュレーは揃いもそろって嫌な顔をした。それもそのはず、作ることが頭に無かったし、疲れていたのだ。作り終わる頃には、死屍累々であろう。
幸い少し街に繰り出せば食べ物屋は無尽蔵といかないまでも、学園島の胃袋を満たすだけの数は存在している。和食洋食中華無国籍屋台何でもアリだ。もちろんファーストフードもある。
着替え終わったらしき数人の同年代の女の子達がきゃいきゃい騒ぎながら更衣室を出て行った。後に残されるは三人だけだ。空いていたのは、時間が夕方だからだろうか。
委員長は二人の反応に対し溜息一つ付かず、うむと頷き、人差し指を顎に宛がった。同意見だったらしい。
ロッカーの扉を閉めて、歩きだす三人組。横一列に並んで、歩調も揃えて、生温い更衣室を後にする。地面にへばりついた水分で靴がきゅっきゅっと鳴った。
そうだ、と先に言ってからシュレーが人差し指を上げ、続けた。
幸い少し街に繰り出せば食べ物屋は無尽蔵といかないまでも、学園島の胃袋を満たすだけの数は存在している。和食洋食中華無国籍屋台何でもアリだ。もちろんファーストフードもある。
着替え終わったらしき数人の同年代の女の子達がきゃいきゃい騒ぎながら更衣室を出て行った。後に残されるは三人だけだ。空いていたのは、時間が夕方だからだろうか。
委員長は二人の反応に対し溜息一つ付かず、うむと頷き、人差し指を顎に宛がった。同意見だったらしい。
ロッカーの扉を閉めて、歩きだす三人組。横一列に並んで、歩調も揃えて、生温い更衣室を後にする。地面にへばりついた水分で靴がきゅっきゅっと鳴った。
そうだ、と先に言ってからシュレーが人差し指を上げ、続けた。
「そうそう、みんなしらない場所に中華の美味しいお店があるんだよねー。そこ、穴場って言うのかな、とにかく案内してあげる」
「中華料理美味しいですよね。私は賛成です」
「私も賛成します」
「よぉーし、中華でけってーい!」
「中華料理美味しいですよね。私は賛成です」
「私も賛成します」
「よぉーし、中華でけってーい!」
三人が出て、幾分錆が付着した鉄製の扉が閉まった。
その日、ブランからデータを受け取った三人は中華料理を食べに街へ繰り出し、帰ってくるとさっそく練習と称した観賞会を行ったそうである。
その日、ブランからデータを受け取った三人は中華料理を食べに街へ繰り出し、帰ってくるとさっそく練習と称した観賞会を行ったそうである。
【終】
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