Xenosaga Pied Piper
T.C. 4667年、『ゼノサーガ:エピソードI』の出来事の100年前。サイボーグのジギーことジグラット8が生前ジャン・ザウアーであった頃の姿が描かれる。
星団連邦警察の捜査官ジャン・ザウアーと彼のチームは、連続殺人事件を調査するため、惑星アブラクサス(後にミクタムと改名される)に派遣された。これらのテロ行為は、「ヴォイジャー」の偽名を使う正体不明の凄腕ハッカーによってU.N.M.ネットワーク内で引き起こされたものだった。ヴォイジャーの犯行手口は強制的に被害者の精神に侵入し、脳を乗っ取って自殺に追い込む。その被害者の多くが子供たちであった。
プロローグでは、ジャンの妻シャロンと義理の息子ホアキンが登場する。アブラクサスにある自宅のアパートで、シャロンはホアキンがU.M.N.上のヴァーチャルシミュレーションで合成犬と遊んでいる様子を見守っている。ホアキンがオンライン中に白いローブを纏った謎の人物が割り込んでログインし、『ヨハネの黙示録』の難解な一節を朗読すると姿を消した。この人物は後にヴォイジャーであることが明らかになる。
ジャン・ザウアーは、フィフス・エルサレムの警察学校を卒業後、T.C. 4660年よりジャンの叔父ショーン・マッカラムが司令官を務める連邦警察局第1875特殊作戦司令部分遣隊に配属される。
ジャンを隊長とする対テロ特殊部隊の同僚には、後に反U.M.N、反ヴェクター社を掲げる地下抵抗組織スキエンティアの設立者となる新人捜査官のメリス・オルタス、本人も知らず「プログラム・カナン」が組み込まれた初期型レアリエン(合成人間)であるデータ分析担当のラクティス、仮想現実空間において援護や武器支援などの任務を遂行する戦闘ロボットのバグス。そして経験豊富なU.M.N.オペレーターでエンセフェロン・ダイブをサポートするエーリッヒ・ウェーバーとミハイル・オルトマンがいる。
T.C. 4667年、冷戦状態にあり、アブラクサスを分割統治している移民船団と星団連邦の関係改善に向けたサミットがU.M.N.内に構築された仮想空間で行われるが、親善大使に選ばれた子供達がヴォイジャーによって監禁される事件が発生。ジャンの部隊がエンセフェロン・ダイブで突入するも子供達は敢え無く殺害されてしまうのだった。
ジャンは、病院に勤務する女性医師シャロン・ロサスと出会う。彼女はエンセフェロン・ダイブ中に意識不明に陥り病院で死亡が宣告されたエリック・ウェーバーやヴォイジャーの犠牲者たちの命を救おうとする中でこの事件に巻き込まれていく。不可解なことにエリックは死亡から数時間後に目を覚ました。
シャロンは誠実で思いやり深く、患者、とりわけヴォイジャーの標的となっている子供たちを気遣っている。かつてロスト・エルサレム(地球)を離れた人類は星団連邦と移民船団の2つの勢力圏に別れたが、シャロンを含めたアブラクサスの人口の大半を占めるのは、この惑星に最初に定住した移民船団の「ゾハルの民」に属している人々で、オルムス教会の敬虔な信徒として彼女もしばしばアルコン大聖堂を訪れ、聖職者たちに助言を求めている。
捜査を進める中でジャンはシャロンの息子ホアキンと親しくなり、シャロンとも恋愛関係に発展する。シャロンの前夫も警察官で職務中に殉職しており、ホアキンは父を亡くしていた。やがてシャロンとジャンは結婚し、ホアキンはジャンの義理の息子となった。
さらにドレイパー地区のデザイナー・チャイルド保育施設J.M.I.で乳児の大量殺人事件が発生。現場の状況からまたもヴォイジャーの仕業であると推測された。ここは全員に遺伝子操作が施され、将来は政府の要職に就かせるエリートとして育てるための施設だった。犯行目的は不明だったが、事件後の報告書によると死亡した乳児たちの脳からは大量の特定情報が消失していた。なお、その後「ライフリサイクル法」の廃止とともに同施設は閉鎖され、ディミトリ・ユーリエフの研究所に移設されてU.R.T.V.の製造に活用された。
シャロンの医学的知見から、ヴォイジャーは向精神薬となる特定の脳内化学物質を採取するためにゾハルの人々を標的としているらしいことがわかる。
ジャンの捜査はヴォイジャーの資金源、背後関係へと迫っていく。生命工学の権威にして天才科学者のディミトリ・ユーリエフとヴォイジャーとの接点が判明するが、彼は政界の一大派閥サルヴァトール派を擁する星団連邦の大物議員でもあった。目障りに感じたディミトリは政府内の人脈を駆使してジャンを捜査から排除させる。ジャンと部下たちは謂れのない容疑で逮捕され、ショーン・マッカラムは致命傷を負う。ラクティスはジャンたちを拘置所から脱出させる手助けをするが、ショーンはジャンの腕の中で息を引き取る。
ミハイル・オルトマンはエーリッヒとは長年の相棒で友人関係にあったが、その秘密を知らない。しかし、ヴォイジャーの行動がますます大胆になるにつれ、ミハイルはエーリッヒの振る舞いに疑念を抱き始める。正体が暴かれる直前に、探りを入れられていることに勘付いたエリックはミハイルの脳を乗っ取り、毒牙にかけた。
シャロンがヴォイジャーの犯行現場から採取した細胞サンプルを分析した結果、エーリッヒ・ウェーバーがヴォイジャーだと突き止めジャンに警告する。しかし時すでに遅し、ヴォイジャーはミハイルを殺害したばかりで次の標的―アルコン大聖堂で開催される星団連邦と移民船団間の巡礼会議―に向けた行動を開始していた。
一方、ディミトリは自分の管理を外れたエリックを口封じに切り捨て、生存に必要な甲状腺の投薬を断ち切る。ジャンたちはダイブベッドで意識を失っているエーリッヒを発見する。彼の精神世界に潜入して次なる犯行を止めようとするが、そこではヴォイジャーの犠牲者たちの意識が人間の胚の形で閉じ込められていた。意識が薄れゆくエーリッヒも現れ、いかにして自分はヴォイジャーとなったか、根本的な動機を語り始める。
T.C. 4600年代以前、「ライフリサイクル法」の下で人間を対象とした遺伝子強化やクローン作成は一般的に行われていた。エーリッヒもこの時期に生まれたデザイナー・チャイルドの一人。このグループは代謝率に欠陥があり、甲状腺の医薬品に依存していた。エーリッヒはその薬を手に入れるためにディミトリ・ユーリエフの裏の仕事を請け負っていた。
エーリッヒは先天性の脳障害も抱えていたが、U.M.N.内にワーキングメモリを構築することでこれを克服していた。意のままにU.M.N.にエンセフェロン・ダイブすることができた。
エーリッヒは好奇心からU.M.N.の中心に何があるのかを突き止めようと情報の海の奥深くへと潜り続け、やがて、U.M.N.の深層構造への侵入に成功した。そこで彼は波動存在U-DO(ウ・ドゥ)と接触し、宇宙の破滅というビジョンを示された。その結果、エリックは集合的無意識の中に消え去ってしまうことへの、すべてを飲み込むような根源的恐怖を抱き、そこからの衆生救済を求めるようになる。
ヴォイジャーの偽名は、情報の海における最初の「ヴォイジャー」、かつて接続実験の被験者としてU-DOと類似の遭遇を経験したディミトリ・ユーリエフにちなむものである。
ヴォイジャーはU-DOと契約を結んでおり、アルコン大聖堂で行われる巡礼会議の最中に「ゾハルの民の血」を大量に流すことでその契約を果たす計画であることを明かす。
巡礼会議はオルムス教会の重要な秘跡のひとつであり、本来はゾハルによるロスト・エルサレムへの扉開放を目的としたものだが、今ではその意味を知るものは減り、伝統的な宗教儀式としてしか認知されていない。
ゾハルは下位次元の実数領域においては黄金のモノリスとして視覚的に認識され、U-DOのいる上位領域とユニウス・ムンドゥスとして知られる人類の集合意識とを結ぶ門戸としての役割を果たしている。ゾハルの民は幾世代にもわたってオリジナルのゾハルを神の遺物とし守り続けてきて、U-DOとの親和性が高いとされる。
エーリッヒの意識はヴォイジャーとしての人格に完全に呑み込まれ、ヴォイジャーはジャンをアルコン大聖堂へと誘い込む。そこでゾハルを起動させ、巡礼会議出席者を虐殺する。シャロンとホアキンもその場にいたが、ヴォイジャーは二人を殺害し、ジャンは成す術なく妻子の死を目の当たりにさせられる。
戦いが繰り広げられ、慕っていたエーリッヒの裏切りにショックを受けたバグスは自爆攻撃を敢行するがダメージを与えることはできなかった。
ジャンたちを退けたヴォイジャーは契約の条件を履行するようU-DOに呼びかけるが返答はなかった。目論見は外れ、すでに肉体を捨てていたヴォイジャーは意識が集団無意識へと散逸してしまう危険にさらされていた。そのとき、ヴェクター社のCEOヴィルヘルムが唐突に現れ、パートナーシップを申し出る。
ヴォイジャーはそれを受け入れ、彼の白いローブは黒く染まる。黒のテスタメントとなったヴォイジャーは倒れたジャンのもとへ戻り、究極の選択を迫る。意識を吸収され、ヴォイジャーの他の犠牲者たちと共に幻想の世界で永遠の安らぎを得るか、それとも共にテスタメントとなるか。ジャンはそのどちらも拒み、自らの頭をピストルで撃ち抜いて自殺することを選ぶのだった。
チームの生き残りであるラクティスとメリスは、ジャンの死を目撃する。彼女の証言は誰も信じず、メリスはこの出来事に深いトラウマを負って精神病院に強制入院させられる。やがて彼女はヴォイジャーの行動の背後、U.N.M.にある真実、ヴィルヘルムとヴェクター社の闇を暴くべく「スキエンティア」を設立する。
レアリエンであるラクティスはヴェクター社に呼び戻され、戦闘用レアリエンのカナンとして再プログラムされることになる。「プログラム・カナン」とはアニマの器として適したテスタメントとなるために必要な因子を持つ人物を探索するシステムとして設計されたものだった。ラクティスを通じてヴィルヘルムはヴォイジャーをテスタメント候補と見定めていたことになる。
一方、ジャンの遺体はライフリサイクル法のために検体として回収された。人間としての死から2年後、ジャンがサイボーグのジグラット8として起動する場面で終わる。
そしてゾハルの起動は星系全体にその所有権を巡る闘争を呼び起こし、ゼノサーガ本編へと続く。