Box of Sentiment
『その“救いの手”を受け入れるか、あくまでも拒絶するかについては、
貴方達の自由意思に委ねましょう。これは強制ではありませんからね。
このゲームでは、なにより自由意思による選択こそが尊重されるのです。
貴方達のご健闘に期待しておりますよ…。』
…クソッタレが。何が救いの手だ、ふざけるな!
どう考えてもそれは殺し合いの後押しだろうが!
オレは数少ない生身の腸が煮えくり返るような思いを堪えながら、
『悪鬼使い
キュラー』と名乗る
ヴォルマルフの代理の放送内容を
残らず脳内に叩きこんでいた。
憤りはある。憎悪もある。
頭に血が上り、数少ない生身部分が怒りで滾る。
――心が、熱く燃えるのは良い。
この絶望的な状況下での、何より行動力の源となる。
だが、湧き上がる感情に振り回され、正常な判断が出来なくなるようでは本末転倒だ。
それが原因でこのオレが失敗すれば、周囲に『絶望』という結果しか生み出さない。
まさに奴等の思う壺だ。
心は熱く。されど、頭は冷たく。
科学者ならずとも、当然の心の持ち様だ。
それが一つの道に通じる者であるならば。
ましてや、オレが今から為そうとしている事は。
ゲームの根幹となる首輪というシステムの破壊。
この会場にいる誰よりも、クールでなければならない。
立ち向かうはヴォルマルフと名乗る騎士の面汚しと、
その後ろに控えるディエルゴという不気味な超越者。
奴等をオレの頭脳で出し抜かなければならないという事だ。
これは
ゴードンには任せられるものではない。オレの領分だ。
あいつが、何の憂いもなく奴らをブチのめせる環境を作り出す為にも。
このオレが、必ずこの首輪を解除する方法を知らねばならない。
――だが、そのためには?
奴等の思考や目的をより詳細に、より正確に把握する必要性がある。
果たして、首輪の構造や解除に奴等の思考が関係するのか?
――大アリだ。
手掛けた『作品』には、必ず作者の人間性というものがそこに滲み出る。
オレが過去に生み出した『作品』が、そうであったように。
制作者の癖や嗜好といういうものが、如実にそれに現れる。
ならばこそ、奴らの理解は首輪解析の一歩にも近づける。
知識がなくとも、ある程度の傾向を類推するならば可能。
そこから誰かと協力し、知識を共有し合えばよい。
何より、これから倒す者の知識があって困ることはない。
要は、そういう事だ。
――状況を整理する。
臨時放送が企図するものは明らかだ。考えるまでもない。
貢献者と主催側との内通についても、多少思う所はある。
それについてはどうでもよくはないが、今第一に考えるべきことではない。
今ここで真っ先に問題にすべき点は、唯一つ。
奴らが支給品を餌にしてまで、首輪自体を回収したがっているという点だ。
首輪が参加者の手により解除される可能性を恐れての事だろうか?
解除されない事に絶対の自信があれば、そうする理由などそもそもない。
だが、果たしてそれだけの理由なのだろうか?
――あまりにも、陳腐に過ぎる。
分析や解除を恐れるだけなら、参加者が死んだその瞬間に
自動的に首輪が爆破される仕様にでもしてしまえばいい。
元より、参加者がサイボーグだろうがゾンビもどきになろうが、
体温や脈拍等一切の関係なく、正確に生死を判別できるのだ。
その探知機能さえあれば、実に容易い仕掛けだろう。
そうすれば、確実に解析も一切不可能となる。
もし、オレが主催側にいれば間違いなくそうする。
数式を除けば、世に絶対など存在しないのだから。
だが、奴らはそれを一切やらない。やろうともしない。
非常事態ともなれば、超魔王相手だろうが爆破自体は行うようだが。
ならば、奴らにはそれを「出来る限りしたくない」ような事情があると見るべきである。
先程見せつけたあの過剰なまでの堅牢性からも考えるに、
「奴等はできれば首輪を破壊せずに、回収したがっている」
何らかの目的があっての事だと考えた方がより自然である。
――ここで、主催側の目的に戻る。
主催者が目的とするのは「参加者同士で殺し合いをさせる事」であり。
決してオレ達参加者の皆殺しを企図したものではないということだ。
そうなら最初の時点で始末しているし、わざわざこのオレのようにゲームに反抗し、
首輪の分解を試みる事が分かりきっているような「厄介な死人」まで蘇らせる必要性がない。
オレをよく理解する者であれば、万一の事も考えればなおさら参加などさせやしない。
――だが、キュラーと名乗る野郎はこうも言っていた。
「このゲームにあくまでも逆らう反逆者達。
このゲームに乗り、優勝を狙う貢献者達。
効率を重んじ、団体行動を取り続ける者達。
あくまで人を寄せ付けず、孤高を気取る者達。
全てが我々にとってなくてはならぬものであるが故に。 」
オレのような厄介者すら、奴等には利用価値があると認めてすらいるのだ。
そして、その多様な世界・思考の参加者の組み合わせから得られるもの、
あるいは生み出されているものは一体何か?
物質的な利益ではない事は確かだ。コストパフォーマンスが悪すぎる。
怨恨という線も考えたが、
アティはともかくこのオレとディエルゴに一切の接点はない。
報復というならば、ディエルゴがもし本物ならばゲームの参加者は
アティとその知人のみで構成するだろう。
私怨を晴らすにしても、効率が悪過ぎる。
だが、今回は少なくともオレのような科学者がいて、異世界の存在が入り混じっている。
魔界からも
ラハール達が呼ばれている事から、復讐だけという理由はまずありえない。
進行役のヴォルマルフとかいう騎士も、因縁がありそうな
ラムザには無関心だった。
奴の目も、憎悪に猛ったというよりはモルモットの内一匹を見るようなものだった。
そして奴も「ラムザもこのゲームに参加する資格がある」という事を口にしている。
ならば、ゲームの趣旨から考えるに「参加者には一定の選定基準があり」、
「参加者同士で殺し合う過程こそが必要」なのだと考えるべきだろう。
――異世界の存在同士を喰い合わせて、首輪を通じて得た実践データでも集積する?
ディエルゴがどこかの死の商人なら、確かにそういった可能性もある。
だが、そう考えるにはあまりにも疑問点が多すぎる。
様々な環境における実践データの収集が目的だとしても、あまりにもこの会場は広すぎる。
その上、参加者間の強さの基準も酷く大雑把かつ狂っている。
アティから聞いた話だと、彼女の弟子は素質こそあれど、所詮は一般人に手が生えた程度。
そして、オレと同じ死人だった
ビジュという男も、軍人としてはそこそこのレベル程度との事。
さらに、同じく魔剣の所持者だった
イスラという男は、アティとほぼ実力を等価とするという。
…あまりにも、参加者の間に実力差があり過ぎる。
イスラは兎も角、
ベルフラウやビジュが悪魔相手に太刀打ちなど出来る筈がない。
ぶつかれば確実に虐殺となる。まさに、二人はそうなって倒れたのかもしれない。
これでは、正確なデータ収集など夢のまた夢だ。
第一、そうなら参加者全員がこのゲームに“乗る”強者のみで構成するだろう。
ならばこの線もペケだ。
――あるいは本当は何も意味はなく、首輪回収もゲーム要素としての一環?
イカれたサイコ野郎が有り余る金と時間を湯水のように使い、
極上のスナッフ・フィルムをライブで楽しみたいとか?
確かに、奴等はこの殺し合いを“ゲーム”だと抜かしてやがった。
これなら動機として一番単純かつ分かり易いが、これにも矛盾がある。
だったら、この殺し合いを徹底的なショーとして娯楽性を入れるはず。
もう少し狭い…たとえば闘技場等に全参加者を閉じ込めてしまえば、
主催側の目で直に見て極上の殺人劇場を満喫できただろう。
…だが、奴等は決してそれをしなかった。
首輪には、監視カメラの存在は確認できなかった。
工具等で継ぎ目から首輪本体を分解される可能性を恐れての措置なのだろうが。
(そもそも、首輪の高さにあるカメラの視界を使っても、非常にブレるので実用性に乏しい。)
人工衛星か何かで監視している可能性もあるが、これでは見応えも何もないだろう。
なにより屋内等の死角で殺戮を行われると、奴等はショータイムを楽しめないのだ。
――これも、違うな。
となれば、オレでは理解できないような利益がディエルゴ側にはあり、
それに首輪が絡んでくると考えるべきなのだろう。
この広すぎる会場にも、なんらかの理由や意味があるのかもしれない。
だが、こんな非生産性も極まる殺し合いでオレ達が生み出すものと言えば、
精々が憎悪の連鎖と、希望に見せかけた更なる絶望、そして悲嘆と殺意。
吐き気を催すような、マイナスの感情のオンパレードのみだ。
こんなもので喜べるのは、ラハール達ですら引くような極めつけに性悪の悪魔ぐらいなもの。
それに、そんなものたとえ首輪ごと回収出来たとしても何の得に…。
悪魔ぐらい?
何の得に?
――今、 一つの閃きが脳内を駆け巡る。
「サプレスの悪魔」
オレは、昼間にアティから聞いていた「サプレスの悪魔」の情報を思い出した。
ラハールと同じく悪魔と呼ばれても、その在り方があまりにも違っていたので、
興味が湧いて根掘り葉掘り聞き出したものだ。
アティの世界の悪魔は血肉を備えた実体を持たず、言うなれば精神生命体に近いらしい。
そして、その食事もやはり肉や野菜のような実体を備えたものでなく、精神を糧とする。
悪魔の食事とするものは、やはりと言うべきか『怒り』や『悲しみ』のような負の感情。
――もし、このディエルゴを名乗る者がこの悪魔に限りなく近い存在だったとすれば?
ならば、この殺し合いはまさにディナーを得るにはうってつけだろう。
そして、オレ達は知らずにその餌の給仕係までやらされ、奴は際限なく肥え太る。
それなら「首輪が破壊できない」「首輪を回収したがる」理由にも辻褄があう。
さしずめ、オレ達全員がシェフをも兼用し、この会場はビュッフェと言った所か。
実に嫌味が効いてやがる。
反抗しようがゲームに乗ろうが、生き残ろうと足掻くほど。
参加者全員が残らずディエルゴに奉仕する事になるとはな。
だが、決してそれだけでもないだろう。
それなら、完全に無作為に選んでしまってもいいはずなのだ。
自分が万が一にも再び倒される可能性を持つものがいる以上、
ゲームの成功を期すなら己(ディエルゴ)を知らない者のみで
参加者を構成してしまうほうがより確実だ。
意趣返しなど、充分に力を付けた後でも構わないはず?
――つまり、まだ何かあるはずなのだ。
力を蓄えると『同時に』、アティを使ってやらなければならない何かが。
そして、それは彼女本人が死んでも修正が効く程度のものでなければならない。
この場では、いつ、誰が、どのように死んでも不思議ではないのだから。
あるいは、彼女の死自体が奴等の目的であるか。
ならば、彼女が優勝してしまったとしても何ら問題はない。
ディエルゴ本人が、最後に始末すれば良いだけの事だから。
だが、彼女に与えられた目的については、本人に問い質してみたほうがよいだろう。
余計な先入観は、誤った結論を招く。
そして、周囲に与える絶望をより深いものにする為にも。
偽りの希望の光を与え、そこから絶望の奈落へと突き落とす為の要員として。
絶対に反抗するであろうこのオレを参加者として選んだのだろう。
それが、奴等の与えたオレの役割(ロール)という事か。
最初から過酷に過ぎる状況のみを与えてしまえば、人は無気力になる。
そうなれば己の死にすら諦観を抱くようになり、負の感情など湧こう筈がない。
ある意味それも「絶望」の一つの形と言えるだろうが、
植物のような枯れたゼロの感情など、奴等は求めない。
悪魔が好むのは、憤怒による殺意や、気も狂う程の悲哀などの、
渦を巻く激しいマイナスのエネルギーに他ならないだろうから。
ならば、最初に人を持ち上げ、最後に突き落とす方がより効果的ではある。
『参加者の間に狂おしい程の負の感情を与える』という観点でものを考えれば。
出鱈目かつ無駄が多いようにみえて、その実合理的かつ計算高い。
己を道化に見せかけておいて、その実徹底的な合理主義者。
裏表が激しく、酷く緻密で、かつ人間臭い思考が伺える。
何もかもが乱暴で大雑把な、悪魔のような超越的存在に出来る発想ではない。
これは、あのヴォルマルフと名乗る騎士の入れ知恵も含まれているのだろう。
――やれやれ、とんだロール・プレイング・ゲームだ。…反吐が出る。
さて、主催者の思考と目的については、イヤになるほどに理解は出来た。
首輪の内部構造も、恐らくは『負の感情を集める』事に特化した作りなのだろう。
あとはどのようにして、こいつの蓋をこじ開けるかって話しに戻るのだが。
そうして、オレが首輪についての考察をメモに纏めている間に。
奴らは、何の前触れもなく。凄まじい瘴気を放ちながらオレに近づいてきた。
◇ ◇ ◇
「…臭いが取れんぞ。」
「仕方がないじゃないですかぁ~。うっぷ…」
殺し合いの渦中にいるにしては、あまりにも呑気に過ぎる口調で。
黄金の甲冑を着た騎士と優男の二人組は暗闇の森林を歩いていた。
「…だから言っておいたのだ。もう捨てておけ、と!」
「いえ、それは私の美学に反します!
うら若き乙女達が手塩にかけて作った手作り弁当!そして、見知らぬ海の珍味!
これらを捨てるのは、作られた方々の愛情をも打ち捨てるも同然!
断じてそのような真似などできませーん!!
でも上品な塩辛みたいでイケましたねこれ…」
ガフガリオン達と二手に分かれた後。
中ボスとウィ―グラフの二人組は西進して塔を目指していたのだが。
彼らと出会う前にするつもりだった食事の件で意見の対立があった。
ウィーグラフは「もうそういう空気ではない」という事で食事の中断を提案。
実際は発酵したニシンが弁当の上に盛大に乗っかり、この絶望的な臭気混じりでは
到底食べられたものではないというのが本音だったのだが。
…食べ物に意地汚い中ボスは、その弁当を見逃す事はできなかった。
故に、中ボスはウィーグラフからその弁当を有り難く頂戴し。
だが、ウィーグラフは食べるのを待つ時間が惜しいという事で。
中ボスは二人分の弁当を食べ歩きながら西進し、周囲に異臭を撒き散らしていた。
だが、それは胃の消化に悪い事夥しく。
弁当を食べ終えた後には、中ボスは塩分の取り過ぎと満腹のあまり胃痛に陥り。
それを見かねたウィーグラフが、臭い消しも兼ねて中ボスに水を与えるに至る。
(ちなみに、中ボスは自らの水を全部飲みほしてしまった)
「おかげでこちらはいい迷惑だがな。もう少し水でも飲んでおけ」
「フッ、お心遣い感謝いたします」
優雅な仕草でペットボトルを受け取る中ボス。
気障に前髪をかき上げるが、その臭いと頬に付いたご飯粒の為、まるで決まらない。
むしろ、見事三枚目である事を強調するアクセントとして立派に機能している。
「臭いを消すためだ、勘違いするな」
中ボスの口から漂う、鼻にねじ込むかごとき腐乱臭を我慢しつつ、
ウィーグラフは実におぞましいものを見るような顔で中ボスを眺めていた。
臭い臭いと言いながらも、しっかりと完食している辺り、あの醸した鰊には
中毒成分でも含まれているのだろうかと、つい下らない疑問を抱いてしまう。
――そうこうしている内に。
前方に僅かな焚き木の明かりと、その傍に佇む人影を見つけ。
「…姿を隠せ。様子を確かめる」
そう警告するウィーグラフの言葉を綺麗に無視して。
「おや、あれは
カーチスさんじゃあないですか?
おーい!今からそっち行きますんで、少し待って下さーい!!」
森林に響き渡る大声で、中ボスは無防備にカーチスに呼び掛け。
怒りのウィーグラフに、鉄拳制裁を後頭部に叩き込まれる。
ぐったりした中ボスは口を塞がれながら木々の影に連行されるが、時既に遅し。
絶望的な瘴気まがいの悪臭を周囲に撒き散らす彼を、隠し切れる筈もなく。
二人の様子に呆れ果てたカーチスに呼び止められ、三人は会合に至る事になる。
◇ ◇ ◇
――警戒は、ほんの数瞬。
このゲームに乗っている者どもなら、徒党を組む可能性は低いのと。
なによりその内一人があまりにも馬鹿馬鹿しいコントを演じている事もあり。
(それどころか警戒心ゼロのような気がしてならないが、それは捨て置く。
あの臨時放送直後だっていうのに、まったく良い身分なものだ…。)
オレはその有様に警戒を解くと、近づいて来た二人に簡単な自己紹介を済ませ。
これまでに起こった出来事について、情報交換を行った。
首輪関連についての会話は筆談で済ませ、念の為首輪についての考察メモを二人に手渡す。
これで、万一オレに何かあったとしても、誰かが遺志を引き継ぐ事は出来るだろう。
(筆の擦過音は、念の為焚き木の音とオレ達の会話でカモフラージュ済みだ。
残念ながら、彼らも首輪に付与された魔法の類については、
二人に思い当たる節はないとの事だった。)
その間、優男はオレに思うものでもあるのか。
しばらくオレの顔をしげしげと眺めていたが。
視線から察するに敵対的なものとは程遠い、むしろ生温かい類のものだったので、
気付かぬふりをする事にする。万一、こいつがその手の趣味ならお断りなのだが。
「
プリニーの姿ではないのですね…。」と、訳の分からない事を口にはしていたが。
ただ、一つ驚いた事に。
どうやら、優男の方はあのラハール達と知り合いで、
あのゴードンとも顔見知りの間柄だったらしい。
自称ラハールの「宿命のライバル」との事だが、
どうみても名前の通りの「中ボス」臭しかしない。
頬についたご飯粒といい、口から漂う溝川のような腐乱臭といい、
あまりにも威厳というものがなさすぎる。
とはいえ、この男も一応は悪魔。
決して、まともな人間の手に負える存在ではないのだろうが。
対抗するには、オレのように人間を辞めるか。
あるいは、ゴードンのように人間を超えるか。
そうでもしなければ、人間は悪魔に太刀撃ち出来ないのだ。
態度は兎も角、決して侮る事だけは出来ないだろう。
事実、オレはラハール達には勝てなかったのだから。
中身はともかく、その戦闘力のみは警戒すべきだろう。
情報交換ついでに、これからの予定を聞いてみれば。
ビューティー男爵「中ボス」はラハール達三人を。
ウィーグラフと名乗る騎士はラムザという青年を。
それぞれを探している所らしい。
ただし、ウィーグラフはラムザに対して含む所でもあるのか。
その青年の事を話す時は微妙に顔をしかめてはいたが。
一方で中ボスは「宿命のライバル」というよりは、
まるで父親が不肖の息子と娘達を思いやるような。
どこか遠い眼差しでラハール達の事を語っていた。
ただし、中ボスはつい先程自分の元を離れた
エトナを気に掛けており。
彼女を引き戻しに、ガフガリオンという名の騎士が
レシィという少年を
引き連れてC-3の村へと向かっているらしい。
ただし、その老騎士に対する見方で、二人の見識に若干のずれがあるようだが。
「私とて、あの方が日の下を歩いた人間ではない事ぐらいは感じております。
ですが、ウィーグラフさん。それはあまりにも敵意を抱き過ぎではないですか?
彼とて昔は家族もいたであろう、一介の人間です」
「お前こそ、あいつを見くびりすぎだ。黒騎士(ダークナイト)の名は伊達ではない。
戦場を共にした事こそないが、奴のいた戦場跡は、見飽きる程に見て理解している。
放置しておけば、取り返しのつかん事になるかもしれんぞ?」
中ボスの言を信じるのであれば、失った家族を思うどこか寂しげな老騎士であり。
ウィーグラフの言を信じるのであれば、冷徹無比なる邪悪な軍人という事になる。
ただし、オレの感じた事を言えば。
どちらも本当の事を言っているようには聞こえ、
どちらも全ては知ってはいないようにも聞こえる。
両者が抱く老騎士に感情に、温度差が有り過ぎだ。
とはいえ、オレもガフガリオンの行き先が気にならない訳ではない。
エトナ達相手に、老騎士一人がどうにか出来るとは思えないのだが…。
ただし、あちらにはアティもいる。もし、ウィーグラフの言う事が真実なら?
遭遇すれば、彼女にとっても取り返しが付かない事になりかねない。
それ以前に、たとえ彼が危険人物でなかろうとも。
夜と深くなれば、村で暖を取ろうとする他の参加者達の遭遇率も跳ね上がる。
そして、それはたとえ主催側に反目する立場の人種であったとしても。
彼女が役立たずと見做されれば、早々に始末される可能性がある。
――全ては、制限時間と支給品の獲得の為に。
オレは、唐突にぞわりと脳の根幹を撫でられたような錯覚を感じ。
――酷く、嫌な予感がする。
そう言えば、随分と長い間。
オレは彼女の声を聞いてはいない。
連絡がないのは無事の証とも言えるが、あまりにも無さ過ぎる。
それに、アティからは色々と聞き出しておきたい事もある。
――ならば。
「…わかった。エトナ達の様子なら、このオレが見に行ってやる。
代わりに、北の塔にいるゴードンと
ミカヤを頼む。いずれ後を追う。
他に聞きたい事でもあれば、代わりにあいつにでも聞いてくれ。」
オレはメモに視線を送り、その内容がメモに関する事だと示唆すると。
オレは話しを手短かに切り、二人にゴードン達の身柄を任せ。
足早にC-3の村へと駆け出した。
これ以上は、消費する時間が惜しい。
たとえ一秒でも、たとえ一瞬でも。
胸騒ぎは、一向に収まりはしない。
駆けながら、オレは体内の機能を使いアティに呼び掛ける。
だが、当の彼女の無線からは――。
声はおろか、一切の反応も示しはしない。
主催者側の通信妨害も疑ってはみたのだが、それでもノイズ程度は入るはず。
――だとすれば?
まさか
まさかとは思うが。
彼女は窮地に連絡を入れる暇さえないままに、すでに――。
取り返しのつかない、最悪の未来を想像し。
オレの視界が、その衝撃に暗くなりかける。
――クソッタレが!何が多くを救うだ!何が地球勇者だ!
参加者はおろか、女一人助けられないのか、このオレは!!
激しい焦りと自分への怒りで、脳内が掻き乱され。
人工の心臓が激しく脈打ち、動悸で息も荒くなる。
あのどこか儚げな、顔こそ違えど今は亡き妻子の連想させる、あの笑顔が。
唐突に、理不尽に。圧倒的な暴力によって“再び”蹂躙される様を連想し。
今にも自分が内部から引き裂かれそうな、そんな錯覚さえ感じる。
それも、状況を甘く見て彼女を置き去りにしたオレのミスに他ならない。
後悔の余り、今にも気が違えそうになる。
だが、落ち着け。落ち着くんだ。
――オレは第三十八代、地球勇者なのだから。
オレは考えうる最悪の可能性を頭から振り払り、無理矢理心を奮い立たせる。
アティが無線が取れなかったのは、単に何らかの偶然という事もある。
あるいは、無線の故障という可能性も。
それに、本人にもし何かあったのだとしても?
本人は未だ生存し、助けを求めているという可能性もある。
ならば、一刻も早く駆け付けるべきであろう。
それが、今のこのオレに出来る最善の行為だ。
本人の死体を発見するまでは、悲嘆にくれるのは早計に過ぎる。
状況は決して楽観はすべきものではないだろうが、
最初から諦めては、救えるものすら救えないのだ。
オレは胸の内にじわじわと侵食を始める、どす黒いものを振り払うように。
駆動系が熱を持つ事すら無視して、限界を超える勢いで村へと駆け続けた。
【C-2/森/一日目・夜中】
【カーチス@魔界戦記ディスガイア】
[状態]:背中及び数箇所に切傷(軽症)、左足に異常(要修理)、若干の性能劣化、
激しい焦燥と後悔
[装備]:オウガブレード@タクティクスオウガ
[道具]:支給品一式
鍵@不明、
オリビアの首輪
[思考]1:手に入れた首輪を解析する為に、異世界の(特に魔法に詳しい)参加者を探す。
2:アティにいち早く接触し、他の参加者達やディエルゴについての情報を再確認。
3:ガフガリオンを警戒。
4:アティの身柄の確保と同時に、エトナ達を探してみる。
[備考]:首輪が魔法的な防護により異常なまでの硬度を帯びており、
物理的手段だけでは分解不能である事を理解しました。
分解と解除には魔法と科学に通じたものが必要であると推測を立てています。
:ウィーグラフ達とこれまでの情報交換を行いました。
状況が落ち着けば、後ほどアティとともにB-2の塔にて合流する約束をしました。
:カーチスは自分を含めた全ての参加者には、主催者側の選定基準があり、
其々に彼らが望む一定の役割を与えられていると推測を立ててます。
【ウィーグラフ@FFT】
[状態]:健康 、ガフガリオンへの不信感
[装備]:キルソード@紋章の謎
[道具]:いただきハンド@魔界戦記ディスガイア、
ゾディアックストーン・アリエス、支給品一式(ペットボトルのみ無し)
[思考]:1:ゲームの打破(ヴォルマルフを倒す)
2:仲間を集める。
3:ラムザとラハールの捜索
4:ガフガリオンを警戒(不審な行動を見せれば斬る)
5:アティとエトナ達はカーチスに任せる。
6:合流予定のB-2の塔で、同時にゴードン達を探してみる。
[備考]:ジョブはホワイトナイト、アビリティには現在、拳術・カウンター・攻撃力UP、
HP回復移動をセットしています。
:カーチスと情報交換をしました。首輪に関する話題は筆談にて済ませています。
但しカーチスの考察以上の事は発展が有りませんでした。
【中ボス】
[状態]:顔面と後頭部に軽症(行動に一切の支障なし)、軽い胃痛、酷い口臭、頬にご飯粒
[装備]:にぎりがくさい剣@タクティクスオウガ、ペットボトルの水(半分消費)
[道具]:支給品一式 (水は全て消費済)、ウィーグラフのクリスタル、カーチスのメモ
[思考]:1:ゲームの打破
2:自分が犠牲になってでもラハール達の帰還
3:エトナも早く戻ってくればよいのですが…。
4:メモの内容…。とても気になりますね。これは。
5:赤毛の麗しきマドモワゼル(アティ)。フム、意外と近くにいましたか…。
って、これは浮気じゃないですよ皆さぁーん!!
[共通備考]:
カーチスの首輪に関する考察には、以下のような事が書かれています。
【カーチスの首輪に関する考察メモ】
- 首輪は異常なまでの堅牢性が与えられている。当然のごとく、防水性。
その原因は物理的なものではなく、極めて強力な魔法に類する力であり、
その力を特定し、無効化することがまずは先決である。
- 視認した限りにおいては、分解防止の為か監視カメラの存在はない。
- 死亡者の有無を確認出来ることから、生体反応を感知できる何かがあると推測される。
ただし、参加者がアンデッドと化した事やカーチスのようなサイボーグであっても
生死を正確に認知できることから、体温や脈拍等で感知しているわけではない。
- 主催側の目的やこの殺し合いで得られるものから考えるに、装着者の絶望や憎悪等の
どす黒い感情を効率良く集積する機能が付加されている可能性が高い。
- 今回のゲームの首輪については、サプレスの悪魔(ディエルゴと名乗る者)の求めに応じて、
進行役の人間(ヴォルマルフ)が入れ知恵をして制作されたと推測される。
:C-3からC-2への通り道の間に、中ボスが食べ終えた空の弁当箱と
シュールストレミングの缶詰が捨てられています。
|
最終更新:2011年07月03日 16:17