open your eyes ◆imaTwclStk


意識の覚醒は突然にだが速やかに行われた。
火の爆ぜる音が耳に聴こえる。
だが、何かが足りない。
考えるまでもなく理由は分かっていた。
二バスはゆっくりと目を開ける。
傍では焚き火の温もりが体を温め、
そして、その近くに亡者の騎士がその鎧の色のように
闇夜の漆黒と同化し、物言わず控えている。
身体を起こし、周囲をぐるりと見回す。

(やはり……姿が見えませんね)

何かが足りないと感じた理由。
自分をまるで保護者の如く慕う、
騒がしい少女の姿が今は見えない。

(薪を集めに行った様でもないですし、これは……)

闇夜の中、焚き火の心許ない明かりの中で
幽鬼の如く映る老人は静かに考える。
可能性は二つ。
何がしかの用で外しているか。
若しくは逃げたか。
前者の可能性も万に一つはあるのかもしれないが、
二バスは即座にそれを否定する。

(離れすぎている……これは有り得ませんね)

守ると言った少女が危険を察知出来ぬほどに
その対象から離れては意味がない。
愚かな事に変わりはないが、
それ程までに愚かでもないだろう。

ならば可能性は一つだが、疑問がある。

(あれ程までに私を信頼していたのに、突然逃げる訳は?)

突然、恐怖に駆られたわけでもないだろう。
為らば、何故?

そこで二バスはふと小さな違和感を覚える。
そして自分の持っていたクリスタルに目を向ける。


「……これはッ!?」

この老人にしては珍しく、小さく驚嘆の声を上げる。
二バスが眠りに落ちるまでは微かな魔力を感じていた
クリスタルからは今は何も感じられない。
今では、露天などで容易に手に入るただの石と同様の物と化している。

「魔力を取られた……いや、引き継いだという事ですか?」

研究者としての探究心が鎌首を上げる。
純粋な興味が今の置かれている現実を凌駕していく。

「成る程、流石は異界の術法ですね。
 一体、如何いった類のものだったのか…
 非常に興味深いですね」

自身の知らない現象、術、知識の類を種類を問わず、貪欲に貪る。
それこそが自身の究極目的への到達には欠かせないのであるのだから。

「しかし、残念ですね。
 今はその効力を知る術はありませんか」

だが、その冷酷にして底無き頭脳は大方の予想は導いている。

突然の少女の失踪。
クリスタルの魔力の消失。
そして、クリスタルの『本来』の持ち主。

この三つの現象を重ね合わせる。

「記憶…若しくは知識の引継ぎ……」

ぶつぶつと呟きながら二バスは真相へと意図もあっさりと到達する。
その考えの対象である少女でさえ半信半疑だというのにである。
それも当然かもしれない、
何しろ、それの元凶たる者は他ならぬ自分自身なのであるのだから
悩む要素など無いのだ。

「ふむ、どの程度離されたのか…これが問題ですね」

あくまで冷静に二バスは現状を突き詰めていく。
自分が眠っていた時間、少女が何らかの理由で
クリスタルの『何か』を引き継ぐまでの経緯。
天を見上げて経過時間におおよその目安を立てる。


(二刻から三刻、大体そんな所ですか)

天に日が射す気配なく、周囲の闇はより深みを増している。
それ程深く眠った訳でもないようである。

「……困りましたねぇ、ただ逃げただけじゃなく
 研究材料を持ち逃げされるのは」

それは怒りではない、純粋にこの老人は困っているのだ、
『研究材料を取られた』という事に。
ニバスにとってソノラという少女は
最初から“その程度の”認識でしかないのだ。
居れば利用するだけだし、居ないのなら別にそれでいい。
余計な事をするつもりなら後で始末するだけの事。
自分というものすらこの老人の中ではヒエラルキーの頂点ではなく、
頂点に座するのはただ知識のみ。
自分自身ですら、その為の材料の一つに過ぎないニバスにとって
ソノラという少女の存在は既に如何でもいいモノの一つと化している。

「おや? …継承であるのなら、
 それの条件とどこまで適用されるのか気になりますね」

似た様なものは知っている。
高位の魔術師のみが行使できる転生術。
我が身を捨て去り、魂のみを新たな肉体へと引き継ぐ。
だが、これすらも肉体をその都度、捨てなければ
死から逃れられない以上、
ニバスの目的の到達点とはいえない。
だが、それの簡易版ともいえる代物ならば
やはり興味深い素材である。

「試してみる価値はあるかもしれませンね」

クリスタルは本来の持ち主であるムスタディオ
肉体の消滅に反応した。

「継承者もまた対象となる…
 可能性としては捨てがたい……」

ゆっくりと立ち上がり身体に付いた土ほこりを払う。
身体の感触を確かめるように身体を少しずつ動かして確認する。

「多少のふらつきは否めませんが、
 そこはさほど問題ではありませんね。
 問題は魔力ですが……」

こちらは思っていたよりも深刻である。
回復術法に費やした精神力は並大抵のものではない。
いや、本来ならこうして平然と立ち上がっていること
それ自体が尋常ではないのだ。

「魔法を行使できるのは精々数えるほど…
 と、なれば……」

そこでニバスはただじっと立ち尽くす騎士へと目を向ける。
それを合図としてか、亡騎士はヴォルケイトスの柄を振るい
焚き火をかき消す。
明かりが消え、闇と化した景色の中で
声だけを屍術師は響かせる。

「……さて、不本意ではありますが動くとしますか」


【G-6/森/一日目/深夜】
【ニバス@タクティクスオウガ】
[状態]:肋骨骨折(魔法により応急措置済、行動には支障なし)、精神的疲労(重度)
   ※背中の打撲傷は完全に治療済です。
[装備]:ビーストキラー@暁の女神、ムスタディオのクリスタル@FFT
[道具]:支給品一式×2、拡声機、光の結界@暁の女神
[思考]1:保身を最優先、実験材料(死体)の予備を確保。
   2:最終的に優勝を狙い、この島を屍術の実験施設として貰い受ける。
   3:研究の手掛かりになるかもしれない為、とりあえずはこの世界の召喚術について詳しく調べてみる。
   4:ソノラを追跡し、始末する。
   5:ソノラの殺害でクリスタルは作用するのかを確かめる。

リチャード@TS】
[状態]:デスナイト
[装備]:折れたヴォルケイトスの先端、柄@TO
   :女神の祝福を受けた鎧@FE蒼炎の軌跡
[道具]:空のザック
[思考]:ニバスを守り、他の参加者を殺す


「あいたっ!!」

暗い暗い森の中を少女は一人で歩き、
闇に見えぬ視界で思いっきり鼻を伸びていた枝にぶつける。

「~~~~~ッ! あぁ、もう明かりくらい持って来れば良かった!」

リチャードに気づかれないようにするために敢えて
明かりの類は全部置いてきていた。
それを今更になってソノラは後悔する。

「でもいいもんね、もうすぐここから出られるし」

一人の筈の少女はまるで誰かと一緒に居るように
明るく振舞う。
いや、少女にしてみれば最早“いつでも”一緒なのだ。

そろそろ森の出口に差し掛かる、そうしたら町はすぐ其処だ。
そうしたら、全てが分かる。
全てが分かったなら…

全てが分かったら如何する?

いつまでも胸に残る不安感。
全てが分かったのなら、
その時、
彼女は人を殺す事になる。

仇討ちとも違う正義感とも違う、
そうしなければならないという架せられた義務。
望むと望まぬとも関わらず
これが知ってしまった者に架せられる十字架。

逃れる術は無い。

不安は足を止め、停滞を彼女に招く。
答えを知るという事は
つまりそういう事である。

「どうしよっかな? 少しここに隠れてよっかな?」

逡巡し、もしかすれば自分が討つ事に
なるかもしれない者の事に思いをはせる。

(本当にニバスさんは……)

感慨に耽りながらニバス達が居た方を仰ぎ見る。
森の奥に薄っすらと見える焚き火の明かりがその時、ふっと消えた。

(……気づいた!?)

意味も無く焦燥感が全身を襲う。
このまま此処にいては拙いと思考の片隅が警告する。
そんな本能の警告に少女は意を決する。

(行こう!!)

少女は地を蹴り、まだ形すら見えぬ向こう側へと駆け出した。

【G-6/森/一日目/深夜】
【ソノラ@サモンナイト3】
[状態]:健康
[装備]:リムファイアー(7発消費・残り29発(確認済))
[道具]:支給品一式、石化銃の弾丸(24/24、他の銃に利用可能かどうかは不明)
[思考]:1:クリスタル継承したムスタディオの記憶の真実を確かめに、G-5の住宅街に向かう。
    2:ニバスについてどうするかについては保留。個人的には殺したくない。
    3:ムスタディオさんの記憶と遺志に従い、ラムザとアルマ、アグリアスを守りゲームを破壊する。
    4:どんな時でも、あたしは独りじゃない!

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時系列順
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最終更新:2011年06月04日 21:48