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教えてくれよ

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教えてくれよ














就職活動もせず、遊びにすら行かず、ダビデからのメールに返事する気力もない位俺はバイトに明け暮れた。

働いて働いて、金が貯まると速攻でイタリアへの往復航空チケットを予約し、飛行機に飛び乗った。


なんのことはない、イタリアなんて思ったよりもすぐ近くだった。

2年間馬鹿みたいに会いに行くのを、理由を付けて逃げていた俺。

会いたいなんて言いながら、その実振られるのが怖くて怖くてたまらないスーパーチキンな俺。

ダビデに背中を押されなければ、今頃まだ就活でヒーヒー言ってぐるぐる回ってたに違いない。


世界。


想像出来ないくらい広いくせに、近くだなんて矛盾してる。

でも、そんな広い世界で、あんたは自分と毎日戦ってんだよな。


前にどうして楽器製作者になりたかったのか尋ねたことがあった。

その時、雪緒さんはいつものように作業をしながら答えてくれた。

昨日よりも素敵な楽器を作りたいからだと。

だれかと比べるのじゃなくて、自分自身で素敵だと思える楽器が作りたいんだと。


確かに世界中で初めてその楽器を作った人でない限り、所詮物まねかもしれない。

でも、新しいものを産み出す力はなくても、作る人それぞれの思いが違うのだから作品は一つ一つ違う。個性があるんだと。


とても楽しそうにそう言った雪緒さんは、本当に楽器を作ることが好きなんだって伝わって来た。

俺にはそんなに打ち込めるものなんてないし、素直に凄い人だと尊敬出来た。


だからか、俺は雪緒さんに近づきたいと願いながら、心の奥底では俺なんかじゃ釣り合わないって諦めてた。


「本気でチキンだよな……」

「Are you desired with chicken than the fish?」


俺はすぐ隣りに立って機内食の皿を二つ見せるキャビンアテンダントを見上げて苦笑した。


「Yes, with chicken」


チキンな俺には丁度いい。


機内食を食べながら、窓の外に目をやる。

寝て起きたら、俺はもうイタリアに到着してるんだ……












「さてーーー」


本当に寝て起きてまた機内食食べたらイタリアに到着した。

勢いで来たものの、実は雪緒さんにはイタリアに来ることを伝えていなかった。

バイトの忙しさで忘れてたってのもあるけど、いきなり行って驚かせたいっていうのが本音だ……ということにしておこう。

もしかしたらダビデから聞いてるかもしれないが、取りあえず雪緒さんが住んでいる町まで行かないことには始まらない。

いつももらう手紙の住所を頼りに空港からの移動手段を考える。

とは言っても地理なんてさっぱりな訳だから人に頼るしかない。

空港のインフォメーションにいた陽気なおっさんに、今時便利な電子辞書を駆使して行きたい場所を伝える。

親切に紙に行き方を書いてくれて、空港から市内へ行くバス乗り場まで案内もしてくれた。


フレンドリーが似合うよな、外人って。


そんな事を考えながら市内へと向かう。


到着した市内は町並みこそ完全に外国だが活気があってお洒落で、なにより都会だった。

空港から出るまではそこまで感じなかったのにな。

日本と違うのは何だろう。空気感? 

落ちているゴミすらお洒落に見えて、日本ではないということを強烈に印象づけるのだからおかしなものだ。

日本人が海外に行く時に必死になってその国の言葉を覚えようとする気持ちが少しわかった。

スケールが違うのだ。

劣等感を抱くのも仕方ないのかもしれない。


本当に外国まで来たんだと改めて感じながら今度は別の長距離バス乗り場を探す。

電車でも行ける所らしいが、バスの方が便利なんだそうだ。

大型の観光バスに乗り込むと、平日だからか観光客もまばらで案外快適だった。




ゴトゴトとバスに揺られながら、俺はどんどん緊張が増して行くのを感じていた。


会って何て言う?


それよりもまず、本当に雪緒さんは俺に会いたいって思ってくれてるのかが問題だ。

なんせダビデの勘だけでここまで来たんだもんな。

馬鹿すぎる。

それでもやっぱり会いたかったのは本当なんだから仕方ない。





窓の外の景色はどんどんと変わって行った。

風情のある建物と緑色の山々がすごくマッチしていて、なんだかありきたりの表現だが絵を見ているみたいだった。

可愛らしい煉瓦作りの家が建ち並ぶ静かな田舎町に降り立つと、俺は思いっきり空気を吸い込んだ。


「はあ~~~っ! すっげえ空気美味い」


マイナスイオンってやつか知らないが、何だかやたらと空気が甘く感じた。

同じバスに乗っていた観光客達はガイドマップ片手に教会を見に行く相談を何やらしているらしかった。

俺は観光に来たわけじゃないから、取りあえずその辺を歩いていた若い兄ちゃんをつかまえる。

そしてまた電子辞書を使って雪緒さんの工房の場所を尋ねると、近くまで行くからついでに案内してくれると言う。

イタリア人ってマジで優しいんだな。空港のおっさんといいこの兄ちゃんといい、感動。




全然興味はなかったんだが、兄ちゃんは町の歴史のことや教会の事なんかを教えてくれた。

電子辞書があるとはいえ、俺は語学がさっぱりなのでほとんど理解出来なかったんだが、どうやら有名な人が立派なことをやったとかなんとかな町らしい。

町の規模自体は小さくて、雪緒さんの工房は町外れだが中心地から歩いても20分ほどの場所にあった。

林の先まで続く道の手前まで兄ちゃんは連れて来てくれて、暇があったら自分の家に遊びに来いと連絡先を教えてくれた。

颯爽と歩き去って行く兄ちゃんを見送り、俺は深呼吸をして林の中へと足を踏み入れた。





数分歩くと、小さなログハウスが見えて来た。

そしてそのログハウスの隣りにある工房らしい建物から、バイオリンの音が聞こえて来ると、俺はドキッとした。

聞こえて来るその音色は、俺が初めて雪緒さんに会った時に雪緒さんが弾いていた曲と同じだったから。


やべえ、緊張しすぎじゃねえか。俺。


一歩一歩近づく度、バイオリンの音色がはっきりと聞こえる。


相変わらず優しい音だ。


そっとドアに手をかける。


キイッと小さく軋んで開けた視界のその先には、木漏れ日が差し込む緑色の光の中でバイオリンを奏でる雪緒さんの後ろ姿があった。

俺の心は信じられないくらいに騒いでいた。


こんなに会いたかったなんてな……


ふと音がやみ、雪緒さんがゆっくりとこちらを振り返った。

俺の姿を見つけたその瞳が、見る見る大きくなって行く。

ぽかんと開けた口と目に、俺は小さく笑った。


「よ、久しぶり」


雪緒さんはまだ何も言わない。

俺は一度呼吸を整えて、雪緒さんに言った。


「一つだけ、教えてくれよ……」


まだ動かない雪緒さん。


「俺はあんたが好きだ……あんたはーーーあんたは俺のこと、好きか?」


ずっと聞きたくても聞けなかったその問いを、俺はやっと言葉にすることができた。


じっとまだ動かない雪緒さんを見つめる。

雪緒さんはやっと動いた。

バイオリンを見て、俺を見て、にっこりと笑った。


「好きだよ」


たった一言そう呟くと、雪緒さんはバイオリンを置いて俺の前までやって来た。


ああ、俺は何年もこの言葉が聞きたかった。

一緒に日本に帰ろうよ。

前に自分の中で誓った言葉を、今度はあんたにはっきりと伝えるからさ。


俺があんたを守る。きっと、幸せにするから。


ゆっくりと雪緒さんの体を抱き寄せた。

相も変わらずヨレヨレの格好の雪緒さんの体は暖かくて、優しい木の匂いがした。


なあ、少しはいい男になれたかな?






                                 END








=あとがき=

どうも、最後までお読みくださりありがとうございました~!
終わった…終わったよおおおお!!!(ほっとした…涙)

今回黒羽シリーズ最後に選んだお題は「一つだけ」でした。
何だかバネのイタリア旅行記みたいですね~(笑)
まあ、あまりベタっぽくしたくなかったので、さらっとしたお話にしたかったんですけど、
いやあくっついてよかった。
機内での会話は適当なので、間違ってます。英語分かんないの(笑)

本当にこんなに何話も続きを書くとは思ってなかったんですけど、
出来の善し悪しはまあ置いといて(コラコラ…)なんとか終わったんでほっとしてます。
2作目書いた後に後悔しました。苦手な続き物書くなんて私ってば本気で馬鹿すぎる!って(泣)
ちょっと忙しいので更新が遅くなってきますが、また違うお話でバネさんを書けたらなあと思います。

それでは、またお会い致しましょう!




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