騎士の誕生◆j893VYBPfU
アルガスからの情報に、目を引くような重要なものはなかった。
元よりそう多くを期待していなかった分、失望には至らなかったが。
だが、残念と言えば残念ではある。
折れた角を頭に持つ緑髪の少年。
ホームズの親友である
リュナン。
そして獰猛な印象を与える黒髪の男に、
エトナという赤毛の悪魔。
彼の話しによれば、以上四名の危険人物ばかりに遭遇し、
そのいずれにも酷い目に合わされたという。
そして、わたしはそれが敵意と偏見に満ちた主観入りという事に注意しながら、
脳内でアルガスの情報を整理してゆく。
おそらく、遭遇した人物全員が危険という訳ではないだろう。
わたしの勘で言えば、アルガスの傲慢な態度が巡って周囲にそう返礼されたか、
あるいは本人の脇の甘さが招いた結果なのだろう。
他人を見下す事に夢中になるものは、どうしても視野が狭窄する。
己もまた、他人に内心で見下され返すという事に気付かないのだ。
――馬鹿というか、甘いというか。
わたしは物心付く頃に祭り上げられ、最初から飾りである天上人だった。
「神使」と言う地位は名ばかりで、自らは何の奇跡も起こす事も出来ず。
ただ、そこに鎮座してある事のみが価値とされたわが身としては。
出会う者全てがこちらにおもねり、へつらう態度の奥底で。
絶えずわたしを利用しようと隙を伺い、
あるいは所詮傀儡に過ぎぬと侮蔑してかかる
有像無像に囲まれて育ったわが身としては。
絶えず他人の内心を用心深く推し量りながら、
自らは決して弱みを見せぬ事などもはや常識。
貴族の見せる優雅さとは、決して見栄の為のみではない。
他者に弱みを見せぬ為の偽装であり、用心の心得なのだ。
かつては名門貴族でありながら、その程度の作法すら理解出来ないアルガスの無防備さに。
わたしは大きな羨望と失望の入り混じる、大きな溜息を漏らした。
――ある意味、羨ましい育ちじゃったのかもしれんの。
昔ちやほやされてたのが突然に没落し、周りの態度が豹変して人間でも歪んだか。
だが、わたしの溜息を境遇への憐憫とでも見誤ったのか?
アルガスは下手に出て、わたしに媚び諂う。
「なあ、こんなオレを哀れだと思ってくれてるのなら。
今度こそ、仲間として受け入れてはくれないか?
…絶対に、皇帝陛下の役に立ってみせる。必ずだッ!」
熱っぽい眼差しで、奴はわたしに視線を送る。
わたしを出世の足がかりにでもするつもりなのだろう。
その事については、別にわたしも不快には思っていない。
「相互扶助」という名の「相互利用」。
人間関係とは、良くも悪くもそれで成り立つ。
利用するなら大いに結構。それはお互い様というものだから。
だが、目の前の男に利用価値があるかと言えばそれはないだろう。
むしろアルガスを連れ歩く事は足手纏いにすらなりえる。
気に入らない相手と見れば所構わず吠え続け、侮蔑を隠そうともしない。
周囲の空気を著しく悪化させて、一切悪びれる事もなく。
その貴族主義を、ことさらに周囲に押し付ける。
アルガスを駆り立てるのは己の野心と憎悪のみ。
それ以外の事象に価値など見出せないのだろう。
わたしはこれまでのアルガスとのやり取りから、
あえて危険を冒してまで仲間にするメリットはないと判断していた。
そして、吐き出させるべき情報も全て吐き出させた。
もはや用済みか、と考えた所で。
「――初めまして、皆様方。
私は悪鬼使い
キュラーと申す者。以後、お見知り置きを」
本来はあり得ないはずの、放送が。
アルガスの運命を嘲笑うかのように、城内に響き渡った。
◇ ◇ ◇
「その“救いの手”を受け入れるか、あくまでも拒絶するかについては、
貴方達の自由意思に委ねましょう。これは強制ではありませんからね。
このゲームでは、なにより自由意思による選択こそが尊重されるのです。
貴方達のご健闘に期待しておりますよ…」
わたしは苦々しい思いでその放送を聞き入っていた。
――その狙いは、あまりにもあからさまに過ぎる。
そして、この状況はアルガスの運命を決定付けるものであった。
アルガスが見る見る蒼褪め、混乱のあまり大騒ぎを始め出す。
そのみっともなさはともかく、心情だけは同情するに余りある。
そう、誰とてこの
臨時放送がもたらすものは理解できる。
――理解できるのだ。
ラハールは暴れたがっており、そしてその相手と武器を見境なく探している。
そして、
ラムザはアルガスとの仲はお世辞にも良いとは言えない。
アルガスとて、それらの状況は充分に理解している。
――そして、何よりも。
残りの制限時間が、この先どの程度であるかがわたし達には分からない。
第一回放送で呼ばれた最後の死者は、果たして午前中に死んだのか?
それとも、放送直前に死んでしまったのか?
今のわたし達にとってはそれすら不明なのだ。
それらを早急に確かめる事も必要である。
そして、それらの人間関係を始めとする全ての問題点を解決できる手段が。
――たった今、わたしの目の前にある。
殺しても誰一人として良心が痛まない者がおり。
殺した方が明らかに今ある状況を優位に立て。
殺す事により確実な安全を保障出来る。
そんな都合の良い「生贄の羊」が、たった今無力な状態で拘束されている。
それに、たとえこちらが放置して手を下さなくとも、
発見され次第誰もが彼を始末しようとするだろう。
貴重な時間と、身を守る武器を得るために。
「殺す」という行為に、義務のみでなく利益を得てしまったが為に。
そして今、同時にこのわたしの立場も危ういものとなってしまった。
無論、ラムザという男が如何なる場合であれ、
無抵抗な女子供を手にかける者ではない事は、
これまでの僅かなやり取りの中で充分に理解している。
――だが、だからこそ。
アルガスのみを目の前で殺めて、首輪を奪うという事は充分にあり得る。
いつ「不用」として首を狩られるか不安の中にいる、このわたしを安心させる為に。
アルガスという男。ラムザとの因縁やこれまでの態度から察するに、
あまり良質な人間だとは言えないのだとも理解していた。
そして、ラムザはアルガスを殺す事に躊躇いはないだろう。
あの男は優しくはあるが、決して甘くはないのだ。
それは身に纏う空気やその目からも理解は出来ていた。
あの
ヴォルマルフという騎士相手に一度は勝利した強者に、
決して隙や甘さなどあろうはずがない。
――だが、だからといって。
アルガスを見捨ててしまってもよいものだろうか?
下愚としか言いようのない、人間の失敗作であっとしても。
窮地にある者を見殺しにして自らは手を汚さず保身を図る、
かつての元老院まがいの浅ましい行為を。
人の上に立つ者が取って良いものなのだろうか?
――否、断じて否。
もし、アルガスを見殺しにしてしまうのであれば。
わたしは、かつてヘッツェルを断罪した時のように。
わたし自身をも断罪しなければならなくなる。
元老院議員へッツェルもまた、己の身の可愛さ余りに
「高貴なる者の責務(ノブレス・オブリージュ)」を忘れ、
全ての悪事について見て見ぬ振りを続けていたのだから。
それは、国家の命運を担う者が、守るべきものの荒廃を
座視したも同然の行為であるが故に。
――わたしは自ら手を汚し、ヘッツェルをその罪ごと焼き滅ぼした。
たとえ、己自身が悪事に手を染める事がなかろうとも。
それはすべからく貴族の義務の放棄を意味したが故に。
庶民ならいざ知らず、貴族の取るべき態度ではない。
ましてや、わたしは人の頂点に立つ皇帝。
そのような罪を背負うものに、皇帝を名乗る資格はない。
他者にはその手を汚させ、自らは安穏とするなど言語道断。
率先して己が手を汚して、自らも危険を背負ってこそ皇帝。
無力は罪の言い訳にはならぬ。
――ならば。
わたしは怯え喚き続けるアルガスを無視すると、小部屋を飛び出した。
◇ ◇ ◇
「さあて、戻って来てやったぞ。待ちくたびれたかのぅ?」
わたしはにんまりと笑うと、城中を捜し回りようやく見つけた鋸を手に。
大股で、ゆっくりとアルガスの所へと近づいた。
アルガスの顔が恐怖へと歪む。迫り来る運命を悟り。
わたしは勝ち誇るように笑う。運命を己が握るが故に。
「やめろーッ! オレを放せーッ!頼むーッ、殺さないでくれーッ!!
ふざけるなーッ! どうして、オレが殺されなきゃいけないんだッ!
オレは貴女様の役に立つから、ラムザなんかよりも役に立って見せるからッ!
だから
サナキ様ッ!皇帝陛下様ッ!考え直してくれよッ!なッ!なッ!」
先程の、ラムザへの威勢の良さはどこへやら。
アルガスは尻もちを付いた姿勢のまま、ずるすると退がり続け。
やがて後ろの壁に当たり、その退路すらも断たれた。
年下の少女相手にカタカタと歯を打ち鳴らす様はむしろ滑稽ですらある。
その怯えぶりは、もはや貴族というよりは道化と呼ぶ方が相応しい程に。
「残念じゃが、おぬしはラムザほど役には立てんよ」
「覚悟を決めるのじゃな。さあ、女神に祈るがよい」
わたしは残念そうにゆっくりと首を左右に振り、アルガスを押さえ込む。
右手には握られた鋸。真新しいそれは、獲物を求めて鈍い光りを放ち。
絶叫を上げるアルガス。それは屠殺される寸前の家畜を連想させるも。
「頼むよ…、やめてくれーッ!!
いやだーッ、死にたくないーッ!やめてくれーッ!」
現実を拒絶して、眼を瞑るアルガス。
わたしはその命乞いを無視して――。
あてがった鋸を、一気に引く。
「助けてくれッ、かあさんッ!! 」
響き渡る絶叫。
引き続けられる鋸。
そして、溢れ出す―――――ことのない血潮。
――束の間の、静寂。
白けた空気が、周囲を支配する。
「って、あれ?なんで生きてるのオレ?」
呆けた声を上げるアルガス。
縛られていた圧迫感が不意に消え、怪訝に思った彼が少し身体を動かし。
ようやく、身体の縛りのみが引き裂かれていた事を理解する。
「…その年でマザコンとは関心せんのぉ?」
わたしは苦笑を浮かべながら、アルガスを見下ろしてた。
奴は勘違いにようやく気付き、酷く顔を赤らめる。
――してやったり。だからこういう悪戯はやめられんのじゃ。
「う、ううううるさいッ!黙れッ!黙れ黙れ黙れッ!
よくも、よくもこのオレに恥を掻かせてくれたなッ!」
「なんじゃ、そなたにも恥を知る心ぐらいはあったか。
ラムザ相手にあれだけ啖呵切ってたのが嘘みたいじゃの」
わたしはニヤニヤと笑いながら、アルガスをからかい続ける。
ラムザの名を出され、若干顔が硬くなり始めるも。
そっぽを向きながら、ぶつぶつと言い訳を始める。
「…そりゃそうさ。オレだって命は惜しいッ。物凄く惜しいッ。
いくら一度経験してるにしてもな、もう一度死ぬのは嫌に決まっているッ。
だがな、これまでに自分が名家であるが故に受け続けた恩恵も忘れて、
貴族の義務も誇りも放棄してベオルブの家から逃げたラムザ相手に、
引くなんて貴族としてありえないね。それを許したら、身分が曖昧になる。
それにあいつに媚び諂って命乞いする位なら、殺された方がまだマシだッ。
ベオルブ家の面汚しを、同じ貴族だなんてオレは認めんッ」
――なるほどの。
意地や誇りのかけ方が少しばかりズレておる。
あと口調がいつの間にか敬語ではなく対等になっておるが、それはまあよい。
あるべき貴族主義が誤ったまま固定化され、それで道を誤ったということか。
ラムザの事にせよ、なんらかの誤解か勘違いじゃろ。目が曇り過ぎというものじゃ。
だがまあ義務や誇りという言葉が出る分、まだ更生の余地はありそうじゃの。
ただ単に、身分に拘り過ぎで意固地に過ぎるという事か。
わたしはそう得心すると、視線でアルガスに部屋からの退出を促す。
「早くここから消え失せろ」と。
「もうお前は見逃してやる」と。
アルガスはその反応にぽかんとした顔でこのわたしを眺め。
唐突に得られた自由に戸惑い、そして警戒し。
躊躇いがちに、ぼそりと口を開く。
「なあ、なんでこのオレをわざわざ助けるんだ?
あんた自身が言ってただろ?オレは役に立たないって。
それにオレが死ななきゃ、あんたが代わりに殺されるかもしれないんだぜ?
今の放送聞いてりゃ、それ位はあんただってわかるよな?
ここじゃ皇帝だの貴族だのって地位は、平民の家畜どもには通用しないッ。
それに――。」
アルガスはそう言うと、猫背で弛緩した姿勢を取り。
わたしはそれを最初から予期しており、杖の末端と半ばを握り構える。
「――そなたがわたしを襲わぬとも限らぬ、とでも言いたいのじゃろ?
ならば…、試してみるかの?」
アルガスは不敵に挑発するわたしの様子を、しげしげとしばらく眺め。
「そこまでわかっていて、一体何故なんだ?」と心底理解に苦しんだ表情を見せ。
わたしは答える。真なる貴種の生き様というものを。
「…阿呆。目の前で殺されそうになっておる生命を前にな。
己の保身の為に見殺しにする輩など、誰も皇帝などとは呼ばんじゃろ?
それこそ、そなたの言った『貴族の義務』という奴じゃ。
わたしは、わたしの誇りの為にそなたを助ける。そなたの価値など関係あるか。
それにの、護身の心得なら多少はあるでの。そなたの裏切りなど計算の内じゃ。
貴族とは、民草とは生き様の格の違いを見せつけてこそ貴族というものじゃろ?
わたしを単なるお人好しか、地位を笠に着るだけの小娘だとでも思うたか?
この第三十七代ベグニオン皇帝を、あまり見くびるでないわ」
わたしはニヤリと笑いながら、それを奴に教える。
わたしの在り方を。わたし自身の矜持というものを。
眼前の誇りのかけ方を誤った没落貴族にも分かるよう、
はっきりと宣告する。
その言葉に――。
アルガスが身に纏う、空気が変じた。
アルガスは唐突にその目を見開き、大きくその身体を震わせて。
あたかも女神からの天啓でも受けたかのように。
自ら片膝を折り、わたしに頭を垂れ――。
恭しく厳かな声で、騎士の礼を取った。
「これまでに渡る数々の無礼…、どうか、どうかお許し下さいッ。
貴方様には、真の貴族の誇りを見た気がいたしました。
ただ、願わくば。それが許されるのであれば。
この私めを、是非貴方の配下に加えて頂きたく存じ上げます。
未だ騎士見習いの身なれど、己が未熟は熱意で補いますが故に」
それは、あの傲慢極まりなかったアルガスの口から初めて聞かれる。
一切の混じり気のない、偽り無きわたしへの敬意に満ちた言葉。
それは、「相互利用」といった契約関係を望むのでは決してなく。
わたしを本当の意味で主として認め、己を臣下とするよう願い出た。
――わたし自身想像すらしなかった、唐突なるアルガスの改心。
当然を語ったに過ぎない積もりが、ここまでの影響を与えるとは。
…この男、まだ芯までは腐り切ってはいなかったという事か。
その反応にわたしこそが驚き、反応に少々こそばゆいものを感じはしたものの。
だが、わたしはアルガスの懇願に――。
「その申し出は、今はまだ受け入れられんの」
拒絶にて、それを返す。
びくり、とアルガスが悲嘆に肩を震わせるも。
「…今はまだ、と言ったんじゃ。つまりは保留という事じゃ」
「そなたが貴族に相応しい振舞いを身に付けたと、わたしが認めた時。
その時は改めてそなたをわたしの騎士として認めよう。
人の性根など簡単に変わる。今はまだまだ信頼できん」
わたしは、アルガスに優しく諭す。
道を違えぬ限り、少なくともわたしはアルガスを認めると。
良き方向に人が変わるのであれば、わたしはその切っ掛けとなりたい。
わたしは人を導くのが責務であるが故に。
「じゃからの、わたしがそなたを直で見届けるとしよう。」
「どうせ、ここにい続ければそなたはラムザ達に殺されるんじゃ。
じゃが、そなたを野放しにするのも危なっかしいしの。
…仕方あるまい。ようは監視も兼ねて、という事じゃ。
一緒に出るぞ?元より、その積もりじゃったしの。
その代わりに、わたしの護衛でもしてくれると助かるがの?」
そして、事実上の承認にも等しい言葉を与える。
その思いがけぬ言葉に、アルガスは再び顔を上げ――。
「…このアルガス、身命を賭して貴方をお守りいたします」
わたしの腕を取り、騎士の礼を取る。
その瞳には、僅かながらも涙が溜まっていた。
おそらくは、初めてなのだろう。他人に必要とされ、認められたという事が。
経緯はどうあれ、他人に損得抜きで命を救われ、受け入れられたという事が。
それが、たとえどのような形であろうとも。
だからこそ、これほどまでに心震わせたのだ。
そして、あれが最期を覚悟した時に出た「かあさん」という言葉。
それも、あの者が「誰かに認められたいという」渇望を持つ事を裏付ける。
世に生まれ落ちて、最初に己を全肯定するのが「母親」という存在であるが故に。
実はこの男、これまで「貴族」という地位に殊更に拘泥しているのも、
周りが己を認める唯一のよすがが、その血筋のみだったが故なのか?
ならば、まだ変わりゆく余地は充分にある。
そして、その切っ掛けを与えてやる事はわたしにも出来るかもしれない。
「うむ、苦しゅうない。
ならば、護衛代といってはなんじゃがこれをやろう」
わたしは膝を折るアルガスの首筋に。
剣の平で叩く代わりに、あるものを巻き付ける。
わたし自身が、それまで身に着けていたものを。
「これは…?」
それは、貴族が巻き付けるには質素に過ぎる、
むしろ違和感を醸し出すものではあるのだが。
何よりも柔らかく、暖かく。作り手の優しさが伝わるものを。
それが同時にわたしの気持ちでもあると、伝わるように。
「誰かが人の為に編んだ、手編みのマフラーじゃ。
陳腐なもの言いじゃが、作った者の想いまで伝わってきよる。
…わたしのお気に入りだったんじゃがの。
己を見失いそうになったら、これを見て思い出せ。
先程の、わたしへの誓いをの。」
わたしはそう言い含める。
「人に認められたい」という気持ちが強いのであれば。
「人の思いやり」の篭もったものは金品より価値あるものとなるだろう。
それが、主と認めた者からの賜りものなら尚更に。
そして、アルガスはわたしから報酬に。
「…ありがたき、幸せ」
恭しくマフラーに手を当て、再び頭を下げた。
様子を見る限り、しばらくは翻意を抱く事はないだろうと判断する。
とはいえ、楽観は禁物だろう。
人はそう、簡単に変われる訳ではないのだから。
問題は、むしろこれからなのだ。
「さて、長居は無用じゃ。さっさと出掛けるぞ。」
わたしはアルガスに準備を促し、怪我の治療を杖魔法で行ってやると。
鋸を用意する際にあらかじめ書いておいた手紙を部屋の中央に置き、
二人で城を後にした。
『アルガスがこのままでは危険過ぎるので、拘束から解放する事。
アルガスを一人にすれば不安が残るので、わたしが監視する事。
そして自分から言い出しておきながら、皆でこの城を出る事が出来ず、
皆に申し訳ないと。ホームズには後ほど自分から詫びておくと。』
手紙にはこう記してはおいたが、不安ではある。
経緯はどうあれ、わたし達の離反はラムザ達への不審を意味するのだから。
何より、今の合流はアルガスが危険過ぎる。
――ま、理解してくれるとありがたいんじゃがの。
そして、後はアルガスのお守か。
わたし自身が決めた事とはいえ、少々気が滅入る。
わたしの騎士となろうとする以上、私怨はひとまず置くよう命じてはいるのだが。
――どうしても、不安が残るのぅ。
私怨を捨てろとまでは言わぬが、自重位はしてくれると有り難いのだが。
それが出来ぬようであれば、責任を以てわたし自身の手で阻止せねばならない。
たとえその結果、アルガスの生命を奪う事になろうとも。
――そういう事態だけはないよう、女神に祈りたいものじゃがの。
わたしは将来における数々の不安に頭を悩ませながら。
何度ともなく溜息を吐き、もう一度だけ城を振り返ると。
頼りない従者とともに、暗闇の野原へとその足を進めた。
【E-2/城の正門前/1日目・夜中】
【サナキ@FE暁の女神】
[状態]:精神的疲労(軽度)
[装備]:リブローの杖@FE、真新しい鋸
[道具]:支給品一式
[思考]1:アルガスを監視しつつ、その行く末を見守る。場合によっては…
2:帝国が心配
3:皆で脱出
4:
アイクや姉上が心配
5:魔道書等の充分に力を出せるアイテムが欲しい、切実に。
[備考]:二人で編成を組むに伴い、支給品一式を二人分アルガスに預けてます。
アルガスや自分に使ったリブローで、若干の消耗が起こってます。
【アルガス@FFT】
[状態]:ラムザに対する憎悪(重度)、サナキに対する忠誠心
[装備]:手編みのマフラー@サモンナイト3
[道具]:支給品一式×2
[思考]1:サナキに相応しい騎士となるよう務める。
2:戦力、アイテムを必ず確保する。
3:サナキが望まないので、とりあえず私怨は抑えてみる
4:…オレ、どうすりゃいいかな?
[備考]:アルガスの怪我はサナキがリブローの杖で治療しました。
[共通備考]:アルガス達のいた部屋の中央に、サナキの置手紙が置いてあります。
鋸の刃は薄いので、戦闘には一切使用できるようなものではありません。
サナキとアルガスがどの方角へと向かったのかは
他の書き手様が自由に決めて下さい。
最終更新:2012年07月29日 11:25