「おーっす、生きてるかぁ?」
閼伽王はノックの一つも無く、無遠慮にロッジの扉を開いて中へと歩み出た。
まともな神経をしていればハーフパンツ一枚、上半身裸の磯臭い男が裸足で入ってこようものなら憤慨するものだが
それは大陸の常識であって、この島の人間でそんな事を気にしていようものなら、二千人中二千人が首を傾げる事だろう。
そして、この小屋の主も閼伽王と同様、島の外の人間だが、島の人間と同様に不審人物のような風体の閼伽王の来訪を喜んだ。
まともな神経をしていればハーフパンツ一枚、上半身裸の磯臭い男が裸足で入ってこようものなら憤慨するものだが
それは大陸の常識であって、この島の人間でそんな事を気にしていようものなら、二千人中二千人が首を傾げる事だろう。
そして、この小屋の主も閼伽王と同様、島の外の人間だが、島の人間と同様に不審人物のような風体の閼伽王の来訪を喜んだ。
「そろそろ、来る頃だと思っていた。子供達の喜ぶ声が此処まで届いていたからな」
小屋の主の名はアルトール。姓は無い。閼伽王よりも暫く後に、この島に漂着した共和国の敗残兵である。
本来ならば精悍だったであろう顔は額から右目、頬と大きな裂傷が走り、右足は膝から下が無く、他にも細かな傷が全身を走り、三国の戦争の凄惨さを体言していた。
形は違えど、彼もまた閼伽王と同様にエーテル能力を用い、島民の暮らしに大きく貢献していた。
本来ならば精悍だったであろう顔は額から右目、頬と大きな裂傷が走り、右足は膝から下が無く、他にも細かな傷が全身を走り、三国の戦争の凄惨さを体言していた。
形は違えど、彼もまた閼伽王と同様にエーテル能力を用い、島民の暮らしに大きく貢献していた。
「今月はサツマイモか……懐かしいな」
「だろ? そろそろ、糖分が欲しい頃だろうと思ってな!」
アルトールが懐かしげに柔和な表情を浮かべた事に閼伽王は子供達に向けた時と同様、この島で唯一の同類が喜ぶ様に得意満面の笑みを浮かべた。
「種からのスタートで栽培面積は一アール。栽培時間は二十時間。今回は味に拘ったからな、生産量は二トンと半分!
この辺に俺とお前以外の能力者が居ねぇとは言え、俺のエーテル操作も中々、様になってきただろ?」
この辺に俺とお前以外の能力者が居ねぇとは言え、俺のエーテル操作も中々、様になってきただろ?」
エーテル能力者は体内に内包するエーテルを増幅し、周囲や自分自身に対し異能の力を振るう事が出来る。
だが、広大な面積に対し、長時間の能力行使は、普通の能力者が体内に内包しているエーテルだけでは不十分だ。
そこで不足分を周囲の物質や、大気などに含まれるエーテルを体内へ取り込み、自身のエネルギーとして再加工するのだ。
だが、物質や大気に含まれるエーテルの量には限りがあり、複数の能力者が周囲のエーテルに影響を及ぼす程の能力を同時に発動させた場合、エーテルを奪い合う形になり、思った通りの結果を出せないというわけだ。
だから、閼伽王が激戦区などで同じ事をやろうとしても、今回の様な大豊作という結果を生み出すのは少々、困難だと言える。
だが、広大な面積に対し、長時間の能力行使は、普通の能力者が体内に内包しているエーテルだけでは不十分だ。
そこで不足分を周囲の物質や、大気などに含まれるエーテルを体内へ取り込み、自身のエネルギーとして再加工するのだ。
だが、物質や大気に含まれるエーテルの量には限りがあり、複数の能力者が周囲のエーテルに影響を及ぼす程の能力を同時に発動させた場合、エーテルを奪い合う形になり、思った通りの結果を出せないというわけだ。
だから、閼伽王が激戦区などで同じ事をやろうとしても、今回の様な大豊作という結果を生み出すのは少々、困難だと言える。
「最大射程距離百十三メートル、有効範囲一アール。Bクラスといったところか……国が国なら高待遇で強制徴用だな」
アルトールは膝から下が欠損している自身の右足に視線を下ろし、自嘲気味に皮肉を吐き、閼伽王は笑えない冗談だと鼻を鳴らした。
「んで、お前みたいにボロボロになるまで扱き使われて、未開の地に流されても、助けの一つも寄越さずにポイ捨てってか?
冗談じぇねぇ! 降りかかる火の粉は振り払って、踏み潰すけどよ。俺はこの戦争に加担するつもりは更々ねぇぜ」
冗談じぇねぇ! 降りかかる火の粉は振り払って、踏み潰すけどよ。俺はこの戦争に加担するつもりは更々ねぇぜ」
エーテル能力とは星から排出される不可視のエネルギー、エーテルを体内に取り込み、意志や感情で以って、破壊エネルギーに変換し放出する能力の総称だ。
そして、それを自在に操るエーテル能力者が戦場の花形として君臨するに至るまで、それ程長い時間を必要としなかった。
とは言え、それはエーテル能力者を駆り出すための口実でしか無い。
どんなに優れた兵器、戦術、戦略を持ち出しても、それが只の人間なら、たった一人のエーテル能力者が簡単に覆してしまうのは事実だ。
だが、エーテル能力者同士なら状況は振り出しになる。強いエーテル能力は、より強いエーテル能力の前にねじ伏せられてしまう。
そして、それを自在に操るエーテル能力者が戦場の花形として君臨するに至るまで、それ程長い時間を必要としなかった。
とは言え、それはエーテル能力者を駆り出すための口実でしか無い。
どんなに優れた兵器、戦術、戦略を持ち出しても、それが只の人間なら、たった一人のエーテル能力者が簡単に覆してしまうのは事実だ。
だが、エーテル能力者同士なら状況は振り出しになる。強いエーテル能力は、より強いエーテル能力の前にねじ伏せられてしまう。
「まあ、この有様だ。この島の様に穏やかな日々が過ごせる世界があるのなら、その方が幸せだ」
「当たり前の事を言ってんじゃねぇよ! だがよ、備えだけはしておかねぇとなんだろ?」
そう言う閼伽王の表情に翳りが差した。エーテル能力者の力が絶大であるが故に三国は一人でも多くの能力者を欲している。
ただの能力者では無く、より高次の能力者を。そして、三国はそれを手に入れるために悪辣な条約を生み出したのである。
それはセブンスの様な自治権が曖昧な集落を治外法権地域と呼称し、三国の共有資源地であると定めたのだ。
ただの能力者では無く、より高次の能力者を。そして、三国はそれを手に入れるために悪辣な条約を生み出したのである。
それはセブンスの様な自治権が曖昧な集落を治外法権地域と呼称し、三国の共有資源地であると定めたのだ。
この条約が締結されたのも随分昔の話で、二人も人材発掘という名目で行われる治外法権地域の人間狩りを幼い頃から何度も目の当たりにして来た。
最初から三国の指導者達は自国民以外の能力者は資源としか見ておらず、能力の無い人間など既に意識の中にすら存在していない。
それ所か人材発掘という名目で治外法権地域へと赴き、其処に住む人々に対し、蹂躙の限りを尽くす兵達も決して少なくない。
最初から三国の指導者達は自国民以外の能力者は資源としか見ておらず、能力の無い人間など既に意識の中にすら存在していない。
それ所か人材発掘という名目で治外法権地域へと赴き、其処に住む人々に対し、蹂躙の限りを尽くす兵達も決して少なくない。
だから、閼伽王は安息の地を守るために元共和国の兵であるアルトールに師事を仰いだのである。
そこでアルトールは閼伽王に途絶える事無く、能力を限界まで行使する事を提案した。
日々の農作物の高速生成。セブンスの食糧事情に耐えられなかった事、自らの自己顕示欲を満たす事も勿論、理由の中に含まれている。
その真意は単純な破壊の能力よりも、遥かに高度な能力。創造でエーテル能力の習熟度を一気に高める事にあった。
そこでアルトールは閼伽王に途絶える事無く、能力を限界まで行使する事を提案した。
日々の農作物の高速生成。セブンスの食糧事情に耐えられなかった事、自らの自己顕示欲を満たす事も勿論、理由の中に含まれている。
その真意は単純な破壊の能力よりも、遥かに高度な能力。創造でエーテル能力の習熟度を一気に高める事にあった。
だが、閼伽王はセブンスで過ごす三年間の穏やかな日々に浸かっていた事で忘れていた事がある。
次から次へと戦火に包まれ消えていった十一人の父と、七人の母。手放したくないもの程、水の様に隙間から零れ落ちていくという事に。
次から次へと戦火に包まれ消えていった十一人の父と、七人の母。手放したくないもの程、水の様に隙間から零れ落ちていくという事に。
心構えになるかならないか程度の危機感では全く足りないという事を――
「危機感は持ち合わせていたんだ……でも、無意味」
突如として両者の背中に投げかけられる少女の静謐な声。
閼伽王とアルトールが。声のした方に目を向けると其処には、一人の少女が何の感情も持たず、直立不動の姿勢で立っていた。
年の頃は十代後半――いや、無造作に伸びた銀髪から僅かに露になった白い肌と、闇の様に暗い左目が作る表情を察するにもっと若いかも知れない。
閼伽王とアルトールが。声のした方に目を向けると其処には、一人の少女が何の感情も持たず、直立不動の姿勢で立っていた。
年の頃は十代後半――いや、無造作に伸びた銀髪から僅かに露になった白い肌と、闇の様に暗い左目が作る表情を察するにもっと若いかも知れない。
閼伽王は少女を威嚇する様にタトゥからエーテル光を放ち、アルトールは杖を握り腰を浮かせ、いつでも動けるように身構えた。
何の気配も無く、この小屋に現れた事など然したる問題では無い。その程度、能力を使えば閼伽王達にも容易く実行する事が出来る。
そんな事よりも少女の身を包んでいる服装こそが彼らにとって――この島の住人にとっての大問題だった。
何の気配も無く、この小屋に現れた事など然したる問題では無い。その程度、能力を使えば閼伽王達にも容易く実行する事が出来る。
そんな事よりも少女の身を包んでいる服装こそが彼らにとって――この島の住人にとっての大問題だった。
金の刺繍が施された群青のシャツ、黒のジャケットに真紅の襟と装飾――
「帝国のお嬢ちゃんよぉ……何もこういうタイミングで来るこたぁ無いんじゃねぇのか?」
閼伽王は益々、警戒心を剥き出しにして声を絞り出した。皮肉を吐く余裕も無い。
三国の戦争において、性別や年齢に意味は無い。軍服に身を包んでいるという事自体がエーテル能力者である事を証明している。
そして、共和国や連合の関連施設の無いセブンスに、帝国兵である彼女が此処に来たという事は用件を聞くまでも無い。
三国の戦争において、性別や年齢に意味は無い。軍服に身を包んでいるという事自体がエーテル能力者である事を証明している。
そして、共和国や連合の関連施設の無いセブンスに、帝国兵である彼女が此処に来たという事は用件を聞くまでも無い。
――人間狩り
帝国にしても共和国にしてもそうなのだが、人間狩りが狩猟対象に返り討ちになっては話にならない。
その為、人間狩りは複数人数のCクラスエーテル能力者と、それを纏めるBクラス以上の上級能力者によって組織される。
二人のエーテル能力者がいるこの小屋に丸腰同然の格好で乗り込んできた少女こそが、人間狩りを統率するBクラス以上の能力者である事は彼らの目にも明らかであった。
その為、人間狩りは複数人数のCクラスエーテル能力者と、それを纏めるBクラス以上の上級能力者によって組織される。
二人のエーテル能力者がいるこの小屋に丸腰同然の格好で乗り込んできた少女こそが、人間狩りを統率するBクラス以上の能力者である事は彼らの目にも明らかであった。
「警戒しなくて良い……無意味だから……スクレイル帝国、ベアトリス・マクスウェル少尉……貴方を向かえに来た」
ベアトリスは名を名乗ると同時に指先にエーテルを収束し、指を弾く音を島全体に響き渡らせた。
凄まじい振動が四回。アルトールの小屋を襲い、天井の隙間から積もった埃が降り注がれた。
凄まじい振動が四回。アルトールの小屋を襲い、天井の隙間から積もった埃が降り注がれた。
「あれは……エーテルナイト!? 既に実用化に成功していたと言うのか!?」
エーテル能力とは異なる物理的な震動。窓の外に目を見やったアルトールは驚愕と、絶望に満ちた表情で叫んだ。
エーテルジェネレーターで搭乗した能力者のエーテルを増幅し、身に纏った感応金属オリファルコンを強固に変性し、破壊衝動に変換したエーテルを武装化する兵器システム、エーテル兵器を装備した人型兵器である。
エーテルジェネレーターで搭乗した能力者のエーテルを増幅し、身に纏った感応金属オリファルコンを強固に変性し、破壊衝動に変換したエーテルを武装化する兵器システム、エーテル兵器を装備した人型兵器である。
「何を今更……」
この二人が文明から切り離されたセブンスに流れて三年。その間に地球で何が起こっているのか知る由も無い。
地球製エーテルナイト第一号、陸戦騎は既に新型機などでは無く、地球各地の戦場で猛威を振るっている事など。
だからこそ、閼伽王は能力を磨けば守る事くらいは出来ると思っていた。
地球製エーテルナイト第一号、陸戦騎は既に新型機などでは無く、地球各地の戦場で猛威を振るっている事など。
だからこそ、閼伽王は能力を磨けば守る事くらいは出来ると思っていた。
「エーテルナイトは、エーテルナイトでなければ対抗出来ない……変な気を起こさないで。面倒だから」
呆然とした表情で陸戦騎を凝視する閼伽王に向けて放たれた警告。それはもう一人の能力者、アルトールから意識を逸らす形となった。
右目、右足を失ったとは言え、一時は共和国のエーテル能力者として名を馳せた彼にとって、形勢を逆転するには充分過ぎる隙だった。
エーテルの弾丸を構築し、テーブルの下に隠していた自動小銃をベアトリスに突き付けるまでの動作を行うには充分過ぎる程の。
右目、右足を失ったとは言え、一時は共和国のエーテル能力者として名を馳せた彼にとって、形勢を逆転するには充分過ぎる隙だった。
エーテルの弾丸を構築し、テーブルの下に隠していた自動小銃をベアトリスに突き付けるまでの動作を行うには充分過ぎる程の。
「そこまでだ……お前も帝国兵ならこの銃が何か分かるだろう?」
「対人携行式エーテル兵器オルガナイト自動小銃。使用弾頭は12mmエーテルコートメタルキャスト……」
アルトールはイニシアチブを奪い取ったと見て、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
だが、平和な島で過ごした三年間という月日はあまりにも長く、彼からエーテル能力者としての力を奪い取るには充分過ぎる期間だった。
だが、平和な島で過ごした三年間という月日はあまりにも長く、彼からエーテル能力者としての力を奪い取るには充分過ぎる期間だった。
「そう言う事だ……武装と能力を解除し……」
ベアトリスはその警告など聞こえていないような素振りで、アルトールを流し見て右腕を持ち上げた。
それと同時にアルトールは、トリガーにかけた指に力を込める。狙うは心臓と頭。どんな能力者でも、その二つを同時に破壊されてしまえば再生など出来はしない。
だが、どんなに力を込めてもアルトールの指は凍り付いたかの様に微動だにしない。
それと同時にアルトールは、トリガーにかけた指に力を込める。狙うは心臓と頭。どんな能力者でも、その二つを同時に破壊されてしまえば再生など出来はしない。
だが、どんなに力を込めてもアルトールの指は凍り付いたかの様に微動だにしない。
「……二年前に共和国の制式装備から外された粗悪な欠陥品。外された理由は……」
ベアトリスが指を弾くと小銃のマガジンが、膨れ上がった風船の様に膨張し、破裂した無数の銃弾は鉄の礫となって、アルトールの上半身を小屋の壁ごと消し飛ばした。
腰から上が吹き飛んだアルトールの下半身が崩れ落ち、その断面からは僅かに残った真っ赤な臓腑が零れ落ち、床に広がった。
腰から上が吹き飛んだアルトールの下半身が崩れ落ち、その断面からは僅かに残った真っ赤な臓腑が零れ落ち、床に広がった。
「上位能力者から干渉を防ぐためのハックガードが不十分……そもそも、格上の能力者の目の前で能力を使うなんて馬鹿のやる事」
「アルトール!? テンメェェェェ!!」
つい先程まで語らい合っていた仲間の突然の死に閼伽王は激昂し、ベアトリスに掴み掛かった。
相手が女だろうが、子供だろうが関係無いと言わんばかりの電光石火の拳が、ベアトリスの顔面に目掛けて放たれる。
だが、能力者として息を吐くかのように他者の尊厳を踏み躙り続けて来たベアトリスに、平和な世界に浸かり切っていた閼伽王の拳では捉えられる筈も無い。
ベアトリスは身体を空気中に流すように身を逸らし、緩慢な足取りで閼伽王の側面に移り、真直ぐに放たれた右手首を掴み取り、両足を薙ぎ払い、宙に浮かせる。
宙に浮いて顔から落下しようとする勢いを利用して、掴んだ手首を捻り上げ、その長い体躯を一回転させ、無防備になった背中を床に叩き落としながら、肩の骨を粉砕する。
両者の体重差は約二倍。だが、能力を使わずとも加重移動の際に僅かな力を加えれば、この程度、少し練習すれば誰にでも出来る芸当である。
裏を返せばベアトリスは閼伽王程度の能力者など能力を使わずとも、誰にでも出来るような体術一つで、御するに容易い相手だと判断しているという事だ。
相手が女だろうが、子供だろうが関係無いと言わんばかりの電光石火の拳が、ベアトリスの顔面に目掛けて放たれる。
だが、能力者として息を吐くかのように他者の尊厳を踏み躙り続けて来たベアトリスに、平和な世界に浸かり切っていた閼伽王の拳では捉えられる筈も無い。
ベアトリスは身体を空気中に流すように身を逸らし、緩慢な足取りで閼伽王の側面に移り、真直ぐに放たれた右手首を掴み取り、両足を薙ぎ払い、宙に浮かせる。
宙に浮いて顔から落下しようとする勢いを利用して、掴んだ手首を捻り上げ、その長い体躯を一回転させ、無防備になった背中を床に叩き落としながら、肩の骨を粉砕する。
両者の体重差は約二倍。だが、能力を使わずとも加重移動の際に僅かな力を加えれば、この程度、少し練習すれば誰にでも出来る芸当である。
裏を返せばベアトリスは閼伽王程度の能力者など能力を使わずとも、誰にでも出来るような体術一つで、御するに容易い相手だと判断しているという事だ。
「うるさい。少し黙ってて……」
「……クソったれ……!!」
閼伽王は息を詰まらせながらも、悪態を吐いて立ち上がろうとするが、ベアトリスは軍服のタイピンを引き千切り、指先にエーテルを収束し、追い討ちと言わんばかりに、閼伽王の腹部へと弾き飛ばした。
ただの子供がやったのなら腹が立つだけだが、エーテル能力者がやったのなら話は別だ。
タイピンは易々と閼伽王の腹を貫き、閼伽王は背中を丸めて咳き込み、貫かれた腹部と口から真っ赤な血液を噴出す。
更にベアトリスは閼伽王の足元へと周り、自身の足を硬質化させ、右、左と振り下ろし、閼伽王の両足を丹念に圧し折った。
ただの子供がやったのなら腹が立つだけだが、エーテル能力者がやったのなら話は別だ。
タイピンは易々と閼伽王の腹を貫き、閼伽王は背中を丸めて咳き込み、貫かれた腹部と口から真っ赤な血液を噴出す。
更にベアトリスは閼伽王の足元へと周り、自身の足を硬質化させ、右、左と振り下ろし、閼伽王の両足を丹念に圧し折った。
「別に争いに来たわけじゃない……ただ貴方の能力を欲しがっている人がいる。
今従えば、上には貴方は従順だったと報告する事が出来る……懸命な判断を希望」
今従えば、上には貴方は従順だったと報告する事が出来る……懸命な判断を希望」
「滅茶苦茶しておきながら……ふざけてんじゃねぇぞ、このクソガキ……!」
一方的に友人が殺され、腕を折られ、腹を撃たれ、両足を砕かれた。
常人ならば心が砕かれている所だが、理不尽な境遇というのは生まれた時から、彼の人生にずっと付きまとってきた。
そして、幸いにも、こんな状況でも怒りに打ち震え、牙を剥き出す事が出来る程度の気概は残されていた。
常人ならば心が砕かれている所だが、理不尽な境遇というのは生まれた時から、彼の人生にずっと付きまとってきた。
そして、幸いにも、こんな状況でも怒りに打ち震え、牙を剥き出す事が出来る程度の気概は残されていた。
「じゃあ、この島の人たちは全員、殺すね。バイバイ」
だが、ベアトリスも慣れたもので、閼伽王の心を圧し折るために次の手段を講じた。
気分の悪くなる任務だが、既にマニュアル化された作業でしか無い。肉体的にも精神的にも苦痛を与えても従わないなら殺せば良い。
心を凍結させ、外部の声に耳を閉ざし、機械的に作業的に任務をこなして本国に戻る。ただそれだけ。
気分の悪くなる任務だが、既にマニュアル化された作業でしか無い。肉体的にも精神的にも苦痛を与えても従わないなら殺せば良い。
心を凍結させ、外部の声に耳を閉ざし、機械的に作業的に任務をこなして本国に戻る。ただそれだけ。
「ま、待ちやがれ! 島の連中は関係……」
「無いとは言わせない……動揺したという事は、貴方にとってこの島の人達は大切な人達……
貴方が私に着いて来ると言うまで、従順になるまで、一人ずつ此処に連れて来て……殺す」
貴方が私に着いて来ると言うまで、従順になるまで、一人ずつ此処に連れて来て……殺す」
そして、ベアトリスは踵を返し、小屋の出口まで歩むと、閼伽王に背を向けたまま口を開いた。
「徒に戦火を拡大するよりも、一人でも多くの能力者を確保する。それが帝国と、共和国の共通認識……私もそうやって連れて行かれた。
でも、死にたくないから……従順にしていれば、命を奪いに来る外敵を、多少は絞り込む事が出来る……じゃあ、そういうことで」
でも、死にたくないから……従順にしていれば、命を奪いに来る外敵を、多少は絞り込む事が出来る……じゃあ、そういうことで」
閼伽王には、その声は一方的な理不尽を振り撒く悪魔の声では無く、一方的な理不尽に悪を強要され、泣いている子供の声の様にも聞こえた。
彼女もまた自分と同じ被害者で、今でも唐突に降りかかるかも知れない理不尽な死を恐れている事に、文明から遠く離れ、世俗に疎くなった閼伽王ですら気付く事が出来た。
そして、エーテル能力者は時代の花形などでは無く、ただの奴隷でしか無い。弱者の尊厳を貶める以外に自らの命を守る術が無いという事に。
彼女もまた自分と同じ被害者で、今でも唐突に降りかかるかも知れない理不尽な死を恐れている事に、文明から遠く離れ、世俗に疎くなった閼伽王ですら気付く事が出来た。
そして、エーテル能力者は時代の花形などでは無く、ただの奴隷でしか無い。弱者の尊厳を貶める以外に自らの命を守る術が無いという事に。
「待ちやがれ! 逆らわなければ良いんだろうが! 着いて行ってやるよ……従えば良いんだろうが!」
閼伽王にとってベアトリスを許す事は出来ない憎むべき敵だ。友であるアルトールを殺した事には違いは無いのだから。
だが、彼女も被害者であり、こうする他に自身を守る術が無いのなら……許す事は出来ずとも、理解は出来るとも考えた。
そして、足掻く事さえも許されない状況に陥った以上、狗に咬まれたと思って諦め、彼女と同様に屈服するしか無いとも。
それが今の地球の状況なのだと。少なくとも、それで島の人間が助かるのならば、それはただの諦めでは無いと。
だが、閼伽王のそんな思いを嘲笑うかの様に四機の陸戦騎はセブンスを攻撃するために武装を展開し、散開した。
だが、彼女も被害者であり、こうする他に自身を守る術が無いのなら……許す事は出来ずとも、理解は出来るとも考えた。
そして、足掻く事さえも許されない状況に陥った以上、狗に咬まれたと思って諦め、彼女と同様に屈服するしか無いとも。
それが今の地球の状況なのだと。少なくとも、それで島の人間が助かるのならば、それはただの諦めでは無いと。
だが、閼伽王のそんな思いを嘲笑うかの様に四機の陸戦騎はセブンスを攻撃するために武装を展開し、散開した。
「ちょっと……いや、かなり手遅れ」
「おい……どういうことだ!? 俺は着いて行くと……従うと言ったはずだぞ!!」
だが、ベアトリスは目を伏せて俯き、首を横に振った。
「此処は治外法権地域……此処では原住民に対するあらゆる行動が許される。
でも、これは表向き。実際はあらゆる手段を用いて、無能力者を踏み躙らなければならない……」
でも、これは表向き。実際はあらゆる手段を用いて、無能力者を踏み躙らなければならない……」
「どういう事だ……!?」
「頑な過ぎた貴方への制裁……事を為す事が出来なかった私達への再教育。最悪の過去を自らの手で再現する事での調教。
意のままに動かない者はいずれ、踏み躙られる立場になるという事を認識させるため。誰を蹴落とす事になっても私は死にたくない。
私も貴方と同じだったから分かる。周りの人達が喜ぶ顔が見たくて、何の教育も受けないまま限界まで能力を使う。
それが世界に対して、自分の居場所を大声で知らせているって事に気付いていない。
眼を付けられ、エーテルナイトに乗せられて、自分がやられた事を他の誰かにやる。皆……同じ」
意のままに動かない者はいずれ、踏み躙られる立場になるという事を認識させるため。誰を蹴落とす事になっても私は死にたくない。
私も貴方と同じだったから分かる。周りの人達が喜ぶ顔が見たくて、何の教育も受けないまま限界まで能力を使う。
それが世界に対して、自分の居場所を大声で知らせているって事に気付いていない。
眼を付けられ、エーテルナイトに乗せられて、自分がやられた事を他の誰かにやる。皆……同じ」
そう言って、ベアトリスは泣き出しそうな表情で丘の下で暴れる陸戦騎の方へと視線を向けた。
ベアトリスの境遇に同情し、少しばかりの冷静さを取り戻した今の閼伽王なら彼女が……いや、帝国のエーテル能力者達が何を思っているのか多少なりとも理解出来るようになっていた。
エーテル能力は能力者が内包するエーテルと意志。そして、感情によって発露する。どんなに心を閉ざし、残虐な顔を覗かせたとしても、能力を使っている限り、心の奥底まで隠し通す事は出来ない。
外でセブンスの住人に対し、悪逆非道の限りを尽くす外道達が放つエーテルは悲哀と、後ろめたさに満たされており、閼伽王の心には別種の怒りが湧き上がり始めていた。
ベアトリスの境遇に同情し、少しばかりの冷静さを取り戻した今の閼伽王なら彼女が……いや、帝国のエーテル能力者達が何を思っているのか多少なりとも理解出来るようになっていた。
エーテル能力は能力者が内包するエーテルと意志。そして、感情によって発露する。どんなに心を閉ざし、残虐な顔を覗かせたとしても、能力を使っている限り、心の奥底まで隠し通す事は出来ない。
外でセブンスの住人に対し、悪逆非道の限りを尽くす外道達が放つエーテルは悲哀と、後ろめたさに満たされており、閼伽王の心には別種の怒りが湧き上がり始めていた。
「……外の奴等を今すぐ止めろ。今なら百億歩譲って恨みっこ無しにしてやる……! お前の言う事なら何でも聞いてやったって良い!」
「無理。上から目を付けられるような真似をして命を縮めたくない。能力者と言っても所詮、使い捨て……当たり前の行動に口を挟む事は……出来ない」
「お前……ベアトリスの事情はよく分かった。同情もした。俺も此処までかと観念もしたがな……これ以上、この島の人間に危害を加えるんてんなら話は別だ。
お前等に従っても、今更、俺が何かをしても島の人間も救えやしない……だったら、俺は俺の思うように、やりたいようにやらせてもらうぜ?」
お前等に従っても、今更、俺が何かをしても島の人間も救えやしない……だったら、俺は俺の思うように、やりたいようにやらせてもらうぜ?」
「交渉決裂……全ユニット攻撃中止、全島民を捕縛……捕獲対象の心を折る……」
ベアトリスの命令に陸戦騎はその動きを止め、エーテルで構築した無能力者では決して解けない拘束具をセブンスの住民に向けて放った。
「成る程、そういう口実じゃねぇと、アイツ等を止める事は出来ない。そういう口実じゃねぇと、アイツ等も止まる事が出来ねぇ。
他と違う事をするのが怖いってか? だったら俺はとことんまで違うってところをお前に見せてやんよ!!」
他と違う事をするのが怖いってか? だったら俺はとことんまで違うってところをお前に見せてやんよ!!」
だが、ベアトリスはあくまで頑なに首を横に振る。まるで子供が駄々を捏ねるかの様に。
「俺がやるって言ったらやるんだよ! お前等みたいに生かされる人生こそが無意味だって事を教えてやる! 対象の構成因子を再結合……修復完了!」
「再生された……!?」
本来、エーテル能力とは、対象を破壊するための能力であって物を再生し創造するための能力では無い。
だが、ベアトリスが能力で人を殺し続けて来た事と同様、閼伽王は今まで能力を使って物を創造して来たのだ。
物を破壊する能力が不得手であっても、目の前の能力者に気取られないように傷を癒す程度、難しくは無い。
呆気に取られているベアトリスの隙を突いて地を蹴り、小屋の外へと飛び出し、一気に丘を駆け下りる。
勝てないのならば勝てる状況にすれば良い。閼伽王の目指す先は丘の下に広がる村で動きを止めている陸戦騎。
だが、ベアトリスが能力で人を殺し続けて来た事と同様、閼伽王は今まで能力を使って物を創造して来たのだ。
物を破壊する能力が不得手であっても、目の前の能力者に気取られないように傷を癒す程度、難しくは無い。
呆気に取られているベアトリスの隙を突いて地を蹴り、小屋の外へと飛び出し、一気に丘を駆け下りる。
勝てないのならば勝てる状況にすれば良い。閼伽王の目指す先は丘の下に広がる村で動きを止めている陸戦騎。
「実際に俺が狙われるのは初めてだけどよ……テメェ等のやり口はガキの時から散々見てんだよ!」
陸戦騎の足元にはエーテル光に縛り上げられた島民達と、無防備な女に襲い掛かろうとする帝国兵がいた。
「おおっと、そこまでだ。それ以上、一歩でも動いたら……こうだ」
閼伽王の接近に気付いた帝国兵は卑下た笑みを浮かべて指を弾き、拘束具を締め上げ、島民達を輪切りにして紅い絨毯を広げた。
「正真正銘の外道が相手なら気も楽だな……既に助けるのは諦めてんだよッ!! だから、少しでも苦しんで死ねや!!」
刻まれたタトゥがエーテル光を放ち、乳白色の刀身が閼伽王の両手の中に構築され、全身を捻りながらの横撃で帝国兵の両腕を斬り飛ばし、頭蓋に振り落とす。
捕まった島民の方に目を見やると、先程まで閼伽王の来訪を喜んでいた子供達も、他の大人同様に首以外の全てを分断されて息絶え、生きている者は一人もいない。
大国にいた頃は毎日の様に見ていた光景だ。閼伽王は昔を思い出し、苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべ、操縦席が剥き出しになった陸戦騎の中に乗り込んだ。
捕まった島民の方に目を見やると、先程まで閼伽王の来訪を喜んでいた子供達も、他の大人同様に首以外の全てを分断されて息絶え、生きている者は一人もいない。
大国にいた頃は毎日の様に見ていた光景だ。閼伽王は昔を思い出し、苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべ、操縦席が剥き出しになった陸戦騎の中に乗り込んだ。
陸戦騎のコクピットにはレーダーやセンサー、計器類はあれど、スイッチやレバー、ペタルの類は何一つとして無い。
だが、閼伽王でも操縦方法は何と無く予想がついた。エーテルナイトと呼称してはいるが、要は人の形をしたエーテル兵器だ。
シートに腰を下ろし、アームレストを握り絞め、エーテルを機体全体に流し込む。要領はサツマイモを作った時と同じだ。
放出したエーテルを血液に見立て、心臓に見立てた動力部、エーテルジェネレーターを介し、エーテルエネルギーを機体の全身に循環させる。
剥き出しになったコクピットブロックが胸部装甲に収納され、機体の各所に設置された排気口から、爆音と共に絞りカスになったエーテルが吐き出され、頭部の双眸から真っ赤な閃光が放たれる。
だが、閼伽王でも操縦方法は何と無く予想がついた。エーテルナイトと呼称してはいるが、要は人の形をしたエーテル兵器だ。
シートに腰を下ろし、アームレストを握り絞め、エーテルを機体全体に流し込む。要領はサツマイモを作った時と同じだ。
放出したエーテルを血液に見立て、心臓に見立てた動力部、エーテルジェネレーターを介し、エーテルエネルギーを機体の全身に循環させる。
剥き出しになったコクピットブロックが胸部装甲に収納され、機体の各所に設置された排気口から、爆音と共に絞りカスになったエーテルが吐き出され、頭部の双眸から真っ赤な閃光が放たれる。
「お前等の境遇には同情してやんよ……けどよ、従うって言ったのに返答がそんなんじゃあよ、テメェ等の命で落とし前付けなきゃなんねぇだろうが!!」
閼伽王の咆哮と共に陸戦騎のカーキ色の装甲が乳白色に染まり、鈍重な動きで立ち上がった。
「任務失敗……さて……どうしようかな?」
無人になったアルトールの小屋で閼伽王の陸戦騎に肉迫する仲間達を見て、ベアトリスは投げやりな口調で呟いた。
――次回予告――
スクレイル帝国の人間狩りに巻き込まれ、文明から切り離された辺境の楽園セブンスは一瞬にして地獄の篝火に焼き尽くされた。
閼伽王の怒りは陸戦騎へと宿り鬼人が如く、帝国のエーテルライダー達を圧倒する中、新たな脅威の影が閼伽王に襲い掛かる。
スクレイル帝国の人間狩りに巻き込まれ、文明から切り離された辺境の楽園セブンスは一瞬にして地獄の篝火に焼き尽くされた。
閼伽王の怒りは陸戦騎へと宿り鬼人が如く、帝国のエーテルライダー達を圧倒する中、新たな脅威の影が閼伽王に襲い掛かる。
↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます)
| + | ... |