チェンジ・ザ・ワールド☆
不完〜.8
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不完全燃焼、恋愛模様
昼食の定食をがっつり食べてしばらくウインドーショッピングをした後、4人はテニスコートでテニスを楽しんだ。
やったことがないと言っていたが、運動神経の良い汐屋は少し教えただけでラリーが続くまでに上達した。
そして忍足はすっかり汐屋の事を気に入ったらしく、別れ際今度の大会の応援に来る約束を、半ば強制的に汐屋に取り付けていた。
忍足が帰り、帰る方向が同じ3人は帰りの道を歩いていた。
ふと白石が隣りを歩く千歳を見上げる。
「千歳」
「何ね?」
「汐屋、何か嫌な事があったんやないか?」
「そうやろうね」
「お前、話し聞いてやり」
「ーーー話してくれたら聞くたい」
「そんな消極的やから、お前自分の気持ちに気付いてもらえへんのやで?」
「……別にいいやろ。白石には関係なか」
言葉に詰まる千歳に、白石はふと少し先を歩く汐屋の足下に視線を落とした。
「汐屋って、危ない人やねん」
「は? 危ない?」
白石の言葉の意味が分からず、千歳は眉間にしわを寄せる。
「せや。なんちゅーか、言葉通りやなくて、ほっとけん。っちゅーたらええんやろか?」
「ああ……」
それならなんとなく千歳にも分かる。どこかしら壁を作っている汐屋は、本当の自分をさらけ出せずにいるのだ。
それ故に気付かぬうちに無理をしてしまって、時折その無理が出てしまう。だから危ないと白石は思ったのだろう。それが適切な表現かどうかは分からないが、危ういとも放っておけないとも少し違う。
やはり危ないが一番近いのかもしれない。
「前から思うとったけど、汐屋ってええ子やろ?」
「そうやね」
「そのええ子って、どこでバランス取ったらええんやろか。嫌な子って気付かんうちに我が儘言えるから、きっとバランス取る必要が無い思うねん。せやけど、ずっとええ子ってのは例えそれが地でも、たまには甘えたり我慢せんでやりたい事やって言いたい事言って、バランス取らなあかん思うねんーーーでも、汐屋はそれが恐ろしく下手な子や思う」
それは千歳にも分かっている。
どこかしら周囲の人間と壁を作っているのは、恐らく過去に何かあったからだろう。
しかし、汐屋の場合自分のコントロールがあまり上手に出来ないから、そうやって壁を作る事で人と密にかかわらないようにしてバランスを辛うじて保っているのだと思われた。
話し、してくれるやろうか?
そう思った所で汐屋が振り返った。
「それじゃあ、私こっちだから。今日は楽しかった。千歳君、白石君、ありがとう。また明日」
「あ、汐屋待って」
「え?」
白石に呼び止められ、汐屋は立ち止まる。
「危ないから千歳が家まで送るて」
「え? いいよ、ここからそんなに遠くないし」
「あかん。最近物騒なんやで? こいつと一緒なら暴漢も襲ってこーへんし、な?」
「でも……」
「俺じゃ頼りなか?」
「そんなんじゃないよ、悪いなあって思ってさ」
「悪い事とかなかよ、俺が送りたいっちゃけん」
「ーーーありがと」
「じゃあ、俺はここで。またな」
「うん、さよなら、白石君」
「また明日」
手を振って爽やかに去る白石を見送り、汐屋と千歳は歩き出した。
「本当にごめんね。遠回りになるとに」
「さっきも言うたやろ? 俺が送りたかったっちゃけん、汐屋が気にすることなか」
「うん」
しばらく無言が続いた。
千歳は隣りを歩く汐屋の頭を見下ろしながら、どう切り出そうかと悩んでいた。
「ーーーさっき」
「えっ?」
ぼそりと話し出した汐屋に、千歳は一瞬ドキリとする。
「さっき、忍足君が言っとった、標準語と九州弁やけど」
「ああ、うん」
千歳は汐屋の言葉の次を待った。
「やっぱりおかしいやろか?」
「何が?」
「私の方言」
「は? 別に、俺は九州弁の方が好きやけん使いよるだけやし、それがおかしかとか思わんばってん……なんか言われたと? 白石が何かあったとかって聞きよった時、何もないって言ったけど、本当は何かあったっちゃない?」
優しく尋ねた。
汐屋はしばらく何も言わなかった。
やはり答えてはくれないのかと残念に思った時、汐屋が急に顔を上げた。
あまりに急だったので、千歳は反射的に足を止めてしまった。
「ど、どげんしたと?」
口がどもる。
「何もなかよ、ホントに。千歳君も白石君も気にしすぎたい。あ、うちここやけん」
そう言って足を止めた汐屋の後ろには小さなアパートがあった。
2階建ての、古めかしいこじんまりとしたアパート。お世辞にも綺麗とは言えない、色味の薄い寒々しい建物だ。
「じゃあ、また明日ね。今日は楽しかった」
「こっちこそ」
やはり教えてはくれなさそうだ。
小さく手を振って錆びた階段を上って行く汐屋の姿を見送りながら、千歳は溜め息をついた。
家の鍵を開けて中に入る前に汐屋は千歳を振り返り、もう一度笑顔で小さく手を振った。
それに答えるように千歳も軽く手を上げる。
パタリと静かに閉まったドアを確認すると、千歳は踵を返した。
あのドアの向こうで、汐屋は一体どんな事を考えているのだろう。
もう少し距離を縮めることは出来るのだろうか。
脇に抱えたハンドタオルの感触に、今日一日でたくさん見ることの出来た汐屋の表情を思い出した。
確かに楽しそうにはしていたが、もっと違う、心の奥からの笑顔が見たいと千歳は思った。
夕日を眩しそうにちらと見る。
無機質なビルや家を黒い影に変えるその赤い光に、言い様のない寂しさを感じた。
続く…
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