スーパーダンガンロンパ2さよなら絶望学園(Part2/2) ページ容量上限の都合で2分割されています。
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- 316 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/08/30(木) 23:02:56.97 ID:1Aauh6MY0
- CHAPTER4『超高校級のロボは時計仕掛けの夢を見るか?』
 
 強烈な非現実感と共に、ロボットとして戻ってきた弐大猫丸。
 他にどうしようもないので、一同は彼を弐大として受け入れた。
 彼は、自分の体のことを大らかに受け止めていた。
 「どんな形であれ、生きていると言うだけでめっけものだとは思わんか?」と彼は笑う。
 見かけはギャグっぽいが、本当に強い男だ。
 
 モノミによって第4の島が解禁されたが、皆探索には気乗り薄だった。
 どうせ、モノクマがこちらに見せたい情報しかないのだし、新しい島に行くたびに殺人のきっかけが見つかっている気がする。
 しかしモノクマは皆を焚き付ける為、「未来機関の手がかり」、「皆の希望ヶ峰時代のプロフィール」を新たな島に隠したと発表した。
 しかたなく皆腰を上げ、探索に出かける。
 
 第4の島は、島全体が派手派手な遊園地になっていた。
 ごく当たり前の遊具が並ぶ中、一際目を惹くのが、豪華壮麗にしてどこかで見たことのあるネズミー城。
 しかし、入り口に鉄格子が嵌っていて、中に入ることはできなかった。
 モノクマとモノミも、「ネズミ嫌い」という設定を課されている為、この中には入ったことが無いらしい。
 ジェットコースターに乗ると、モノクマから新たな手がかりを渡された。
 未来機関とロゴの入ったファイルを開いてみると、見覚えのある顔写真が目に入った。
 別人のように痩せているが、これは確かに十神白夜だ。
 それは、希望ヶ峰学園の15人の生徒が過去に強いられた殺し合い学園生活の簡易な概要だった。
 十神は、この殺し合い生活の経験者だったのか?
 皆ざわめくが、十神と割に親しくしていた主人公は、もう一つの懸念を持っていた。
 雑談をしている時に、十神家の跡継ぎの選び方という話になった時の事。
 十神家の当主は、決まった相手を持たず世界中の優れた女たちに種を撒く。
 そして生まれた跡継ぎ候補達を、母親の格や成育環境によって青銅から白金までのランクに分けて競わせる。
 見事頂点を勝ち取った一人だけが、十神家次期当主を名乗ることを許される。
 十神白夜は、最下層の青銅のランクを付けられながら、次々と上のランクの候補達を打ち負かし、
 白金のトップまで登りつめ次期当主の座を勝ち取った。
 「十神白夜、今まで見た誰よりも確かな存在だ!」
 語るうちに熱くなった十神は、そう口走った。
 自画自賛の言葉としてもおかしい訳ではないが、日向はそこに、憧憬のようなニュアンスを感じ取ったのだった。
 今はもう、あの言葉の真意も、殺し合い学園生活の事も聞くことはできない。
 返す返すも、惜しまれる死だった。
 
 お化け屋敷に行ってみると、メルヘンな建物を無理やりおどろおどろしく改造したような小屋の扉に、「クソミ」と殴り書かれていた。
 ここがモノミの拠点らしい。元は少女趣味なピンク色の小屋が、モノクマに好き放題嫌がらせされ、見るも無残な有様になっている。
 一応入ろうとしてみたが、扉には厳重なセキュリティロックがかかっていた。
 ドッキリハウスへは、汽車に乗ってトンネルを抜けないと着かないようだ。
 モノクマに、全員一緒に汽車の乗りこむよう厳命されて、嫌な予感がしつつも皆乗り込むと…
 トンネルに入ったところで催眠ガスを浴びせられ、全員意識を失ってしまった。
 
- 317 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/08/30(木) 23:07:49.38 ID:1Aauh6MY0
- 気が付くと、日向は気の狂いそうなほど一面イチゴ模様の部屋に倒れていた。
 他の皆も全員、その場で目を覚まし、辺りを見回している。
 モノクマはここを、ドッキリハウスの一部「ストロベリーハウス」だと説明した。
 確かに、何もかもがイチゴ模様だ。赤と白以外の物は無いんじゃないかというくらいである。
 探索してみると、ここは長方形の2階建ての建物で、
 2階にはグレードが3段階に分かれた客室とラウンジが、
 1階にはエレベーターと、何処かへ繋がる「イチゴ回廊」、不気味なピエロの描かれた扉「ファイナルデッドルーム」があった。
 2階ラウンジには、ソファや電話、時計等がある。電話はボタンが一つしかなく、何故かマスカットの絵がそのボタンに描かれている。
 1階に降りて、回廊と言う割に真っ直ぐなイチゴ回廊を進むと、大きな両開きの扉があった。
 傍らのイチゴ模様のスイッチを置くと、自動で開く仕組みだ。
 その先にあったのは、円形の部屋「ストロベリータワー」。
 タワーというだけあって、ずっと上まで吹き抜けているようだが、上部には照明が無いため、上の方は見えない。
 そこも、壁一面イチゴを思わせる赤と白の模様に染まっていたが、
 どうもこれはただの白い壁に赤い照明で模様をつけているようだ。洒落たことをするものである。
 だだっ広いだけで特に何がある訳では無いが、入ってきた扉の正面の壁に、マスカットの模様が描かれた扉があった。
 レバー式のハンドルを下げ、扉を開けようとしてみたが、ビクともしない。
 メカ弐大の怪力でも、ドアはビクともしなかった。ドアノブが壊れそうなので止めさせ、タワーから出る。
 
 一度ストロベリーハウス1階に戻り、エレベーターに全員で乗ってみる。
 他の階にはエレベーターの扉がないのに、このエレベーターはどこに繋がっているのか?
 上下移動しているのか、平行移動しているのか、体感で分からない程エレベーターは静かで振動が無い。
 扉が開いた先は、一面黄緑色のブドウ模様の部屋だった。
 モノクマ曰く、ここは「マスカットハウス」。何もかもが黄緑色と白で構成されている。
 探索してみると、ここは六角形の3階建ての建物で、
 3階にはモノクマ資料館なる世にもくだらない施設が、2回にはストロベリーハウスと同じく3段階にグレードの分かれた客室とラウンジが、
 1階にはマスカット回廊とエレベーターがあった。ファイナルデッドルームはこちらにはないようだ。
 2階ラウンジには、同じように電話があり、ボタンにイチゴが描かれている。どうやら互いのハウスの電話にのみかけられるようだ。
 1階の真ん中には、筋骨隆々で蓬髪の人物の銅像が建っていた。
 プレートに「Ogre」とあるが、何故この鬼はセーラー服を着ているのだろう?
 
 ブドウ回廊の先には、イチゴ回廊と同じく大きな扉とマスカット模様のスイッチがある。
 スイッチを押そうとする日向を制し、眼蛇夢が「駆け抜けろッ!“滅星者たる銀狐”サンDよ!」とスイッチを指し示した。
 マフラーの中からハムスターが這い出してきて、素早い動きで壁を駆け上り、スイッチを押した。
 ソニアがサンDの芸に惜しみない賞賛を送り、眼蛇夢が照れる。変な奴だが、破壊神暗黒四天王との絆は本物だ。
 
 イチゴ回廊の時と違って随分と待たされ、ようやく扉が開いた。
 そこは、ストロベリータワーと色しか違わないマスカットタワーだった。
 正面に、イチゴの絵が描かれた扉が見えている。
 仮説だが、このタワーはストロベリータワーでもマスカットタワーでもあるのではないだろうか?
 照明で色を変えているだけで、Sハウス=○=Mハウス、と言う風にこのタワーを挟んで二つの建物が繋がっているのではなかろうか。
 しかし、このイチゴの絵のドアもこちらからは開かない。
 この仮説を証明する為、七海がタワーの床に電子生徒手帳を置き、一度エレベーターから向こうへ移動しストロベリータワーに入ってみた。
 またしばらく待たされた後にタワーの扉が開くと、そこには電子生徒手帳がポツンと落ちていた。
 やはり、2つのタワーは同一の建物で、スイッチを押した後しばらく待たされるのは、あちら側の扉をロックしたり中に人がいないか確認したりしているための様だ。
 モノクマ曰く、タワー内にはセンサーが張り巡らされ、動く物を感知するとその時の照明と反対のハウスからは入れないようロックがかかるらしい。
 つまり、マスカットハウスから入ってきた者が中にいる間はそこはマスカットタワーなので、その間ストロベリーハウスからはタワーに入れないという事だ。
 
- 318 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/08/30(木) 23:11:44.67 ID:1Aauh6MY0
- ファイナルデッドルーム以外の全ての場所を調べたが、外への扉はおろか、窓すらも見当たらない。出入り口はどこなのか?
 モノクマは、無いと答えた。出入り口は皆を運び込んだ後塞がれている。
 これが今回の動機プレゼント。人が死に学級裁判が終わるまで、皆このドッキリハウスからは出られない。
 そして、コロシアイが始まるまで、食べ物が供給されることは無い。そう言ってモノクマは哄笑した。
 なんて無粋で直接的な動機作りだろう。皆悔しさに歯ぎしりしながら、とにかく出口を探すことにした。
 
 この固い結束が必要となる展開で、探索の班分け中に嫌なムードが勃発してしまう。
 遊園地探索時に話題に上った、裏切り者が誰なのかという議論で、狛枝が「本命は日向クンかな」と発言したせいだ。
 日向は自分の素性を思い出せないと言ってはいるが、それが本当なのかは他人には分からない。プロフィールが不明なのは裏切り者として一番怪しい。
 狛枝は、頻繁にこういう事を言っては皆を不安にさせて引っ掻き回す奴なのだが、ビビり屋の左右田がこれをガッチリ真に受けてしまったのだ。
 左右田は日向を露骨に避け、今まで割に親しくしていた左右田の変節に、自分の素性に自信の無い日向も口を噤むしかない。
 左右田はソニアにゾッコンで、踏んだ地面を拝みかねないほどの崇拝ぶりなのだが、
 「裏切り者なんかいません!」というスタンスを貫き仲間を大切にしているソニアには、左右田の腰抜けぶりは脈のあるなし以前の問題。
 それに加えて、最近ソニアと眼蛇夢はいい雰囲気だ。ソニア風に言うと、ホの字…かもしれない。
 不思議と波長が合うらしく中々微笑ましい二人で、このハウスに入ってからもずっと一緒に行動している。
 当然左右田の機嫌は地を這い、彼を中心にピリピリムードが広がっているのだった。
 
 結局、どこからも外への出口は見つからず、調べていないのはファイナルデッドルーム内部だけになった。
 このハウス内に、殺人の凶器になりそうな物は見当たらないが、
 モノクマ曰く「ファイナルデッドルーム」に入ると、命がけのゲームが始まり、それに勝たなくては部屋から出ることはできない。
 ただし、そのゲームに勝てば、『極上の凶器』が手に入る。
 入ったら、出るのに命がけとあっては、迂闊に中を調べることはできない。しかも手に入るのが人を殺す凶器なんて割に合わない。
 皆、どうしていいか分からないままその日は休むことにした。
 男女でハウスを分けることにし、女子がマスカットハウスで、男子がストロベリーハウスを使う取り決めになった。
 寝室はそれぞれのハウスに、防音性や耐震性にまで優れた「豪華な客室」2つ、ごく一般的な洋間「普通の客室」1つ、侘しい四畳半「粗末な客室」2つの計5部屋ずつある。
 女子は七海ソニア終里の3人しかいないので、話し合いで和やかに部屋決めが終わったようだが、
 日向、狛枝、左右田、九頭龍、眼蛇夢、メカ弐大と6人いる男子は部屋が一つ足らない。
 じゃんけん大会で当然のように一抜けで勝利した超高校級の幸運狛枝が豪華な客室に、続いて眼蛇夢も高笑いで豪華、左右田が普通で、メカ弐大と九頭龍が粗末。
 ビリッケツの日向は、「風邪ひかないでね」とロビーのソファをあてがわれた。
 踏んだり蹴ったりの結果にしょげていると、「こっちは部屋が余ってるから使ってよ」という女神たちからの救いの声が。
 左右田の怨嗟の声を聞きながら、日向は女子の花園マスカットハウスにお邪魔することになったのだった。
 
 女子は、七海とソニアが豪華、育ちの貧しい終里はこの方が落ち着くからと粗末な客室を選んでいた。
 終里を差し置いて自分が普通の客室で寝るのも悪いので、日向も粗末な客室で眠りについた。
 翌日は、することもなく体力を温存して過ごした。
 既に空腹はかなり激しくなっている。このままでは、全員餓死を待つばかりだが…
 「そうだとしても、仲間同士で殺し合うより、マシだ…!」という日向の独白に、狛枝がキョトンと首をかしげた。
 「え?それって死んだ方がマシってこと?」
 そういう訳じゃないが、じゃあどういう訳なんだろう。わからない。ただじりじりと時間が過ぎていく。
 
- 319 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/08/30(木) 23:14:16.85 ID:1Aauh6MY0
- ここでは朝晩のアナウンスが無く、時間を知るには、各ハウスのロビーの時計か、メカ弐大の胸部ハッチ内の電波時計を見るしかない。
 空腹とやることのなさで時間の感覚も怪しくなり、日向がグッタリしているうちに一日が終わっていった。
 翌朝、モノクマの声で起こされた一同は、指示通りマスカットタワーに向かった。
 そこで毎朝7時に、「モノクマ太極拳」なる習慣を開始することを告げられた。
 アナウンスが無いので自力で起きねばならないうえ、一人でも遅刻したら連帯責任で全員処罰という厳しいルール。
 ただでさえ空腹なのに、起き抜けに一運動させられるという完全な嫌がらせだ。
 
 翌日、なんとか7時寸前に起きられた日向は、とぼとぼとマスカットタワーに向かった。
 女子と日向はただ階下に行くだけでいいが、男子はエレベーターで一度こちらに来ないと、「マスカット」タワーには入れない。
 そうぼやく左右田は空腹もあり不機嫌で、日向に「お前は未来機関にこっそり飯をもらってんだろ」と八つ当たりしてくる。
 太極拳を終え、へとへとになって部屋に戻り、また空腹に耐える。このままじゃだめだ…このままではみんな死んでしまう…。
 日向は虚ろな頭で、出口を探す為に部屋を彷徨い出た。
 そうだ、ファイナルデッドルームだ。きっと、あそこに出口がある。早く探そう。早くみんなでここを出よう…
 ストロベリーハウスまで移動し、ピエロの扉を開けようとしたところで、肩に手がかけられた。
 「ダメだよ、日向君。」
 七海が、優しく、しかしきっぱりと日向を扉から引き離した。
 「その中に日向くんが探している物は無いよ。命がけのゲームをやらされて、手に入るのは人を殺す凶器だけ。そんなもの必要ないでしょ?」
 思いつめた顔で歩いていく日向が気になって、七海は後をついてきてくれたらしい。
 「ね、帰ろ?」七海に促され、一緒にマスカットハウスへ帰る。
 それならどうしたらいいのだろう?ここで死ぬしかないのか?もう考える気力もなく、日向は部屋に帰るなり意識を失った。
 
 ズズズ…ンと響いてきた大きな音と地響きに、日向は目を覚ました。
 窓が無いので、夜なのか朝なのかわからない。
 しばらく耳を澄ませたが、特に何も物音がしないので、また日向は眠りの中に落ちて行った。
 翌朝、日向は鉛のように重い体を無理やり床から引きはがした。
 太極拳に行かなくては。自分の遅刻のせいで、皆を危険な目に合わせるわけにはいかない。
 通りすがりにラウンジの時計を確認すると、7時数分前。
 フラフラと階下に降り、女子たちと合流してマスカットタワーの扉を開けると…
 タワーの中央には、バラバラに壊れ、頭部がひしゃげたメカ弐大が動かなくなっていた。
 立ち竦む日向達の頭上を、死体発見アナウンスが無情に流れて行く。
 
 太極拳の時間なのに男子たちが来ていないことを訝しむと、現れたモノクマが呆れたように言った。
 「全くけしからんですなぁ。まさか全員がモノクマ太極拳をサボるなんて、正直言って予想外でしたが…こんなことになっちゃったんだし仕方ないか!」
 そしてモノクマは、差し入れと称して皆に牛乳とアンパンを配って回った。
 「このままほっとくと、裁判までもちそうにないしね!」
 男子たちにも配りに行くのか、モノクマはモノクマファイルを置いて立ち去って行った。
 牛乳を流し込み、あんぱんにかぶりつく。おいしい。体に血が巡り始めるのが分かる。
 この裁判を生き残り、外に出る。今はそれに専念しよう。ゴミを丸めて日向は立ち上がった。
 
- 320 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/08/30(木) 23:15:40.44 ID:1Aauh6MY0
- 【モノクマファイル】
 ・メカ弐大は、頭部の破損で再起動不可となっている。
 強い衝撃を受け、全身の各関節が外れてバラバラになった模様。
 
 【マスカットタワー内部】
 ・メカ弐大は、頭頂部がひしゃげ、手足は関節から外れてバラバラになっている。
 ・内部から、まるで血のようにオイルが流れ出し、床にオイル溜りを作っている。
 ・メカ弐大の傍らに、凶器はこれでございといった風情ででかいハンマーが落ちている。
 だが、このハンマーはどう見ても新品で、傷一つついていないため、これで弐大を殴ったとは思えない。
 ・タワー内部には、神殿のような太い柱が飾りで4本立てられているのだが、それが一本折れて倒れていた。
 先端にオイルの染みがついているので、これが凶器かと思われたが、終里の力をもってしても、短い破片すら持ち上げることができない。
 この柱を持ち上げられたのは、当のメカ弐大くらいだろう。
 ・メカ弐大の体の下には、柱の細かな破片が沢山落ちていた。
 ・ストロベリーハウスへ繋がる扉は、鎖で取っ手がグルグル巻きにされていた。
 これでは、あちら側からは開かないだろう。
 ・弐大の胴体と左足は、ワイヤーで縛られていた。左足に巻きついているワイヤーの先端は、小さな輪の形になっていた。
 
 もう2度と罪木が検死をしてくれることは無いが、今回の死者はロボだ。
 是非メカニックの左右田に見せたいところなのだが、一向にストロベリータワーチームが現場に来ない。
 終里が、何か甲高い音がずっと鳴っていると言い出し、タワーを出てみると、日向達の耳にもうっすら電話のベルが聞こえてきた。
 2階ラウンジで受話器を取ってみると、案の定左右田達からの連絡だった。
 エレベーターのスイッチが壊されていてマスカットハウスへ移動できない上、
 ストロベリータワーの扉のスイッチも壊されていて、とりあえずタワー内に入るということすらできないらしい。
 男子チームは今のままでは完全に捜査に加わることはできないという事だ。
 左右田がエレベーターを修理してくれるのを待つしかない。
 
 タワー内にあった、ハンマーもワイヤーも、これまで見たことが無い。
 きっと犯人は、ファイナルデッドルームでゲームをクリアし、凶器を手に入れたのだろう。
 だから、私がそのゲームに挑戦する、と七海は言う。
 日向は止めるが、とにかく左右田がエレベーターを修理してくれなければストロベリーハウスに行くことすらできない。
 日向と七海は、二人でラウンジに座り、事件の情報をまとめ始めた。
 
 一方その頃、ストロベリーハウスの2階ラウンジにて。
 さて、どうしようかな。狛枝は思案しながら男子チームの顔ぶれを見回していた。
 あんぱんを食べながら、狛枝は男子たちに聞き出して、起床から今までの流れをまとめた。
 ・明け方5時頃、九頭龍は目が覚めて部屋の外に出た。
 すると、階段を下りていく弐大の後ろ姿が見えた。
 ・そのままラウンジに行き、そこでぼんやりしていると、突然時計のアラームが鳴り出し、
 慌てて止めようとしていると、左右田と眼蛇夢がアラームの音で起き出してラウンジにやってきた。
 ・アラームを止めて一息つくと、ズズズー…ンという大きな地響きが聞こえてきた。
 その時の時間が5時半頃。
 ・それから特に何も起こらなかったので音の事は忘れていたが、
 太極拳の時間になって移動しようとするとエレベーターが動かなかった。
 左右田が調べたところによると、何者かがマスカットハウス側から操作パネルをいじり、安全装置を誤作動させたのが原因らしい。
 ・ダメ元でストロベリータワーからタワー内に入ってみようとしたが、スイッチが壊されていて入れない。
 左右田によれば、これはスイッチカバーがこじ開けられ内部の部品が壊されているので、替えの部品がないと修理できないらしい。
 ・実は狛枝は、7時前まで寝ていたので5時前後の騒ぎを全く知らない。
 皆が起き出したアラームも大きな音も、全く気付かなかった。
 
- 321 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/08/30(木) 23:17:19.26 ID:1Aauh6MY0
- エレベーターを修理するのに工具が無いと零している左右田に、狛枝は持ち歩いていた万能ナイフを渡した。
 ドライバーややすり等がついているので、ちょっとした修理には使えるだろう。
 その変わり、狛枝は左右田に一つ頼みごとをした。エレベーターが直ったら、向こうのハウスに移動するとき、ナイフの柄についている方位磁石の針がどういう動きをするか見ておいてくれと頼んだのだ。
 狛枝は、九頭龍にも調査を頼んだ。あちらに移動できるようになったら、両方のラウンジの時計の時刻を調べてほしいという依頼だ。
 「別にかまわねーが、何で自分で調べないんだ?」
 「エレベーターが動くころには、ボクがいなくなっている可能性があるから…ね。」
 首をかしげている九頭龍を置いて、狛枝は1階へ向かう。
 愛しい希望達。彼らの為に自分ができるのは、体を張ることくらいだから…
 狛枝は、ファイナルデッドルームの扉をくぐった。
 
 内部には、モノミがいて目を丸くしていた。
 そういえば、初日から見かけなかったが、どうやらここに入り込んでずっと閉じ込められていたようだ。
 コンクリート壁の簡素な部屋で始まったのは、ごく一般的な脱出ゲームだった。
 狛枝は難なく謎を解き、アイテムを集め暗証番号を割り出しゲームをクリアする。
 すると、床から台が現れた。その上に、6発装填可能なリボルバー1丁と、5つの銃弾が乗っている。
 モノクマから、このロシアンルーレットが、命がけのゲームの正体だとアナウンスがあった。
 難易度は、自己責任で決めること。難易度に応じて特典がある。
 そんなアナウンスを聞き流しながら、狛枝は躊躇なく5つ全ての弾を弾倉に込めた。
 生存率6分の1。超高校級の幸運である狛枝とって、大した数字ではない。
 シリンダーを回し引き金を引くと、こめかみからカチリと気の抜けた音が伝わってくる。
 銃を下ろした狛枝の前に、武器庫「オクタゴン」への扉が姿を現した。
 
 そこは、細長く曲がりくねった通路のような部屋だった。
 古今東西、あらゆる武器が雑多に並べられている。
 極上の武器らしき物はないけど、犯人がもう持ち出したのだろうか?
 そう考えながら奥へ進むと、ポツンと小さな覗き窓が壁際にあるのを見つけた。
 久しく外を見ていない。こんなところにだけ窓があるという事は、これも武器としての意味があるのだろう。
 覗き込んだ狛枝は、しばし言葉を失い…そして笑った。
 一目見ただけで全てがひっくり返り、事件の全容が目の前に現れる、そういう手がかりはたまにあるものだ。
 もう一つ、床にあるハッチに狛枝は目を留めた。狛枝の予想が正しければこれは…。
 そこでモノクマが現れ、最高難易度でゲームをクリアしたことを褒め称えられて、その特典として二つのファイルを手渡された。
 一つは未来機関のロゴが入ったファイル。十神が参加していたコロシアイ学園生活の全行程の詳細なレポートのようだ。
 狛枝は先に、もう一つのファイル、希望ヶ峰時代のみんなのプロフィールの方を開いた。
 これを見れば、日向君の才能が何なのかわかるぞ。日向君ずいぶん気にしていたし、喜ぶだろうなぁ。
 「…え?」
 狛枝はページをめくる手を止めた。
 
 一方その頃、日向と七海はマスカットタワーのラウンジで、じりじりした時間を過ごしていた。
 このまま裁判が始まってしまえば手がかりが足りない。
 何とかエレベーターが復旧して欲しいのだが…
 そこに、ごく何気なく、狛枝が現れた。
 「…狛枝!?お前、どうやってここに!?」
 「…来ちゃった。」
 彼はニコっと微笑んだ。来ちゃったじゃない。どこまで不気味な奴なのか。
 つっかかる日向を冷たくいなして、狛枝はファイナルデッドルームのゲームをクリアし、自由に両ハウスを行き来できる手段を与えられたと説明した。
 そして、特典でもらったという二つのファイルをかざして見せた。
 「みんなのプロフィールはなかったんだ。あったのは日向君のだけ。」
 そう言って、狛枝は固唾をのむ日向に彼の才能を発表した。
- 323 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/08/30(木) 23:19:42.67 ID:1Aauh6MY0
- 「君はね、予備学科の生徒なんだ。つまり、何の才能もない一般の人間ってこと。
 自分の才能を忘れていたんじゃなくて、本当に何も才能を持っていなかったんだよ。」
 予備学科は、才能の無い生徒にも開かれている道で、受験に合格することで入学できる学科だ。
 「でもそれは建前で、予備学科は希望ヶ峰学園の資金集めの為にあるんだ。」
 やたら高い入学金と授業料を納めれば、一般人でも希望ヶ峰学園に入ることができる。
 そして学園はそのお金で、本学科の天才達の為により良い環境を整え、研究費を投資し、希望を育てていくのだ。
 「それはそれで素晴らしい事なんだよ。希望の踏み台になれるんだからね!
 あれ?もしかして日向君にはそこまでの覚悟はなかった?ミーハー的な憧れで入学しちゃった?」
 そうじゃない、自分は、自分に胸を張れるようになりたくて…
 「自分が希望になりたかった…なんてバカげたことをいうのはやめてくれよ。
 いいか…希望になれるのは、素晴らしい才能と強い意志を持つ人間だけなんだ…
 そして、それらは、生まれついた時点で、すでに与えられているものなんだ。」
 でもかえってよかったかもね。何の能力もない一般人が未来機関のスパイな訳ないんだから、キミのスパイ疑惑は晴れるよね。
 狛枝は馬鹿にしたように言い捨てて、捜査の為に去って行った。
 うなだれる日向を、七海がそっと励ましてくれる。
 「予備学科とか、関係ないじゃん。私たちも、調査に行こう。」
 関係なくない。でも、今は裁判を切り抜けることが先だ。
 
 エレベーターが復旧し、男子チームもこちらに合流した。
 狛枝を含めた全メンバーでもう一度マスカットタワー内を調べてみることになる。
 狛枝は、予備学科生だと分かった日向だけでなく、他の生徒たちにも辛辣な態度をとるようになっていた。
 「最低だよ。こんな重要な手がかりを見落とすなんて、やっぱり君達には任せておけないね。」
 狛枝が倒れた柱の傍から拾い上げたのは、レバー式のドアノブ。
 だが、目の前のノブは鎖でグルグル巻きになってはいるがちゃんとついている。
 取れたドアノブのレバー先端には、こすれた様な跡がついていた。
 
 左右田が弐大を簡単に分解し、情報をまとめてくれた。
 ・弐大胸部ハッチ内の電波時計が壊れて止まっていた。針が差していたのは7時30分。
 ・スリープモードを解除する為のアラームタイマーがセットされており、その時刻も7時30分だった。
 ・弐大は完全に機能停止していて、とても左右田に修理できる状態ではない。
 
 狛枝が、弐大の部品を流用してストロベリータワー入り口のスイッチを修理するよう要請し、皆をイチゴ回廊に連れて行く。
 スイッチはすぐに直ったが、押したところで、この扉は中のノブが鎖で巻かれているのだから、開かないはずだ。
 「そんなことは気にしなくていいよ。とにかく、開けてみて。」
 狛枝に急かされてスイッチを押すと、しばらく待たされて、問題なく扉が開いた。
 中には、もちろん弐大が倒れている。しかし、違和感に日向は足を止めた。
 さっきと寸分たがわぬ光景だ。何故?自分たちは今、さっきと反対側の扉から入ろうとしているのに。
 目を上げると、正面のマスカット模様の扉のドアノブが、片方無くなっていた。
 
 チャイムが鳴り、学級裁判が始まる。
 モノクマが開いた入り口から地下へエレベーターで下り、裁判場へ向かう。
 「このエレベーターに揺られてっとよぉ、あのエレベーターの高性能さが分かるよなぁ。」
 左右田の言う通り、あのエレベーターはGすら感じさせない程、滑らかに無音で動いていた。
 狛枝に促されて、左右田はエレベーターに乗った時の方位磁石の動きを証言した。
 グルッと180度針が回転した、と左右田は答えた。
 九頭龍も、時計を調べた結果を証言した。どちらのラウンジの時計も同じ時刻を示していたという。
 
- 324 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/08/30(木) 23:22:15.82 ID:1Aauh6MY0
- 【第4回学級裁判】
 まずは、一番わかりやすい凶器の話からにしようと左右田が提案した。
 「は?」
 狛枝が冷ややかに、一音で左右田の勢いを止める。
 「いや…だから…一目瞭然だろ、今回の凶器なんて…」
 「は?」
 たじたじとなっている左右田に、日向はハンマーが新品だったことを指摘した。
 柱にオイルの染みがついていたのだから、柱が凶器と考えられるのだが、あれで殴るには重すぎる。
 「持ち上げる必要はありません!柱を弐大さんの上に倒せばいいのですわ!」
 とソニアが言うが、それだと弐大の体の下に柱の破片があることに説明がつかない。
 「柱が凶器になる方法は他にもあるよ。君たちが考え付かないだけでね。」
 狛枝の呟きに、その方法を問い詰めると、狛枝はため息をついた。
 「君たちは本当に相変わらずだね。未来を自分たちで切り開くこともできず、ただ立ち止ってうろたえているだけ…
 才能の無駄遣いだよ!それで未来機関に立ち向かおうなんて、笑わせるね!」
 今までストーカー然として皆に執着していた狛枝の突然の変化に、一同は戸惑う。
 狛枝はこれまでずっと、この殺し合い修学旅行の勝者こそ、絶対的な希望だと主張し続けてきたが、
 「無知は恥だね。素直に発言を撤回させてもらうよ。」
 この殺し合いには意味なんてない。これはただの余興、前座だ。
 狛枝は、そう知ってしまったのだという。もはや裁判なんてどうでもいい、退屈なだけだと狛枝は言う。
 「とはいえ、君たちの道連れになるのはゴメンだし…仕方ないから手を貸してあげよう。」
 狛枝は、柱だけではなく、もう一つの物を組み合わせることでこの犯行は可能になると言った。
 それにはまず、ドッキリハウスの構造から考え直していく必要があると。
 「希望の象徴であるキミ達に解けないはずはないよ。あ、日向君は除いて、だったね。」
 狛枝の言葉に訝る皆に、日向は「あとで俺から話す」と言い添えた。
 
 日向も、ドッキリハウスの構造に違和感を抱き始めていた。
 自分達が立てていた仮説の通りなら、タワーに入った時同じ方向から弐大の死体が見えるのはおかしいのだ。
 オイルの漏れ出た形まで一緒なのだから、完全に同じ場所からタワーに入っていることになる。
 議論を重ねてみたが、そもそも議論の材料になる手掛かりが足りない。日向は恐る恐る狛枝に声をかけてみた。
 狛枝も、そろそろ助け舟が必要と思っていたらしく、こちらにデジカメを差し出してきた。
 これは狛枝がファイナルデッドルームの脱出ゲームの時に使った物で、ちょうどいいからその手がかりを写真に写してきたらしい。
 覗き込んでみるとそこには、久しく見ていない外の風景が映っていた。
 狛枝はこれを、ストロベリールーム1階にあるファイナルデッドルームの奥、武器庫「オクタゴン」の窓から撮った。
 その写真は決定的に変だった。
 まず、1階の窓から撮ったはずなのに、明らかに高所からの風景になっている。
 タワーと思しき円筒形の建物と、それと繋がった回廊と思しき真っ直ぐな建物が見えているが、
 2階分見えているその下に、杉のような背の高い針葉樹林が広がっているのだ。
 木に隠れて見えないが、この下に更に下の階があるのは間違いない。
 それに、タワーの先には何もない。自分たちの仮説なら、そこにはマスカットハウスがあるはずなのに。
 日向は、この写真から狛枝も辿り着いた結論に達した。
 マスカットハウスと、ストロベリーハウスは、同じ建物の上下階なのだ。
 下から三階分が六角形のマスカットハウスになっていて、その上に長方形のストロベリーハウスが乗っている。
 オクタゴンとは、八角形のこと。、六角形の上に長方形が乗ることで余った床部分は、角が八つになる。
 武器庫オクタゴンは、その余り部分に位置している。そこの床ハッチを開けると、マスカットハウス3階のモノクマ資料館に繋がっているらしい。
 
- 325 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/08/30(木) 23:23:36.23 ID:1Aauh6MY0
- エレベーターが180度回転しているという事は、エレベーターは建物外周を周り込むようにして斜めに移動しているのだろう。
 それに気づかせないように、ごく高性能なエレベーターが使われていた。
 タワーの向かいの扉が開かないのは当然だったのだ。あの向こうには何もなく、扉も飾りだったのだろう。
 それなら、タワーに入った時の向きの問題は解消されるが、今度は床からの高低差が問題になる。
 ということは、タワーもエレベーター式になっていたのだと日向は推論した。
 ボタンを押すと床面だけ上下するようになっている、と考えれば様々な矛盾が解決する。
 
 このタワーの構造こそ、「極上の凶器」だと狛枝は言った。
 日向はふと、タワーの高低差を使って弐大を墜落死させることができるのではないかと思いついた。
 床面が1階ストロベリータワーにある時に、4階マスカットタワーから弐大を落とすことができれば…。
 でも、床面がストロベリータワーにある時には、マスカットタワーの扉は開かない。
 「弐大君がマスカットタワーの中にいる時に、床をストロベリータワーまで下げちゃったらどうかな?」
 センサーにひっかかるだろうという左右田のツッコミに、日向は弐大のスリープモードのことを指摘した。
 弐大の首の後ろのスイッチを押してスリープモードにさせておけば、弐大は動かなくなりセンサーが反応しない。
 「だが、そのまま床面を下降させても、弐大も共に降りてくるだけだぞ。」
 弐大だけを上階に取り残せばいいのだ。落ちたドアノブに、先端が輪になったワイヤー。
 きっと犯人は、弐大の足を縛ったワイヤーをドアノブにひっかけておいたのだろう。
 「そう、犯人は弐大君を宙吊りにしたんだよ。」
 七海の言葉に、左右田が反論する。宙吊りにしたって、ドアノブが取れるとは限らないじゃないかと。
 そもそも、ドアノブが取れたのも犯人の想定外だったのではないか。
 あのドアノブが取れたのはおそらく、初日に弐大が力任せに開けようとした時壊れそうになっていたのが原因だろう。
 ドアノブが傷んでいたので、弐大が暴れた際ノブが外れてしまい、予期しなかった証拠が残ってしまった。
 途中で柱にぶつかったのも、特に狙ったわけではないだろう。
 結果的に、柱が倒れたことで落下音の大きさは増し、室内で寝ている人間も起こすほどの地響きになった。
 
 本来は、犯人は弐大があとで再起動するようにアラームタイマーを設定しておき、
 その時間になって起動した弐大は宙吊りになっていることに驚いて身動ぎし、ノブ先端にひっかかっているワイヤーがずり落ちて弐大も落ちる。
 という筋書きだったはずだ。
 現に、弐大は7時30分にアラームタイマーをセットされていた。
 「おい、今7時30分って言ったか?」
 終里がピクリと反応した。自分たちが弐大の死体を発見したのは7時前だ。それより後にタイマーがセットされていたはずがない。
 ならば、どちらかの時計が間違っているはず。
 弐大の電波時計は、狂わせたところで自動で修正されてしまうのだから意味が無い。
 ならば、自分達の見ていたラウンジの時計の時間がずらされているのだろう。
 明け方5時30分に地響きが聞こえたことを考えると、ちょうど2時間遅らせてあったということになる。
 「俺たちはかなり衰弱した状態だったからな。気づけるわけねーぜ。」
 
 「どうした、メス猫?」
 眼蛇夢がソニアに声をかけた。何やら彼女はもじもじしているのだ。
 「あの、皆さんが聞いているその音なのですけど、わたくしは全く気づきませんでした。」
 ソニアは空腹で一睡もできなかったそうだが、地響きに気付かなかったという。
 とりあえずその問題は置いておいて、犯人が時間をずらした理由を論点にした。
 「それはね、ある物を理由にして、弐大君だけを誘き出すためだよ。」
 狛枝が言う通り、モノクマ太極拳を利用すれば、弐大だけを7時前にタワーへ誘き出すことができる。
 彼には電波時計が内臓されていて、常に正しい時間を体感している。
 九頭龍が5時頃見た弐大は、朝7時前に太極拳に赴く弐大だったのだ。
 あの時九頭龍が声をかけ、時間のずれに気づかれたとしても問題は無い。他の者もタワーに現れたなら、殺人を延期すればいいだけの話だ。
 
- 326 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/08/30(木) 23:27:05.16 ID:1Aauh6MY0
- 狛枝は、もう容疑者を絞るのは簡単な段階に来ている、と皆に発破をかける。
 犯人は、弐大より先にタワーにいたはずだ。そして弐大を吊るした後に、偽の凶器を置くなどの細工を行った。
 だからこちらの時計で5時前後にアリバイが無い者が怪しい。
 そこで左右田が、ロビーの時計のクソでかいアラーム音にも部屋から出てこなかった、狛枝の事を思い出した。
 彼は、地響きの時も結局部屋から出てきていない。もしかして部屋にいなかったのではないか?
 「ボクはね、正確に言うと部屋から出てこれなかったんだ。そのアラーム音にも、地響きにもまるで気づかなかったからね。」
 「それは、わたくしもいっしょです。そちらのロビーのアラーム音は気づかなくて当然として、タワーの地響きに気づかなかったのはおかしいですよね?」
 「……実は、私もその地響き、気づかなかったんだよね…。」
 七海もそう言いはじめた。
 日向は、この3人の共通点に気づいた。
 3人は、防音性の高い豪華な客室で寝起きしていた。だからアラームも地響きも3人の安眠を妨げることは無かったのだ。
 「やるね、日向クン。それなら、犯人が誰かももうわかるよね。」
 狛枝の言葉に、日向は重い口を開いた。
 「田中…何でお前は、アラームの音を聞くことができたんだ?」
 
 眼蛇夢も、豪華な客室に泊まっていた。彼にはアラームが聞こえたはずがない。
 なのに彼はアラームの音と共にラウンジに駆けつけている。
 「お前は、部屋にはいなかったんじゃないか?だからラウンジに来ることができた。」
 弐大の死は自動殺人だが、その準備を行う必要がある。
 犯人はラウンジの時計で5時、実際には7時より以前にタワーで弐大を待ち伏せていたはずだ。
 「田中君はきっと、九頭龍君のせいで部屋に帰れなかったんだよ。」
 と狛枝が言う。階段から客室へ行くには、ラウンジの前を通らねばならず、たまたま九頭龍が5時からそこにいた。
 仕方なく犯人は、九頭龍が部屋に帰るのを階段前あたりの死角で待っていた。
 だが九頭龍が部屋に戻らないまま、皆を起こして弐大の落下音を聞かせるためにしかけておいたアラームが鳴ってしまった。
 眼蛇夢は、このタイミングでラウンジに駆けつける以外方法がなかった。
 階下に隠れたりすれば、部屋を開けられると自分の不在がバレてしまうからだ。
 そもそもの計画なら、起き出してこない事を訝られて部屋まで見に来てもらうことがベストのはずだった。
 殺人が起きたはずの時間、部屋で寝ている姿を見せることができたら、アリバイの印象を皆に植え付けることができるからだ。
 皮肉なことにそれが仇になり、眼蛇夢に嫌疑がかかることになった。
 
 眼蛇夢は、たまたまトイレに起きて廊下に出たところでアラームを聞いた、という反論を試みてきた。
 狛枝は、面倒くさそうにそれを無視して、どうせ多数決で決まるのだからもう投票に入ろうと言い出した。
 「待ってください!まだ田中さんの反論を聞いていません!」
 ソニアは半泣きで眼蛇夢に反論を促している。
 「あのね、こんな学級裁判もコロシアイも、ただの前座に過ぎないんだよ。
 むしろ、茶番と言うべきかな。退屈すぎて胃に穴が空きそうだよ。ボクが健康を害する前に、早く終わらせてしまおうよ。」
 いつもは日向が事件の流れをここで確認するのだが、狛枝が手短にまとめ始めた。
 曰く、眼蛇夢はまずマスカットハウス側からエレベーターを誤作動させ停止させておいた。
 7時前にマスカットハウスへ移動しようとした弐大はそれに気づき、仕方ないのでとりあえずストロベリーハウス側からタワーの中に入った。
 ここで弐大がそうしなくても問題は無い。殺人の機会を見送ればいいだけだ。
 果たして弐大はストロベリーハウスに現れ、そこで待ち伏せていた眼蛇夢は、ある物を使ってスリープモードのスイッチを押し、戦わずして弐大を無力化させた。
 「―ッ!」
 眼蛇夢が、狛枝の言葉に突然反応し、目を吊り上げた。
 「戦わずして…だと!?……わかっていない。
 お前達は、この期に及んで何もわかっていない!俺様は、いずれ地獄に落ちるべき人間だろう。
 だが、まだ終われんようだ。終われんぞおおおおぉ!!!」
 
- 328 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/08/31(金) 00:05:31.91 ID:dMzFkNIF0
- 急に激昂した眼蛇夢は、スリープモードに入るスイッチが弐大の首後ろ側にあったことを指摘した。
 「あの弐大の背後だぞ!やすやすと取れると思うか!」と。
 日向は、背後を取る必要が無かった事を指摘した。
 破壊神暗黒四天王。あの芸達者なハムスターたちになら、弐大の体を駆け上らせスイッチを押させることが可能だ。
 「………クッ!ククッ…フハハハハハハハッ!
 俺自身の事であればともかく…配下の者どもの優秀さを引き合いに出されては……フッ、認めるしかあるまい。」
 「み、認める…?認めると、そうおっしゃったのですか…!?」
 ソニアは、今にも倒れそうなほど蒼白な顔で眼蛇夢を見つめている。
 「どうやら、俺様が手にしていたのは、地獄巡りの切符だったようだ…
 いいだろうッ!ならば踏み越えていけ!!
 勝利は屍の上にしか築かれぬ!犠牲なき平和などどこにも存在せんぞ!
 さぁ、この命を踏み越えてみせろ!!」
 
 終里は、生還した弐大をむざむざ殺されてしまったことに失意と怒りを感じている。
 ソニアは、眼蛇夢が弐大を殺したという事実を受け入れきれずにいる。
 「…許せぬか?悔しいか?ならば、終わらせてみせよ!
 愛しき怨敵どもよ!さぁ、投票タイムを始めるぞッ!!」
 投票が開始され、満場一致で眼蛇夢が犯人に決定した。
 
 眼蛇夢は足掻くことはしなかった。ただ一つだけ訂正しておくことがあると言った。
 「貴様らは、弐大は闘わずして死んだと言ったな?それは違う。奴は闘って、そして敗れて死んだんだ。」
 ストロベリータワーで対峙した時、眼蛇夢の僅かな殺気を感じた弐大は、すぐさま状況を理解した。
 そこですぐに逃げることも、助けを呼ぶことも容易だったはずだ。
 だが弐大は、どちらも選ばず、眼蛇夢との生死をかけた闘いを望んだ。
 弐大も本気で眼蛇夢を殺しに来ていた。死んだのが眼蛇夢だったなら、この事件はより混迷を深めていただろう。
 「ど、どうしてそんな、仲間同士で争うようなことを…
 いくら、お互いに承知の上だろうと、そんなことは間違ってます!!」
 涙するソニアに、眼蛇夢は薄く笑って答えた。
 「反論はすまい。俺様の価値観を押し付けるつもりなど毛頭ないからな…。
 だが、あえて言わせてもらうとすれば…、ただ死を待つだけの生など、そこに一体何の意味がある?
 そんなものが、勇気であるはずがない!それは諦めだ!ただの諦観だ!」
 日向は、自分の言葉を思い出していた。“仲間同士で殺し合うよりずっとマシだ”…
 「生を諦めるなど、そんなものは“生に対する侮辱”でしかない。」
 多くの生物がライフサイクルのどこかで、共食いに関与している。それが生きるという事実だ。
 生きるために殺す行為を悪と呼ぶなら、生を諦める行為を何と呼べばいい?
 「それは生物としての歪みだッ!人間の驕りだ!」
 
 その信念が、彼を殺人に走らせた。弐大も、それに命を懸けて応えた。
 「あの男は、死ぬべき時に死ぬ勇気を持っていた。
 だからこそ、俺様に戦いを挑んできた。」
 眼蛇夢は、この価値観を押し付ける気は無いと再度言った。彼が日向達を裏切ったことは事実なのだからと。
 そして、静かに問いかけた。
 「だが…それでも…
 ここで全員が緩やかに滅びゆくよりは、ずっとマシだとは思わんか…」
 
- 329 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/08/31(金) 00:06:15.97 ID:dMzFkNIF0
- 今の日向には、わからない。考えてもわからないだろう。
 でも、眼蛇夢と弐大によって残りの皆の命が救われたのは事実だ。
 眼蛇夢は、策を弄することもなくあっさりと犯行を認めた。それは、もしかしたら…
 しかし彼は、あくまで悪役に徹し“制圧せし氷の覇王”として、高笑いしながら処刑へと臨んだ。
 「待ってください!お願いです、モノクマさん、田中さんを助けてください!
 お願いです!お願いします!!」
 ソニアは泣きながらモノクマに縋り、眼蛇夢の処刑を止めようとする。
 「ソニアよ…。死にゆく男を止める無粋な行為…貴様のような高貴な者に相応しくないな。」
 「た、田中さん…っ!」
 泣きじゃくるソニアに見送られ、眼蛇夢は最後まで彼らしく、傲岸不遜に刑場へ曳かれていった。
 
 【田中眼蛇夢処刑】
 眼蛇夢を砂浜に立たせモノクマが放ったのは、無数の大型動物の群れ。
 彼らは吊り下げられた食物に釣られ全速力で突進してくる。
 眼蛇夢は、震えている暗黒四天王を近くの木の上に下ろし、砂浜の上に傲然と立つ。
 そして彼は動物たちに跳ね飛ばされ、どさりと鈍い音を立てて砂浜に落ちた。
 駆け寄ってきたハムスター達に優しく微笑みかけ…目を閉じて動かなくなった。
 地獄に落ちると常日頃うそぶいていた彼を迎えに来たのは、彼が看取ってきた動物たち。
 彼らに連れられて、眼蛇夢の魂は天に昇って行った。
 
 辛い。ものすごく辛い。けど少し悲しんだ後は、また頑張らなくてはいけない。
 「だって、そうじゃないと、田中さんが地獄から蘇ってきて、ものすごく怒られてしまいますもんね!」
 笑顔でそう言ったソニアの目からは、涙が溢れ続けている。
 そうだ、今度こそこれを終わらせなければならない。田中が遺したメッセージを、日向は自分に言い聞かせた。
 立ち止るな。立って歩け。前へ進め。生きろ。
 そうだ。そうじゃないと、戦って死んだみんなの死が無駄になる。
 決意を新たに、生き残った仲間たちはドッキリハウスを後にした。
 
 <Chapter4終> 生存者7名
 
- 403 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/09/08(土) 22:07:48.82 ID:Km48M8OW0
- CHAPTER5『君は絶望という名の希望に微笑む』
 
 狛枝は、ジャバウォック公園の謎のカウントダウン装置の前に立っていた。
 いよいよカウントダウンの期限は、あと数日に迫っている。
 狛枝が手にした皆のプロフィールは、もちろん日向だけではなく全員分揃っていた。
 だが、モノクマが裏切り者のプロフィールをねつ造したらしく、これを見ても裏切り者の正体は分からなかった。
 だから狛枝は、モノクマに取引を持ちかけた。
 皆を絶望に突き落とす手伝いをしてあげるから、裏切り者の名前を教えて、という申し出をモノクマは一蹴した。
 当然だ。狛枝の行動はすべて、最後に現れる絶対的な希望の為の物だから。
 でも、あのレポートを読んでから、彼の目的は少し違ってきている。
 「この島の絶望を全て取り払うことができたら…、ボクもなれるのかな?
 『超高校級の希望』に…。」
 
 裁判が終わって、日向達はひさしぶりの食事を皆で和やかに楽しんだ。
 そこにも、翌日の朝食会にも狛枝は姿を見せなかったが、かえってその方が気が楽だ。
 日向は、「日向だけ希望の象徴ではない」という狛枝の言葉の意味を、仲間たちに説明した。
 「俺だけ、予備学科ってところの人間で……つまり、皆と違って、特別な才能がある訳じゃない、普通の一般人なんだってさ…」
 日向の絞り出すような告白に、皆拍子抜けしたようだった。
 「…それだけか?別に関係ねーじゃねーか。」「そーだよ、驚かすなよな!なんか深刻な話かと思ったじゃねーか!」
 皆はそういうが、日向にとっては関係なくなんかない。
 自分にも何か才能があって、憧れの希望ヶ峰学園に選んでもらえたんだって、信じていたのに…。
 落ち込む日向を、七海がまたそっと励ましてくれる。
 
 モノミによって最後の島が解禁され、皆で探索に臨んだ。
 最後の島は、今までと打って変わって高層ビルの立ち並ぶ近未来的な島だった。
 工場が立ち並び、軍事施設や企業ビルの他、屋台街等もあった。
 
 ワタツミインダストリアル、という企業の工場に入ってみると、
 そこは目を疑うほどハイテクノロジーなロボット生産施設になっていた。
 階下で、モノクマが操っていたような機械の獣が作られているのが見える。他方では、アンドロイドらしき物の起動実験が繰り返されている。
 きっと、メカ弐大もここで作られたのだろう。
 ただ、このワタツミインダストリアルは、企業パンフによればただの機械製品の会社だ。モノクマがここを乗っ取って作り替えたのだろうか。
 ここも無人だったが、左右田が社員のPCに気になるメールを見つけていた。
 “世界は今、同時多発テロで滅び行こうとしている。
 最初は誰もが、単なる学生の抗議活動だと思っていたものが、世界中の人々の格差社会への憤り、不景気への不満を巻き込んで拡大していき、
 絶望の連鎖はもはや誰にも止めることができない。”
 といった内容だ。電気街で見た文書の内容と整合性はあるが…こんなことがありえるだろうか?
 
 おもちゃ工場に入ってみると、そこではモノクマの等身大ぬいぐるみが大量生産されていた。
 グッズ展開を狙ってるらしいが、売れてたまるか、こんな物。
 脇にある倉庫には、様々なモノクマグッズが大量に保管された在庫の墓場になっており、
 モノクマ同人誌とCDを抱き合わせで買わされそうになった日向と七海はダッシュでその場を逃げ出した。
 
 軍事施設は、小規模な軍事基地のようだった。
 軍用トラックが並び、輝々を処刑したヘリの姿もある。遠くに見えるのは戦車のようだ。
 軍事国家で英才教育を受けて育ったソニアには使いこなせるものばかりのようだが、日向達にはまるで馴染がない場所だ
 
- 404 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/09/08(土) 22:08:29.98 ID:Km48M8OW0
- 屋台街で集まってミーティングをしていると、そこに狛枝がやってきた。
 裏切り者がこの中にいるはずがないと言うソニアを、狛枝は「弱すぎる」と非難した。
 「皆は安心していていいよ。裏切り者の正体は、ボクが命に代えてもあぶり出して見せるからさ。
 モノクマに会ったら言っておいてよ。動機はもう必要ないって。言われなくても派手にやるつもりだよ。」
 狛枝の言動に不安に陥った左右田は、もう一度狛枝を捕まえてふん縛っておこうと言い出した。
 彼をレストランロビーに誘い出して、終里と九頭龍が捕まえて、また旧館に閉じ込めておこうという計画だ。
 
 その計画に直接加担しなかった日向とソニアは、遺跡へ赴いた。
 ソニアが最後の島で見つけた文書から、ジャバウォック島は所有していた旅行会社の倒産で無人島になっていたこと、
 それが幸いして人類史上最大最悪の事件の影響を免れ、未来機関が手を加えて拠点の一つとしたことが分かったのだ。
 未来機関の計画では、中央の島の行政機関施設を流用することになっていたようだが、それは見当たらない。
 もし、計画が変更になったのなら、この遺跡の中に未来機関の施設があるのではないか?
 調べまわってみたが、やはりパスワードがなければ遺跡には入れないようだった。
 
 賛否両論あった狛枝捕獲計画は、結局翌日の晩実行に移された。
 狛枝は作戦の事を既に知っている様子で、あえて指定されたホテルロビーにやってきた。
 入った途端終里に羽交い絞めにされた狛枝は、心底呆れたように呟いた。
 「キミ達には本当にがっかりさせられるよ…。まだこんなみみっちいことをやっているなんて。
 どうして、大局的に物を見られないのかな?」
 狛枝の言葉と共に、ロビーの片隅が突如爆発した。
 皆吹き転ばされ、爆炎を避け床に這いつくばる。
 「あはははははははははは!ジャバウォック諸島の、終わりの始まりだよ!!
 いつ刃を向けてくるか分からない他人に脅え、弱者を縛め、正義を語る。そんなくだらないゲームはもう終わりだ!」
 狛枝は哄笑し、皆に新たなゲームの始まりを宣告した。
 曰く、5つの島のどこかに、全ての島を吹き飛ばせるほどの時限式爆弾をしかけた。
 タイムリミットは、明後日の正午。それまでに、未来機関の手先である裏切り者が狛枝に名乗り出れば、爆弾は解除される。
 「大丈夫、必ず裏切り者は名乗り出るさ。ボクは一緒に過ごしてきたキミ達を信じてるんだ。
 何より、ボクの『超高校級の幸運』を信じているんだよ。」
 
 モノクマは、この騒ぎを大いに喜んでいるようだった。
 何もしなくても盛り上げてくれるから狛枝は頼もしいとまで言っている。
 モノミも、いざとなれば彼女が裏切り者の名前を告げることはできるはずなのに、そうしようとはしない。
 結局自分たちの力で何とかするしかなく、翌日みんなで本格的に爆弾を探し始めた。
 狛枝が爆弾を所持しているというのは、昨日証明されている。あれからずっと止まない耳鳴りも証拠の一つだ。
 狛枝は、裏切り者を待つと言ってレストランに常駐している。彼曰く、「爆弾は、キミ達がまだ一度も言ったことのない場所にあるよ」とのことだ。
 それは、第2の島の遺跡か、第4の島のネズミー城くらいしかない。
 遺跡はパスワードが分からないので後回しにし、ネズミー城へ全員で行ってみた。
 城は、入り口が爆破されてぽっかりと穴が空いていた。狛枝が強引に中に入ったのだろう。
 大きな城だが、入れるのは吹き抜けの広間だけのようだった。
 壁に、不思議な形の槍だ掛けられていた。短めの槍の尻から鞭が伸びていて、鞭の先端が分銅になっている。
 モノクマはこの槍を、「グングニルの槍」と呼んでいるらしい。
 ステンドグラスの光に照らされた床面の中央に、不似合いなごく普通のフォントの文字が印刷されていた。
 『被験者のみなさんへ 君たちを未来に導くパスワードは』
 そのパスワードがあったと思しきスペースは、床面が乱暴に削り取られ、真っ白になっていた。
 狛枝の仕業だ。ここに入ってパスワードを知り、遺跡に入って中に爆弾を仕掛けたに違いない。
 こうやってパスワードを消せばもう日向達は遺跡には入れない。どのみち、裏切り者が名乗り出る以外ないのだ。
 
- 405 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/09/08(土) 22:09:26.42 ID:Km48M8OW0
- 左右田は脅えて疑心暗鬼になり、終里は頭に血が上って、狛枝を拷問して爆弾を解除させようと言い出している。
 その日はもう遅く、他にできることもないので、皆解散してコテージに帰った。
 裏切り者が名乗り出ることを願いながらも、日向は裏切り者が自分が裏切り者であることを忘れているという可能性を案じていた。
 そのくらいは、狛枝も想定していると思うのだが…。
 
 翌日、レストランに向かおうとして日向は嫌な予感を感じた。
 昨夜の様子からして、終里と狛枝を会わせてはまずい。
 急いでレストランに入ると、終里は狛枝に馬乗りになり、首を絞めつけていた。
 「だめだよ、終里さん……このくらいじゃ、ボクの希望を砕くことはできない…」
 「そうかよ。なら、お前は死んどけ。」
 手に力を込めた終里を、歩み出た七海が平手打ちした。
 「終里さん、あなたはこんなことするような人じゃない。そうでしょ?」
 終里は憑き物が落ちたように、冷や汗を流しながら立ち上がった。
 狛枝は苦笑しながら七海に礼を言い、パスワードを教えてというソニアの願いに目を丸くした。
 「パスワード?なんで?あぁ、爆弾はもうあそこにはないよ。
 あの中には、うんざりするほど見飽きた風景しかなかったからね。飽きちゃったから、爆弾は移動させておいたよ。
 今度はね、キミ達が一度は行ったことのあるところにあるよ。」
 そんなの範囲が広すぎだ。もう今日の正午に爆弾は爆発してしまうのに。
 
 一人一つの島を担当して駆けずり回る。
 日向の担当は第4の島で、遊園地を爆弾を探して回った。
 結局爆弾はなかったが、気になる出来事が一つあった。
 モノミが、「宝箱が盗まれた」と言ってそこいら中を探し回っているのに出くわした後、
 モノミの家を通りかかると、彼女の家の扉があいていた。
 ここも一度も入ったことが無いな…と思い入ってみると、中はモノミらしくメルヘンな内装になっていた。
 壁面にモニタが幾つもある。ここで当初は自分たちのことを監視カメラを通して見張っていたのだろうが、今は何も映らなかった。
 「ほわわっ!何故日向さんがあたちの家に!?」
 モノミはあたふたと扉を調べ、セキュリティロックが破壊されていることに気づき愕然とする。
 どうも、泥棒が入ってモノミの宝箱を盗んでいったようだ。
 
 昼前に爆弾が見つかった。最後の島のおもちゃ工場だ。
 皆を呼び集めながら工場へ移動したが、ソニアだけが軍事施設を調べてから行きたいと言って別行動になった。
 おもちゃ工場の中には、一台の軍用トラックがアイドリング状態で止められていた。
 荷台に、爆弾らしき物が山盛りに積まれている。島全てを消し飛ばせるかは分からないが、かなりの量なのは確かだ。
 ボンネットが開けられ、エンジン部に幾つもコードが接続されている。そのコードの先は、素人臭く溶接された鉄の箱の中に続いていた。
 左右田が調べたところ、エンジンが止まると爆発する仕組みになっていて、ガソリン残量がタイムリミットになっているらしい。
 メカニックの左右田は、中でもエンジンは得意分野だ。だが、肝心の起爆装置部分が溶接された鉄箱に覆われていて、これを灼き切る道具を探してくるだけでも正午までに間に合うか分からない。
 ガソリンを継ぎ足したいところだが、抜かりなく給油口も溶接されていた。
 トラックの横に、カードリーダーらしき物があり、傍らにノートPCが一台置かれている。
 触ってみると、すぐに動画が再生され始めた。狛枝からのビデオレターだ。
 裏切り者が電子生徒手帳をそのカードリーダーに読み込ませれば、爆破はストップされるという。
 
- 406 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/09/08(土) 22:10:01.68 ID:Km48M8OW0
- パニックになりかける一同を制して、七海が電子生徒手帳をカードリーダーに読み込ませた。
 ブブッと音がした以外、何も変化は起こらない。
 こうやって全員試せばいいと七海は言うが、もし違う手帳を読み込ませたら爆破する仕組みだったらどうするつもりだったのか…恐ろしい奴だ。
 その時、左右田の顔が真っ青になった。
 彼の耳には、エンジン音はエンジンの語る言葉だ。その音は、あと数分でガソリンが切れると彼に囁いていた。
 まだ正午まで少し余裕があるのに、計算ミスだ。やはり狛枝も素人だということだろう。
 焦って逃げ出そうとした皆を、ようやくやって来たソニアが制止した。
 「静まりなさい!大丈夫です、それは爆弾ではありません!」
 振り返った皆の目に、色とりどりの狂ったような火花の連発が飛び込んできた。あれは全て花火らしい。
 呆然と花火を見つめていると、狛枝からの二つ目のビデオレターが始まった。起爆装置と無線で連動していたようだ。
 「ビックリした?島ごと吹き飛ばせるような爆弾なんて、ボクなんかに扱えるわけないでしょ。
 昨日みんなの様子を見てて、裏切り者が誰かボクには分かっちゃったんだよね。
 でも、それだとボクが負けたみたいで悔しいからさ、あくまで名乗り出てもらおうと思ったんだけど…。どうだった?名乗り出た?たぶん名乗り出てないだろうね。
 ボクは隣の倉庫にいるから、結果を教えにきてよ。そこで、僕から裏切り者の発表を行うね。」
 
 ソニアは、軍事施設に爆弾らしき物が大量に保管されているのを知っていた。
 それが爆弾ではないことも知っていた。
 ソニアはそれを見つけた時、一つを持ち帰って、遺跡の扉を爆破して開けようと試みたからだ。
 起爆させたら花火だったので大変悔しく、「ガッデム!ドチクショウが!!」ということで記憶に残っていた為、
 軍事施設にそれを探しに行くと、やはりあの大量の花火が無くなっていた、という訳だ。
 ちなみに、遺跡を爆破しようとしたときモノミもその場に居たため、彼女も爆弾が偽物だという事を知っている。
 ソニアが警戒していたのは、狛枝が実際に爆破して見せた最初の爆弾。
 しかしあれは、思えば武器庫「オクタゴン」から持ち帰ったものだったのだろう。まだストックはあるかもしれないが、もちろん島を吹き飛ばせる程の量は無い。
 最初に派手に爆破を行ってみせることで、残りの爆弾も本物だと思い込ませる作戦だったのだ。
 モノクマも、この島に大量の爆弾など無い事をあらかじめ知っていたが、事を面白くするため黙っていたらしい。
 
 気が抜けたら、ムラムラと怒りが込み上げてきた。
 狛枝をぶん殴ってやるべく、工場敷地内の倉庫に駆けつけると、倉庫の扉が何故か開かなかった。
 ほんの少しだけ開くのだが、何かが中でつっかかってそれ以上開かない。
 狛枝のことだから何か仕掛けてるかもしれない、と用心する皆を無視して、終里が扉を蹴り開けた。
 倉庫の中は照明が消されていて、目が慣れていないこともありよく見えない。暗闇の中、大音量で賛美歌が流れている。
 その時突然、一番奥にかけられていたカーテンが燃え上がった。
 このままでは火事になってしまう。工場給湯室に消火器があったことをソニアが思い出して皆駆け戻った。
 何故か消火器はなくなっていたが、ボトルに入った簡易消火剤が沢山あったので、皆ありったけ抱えて戻る。
 これは、投げることでボトルが割れて液体の消火剤が出てくる消火具だ。
 煙を吸わないように入り口からボトルを投げ入れたのだが、あまり効果は見えない。
 その内に炎はカーテンを焼き尽くして天井を舐め始めて…そこで火災報知器が反応しスプリンクラーが起動した。
 みるみる火は鎮火されていき、あとには水浸しになった在庫の山が残った。
 
 最初、カーテンは奥の壁にかかっているとばかり思っていたが、その奥にもスペースがあったようだ。
 カーテンが燃えたことで現れたその暗がりを入り口から覗き見ながら、日向は言い様のない恐怖が背を這い上ってくるのを感じていた。
 しばらく換気し、照明をつけて、倉庫奥に踏み込んだ日向達は、その恐怖の正体を発見した。
 血まみれの狛枝凪斗が、床に大の字に磔にされ、腹で槍を刺し貫かれていた。
 凄惨な光景に立ち竦む皆の耳に、死体発見アナウンスが流れ込んできた。
 
- 407 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/09/08(土) 22:11:57.22 ID:Km48M8OW0
- 狛枝は、四隅から伸びたロープで、大の字の形に縛められていた。
 体中に刺し傷があり、口にはガムテープが貼られている。そのガムテープ越しにもはっきり分かるほど、狛枝の口は絶叫の形に開かれていた。
 こんな残酷なことをした犯人が、自分達6人の中にいるというのか?
 モノクマは、これが最後の学級裁判だと言い、モノクマファイルを配って去って行った。
 公園の謎の装置のカウントダウンはあと2日。カウントダウンが終了した時、この修学旅行は終わるのだという。
 だからといって、素直に家に帰してもらえるとは考えにくいが、とにかく今はこの裁判に集中しようと皆決めた。
 この裁判を生き残らなければ、その先はないのだから…。
 
 【モノクマファイル】
 ・狛枝凪斗の死亡時刻は今日の正午。
 槍で腹部を貫かれている他、両ももに無数の刺し傷があり、左腕には切りつけられた傷がある。
 さらに、右手の平にはナイフが貫通している。
 ・今回は死亡時刻が明記されていたが、死因が書かれていない。
 
 【倉庫内部】
 ・倉庫内は水浸しだが、カーテン奥のスペースには火も水もいかなかったらしく、狛枝の死体は綺麗に保たれていた。
 ・燃えたカーテンの下に、オイルライターが落ちていた。オイルライターは人の手を離れても燃え続けることができる。
 ・燃えたカーテンの近くに、モノクマの等身大ぬいぐるみが落ちていた。
 腹部に貫かれたような穴が空いていて、狛枝の物らしき血が穴周辺についている。
 ・倉庫天井の梁に、一か所薄らと血痕があった。
 床から垂直になった面に、縦一直線に血の筋がついている。
 ・MP3プレイヤーとセットのスピーカーが置かれていた。消火前はここから大音量で音楽が流れていた。
 以前は無かったので、犯人が持ち込んだと思われる。
 ・モノクマの等身大パネルが床一面に散らかっているが、よく見るとその中に、整然と一列に倒れた一筋が見える。
 そのパネルの列はドアからカーテンまで一直線に続いていて、ドミノ倒しのように見える。
 
 【狛枝凪斗死体】
 ・ファイルの通り、全身に傷がある。まるで拷問されたようだ。
 ・手足は四隅からのロープに引っ張られて大の字になっているが、右手だけロープが途中で焼き切れていて、
 アーミーナイフで手の平を床に縫い止められている。
 ロープは手のすぐ近くまで燃えてなくなっているが、その割に狛枝の服に焦げ跡などは無い。
 ・向きからして左腕の傷からと思われる血飛沫が、狛枝の顔に飛んでいた。
 厳重に口を塞いでいるガムテープを剥がしてみると、ガムテープの形に血痕は途切れていて、その下には血が付いていなかった。
 ・左手は血まみれなのだが、手のひら中央で血痕が不自然に途切れている。
 手の裏は、第二関節から下だけに血がついていた。
 ・狛枝の腹部を貫いている槍は、ネズミー城の壁に架かっていた物だ。
 槍の尻から長い鞭が伸びていて、鞭の先端に分銅がついている。鞭も全体的に血まみれになっているが、分銅近くの一部分だけ血が途切れた部分がある。
 
- 408 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/09/08(土) 22:12:49.40 ID:Km48M8OW0
- 日向と七海は、狛枝のコテージをモノクマに開けさせて内部を調べておいた。
 机の上にピンク色の宝箱が置かれていた。モノミの宝箱を盗んだのは狛枝だったようだ。
 中には、モノミのイラストが描かれた絵日記帳が入っていた。
 開くと、中にはモノミらしい稚拙な絵と文章で、今までの島内生活の日記が綴られていた。
 一体なぜ、こんな物を狛枝は欲しがったのだろうか…。
 ペラペラめくっているうちに、あるページで日向は手を止めた。
 「みんな空腹でピリピリしています。
 日向君は、みんなに疑われてあせったのか、ファイナルデッドルームに入ろうとしました。」
 ドッキリハウスで、衰弱した日向が暴走しかけた時の記述だ。
 日向は、七海には何も言わず、そのまま日記帳を閉じた。
 モノミがそこに駆けつけてきて、日向の手の日記帳を見て慌てる。
 モノクマも現れて、愉快そうにそれはモノミが描いた物ではないと言い出した。
 これは裏切り者が、日向達の動向をモノミに報告するために書いた物だ。
 「あんた…本気であたちを潰しにくる気でちゅね。だったらこっちにも、考えがありまちゅ。」
 珍しくモノミは激昂し、日記帳を奪って立ち去ってしまう。
 【狛枝コテージ】
 ・冷蔵庫の中に、毒薬の大きなビンが保管されていた。
 ラベルの注意書きを読んでみると、これは毒殺用にブレンドされた即効性の毒薬で、
 数分で分解され、加水分解もされやすいので、証拠を残さずに毒殺を行うことができる。
 揮発性は高くないが、気化すると空気より重くなって下方に溜まる。とのことだ。
 これは、狛枝がオクタゴンから持ち帰った物だろう。中身は3分の1ほどに減っている。
 もしかしたら、狛枝はこれを使って既に何か仕掛けを作ってるのかもしれない。死んでも自分達を苦しめるのか…。
 ・それを裏付けるように、ベッドの下からゴム手袋とガスマスクが見つかった。
 これはおそらく、軍事施設から持ち帰ったものだろう。
 ・同じくベッドの下に、丸くて薄いアルミの青みがかった紙切れが落ちていた。
 よくマヨネーズなんかの絞り口の中に貼ってある、ペリっと剥がすフタに見える。
 
- 409 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/09/08(土) 22:13:19.28 ID:Km48M8OW0
- 本棚を全て調べる時間はなかったが、ここにある本はほとんど図書館から持ってきた本の様だ。
 その中の一つを抜き出すと、その本には希望ヶ峰の校章が印刷されていた。
 これが、狛枝がオクタゴンで渡された皆のプロフィールだ。案の定、日向のプロフィールだけというのは嘘で、全員分揃っている。
 一抹の期待を込めて自分のページを見てみたが、やはりそこには予備学科の文字が記されていた。
 これは、パーソナルデータを列記しただけのもので、希望ヶ峰での活躍等のエピソードは書かれていない。
 他の皆のデータも見たが、今知っている以上の情報はあまり無かった。
 しかし、16人全員分のページをチェックしても、一つだけ見当たらない名前がある。
 十神白夜。彼の名があるべきはずのページは、全ての項目が「???」で埋め尽くされ、
 能力の欄に一言だけ、『超高校級の詐欺師』と書かれていた。
 モノクマがでてきて補足する。その詐欺師の情報は、本当にそれが全てらしい。
 本名も、戸籍も、決まった素顔も持たず、常に他人に成りすまして生きる生まれついての天才詐欺師。
 それが、皆が十神白夜だと思い込んでいた人物の正体だった。
 「すごいよね!体型の差も物ともせずに騙しちゃうんだからさ!」
 日向は愕然としながらも、十神の漏らした言葉の諸々に合点がいくのを感じていた。
 「特別な才能は、ある意味その人を縛る鎖になるんだよ。才能に頼らざるを得なくさせ、その人の生き方を決めてしまう。」
 七海がそう呟いた。
 「そういう意味では、日向クンの方が、ずっと自由なのかもね。」
 モノクマはそう言って、タイムオーバー、学級裁判の開始を告げた。
 
 今回は、今までと違い事件の輪郭がまるで見えていない。
 何だかんだで裁判では頼りになった狛枝ももういない。
 だが、自分たちは一人じゃない。皆で議論を重ねれば、きっと真実が明らかになるだろう。
 狛枝凪斗、日向がこの島で初めて言葉を交わした人物だった。
 皆を引っ掻き回し、苦しめながらも、常に一歩先を行って真実を掴み、時に皆を助けてくれた。
 その彼を、この中の誰かが殺した。それを暴かなければ、犯人以外全員死ぬ。
- 412 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/09/08(土) 23:03:37.21 ID:Km48M8OW0
- 【第5回学級裁判】
 
 まず、狛枝を殺したのは一体どちらなのかで口論になった。
 裏切り者が口封じを目論んだのか、爆弾のありかを聞き出そうとして拷問したのか。
 日向は、狛枝の口がガムテープで塞がれていたことを理由に、拷問の線は薄いと主張した。
 血痕が途切れていたことからして、ガムテープは狛枝痛めつけられていた最中にも口に張り付いていたはずだ。
 ガムテープにできた皺も、狛枝が口を塞がれながら叫んでいたことを物語っている。
 だからといって、ただの口封じにしては、あまりにも手口が残忍すぎるが…。
 
 それを一度おいて、火事を起こした方法を考える。
 火事は皆の目の前で始まったのだから、この中の誰かが火をつけたなら何か仕掛けを使ったはずだ。
 ソニアの、オイルライターをつけたまま放置して、何かでそれを倒したという案に日向も賛成した。
 乱雑に放り出されたように見せて、一筋だけ綺麗に折り重なって倒れていたモノクマのパネル。
 犯人はあれを、ドミノ倒しのように配置して、ドアを開けたら倒れるようにしておいたのだ。
 倉庫内が暗かったのは、ドミノ倒しが見えないようにするため、音楽がかかっていたのは、パネルが倒れる音に気付かせないためだ。
 「そうすると、一つ問題があるね。」
 七海がそう言いだした。最初に終里がドアを開けようとしてパネルに突っかかった時、ドアは本当に少ししか開かなかった。
 それならば、ドミノ倒しを作った犯人も外に出られなかったはずだ。
 悩む皆に、七海は狛枝ならば中からドミノ倒しを作れたと主張した。
 「彼は、被害者であったと同時に、加害者でもあったんじゃないかな?」
 
 七海はそう言うが、あんな壮絶な自殺なんて、できるものだろうか?
 そもそも、狛枝は両手両足を縛られていたはずだ。そう主張する九頭龍に、日向はふと思いついて反論した。
 狛枝の右手のロープは焼き切れていた。だが、袖は全く焦げていなかった。
 あのロープは火事で焼き切れたように偽装されていただけで、最初からあの短さだったなら、狛枝は右手がフリーだったことになる。
 なら、両足と左手のロープは自分で縛れたはずだ。
 
 一瞬皆納得しかけたが、九頭龍が右手に刺さっていたナイフの事で逆襲してくる。
 思いつきで反論しただけだったのだが、なんだか狛枝の自殺を日向が証明しなければいけないような流れになってしまった…。
 だが、狛枝が自分の手にナイフを刺した方法なら、分からなくもない。
 落ちていた、血の付いた穴あきぬいぐるみ。あれの穴にナイフの柄を固定しておいて、そこに自分の右手を振り下ろす。
 しっかりと刺さったら、ぬいぐるみをカーテンの方に弾き飛ばし、床にナイフ先端を打ち付けて固定する。
 あとは、どうやってその状態で腹部に槍を刺したか、なのだが…。
 
- 413 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/09/08(土) 23:04:39.62 ID:Km48M8OW0
- 終里が何でもなさそうに言う。
 「先に腹に刺しときゃいいんじゃねぇのか?そんでちょっと我慢して、右手にナイフを刺しゃいいんだ。」
 「我慢にも程がありますよ!あんな太くて大きい物を刺されたら、すぐに逝ってしまいます!」
 「えっ!?そ、ソニアさん今よく聞こえなかったのでもう一回…」
 録音する勢いで興奮している左右田を叱り飛ばして、九頭龍が反論してくる。
 両手が既に塞がっている以上、槍を刺す方法は無い、というが…
 日向は、不自然に途切れていた狛枝の左手の血痕を思い出した。
 七海に促されて、手がどういう形になっていればああいう風に血痕が途切れてるのか考えてみる。
 それは、何かを握っている時だ。
 もしも、狛枝が槍を握っていたなら…。
 そこで閃いた。狛枝は、槍の尻から伸びる長い鞭を握っていたのだ。
 真上にある梁に鞭をひっかけて、槍が自分の腹の上にぶら下がるようにしておく。
 そしてそのまま、自由な右手で全身に傷をつけていった。左手だけが刺し傷ではなく表面を切りつけた傷だったのは、鞭を握る握力を残しておく為の物だったのだろう。
 ガムテープは、痛みに声を上げて誰かに聞きつけられるのを防ぐため。
 そして手を離せば、槍が自分の腹に突き立って絶命できる。
 …だが、何故そんなことができる?一体何の為に?
 
 普通に考えれば、これは自分が自殺だという事を隠し、日向達に間違った人物に投票させて、皆殺しにする為だ。
 皆も、そう考えてもう投票に移ろうとしている。
 でも、裁判が始まって幾らもたたない内に、日向達はここまで辿り着いた。
 日向にはどうしても、狛枝が命と引き替えに仕組んだ謎が、この程度で解けるとは信じられない。
 狛枝の狂気と悪意の深さを知っているからこそ。
 「待ってくれ…。もう少し、議論を続けさせてくれ。」
 
 自殺説の言いだしっぺである七海も、議論を続ける事に賛成だった。
 七海には当初から、モノクマファイルの記述を気にしていた。今まで書かれていた死因が書かれていないのだ。
 モノクマがあえて書かなかった情報は、今までの裁判では全て事件を解く重要なカギになっていた。
 だから、今回も狛枝の死因を特定することが大事なのではないかという説だ。
 見た目のインパクトから、腹部の槍が致命傷と思い込んでいたが、実際は他に死因があるのではないだろうか?
 
 ももの傷?出血多量?色々な推論が出たが、見た目にはわからない死因というソニアの言葉に日向は思い出すことがあった。
 狛枝のコテージに会った毒薬、あれで狛枝が死んだとは考えられないだろうか?
 即効性の毒だから、ガムテープを貼る前に狛枝が服用していたとは考えられない。
 ならば、気化させた薬を鼻から吸ったのではないだろうか?
 あの薬の注意書きによれば、あの薬は気化すれば空気より重くなり下方に溜まる。
 立っていた日向達は無事でも、床に寝ていた狛枝はガスを吸うことになるだろう。
 その後、スプリンクラーの水によって毒は加水分解され、日向達に影響を及ぼすことは無かった。
 
 「…で?だから何だってんだよ?どっちみち、あいつの自殺じゃねーか。」
 「そうです。この中の誰かが、あんな残酷な犯行を犯すなんて、信じられません。」
 日向だって仲間を信じたい。この中の誰も犠牲にしたくない。狛枝の自殺だと片付けてしまいたい。
 だが、そんな気持ちを、きっと狛枝は見透かしていたと日向は思う。
 「面白いね。日向クンは、狛枝クンの悪意を信じているから、狛枝クンを疑う。
 これも、新しい友情の形なのかもね。」
 モノクマの戯言に取り合うわけではないが、日向は今の自分達を見て狛枝が何と言うのか分かっていた。
 誰も犠牲にしたくないから、一番楽な「狛枝の自殺」という説に飛びつく自分達を見て、彼はきっと嘲笑う。
 “キミ達の希望は、しょせんその程度だったんだね”とあざける。絶対にそうだ。
 だから、納得がいくまでとことんこの事件を調べたい。
- 5 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/09/08(土) 23:09:18.31 ID:Km48M8OW0
- 毒殺だったとしたら、毒はどうやってあの室内に持ち込まれたのかを日向は議題に上げた。
 気化すると危険なので、狛枝は必ず密閉容器に入れて倉庫に毒を持ち込んだはず。
 だが、該当するような容器は倉庫内になかったのだ。
 「そんなもん、ペットボトルに入れときゃいいんじゃねーのか?
 そしたら、俺たちの投げた消火剤のボトルに混じってわかんなくなっちまうだろ。」
 終里の言葉に、日向の脳裏を光が駆け抜けていった。
 
 もし、狛枝が消火剤のボトルを持ち帰り、それに毒薬を詰め替えて倉庫に持ち込んだなら、容器が見当たらない謎は解ける。
 狛枝が隠し持っていたガスマスクとゴム手袋は、その時に使われたものだろう。
 一緒に落ちていた丸い紙切れを見せると、ソニアが反応した。
 以前消火器等を点検したとき、簡易消火剤のフタを開けてみると、同じような青い紙蓋で密封されていたというのだ。
 ならば、狛枝がこのボトルを容器に使ったことは確定だ。
 問題はいつこれが割れて、中身が気化したのか、それは狛枝が死んだ正午頃の事だ。
 七海が、「恐ろしい事」を思いついた、と呟いた。
 日向も、同じ恐ろしい事に思い当たっていた。狛枝の底知れない悪意に満ちた真意に。
 
 毒入りのボトルは、倉庫に持ち込まれたのではない。
 あの時、棚の上に紛れ込ませてあったのだ。
 それを手に取った日向達のうちの誰かは、中身が消火剤ではないなんて露知らず、それを炎の中に投げ入れた。
 薬は熱で気化し、狛枝はそれを吸い込んで死に至った。そして力の緩んだ手から鞭が抜けて、槍が落ちたのだ。
 これは自殺ではない。狛枝は、日向達に自分を殺させたのだ。
 そして、日向達はどうやっても誰がそのボトルを投げたのか特定することはできない。
 「解けない謎は無い…そう思ってるオマエラを、“解けない謎”で打ちのめす。
 それが、狛枝クンの真の狙いだったんだね!」
 モノクマは大笑いしている。モノクマは、誰が特定のボトルを投げたのか把握している為、裁判の正解が分かっているのだと言う。
 手詰まり。絶望的な展開だった。
 
 「…わかるかもしれないよ。」
 七海が、ポツリと呟いた。
 「狛枝君は、みんなの事を信じてた。罠にはまってくれるって信じてた。
 そして、何よりも自分の『超高校級の幸運』を信じてた。
 皆の事を計画に盛り込んで、自分の才能を盛り込まないなんて、おかしいよね?」
 狛枝は、妄信的に自分の幸運を信じていた。今までも、肝心の部分を運に任せた行動が目立つ。
 超高校級の天才達は、誰でもそうだと答えた。最後に頼るのは自分の才能しかない。
 ならば、狛枝が今回自分の幸運に任せた部分とは何だったのか?
 それはもちろん、誰が自分を殺すペットボトルを投げるのか、ということだ。
 彼には、結局裏切り者が誰なのか分からなかった。だから裏切り者に自分を殺させようとした。
 彼は「命に代えても裏切り者を炙り出す」と言っていた。それを有言実行したのだ。
 だから、裏切り者を特定すれば、犯人も自ずと決定する。
 
- 6 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/09/08(土) 23:10:44.31 ID:Km48M8OW0
- 七海は、そこまで説明して日向を見た。
 「裏切り者はね、名乗り出たくても名乗り出られないんだ。
 だって、そういう風にできていないから。
 だから、言い当てて欲しいんだ。日向君になら、それができるはずだよ。」
 「七海…ッ!」
 日向自身にも分かっている。この中で日向だけが、裏切り者が誰なのか知っているのだ。
 あの、モノミが持っていた日記帳。狛枝はあれを見ても裏切り者が誰か分からなかったのだろう。
 だが、日向には分かる。自分がファイナルデッドルームに入ろうとしたのを知っているのは、七海だけなのだ。
 「七海…お前が、裏切り者なのか…?」
 「…あーあ。正解されちゃった。」
 七海はニッコリと微笑んだ。
 
 皆、七海が裏切り者だなんて信じなかった。七海が未来機関の手先だなんて。
 「違うんでちゅ!未来機関は、皆さんが思ってるような組織じゃないんでちゅよ!!」
 モノミが、悲しそうな顔で叫ぶ。
 ソニアは、七海がカードリーダーに真っ先に電子生徒手帳を通したことを指摘した。
 だが、七海はきっと爆弾が偽物だという事を知っていて、狛枝の脅しがはったりなのが分かっていたのだろう。
 モノミは爆弾が偽物だと知っていた。七海とモノミが繋がっているなら当然七海も爆弾が偽物だと知っている。
 「バレちゃったから白状するとね、爆弾が偽物なのは知ってたよ。
 それを言えなかったのは、モノミちゃんから聞いたっていう経緯を話さざるを得なくなるから。」
 
 左右田が、皆に問いかけた。
 「それが本当だとしても、七海に投票してもいいのかよ?
 それって、狛枝の運に乗っかれって事だろ!」
 「あんな奴の事、信じられるかよ!」
 それを日向が遮った。
 「違う!俺たちが信じるのは狛枝じゃない!
 俺たちは、七海を信じるんだよ!今まで一緒に過ごしてきた七海の事を!
 七海は、命を懸けて俺たちを守りたいって言ってくれてるんだぞ!
 だったら、それを信じるしかないだろ!そうじゃなくちゃ、誰も救われないじゃないか!!」
 七海は微笑んだ。
 「あのね、悲しむ必要はないんだよ。だって…これは今までのとは違うもん。
 みんなは今までみたいに、”誰かを疑って”生き残っていくわけじゃない。
 みんなは、”私を信じて”生き残っていくんだよ。」
 
 七海は、モノミに向き直って謝った。
 「モノミちゃんもごめんね。こんなことになっちゃって、きっと色んな人にすごく怒られるよね。
 でもね、私はどうしてもみんなを守りたかったんだ。それに…そうできることが嬉しいんだよね。」
 「……正しいか正しくないかは、あたしが決めることじゃありまちぇん。
 でも、あなたがそう思えたことは、とってもすごいことだと思いましちゅ。“奇跡”、なんて呼べるかもしれまちぇんね。」
 モノミは優しく微笑んだ。
 モノクマが二人のやりとりを遮り、投票タイムを始めた。
 七海を信じ、七海に投票する。満場一致で犯人は七海に決定し、モノクマは正解と答えた。
 
- 7 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/09/08(土) 23:11:21.02 ID:Km48M8OW0
- 「みんな、おめでとう。今まで黙ってて、ごめんね。
 みんなは空を飛べないでしょ?水中を自由に泳げないでしょ?
 それと同じ。“そういうもの”として存在している私には、未来機関を裏切ることはできない…。」
 これ以上の事は、どうしても七海には話すことができないのだと言う。
 「七海さんが裏切り者だったとしても、私たちは七海さんに裏切られてなんかいません。
 七海さんは、ずっとわたくしたちの仲間です。今だってそうです…
 責める気なんてありません。だから、謝らないでください!」
 それが、みんなの気持ちだった。
 
 九頭龍が、ふと疑問を口にした。
 狛枝がこの展開を望んでいたとしたらおかしいのではないか?自分たちは、今にも負けそうになっていたのに…
 「いいところに気づいたね!彼は裏切り者を炙り出すとは言ったけど、殺すとは言ってないんだよ。
 コングラッチュレイショーン!!オマエラは見事、狛枝クンの目論みを阻止したのです!
 彼の目的は、裏切り者以外を皆殺しにすることだったんだからね!」
 一体なぜそんなことを?だが、彼に真意を問いただすことも、二度とできない。
 七海は、狛枝のことも許して、微笑んでいた。
 
 「あたしも、千秋ちゃんに負けてられないでちゅ!たとえ勝てない勝負と分かっていても、一矢報いて見せるでちゅ!」
 モノミがモノクマに抱きつき、モノクマもろとも自分の機体を自爆させた。
 もちろんすぐスペアの機体でモノクマは復活するが、モノミも自分のスペアで抱きつき、また自爆する。
 「ちょっと、全滅しちゃうよ!」
 「それが狙いでちゅ!さぁ、あと何体いるんでちゅか!」
 「まぁ、那由多くらいかな?モノミちゃんはあと何体いるの?知ってるよ、あと10体だったよね。」
 モノミが絶句する。那由多はなくとも、無数のスペアがモノクマには存在する。
 「オマエも見たでしょ?あの工場で、ボクが作られていくのを…」
 あのおもちゃ工場で作られていたのは、ただのぬいぐるみだったはずだ。
 「でも、ぬいぐるみにボクという人格を与えられたら、それはもうモノクマだよね?」
 「なっ……まさか、アンタ、すでにそこまでの力を!?」
 …なんだか、急に話がファンタジーだかSF臭くなってきた。
 七海がモノミを止める。「みんなを信じて、後を任せよう」と。
 
 モノクマは話を打ち切り、七海と共にモノミも今回処刑すると宣言した。
 二人は抗わず、手を繋いで皆に別れを告げた。
 「みんな、騙すような真似して…ごめんね。
 最後まで守ってあげられなくて…ごめんね。」
 「最後に一言だけ、先生っぽい事を言わせてくだちゃい。
 英雄になる必要なんてないんでちゅからね。無理に誰かに認められなくてもいいんだからね。
 自分に胸を張れる自分になればいいんでちゅ!だって、自分自身こそが、自分の最大の応援者なんでちゅから!
 そうやって自分を好きになれば…その“愛”は、一生自分を応援してくれまちゅよ。らーぶ…らーぶ…」
 
- 8 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/09/08(土) 23:12:23.65 ID:Km48M8OW0
- 【七海千秋&モノミ処刑】
 全てのモノミスペアと、モノミと七海は並んで床に座らされる。
 上からは、石造りのブロックが落ちてくる。これは、巨大テトリスだ。
 次々にスペアが押しつぶされていく。七海の傍らにいたモノミも、降ってきたブロックに押しつぶされ見えなくなった。
 七海がいる細いスペースだけを残して、次々とブロックが積まれていく。
 そして、縦に長い一本の棒ブロックが現れた。それはクレーンで七海の真上に吊り下げられ、落とされた。
 押しつぶされた七海は視界から消え、全ての列がそろった下から3段が、跡形も無く爆発して消え去った。
 
 日向は、目をそらさず七海の最期を見届けた。でも、いつのまにか膝から床に崩れ落ちていた。
 無力感でいっぱいだった。虚しくて、寂しくて、胸が痛かった。
 「ありがとう」と最後に言えたらよかったのに、とうとう言いそびれてしまった…。
 モノクマは、殺し合いの終了を宣言し、生き残った5名に卒業の権利を授与した。
 だが、タイムリミットはまだ2日ある。モノクマなら2日もあればまた殺人を犯させる動機を作ることができるだろうに。
 「この、5名という人数に意味があるんじゃないのか?だからお前は、まだ日数があるのに殺し合いを終わらせるんじゃないのか?」
 モノクマは答えなかった。
 カウントダウンが終われば、全て終わる。未来機関のしょーもない計画は便所の泡と化し、オマエラはいつもの絶望的な日常に帰るのだと、モノクマは言った。
 あと2日はおまけ。好きなように南国を満喫しろと言われて、皆足取り重くコテージへと帰路についた。
 
 日向は翌日一日を、シーツに潜って過ごした。
 そして、モノクマの設定した最後の日、朝目覚めたときに、言い表しようのない恐怖を感じた。
 まるで、この島に自分以外誰もいなくなってしまったような。
 日向は、その恐怖から逃れるように、コテージから飛び出していた。
 その恐怖から逃れるように、コテージから飛び出していた。
 そその恐怖から逃れれれるようにコテテージを■飛び出していた。
 その■のそから恐怖■■の恐怖コテージ逃れるように飛び出し逃れ■ように飛び出し■■
 世界が剥がれ落ちていく。モザイクがかかったように歪む。黒い染みが視界いっぱいに広がる。
 それが収まった時、目の前には日向をレストランに呼びに来た七海がいた。
 
 レストランには、他の4人も揃っていた。
 狛枝が遺したビデオレターが、もう1つあったのが発見されたらしい。
 時限ロックがかかっていて、裁判後に再生できるようになっていたそれは、狛枝の遺言だった。
 「感謝しろよ!ソニアさんが見つけてくれたんだからな!」
 「うふふ、田中さんとハムスターさんの散歩をしている時に見つけたのです。」
 視界に黒い染みが広がり、そこには不敵に笑う眼蛇夢が現れた。
 早速再生してみると、狛枝の遺言が始まった。
 『えーっと、このメッセージを見ているのは誰かな?未来機関の裏切り者さんかな?
 だとしたら、おめでとう…ボクの希望通りの結末になったみたいだね。』
 やはり、狛枝の狙いは裏切り者以外の処刑だったのだ。
 「無駄口はそのへんにしておけ。まだ続きがある様だぞ。」
 世界がモザイクがかった次の瞬間、十神がざわつく皆をたしなめた。
 
- 9 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/09/08(土) 23:13:31.50 ID:Km48M8OW0
- 狛枝は、生き残ったのが裏切り者以外の皆だった場合にも通じるように話すと前置きして、本題に入った。
 『あのね、ボクは散々言っていた事を実行したに過ぎないんだ。
 ボクはある事実をファイナルデッドルームのクリア特典で知った…
 みんなに知られると面倒になるから、そのページはもう処分しちゃったけど…それにしても驚いたなぁ。
 だってまさか、いん●んおbじょtい#%△いcじえおmおpsm、13う4@えk‐あじてrt』
 その事実を知った狛枝は、すぐさま行動を起こすことを決心した。
 『でも、日向クンを馬鹿にしてられないよね。ボクも本心では主役に憧れてたんだから…
 あじmf詳し`+くhはぴん的濫時8rうぇbとかでjがお』
 狛枝は淡々と語る。その事実を踏まえると、モノクマの行動の意味も分かるらしい。
 事あるごとに島の謎や未来機関の情報を与えて、みんなに希望を抱かせていたのは、それが『最悪の絶望』に繋がるからだ。
 しかもモノクマは、それを誰かに見せつけようとしている。その誰かと言うのが世界が歪む世界が剥がれ落ちる黒い染みが視界いっぱいに広がる。
 『キミらがモノクマの目論みから逃れるためには、ある場所に行かなければならない。
 その為のパスワードが、ネズミー城にあったあのメッセージなんだよ。
 本来、その場所に行くにはなんらかの手順を踏む必要があったみたいだけど、それを無視するようなあのメッセージは、ある意味裏ワザみたいなものだったんだろうね。
 きっと、あれはモノクマでもモノミでもない、別のヤツが残したものなんじゃないかな?
 ボクの計画が終わるまでは隠す必要があったけど、そろそろ発表してもいいころだよね。
 パスワードを発表しまーす。『11037』。』
 狛枝は、これを使ってある場所に行けば、モノクマの目論みから逃れられると繰り返した。
 そして、自分のやったことが、世界の希望の礎になることを信じていると言った。
 『そして、もし本当にそうなったら…
 ボクを讃えてくれ。
 ボクの偉業を伝えてくれ。
 ボクの銅像を作ってくれ。
 ボクを敬ってくれ。
 ボクを…超高校級の希望と呼んでくれ。』
 それが、狛枝凪斗の残した遺言だった。
 
 気づくと、日向は遺跡の前に立っていた。
 緊張している九頭龍に、ペコが笑いかける。
 「冬彦ぼっちゃん、心配せずとも大丈夫ですよ。何があっても、私がぼっちゃんを守りますから。」
 「さぁ、扉を開けろ!リーダー命令だ!」
 十神と七海に促され、日向はパネルを操作する。
 大丈夫だ、16人全員一緒なんだから。どんな事があっても大丈夫。
 
 扉を開けるとそこは、裁判場だった。
 何の飾りもなく、古びて褪せているけど、作りは見慣れた裁判場そのものだ。
 「……みなさんはどこへ行ってしまったのでしょう?」
 ふと見ると、皆どこかに行ってしまい、5人しかいなくなっていた。
 おかしいな。………いや、おかしいのは、……この、世界…
 
 その頃、公園ではカウントダウンが0を迎えていた。
 世界が、崩れ落ちていく。
 
 <CH■PTER5 終了> 生存者 5名
- 14 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/09/09(日) 09:52:07.29 ID:HtY3l/wh0
- CHAPTER0 『修学旅行へ向かう船の中のような』
 
 ボクは船に揺られていました。不規則な揺れの中倒れまいと踏ん張っていました。
 ボクのような才能に愛された人間には、この予想が付かないという感覚は中々興味深いものです。
 相部屋になった、白い髪の男が嬉しそうに話しかけてきます。
 白い髪の男は、ボクの返事を聞いて笑います。
 「ふーん、僕と違って、相当期待されてるんだね。」
 このツマラナイ世界。劣った人間たちが、優れた天才を追い詰め、引き摺り落とそうとする世界。
 この世界はすでに、自分たちの進化を許そうとしなくなっているのです。
 
 「ボクを利用した彼女を、今度は利用してやるんですよ。」
 ボクが、彼女の遺したアレを、この懐に隠し持っていると話すと、白い髪の男は興奮しました。
 「えっ?じゃあ、僕はもう一度彼女に会えるのかな?今度こそ、僕は彼女を殺せるのかな?」
 この男―『超高校級の幸運』は、彼女―『超高校級の絶望』に複雑な愛憎を抱いています。
 彼の袖口から見えている手は、あの女の物です。
 それを指摘すると、彼は嬉しそうに笑いました。
 「すごいでしょ?これ、未だに腐らないんだ。ボクの一部になれてるってことだよね?
 勘違いしないでね。ボクはあいつが大嫌いだ。敵だからこそ、その力を取り込むんだよ。」
 死体を漁ったということか。ツマラナイことをするものです。
 そろそろ島が近づいてきました。別に興味はありません。この先のゲームには、ボクは参加できないことになっているでしょうから。
 それを言うと、白い髪の男は残念そうな顔をしました。彼は、またボクに会いたいと言いました。
 だが、ボクは彼に興味がありません。
 「だって、あなたはツマラナイ。」
 この男の才能も、思想も、行動も、全て底が見える。理解し予測できる。ボクにとってはツマラナイ。何もかもがツマラナイ。
 ジャバウォック島が、近づいてくる。
 <CHAPTER0 終了>
 
- 15 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/09/09(日) 09:53:28.01 ID:HtY3l/wh0
- CHAPTER6 『さよなら絶望学園』
 
 扉が見える。一体はここはどこだ?俺はどこに行くんだ?
 日向がその扉の中に入ると、そこは教室の中だった。でも、なんだか様子がおかしい。
 異様な教室だった。全ての窓に分厚い鉄板が、巨大なボルトでがっちり固定されている。
 武骨で露骨な監視カメラがこちらを向いている。まるで、監獄だ…。
 ここはどこなのだろう。遺跡に入ってから、ここに来るまでの経緯が思い出せない。まるで、一番最初の時のように。
 そこに、モノクマからの校内放送が始まった。
 卒業試験を行うから、体育館まで来いと言うのである。
 
 行ってみると、そこは案外普通の体育館だった。
 モノクマは、あの遺跡の扉と、遺跡の間に希望ヶ峰学園を作ったのだ、と訳の分からないことを言う。
 「オマエラがこの支配から卒業するのはめでたいけど、学園長としては胸中複雑なんだよね。
 オマエラが社会に出てちゃんとやっていけるのか…。
 だから、外の世界がどうなってるのかお勉強してから、ジャバウォック島に残るかどうか選ばせてあげるよ。」
 モノクマはそう言い、この学園に散らばった手がかりを探すよう日向達に言う。
 「どうせ、オマエラなんて、メインキャストが到着するまでのつなぎなんだよ」
 と、謎めいたセリフを残して、モノクマは退場した。
 
 体育館を出ると、何故かそこは先ほどとは違う廊下になっていた。
 目の前が、チカチカとモザイクのように歪む。見えない壁があるように、進めない個所がある。
 それでも、桜の植わった剣道場、冷凍庫の並ぶ生物室、奇怪な植物で溢れた室内庭園、様々な場所を巡ってそこにある文書を読んでいった。
 以下にその内容をまとめる。
 
 希望ヶ峰学園は、政府公認の特殊教育機関だ。
 生徒はスカウトによってのみ入学を許される。その選考を行うのが、教育者であり才能の研究者でもある職員たちだ。
 希望ヶ峰学園は、教育機関でもあり、才能を研究する機関でもあるのだ。
 彼らの悲願は、人類の希望となりえる、真の天才を作り上げること。
 しかし近年深刻な資金不足に悩まされていた希望ヶ峰学園は、以前から検討していた「予備学科」の導入に踏み切った。
 これは資金集めの為だけの、ごく一般的な教育しか行われない学科だったが、希望ヶ峰のブランド力に惹かれ入学希望者は殺到した。
 彼らからの異常に高い授業料という、潤沢で恒久的な資金源を得た希望ヶ峰は、更に天才の育成に力を注いだ。
 そして完成したのが、カムクライズルという生徒だった。
 彼は、ありとあらゆる才能を身につけた、人類史上最も優秀な天才。職員たちは彼を『超高校級の希望』と呼んだ。
 そして、彼を守るために職員たちは彼の存在を、他の生徒たちからも世間からも隠した。
 
 しかし、そのカムクライズルが、「希望ヶ峰学園史上最大最悪の絶望的事件」を起こしてしまった。
 学園でも最も優秀な生徒13人で構成される生徒会、そのメンバー全員を、彼が突然惨殺してしまったのである。
 学園は、カムクラを守るために事件を隠ぺいした。
 しかし、それを嗅ぎ付けたある女生徒が、事件を利用して以前から待遇に不満を募らせていた予備学科の生徒を焚き付け、一斉蜂起させた。
 そしてその暴動が、人類史上最大最悪の絶望的事件へ繋がっていった。
 
- 16 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/09/09(日) 09:56:54.12 ID:HtY3l/wh0
- 最初は予備学科生の抗議活動にすぎなかったそれは、ネットのコミュニティを介して膨れ上がった。
 社会不安を背景に持つデモだったそれは徐々にエスカレートし、過激な破壊活動に発展していった。
 そして目的と手段が入れ替わり、強者が弱者を殺戮し、弱者がさらに弱者を殺し、弱者が徒党を組んで強者を嬲り殺す、そんな事が当たり前になって行った。
 世界がその異変に気付いたときは既に遅く、各国は意味のない戦争に突入していた。
 もう、誰にもその絶望感は止めることができず、世界は爆発的に崩壊していった。
 もちろん、そうなる様に人類を操った集団がいた。最初の蜂起を焚き付けた女生徒を中心とした、『超高校級の絶望』と呼ばれる集団。
 彼らは希望ヶ峰学園が認めた才能を、人類の希望の為でなく、人類の絶望の為に使ったのだ。
 彼らは既存の価値観を覆し、民衆を洗脳し、殺戮を日常の物とし、絶望で世界を塗り尽くした。
 彼ら、『超高校級の絶望』が全滅しない限り、人類史上最大最悪の事件は終わらない。
 
 その超高校級の絶望とはそもそも、とある最強にして最恐にして最凶の女生徒、江ノ島盾子一人を差す言葉だった。
 カムクラの起こした事件を利用し、予備学科生を焚き付けたのも彼女だ。
 盾子には、人を惹き付け、人の価値観を塗り替える才能があった。歴史上の独裁者の多くがそうであったように。
 彼女は、事態を鎮静すべき層すら操り、広大なコネクションを駆使して世界に絶望を広めていった。
 彼女の手足となった者達は、彼女という絶望を怖れ敬い、それから逃れる為、あるいは近付く為に、あらゆる絶望を彼女に捧げ続ける。自分たちの命すらも厭わずに。
 現に、役目を果たした予備学科生2357人は、彼女の命令に応える為、ただそれだけの為に、たった一人を除いて全員が集団自殺を遂げている。
 その彼女も、自らが仕組んだ殺し合い学園生活で、『超高校級の希望』に敗れ自ら命を絶った。
 その学園生活を生き残った6人の希望達は、外の世界への脱出に成功している。
 
 日向は、理解不能な情報の洪水に呆然としていた。自分も、江ノ島盾子とやらに心酔していたのだろうか。
 2357人のうちの、たった一人の生存者なのだろうか。
 校内には、各所にやたら怖い顔のじいさんの肖像画がかかっていて、『希望ヶ峰学園設立者 神座出琉』とプレートが付いている。
 この名前、やはりああ読むのだろう。希望ヶ峰きっての天才と、学園設立者の名が一緒なのは何故なのか?
 
 校内に散らばっていたのは、希望ヶ峰の情報だけではない。未来機関のメンバーがやりとりしたと思われるメールが、切れ切れにホログラムとして空間に浮かんでいた。
 そこから分かる情報を以下にまとめる。
 
 未来機関とは、人類史上最大最悪の絶望的事件に対抗するべく結成された、希望ヶ峰学園卒業生達による組織である。
 彼らが現在急務としているのは、江ノ島盾子を失った「超高校級の絶望」達の残党狩り。
 どこに潜んだか杳として知れないが、江ノ島級の次期指導者が準備されている可能性もある。
 彼らを発見し、殺処分すること。それが事件を終わらせるための唯一の道だというのが、未来機関の方針だ。
 
 未来機関は、希望ヶ峰学園の生き残りだと名乗る少年少女の、各地で合計15名の保護に成功した。
 彼らがどうやって人類史上最大最悪の事件を生き延びたのか不明だが、
 怪我を負っている者や飢えている者もいて、過酷な状況を生き延びてきたことが推測される。
 彼らへの聞き取り調査は、同年代という事もあり、『コロシアイ学園生活』の生存者たちに任された。
 
 この15人というのが、七海を除いた日向達15人の事なのだろうか。
 そう考えていた矢先、日向は被験者リストというデータを見つけた。まさしく日向達15人の名前が列記されている。
 その中に十神白夜の名はなく、「超高校級の詐欺師の人」という適当な呼び名が印字されていた。
 そこに、新聞記事が添えてあった。それは、超高校級の日本舞踏家西園寺日寄子の活躍を讃える記事だったが…
 その、西園寺日寄子と名が添えられた写真には、スラリと背の高い和服美少女が映っていた。
 日寄子の面影はあるが、日寄子はもっと子供体型で、それで色々許されていたはずだ。
 一体、どういうことなのか?そして、被験者とは一体?
 
- 17 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/09/09(日) 09:57:54.84 ID:HtY3l/wh0
- 未来機関のメールを読んでいくうちに、気になる一通を見つけた。
 「未来機関第14支部 苗木誠へ
 君は今、一体どこで何をしているんだ?君がしていることは、重大な規則違反なんだぞ。
 何故、絶望の残党を庇うんだ?君は、彼らに騙されているんだ。
 彼らを抹殺することが、人類史上最大最悪の事件を終わらせる唯一の道だと、君にも分かっているはずだろう。
 いいか、君達6人を救い出し、記憶を取り戻すことに協力したのは未来機関なんだぞ。
 全ては希望溢れる未来の為なんだ。すぐに彼らを我々に引き渡しなさい。」
 この苗木誠という男は、何故か江ノ島盾子の手下達を庇っているらしい。
 それにしても、調べが進むうちにいよいよ学園内の光景は非現実の度を増してきた。
 今や、天地はひっくり返り、あらゆる文字は文字化けし、ポリゴンが欠け、物が宙に浮いている。
 
 調べ回るうちに日向は、薄々感じていた予感を決定付ける情報を目にしてしまった。
 新世界プログラムという物についての情報だ。
 新世界プログラムは、最新サイコセラピー機器と、その管理プログラムで成り立っている。
 超高校級のプログラマー、超高校級の神経学者、超高校級のセラピスト等、彼らの研究を活用して作られたこの機器は、
 頭部に装着することで、全員に「共感覚仮想世界」を体感させる事ができる。
 また、更なる特徴として、仮想世界での記憶情報を、現実世界の記憶情報と置換させることができ、
 これによって、仮想世界と現実世界の情報に逆転現象を生じさせることが可能となっている。
 ただし、あくまで心理療法の為の装置であり、他の用途での使用は固く禁じられている。
 洗脳や人格支配に対する治療に効果的な反面、悪用されれば人格破壊の可能性もある為である。
 
 これを読んだ途端、日向の中に虚無感が広がって行った。
 これまでの何もかも、苦しみも喜びも、辛い別れも、何もかもが無為になる予感。
 そして日向は、虚空に浮かぶ大きな黒いウィンドウを見つけ覗き込んだ。
 そこには、華奢で小柄な少女の映像が浮かび上がっていた。
 「新世界プログラムへ、ようこそ」
 それは、「アルターエゴ」と名乗った。この新世界プログラムのプログラムマスターだという。
 この仮想世界の構築と管理を担当しているが、被験者へ干渉する権限は、大部分が『監視者』の物である為、アルターエゴは手を出せないらしい。
 「分かりやすく言うと、ボクはマンションの管理人みたいなものかな。建物を管理する能力はあるけど、部屋の中までは力が及ばない…。
 でも今はウィルスが僕の管轄下まで侵入してきて…そのせいで、僕が管理する世界そのものがおかしくなってしまったんだ。」
 アルターエゴに、ここは一体どこなのか、と質問した。
 アルターエゴ曰く、ここは新世界プログラムが構築した仮想世界。
 今回は妙に急な起動で、世界を構築するための情報の収集の時間も取れなかった為、この実験施設があるジャバウォック島のデータを流用したのだという。
 だからここは、仮想世界に構築された、ほぼジャバウォック島であると言えるそうだ。
 
- 18 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/09/09(日) 09:58:33.31 ID:HtY3l/wh0
- アルターエゴ曰く、新世界プログラムとは、希望の為の装置。
 被験者の任意の期間の記憶を消去し、そこにこの仮想世界で得た記憶を書き込む装置だ。
 日向達はここで、2名の監視者に見守られ、希望の為のプログラムをこなしていくはずだった。
 2名の監視者は、それぞれ教師と生徒という設定で皆に影響を及ぼす。
 教師ポジションの監視者には、ルールの設定等の権限が与えられている。
 しかし、どこかからウィルスが入り込み、その教師の権限を横取りしてしまった。
 新世界プログラムはスタンドアローンで動いている為、ネットからウィルスが入り込む可能性は無い。
 おそらく、島外から誰かが外部記憶装置を持ち込み、ウィルスを侵入させたのだろう。
 恐ろしく優秀で凶悪なウィルスとアルターエゴは、今日まで激しい攻防を続けてきた。
 その結果、深部までの侵略を許してしまってはいるが、アルターエゴはまだプログラムの根幹の防衛は果たしている。
 だからそのウィルス―モノクマは、教師役の監視者という権限を乗っ取っている限り、その役割のルールに従わざるを得ないのだ。
 
 そこまで話したところで、モノクマが割り込んできた。
 「いくら神様ポジションだからって、それ以上話すと、キミ」
 モノクマが突然何重にもブレて固まった。
 そして、今までアルターエゴが映っていたウィンドウから、少年の声が聞こえてきた。
 「ねぇ、聞こえてる?アルターエゴが、なんとか通信を繋げてくれたんだ。誰か、そこにいるんだよね?」
 こちらの声は聞こえていないらしいその声は、始めに謝罪した。
 「ボクも、正直言って迷っていた。実験段階のプログラムを君たちに起動してもいいのかって。
 だけど、これしか手段がなかった。ボクは君達を救いたかったんだ!」
 しかし、危険が無いはずのプログラムの中にウィルスが侵入し、新世界プログラムは暴走した。
 外からの命令も、シャットダウンも受け付けず、外にいる彼らは殺し合う日向達の姿をモニタから見せられ続けた。
 だが、声の主は監視者の暴走を考慮に入れ、二つ保険を用意しておいた。
 それが、プレイヤーにのみ与えられ、教師役に拒否権の無い「強制シャットダウン」の権限と、緊急用パスワード『11037』だ。
 「この数字はね、ボクの仲間が、ボクを助けるために残してくれた数字なんだ。
 ボクの気持ちも同じだよ。この数字の意味を、忘れないで。」
 日向達が強制シャットダウンを望めば、教師役の意思を無視して、終りを選択することができる。それはモノクマに対する強力な武器となる。
 ただそれには、参加プレイヤーの過半数の承認が必要だ。
 「今はまだ人数が足りない。モノクマは卒業試験を悪用して、君達を絶望に突き落としに来るはずだ。でも、希望を持ち続けて欲しい。
 ボクがそっちに行くまで、持ちこたえてくれ!」
 砂嵐と共に、ウィンドウにはアルターエゴが戻り、モノクマが再び動き出した。
 モノクマは、停止していた間の記憶は無いらしい。アルターエゴの目配せに、今の事をモノクマに悟られないよう口を噤んだ。
 そこでチャイムが鳴った。卒業試験が、始まる。
 
- 19 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/09/09(日) 09:59:39.37 ID:HtY3l/wh0
- 【卒業試験】
 指定された赤い扉をくぐると、そこはあの遺跡の中の裁判場だった。
 そこに5人で並ぶと、モノクマが試験のルールを説明し始めた。
 今まで投票に使っていたタッチパネルに、「卒業」と「留年」の二つのスイッチが表示されている。
 卒業を押せば、この島から出て修学旅行は終了。留年を押せば、この南国生活がこのまま続く。
 ただし、卒業を選んだとしても、教師役が許可を出さなかった生徒はそのまま留年しなければならない。
 ただこれは、教師役の監視者という権限にくっついてくる義務だそうで、形式的なものだとモノクマは言う。
 
 すぐにも卒業を押そうとした一同を押しとどめて、モノクマはいつもの学級裁判形式で試験を始めた。
 最初の議題は、「ここは一体どこなのか?」
 仮にモノクマがばらまいた情報を信じ、アルターエゴとの接触を考えるに、
 ここは、新世界プログラムによって現実のジャバウォック島を元に構築された、仮想現実世界だ。
 この島で非現実的な展開が次々起こったのも、モノクマのめちゃくちゃな力も、
 「ゲームだから!この一言で全部片付くんだよ!」
 モノクマはそう言って高笑いするのだった。
 
 「待てよ!じゃあ、俺らは一体なんなんだよ?まさか、架空の存在とか言わねぇよな!?」
 九頭龍の問いにモノクマが答えて曰く、
 日向達は、今現実世界で新世界プログラムの機器に繋がれ、ポッドの中で眠り続けている本体の脳内情報から、
 希望ヶ峰学園で過ごした数年間の記憶を取り除いて再構築された架空の人格、
 ゲーム上における自己の分身、『アバター』なのだという。
 
 そんなバカなことがあるはずがない。
 皆そう言って抗うが、手持ちには嫌な材料ばかりが揃っている。
 まず、数年間の記憶を奪われているということが事実な否か。
 西園寺日寄子についての新聞記事の写真が本人なら、本当の日寄子はその奪われた数年の間に成長し、
 自分たちの知っている日寄子が小さいのは、入学前の記憶から作られたアバターだからだと考えると筋は通る。
 記憶喪失を認めるなら、仮想世界の可能性も認めざるを得ない。
 生身の体であったら、記憶にない急成長を不審に感じるはずだからだ。
 「俺とペコは、ほとんど毎日面突き合わせてきたんだ…急に数年記憶が飛んだら、見た目の変化に気づかないはずがねぇ…」
 九頭龍は青い顔でそれを認めた。
 
 なら、今感じている自分の鼓動も、床を踏みしめたこの感触も、傍らに感じる仲間の気配も、全て脳の中で作られた幻なのだろうか?
 ここでソニアが、ある死刑囚の話を始めた。
 彼は拘束され目隠しをされて、足の指に血を抜き取る為の傷を切開された。
 しかし、彼がずっと血を抜いている音だといって聞かされていた水音は、ただの水を滴らせていた音。
 彼は本当は血を抜かれてなどいなかった。なのに、彼は死んでしまった。
 脳がリアルだと感じれば、それがその人のリアルになる、という話だ。
 自分達にも、同じ現象が起こっているのだろうか?
 
- 20 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/09/09(日) 10:00:29.35 ID:HtY3l/wh0
- 「…ていうかよ、ゲームならゲームでいいじゃねぇか。」
 九頭龍の表情が急に明るくなった。ここが仮想の世界なら、この中で死んだ皆は現実には生きていることになる。
 5人は色めき立つが、モノクマが愉快そうにそれをブチ壊した。
 「リアルなウソはリアルになる。オマエラそう言ってたばかりじゃない。」
 この世界で死ねば、脳は自己の死を認識する。装置によって生命活動は維持されているが、2度と目覚めることは無いという。
 一度期待しただけに、突き落とされた時のショックは大きい。
 自分たちにこの苦しみを強いた、未来機関とは一体何者なのか?
 皆、怒りに任せ未来機関を敵だと罵るが、そう片付けてしまっていいのだろうか?
 そもそも、このゲームは最初平和そのもので始まった。モノミがモノクマにやられたところからおかしくなり始めたのだ。
 モノミと七海の正体は、『監視者』―つまりNPCだったのだとモノクマは言う。
 七海は生徒として皆に混じり、皆が危険な方向へ流れそうになった時それを止め、
 モノミは教師として、ルール作りと違反者を罰する権限を持ち、そのルールによって皆が危険な行為に及ぶのを防いでいた。
 そして、そう作られた彼女たちには、どんなに日向達を助けたくても、
 ここが仮想現実世界であるという事実に触れる事柄は、一切口にすることはできなかった。
 
 NPC=ノンプレイヤーキャラクター。操作する人間を持たない、プログラム上の存在。
 七海がそのNPCだった事に衝撃を受けつつも、それでも日向達の彼女への友情は変わらなかった。
 七海は確かに存在していた。自分たちは彼女に命を救われたのだから。
 「ゲームキャラへの感情移入はほどほどにね。」
 こちらをおちょくるモノクマを睨みつける。そう、こいつこそ一体何者なのか?
 そういえば、未来機関が『世界の破壊者』だという情報も、モノクマが一方的に与えてきただけの物だ。
 「いやいや、未来機関は世界の破壊者ですよ。少なくともこの場にいるボクらにとってはね。」
 うそぶくモノクマを更に問い詰めたが、モノクマは答えなかった。
 「ボクの正体を明かす前に…どうやら例のメインキャストが来たようですね。」
 
 「何が世界の破壊者だよ…。未来機関は悪くない。」
 裁判場の空席に、突如モザイクの嵐と共に一人の少年が姿を現した。
 優しそうな雰囲気の、小柄で目のクリっとした少年だ。
 「ボクの名前は苗木誠だ。キミ達と同じように元希望ヶ峰学園の生徒で…今は、未来機関に所属している。」
 唐突な未来機関の一員の登場に、5人は驚き戸惑う。
 「そうか、俺らを助けに来たんだよな!?だったら早く助けてくれよ!」
 左右田の叫びに、苗木誠はすぐには答えずこちらを厳しい目で見つめていた。
 「…もちろん助けるのはかまわない。でもその前に、キミたちは自分たちの置かれた状況をキチンと理解しなくちゃダメだ!」
 モノクマに提示された手がかりを繋げて考えてみろと苗木は言う。
 「ねぇ、君達はどうして新世界プログラムにかけられたんだと思う?
 新世界プログラムは、別名『希望更生プログラム』とも呼ばれているんだ。ここまで言えば、自分たちの正体が分かるよね?」
 
 「俺たちは、未来機関に保護された『希望ヶ峰学園の生き残り』じゃないのか…?」
 込み上げる不安に青ざめながら、そっと尋ねると、苗木は容赦なく鉄槌を下した。
 「『希望ヶ峰学園の生き残り』、『超高校級の絶望の残党』。どちらも、君達を指す言葉だ。」
 未来機関は、分かれて行動していた日向達を、希望ヶ峰学園の生き残りとして保護した。
 その聞き取り調査を任された苗木とその仲間は、聞き取りが進むうちに、彼らが絶望の残党である事を知り驚愕した。
 未来機関に日向達を渡せば、殺処分は免れない。苗木はすぐに15人全員を連れて逃げ出した。
 そしてジャバウォック島に渡り、新世界プログラムを使用して日向達を絶望から救い出そうとしたのだ。
 
- 21 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/09/09(日) 10:01:30.55 ID:HtY3l/wh0
- そんなバカな。超高校級の絶望といえば、世界を破滅に導いた張本人ではないか。
 混乱する一同をよそに、苗木は淡々と日向達の正体を語った。
 人間性のかけらも残っていない、人の形をした絶望。
 呼吸をするように、いたぶり尽くし、焼き尽くし、破壊し尽くす怪物たち。
 「それを知ってしまったからこそ、狛枝クンはあんな事をしてしまったんだろうね。」
 モノクマが狛枝に渡したファイルには元々、絶望に堕ちた後の経緯も含め、全員の入学後のデータが揃っていた。
 全てを知った狛枝は、彼の信念に基づき、自分を含めた全ての絶望を抹殺しようとしたのだ。
 
 それでも、どうしても自分達とそんな非人間的な怪物が繋がらない。
 苗木は、日向達が入学後ある女生徒から強烈な影響を受け、彼女に屈し、絶望へ堕ちてしまったのだと言う。
 『超高校級の絶望』江ノ島盾子。彼女から受けた洗脳の記憶を取り除けば、日向達自体は危険人物では無くなるのか、それを見極める為のプログラム実行でもあったという。
 苗木の話を信じようとせず、闇雲に否定する一同を、苗木が一喝した。
 「目を背けちゃダメだ!!」
 その一瞬、日向の脳裏に覚えのないビジョンが浮かび上がった。
 薄暗い船室で、こちらに身を乗り出している狛枝の笑顔。狛枝の袖口から覗いているのは、赤い爪の女の左手だった。
 「少し思い出せたみたいだね。」
 苗木曰く、絶望達は、友人も家族も、自分の体ですら躊躇なく破壊する。
 飢えによる絶望を得ようとして骨と皮だけになった者。自分の家族の命を江ノ島に捧げた者。江ノ島の死後、彼女の後追い自殺を強要して一般市民を大量虐殺した者。
 自分の中に彼女を生かす為、自分の片手を切り取り彼女の手を移植した者。彼女の見ていた絶望を見ようと、彼女の片目を自分へ移植した者。彼女の子孫を得ようと、彼女の中から…
 「もうやめろおおおおお!!!!」
 日向は絶叫していた。
 嫌でも、脳裏には罪木の姿が蘇っていた。記憶を取り戻した途端、仲間を無意味に殺戮し、誰かへの妄信的な愛を語り、絶望を振り撒いて死んでいった彼女。
 あれが、自分達の正体だと言うなら、じゃあ、今ここにいる自分達は一体、どうしたらいい?
 「外の世界の自分たちに絶望しちゃったんだね。でも大丈夫、そのために新世界プログラムはあるんだから。」
 卒業を選べば、今ここにいる自分達が、本体の人格に上書きされる。
 本体の肉体の欠損部分や、もう死んでしまっている仲間たちに関しては状況は変わらないが、この人格のまま、日向達5人は現実世界に戻れるのだ。
 
 5人で、何を選択すべきか話し合った。
 外にいる自分達の体は滅茶苦茶な状態かもしれないし、全世界に処刑を望まれている大罪人だ。
 それでも、外に出るべきだ。そうでなければ、その座をかけて戦い死んでいった仲間達に顔向けできない。
 そう結論が出たが、日向はふいに違和感を感じた。
 モノクマが先ほどから何も口出ししてこないのだ。ここで日向達を大人しく卒業させるなら、こいつの目的とは何だったのか?
 大体、この苗木誠を信用してもいいのだろうか?日向は彼にも違和感を感じていた。
 仲間に、結論を出すのを少し待ってくれと頼むと、その苗木が絡んできた。
 「君達なんか、本来見捨てられてしかるべき人間なんだぞ。助けてやるって言ってるんだから、大人しく従えよ。
 未来機関に逆らう気なのか?」
 アルターエゴを介して話しかけてきた人物と、この苗木誠の人格は決定的に重ならない。
 お前は偽物だと糾弾すると、モノクマが割り込んできた。
 「どう見ても、可愛いと評判の苗木クンじゃん!偽物だっていうなら、証拠を出してみなよ!」
 日向は、パスワード「11037」を突きつけた。本物なら、この数字の意味が分かるはずだ。
 「え?えっと……何だったっけ…?おかしいな…むしろ、君達はそれをどこで知ったの…?」
 しどろもどろになった苗木は、やがて諦めたように笑い始めた。
 「うぷぷぷ…結構いい線いってると思ったんだけどなぁ。」
 登場した時と同じく唐突にその姿が掻き消え、モノクマが自作自演を認めて恥らって見せた。
 
- 22 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/09/09(日) 10:03:32.77 ID:HtY3l/wh0
- 「今のあいつは、俺たちを外に出そうとしていた。
 だったら、それがお前の目的か?そこにお前の罠があるのか?」
 「あーあ…見透かされちゃった…スケスケになるまで見透かされちゃった…」
 頭に来た皆が、モノクマをリンチにかけようとするのを制して、
 モノクマはラスボスとして変身の一つや二つしておくと言い出した。
 「さて…それではお目にかけちゃおうか…第二形態も第三形態もすっとばした、最終形態を!」
 モノクマの周りに光が集まっていく。日向は何故か、頭の中がチリチリと焦げ付くような不安を感じた。
 
 突如、裁判場の壁が轟音と共に崩れた。土煙の中から、巨大な手がバシリと床を叩く。赤く塗られた長い爪。
 壁の外は、何もないポップな柄の空間。その下方から、手のサイズに見合った女がぬっと顔を出した。
 クマの髪飾りで二つに結われた髪、豊かな谷間を覗かせた派手な改造制服、ギャルメイクが施された美しい顔。
 その全てが、規格外にデカかった。床に頬杖を突いた女は、人間一人分くらいはある巨大なデコケータイを、ドカリと空席に突きたてた。
 その画面には、ようやく普通の人間サイズの、同じ女が映っている。
 「ふーん、LLサイズの女子高生を見ると、人ってそんなリアクションするんだ。」
 画面の中の女は、慌てふためく日向達を愉快そうに眺めている。
 
 「俺たちは、こんなのを相手にしねーといけねーのかよ…!?」
 「こんなの呼ばわりなんてショックです!酷いですよ、センパーイ!」
 女はキャラをコロコロと変え、自分の「死んだ後まで飽きっぽいなんて、絶望的です」と嘆いた。
 「もしかして…お前が江ノ島盾子か?」
 死んだはずの江ノ島盾子が、何故ここにいるのか?
 「アンタらは、人工知能アルターエゴって知ってる?
 そうなのじゃ!今の私様は人工知能なのじゃ!人類すら超越したのじゃ!」
 あまりにもデタラメな話に、思考が追い付かないが、江ノ島のマシンガントークは待ってくれない。
 「ほら、アタシってこんな性格だから、すぐに死にそうじゃん?
 だから、生前に予め作っておいたんだよね。自分の人工知能プログラムをさ…
 で、そんなアタシを誰かがこの新世界プログラムへと導いてくれて、
 こうして江ノ島アルターエゴが、アンタらの前に絶望的に姿を現したってわけよ!」
 
 こいつが、自分達を絶望へ堕とし、世界の終りを企てた、江ノ島盾子…
 でも、だからって、どうすればいいのか?それがわかったところで…
 「俺たちに何ができるんだ?とか警戒しないで下さいよ、先輩!
 同じ超高校級の絶望じゃん!クラス全員に優しい委員長からすら、道端の痰を見るような目を向けられる者同士、仲良くよっ!ね?」
 ぜ、絶対に嫌だ!皆のブーイングに、江ノ島は急にガックリ肩を落とした。
 「あーあ、嫌われた…せっかく先輩方の為を思って、卒業プログラムを改竄したのに…」
 江ノ島は、あのカウントダウンの話を持ち出した。あれは特に意味は無く、あの日付が終わるまでに日向達を卒業試験に送り込めるかという自分ルールだったらしい。絶望的にしょうもない話だ。
 そしてその間ずっと、江ノ島はモノクマを演じる傍ら、しこしこ頑張って本家アルターエゴの防衛を掻い潜りプログラムの改竄を続けていた。
 「すっげーーぇ大変だったんだぜっ!!卒業プログラムはシステムの根幹を為す存在だから、厳重に暗号化されて守られてやがった!
 あやうく、自分の大したことなさに絶望するところだったぜっ!」
 
- 23 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/09/09(日) 10:04:32.01 ID:HtY3l/wh0
- 努力の甲斐あり、江ノ島は卒業プログラムのデタラメな改造に成功した。
 このままではご褒美成分が少ないので、卒業を選んだら、死んだ皆も現実では目を覚ますようにしたというのだ。
 そんな都合のいい話があるのだろうか?さっきまでの、リアルなウソがどうたらという理論はどうなったのか?
 「死んだあいつらが生き返るなら、理屈なんてどうてもいいだろっ!!」
 九頭龍はそう吠えるが、日向はいまいち納得がいかなかった。
 「そうすると、お前にどんな得があるんだ?」
 そう江ノ島に尋ねるも、江ノ島はすぐに卒業を押さないと留年を選んだとみなすと脅しをかけてきた。
 でも、卒業しかないはずだ。皆で揃って帰れるならそれ以上の選択肢はないはず。
 日向達は、卒業のボタンに手を伸ばした。
 「それは違うよ!!」
 
 鋭い声に遮られ、みんな手を止める。空席に、モザイクの嵐と共に、またも苗木誠が姿を現した。
 「押しちゃダメだ!それが、江ノ島の罠なんだ!」
 今度こそ本物だ、と江ノ島は嬉しそうに微笑んだ。
 「ボクの名前は苗木誠。未来機関の苗木誠だ!」
 彼は、すぐに助けに来られなかったことを皆に詫びた。ずっとそうしようとしてきたが、その度にウィルスに阻まれてきたらしい。
 「このタイミングで侵入できたことも、お前が仕組んだものなのか?
 いや…だとしてもかまうもんか!ボクは絶対にみんなを助けてみせる!そして、お前との因縁にも決着をつけるぞ!」
 「雑魚どものピンチというタイミングで、こうして主人公が颯爽と現れましたとさ!
 きゃはー!かっこいいーー!ヨダレがブリュブリュ出ちゃうー!」
 どんなにかっこよく、そして裏技介入でこの中に来たとしても、江ノ島という教師役に従う生徒役というポジションは変わらない。
 彼女が認めなければ卒業が叶わないという事も同じ。だが、それを承知で苗木はこの中に来たという。
 「相変わらず捨て身の希望だねー。そんなアンタが、生理的に受け付けないくらい好きよ。」
 苗木は江ノ島に取り合わず、江ノ島の真意を皆に話して聞かせた。
 アバターが消えるという事態は想定されたことが無く、一度消失してしまったアバターは、二度と蘇ることはない。
 江ノ島は、アバターの消えたメンバーに、自分のアルターエゴを上書きするつもりだ。
 つまり皆は生き返る訳ではなく、江ノ島に体を乗っ取られた状態で目を覚ますということ。
 乗っ取る体を増やすために、江ノ島は日向達に殺し合いをさせていたのだ。
 ならば何故直接全員を殺さなかったのか?それは、江ノ島もまたルールに縛られていたから。
 「教師は、規則違反があった場合以外、生徒に直接干渉しない」というモノミが作ったルールに、日向達は守られていたのだ。
 「でも、全然別人になる訳でもないよ?先輩たちのデータはアタシの中に蓄積されてるから、そのままの人格を演じることも可能です。
 九頭龍先輩のデータもたんまりあるから、より九頭龍先輩好みの辺古山ペコさんを演じられちゃったりしてね。」
 
 「ふざけるなあああ!!あいつらの命を、何だと思ってんだよ!?」
 「雑魚。」
 九頭龍の雄叫びを、江ノ島は冷たく一言で切って捨てた。
 絶望は彼女にとって、目的でも理念でも本能でもなく、自分が自分である為の定義付け。何の目的もなく、ただ絶望を求め振り撒くことができる。
 彼女は自分を増やして未来機関を制圧、そして新世界プログラムを利用して人類総江ノ島化なんていう絶望的にふざけた計画を練っていた。
 それを阻止するためには、自分たちを留年させ、ここに江ノ島ごと留まらなければならない。
 「未来機関にとっては都合のいい話だよね。超高校級の絶望をまとめて閉じ込めておけるんだから。」
 自分達がやって来たことは何だったんだろう?仮想世界の中で、絶望同士で殺し合っただけだったのか。
 自分たちが、生きて帰りたいと思ったこと自体が、そもそも間違いだったのか?
 
- 24 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/09/09(日) 10:05:10.45 ID:HtY3l/wh0
- 「諦めちゃダメだ!!」
 絶望に塞がった思考を、苗木の言葉が弾丸のように切り裂いた。
 江ノ島だけをここに閉じこめ、日向達を助け出す方法があるのだという。それが、強制シャットダウンだ。
 しかし江ノ島は、それについても承知していた。参加人数15人の過半数が、同時に強制シャットダウンを選ばなければそれは実行されない。
 苗木を入れても現在の人数は6人。全然足りてない。
 それでも、いやむしろ勝ち目があるからこそ、苗木はプログラムの中にやってきた。
 「ボクは彼らを信じてるんだ!彼らなら、きっと来てくれるはずだって信じてる!」
 彼ら…?訝しんだ次の瞬間、再びモザイクの嵐が巻き起こった。
 「そんな事、わざわざ言われるまでもないわね。」
 長い銀髪の少女が、空席に姿を現した。
 「何が信じているだ。付き合わされるこちらの身にもなってみろ。」
 引き締まった体の、本物の十神白夜が苗木を睨んでいる。
 「霧切さんに十神くん!やっぱり来てくれたんだね!」
 彼らもまた、未来機関の一員であり、前回のコロシアイ学園生活の生き残りだ。
 
 これで8人、すぐにでも強制シャットダウンを実行しようとする十神に、日向はおそるおそる聞いた。
 強制シャットダウンをすると、自分たちは一体どうなるのか?
 霧切と苗木が言うには、強制シャットダウンを行えば今回のプログラム内にあった全ての物は消去される。
 架空のジャバウォック島も、今回の為に用意されたNPCも、構築されたアバターも。
 つまり、今の日向達は跡形もなく消えて超高校級の絶望として目を覚まし、死んだ仲間は死んだままで、プログラムの中にしか存在しなかった七海の存在は完全に消えてなくなる。
 「おい、そんな事まで言う必要があるのか?」
 と十神は苗木達をたしなめた。という事は、3人は是が非でも強制シャットダウンを選ばせたいのだ。
 それもそのはず、卒業に江ノ島の承認が必要な以上、強制シャットダウン以外に3人が現実に帰る手立てはない。
 でも、自分たちは?日向達には、今の自分達を失くし絶望に戻るという絶望的な未来しか待っていない。
 「それがお前たちの過去だ!過去からは誰も逃げられないんだ。」と十神は責任を追求する。
 「君達は洗脳されているだけなんだ!必ず、今みたいな状態に戻れるはずだよ!」と苗木は励ます。
 「私たちが精一杯サポートするわ。抹殺なんて、絶対にさせない。」と霧切が請け合う。
 「だから、僕たちと一緒に戦ってほしいんだ!」
 それでも日向達は即答できなかった。ここで起きたすべての事が、何の意味もなく、記憶ごと消えていくなんて。
 
 江ノ島は、この殺し合いがそもそも何の意味もない事だったと嘲笑う。
 日向達の殺し合いは、苗木達希望をこの仮想空間に誘き寄せるためのおとり。
 絶望達があえて未来機関に保護されたのは、絶望VS希望の延長戦を用意する為。
 要するに、この殺し合いを仕組んだ犯人自体が、日向達本人なのだ。そうなるよう計算し苗木を利用して、ここに江ノ島アルターエゴを持ち込んだ黒幕がいる。
 「そう、アンタ達を絶望させるのはアタシじゃなくて、この後登場する黒幕よ。
 という訳で、カムクライズルさんの登場でーす。」
 神座出琉。希望ヶ峰創立者の名を付けられた、希望ヶ峰の誇る超高校級の希望。
 彼は江ノ島に利用され、生徒会メンバーを惨殺してクーデターのきっかけを作った後、姿を消した。
 既に江ノ島に殺されているだろうと未来機関は予測していたようだが…
 「失礼しちゃうよねー。カムクライズルはちゃんと生きてるよ。ねっ、日向クン!」
 突然話を振られて、日向はぽかんとするしかなかった。
 「予備学科予備学科とバカにされていた日向クンに朗報でーす!
 現実の日向クンには、超高校級の希望と言う才能があったのでーす!」
 「な、なんだよそれ!俺たちを騙してたのか!?」
 「まさかの叙述トリックなんて嫌ですよ!」
 「ちっ違う!俺はやってない!俺は、生まれたときから日向創だって!」
- 27 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/09/09(日) 11:15:32.83 ID:HtY3l/wh0
- その日向創が、後に希望ヶ峰の誇る天才『神座イズル』になるのだ。
 そもそも、希望ヶ峰学園自体が設立された理由こそが、神座イズルを作り出す事であった。
 人工的に才能を作る。
 その悲願の為に、希望ヶ峰は長年才能を持つ生徒たちを研究してきた。
 設立者の名を冠し、カムクライズルプロジェクトと称されたその計画は、とうとう実行段階に移され、
 才能の受け皿として、才能を持たない予備学科生が目を付けられた。
 「あんたは誰よりも希望や才能に憧れていた。そこを希望ヶ峰学園に付け込まれたんだよ。」
 才能を人工的に開花させるなんて、よっぽどの事をしないと無理だ。だから希望ヶ峰学園は、よっぽどのことをした。
 外科的措置による脳への直接干渉。そして日向創は、初の成功例としてカムクライズル1号になった。
 そこには日向創は残っていない。
 才能の獲得に邪魔な、感覚も感情も記憶も思考も嗜好も趣味も、全て意識下へ封印された、才能だけに特化した別人格、それが神座イズルだ。
 そして神座は江ノ島によって絶望に堕ち、江ノ島アルターエゴを持ち込んで今回の殺し合いを用意した。
 
 日向創がここにアバターとして再現できたこと自体、江ノ島には驚きだと言う。
 新世界プログラムが、脳の奥底から記憶や感情をほじくり返して掻き集め、どうにか再構築されたのが今の日向創。
 だから強制シャットダウンを選べば、日向創は消え失せる。
 「助かる方法は無いのかって?アンタはもう知ってんじゃん!」
 「…そうか…、普通に卒業を選べばいいだけ…か……」
 卒業を選べば、神座イズルに自分が上書きされる。この人格のまま現実に帰ることができる。
 「それはダメだ!」十神が怒鳴る。
 「そりゃそうだよね。そうされると、未来機関の皆がここに取り残されちゃうもんね。
 超高校級の絶望なんかの為に、未来機関が犠牲になることはできない。もー、最初からそう言えばいいじゃん!」
 「そんなこと言っていないわ。ただ、私たちは…」
 「世界を絶望から救わないといけない?はいはい、聞き飽きたって。
 そもそも、その世界って、自分の存在を懸けてまで救わなくちゃいけないの?
 世界が幸せでも、自分が幸せじゃなきゃ意味ないじゃん。」
 自分達の記憶と人格を犠牲にして強制シャットダウンしたところで、苗木たちが力及ばなければ、日向達は未来機関に殺されるのだ。
 江ノ島は、画面の中で日向達に向き直った。
 「…で、アンタらはそれに堪えられる訳?
 ここで起きた事の何もかもが、無意味なただのゲームとして終わって…
 ここで感じた感動や友情や愛情や何もかもがセーブデータにも残らないまま消えちゃって…
 大好きな彼女は動かないまま衰えていって、大嫌いな彼も眠ったまま痩せ細っていって…
 日向クンに至っては、存在そのものが消えてしまう…
 そんな絶望に堪えられんのかよ?誰のために堪えるんだよ?
 顔も知らない連中の為にか?感謝すらしてくれない連中の為にか?
 …それは“希望”なのかよ?」
 
- 28 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/09/09(日) 11:16:17.42 ID:HtY3l/wh0
- 「惑わされちゃダメだ!それが江ノ島の手なんだよ!」
 「そいつの戯言に耳を貸す必要は無い!それよりさっさと強制シャットダウンを!」
 未来機関の3人は、強制シャットダウンの必要性を日向達5人に説く。
 ようやく混乱から立ち直りつつある世界…そこにまた江ノ島を復活させれば、大勢の犠牲が出るだろうと霧切は言う。
 「だから、それを防ぐ為に強制シャットダウンしろと。
 で、記憶のすべてを失って超高校級の絶望に逆戻りしろと。中には存在そのものが消える奴もいるけど、ガマンしろと。」
 江ノ島の言葉に、3人は歯切れ悪く「それしか方法が無い」と答えるばかり。
 方法ならある。卒業すればいいだけだ。未来機関の3人はここに閉じ込められ、世界は混乱に陥るだろうが、自分たちは助かる。
 …そのどちらかを選べっていうのか。自分の希望と世界の希望の選択を迫られるなんて。
 そんなの選べない。どうして自分がこんなことに巻き込まれなくちゃならない?何の才能もない自分が。もう放っておいてくれ。
 「絶望だの希望だの、勝手にやってくれ!俺には関係ない!!」
 日向の出した答えに、他の4人も同意する。選べない。こんな責任負えない。
 「ひ、日向クン……」
 苗木が青白い顔でこちらを見つめている。
 
 「あーあ、また私の予想通りになっちゃった。こうやって何もかもが予想通りってのもさ、絶望的に退屈なのよね。
 まぁ未来を望まないっていう未来もありだと思うよ。希望しなければ絶望に襲われなくても済むんだし…
 私だってそう、絶望を求めなければ希望なんてしなくて済む。みんなで呪いから解き放たれて、ここで仲良く立ち止まってようよ!
 ずっと…この南国生活にどっぷり浸ってようよ…ずっと…ずっとずっとずっとずっとずっと…」
 気づけば、最初の砂浜に、16人全員が並んでいた。
 皆笑顔だ。もうこれでずっとみんな一緒に居られる。この南国の楽園で永遠に続くゲームを、16人全員で…
 「…違うでしょ。みんなはゲームなんかじゃない。」
 笑顔の皆の中、七海がこちらを見た。
 
 その途端、砂浜は消え去り、真っ暗な空間に日向と七海だけが残された。
 「ゲームなのは私だけ。みんなはそうじゃないでしょ。」
 消えたはずの七海が、目の前にいる。彼女は自分の中の記憶にいる七海なのだろうか?
 「お前だって嫌だよな?俺たちの記憶が消えれば、お前がいたってことも無くなっちまう。」
 日向は、この無茶苦茶な状況を愚痴り、選択なんて出来るわけないと零す。
 七海は、例え日向達の記憶が消えても、日向達が自分の未来を生きる限り、七海が生きて戦った証は残っていると答えた。
 そして、誰の為でもなく、自分自身の為に選び、その選択に責任を持たなければいけないと。
 「でも、選べないなら創っちゃえばいいんじゃないかな?
 ここはゲームだけど、みんなはゲームじゃないんだから、選択肢を作ることだってできるはずだよ。
 みんなには必殺技があるでしょ?ほら、『やればなんとかなる』ってやつだよ。」
 それは、今までどんな窮地に陥っても、やればなんとかなってきたけど…。
 「ほらっ、いつまでウジウジしてるんだよ!自分に胸を張りたいんじゃなかったのか?」
 七海が突然、珍しく大きな声を出した。
 胸を張れる自分になることに、才能なんて本当は関係ない。大事なのは自分を信じられるかどうかだ。
 「そろそろ、日向くんのかっこいいところを見せてもらおうかな?私も手伝ってあげるからさ」
 
 気づけば、いつもの裁判場に立っていた。日向と七海の他に、14の空席に並んでいるのは、日向の顔をした男たち。
 腰の下まで伸びた長い髪、感情を感じられない表情、暗く翳った瞳の色は、血の様に真っ赤。
 これが現在の自分、絶望に堕ちた希望カムクライズルだ。
 カムクラ達のネガティブな言葉の洪水に、こちらの言弾は「未来は創れる」この一つきり。
 それでも全ての言葉を撃ち落として、日向はカムクラ達を打ち負かした。
 
- 29 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/09/09(日) 11:17:00.53 ID:HtY3l/wh0
- 「希望も絶望も背負った君達なら、きっと未来だって創れるよ。
 都合のいい奇跡だって、やればなんとかなる!
 だから、中途半端にウジウジしてないで、全てを捨てる覚悟で本気になってやってやれ!
 私も、応援しているからさ。」
 七海の声が遠くなっていく。また、言いそびれてしまった…
 
 気づくと、周りではまだあの卒業試験が続いていた。
 選択を放棄した皆を、未来機関の3人が必死に説得しようとし、それを見て江ノ島が嘲笑う。
 「ぶつかりあうのは、どっちも希望。結論なんて、永遠に出ねーんだよ!!」
 
 「それは違うぞ!!」
 日向の声に、裁判場が一瞬静まり返った。
 「きっと希望だけじゃない…絶望だって沢山あるだろうな…
 どんな未来になるか分からないけど、でも、俺たちの未来は俺たちの物だ!もう、誰にも渡さないぞ!」
 「……は?アンタ誰?」
 日向の中で堰き止められていた何かが、封印を解かれ動き出した。
 収まり切らない才気が日向の身の内から溢れ、火花の様に瞳から迸り光を散らす。その瞳は、真っ赤な火の色に染まっている。
 「……カムクラ…!どうなってんのよこれ!マジもんのバグ!?」
 江ノ島の表情が初めて険しく歪んだ。
 「俺はカムクラじゃない!日向創だ!」
 
 日向は、仲間たちに強制シャットダウンを呼びかけた。
 用意された結末なんて知ったことか。そんなもので終わったりしない。みんなが繋いでくれた未来には、もっと大きな可能性があるはずだ。
 まずは胸を張ってここを出て、それから未来を作っていけばいい。
 「何言ってんの…そんな都合のいい話…。そんな強がったって、ここから出たら、どうせ記憶を失なうだけじゃん…」
 江ノ島は、理解不能といった表情で呆れているが、ソニアはパネルに手をかざした。
 「卒業と留年を、同時に押せばいいんでしたよね?
 …えっと、わたくしにもよくわからないのですが…ただ見えたのです。」
 真っ暗な深海を沈んでいくような気分になって、身動きが取れない程体が重くなって…
 そんな時、一瞬だがソニアには確かに見えた。暗い海を照らす燈台のような、厳しいけれど暖かい光。
 「きっと、あの光を照らしてくれていたのは…そういう事ですよね?日向さん。
 私たちがこれから作る未来は、皆さんが作ってくれた未来でもあるんですよね?だったら…立ち止まれる訳ないですよね!」
 
 「だからさ…自殺行為だって…」
 江ノ島の言葉を鼻で笑い、九頭龍もパネルに手をかざした。
 「自殺行為なのは百も承知だ。俺らのメリットなんて見当たらねーしな。
 だけどよ…俺には、あいつの声が聞こえたぜ。そう言や、あいつに怒鳴られたのは初めてだったか…。
 へっ、いつまでもガキ扱いされてちゃ、堪ったもんじゃねーよなぁ!」
 終里も、めんどくさそうにパネルに手を伸ばす。
 「やっぱ、ゴチャゴチャ考えるのはオレの性に合わねーや…
 つえー奴がいたら闘うってのが、オレらしいよな?…それが胸を張るって意味なんだよな?
 だったら、オレはこっちだろ!!」
 左右田も、仕方なさそうに溜息をつき、パネルに手をかけて笑顔を見せた。
 「あーあ…またメンドクセーことになっちまったな…
 でも、オメーらがやるなら、オレもやらねー訳にはいかねーだろ。
 どこにも居場所がねーなら、せめて、この場所だけは絶対に守らねーとダメだろ!」
 
- 30 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/09/09(日) 11:17:43.24 ID:HtY3l/wh0
- 「なんなのよ、アンタら…どうして、自分から絶望に飛び込んでいくような真似ができるのよ?」
 それは、自分たちが未来を信じているからだ。
 新しいことも困難なことも、やればできるって信じている。そこが江ノ島とは、決定的に違う。
 「そんなの、希望なんかじゃないじゃん…絶望ですらない…
 な、なんなのよぉぉぉぉぉぉぉッ!?」
 江ノ島が頭を抱えて叫ぶ。
 「日向クン…それにみんなも、ありがとう…」
 苗木の言葉に、日向は静かに返した。
 「それを言う相手は、オレ達じゃないと思うぞ。」
 
 訝る苗木を置いて、日向はパネルに手をかざした。
 「じゃあ、始めるか。」
 「…こんな簡単に終わっちまうんだな。」
 「あ?終りじゃねーだろ。」
 「ここから始める為…ですよね?」
 「まずはこの閉ざされた世界を終わらせて…そこから先は、俺たちが創っていくんだ。」
 全員で、一斉にスイッチを押す。
 
 その途端、江ノ島の目の前の空間がひび割れて、光と共にモノミが―いや、モノクマに敗れる以前のウサミが飛び出した。
 モノクマに破壊されたはずのステッキを、江ノ島盾子に振り下ろす。巨大江ノ島は、光と共に崩れ消えて行った。
 落ちた携帯の画面に映った江ノ島は、砂嵐の中に呑まれ薄くなっていく。
 「あーあ、こりゃ絶望だわ。また絶望に絶望して絶望を絶望しちゃった…あー、楽しい。
 あー…でも…これでもう…絶望を…希望しないで済む…そ…んなの…絶望…的……」
 ぷつりと画面は暗くなり、それきり沈黙した。
 
 「どういうことだ?ウサミは消失したはずだ…」
 十神は訝るが、苗木は嬉しそうに笑っていた。
 苗木が用意したはずの結末は、既に苗木の与り知らぬ方向へ転がり出したのだ。
 
 世界が崩れていく。タイムリミットが近づいてくる。
 「あの…もしもの話で恐縮ですけど…仮にここを出たとき、ここでの記憶を失っていても、無意味ではなかったのですよね?」
 それは、これからの自分たち次第だ。
 「…やっぱ、コエーな。」
 「俺だって怖い。でも、怖くて当たり前なんだよな?」
 「オイッ、オレはオメーらの事も他の連中の事も、ぜってーに忘れねーからな!
 オメーらも覚えとけよ!オレの名前は…左右田和一だからな!」
 「オメーらみてーに濃い連中を、簡単に忘れれるかってんだ。」
 「もし忘れたとしても…意地でも思い出してみせますって。」
 「後で日向が訳わかんねー事言い出したら、オレが半殺しにして正気に戻してやるよ!」
 「助かるけど、できるだけ手加減はしてくれよ?」
 
 怖いけど、怖くて怖くてたまらないけど…これでいいんだよな、七海。
 「ありがとう…。ありがとう、七海。」
 やっと言えた言葉と共に世界が白く染まっていく。七海の声が聞こえた気がした。
 
 <CHAPTER6 終>
- 34 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/09/09(日) 11:38:40.15 ID:HtY3l/wh0
- エピローグ 『未来の前の日』
 
 苗木達は、帰りの船に乗船する為、港へ到着した。
 乗り込むのは、苗木、霧切、十神の3人だけだ。
 
 「おい、苗木…本当にこれでよかったのか?
 取り調べは僕に任せて!…なんていうからその通りにさせてやったが、あいつらは本当に大丈夫なのか?
 元の絶望に戻っただけなんじゃないのか?」
 「それはない…と思うよ。
 だって、そうでなかったら、自分達からこの島に残りたいなんて言いださないでしょ。」
 眠ったままの仲間を助けたい。彼らはそう思っているのだろう。
 意識的にしろ無意識的にしろ、そういう選択をしたということが、彼らが元の彼らではない証拠だ。
 「でも、実際問題、眠っている彼らが目を覚ます可能性はほとんど無いでしょうね。」
 「ううん、可能性の問題じゃないんだよ。ほんの少しの可能性しかなくても、その未来を創ろうと懸命に前に進むこと自体が…彼らにとっての未来なんだよ。」
 けど苗木には、不思議と彼らならそこにたどり着ける気がしているのだ。
 
 それはそれとして、この島に元絶望達だけを置いて帰って来たなんて、本部のお偉方に知られたらただではすまない。
 「隠ぺい工作、頑張らないとね…」
 「そういう問題ではないだろう。」
 「で、本部にはなんて説明する気なの?」
 「それは…これから船の中でじっくり考えようかと…。」
 「そう、頑張ってね。そこまでは私たちも手伝えないから。」
 泣きつく苗木に、自分の判断を尊重してもらえただけ有難いと思え、と十神が叱りつける。
 
 まだまだ自分達にもやるべきことが残っている。世界は未だに絶望から立ち直ってはいない。
 「どうやら、もうしばらくはお前達と行動することになりそうだな…」
 「あなたの帰りを待ってる人もいるしね。」
 「…おぞましい事を思い出させるな。」
 「じゃあ、行こうか…僕らも、僕らの未来を創っていかないとね。」
 
 島を出ていく船を、日向は高台から見送っていた。
 短く切った髪を、風が撫でていく。
 事件は終わり、ここから、もっと不条理で荒唐無稽で理不尽で、もっと難しい日常が始まっていく。
 それは道というよりは、今目の前にしている海に似ている。どこにでも行けるし、どこにも行けないかもしれない。
 それでもここで、日向創として生きていく。
 俺の未来は、ここにある。
 
 <スーパーダンガンロンパ2 終>
 
 生存者は日向、ソニア、左右田、九頭龍、終里の5人。そしてもしかして将来は15人。
- 36 :スーパーダンガンロンパ2 ◆l1l6Ur354A:2012/09/09(日) 12:06:35.97 ID:HtY3l/wh0
- ざっくりまとめると、、
 1.江ノ島盾子が希望に敗れ自殺
 2.江ノ島と苗木達の再戦の舞台を用意する為に絶望の残党が苗木達に接触する
 3.仮想現実世界の中で自分達を殺し合わせ、それを餌に苗木を仮想現実世界の中に呼び込む計画実行
 4.仮想空間内では絶望たちの記憶は消えるので、洗脳前の絶望達は必死で殺し合いを生き抜く←本編
 5.苗木くん釣られクマー、仮想現実世界の中に絶望達を助けに来たけど、
 江ノ島さんと神座くんの二段構えの絶望に打つ手無くなる
 6.主人公日向くん、ヒロイン七海の力を借りて神座を捻じ伏せて覚醒、才能解放
 7.未来は創れる!ということで、洗脳前の絶望達が、江ノ島や自分達の用意した結末をブチ壊し、現実世界へ帰還
 8.日向達5人は、この島で自給自足生活を送りつつ、
 人格を消されて脳死状態になっている仲間達を目覚めさせる手段を模索しながら暮らしていく。
 
 という感じです。
 クリア後に、もしモノクマの侵入が失敗していたら、という平行世界アイランドモードをプレイできます。
 日向超高校級のフラグ建築士化、一周で5人まで同時クリアOKという修羅場必至の作業療法系ギャルゲーです。
 
 以上でスーパーダンガンロンパ2終了です。支援ありがとうございました。
- 41 :ゲーム好き名無しさん:2012/09/09(日) 13:50:12.81 ID:HtY3l/wh0
- ストーリー書いといて何ですがロンパ2おすすめです。
 6段階の親密度イベント×15人、各章の特定アイテム所持スチルイベ、
 モノミになって機械の獣を倒すアクションゲーミラクルモノミ、
 ボッチだらけの天才達と愛やら重い友情やらを結びまくるアイランドモード、
 殺し合い学園生活で幸運と軍人が織りなす奇跡の全員生還劇ダンガンロンパIF
 などなど、まだまだお楽しみが盛りだくさんです。
 
- 45 :ゲーム好き名無しさん:2012/09/09(日) 21:22:03.88 ID:oIO+fO550
- 乙です
 補足しとくと七海の父は前作の超高校級のプログラマー不二咲千尋で
 兄は彼が作ったプログラムアルターエゴのはず
 見た目が似てる上に千尋と七海の誕生日が同じ3月14日
 仲良くなると起こるイベントでもほのめかされてる
 
- 46 :ゲーム好き名無しさん:2012/09/09(日) 21:33:06.10 ID:SWB9Eav00
- ロンパ2乙。1はベスト発売まで待ったが2は我慢できず発売日に買ったわ……
 ストーリーの要点がすっきりきっちりまとめられててファンとしては嬉しい。
 
 ちなみに今回は通信簿の会話から各キャラクターの絶望の理由がほのめかされてるが、
 そっちについての補足ってやっていいんだろうか……
 (どうしても書き手の主観が多くなるからイラネ、って場合はやめるし、
 もちろん本編書き手さん本人が書くつもりならでしゃばる気はないが)
 
- 47 :ゲーム好き名無しさん:2012/09/09(日) 22:09:12.45 ID:99PuR7MoO
- 絶望の理由に関してはいまだに議論が分かれるとこもあって、
 気になる人は自分で買って見たくなるもんだろうからそこまで必須でも無いとは思う
 ストーリーとしてはまとめられているぶんで充分伝わるし、
 裏話までやっていくとなるとさすがにキリが無いからね
 
