創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

カインド・オブ・ホーリーファイア

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集
 それは弾けた。
 考えられない程の圧力をかけられ、限界まで圧縮されたそれは、遂に自身を安定した状態から不安定な状態へと移す他無かった。
 相対性理論に因れば、物質=エネルギーだ。
 それは安定した物質状態から、不安定な状態、エネルギーへと転身しようとしたのだ。だが、多くの物は砕け、分散しながらも、また安定した状態へ落ち着いた。
 その内、ほんの僅かの仲間外れのグループは、遂に安定しないままだった。
 光速で安住の場所を求めうろついたが、それらにはその場所は無かった。質量欠損だ。それらは単体では存在出来なかった為に、エネルギーへと姿を変え、エネルギー保存の法則を守った。
 光と、熱が解き放たれる。
 その物質の内、そう変化したのはほんの僅かだったが、物質間の強い力は解放された。それは科学反応の百万倍のエネルギーに相当した。
 ほんの僅かだったが、それは巨大な光の球と成り、周囲の空気を膨脹させ、辺りへと極超音速で押し出す。その場所は一瞬、真空状態になるまで空気を拡散させてしまった。
 それの温度は六千度に達した。
 だが光の球はすぐに温度をさげ、少しずつ、光から火の玉へと変わり、やがて巨大な煙の塊になった。同時に、真空になったその場所へ、押しやった空気が舞い戻ってきた。あらゆる粉塵が巻き上げられ、それは自らの高温が生み出した上昇気流に乗り上昇して行った。

 辺りに存在した物は消滅してしまった。高温の輻射により、蒸発してしまったのだ。
 衝撃波はあらゆる物を木っ端微塵に砕いて、爆音を轟かせた。
 解放された物質のエネルギーは、ほんの僅かだった。ただ姿を変え、そこに居ただけだ。だが、途方も無い破壊の力を見せ付た。

 物質=エネルギー。
 質量欠損。エネルギー保存の法則。
 圧力をかけられたプルトニウム239は、その原子を分裂させ、あぶれた電子は仕方なく、エネルギーとしてその場に留まった。

 ――核爆発。




 お試し第一話【ホーリー・ファイア】




 最初の事件から僅か一時間後、その場所は忙しくなっていた。つい先程起きた事件は、この国では前代未聞であり、自身が起こした事例と合わせても、人類史上二番目の事例だった。

「状況は?」
「四ブロックが消滅。十二ブロックが半壊。まだ被害は広がると思われます」
「現状の被害者は?」
「推定で……。二十万人が既に死亡。三時間後には百万を超えます」
「何と言う事だ……」

 報告を受けた男性は信じられないといった様子だったが、彼はこの現状を受け入れざるを得ない立場だった。


 銀に近い白髪の髪は、頼りなさより経験の豊富さを物語り、歳よりも若々しい身体は、グレーのスーツがよく映える。
 彼は今すぐ、この危機を乗り越えねばならない。それが職務であり、神と、人々に誓った宣誓でもある。
 彼の部下から、新たな情報が来るまでは時間がかからなかった。

「大統領」
「どうした?」
「例の核攻撃を行ったグループからの、犯行声明が届きました」
「見よう」

 彼、アメリカ合衆国第六十一代大統領、リチャード・アーサー・レイエスは、部下に促され、作戦本部へと入って行く。

「国防長官はどこだ?」
「こちらに向かっています。将軍ももうすぐこちらへ。ヘリから電話回線で会議に加わると」
「よろしい。犯行声明というのは?」
「間もなく。回線が繋がり次第、スクリーンに映像を写します」
「分かった」

 レイエスはプラスチックのカップに入ったコーヒーを一口飲んだ。いつもは好みに合わせ、デミタスか大きなマグカップに煎れて貰っていたが、時間が無いので秘書のインスタントを少し分けてもらった。
 薄い味で、砂糖を入れたが、混ぜ忘れたので、味は酷い有様だ。秘書はいつもこんなコーヒーを飲んでいるのかと思い、事件が片付いたら秘書にコーヒーの好みを聞いて旨いコーヒーを煎れて貰えるようにしてやろうと考えた。

 本部には到着が遅れた国防長官とアメリカ統合軍の将軍を除き、急ぎ集まった国防の役職に就く者が多く集まった。
 何人かと言葉を交わし、情報を整理しようと躍起になった。
 彼等に因ると、使用された核爆弾はベーシックなプルトニウム爆弾と予想され、破壊力は五キロトンから十キロトン程度。爆弾の運搬手段はミサイルや戦闘機では無く、ステルス巡航ミサイルでも無い。
 比較的地面に近い所での炸裂であり、予め仕掛けて置いた爆弾だと結論をだした。

「大きな爆弾だな」
「爆発効率は前時代とは比べ物にはならない。ならば、多少大きい程度です。個人の持ち運びは不可能でも、バン一台あればどこへでも」
「車両検問は?」
「全国土で既に実施されています。メキシコ政府にも協力して貰い、国内外の移動は不可能かと」
「船や飛行機は?」
「沿岸警備隊は通常のパトロールを増員し、海軍も出動させました。現在は全域で飛行機禁止です。既に離陸した便と着陸便が降りたら、あとは飛びません。戦闘機が哨戒に出て、空海軍以外の航空機は全て落とします」
「やむなし……か」



「大統領」

 参謀の一人が言った。

「回線が繋がりました。スクリーンを……」
「分かった。見よう」





※ ※ ※





『……。これは宣戦布告では無い。犯行声明でも、ましてや神の言葉を語った物でも無い。
 私はそれほど愚かでは無い。
 使った爆弾はアメリカ製でもロシア製でも、インドや中国製でも無い。私が作り、私が仕掛けた。
 材料の調達には苦労したが、それさえうまく行けば製造は簡単だった。精製された高純度プルトニウムはほぼ成形だけで終った。爆縮レンズは、計算こそ時間がかかったものの、それだけだった。電気励起爆薬は強烈な威力を誇ったが、核エネルギーには及ばなかった。なのでレンズに使用した。
 結果、爆弾の小型化と爆発効率の上昇に役立った。

 この爆弾を私はあと十七基保有している。既に設置済みで、あとは時間を待つだけだ。最初の目標であるニューヨークでは、既に知っているとは思うが都市の中心を狙った。なぜなら国民の殺害が目的だからだ。

 私は、あと一億人の人間を殺す。
 その後で、更なる炎を解き放ち、この大地を清める。聖なる炎はまだまだある。お前達の切り札であった、プラズマ爆弾も保有している。これは余りに巨大な威力なので、ユーラシア大陸へ使用する。
 アメリカ大陸は要所に原子爆弾を仕掛けるだけにする。恐怖させ、絶望しながら死んで行く事を望むからだ。

 私は戦争をするつもりも、お前達に何かを要求する事も、ましてや改宗を迫る事もしない。
 ただ慌てふためいて死ぬ様を眺めたい。それだけだ。

 私の望み。それは全人類の抹殺である。
 幸いにも手段を手に入れた以上、迷う必要は無い。手始めにアメリカ、ついで中国、インドパキスタン等イスラム諸国、ロシア、EUと焼く。
 残ったアフリカ大陸と南アメリカ、南半球は最後に焼く。その頃には新たな爆弾も用意出来ているだろう。

 お前は組織と戦う術をよく心得ているだろう。だが私は一人だと明言しておく。
 たった一人の人間が、既に何十万人を殺した。私が本気だとは理解出来るだろう。
 私はたった一人だから、お前達は私と戦いようも無いのだ。



 聖なる炎は人類を焼き付くし、森も山も海も人を受け付けなくなる。
 例えば生き残ろうとも、長くは無い。
 人類は絶滅する。

 私は別におかしくなった訳ではない。
 神の為にテロをおこす訳でも、利権や領地が欲しい訳でも無く、私の意思で、私の為に人類を殺すのだ。
 滅びよ人類。私は、この世界が焼かれるのを見たいだけ。

 聖なる炎が次に焼くのは、ロサンゼルス。爆発は一週間以内。
 発表すれば混乱は免れない。黙っていれば、ロス市民は六千度の炎に焼かれる。さぁ、せいぜい苦しめ。
 私は近くで、それを見よう。堂々と間近で見よう。
 私はたった一人故に、お前達は私には辿り着けない。だから私はなんの心配もしていない』




※ ※ ※





 映像は古い核実験の映像をスライド形式で見せながら、ボイスチェンジャーで音声を加工した物を再生した。
 メールで送られて来たが、発信元は大統領府でも即座には突き止められない。それどころか、きっと解らないであろう細工がしてある。
 スライド映像には、秘密裏に大気圏外で行ったプラズマ爆弾の実験映像まであった。実験での威力は低いが、再現なく上昇する破壊力を持つので、究極の抑止力となる予定の最終兵器だった。

「イカれている!」
「次はロサンゼルス……? 大統領、避難命令は……」
「出すしか無いだろう。だが、詳細は語れない」
「だが、建前が無い以上は……」
「既に攻撃は受けた。なら次の標的になったと言えばいい。実際そうだ。だが、あくまで他国の攻撃という事にする。通常の核戦争だ。
 核戦争に通常も何もないが、仕方ない」

 レイエスは苦虫を噛んだような表情になり、この事態をどう収拾するか考えた。だが、この手の敵は、過去に例が無いのだ。
 それに、他国との戦争という事にするならば、「生贄の敵」も作らねばならない。それはつまり、適当な敵対国家に戦争を仕掛け、滅ぼさねばならないという事。
 アメリカ合衆国は正義でなくてはならない。それはこの時代でも変わっていないのだ。



「大統領」
「何だ」
「統合軍の将軍から、電話が入っています」
「分かった……」

 電話回線を通じ映像を見ていた統合軍の将軍、エリガン・コックスは、先程の映像を見て、ある作戦を考えた。
 それは、エリガンの切り札を動員する作戦だった。

「私だ。エリガン将軍」
『次の標的はロスで、間違いないと思います』
「分かっている。先程見たばかりだ」
『奴は一週間以内と言いました。だが実際は一週間ギリギリまで伸ばすでしょう。ウソは付かないが、三日で爆発というのも無い』
「何故だ?」
『効率が悪すぎます。もし本当に仕掛けてあるというのであれば、最初の攻撃後、すぐに爆発させるはず。
 奴は本気で、バカでも無い。ならこんな効率の悪い作戦は採択しない』
「何が言いたい?」
『まだ爆弾は準備されていない。一週間後の攻撃はあるが、今はまだ出来ない。だから、『一週間以内』と言ってこちらを牽制したんです。避難を優先させ、軍部の動きを鈍らせる為に』
「それで?」
『ロスに、私の元部下がいます。飛び切りの、優秀な特殊作戦専門の兵士です』
「それがどうした?」
『彼を雇います。彼なら爆弾を見つけ、犯人を特定し、捕まえるか、殺害出来るかもしれない』
「信用出来るか?」
『はい。能力は保障します』
「その元部下の名前は?」
『ヘンヨ・シュレー。ドイツ系の男です。ロスで探偵のまね事をして生計を立てています』
「分かった。すぐコンタクトを取れ。こちらでも対策は立てよう。そっちは任せる」
『了解です。大統領』






【終】


 ↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます)
+ ...

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー