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見返り恋心.2

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 見返り恋心











 部活が終わってから海堂はトレーニングの為に毎日走っていた。

 乾から渡された練習メニューより多めにこなしているおかげで、最近はスタミナも筋力も随分付いて来たように思う。

 いつもの道を曲がり、その先にある公園へと入って行く。

 と、その角を曲がったところで思わぬ人物に出くわした。


「汐屋?」

「ん? あ、海堂君」


 キョロキョロと辺りを見回し不審な動きをする汐屋に、海堂は足を止めた。


「どうした?」

「いやあ、うちの猫が脱走しちゃって」

「猫?」

「うん。窓から入って来た虫を追いかけて飛び出しちゃったの」

「どんな猫だ?」

「え? 探してくれるの? トレーニングの途中なんじゃないの?」


 海堂の姿を上から下まで見て、汐屋は驚いたように言った。

 ここでそれじゃあさよならと行ってしまう程、海堂も冷たい人間ではない。困っているクラスメートを助けるくらいの優しさは持ち合わせている。


「一人より二人で探した方が早く見つかるだろ?」

「ありがとう!」

「どんな猫だ?」

「えっとね、雑種で毛の長い真っ黒な猫。名前は大介って言うの」

「……大介」

「人間みたいで可愛いでしょ?」


 案外ネーミングセンスが悪いなどと思いながら、海堂は植え込みの向こうを覗いてみた。


「大介~。大介~」


 汐屋は海堂とは反対側の植え込みや木の上を覗き込んでいる。

 すぐ側の丘になった公園へと上がって行く階段を上り始めると、一瞬目の端にきらりと光るものを捕らえて海堂はそちら側に目を凝らす。

 階段から数メートル先の木の枝に、真っ黒でもこもこしたものが動くのが見えた。

 黄色に光っている丸いものが二つ。


「おい、いたぞ」

「えっ、本当?」


 汐屋は海堂のすぐ横に駆け寄って来て、木の上を見た。

 ふわりと汐屋から甘い香りが漂って来て、海堂の鼻をくすぐった。


「あ、いた! 大介、おいで」

「なあ~~」


 大介は小刻みに震えている。


「なあ~じゃないでしょ?」


 言いながら木の真下に行くと、必死に腕を伸ばす。


「なあ~」


 どうやら上ったはいいが降りられなくなってしまったようだ。


「はあ……どうしてあなたは猫のくせにそんなに鈍臭いの? ほら、もう少しこっちに来て、飛び降りなさい。ちゃんと落とさないようにキャッチしてあげるから、私を信じてっ! Believe meよっ!」


 猫に向かって信じて飛び降りろと言って通じるとは思えないのだが、必死になって腕を伸ばしている汐屋を見て海堂は堪らず吹き出した。


「くっ……」

「あ~、海堂君酷いっ! 人が必死になってるのに笑ったな」


 ぷうと頬を膨らませた汐屋に、海堂は見られないようにと手で口を隠していたのを戻すと言った。


「ーーー悪い。俺がやる」


 そして大介に向かって腕を伸ばした。


「ほら、もう大丈夫だ。こっちこい」


 すると大介は素直に海堂の腕に飛んで来た。


「うわっ、こいつめ、飼い主の私より海堂君の方がいいってわけね? 今日の晩ご飯は抜きにしてやるっ」


 海堂の腕に抱かれて喉を鳴らす大介の額を、汐屋が指でつついた。

 そしてすぐに海堂を見上げて笑う。

 その笑顔に一瞬戸惑う。


「本当にありがとう。私一人だったらきっと見つけられなかったよ……海堂君って動物に好かれるんだね。動物って優しい人がちゃんと分かるんだ」

「優しい?」

「そう、犬と違って猫は猫嫌いな人分かるからね。飼い主でも自分が嫌いだったら近寄らないし」

「そうなのか」

「うんそう。ほら、大介おいで」

「んなお~」


 大介を海堂の腕から引き取ると、汐屋が海堂を見上げてまた笑った。


「大介もありがとうって。ごめんね、トレーニング中断させちゃって」

「いや」

「それじゃあ、また学校でね」

「ああ」


 大介の手を取ってこちらへ振りながら、汐屋は道の向こうへと消えて行った。


「変わった奴……」


 自然と口元がほころんでいた。







                                続く…











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